Tohoku Journal of Forest Science *連絡・別刷り請求先(Correspondingauthor)E-mail[email protected] 1森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所(020-0123盛岡市下厨川字鍋屋敷 92-25) TohokuResearchCenter,ForestryandForestProductResearchInstitute,ForestResearchandManagementOrganization,92-25Nabeyashiki,Shimokuriyagawa,Morioka,Iwate020-0123,Japan (2020 年 2 月 21 日受付,2020 年 3 月 3 日受理) Ⅰ.はじめに 2000 年代以降,東北地域の素材生産量は大きく増 加している。2018 年には 550 万㎥,その全国シェア は 25%を超え,北海道,九州に並ぶ素材生産地域へ と成長した。これを牽引したのは,合板産業の国産材 への転換をはじめ,大型の国産材製材工場や集成材工 場等が立地したこと,加えて,近年では木質バイオマ ス発電所が林立し,操業を本格化させたことによる。 こうした川下の規模拡大による需要の増加を支え,あ るいは規模拡大を誘導したのは大ロット供給に大きく 貢献した素材流通部門になる。そこで,本稿では大規 模加工工場の林立著しい青森県,秋田県,岩手県の北 東北地域の素材流通過程を担う事業体を対象とし,ま ず,これらの事業体躍進の契機となった合板工場の国 産材へのシフトの様子を概観した上で,その入荷先の 窓口を担った青森県森林組合連合会,秋田県森林組合 連合会,岩手県森林組合連合会の 3 県の県森連,な らびにノースジャパン素材流通協同組合(以下,NJ 素流協)が如何にその取扱量を拡大したのか,その内 実に接近する。 Ⅱ.素材流通過程のイノベーションの契機となった合 板工場の国産材シフトの様子 1990 年代後半になると,わが国の合板工場はロシ アの輸出丸太の関税問題への対応にせまられていた。 おりしも宮城県では,すでに 1990 年代初頭より間伐 手遅れ林分が目立つようになり,森林整備の観点か らも間伐材の需要開拓を課題とし,県,石巻地区森 林組合,石巻地区の合板工場の 3 者において,スギ 合板化の試験が開始されていた。だが,当時の合板 工場は南洋材を主たる原料とする機械性能では剥き 芯が 30cm となってしまい,スギ間伐材をかつら剥 きにできなかったのである。このため,まずは剥き芯 を細くする技術開発に向けた試験が繰り返された。ロ シアの輸出関税問題が浮上するタイミングで,剥き 芯 33mm に成功するのである。関係者への訪問調査 では,合板が国産材に転換し得た最大の要因は,スギ 間伐材の径級でも桂剥きを可能にした製造技術の開発 と,根太を不要とするネダノンという商標に代表され る国産合板の住宅向けの商品開発にあったという。と りわけ,国産材に転化し得た初期の段階では,剥き芯 要 旨 本稿は,大規模加工工場の林立著しい青森県,秋田県,岩手県の北東北地域の素材流通過程を担う事業体を対象とし て,その取扱量拡大の内実に接近する。対象とした事業体は,青森県森林組合連合会,秋田県森林組合連合会,岩手県 森林組合連合会の 3 県の県森連,ならびにノースジャパン素材流通協同組合(以下,NJ 素流協)になる。まず,これ ら事業体躍進の契機となった合板工場の国産材へのシフトの様子を概観した。外材依存から国産材にシフトする上での 合板工場の課題は大きく 3 つであった。一つ目は,30cm の剥き芯の問題,二つ目は,国産材による製品性能の問題, 三つ目は,国産材の大ロット原木入荷問題であった。一つ目と二つ目の課題は,合板工場内部の問題であったが,三つ 目の課題は,入荷先となる外部との問題であったため,新たな関係構築が求められた。その入荷先の窓口を担ったのが, 素材流通過程を担った事業体であった。そこで,本稿では,事業体としての設立が最も新しい NJ 素流協が如何に事業 量を拡大したかを明らかにした上で,3 県の県森連の特徴にふれる。結果,本稿でみた 4 つの素材流通過程を担う事業 体の経営は,異なる資源状況,木材加工工場の立地などを背景に独自の戦略を有するとともに,共通して組合員の育成 にも力をいれていることが明らかになった。
大塚生美
*,1CurrentaspectsoflogdistributionprocessinthenorthTohokuregion
