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シリコン微小導波路とそのデバイス応用

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Academic year: 2021

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Silicon Micron/Nano-Size Optical Waveguides and Their Device Applications

Toshihiko BABA

In these years, extensive studies have been carried out in silicon photonics based on micro/nano waveguides. This article focuses on two waveguides, Si photonic wire waveguides suitable for simple optical wiring, and Si photonic crystal waveguides suitable for optical signal processing. Owing to the improvement of fabrication process,the propagation loss of these waveguides,which is dominated by light scattering at high-index contrast boundaries,has been reduced to of dB/cm order. The photonic wire waveguide allows low loss micro-components such as bends, branches and intersections, and so H-tree optical signal distribution circuits, Mach-Zehnder interfer-ometers, directional couplers, arrayed waveguide gratings and ring resonators were markedly miniaturized. The photonic crystal waveguide is used for generating slow light. In particular, wideband dispersion-free slow light is realized by optimizing the structure and corresponding photonic bands.Such slow light will be applicable for optical buffering and nonlinearity enhance-ment.

Key words: silicon photonics, photonic wire waveguide, high index contrast, photonic crystal, slow light シリコン(Si)は,低発光効率をはじめ,光学機能の点 で他の材料よりも劣る点が多い.しかし,高品質かつ大面 積な単結晶ウェハーが市販される無害かつ豊富な材料であ り,VLSI の発展を支える極限的に高度化された加工プロ セスがある.そこでこの利点を生かして欠点を克服し,さ まざまな光デバイスの統合,大規模かつ高密度な集積化, 低コスト化,高度な光電子集積,VLSI チップ内光インタ ーコネクションなどを目指す研究が急速に拡大している. Siフォトニクスとよばれるこの 野において最近の進展 が著しいのは,微小な光導波路とそれを利用したパッシブ デバイス,およびスローライト,変調器,波長変換器とい った光制御デバイスである.本稿では,これまで筆者がお もに研究してきた細線導波路とフォトニック結晶導波路の 基礎特性,微小な光コンポーネントとパッシブデバイス, スローライトデバイスについて開発の現状をまとめる. 1. Siフォトニクスにおける光導波路 CMOS プロセスとの整合を目指す Si光導波路の歴 は 古く,発端は 1 8 年代にさかのぼる.ただし研究が本格 化したのは,光導波路に適した silicon-on-insulator(SOI) 基板が開発された 1 9 年代である.図 1におもな導波 路 構 造 を 示 す.SOI 基 板 は Siウ ェ ハ ー の 上 に シ リ カ (SiO )層と Si層を有し,Si層がコア層として用いられ る.この導波路は Siの基礎吸収がなくなる 1.1μm より 長い波長帯で用いられるが,SiO と Siは屈折率差が大き いので,単一モード伝搬を得るために 2つの方法がとられ る.1つ目は,数 μm と厚い Si層に対して SiO 層を 0.5 μm 以下と薄くし,SiO 層への電磁界のしみ出しが大き い高次モードを Si基板へ意図的に放射させることによっ て,実効的な単一モード伝搬を得る方法である.ここで は,Si層に段差加工を施した (a) のようなリブ型導波路 によって,横方向にも光が閉じ込められる .また,リブ 37巻 1号(2 08) 7 7( )

シリコンフォトニクス

ab

シリコン微小導波路とそのデバイス応用

馬 場 俊 彦

横浜国立大学工学研究院(〒2 0-8 0 横浜市保土ケ谷区常盤台 7 -5) E-mail:b 東 a@ynu.ac.jp 科学技術振興機構 CREST(〒1 2-0 7 京都千代田区三番町5)

