中学校検定済み教科書における主語 ―用法基盤モデルを援用した頻度分析―
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(2) 述べる(中村,2009)。上で挙げた主題・解説型文の例は, 「このホテル」という概念 の場(岡,2007)にまず注目し,そこでは「インターネットが使えない」というコト が生じているという事態把握を反映する表現である。他方,英語は,図 2 が示すよう に,認知主体は,場の外側から事態を鳥瞰図的に眺め,出来事の参与者に注目して, 主体と客体の関係性をメタ的に表現するのを典型とする (中村,2009)。. 私達. ホテル. インターネット. インターネット. 図1日本語の典型的事態認知. 図 2 英語の典型的事態認知. 濱田(2016, p. 76)の図 10 を開拓社の許 濱田(2016, p. 76)の図 10 を開拓社の許 可を得て一部修正のうえ転載. 可を得て一部修正のうえ転載. 無生物主語構文も,参与者の関係に注目する英語的な事態の捉え方で説明できる。 例えば,This medicine will make you feel good.の場合,「この薬」と「あなた」とい う参与者間の関係性に注目し,前者が後者に影響を与えるという他動性を言語化した ものである(川瀬,2015)。この無生物主語構文を,Halliday (1985)の文法的メタファ (grammatical metaphor)の一種である過程構成メタファ(transitivity metaphor) という観点で議論することができる。Halliday はメタファを,個々の語彙を超え文法 的な変化を伴うものと考え,文法的メタファという概念を提唱した。一つの事態を言 語形式で具現化する際,話者はいくつかの異なる表現から,そのうちのひとつを選択 することになる。複数の表現のうち,経験的意味をより自然に表現するものを,より 一致的(congruent)とみなし,経験的意味から離反したものをメタファ的とみなす。 文法的メタファは二種類に大別できるが,その一つである過程構成メタファは,過程 構成(端的に言えば動詞とその項の関係)に変化が生じるものである。例えば, 「Mary saw something wonderful. 」(Halliday, 1985, p. 322) は,「人が知覚した」という経 験的意味と一致しているのに対し,同一事態を表現する「 A wonderful sight met Mary’s eyes.」 (Halliday, 1985, p. 322)は,「無生物が会うという行為をした」という 経験的意味からは離反したメタファ的な過程構成である。過程構成メタファは無生物 主語のみに限られないが,無生物が他動詞構文の主語として機能することは通常経験 的意味から離反しているので,無生物主語構文は典型的な過程構成メタファと言える。 過程構成メタファの中には,使用頻度が高く自然化され,今やメタファとは意識さ れていないものも多い(例; The insect had long legs.)ので以下に述べることは絶対. 的ではない(福田,2003; Halliday, 1985)のだが,一般的に見て,より無標なのは一. 致的言語の方である(Christie, 2002)。そして英語を第1言語とする習得に関して述 べると,メタファ的表現は,児童期から青春期にかけて,読み書き能力習得の過程で 教育を通して学ばれる(Christie, 2002)。そのため過程構成メタファは書き言葉に特 徴的で,とりわけ,名詞化(nominalization)を伴う場合,それが顕著である。例えば,. advance のような動詞的名詞が項として用いられるようなメタファ的表現(例; - 80 -.
