1 今年も臨床心理学部研究報告を無事刊行する ことができました。論文 2 本と資料 3 本、それ ぞれ本学部の教員の個性を十二分に生かしたも のとなっている。 昨年は国会で公認心理師法案が通過したが、 このことは私たち臨床心理学の専門性を職業に 生かしていこうとする動きをずっと続けてきた ものにとっては、非常に多くのことを考えさせ られ、また、次に向かって態勢をしっかりと整 えていこうという気持ちを新たにさせられる大 きな出来事である。この法案が実際に軌道に 乗って動き始めるのはまだ少し先のことであろ うが、来年度中にはおおよその教育訓練の方針 が固まるであろうし、私たちの大学でもそれに 対応すべく、動きが活発になってくるに違いな い。 大学院でこれまで提供してきた民間の資格で はあるが、この業界では最も充実した教育訓練 プログラムを提供してきた臨床心理士のシステ ムもこれまで通り維持しつつ、同時に、新たに 生まれる学部を中心として大学院につながる公 認心理師プログラムの学部・大学院のスムーズ なつながりを検討していくことなど、なかなか 考えるべきことも多い。 そういう時代であるからこそ、できあがっ てくる資格を基準にこの専門性を規定するので はなく、本来臨床心理学、あるいは心理臨床学 とよんで私たちが展開しようとしてきた学問の 輪郭を、私たち自身が振り返り、形づくってい くことが強く求められるのである。自由にこの 領域にかかわる様々な課題を検討し、未来に向 かって意味のある視点を提供できるようなゆと りをもって臨床心理学を育んでいかなければな らない。 その中でも、私たちがこの領域の諸問題を 学として研究していくために必要な大前提とし て、私たちが学の対象として扱っている出来事 のどこに普遍性を見出していくかということが 大きな問題としてある。臨床心理学もその一部 である心理学全体は、学会の研究発表領域の広 がりをみてもきわめて多様であり、純粋に理系、 工学系の研究から、文学、哲学系の研究までさ まざまである。研究の方法論は、その意味で心 理学研究として一本化できるような状況ではな い。認知科学や脳科学という呼び名と重なる研 究領域から、医療、教育、福祉領域などでの個々 の困りごとを抱えた人への心理的支援が、とて も同じ事実認識の枠組みで研究できるとは思え ない。エヴィデンスをもととした研究が重視さ れる中、私たちにとってのエヴィデンスとは何 かをしっかりと考え、臨床心理学や心理臨床学 の基盤をそこに携わるもので共有していかねば ならないのである。 そういった点で、本学部研究報告がこの臨床 心理学の学としてのまとまりに新しい風を吹き 込むものとなることを願うのである。
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