ミツバ チ科 学
2
0(
3
)
:1
0
7
-1
1
2
Ho
n
e
y
b
e
eS
c
i
e
n
c
e(
1
9
9
9
)
南米 ボ リビアでの協力隊活動
筆者 は,去 る1
99
7
年4月 よ り1
9
99
年 の4 月まで南米のボ リビア共和国へ養蜂の助言指導 という趣 旨で,Eg際協力事業団青年海外協力隊 (JICAJOCV)として派遣 された. まず任国の概要 として, ボ リビアは南米大陸 のはば中央に位置す る,海を持たない内陸国で ある.面積 は日本の約3倍で,国土の西部をア ンデス山脈が占め,Eg内の主要都市のほとんど が標高2,000m以上 に位置する.首都 ラパスは 標高約3
,
7
00m
(世界一標高の高 い首都) など 一般的なイメージはア ンデス山脈 に関連 して フ ォルクロー レの世界 を思 い浮かべ られが ちだ が,実 は東部 に は広大 な熱帯湿原地帯が広 が浅田 悠樹
る. このようにボ リビアの国土は標高6,000m を越えるアンデスの高峰が位置する寒帯か らア マゾン源流地帯を含む熱帯 まで,標高差 にもと ず く幅広い気候を持 っている. 人 口は約7
40
万人で,その55%
が先住民族 であり,南米で も先住民族比率の もっとも高 い 国 として知 られている.公用語 は主にスペイ ン 語が話 されている. 筆者が配属 された任地 は, ボ リビア国内最大 の商業都市 サ ンタクルスよ り約70km
北上 し た人口約6000
人の小 さな田舎町, ポルタチュ エロ市であった (図 1). 海抜450m
前後の低 地で,気候 は亜熱帯EElに属 し,4月- 11月は乾 図1 ポルタチュエロ市はボリビア東部の低標高地域に位置するtlXE3 図2 配属先の生徒およびカウンターパー ト 内 検実習で 期,12月13月は雨期の区別がある.蒸 し暑い 日が多いが, 6月か ら7月はエル ・スルという 南極風が時々吹いて,その時はス トーブが欲 し くなるくらい寒 いことがある. 配属 配属先 は,文部省技術教育局配下の農牧技術 専門学校である.14歳か ら22歳の男女を対象 に農業 ・農牧に関する技術をかなり広範 に渡 っ て教授 している (図 2).養蜂は講座の一つ とし て授業 カ リキュラムに組み込 まれており,すべ ての生徒 は学年 に応 じて一通 り基礎的な養蜂の 概念を実習などを通 じて学ぶ.当初の要請内容 として, 1) ローヤルゼ リーの生産 2) 女王蜂の更新 3) 養蜂業の改善 4) 収穫量の増大 などの技術移転が求め られていた.養蜂の職種 としては筆者が新規であったため,配属 してか ら3か月間は状況把握 ということで,当校で養 蜂学担当 しているアルセニオ氏 (筆者のカウン ターパ ー ト) と常 に行動 を共 に して いた (図 3). ここで,簡単 にアルセニオ氏 を紹介す る と,本名 アルセ ニオ ・カ ル デナ ス (Arcenio Cardenas),50歳.獣医師の免許を持つが,覗 在 は養蜂業及 び養蜂の教育業務 に専念 してい る, 養蜂業務従事経験14年のベテラン. 筆者 は,任地 に配属当初3か月は,彼の家庭 にホー ムステイさせて もらっていた.文字通 り 1日中 図3養蜂生産物の特徴を一般人に説明する筆者 のカウンターノヾ一卜 (帽子をかぶっている) 彼の傍 らで生活 していた. ボ リビアの養蜂事情 ボ リビアは先述 したよ うに標高によって気候 が顕著 に異 な り,首都 ラパ スなどを含 む海抜 3,000-4,500
m
の高原地帯 (アルテ ィプ ラー ノ)と,1,000m以下の低地帯 (カ ンパ)では気 盟,湿度 は著 しく異なり,高地 と低地では周 り の景観を含め異国ほどの差がある.当然地域の 植生 も異 なり一般 に養蜂業務可能地域 として, ボ リビア国3番 目に大 きい都市 コチ ャバ ンパ 市 を含む海抜2,500m付近が上限 とな って い るようだ. 養蜂業が一番盛んなのは,やはりサ ンタクル ス市近郊200km圏内だろう. これは,蜜源植 物が豊富 ということに加 えて,サ ンタクルス市 は比較的裕福な家庭が多いということで,ハチ ミツの市場が大 きい とい うことに関係 してい る. 養蜂の一般的な状況 と して,蜂種 は南米 に普 _ . .