解 説

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の上にポリ Si層と電極を形成し,リブ周辺のキャリヤー 空乏領域を外部制御できるようにした CMOS 導波路も作 られ,キャリヤープラズマ効果を原理とした光変調器へ応 用されている .ただし,これらの導波路は光閉じ込めが 弱いので,基本特性はシリカ導波路などと似ており,後述 する急激な曲げや微小な光コンポーネントを構成すること はできない.2つ目は,より直接的に単一モード伝搬を得 るために,Si層を厚さ 0.5μm 以下と薄くする方法であ る.この Si層をサブ μm 幅の矩形コアに加工して細線導 波路 とするか,コアの左右に多次元周期構造から成る ブラッグ反射鏡を配置したフォトニック結晶導波路 と することで,横方向の強い光閉じ込めが得られる.多くの 研究では,電子ビームリソグラフィーと反応性イオンエッ チングを用いてこのような導波路が作製されているが,最 新のステッパー技術に導入されている光学露光でも実現で きると えられ,事実,最近の Siフォトニクスデバイス の開発では,そのような事例も出てきている . 細線導波路やフォトニック結晶導波路には,以下のよう な特徴がある.まず,シリカファイバーやシリカ導波路に 比べてコアサイズが極端に小さく,それに応じて伝搬モー ドのサイズも小さい.シリカファイバーやシリカ導波路の 伝搬モードは直径 7∼1 μm の円形であるのに対して,こ れらの導波路では幅も高さも 0.5μm 以下である.導波路 が小さいと単純に光配線の面積が抑えられる.また,次章 で述べるような微小な光コンポーネントが得られるので, 大規模で高密度な光配線が可能となる.さらに,小さな導 波路に大きな導波路と同じ光パワーを導入すれば,光強度 のピーク値が高められる.例えば,細線導波路ではシリカ 導波路の場合の約 1 0 倍になる.これを利用すれば,自 己位相変調,四光波混合といった非線形効果を増強するこ とができる .一方,伝搬損失,ならびにファイバーとの 接続損失には注意が必要である.伝搬損失のおもな原因は 導波路界面の不完全性に起因した散乱損失であるが,こ れはコアとクラッドの比屈折率差 Δ(≡(n −n )/ 2n )のおよそ 2.5乗に比例することが知られている . 摂動法によって計算された単一モード導波路の散乱損失の Δ依存性を図 2に示す.シリカ導波路のように Δが 1% 程度と小さいと,界面の粗さ振幅が数十 nm と大きくて も,損失は 0.1dB/cm 以下に収まる.一方,空気クラッ ドをもつ細線導波路では,1dB/cm 以下の損失を得るた めに粗さを 1nm 程度に抑える必要がある .0.1dB/cm 以下を得るためには原子層オーダーの完璧な平滑性が必要 となるが,その実現は容易ではない.一方,接続に関して も,導波路を単にファイバーに直結させたのでは,モード サイズが違いすぎるのでほとんど光が結合しない.基礎実 験ではレンズや先球ファイバーを用いて光を結合させるこ とが多いが,それでも損失は接続箇所あたり 1 dB 前後 と大きい.ただし近年,細線導波路については後述するよ うなスポットサイズ変換器やグレーティング結合器が開発 され,この問題が解消されてきた. フォトニック結晶導波路は細線導波路などの屈折率型導 波路とは異なる原理で光を伝搬させるので,もう少し詳し く説明しておく.フォトニック結晶は一般に光の波長程度 の多次元周期構造のことを指すが,近年,特に盛んに研究 されているのは,SOI 基板の Si層に円孔を最密配列させ たフォトニック結晶スラブである .円孔直径と周期を 適切に設計すると,特定の波長帯で光の面内方向の伝搬を 禁止するフォトニックバンドギャップが形成される.この ような構造から円孔 1列 を取り除くと,光がその領域を 伝搬する.このような導波路を 野内では線欠陥導波路と ,( 図 1 Si微小導波路の構造.(a)リブ型導波路,(b)MOS 型 導波路,(c)細線導波路 d)フォトニック結晶導波路. 図 2 界面粗さをもつ光導波路の散乱損失の比屈折率差依存性.

