(報告) 教材学研究第 31 巻(2020) - 75 -
ベースボール型ゲームにおけるチーム戦術の事例検討
(小学校5年「ハンカチ落としゲーム」の授業から)
愛知教育大学 鈴木 一成
キーワード: 教材開発,体育,ベースボール型,戦術,知識及び技能 1 はじめに 2017 年に小学校学習指導要領が告示され,体育 科では「体育の見方・考え方」を働かせて,資質・ 能力の三つの柱を育成する観点から,運動に関す る「知識及び技能」,運動に関する課題の発見・解 決等のための「思考力,判断力,表現力等」,主体 的に学習に取り組む態度等の「学びに向かう力,人 間性等」に対応した内容が示された1)。また,その 学習評価においは,「知識・技能」「思考・判断・ 表現」「主体的に学習に取り組む態度」の 3 観点 に整理された2)。 これまで小学校体育科の「知識」は,保健分野 では評価対象であったが,この改訂で初めて運動 領域の「知識・技能」が評価対象となった。 では,小学校体育科の運動領域の「知識・技能」 において,とりわけ,ベースボール型ゲームの授 業では,何をどのように評価すればよいのだろう か。小学校学習指導要領解説体育編には「集団対 集団の攻防」が示されている3)。森は「何による」 攻防なのかに着目して,「投球対攻撃」「攻撃対送 球」「送球対走塁」の3つに整理して,球技系の領 域が集団競技である以上,個人技能の発揮よる攻 防よりも集団の連係に学習課題の中心があるとし て,ベースボール型ゲームにおける攻防を『集団 の連係による「本塁へ進塁するための打撃・走塁」 対「それを阻止する捕球・送球」の攻防』4)とし ている。この「攻防」の具体として,子どもたち が考えるチーム戦術を提示することができれば, ベースボール型の「知識・技能」の検討材料にな ると考える。また,岩田はベースボール型の学習 指導の難しさの原因には,子どもにとってルール が非常に複雑で,運動技能的にも戦術的にもプレ イの課題性が高く,ゲームの本質的な面白さを保 障しにくいことや,ゲームの中で個々の子どもが プレイに直接関与する学習機会が他のゲームに比 較して少なく,さらに運動量の低さの問題がある としている5)。これらの問題を解消するための教 材の考案・実践には伝承遊びに着目したものがあ る5)。しかし,その実践事例は少ないと考える。 そこで,本研究では,伝承遊びから小学校5 年 生のベースボール型ゲームの教材を考案し,実践 での子どもの学びを対象として,子どもたちのゲ ームから考えるチーム戦術について検討する。 2 「ハンカチ落としゲーム」の実践と検討方法 2.1 教材の考案と授業の概要 本教材は伝承遊びのハンカチ落としに着目した。 ハンカチ落としの遊び方は,まず,鬼がハンカチ を持ち,円の外側を回り円陣の子の後ろにハンカ チを落とす。次に鬼は,落とした場所に円の外側 を1周回って座る。そして,ハンカチを落とされ 図1 ハンカチ落としの様相
- 76 - ハンカチ落としゲーム① ハンカチ落としゲーム② ハンカチ落としゲーム③ 図2 可変型ハンカチ落としゲーム た子はハンカチを拾い,鬼を追いかけタッチする。 タッチされずに鬼が座れば鬼の勝ち。タッチすれ ばハンカチを落とされた子が勝ちとなる。図1 は ハンカチ落としの様相である。 図1 の白丸(〇)の鬼は,ハンカチを黒丸(●) の子に落とす。鬼(〇)は,ハンカチを拾った子 (●)にタッチされずに1 周して「落とした場所」 に到達すれば鬼を交代できる。「落とした場所」を 「本塁」として,鬼が「攻め」,ハンカチを拾った 後に鬼を追いかけてタッチする子が「守り」とす れば,ハンカチ落としの様相は,「本塁へ進塁する ためのハンカチを落とすことと走塁」対「それを 阻止する捕球とタッチ」と考えることができる。 伝承遊びであるハンカチ落としは,子どもにも馴 染みがあり,ルールも簡易であり,プレイの課題 性も低く,短時間での決着により学習機会も豊富 になる可能性があるといえる。このハンカチ落と しを教材化できれば,ベースボール型の学習指導 の難しさを解消する資料の提示となると考える。 その際,先のベースボール型の「攻防」の定義 とハンカチ落としの様相を比べると,「打撃」と「送 球」が相違点となる。