日 . L j i 図 4 内検作業図5配属先の蜂場 左隅の白い建物は作業部屋 通 に見 られるアフ リカ蜂化 ミツバチ (Afric an-izada) と呼ばれ る種を利用 している. この蜂 紘,集蛮力 は高 いが 性質 は荒 く,よ く刺すため, 作業す るときは完全防御服 を着込み,皮製 の手 袋を着用 して,煙煙す る者 と内検す る者 とで最 低二人以上で作業す ることになる (図 4).使用 している巣箱 は, ラングス トロースの標準巣箱 で (図5),都市部 に近 い養蜂家 は巣礎 を用 いて いる者 も少 な くない.収穫量 は年 によ ってば ら つ きがあるが,サ ンタクルス市内近郊で一群当 た り年30kgといわれて いる.-チ ミツは,国 内消費のみで輸 出にまで は全然及んでいない状 況である.-チ ミツの味 は,やはり日本人の味 覚か らす ると, くどい気 もす るが品質 は高 いと 思われ る (実 は,筆者 は甘 いのが苦手でよ くわ か らない). ポル タチ ュエ ロ市近郊 で採 れ る最 高級の蜜 は, パ イチ ャネVemonia SPP.もし くは Vemoniaと呼ばれ る多年生草本類で7月 ∼8月にか けて小 さな白い花を沢山咲かせ る. 蜜の香 りもよ く色 も薄 い黄金色を している.咲 もさすがに一級品 らしく,喉 ごLがやわ らかで 図6 カウンターパー トともに任地周辺の蜜源植 物を探索 LO9 軽 い, またマ ンゴーの蜜 も一級品に属 し,かっ 流蜜期が長 いため,重要 な蜜源 とな っている. 他 に も蜜源植物 と しては,主 だ った ものだけで も50種 は下 らないとされている.流蜜期 は 7 月∼9月にかけてが最大で,11月に多少咲 き, 3月 は柑橘系の植物が花 を付 けるため, 場所 に よって採蜜が可能 となる. ポルタチュエロ市近 郊では採蜜 は年3回か ら 5回が一般的である. ハチ ミツの市場末端価格 は,季節 によ り多少 変動 す るが大体 1kg当た り 1米 ドルであ る. これは,ボ リビア人の平均月収入270米 ドル, 教員 の平均 サ ラ リー200米 ドル と照 らして考 えると,比較的いい値段で売れ る生産物ではな いか と思 う. しか し,近年 アルゼ ンチ ンや ブラ ジルなどの近隣諸EElより大量 に安 い輸入蜜が市 場 にでてお り,国産蜜の市場を圧迫 している. また現在 ボ リビア国内には,未だ専業養蜂家 は 存在 しない らしい. これは,一つには天候 によ る影響が大 きく,専業 とす るには リスクが高す ぎるよ うだ.また,群数 は多 い人で300群か ら 100群を持っ者 もいるが,大抵の人 は,5群か ら30群が一般的である. また, 任地のポル タ チュエロ市 には養蜂組合が2つ存在 し,組合員 は大体15人前後 とい うことだ ったが,組合員 同士 の交流 はそれ ほど活 発 で はなか ったよ う だ.組合を作 る理 由は,情報交換 の場 というよ りは,遠心分離機や巣箱 などを作 る作業設備 な どを組合員で共同出資 して購入 し,個人的な金 銭負担 を少 な くして利用 で きる点 にあ るよ う だ. 図7 -チ ミツ祭 カウンターパー トのブースに て カウンターパー ト夫妻
110 図8作業部屋で移虫作業を行 う生徒 実 際 の協力活動 基礎的な養蜂技術 は,大抵の養蜂家はすでに 持 ってお り,特に筆者のカウンターパ ー トは養 蜂の従事経験 も長 いことと,当地の蜂種に詳 し いこともあわせて筆者があえて教えることはな か った. しか し,要請内容であるローヤルゼ リ ーの生産法 と女王蜂の人工養成に関 しては,知 識についてはなんとな くあるが,実際に行 った ことはないということで,この2つの技術を伝 達す るということと,カウンターパー トの要望 でサ ンタクルス州の蜜源植物図鑑の作成および 卒論生 の助言指導 を柱 に筆者 の活動 は始 まっ た. 女王蜂の養成やローヤルゼ リーの生産に関 し ての作業部屋を配属先が建設す る代わ りに機材 をJICAが負担するということで, 花の流蜜期 などを考慮 して,その年 の10月頃に生徒 に対 しての実習を含め着手 しようと準備を進めてい たが,資金的な理 由で実際 にこの作業部屋が完 成 したのは翌年の9月だ った.仕方ないのでそ の年 は,試験的に女王蜂を作 り,数群を分蜂 し て新王群を創設するなど して,カウンターパー トに女王蜂の人工養成の基本的な流れを教える に留まった.