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よんでいるが,簡単にフォトニック結晶導波路とよぶこと も多い.図 3は,作製された導波路とその 散特性(フォ トニックバンド)である. 散特性の左上の領域はライト コーンとよばれ,光が上下に放射する条件を表している. 全反射によって光を面内に閉じ込めるためには,これより 下の領域を利用する必要がある.ライトコーンより下にあ る 散曲線は,光通信波長帯の主要な波長帯域(1 3 ∼ 1 6 nm,しばしば C バンドとよばれる)をカバーする伝 搬帯域をもち,理想的には無損失である.しかし,実際に は細線導波路と同様に,不完全な界面で散乱損失が生じ る.当初,フォトニック結晶導波路にも微小な曲げや高密 度な光配線が期待されたが,これらが細線導波路によって 容易に実現されるようになった現在では,フォトニック結 晶導波路を機能デバイスの一部として利用する研究が増え てきた.すなわち,微小共振器などのフォトニック結晶デ バイスのアクセスに用いられるほか,後述するスローライ ト生成にも有効である.この導波路の伝搬モードは単にサ イズが小さいだけでなく,やや複雑な 布をもつので,フ ァイバーと直接接続しても高効率が得られない.そこで中 間に細線導波路を挿入し,細線導波路との接続を最適化す ることでファイバーと接続する方法がとられる.フォトニ ック結晶の端部での円孔の切れ目の最適化や,接続部の構 造の微調整によって,細線導波路との接続損失を 0.5dB 以下に抑えることができる . 2. 微小導波路コンポーネントとデバイス 細線導波路はきわめて大きな Δにより光を強く閉じ込 めるので,シリカ導波路に比べて極端に小さな導波路コン ポーネントが実現できる.大きな Δが強い散乱を生むの で,研究当初はこのような微小コンポーネントの低損失化 は難しいと想像されていたが,今日,設計と加工を適切に 行えば,比較的容易に低損失が得られることもわかってき た.図 4にその構造をまとめる. シリカ導波路では mm から cm オーダーのゆっくりと した曲げが必要であり,これが多くの光デバイスを細長く する要因となっている.一方,細線導波路では,図 4(b) に示すように曲げ半径 r=1μm 程度の微小曲げが許され る .実際には,導波路側壁のわずかな凹凸や傾斜によ って,特に TM モード(主要偏波が基板法線面内にある) の曲げ損失が大きくなる.そのため,曲げ半径を 3μm 以 上と控えめに設定することが多いが,それでも十 に小さ い.このような微小曲げは,光配線を短くし,レイアウト の自由度を高め,全体の面積を小さく抑えるのに有効であ る.一方, 岐や 差を微小化,低損失化するには,細部 の設計を工夫する必要がある .図 4(c)は 岐部で入射 導波路を急激に広げ,2本の曲げ導波路に接続している. こうすると入射導波路の光の波面が素直に曲げ導波路に向 かうため, 岐に伴う過剰損失が 0.3dB 以下に抑えられ る.また,単純な 差では光が急激に広がるため,1.4 dB の損失が発生し, 差導波路へのクロストークも−1 dB 以上と大きくなる.図 4(d)のように 差部でいった ん光を広げて直進性を高めると,損失を 0.4dB,クロス トークを−3 dB 以下にまで下げることができる.光を広 げる際に高次モード成 が発生すると,再び光を細線導波 路に戻す際に放射損失となる.理論的に高次モードを励振 しない構造として,放物線形状のテーパーが適しているこ とが知られている. 以上のコンポーネントを組み合わせると,さまざまな微 小パッシブデバイスを構成することができる.例えば, 図 4(e)は 岐を従属接続させた H ツリー型光信号 配 図 3 Siフォトニック結晶導波路.(a) SOI基板上に作製されたエアブリッジ線欠陥型 導波路の電子顕微鏡写真,(b)導波モードの 散特性を表すフォトニックバンド. 37巻 1号(2 08) 9 9( )