「打撃」は,放つときの接球 時間が短い場合が「打つ」,長い場合が「落とす・ 投げる」となる。この点は,接球時間の長短によ り,子どもの打撃経験の有無に応じて採用できる といえる。また,「送球」は,どの塁でアウトにす るかであるので,塁の数だけ選択肢が増えること になる。この点は,塁の数の多寡により,ゲーム での意思決定の負荷に応じて採用できると考える。 本実践のゲーム設定は,子どもの実態に合わせ たゲーム設定ができるようにするために,教師が 提示するようなすでに「ある教材」だけではなく, 「なる教材」7)という考えも採用した。これは「授 業の中で教材になっていく」という考えである。 図3 「ハンカチ落としゲーム」について ➊ 攻めが「いくぞ!」 ,守りが「おー!」 の掛け声でゲームがスタートする。2 人対 2 人。 (1 チーム 3~4 人とし,2 人ずつゲームに取り 組む。) ➋ 攻めが,軽くひと結びをしたハンカチを 投げてセーフエリア1に到着するのが速いか, その近くのアウトエリア1への送球が速いか で勝負する。 ➌ セーフであれば残塁。セーフエリア2ま で行ったら1 点とする。
- 77 - 打つ経験が少ないという子どもたちの実態から, まずはハンカチを落とすことや投げることから始 める点が「ある教材」として,いつ打つに移行す るかは授業中に子どもとの合意で決定する点が 「なる教材」とした。また,子どもたちは前年度に 塁が1 つのゲームを経験し,既習しているため, 塁の数の多寡により適切な負荷になる可変型ハン カチ落としゲーム(図2)の中で,ハンカチ落と しゲーム②を採用する点を「ある教材」,塁間の長 さやアウトエリア間の距離について子どもとの合 意で決める点を「なる教材」とした。実践は 2017(平成 29)年 2 月から 3 月に行い,8 時間扱 いとした。なお,図3 は詳しいゲームの行い方で ある。 2.2 資料の収集と検討の方法 事例検討の対象は,チーム戦術に関する情報で ある。この情報は,「まなボード」に集約されると 考える。「まなボード」とは,子どもたちが授業 中にチームで作戦を図示したり,付箋紙に戦術的 な気づきをその都度書いたりして,チーム戦術に 関する情報共有を図ったものである。この「まな ボード」にある情報は,各チームの作戦図と個別 の戦術的な気づきに関する内容と考え,資料収集 の対象とした。 第1 時は個別の付箋紙のみが配られた。第 2 時 以降からは,作戦図を記入できるホワイドボード が配布された。第5 時は子どもたちのゲーム経験 を優先する意図から,「まなボード」の活用する時 間は設定することができなかった。なお,個別の 付箋紙は毎時間,必ず記入しなければならないも のではなく,記入内容と記入回数は子どもたちが 適時必要だと判断した時に書くこととした。また, 本実践中にインフルエンザ等で長期欠席が続いて しまった。そのため,資料収集できたのは,7 つ の班のうち,2 班・3 班・4 班での「まなボード」 における作戦図(第1 と 5 時を除く)と個別の付 箋紙の内容であった。これらを検討対象とした。 なお,ハンカチをひと結びした形状が「キャンデ ー」に似ていることから,「キャンデー」と呼ぶ子 どももいた。そのため,「ハンカチ」と「キャンデ ー」は同義とした。 「まなボード」の内容は,時系列と個別名ごとに 整理した表を作成した。この表に加え,毎時の授 業映像と実践記録の3 つの資料を加えた。その理 由は,3 つの資料を採用して,「データ収集におけ るトライアンギュレーション」8)を保ち,データ の信憑性を保つようにしたいと考えたからである。 なお,児童名はすべてA 児~M 児と表記した。 3 結果と考察 3.1 コートを2分割で考える攻防アイデア 表1 は 2 班の「まなボード」を整理したもので ある。「→」は付箋が継続して貼られていたことを 示す。作戦図は,第2 時・第 3 時・第 4 時・第 6 時の4 つである。 3.1.1 出塁・進塁,左右の選択的な意思決定 第2 時では,1 塁方向に②,2 塁方向へは①の 矢印があり,D 児は「アウトゾーンの近くにキャ ンデーを投げない(攻め)」と記した。第 4 時で は,コートが2 分割され,1 塁側は②,2 塁側は ①となっている。