他には,養蜂 に関する卒論を書 き たい とい う2名の生徒 の補佐 と して彼 らの実 習作業を手伝 ってあげた り,合間をぬってカウ ンターパー トと共 にポル タチュエロ市近郊の蜜 源植物 ・花粉源植物 の写真 を撮 り貯 めていた (図 6). また,毎年恒例のポルタチュエロ市二大祭 り の一つに数え られている-チ ミツ祭 りが11月 の末 に行われており,サ ンタクルス市内の住民 も多 く訪れ賑わいを見せている.祭 りのメイ ン は養蜂生産物の展示即売会で (図 7),ポルタチ ュェ ロ市 内の各養蜂家, もしくは組合単位 で 各々ブースを もって自慢の生産物をところ狭 L と並べている.また出店料 を払えば基本的に誰 で も出店可能で,サ ンタクルス市内の組合 もい くつか出店 していた.品目は,-チ ミツ,花粉 粒,ハチ ミツ加工品 (-チ ミツと花粉 と輸入 ロ ーヤルゼ リーの混合物),プロポ リス,巣蜜,養 蜂器具などがある. また,祭 りには趣向が凝 ら してお り,ブースの人気投票や 1枚巣蜜の重量 コンテス トをは じめ,関係 ないとも思えるが, その年のハチ ミツ女王を決 めるんだということ で ミス ・コンテス トまであった. 翌年 は,外部の学生の依頼によりローヤルゼ リーの生産法に関する,大学の学位論文を提出 したいということで,完成 した作業部屋を利用 してその学生の実験の補佐を した (図 8).この 国では,卒業す る際に,卒業論文 は必須 とされ ていないが,論文を提出 し,論文発表及び質疑 応答に合格すると,卒業学位 とは別 に特別な学 位が授与 される.ただ,論文を書 くにあたって 必要 とされる一切の経費が生徒の自己負担であ るため,大抵の学生 は卒業後働 きなが ら作成す ることが多 い.彼 もその内の一人 だ った (図 9).そ の 他, ビ ラ イ 川 流 域 治 水 事 務 局 (SEARPI)の依頼 によ りサ ンタクルス市 よ り 約150km北西 にあるサマイバ ク市近郊のベジ ャビスタという山間部で生活 している部落民を 対象に,カウンターパー トと共 に現地へ赴いて 約1か 月 間 に渡 って集 中講 義 を行 った (図 10). これは, 山間部の森林伐採 に起因する土 壌流出によるピライ川中下流域の土石流の発生 を防 ぐため,SEARPI(FAOの援助が入 ってい る)が山で樹木を伐採 して現金収入を得ていた 部落民に対 し,他の現金収入の方法 として2年 前 より養蜂業が導入 されて行われていた経緯 を もつ.事前に現地へ赴いて部落民 と集会を し依 頼内容を調査 した結果,群の増や し方,集蜜力 の増加 などがあった.利用 している群の女王蜂
図9 ローヤルゼリーに関する卒論実験をする大 学生 (向か って右) がおそ らく老齢であることなど,女王の更新法 を知 ることが総合的に最 も効果が期待できそ う ということで,結局女王蜂の人工養成の仕方 に 目的を絞 った.そ して現地の気候,開花時期な どを考慮 して講習時期を3か月後の11月 と決 定 した.ベジャビスタ
(
一
一
Be
l
l
aVi
s
t
a
"
-すぼ ら しい眺めの意)部落 は,その名が示す とお り周 囲の景観 はすぼ らしい. 標高1500mほどの起 伏に富んだ町か ら遠 く離れた山間で,緑が非常 に豊かで寒か らず署か らずの心地の良 い気候, 小高い丘か ら眼下 を見下 ろすと山のつ らなりが 広が り,涼風が頬を撫ぜ, ここが亜熱帯地方 と いうことを忘れさせて くれる.またこの一帯に 昔チェ ・ゲバ ラたちが潜伏 していたという.当 地 は蜜源植物が豊富であるため,年 に1群当 り 60kgの収穫 が あ るとい う.そのハ チ ミツを SEARPIの事務所 があ る一番最寄 りの町サマ イバ クまで,SEARPIが仲介 して運んで1kg 当 り4 ドル前後で売 っている.カウンターパー トに言わせ ると,その蜜 は農薬などの環境汚染 にさらされていない蜜 ということで付加価値を つければ倍の値段でサ ンタクルスなどの都市部 で売れるだろうと力説 していたが,当面 は輸送 手段がないため難 しいのが現状だ.部落の人々 は大体一人4,5群を所有 していた.また,すべ ての者 は農業を営んでお り,半 自給的な生活を していた. 