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回路である .このような回路は,VLSI のチップ内光イ ンターコネクション,特にクロック信号 配に用いること が想定されている.ここでは微小な 岐により,3 μm 角の面積に 8つの出力ポートが配置され,信号 配が実証 されている.実際のチップ内光インターコネクションで は,クロック遅 が問題となる mm 以上離れたポートへ の信号 配がおもな目標になる.図 4(f)は 2つの 岐を 組み合わせたマッハ・ツェンダー干渉計である .各導波 路のレイアウトや長さの自由度が高いので,一方の導波路 をループ状にして極端に長くし,狭い面積内に干渉次数の 高いデバイスを納めることができる. 岐と合流の過剰損 失が小さいので,2 dB 以上の消光比も容易に得られる. 岐部を変形させて 2入力,2出力とし,波長によって出 力導波路を切り替えることもできる.図 4(g)の方向性結 合器は,一般に導波路間隔の制御が課題となる.ただし, 細線導波路ではクラッドへの光のしみ出しがコア幅と同程 度の深さに及ぶので,シリカ導波路の方向性結合器とほと んど相似形のデバイス断面になる.つまり,導波路間隔は 狭いが,Si層が薄い ,加工はわずかでよく,高精度の 作製はそれほど難しくない.実際に,2 dB 以上の消光比 が得られている . 光ファイバーとの接続に関しては,図 4(h)のスポット サイズ変換器 と図 4(i)のグレーティングカップラー が開発されている.スポットサイズ変換器では,Si細線 をテーパー状に細くし,それと重なるようにコアサイズの 大きな低 Δ導波路が接続されている.光は断熱的に低 Δ 導波路に移行し,スポットサイズが拡大する.この導波路 の端面を光ファイバーに直結することで,接続箇所あたり 0.4dB という低損失が得られている.グレーティングカ ップラーは面外方向からの光を面内方向に結合させるの 図 4 さまざまな Si細線導波路コンポーネント.(a)直線,(b)曲げ,(c) 岐,(d) 差,(e) H ツリー型光信号 配回路,(f) マッハ・ツェンダー干渉計,(g) 方向性結合 器,(h)スポットサイズ変換器,(i)グレーティングカップラー.各曲げ導波路の典型的 な曲率半径 r は 2∼5μm.

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で,導波路端面を形成する必要がなく,ウェハーのままで も多数の光ファイバーを接続することができる.グレーテ ィングをブレーズ形状に加工し,入射光をわずかに斜めに 入射させることで,比較的広帯域の光を 1dB 以下の低損 失で一方向に進む導波路伝搬光に変換することができる. 3. 微小導波路合 波器 図 5は,細線導波路とスラブ導波路を組み合わせて作ら れたアレイ導波路回折格子(AWG)型波長 波器であ る .一般に AWG は,長さの異なるアレイ導波路によ って入射光の波面を曲げ,その波長依存性によって 波を 行う.アレイ導波路は曲げ導波路で構成され,最内周の導 波路の曲げ半径がデバイス全体の設計自由度を制限し,サ イズを大きくする.細線導波路の急激な曲げを利用すれ ば,この制約から解放され,また導波路自体が小さいこと から,デバイス全体を大幅に小型化することができる.図 5の例は波長チャネル間隔 1 nm をねらって作製されたも ので,入出射導波路を除くデバイス面積は 7 μm 角以下 と小さい.入出射導波路やアレイ導波路とスラブ導波路の 接続部に適切なテーパーを挿入すると,不要な散乱や回折 が抑制される.また,スラブ導波路は側面をもたない開放 型とし,不要な反射や内部共振が抑えられている.これに より,ファイバーとの接続を除くデバイスの損失は 1.5 dB 以下,サイドローブレベルは−2 dB 以下に抑えられ ている.よりチャネル間隔が狭いデバイスは,アレイ導波 路の本数と長さ,およびスラブ導波路の長さを増やすこと で実現できる.これは当然,サイズの拡大につながるが, レイアウトのみから えると,チャネル間隔を 0.4nm (C バンド帯では周波数で 5 GHz)まで狭くしても,サ イズは 1mm 角に収まる.ただしこの場合,アレイ導波 路の 一性には細心の注意を払う必要がある.理想的に は,アレイ導波路において波面が滑らかに傾けられること により,出射導波路端でサイドローブの小さなガウシアン ビームが集光される.しかし,細線導波路のような高 Δ 導波路では,導波路幅のわずかなゆらぎが大きな位相ゆら ぎを生み,最終的に大きなサイドローブレベルとなる.チ ャネル間隔 1nm のデバイスが試作されているが,サイド ローブは−5dB と大きい.そこで,アレイ導波路部 に のみリブ型導波路を採用し,Δを下げることで位相ゆらぎ を抑え,サイドローブを−2 dB 以下に低減した報告があ る.ただしこの場合,急激な曲げを用いることができない ため,結局,デバイスサイズが大きくなるという問題を残 している. AWG は単体では 波か合波の機能しかもたないため, 所望の波長を加えたり引き抜いたり(アド,ドロップ)す るには,2つの AWG とマトリックススイッチを組み合わ せる必要がある.より簡単にアド/ドロップを行う合 波 器として,共振型フィルターが研究されている.その代表 例が,リング共振器である .入射導波路を伝搬してきた 光は,共振波長のみがリングに結合して出射導波路にドロ ップされ,残りの波長は入射導波路を通過する.外部制御 によって共振波長を変化させれば別の波長をドロップする こともできるし,導波路とリングをさらに追加すればアド も可能である.ただし,一般にこのような共振器単体は, ピークが急峻で裾広がりが大きいローレンツ型の透過スペ クトルを示す.このままでは合 波器として いづらいの で,複数のリングを結合させて,透過域が平坦で阻止域と の境界が急峻な箱形スペクトルを合成する方法がとられ る.同様のデバイスは,フォトニック結晶微小共振器でも 可能である .ここでは,フォトニック結晶導波路の近 傍に孔を取り除いた部 を作る.これは点欠陥共振器とよ ばれ,リング共振器と同様に導波路を伝搬する共振周波数 の光をドロップさせることができる.リングと比べると, 共振器をきわめて小さくすることができるという利点があ るが,それには上下方向への放射損失を抑える精密な設計 が必要である.そこで,構造に対する共振モードを計算 し,それを空間的にフーリエ変換して上下方向への放射成 を見積もり,それを最小化するように構造にフィードバ ックをかける方法が用いられている.フォトニック結晶ス ラブの屈折率を n,共振波長を λとしたとき,0.2(λ/n) 以下の実効体積をもつ極限的に小さな共振器 や,(λ/n) の実効体積を維持しつつ Q 値が 1 0万を超える共振器 が実証されている.また,リング共振器では,入射光の方 向によって光の周回方向が一意に決まるため,出力導波路 の光の方向も 1方向である.これに対して,フォトニック 図 5 Si細線アレイ導波路回折格子.(a) SOI基盤上に作製され たデバイスの電子顕微鏡写真,(b) 透過スペクトルの一例.同じ 光路長をもつ Si細線導波路の透過強度を基準にしている. 37巻 1号(2 08) 11 11( )