これらはアウトゾーンの反対側 といえる。①は「1 回目は左アウトゾーンのおく がわになげる」,②は「2 回目は右アウトゾーンに なげる」ことがある。第6 時にも 1 塁方向は②, 2 塁方向は①があり,第 6 時では D 児は「絶対に 2 塁に走るときは 2 塁のアウトゾーンに投げな い!」と記した。 本教材における2 つ塁は,出塁と進塁を目指す 場所であり,阻止される場所でもある。そのため, これから攻める場面は出塁なのか進塁なのかのゲ ーム状況の把握と,それに応じて右か左かのどち らを攻撃方向とするかは,いずれも二者択一とな る。そのため,戦術的なプレイの課題性が明確に なり,選択的な意思決定となっていると考える。 選択的な意思決定は,攻撃の始点にも出現して
- 78 - いる。第1 時の B 児の「顔を投げる方向とちがう 方向にすればまどわせる」と記していた。第2 時 では,ホーム近くには「フェイント!」がある。 C 児は「A さんと D さんは 1 回は左に投げて 2 回 は右に投げた方がいいからいつもそのことをやっ た方がいい」と記していた。これらは,敵の守る 意識と逆方向へ投げることといえる。故意に左右 のどちらかに意識を向けさせておいて,その反対 へ投げる方法も選択的な意思決定と考える。 3.1.2 奥か手前かの選択的な意思決定 第1 時では A 児は「一人がキャンデーを取って 行っている時にもう一人はアウトゾーンにいる」 と記した。第3 時では,ホーム近くに矢印や丸図 が集中しており,E 児は「キャンデーを近くに投 げる人が多い」と記した。第4 時では「アウトゾ ーンのおくがわ」とある。第6 時では A 児は「一 人は前の方に立って,もう一人はアウトゾーンよ り少し後ろにいる」と記した。 本教材は2 対 2 であり,ボール保持者とボール 非保持者の役割は一方が決まれば必然的に他方も 決まることになる。第1 時から A 児と E 児の記 述は,相手チームが手前の攻撃あると判断した結 果,その逆となる「おくがわ」へのアイデアに至 ったと考える。 3.2 「遠くなる」攻め方と「じゃま」な守り方 表2 は 3 班の「まなボード」を整理したもので ある。作戦図は,第2 時・第 3 時・第 6 時の 3 つ である。 3.2.1 選択的な意思決定とその根拠 第2 時では F 児の「1 塁に仲間がいるときは, できるだけ右のほうに投げれば2 塁アウトゾーン から遠くなるから右に投げる」が第5 時まで常掲 された。H児は「アウトゾーンの反対側に投げる」 と記した。この攻め方は3 班では「ドラえもん作 戦」と呼ばれ,共有化された。3 時に H 児が「ド ラえもん作戦がうまくいった」と記したように, 作戦が見事に決まり,この作戦は単元終了まで中 心的な攻め方となった。 出塁と進塁という2 つの攻め方については,先
- 79 - の2 班にも確認できる。しかし,3 班の記述内容 には「アウトゾーンから遠くなるから」という意 思決定の根拠があるといえる。なぜその意思決定 をするのかという根拠に合理性があれば,戦術を 理解しやすくなると考える。3 班ではこの戦術が 単元終了まで継続されたのは,チームに支持され, 実際に機能した戦術だったからだと考える。 3.2.2 合言葉によるチーム戦術の共有化 第3 時は攻め方の合言葉である「ドラえもん作 戦」が登場した。第6 時は守り方の合言葉である 「ジャマ作戦」が登場した。これは「ジャンプする・ 手を大きく広げる」というアイデアであり,授業 映像でも確認できた。I 児は「投げる人の前でジャ ンプやいろいろな動きをしてじゃまをする(守備)」 と記した。そして,H 児の「全員で作戦が立てた てドラえもん作戦とジャマ作戦が合体してドラジ ャマ作戦になった」とあるように,これまでの「ド ラえもん作戦」と「ジャマ作戦」が合体した「ド ラジャマ作戦」が誕生した。「ジャマ作戦」は,ハ ンカチを投げられて守りが始まるのではなく,ハ ンカチを投げられる前からジャンプや多様な動き でプレッシャーやコースの限定を行うという積極 的な守り方となっている。こうした積極的な守り 方がすぐにはチームに定着しにくいことは授業映 像から確認できた。