IkumiOtsuka
*,1北東北地域における素材流通過程の現局面
25(1)p.14-17(2020) 東北森林科学会誌第 25 巻第1号 14 〜 17 頁 2020報
文
15 大塚生美:北東北地域における素材流通過程の現局面 の小径化が決定的であったという(加藤・大塚・餅田 2008;大塚 2008)。そして,かつての東北地方が得 意とした羽柄材に変わる商品開発を行ったことも看過 できない。現在は,住宅用構造材や内装材としての商 品開発に力が注がれている。 合板工場が国産材にシフトする過程で大きく注目さ れたのが,山土場から工場への直送と協定取引であっ た。すなわち,原木市売市場を通さないことによる流 通コストの削減と,原木入荷に関わる協定書の取り交 しによる安定供給システムになる。こうした仕組みの 原型は既に秋田県森林組合連合会と地元合板工場との 取り引きにあったが,国産材の自給率を押し上げ,大 規模に展開するのは,宮城県石巻地区の合板工場群が 国産材にシフトしようとしたことが契機になる。協定 取引を実現する上での課題として,外材を主たる原料 としてきた合板工場は,国産材が集まるのかどうかの 見通しをたてることと,その入荷価格の価格水準を決 める必要があった。このため,最初は,出荷者の窓口 を絞り,定期的に丸太の工場着価格を変動させながら 入荷の様子を伺った。結果,ある一定以上の価格をもっ て,必要量の集荷が可能であることがわかった。そこ で,次には,その集荷量を安定させるため,「原木取 引に関する協定書」(以下,協定書)に基づき,材の 安定供給を実現した。協定書は,合板工場別に納入窓 口である素材流通事業体との間で,それぞれ取り交わ されることになった。 協定書で主に取り交わされている内容は,1)目的, 2)納入予定の原木数量,3)協定期間,4)意思の決定, が示されている。1)の目的の項では,合板用原木の 安定供給を推進するため原木取引に関する基本的事項 の定め,2)の原木数量は,供給サイドからの年間計 画数量が示され,合板工場はこの協定原木を安定的に 消費すること,3)の協定期間は 5 年とし,その後更新, 4)意思の決定には,協定書に定めない事項や疑義が 生じた場合は,協議して定めること,としている。前 の段落にみるとおり,価格は随時協議によって決定さ れることになるが,1 年のうちに大きな変動は無いと いう。 こうして決定された協定数量は,次の方法によって 達成される。まず,例年 5〜6 月の年度初めの関係者 会合で,合板工場から購入計画数量が示される。納入 サイドの窓口を担う事業体はそれぞれの傘下事業体 (組合員)等と協議し納入計画数量を算定し,原木供 給量のすりあわせが行われる。当時,納材窓口となっ た事業体の手数料はそれぞれ独自に決めていたが,概 ね取引価格の 3.5〜4.5%であった。こうした新たな 仕組みは,2003 年に宮城県に発足した「合板用県産 材の供給等に関する検討会」によるところが大きい。 「合板用県産材の供給等に関する検討会」は,2008 年には,新たな展開を始めた。山元還元を目に見える 形で行うために,再造林に関わる新たな支援として, 全国初の森林再生支援の民間組織「みやぎ森林(もり) づくり支援センター」を設立した。設立目的は,木材 価格の低迷により森林所有者の経営意欲が失われ,立 木を伐採しても跡地に植林がなされず山林が放置され たままとなっている状況を改善することにあった。造 林を行う森林所有者に対し苗木代の一部を助成して植 林を奨励するため,1㎥当たり 10 円を山元に還元し ようと言うのである。10 円は供給側も受入側も負担 するため,実際には1㎥当たり 20 円の再造林費用が 生み出されることになる。この造林基金は,今では青 森県,岩手県も同様の取り組みに展開している。秋田 県は 2019 年を初年度とする県の施策である「秋田県 再造林定着促進事業」に弾みをつけるため,県の呼び かけで秋田森林組合連合会ならびに秋田県素材流通協 同組合がそれぞれ 300 万円の寄付を行った。いずれ も資源再生は喫緊の課題として認識されている。 以上にみるとおり,国産材にシフトしようとする合 板工場は,それまで南洋材では直径 30cm 迄しか挽 けなかった剥き芯の問題,国産材による製品性能の問 題,最後に残った安定的な原木入荷問題も克服し,結 果として,素材流通過程のイノベーションをも引き起 こすことになった。