筆者 らは,最初の一週間は部落の小 さな小学 校の教室に寝泊 りしなが ら,今回の目的につい て一連のプロセスを説明 し,参加者全員が移虫 作業を体験 し,実際に王椀を群 に預 けるところ まで行 ってか らは,部落民 と次回の講習会の 日 取 りを決めて,時々この部落へポルタチュエロ か ら通 っていた. この年 は天候不順が続 き,小 雨がば らつ くような天候で行わざる得なか った ことと,筆者の技術不足 も合わせ王椀の受 け付 けが悪 く,思 うような結果をこの講習会で示す に至 らなか った.時間 も限 られた中で行 ったも ので,実際に彼 らが自分たちで女王蜂の養成を 行 うとこまで見届けられな く,その後 自分たち でその技術を役立て られているか気がか りだ. しか し, この電気 も水道 もない部落でほんの 一時期過 ごした経験 は,新鮮で思い出深い. と くに, ランタンの灯か りの もとで部落の人が毎 晩 ご馳走 して くれた ジャガイモとカモ ミールの お茶の味が忘れ られない.活動を振 り返 って
カウンターパー トをは じめ養蜂従事者 は,塞 本的な養蜂技術 は十分に持ち合わせ筆者の方が 教え られることの方が多か った.また,都市部 には養蜂 に関す る本 もそれな りに出回 ってお り,情報に関 してそれほど遅れをとっていると 図10 ベジ十ビスタ部落 ここで通算1か月にわ たって短期集中講習を行った112 いうことも感 じなか った.筆者が卒論の補佐を した大学生の彼などは,イ ンターネッ トを通 じ て多 くの情報を収集 してお り,筆者が知 らなか った有益 な情報を多 く提供 して くれた.なかで ち,移虫作業の際に移虫針 を用 いるよりは極細 の筆を用いた方がはるかに楽なや り方であるこ とを現地 に来て初めて知 った. 最近彼か らェアメールが届 き,非常 に良い評 価で学位を修得 したという報告を受 け取 った. 彼が彼の望みであるボ リビアで初めて専業養蜂 家 になれることを祈 るばか りである. 蜜源植物図鑑 は主要蜜源植物 とい うことで 50種 に限定 して任期終了 ま じかに完成 にこぎ つ けた.当初印刷 してかな りの部数を発行する 予定であったが,筆者の不手際で印刷代が 日本 並 にするということを知 らず,結局カラーコピ ーで5部刷 って,養蜂の講座を設 けていたい く つかの教育機関に配布するに留 まった.今後 カ ウンターパー トが初志の熱意を持続 して,資料 を増補 し,将来 さらなる改訂版の作成を期待す る. そもそも養蜂業を営んだ経験 もない筆者が, 現地で実際に養蜂業に従事 している人々に養蜂 技術を指導す ること自体お こがま しいのだが, カウンターパー トを始めとして多 くの関係者 に 暖か く見守 られたおかげで, なんとか無事 に2 年間の任期を過 ごすことができた. 最後 に,養蜂 の実務経験 に乏 しか った筆者 に,女王蜂の人工養成など実際に実地を伴 って 教 えていただいた野々垣養蜂園の園主,野々垣 禎道民,またボ リビアでの活動を陰なが ら支え て下 さった玉川大学の吉田忠晴教授 にこの場で 感謝の気持ちをお伝え したい. (〒184-0002 小金井市梶野町 ト8-14)
YuKIAsADA.Beekeeping il一 Bolivia from a reportofvolunteeractivity HoneybeeScie77Ce (1999)20(3):107-112.1-8-14,Koganei-shi,Kaji no-chou,Tokyo,184-0002Japan.
AsamemberofJapan Ovel-SeasCooperative Volunteers(JICA-JOCV), the author spent 2 yearsinBoliviatoteachbeekeepingandrelated techniques ln technicalschoolforagriculture.
Thisal-ticlelSbasedonhisownfirsthandexpe -riencesinBoliviaandvolunteeractivitylnthe field ofbeekeeping and notonly glVeSgelleral information OfBolivia and beckeeping ln this country,butalsoshowstheImportanceOfthe lelationsllips between hュm and localcounter -parts,students,and ruralpeople.