(3) 「 Advances in technology are speeding up the writing of business programs. 」. Halliday, 1985, p. 328)は,論証的書きことばに多く見られる(Byrnes, 2009)。こう 考えると,平成 29 年告示の中学校学習指導要領(文部科学省,2018)第 2 章第 9 節 「外国語」で取り扱うべき内容として含められている「社会的な話題」に関する言語 活動においては,メタファ的表現の理解が多少なりとも求められることになる。 3 用法基盤モデルから見る第2言語習得 前節で,英語主語には捉え方の再構築や文法的メタファという問題が絡むというこ とを述べた。このような抽象的な概念・構造はどのように学ばれるのであろうか。用 法基盤モデル(Langacker, 2000)では,抽象的な言語構造は,言語使用における具体 的な事例を下地に創発すると考えられている。言い換えれば,使用者が個々の状況の 中で言語事例を繰り返し体験する中でスキーマ(schema),つまり経験をもとに体制 化・構造化されたパタンが徐々に形成されるということである(Tyler, 2010)。主語の 習得もこれに当てはまり,第1言語習得では,子どもは抽象的な主語を総花的に習得 するのではなく,初期は個々の語彙項目の周りで「行く人+go」のような項目依拠構. 文(item-based construction)を蓄積し,抽象的主語・述語構造が学ばれるのはずっ と先であるということが明らかになっている(Tomasello, 2003)。 このアプローチで重視されるのは,事例体験のトークン頻度(token frequency)と. タイプ頻度(type frequency)である。トークン頻度は同一の事例を体験する頻度のこ とで,事例そのものの定着に貢献する。他方,タイプ頻度とは,1 つの構文を様々な事 例を通して体験する頻度のことで,スキーマの形成やその定着に欠かせない(Bybee, 1995)。この 2 種類の頻度は,構文習得の異なる段階で異なる働きをする。初期段階で は,典型的な事例(例; 二重目的語構文では give N N)を高トークン頻度で体験する ことにより,その典型事例の範囲内で意味と形式の結びつけが起こる。その後,タイ プ頻度の増加に伴い,つまり様々な語彙項目での拡張的な事例(例; find N N)に触れ るにつれて,典型事例を中心に事例同士のネットワークが拡がり,パタンが抽出され, スキーマ(例; VNN)が形成される(Goldberg, 1999)。 近年,用法基盤モデルのアプローチで第2言語習得研究が盛んにおこなわれている (例; Ellis, Römer, & O’Donnell, 2016)。このアプローチでは,明示的知識(explicit knowledge)の果たす役割を認めつつも,事例基盤学習が基本であるという立場をと. り(Ellis, 2005),そのことが実証され始めている(例; Eskildsen, 2014)。戸出(2017) も,トレースバック法を用いて,多読指導を受ける日本の高校生で中学1年生段階の 学習に躓いている学習者 2 名のストーリー筆記の 2 か月間における変化を追った。ト レースバック法では,新しい産出と近似している事例をその人の過去の入力や産出な どのコーパスから探り当て,どのような操作を経て新しい発話につながるのかを分析 する。2名とも当初は主語を全く用いることができなかったが,多読テクストで頻繁 に出会った have を中心とした他動詞構文がアンカーの役割を果たし,徐々に have 以 外の動詞を含む主語・述語構造を項目依拠的に産出できるようになっていた。 用法基盤アプローチでは入力の質や量が重視され, Ellis, O’Donnell, & Römer. (2015) は,教室での第2言語習得でも,初期は高トークン頻度事例(例; give N N),. そして徐々にタイプ頻度増加(例; show N N; find N N)と入力を最適化させることを. 唱えている。日本の検定済み教科書もこの観点から分析されている。升田(2019)は,. - 81 -.
(4) 二重目的語構文について中高の検定済み教科書を頻度分析し,中学校教科書では,当 該構文のプロトタイプ動詞である give が大多数を占め,その後,他の動詞及び他のカ テゴリーへとタイプ頻度が増加していることを示した。このように特定の構文におけ る動詞の頻度を分析することはされているが,それに加えて,日本語母語話者が苦手 とする主語の頻度分析も行う価値がある。 4 研究課題 項構造構文の分析とは違って,主語の場合,どのタイプの主語がアンカー的機能を 果たすのかを仮説立てするのは難しい。英語主語の意味的なプロトタイプは行為者 (agent)であろうが,それが習得上のアンカー的役割を果たすと仮定することはでき ない。行為者でない主語も初期段階から高トークン頻度で用いられ(例; I like it.),主 語の習得は様々な要素が関わりあったモザイク的な事例基盤発達を示すからである (Tomasello, 2003) 。こうした場合,定評あるテクストを参照資料とし,それと比較す る形で検定済み教科書を分析するという開拓的なアプローチが端緒として適当であろ う。そこで本研究では,英国の児童用英語絵本である Oxford Reading Tree Series(以. 下 ORT)を検定済み教科書との比較資料とする。後述するが,この ORT は,日本の. 英語教育では多読初期用の図書として,中高生さらには英語の苦手な大学生のリメデ ィアル教育でも用いられている。英語を第 1 言語とする児童用の図書と比較すること に疑問が呈されるだろうが,二者の優劣を論じることを意図しない。英語の基本的な 構造の習得に困難を覚える学習者がおり,多読がそのような学習者の学習に貢献して いるということに着目し,児童図書という別の視点から眺めてみることで,検定教科 書の進化に役立てたいのである。研究課題を述べる前に,ORT の概要を以下に述べる。 