素材の流通過程において新たな役 割を担うことになった事業体は,川上の素材生産事業 体のみならず,今日,川下をも刺激したようにみえる。 そこで次項では,合板用丸太の大ロット供給を担うこ とを目的に設立された NJ 素流協,今日,丸太の取扱 量を飛躍的に拡大させた青森県,秋田県,岩手県の森 林組合連合会の各事業内容を検討する。 Ⅲ.個別事業体の事業内容と事業拡大戦略 1.NJ 素流協 NJ 素流協の 2018 年度実績は,年間取扱量 49 万 685㎥と 50 万㎥に届く勢いをみせる。NJ 素流協は, 合板工場の国産材シフトに呼応し,2003 年に発足, 事業を開始する。事業開始当初の取扱い原木は,合板 向けの B 材に注力していたが,その後,川下より安 定供給の信用を得て,集成材向けに展開,東日本大震 災後は建設が相次ぐ木質バイオマス発電所からの要請 で,現在は燃料用チップとなる丸太の取扱量も伸ばし ている。図- 1 は,NJ 素流協の用途別取扱量・組合 員数の推移を示したものである。総取扱量のうち合板・ LVL 用 4 割,製材・集成材用 3 割,燃料用 3 割で, 供給先は県内 5 割,合板工場が集積する宮城県 3 割, LVL工場が新設された青森県他が2割となっている。
16 東北森林科学会誌 25(1),2020 取扱量の増加にも増して注目されるのが,組合員数 の増加である。NJ 素流協は,取扱原木の獲得とあわ せて,組合員の経営合理化への指導にも力をいれてき た。各種助成や政策の動きなどに関する情報提供,若 手経営者への研修,さらに再造林を促す低コスト造林 の実証実験などにも積極的である。最近では,燃料用 丸太の不足にともない短コロと呼ばれる根曲がり部分 の効率的な集材・積荷の仕方などの実証実験も行って いる。 こうした組合員への指導・普及部門には 4 人の常 勤職員がいる。約 20 人の職員のほとんどが地元雇用 である。事業費や賃金ならびに研修のための経費など はすべて取扱い手数料で賄われており,素材の取扱量 は経営に大きく影響する。NJ 素流協の取扱量の拡大 は,当然のことながら組合員の生産拡大が基礎となる。 NJ 素流協組合員へのヒアリングでは,NJ 素流協との 取引を第一に考えるのは,NJ 素流協がいかなる丸太 も販売先を見つけてくれることで立木購入や機械装備 等への投資の見通しが立ちやすく,経営の安定化が図 り易いということであった。さらに,前述のとおり, 研修機会や新たな情報提供が充実していることにも満 足している。 NJ 素流協の参入による流通過程へのイノベーショ ンとして指摘しておきたいのは,施業の団地化・集約 化という林地の集約化から,素材生産事業体による事 業地の効率的集約への転換を促進したことである。す なわち,一般に施業の団地化・集約化は,まず個別所 有者の合意をはかり,その上で,年度計画をたて事業 地を確定する。一方の素材生産事業体による事業地の 集約は,まさに生産対象のみ事業地となるため,林地 がまとまっていなくても良い。この結果,組合員の素 材生産事業体を通じて,出材が確実な生産対象地のみ が効率的に集約されることになったともいえるのであ る。 2.北東北地域(青森県・秋田県・岩手県)の森林組 合連合会の躍進 NJ 素流協創設の翌 2004 年からスタートした林野 庁事業「新たな流通・加工システム(新流通システム)」, 2006 年からスタートした同「新生産システム」を通 じて,森林組合系統の大ロット供給を牽引し,また, 納材の窓口となった森林組合連合会の商社化は全国的 傾向となった。ちなみに,新流通システムは,林野庁 の補助事業として初めて民間事業体へ直接国費が投入 された事業であり,3 年間の事業を通じて,いわゆる 国産 B 材の取扱量は約 121 万㎥に達し,事業開始時 の 2.6 倍の規模となったことは周知のとおりである。 北東北地域では,いずれも合板工場向けのいわゆる B 材の大ロット供給が大きな転機となった。そこで,次 に,青森県,秋田県,岩手県の森林組合連合会の様子 をみていく。図- 2 〜 4 は,各連合会の取扱量の推 移をみたものである。秋田,岩手の県森連は合板工場 図−1 NJ 素材生産流通事業体の樹種別用途別取扱 量・組合員数の推移 資料:NJ 素流協業務資料 図−3 秋田県森林組合連合会の取扱量の推移 資料:秋田県森林組合連合会 図−4 岩手県森林組合連合会の取扱量の推移 資料:岩手県森林組合連合会 図−2 青森県森林組合連合会用途別取扱量の推移 資料:青森県森林組合連合会