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結晶共振器にはそのような方向性がないため,出力が入出 射導波路の 4方向に出てしまうという問題があり,これを 抑える構造的な工夫が必要になる. 4. スローライトデバイス スローライト(群速度が極端に小さい光)は,光信号を 光のままで蓄積するバッファー,光の空間圧縮に伴う高い ピーク強度を利用した非線形デバイス,わずかな外部制御 によって光の位相が大幅に変わることを利用した小型の光 変調器/スイッチなどへの応用が期待され,近年,盛んに 研究されている .スローライトにはいくつかの発生法が あるが,微小導波路を用いる方法は他の方法で必要となる 極低温のような特殊環境が不要で,デバイス自体が小型に なる点で有利である.特に SOI 基板を利用して作られる 微小導波路は,低損失が得られるので,スローライトの研 究が数多く行われている. 光の角周波数をω,波数(導波路の場合はモードの伝搬 定数)を k としたとき,群速度 v は (dk/dω) で与えら れる.微小導波路は一般に構造 散が大きいので,v が 大幅に変化する可能性がある.例えば,細線導波路は Δ が大きいので,シリカ導波路に比べてモードの等価屈折率 n の変化の幅が大きく,群速度の低下率を表す群屈折率 n (≡c/v =c dk/dω=n +ωdn /dω)が材料の屈折率を 超える 4∼5という値になる .このような効果は,フォ トニック結晶導波路でさらに巨大になる .図 3に示した ように,この導波路の伝搬モードはカットオフ周波数付近 で (dk/dω) がゼロに漸近し,スローライトを発生させ る.カットオフ周波数では,ブラッグ条件によって前進波 と後退波が結合して定在波を形成するので,光の進行が完 全に停止する.ただし,このようなスローライトは非常に 狭い周波数範囲でしか発生せず,しかも群速度 散によっ て光信号が著しく歪むため,そのままではデバイス応用す ることができない.そこで, 散を解消しつつ帯域を適度 に広げる構造的な工夫が行われる. 図 6(a)はそのようなデバイスの一例である .ここで は,2本のフォトニック結晶導波路から成る結合導波路を 形成し,2つの導波路の間の孔径を拡大している.こうす ると,偶対称モードの 散曲線にゼロ群速度(ゼロ傾斜) とゼロ 散条件(変曲点)が同時に現れる.さらにデバイ スのパラメーターを光の進行方向に って滑らかに変化さ せるチャープ構造を形成すると,ゼロ 散条件をはさむ正 負の群速度 散が全体の 散を相殺し,さらにゼロ群速度 帯域を拡大するため,群速度 散がない広帯域のスローラ イトが得られる.光の入射を工夫して偶対称モードを選択 的に励振することで,図 6(b)に示すように n =5 ∼6 が 1 nm の波長幅で得られており,0.6psパルス光を入 射させたときも,ほとんど広がりがない出射パルスが確認 されている.このデバイスは,デバイス内部では光パルス が広がっているので,スローライトの状態であっても非線 形効果を抑えることができる.一方,フォトニックバンド を直線的にし,傾斜を小さくすると,群速度 散がまった くない状態でスローライトが発生するので ,光パルスは むしろ圧縮され,強度のピーク値が高まる.この場合は非 線形効果が高まるため,波長変換やスイッチングなど,非 線形を積極的に利用する応用に適する.このようなバンド は,フォトニック結晶導波路の形状を微調整すると容易に 現れる.例えば,通常のフォトニック結晶導波路の脇の円 孔をやや小さくし,その他の円孔をやや大きくすると,伝 搬モードのバンドがフォトニック結晶クラッドのバンドと 相互作用を起こして変形し,最適条件では直線的になる. こちらも,実験において n ∼3 が 5nm の波長幅で観測 されており,上記と同様の短パルス伝搬も確認されてい る. 図 3(b)よりわかるように,スローライトを生むバンド は横長で平坦である.フォトニック結晶導波路全体の屈折 率を変化させると,このようなバンドが上下にシフトす 図 6 Siフォトニック結晶スローライトデバイス.(a)中央部のチャープ構造結合導波路によって 散補償と広 帯域化を実現したデバイスの電子顕微鏡写真.2r と 2r はそれぞれ 0.2 ∼0.2 μm,0.3 7μm である.(b)評 価された群屈折率スペクトル.