ORT は,元来,英語を第 1 言語とする子どもたちが「本の読み方を学ぶのに使うレ. ベル分けされた絵本シリーズ」 (古川・上田,2011, p. 29)であるが,日本では,多読 初期用の教材として多読指導者たちに位置づけられている。ORT は全 228 巻から成 り,全巻を通して,英国の 1 つの家庭内の同じ人物が登場する。難易度に応じて全 10 レベルで構成される。多読指導の文法習得における効果については,吉澤・高瀬・大 槻(2017)が,特に下位層に対して顕著であることを示している。また,上述した戸 出(2017)では,主語を使えなかった高校生が,ORT の多読を通して,主語・述語構 造を項目依拠的に使えるようになったケースが示されている。 さらに,近年,ORT をテクスト分析し,初期段階の外国語学習者の文法発達に適し ていると論じる研究もある。例えば,戸出(2016)は,ORT のごく初期レベルである Stage 1 と Stage 1+の計 24 巻に絞って, SVO 文型を,事態認知と頻度という観点で 分析したところ,Stage 1 では主語は登場人物の固有名詞か代名詞に限られていた。そ して,ストーリーの中で,文の一部を固定した繰り返し(例; 「Chip did this. . . . Biff. did this.」 Hunt & Brychta, 2006, pp. 1–3) が見られた。Stage 1+でも文の一部を固 定しその他の構成部を変項とした同一パタンの繰り返しでストーリーが展開していた。 そして変項部を徐々に多様化させてタイプ頻度を増加させていた(例;「Floppy had a. bone. A little dog took the bone . . . . A big dog took the bone.」Hunt & Brychta, 2005,. pp. 1–11) 。ここから言えることは,初期は少数の基本動詞と登場人物の固有名詞か代 名詞主語の組み合わせという限られた範囲でのパタンが高頻度で用いられ,そこから 置き換えなどの操作でタイプ頻度を増加させていくという用法基盤モデルと親和性の. - 82 -.
(5) 高い展開を示しているということである。普通名詞を主要語(head)とする主語ではな く固有名詞主語から始まっているということは興味深い。Langacker (2008) や Halliday (1985) も述べているように,読み手が書き手と経験を共有していれば,固有. 名詞はそれだけで指示対象を同定できる。他方,普通名詞は同類とされるものに共通 につけられた名前を示しているにすぎず,同定するためには定冠詞などの他の要素を 伴う必要がある。そういう意味で,普通名詞を主要語とする主語は固有名詞主語より 複雑な処理が伴うので,ORT における主語の導入は妥当であると思われる。戸出(2016) ではごく初期のステージの分析に留まっていたので,本研究では後続のステージも分 析を行い,検定済み教科書の分析の参照材料とする。 そこで本研究では,ORT と中学校検定済み教科書それぞれで,ステージが進行する につれて学習者はどのようなタイプの名詞類(nominal)をどれぐらいの頻度で主語と して経験することになるのかを探る。名詞類はモノを意味し,モノは普通名詞か固有 名詞か代名詞で表される(Halliday, 1985)。そこでまず,1) 主語主要部が普通名詞か, 固有名詞か,代名詞かという観点でタイプ分けし,その頻度がどう変わるかを見る。 加えて,主語名詞類と述語動詞の意味的関係において,2) 一致的かメタファ的かとい う観点でタイプ分けを行い,その頻度がステージごとでどう変わるかを見る。この2 つの観点での頻度分析を ORT と検定済み教科書それぞれで行う。 5 方法 5.1 言語資料. 本研究で用いる中学校検定済み教科書は,任意に New Crown English Series (NC). (根岸他,2016)とした。分析に用いる言語資料は,NC は Book 1 の第 1 課から Book. 2 の第 8 課までとし,ORT は Stage 1 から Stage 6 までとした。NC の Book 3 を分析 対象から外したのは,統語複雑度を ORT と揃えるためだった。Book 3 の最終部であ る第 7 課から巻末読み物までの本文の「t ユニット毎の語数」 (統語複雑度の一般的指 標と言われている。Norris & Ortega, 2009 参照)を算出したところ,7.20 語/t-unit あ. り,ORT の最終ステージである Stage 9 の 6.71 語/t-unit を大幅に上回っていた。こ の指標で両者が最も一致するのは,NC の Book 2 第 7 課と第 8 課で 6.17 語/t-unit,. ORT の Stage 6 で 6.15 語/t-unit だったので,ここまでを分析対象とした。つまり, 統語複雑度が最終的に約 6.2 語/t-unit に至るまでの主語の用法が分析対象となる。NC では,課の本文以外に,Let’s Talk の対話文や Let’s Read の本文も分析対象とした。 談話構造のない文法のまとめの例文や練習問題は対象から除外した。 ステージが上がるごとの変化を見るため,区分分けする必要があった。NC では目 次の区分に従い, Book 1 を 4 部(1~3 課;4~6 課;7~9 課;Let’s Read と付録). に,Book 2 を 3 部(1~3 課;4~6 課;7~8 課)に分けた。ORT はステージで区切. り,Stage 1(6巻), Stage 1+(36 巻), Stage 2(36 巻), Stage 3(24 巻), Stage 4(24 巻), Stage 5(24 巻), Stage 6(18 巻)と 7 部に分けた。 5.2 分析 観点 1) での分析のための第 1 ステップとして,定形動詞の主語名詞類を同定し,上 の区分ごとにそれぞれの頻度を出した。その際,修飾部や決定詞の如何を問わず,モ ノにあたる語が同じであればひとまとめにした。例えば,a man の頻度が 2, the tall. - 83 -.