17 大塚生美:北東北地域における素材流通過程の現局面 への納材が一定の位置を占めていることがわかる。だ が,その取扱量の拡大要因はそれぞれ異なっているの である。 青森県森林組合連合会は,NJ 素流協や他の県森連 とは全く異なり,系統の森林組合ならびに素材生産事 業体からの丸太購入によってその信用を確実にして いった。当時,県内に大口の需要が無いことを逆手に, 自らリスクを背負い販売戦略に力をいれたのである。 また,他県と異なり,製材用丸太の納材割合が大きい 理由には,自県の資源の特徴を生かし,A 材と B 材 の中間ともいえる材に独自の基準を設け,製材向けの 新たな価格帯も生み出していることによる。 秋田県森林組合連合会は,東北において合板工場と の取引形態を最も早く実現しており,今日の協定取引 の原型をみることができる。近年は,高性能林業機械 の導入が遅れていた森林組合に,高性能林業機械の導 入を促し,各森林組合の生産性が伸びたことで事業量 が拡大したこと,県内に製材工場の協同組織による集 成材用ラミナを主力製品とする工場が新設,本格稼働 したことで,取扱量を伸ばすことができたという。 岩手県森林組合連合会は,これまでの共販所とは別 に,新たに県内に県森連直轄の中間土場(ストックポ イント)を配置し,樹種別の採材指導を行うなど地元 の小さな素材生産事業体が出荷し易い環境を整えるな ど,森林組合系統の総林産事業量を越える取扱量を達 成している。特に,全国 2 位に位置する広葉樹の生 産拡大への貢献は大きい。 図にはしていないが,各森林組合連合会の 2017 年 度実績は,青森県森連の総取扱量 50 万㎥,うち合 板・LVL35%,製材・集成材 44%,燃料用 20%, 供給先は県内 30%であった。秋田県森連の総取扱量 36 万㎥,うち合板 90%,製材 10%,供給先は県内 がほぼ 100%になる。岩手森連の総取扱量 42 万㎥, うち合板 50%,製材用 25%,燃料用 25%,供給 先は県内がほぼ 100%(県外 3,000㎥内外 / 年)で あった。青森県森連が 2016 年の 44 万 5,000㎥から 2017 年の 50 万 2,000㎥に飛躍的に増加させた理由 は,青森県内に建設されたLVL工場の本格稼働にある。 Ⅳ.おわりに 本稿では,まず,素材流通過程を担った事業体躍進 の契機となった合板工場の国産材シフトの様子を概観 した。合板工場の国産材シフトには,剥き芯の問題, 製品性能問題等,克服すべき課題がいくつかあったが, とりわけ南洋材に代わる大ロット原木入荷が問題で あった。その鍵を握ったのが,素材流通過程を担った 事業体であった。本稿でみた 4 つの素材流通事業体 の経営は,異なる資源状況,林産加工工場の立地など を背景に,独自の戦略を有していた。一方で,共通し て川下と川上の信用補完ともいえる機能を持ち,組合 員の育成に力をいれる中で,事業量を拡大していた。 とりわけ,以上の素材流通過程のイノベーションで注 視すべき点は,施業の団地化・集約化という林地の集 約化から,それぞれの組合員による事業地の効率的集 約を促進したことである。 振り返って,こうした動きは,生産対象が国有林か ら戦後造林を担った民有林に事業地が拡大あるいはシ フトすること,そして天然林資源から人工林資源へ, 大径木から小径木へとシフトする中で生起したことも 看過できない。エンジニアードウッドへの要求が高ま る 1990 年代においてもなお,東北地方ではラミナ原 板等の外材依存から脱却できず,ひいては乾燥化,プ レカット化の遅れとして現れ,製材市場を失う結果と なった。こうした状況下に登場するのが,それまで原 料を外材に求めていた合板工場であり,大ロット供給 体制を可能としたのが素材の流通過程を担った事業体 であった。この結果,それまで地域資源として有効に 使われてこなかった B 材に価値が生まれたのである。 そして,本稿で検討した事業体は,単に物流・商流の 新たな仕組みをつくっただけでなく,組合員である事 業体の育成にも取り組んでいることは注目される。 謝辞 本稿では,ノースジャパン素材流通協同組合,青森 県森林組合連合会,秋田県森林組合連合会,岩手県森 林組合連合会はじめ,調査の過程では大変多くの皆さ まにお世話になりました。ここに厚く御礼申し上げま す。 引用文献 加藤大雅・大塚生美・餅田治之(2008)合板利用を背景と した国産材生産・流通の変動―宮城県を事例として―. 2008 年林業経済学会秋季大会報告要旨集:D-3 大塚生美(2008)宮城県における合板用国産原木安定供給体制, 森林誌研究所編,森林誌研究,第 7 号:94-100