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る.このときある周波数に注目すると,屈折率変化の前後 で k が大幅に変化する.すなわち,導波路内で光の位相 が大きく変化することになるので,例えばマッハ・ツェン ダー干渉計の一方の導波路にこれを導入すれば,コンパク トな光変調器を構成することができる.これまでに Siフ ォトニクスの 野で実現されている光変調器は,CMOS 導波路から成るマッハ・ツェンダー干渉計 ,もしくは細 線導波路から成るリング共振器の共振波長シフト を利 用している.ここで,前者はキャリヤーの制御による材料 屈折率の変化が小さいため,デバイス長が 3∼4mm と長 い.後者は動作が共振波長に限定され,共振波長のまわり の大きな群速度 散の影響も懸念される.一方,上記の直 線的なバンドを示すスローライト導波路を利用すれば,マ ッハ・ツェンダー干渉計の大幅な小型化と群速度 散の抑 制に有効である. Si微小導波路,ならびにそれを用いた基本コンポーネ ントやパッシブデバイスは,最近の 5年あまりの研究で大 幅に小型化,性能向上が進み,かなり える目処が立って きた.したがって,次の目標は光変調器やスイッチをはじ めとする光制御デバイスの改善である.特にフォトニック 結晶のスローライトなどを活用したデバイスの小型化と, それに伴う高速化や低電力化が期待される. なお,本稿の筆者らの研究の一部は,文部科学省科学研 究費特定領域研究の支援を受けて行われた. 文 献

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(2007年 9 月 26日受理)

参照

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