(6) man が 1, the man in the town が 1 の場合,どれも「man 主語」とし,そのトークン. 頻度を 4,タイプ頻度を 1 とした。単数形と複数形は別の語とみなした。通常はモノ. にあたる語と主要語は一致するが,three of the spiders などのような場合は,数詞が. 主要語でモノが名詞にあたる(Halliday, 1985) 。その場合は,モノに当たる語でカウ. ントした。this などの指示代名詞や some などの不定代名詞などが単体で主語として 用いられている場合は,モノの要素もその語に内包されている(Langacker, 1991)と. 考えてその語をカウントした。等位接続詞でつながれた主語(例; Biff and Chip)は,. 全体で1つとしてカウントした。同格が追加されている主語の場合は,第 1 要素をカ ウントした。不定詞や動名詞や節,さらには副詞などが主語として機能する場合もあ るが,このような拡張的な主語は,対象となっているテクストには存在しなかった。. there 構文は特別な構文として学習することが多いので,分析対象から外した。命令文. の表層に表れていない主語も対象から外した。第 2 ステップとして,同定した主語の モノ部分を,普通名詞・固有名詞・代名詞のどれかに分類し,それぞれの頻度をステ ージの区分ごとに出した。等位接続詞によって異種のものが接続されている場合(例;. Dad and I)は,分析から除外した。. 観点 2) での分析のために,上で同定した主語名詞類のそれぞれについて,共起して. いる述語動詞との意味的関係が経験的意味と一致しているかメタファ的かを判断した。 今やメタファとは意識されず自然化されたものもメタファ的と判断した。例えば, 「The tractor pulled it. 」(Hunt & Brychta, 1995, p. 7)(泥濘にはまって動けなくな った車をトラクターに引っ張ってもらったことを描写している)のような道具主語も, 有生物が引っ張るという経験的一致から離反が見られると判断してメタファ的と分類 した。確信をもてなかった事例についてはリストアップし,文法的メタファの研究で 業績のある選択機能体系言語学の研究者に意見を聞いて判断した。一致的かメタファ 的かを分類した後,それぞれの頻度をステージの区分ごとに出した。 6 結果. 6. 1 観点 1) 表 1 は,ORT における,ステージが進行するにつれての固有名詞主語,代名詞主語, 普通名詞主語の累計トークン頻度と累計タイプ頻度を表したものである。どの区分で も固有名詞主語が高トークン頻度で用いられていることが特徴的で,代名詞主語と合 わせて,8 割あるいは 9 割以上を占めている。この固有名詞主語のうち,どの程度,. 主要な登場人物の名で占められているかを調べた。主人公の家庭の成員(Floppy とい. う犬も含む)と主人公の友達の Wilf と Wilma を主要登場人物とみなして累計トーク ン頻度を調べたところ,ステージが上がるにつれて,その他の固有名詞も登場するが, 全固有名詞のうち 8 割以上が主要登場人物で占められていた。特に初期はすべての固 有名詞がそうであった。表 1 に戻って普通名詞主語を見ると,トークン頻度は,特に 初期では非常に限られており,その後徐々に増加するが,Stage 6 までの累計トークン 頻度でも 2 割に満たない。その一方,タイプ頻度では,Stage 2 が加わったところで普. 通名詞主語が着実に増加し,Stage 6 までで 7 割以上を占めるようになっている。後. 付的ではあるが,この Stage 2 で用いられている普通名詞主語のうちどのぐらいの頻 度で,書き手と読み手の間で指示対象が特定可能か,つまり定冠詞や指示代名詞で同 定されているかを確かめた。その結果,トークン頻度で 80 例のうち 76 例(95%)が. - 84 -.