また,ゲーム中には瞬時の判 断が求められるため,文章や長い説明では対応で きない。しかし,「ドラえもん作戦」や「ドラジャ マ作戦」といった合言葉が,「まなボード」でのチ ーム戦術を瞬時に思い出させ,プレイの中で共有 することができるアイデアであったといえる。 3.3 2つの攻め方と守り方 表3 は 4 班の「まなボード」を整理したもので ある。作戦図は,第2 時・第 4 時・第 6 時の 3 つ である。 3.3.1 選択的な意思決定とその根拠 第1 時では G 児は「遠くか近くに投げて全力で 走る」,L 児は「守る人が近くにいるときは遠く, 遠くにいる時は近くに投げる」,M 児は「相手が アウトゾーンをおいた反対側に投げる」と記述し た。第2 時では「ランナーがいるとき」は 1 塁方 向へハンカチの絵が矢印とともに記された。第2 時のK 児の「できるだけアウトゾーンからちがう ところへ投げる」と記述した。第6 時では M 児 は「1塁の人を2 塁にいかせるためにできるだけ, 2 塁のアウトゾーンに遠いところに投げる」と記 述した。「遠くか近くか」と「アウトゾーンの反対 側」は,2つの選択的な意思決定であり,先の2 班と3 班にも共通する。また,「1塁の人を 2 塁 にいかせるためにできるだけ,2 塁のアウトゾー ンに遠いところに投げる」は,3 班でも確認でき た意思決定の根拠といえる。 3.3.2 協力して守るための動線 第3 時では K 児は「W キャンデーする」と記 述した。実践記録には「W キャンデー」は「一度 に2 つのアウトを取った時に命名された」とあり, 野球用語のダブルプレーを示す。授業映像を確認 すると「W キャンデー」に成功した場面が 1 回あ った。これを機に守り方のアイデアが「ダイヤモ ンド作戦」となった。第4 時には「ダイヤモンド 作戦」が登場して単元終了まで常掲された。第4 時の作戦図には,守りがアウトエリアの前方に一 人,後方に一人に位置する。アウトエリアが横並 び,守り方が縦並びとなり,それらを頂点として 線で結ぶ形がダイヤモンドとなり,この作戦が付 けられた。 縦並びの場合,前方へハンカチが落ちれば前方 者が捕球及び送球することになり,後方者はどち らのアウトゾーンでアウトにするかを考えて,ア ウトゾーンへ移動することになる。ハンカチが後 方へ落ちればその逆となるといえる。すなわち, 縦並びは「ボールをもっていない人がアウトゾー ンへいく」という取り決めがあり,前方・後方の 守りは固定化されず,どちらのアウトエリアにも 入ることができる流動的な守り方であるといえる。 前方者と後方者の動きはハンカチが落とされた後
- 81 - に連動することになる。さらに,相手が進塁の場 合は,まずは進塁での阻止,次に出塁の阻止を連 動した動きの中で成立させようとすることは2つ のアウトをとることを目的とした選択的な判断に 基づく協同プレイとなるといえる。 3.4 総合考察 3.4.1 選択的な意思決定による攻め方 2 班の「アウトゾーンの近くにキャンデーを投 げない」や 3・4 班の「アウトゾーンの反対側」 は,出塁と進塁による選択的な意思決定と考える。 また,その根拠として,3・4 班における「アウト ゾーンから遠くなるから」が確認できる。 本教材における2 つ塁は,出塁と進塁を目指す 場所であり,阻止される場所でもある。そのため, 攻めに際しては,まず,今から攻める場面は出塁 なのか進塁なのかを判断することになる。次に, 先の判断と相手の守り方に応じて投げるエリアに ついて,右か左か,あるいは奥か手前かを判断す ることになる。その意思決定に働く知識が,阻止 されたくないアウトゾーンの反対側となる。学習 の早期は左右であったものが,学習の進行に伴い 前後が加わったと考える。こうしたチーム戦術の 課題性に記述が第1 から2 時といった単元の序盤 から出現していることは,本教材がボールを打つ のではなく,ハンカチを落とすことや投げること を採用したことと,塁の数を2 つにしたことによ り,選択的な意思決定による攻め方が学びやすく なったのではないかと考える。 3.4.2 選択的な意思決定による守り方 子どもたちの守り方は攻め方に対応していて, アウトが取れた場合はチーム戦術として採用され ていたといえる。