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(1)

津波や洪水など橋梁の水害に対する安全性向上対策

このレポートは,JSPS 科学研究費 基盤研究(B)26289148「津波や洪水など橋梁の水害に対

する安全性向上対策に関する研究」の研究成果をまとめたものである.

研究期間:2014 年 4 月~2017 年 3 月

研究組織:

・研究代表者

伊津野 和行

立命館大学 理工学部 教授(地震工学)

・研究分担者

里深 好文

立命館大学 理工学部 教授(河川工学)

浅井 光輝

九州大学大学院 工学研究院 准教授(計算力学)

野阪 克義

立命館大学 理工学部 教授(鋼構造学)

竹田 周平

福井工業大学 工学部(地震工学)

野村 泰稔

立命館大学 理工学部 講師(応用情報学)

川崎 佑磨

立命館大学 理工学部 准教授(コンクリート構造学)

中尾 尚史

独立行政法人土木研究所 構造物メンテナンス研究センター(地震工学)

阿部 孝章

独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所(河川工学)

1.はじめに

橋の耐震設計に関して,日本は世界でも有数の技術先進国となり,大地震が発生しても新しい

設計基準によって建設もしくは補強された橋が揺れによる大きな被害を受けることは,以前に比

べると少なくなってきた.一方,2011 年東日本大震災における津波による多数の橋梁流出,毎年

のように発生する洪水や土石流による落橋など,近年,橋が水の作用により流出する事態が続い

ている.2011 年以降だけでも,2011 年台風 12 号,2012 年九州北部豪雨,2013 年山口島根豪雨,

2013 年台風 18 号で落橋や流出が発生した.2016 年も 8 月末の台風 10 号による大雨で洪水や土石

流が多発し,北海道や岩手県で多数の橋梁が流出したり落下したりした.しかも,通行しようと

した車が川に転落して死者が発生する深刻な事態になり,マスコミでも大きく報道された.橋台

裏込め土の流出による落橋,基部の洗掘による橋脚の倒壊,土砂や流木による橋の埋没などが報

告されている.9 月には台風 16 号で洪水が発生し,鹿児島県の国道橋が流出した.このような被

害は気候変動による豪雨の増加とともに,ほぼ毎年のように発生する状況になっている.しかし,

構造工学分野における水害対策はさほど注目されてこなかった.当然のことではあるが,落橋は

貴重な社会資本の損失であるのみならず,災害後における救援や地域の復旧に多大な遅延をもた

らす.中小河川に架かる小規模橋梁であっても,何らかの対策を考えておくことは必須だと言え

る.

橋の設計にあたっては,地震時動水圧以外は常時の静水圧や流水圧しか考慮されていない.地

震時動水圧についても,下部構造の付加質量として考慮されるだけで,津波や洪水の作用とは状

況が異なる.津波の橋梁に対する作用に関しては,現在,多くの機関で実験や数値解析による検

討が進められているが,2012 年に改定された道路橋示方書では,適切な構造計画を検討するよう

書かれるにとどまっている.地域の防災計画などを参考にしながら,津波の高さに対して桁下空

(2)

間を確保すること,津波の影響を受けにくいような構造的工夫を施すこと,上部構造が流出して

も復旧しやすいように構造的な配慮をすることが記載されたが,具体的な規定とはなっていない.

洪水や土石流に対しては,構造的な検討がなされていないのが現状であり,桁上げや掘削によ

る桁下空間の確保,あるいはルート変更ぐらいしか今は考えられていない.橋梁側方への溢流に

よる二次被害など,津波とは異なる問題も存在する.年々,豪雨の頻度が増してきていることを

鑑みると,構造工学分野における対策検討は必須の状況だと考える.

津波や洪水では,水だけが流されてくるのではない.土砂や岩,流木や船,場所によっては氷

など,漂流物が流されてきて橋に衝突する.1952 年十勝沖地震では,流氷が津波で流されて来て

霧多布など浜中湾に面した町の構造物を破壊したという記録がある.燃えた家や車が流されてき

て,大規模な火災に発展することもある.奈良県の国道

168 号にかかる折立橋は,2011 年台風 12

号の際,流木がトラス部分に引っかかって流出した.これら漂流物に対する検討は,大規模橋梁

に対する津波による船舶の衝突が検討し始められたところである.むしろ中小河川における洪水

に伴う漂流物対策の方が遅れている.

また,自治体の資金不足も深刻であり,災害対策の必要性がわかっていても,すべての橋梁を

同時期に補強することができない.長寿命化計画や耐震補強計画など,各種の計画が都道府県ご

とに策定されているが,いずれも今後

50 年ほどを見据えた長期計画となっている.毎年のように

繰り返される落橋を防ぐ対策を早急に確立し,補強計画になるべく早く組み入れることは喫緊の

課題と言える.

2.対策の方針

(1)橋脚や橋台の被害防止

桁が流出するより,桁を支える橋脚や橋台が被害を受けて倒壊する方が,復旧に時間を要する.