(7) 文脈から特定可能ということがわかった。特に the children が 24 回用いられている. のに目を引かれた。指示対象は主人公の子どもたちで(例; 「The children wanted to. go swimming.」 Hunt & Brychta, 2011, pp. 2–3),絵から容易にその指示対象が特定. できた。まとめると,初期は,代名詞や主要登場人物の固有名詞といったクローズド クラスの語が高い頻度で主語として用いられ,その後,徐々に様々な普通名詞が主語 として現れている。そして,少なくとも初期段階は,指示対象が特定可能な普通名詞 主語が高い頻度で用いられている。 表 1 ORT における各種主語名詞類の累計頻度. トークン. 累 計. 頻 度 累 計 タ イ プ 頻 度. 固有名詞 代名詞 普通名詞 固有名詞 代名詞 普通名詞. S1. S1–1+. S1–2. S1–3. S1–4. S1–5. S1–6. 7. 108. 343. 509. 845. 1391. 1900. 13. 159. 349. 515. 804. 1730. 2554. (35%). (39%). (44%). (43%). (43%). (37%). (35%). (65%). (58%). (45%). (43%). (41%). (46%). (47%). 0. 9. 89. 169. 299. 630. 987. (11%). (14%). (15%). (17%). (18%). (0%). (3%). 4. 7. 17. 25. 34. 55. 76. 4. 11. 13. 14. 14. 17. 23. (50%). (32%). (24%). (24%). (23%). (22%). (22%). (50%). (50%). (18%). (13%). (9%). (7%). (7%). 0. 4. 42. 67. 102. 179. 240. (18%). (58%). (63%). (68%). (71%). (71%). (0%). 注:S = Stage 表 2 では,NC における固有名詞主語,代名詞主語,普通名詞主語の累計頻度が示 されている。どの区分でも代名詞主語が高トークン頻度で用いられており,特に Book 1 の第 6 課までは,95%以上が代名詞主語であることがわかる。固有名詞主語は,ORT. とは違って,トークン頻度がどの区分でも 1 割に満たない。ただその中で,Book 1 の 巻末の読み物教材が加わった時点で,固有名詞のトークン頻度が 2 から 33 へと増加. していることに留意されたい。ここでは不思議の国のアリスなどの児童文学を, 「Alice. saw a rabbit . . . . Humpty Dumpty sat on a wall. Humpty Dumpty had a great wall.」. (pp. 126–128)のようにリライトした物語教材が掲載されている。. NC の初期段階は,ほぼ代名詞のみで主語名詞類が占められていたと前述したが, この内訳を見てみることにする。Book 1 の第 1 課から 6 課までの代名詞主語の頻度の. 内訳を調べたところ,I 主語と you 主語が全主語の 5 割(I が 31%, you が 19%)を占 めており,その後は,it (15%)であった。これは,テクストの大半が対話文か登場人物. の語りで構成されていることの反映である。 普通名詞主語は,トークン頻度,タイプ頻度とも,ステージの進行とともに徐々に 増加している。特に,Book 1 の第 6 課を終えた段階,つまり第 7 課から 9 課の中で普 通名詞主語の頻度が増加している。この範囲の普通名詞主語が指示対象を特定できる かどうかをテクストの中で調べたところ,13 例(57%)が特定可能,10 例(43%)が. - 85 -.
(8) 不可能であった。後者の例としては,スポーツが話題になっている課において, 「Goalball is a special sport. Players wear special masks.」(p. 93) のように,一般 的・総称的な普通名詞主語が見られた。 ここで NC についてまとめる。最初は対話文か登場人物を一人称にした語りで構成 され,ほぼ代名詞で主語が占められている。次に普通名詞主語の増加がみられるが, ORT と異なり,指示対象を特定できない一般的な主語がかなりの割合を占めている。 固有名詞主語の割合は少なく,巻末の文学的教材での固有名詞の多用は例外的である。 表 2 NC における各種主語名詞類の累計頻度 ~ B1 ~ B1 ~ B1 ~ B1 ~ B2 ~ B2 ~ B2. トークン. 累 計. 頻 度 累 計 タ イ プ 頻 度. 固有名詞 代名詞 普通名詞 固有名詞 代名詞 普通名詞. の3課. の6課. の9課. の巻末. の3課. の6課. の8課. 0. 0. 2. 33. 38. 45. 54. (0%). (0%). (1%). (11%). (9%). (8%). (8%). 59. 118. 189. 243. 318. 455. 513. (98%). (95%). (86%). (79%). (77%). (77%). (76%). 1. 6. 30. 32. 58. 88. 111. 0 (0%). 0. 2. 14. 18. 23. 30. (0%). (6%). (27%). (26%). (26%). (25%). 