例えば,2 班では「ハンカチを 手前に投げる人が多い」という攻めに対応して, 「一人は前の方に立って,もう一人はアウトゾーン より少し後ろにいる」こと,3 班では前方の 1 名 が「ジャンプする・手を大きく広げる」ことでア ウトが取れて,チーム戦術として定着していった といえる。 本教材は2 対 2 であり,守り方は,一方が捕球 すればボール保持者となり,他方はボール非保持 者となる。この役割は固定化と流動化の二つが考 えられる。例えば,4 班では「ボールをもってい ない人がアウトゾーンへいく」という取り決めが あり,前方・後方の守りは固定化されず,どちら のアウトエリアへ入るかは相手の攻め方に応じる という流動的な守り方となったと考える。前方者 と後方者の動きはハンカチが落とされた後に,相 互に役割分担を決めて,連携した守り方をする。 さらに,相手が進塁の場合は,まずは進塁の阻止, 次に出塁の阻止という優先順位を守りつつ,一度 に2 つのアウトをとることを目的としたチーム戦 術になったと考える。 3.4.3 合言葉によるチーム戦術の共有化 本実践では,3 班の「ドラえもん作戦」,「ジャ マ作戦」と「ドラジャマ作戦」,4 班の「ダイヤモ ンド作戦」と呼ばれるチーム戦術があった。ゲー ムでは気分が高揚したり緊張したりすることがあ り,チーム戦術を忘れたり思い出せなかったりす ることが予期される。また,プレイ中は瞬時の判 断が求められるため,文章や長い説明では対応で きない。これに対して,子どもたちは,合言葉を 使うことで,選択的な意思決定によるチーム戦術 が共有していたと考える。これはチーム戦術を使 いこなすためのアイデアと考える。 4 おわりに 本研究では,小学校5 年生のベースボール型ゲ ームの実践から,チーム戦術について検討した。 検討の結果,①選択的な意思決定による攻め方, ②選択的な意思決定による守り方,③合言葉によ るチーム戦術の共有化の3つの解釈を試みること ができた。 これらは,本教材が伝承遊びであるハンカチ落 としを発展させたため,子どもにも馴染みがある 運動となり,ルールも簡易であったこと,打つの
- 82 - ではなく落とすや投げることから始め,出塁と進 塁での判断負荷が軽くなることでプレイの課題性 も低くなったこと,短時間での決着により学習機 会も豊富になったことが考えられる。 しかし,これらをそのままベースボール型ゲー ムの「知識・技能」として位置付けるには,資料 収集に際しての事例が少なさと検討方法にも課題 が残るため,議論の余地が残る。また,5 年生の 認識や社会性の発達という観点と教材の内容的な 視点を検討する余地も残されている。さらに,本 実践は,一つの事例検討であるため,客観的で一 般化を図ることはできない。それでも,小学校5 年生がゲームから何を学び取ったかを授業の内側 から一つの解釈を試みたことは今後,子どもたち のゲーム戦術を読み解く貴重な資料となると考え る。今後も,小学校期の子どもたちのゲーム世界 に関心を寄せ,実践を通して本教材に改善を図り, 研究を積み重ねていきたい。 引用文献 1) 文部科学省(2018).『小学校学習指導要領解説体 育編』,東洋出版社,10-11 2)教育課程部会(2019).「児童生徒の学習評価の在 り方について」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2019/ 01/23/1412892_2.pdf(2019.10.10 参照) 3) 前掲書1),138 4) 森勇示(2016).「小学校ベ―スボール型授業事例 の批判的検討-対案としてのバランスボル・ベース ボール-」,愛知教育大学保健体育講座研究紀要 (41),3-4 5) 岩田靖(2016). 『ボール運動の教材を創る』,大修 館書店,55 6) 石塚諭(2013).『伝承遊び「ろくむし」を通して 学ぶベースボール型の構造』,体育科教育,61,第 10 号,大修館書店,30-33 7) 日本教材学会(2013).『教材事典』,東京堂出版, 22-23 8) ウヴェ・フリック(2011).『新版 質的研究入門』, 春秋社,547-548