7. 12. 12. 13. 13. 14. 16. (88%). (67%). (32%). (25%). (19%). (16%). (13%). 1. 6. 21. 25. 37. 51. 74. (2%). (13%). (5%). (33%). (14%). (62%). (10%). (48%). (14%). (54%). (15%). (58%). (16%). (62%). 注:~ = Book 1 の 1 課から; B = Book 6. 2 観点 2) 表 3 は,ORT の各段階における主語・述語動詞の文法的メタファの累計トークン頻 度と累計タイプ頻度,そしてその割合を示している。ごくわずかであるが,メタファ 的言語選択が初期段階からなされていることがわかる。例として Stage 2 の Put it. back (Hunt & Brychta, 2003)という巻で,「The shell had legs.」(p. 12)という文法的 メタファがどう導入されているかを示す。浜辺で海の生物を見ている情景である。. “Look at this,” said Biff. She had a crab in her hand . . . . She had a bit of wood. “Look at this,” said Kipper . . . . The shell had legs. (pp. 1–12) このようにまず人主語の一致的表現が用いられており,その後同じ動詞 had を使っ. た同一パタンの繰り返しの中で無生物主語のメタファ的表現に移行している。Stage 2. までのメタファ的表現 3 例のうち 2 例が,この導入の手法をとっている。Stage 5 に 進むとメタファ的表現の頻度が上昇している。Stage 5 は魔法の鍵が効いて子どもた. ちが魔法の世界に行く種々の物語で構成されており,The magic took them to ~.や. the magic を代名詞 it で受けた It took them to~.というメタファ的表現が巻を超えて. - 86 -.
(9) 何度も用いられている。トークン頻度 53 のうち 26 例がそれにあたる。 表3. ORT における主語・述語動詞関係の文法的メタファの累計頻度 S1. S1–1+. S1–2. S1–3. S1–4. S1–5. S1–6. 累計トーク 0 ン頻度 (0%). 1. 3. 4. 11. 53. 87. (0.3%). (0.4%). (0.3%). (0.6%). (1.4%). (1.6%). 累計タイプ 0 頻度 (0%). 1. 3. 4. 9. 22. 33. (1.1%). (1.1%). (1.0%). (1.4%). (2.0%). (2.2%). 注:S = Stage 表4. NC における主語・述語動詞関係の文法的メタファの累計頻度 ~B1 の ~B1 の ~B1 の ~B1 の ~B2 の ~B2 の ~ B2 の 6課. 9課. 付録. 3課. 6課. 8課. 累計トー 0 クン頻度 (0%). 0. 3. 3. 6. 11. 16. (0%). (1%). (1%). (1%). (2%). (2%). 累計タイ 0 プ頻度 (0%). 0. 3. 3. 6. 11. 16. (0%). (7%). (3%). (4%). (5%). (16%). 3課. 注:~ = Book 1 の 1 課から; B = Book 表 4 は,NC の各段階における主語・述語動詞の文法的メタファの累計トークン頻 度と累計タイプ頻度,そしてその割合を示している。Book 1 の第 6 課までは見られな いが,それ以降出現し, 割合はトークン頻度では 1%程度ではあるが ORT よりは高い。 例えば,第 7 課の車いすバスケットボールの話題の中で,「These chairs have special. wheels.」 (p. 90) という表現があるが,上で見た ORT のような同一パタンの一致的. 表現からの移行は見られない。また Book 2 で社会的な話題のテクストが多くなるに. つれて,「Some dances tell stories from our history.」 (p. 8) などのメタファ的表現 が比較的頻繁にみられる。NC ではメタファ的表現のトークン頻度とタイプ頻度がど のステージも等しい。これは,同じメタファ的表現が繰り返し用いられてはいない, つまりどの表現も一回限りということである。 7 考察 研究課題 1)に対する答えをまとめる。初期段階では,ORT が,主要登場人物の固有 名詞や代名詞を高い頻度で主語として用いているのに対し,NC では,固有名詞主語 の使用は非常に限られ,一人称・二人称代名詞主語が大半を占めている。その後の段 階で,普通名詞主語のタイプ頻度が ORT でも NC でも増加する。しかし,前者は指示 対象を具体的に特定できる用法で占められているのに対し,後者は指示対象が特定で きない一般的な用法を早い時期から多く用いている。 研究課題 2)に対する答えをまとめる。ORT では,同じパタンの繰り返しの中で一致 的表現からメタファ的表現に移行する流れで初期段階からメタファ的主語が用いられ ている。そして後の段階で頻度が上昇するが,同じ表現が高トークン頻度で用いられ ていることが特徴的である。NC では,初期段階ではメタファ的主語は全く見られな. - 87 -.
(10) いが,その後,社会的な話題のテクストの中で ORT より高い割合でみられるようにな る。また ORT のように同一表現が繰り返し用いられることはない。. ORT,そして例外的に NC の巻末付録のストーリー教材では,登場人物の固有名詞. 主語の頻度が高いということを述べた。前述したように,固有名詞は,読み手が書き 手と経験を共有できていればそれだけで指示対象を特定できる。参与者に第一の注目 を置くことを典型とする英語の事態認知に慣れるには,具体的な参与者を主語とする ストーリーは格好の教材である。巻末ではなく,もっと早い時期に位置付けるのが望 ましい。これに関して査読者から,一人称主語でも英語の事態認知を指導できるとい う指摘があった。確かにそのとおりである。しかし,図 3 と図 4 の比較からもわかる ように,一人称の場合は,認知主体が場から外に出て出来事をメタ認知的に捉え,も う一人の自分自身を言語化するという,三人称主語より複雑な処理が必要になる(濱 田,2016) 。言語材料配列において,自分と相手という一人称・二人称から入るという ことの妥当性も認めるが,同時に,図 3 と図 4 の構図の違いを認識しておく必要があ るだろう。三人称主語には述語動詞との一致など難しい面もあるが,過去形という具 体的な出来事を表す言語形式から入るということも考えられるので,一考に値する。. アリス. 私(生徒自身). 生徒. 生徒. 図 3 ストーリー教材における事態認知. 図 4 一人称主語の事態認知. 濱田(2016, p. 76)の図 10 を開拓社の許 濱田(2016, p. 76)の図 10 を開拓社の許 可を得て一部修正のうえ転載. 可を得て一部修正のうえ転載. ORT と NC の大きな違いは頻度である。前者では,同じパタンの繰り返しの中で文 法的メタファがさりげなく導入されていた。この様は「ことば遊び」 (language play) (Cook, 2000)ととらえることができる。商業用のシリーズ図書である ORT と様々 な制約のある検定教科書を頻度という点で比較することはフェアではない。一方,NC でも Book 1 の巻末付録の児童文学を出典とする教材では, 「Bird flew to the tree. He took an apple from it . . . . Monkey came to the tree. He took an apple from it.」 (p.. 130) と同様のことば遊びが展開している(文法的メタファへの移行はここでは見られ ないが) 。近年ことば遊びと言語意識との関係も注目されてきているので(Ahn, 2016) , 文学的教材の活用を考えたい。言語への感性を育てることは言語教育の重要な目的の 一つであり,この感性を育てることは,長い目で見ると,社会的な話題での言語使用 という学習指導要領の目標達成とも無関係ではないと思われる。ORT のような頻度は 確保できないが,そのような中でも有効な活用法を考えることは意義深い。 8 終わりに 本研究から示唆できることは,英語の典型的な事態認知を具体的な世界で直接的に 学習者に体験させる入力の整備が必要だということである。英語と日本語は言語的に. - 88 -.
(11) 遠く,典型とする事態認知も異なる。そして,初期段階で躓いている学習者が多いこ とも事実である。教科書だけで解決できるわけではないが,全員の生徒が等しく触れ る入力源である検定教科書がそのことを意識することが改善への第一歩であろう。本 研究で調査したのは数ある検定済み教科書のうち一社のもののみだったので,決定的 な結論として主張はできない。しかし,児童用図書との比較で,今までにない視点を 得ることができたという点でこの小規模な研究も意味があると思われる。 謝辞 本研究は,JSPS 平成 29 年度-令和2年度科学研究費助成事業基盤研究(C)『多読 授業における疑似初心者の英語文法発達―動的用法基盤アプローチ』(課題番号 17K03000)の補助を受けて行われた。また,新潟大学名誉教授福田一雄氏には,文法 的メタファの分析で助言をいただいた。感謝申し上げる。 参考文献 Ahn, S–Y. (2016). Exploring language awareness through students’ engagement in language play. Language Awareness, 25, 40–54.. Bybee, J. (1995). Regular morphology and the lexicon. Language and Cognitive. Processes, 10, 425–455.. Byrnes, H. (2009). Emergent L2 German writing ability in a curricular context: A longitudinal study of grammatical metaphor. Linguistics and Education, 20, 50– 60.. Christie, F. (2002). The development of abstraction in adolescence in subject English. In M. J. Schleppegrell & M. C. Colombi (Eds.), Developing advanced literacy in. first and second languages (pp. 45–66). New York: Routledge. Cook, G. (2000). Language play, language learning. Oxford University Press.. Ellis, N. C. (2005). At the interface: Dynamic interactions of explicit and implicit language knowledge. Studies in Second Language Acquisition, 27, 305–352.. Ellis, N. C., O’Donnell, M. B., & Römer, U. (2015). Usage-based language learning.. In B. MacWhinney & W. O’Grady (Eds.), The handbook of language emergence. (pp. 163–180). West Sussex, UK: Wiley Blackwell.. Ellis, N. C., Römer, U., & O’Donnell, M. B. (2016). Usage-based approaches to. language acquisition and processing: Cognitive and corpus investigations of construction grammar. Malden, MA: Wiley.. Eskildsen, S. W. (2014). What’s new?: A usage-based classroom study of linguistic. routines and creativity in L2 learning. International Review of Applied. Linguistics in Language Teaching, 65, 33–62.. Goldberg, A. E. (1999). The emergence of the semantics of argument structure constructions. In B. MacWhinney (Ed.) The emergence of language (pp. 197–212).. Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum.. Halliday, M. A. K. (1985). An introduction to functional grammar. London: Arnold. Hunt, R., & Brychta, A. (1995). Push! Oxford University Press.. Hunt, R., & Brychta, A. (2003). Put it back. Oxford University Press.. - 89 -.
(12) Hunt, R., & Brychta, A. (2005). Floppy’s bone. Oxford University Press.. Hunt, R., & Brychta, A. (2006). Floppy did this. Oxford University Press.. Hunt, R., & Bruchta, A. (2011). The water fight. Oxford University Press.. Langacker, R. W. (1991). Foundations of cognitive grammar. Volume II Descriptive. Application. Stanford University Press.. Langacker, R. W. (2000). A dynamic usage-based model. In M. Barlow & S. Kemmer. (Eds.), Usage-based models of language (pp. 1–63). Stanford, CA: Center for the Study of Language and Information.. Langacker, R. W. (2008). Cognitive grammar: A basic introduction. Oxford University Press.. Norris, J. M., & Ortega, L. (2009). Towards an organic approach to investigating. CAF in instructed SLA: The case of complexity. Applied Linguistics, 30, 590–691.. Tomasello, M. (2003). Constructing a language: A usage-based theory of language. acquisition. Cambridge, MA: Harvard University Press.. Tyler, A. (2010). Usage-based approaches to language and their applications to. second language learning. Annual Review of Applied Linguistics, 30, 270–291. 福田一雄(2003). 「文法的メタファとは何か―M. A. K. ハリデー (1994) 第 10 章を めぐってー」『新潟大学英文学会誌』29 号, 34–54. 古川昭夫・上田敦子(2011). 『英語多読入門』東京:コスモピア. 濱田英人(2016). 『認知と言語-日本語の世界・英語の世界―』東京:開拓社. 川瀬義清(2015). 『日英事態把握の違い』The JACET 54th International Convention 口頭発表. 鹿児島市. 升田智紀 (2019). 『中高英語教科書で用いられる二重目的語構文の頻度分析―用法基 盤モデルに基づいて―』第 50 回中国地区英語教育学会口頭発表. 東広島市. 文部科学省(2018). 『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説外国語編』 東京: 文部科学省. 中村芳久(2009). 「認知モードの射程」坪本篤朗・早瀬尚子・和田尚明(編), 『 「内」 と「外」の言語学』(pp. 353–393). 東京:開拓社.. 根岸雅史他(2016). New Crown English Series. 東京:三省堂. 岡智之(2007). 「場所的存在論によるハとガの統一的説明」 『日本認知言語学会論文 集』第7巻, 321–330. 戸出朋子(2016). 「多読に媒介される用法基盤第 2 言語発達の可能性―英語 SVO 文 型に焦点を当てたテクスト分析―」 『広島修大論集』第 56 巻第 2 号,1–16. 戸出朋子(2017). 「多読中心型英語授業における疑似初心者の項目依拠構文―基本 語順の習得―」『言語表現研究』第 33 号, 13–27. 梅原大輔・冨永英夫(2014). 「日本人英語学習者は主語をどうとらえているか―量 的・質的研究」JACET Kansai Journal, 16, 103–122. 吉澤清美・高瀬敦子・大槻きょう子(2017). 「多読は日本人英語学習者の文法能力の 向上にどのように影響するのか」『日本多読学会紀要』第 10 巻,7–28.. - 90 -.
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