そのため,橋脚や橋台に過大な力が作用しないような対策が必要になる.また,橋台背面裏込め

土が流出することによる桁落下を防ぐ必要がある.橋脚や橋台の,津波や洪水に対する設計を第

一に考えるべきである.

対策メニュー:橋脚や橋台基部の洗掘防止,正確な流体力評価,流木除けの設置による漂流物の

橋への作用軽減

(2)桁の流出防止

橋脚基部の耐力を越える力が作用するまでは,桁が流出しないようにすることが必要である.

そのために,桁に作用する流体力を軽減するとともに,橋軸直角方向に対する落橋防止構造の設

置が望まれる.さらに,漂流物による落橋を防ぐため,漂流物を橋桁に当てない工夫が必要であ

る.また,漂流物によって河川が堰き止められると,桁への作用力が増大するとともに,溢流の

危険性も増加する.

対策メニュー:フェアリングの設置による外力低減,落橋防止構造の設置による流出防止,流木

除けの設置による漂流物の橋への作用軽減

(3)危険の通知

万一,橋梁が危険な状態になった場合,避難時に通行して被害に巻き込まれることのないよう,

(3)

直ちに危険な状況を知らせる工夫が必要である.その橋梁が通れなくなったときの迂回路を示す

ことも重要になる.これら,ソフトウェア対策を事前に講じておくことで,人的被害を最少にす

ることができる.

対策メニュー:マルチエージェント・シミュレーションによる避難状況の事前検討,情報端末や

情報掲示板を用いた即時情報発信システムの構築

(4)水害後の維持管理

津波被害を受けた橋梁は大量の海水を浴びているため,塩害に対する警戒が必要である.河川

洪水の場合も,長期間水没することが考えられ,鉄筋や鋼板の錆には注意しなければならない.

また,基礎の洗掘に伴う安定性の検討も不可欠である.津波による流出や損傷がなくても,災害

後の長期にわたるモニタリングが望ましい.

対策メニュー:構造物のヘルスモニタリング

3.外力の仮定方法

近年,各機関で津波関連の実験が実施されてきたが,実橋梁を対象とした場合,数値解析の実

施が必須だと考えられる.橋梁に作用する力を数値解析で推定する場合,その精度が課題となる.

土木学会地震工学委員会の「橋梁の対津波設計に関する研究小委員会」で実施された対津波設計

のベンチマークテストでは,各種の手法によって同一実験結果の再現が試みられた.その結果,

抗力(水平力)に関しては,どの手法によっても設計に適用可能な精度を持って推定できていた.

一方,揚力(鉛直力)に関する精度は倍~半分であり,今後のさらなる改良が求められる.揚力

には,桁形状や桁端部の細かいモデル化が影響するため,実橋梁サイズの解析をする場合,どこ

まで精緻なモデルを用いるか,細心の注意が必要である.

4.対策メニューに関する研究成果

(1)津波作用力の数値解析による検討

津波時などの橋梁流失予測を行うには,まずは橋梁に作用する流体力の評価の精度が重要とな

る.本研究プロジェクトでは,研究分担者・浅井により粒子法を用いた数値解析について検討が

なされた.この成果概要については,5.1 節を参照されたい.

一方,研究代表者・伊津野は,オープンソース・ソフトウェアの

OpenFOAM を用いた解析を行

い,実験結果と比較を行った.この成果概要については,5.2 節を参照されたい.

(2)津波作用力の軽減

フェアリングを設置することにより,桁に作用する津波力を軽減することができる.しかし,

桁端部など施工上設置が難しい箇所があり,桁側面を

100%フェアリングで覆うことができない場

合も考えられる.研究代表者・伊津野は,部分的に設置されたフェアリングでも,ある程度効果

を発揮することができることを示した.詳細については,5.3 節を参照されたい.

また,横断勾配がある場合や,桁から独立したフェアリングの効果について,研究分担者・中

尾によって検討されている.この成果概要については,5.4 節を参照されたい.

(4)

(3)漂流物の影響

津波や洪水によって漂流物が流されてきた場合,流木除けによって桁への衝突を避ける工法が,

古くからの減災の知恵としていくつかの橋に設置されている.この効果について,研究分担者・

里深,竹田,野阪によって詳細な検討がなされた.それぞれの成果概要については,

5.5~5.7 節を

参照されたい.

寒冷地においては,冬期に河川が結氷するため,津波発生時には流木以外に氷が漂流してくる.

研究分担者・阿部により,氷板漂流物がもたらす流況や津波波力の変化について分析された.こ

の成果概要については,5.8 節を参照されたい.

(5)水害後の橋梁安全性

水害後は長期にわたって橋桁上部に水が滞留したり,海水が損傷した部分から鉄筋コンクリー

ト内部に侵入することも想定される.水害後における橋梁部材の鉄筋腐食に関する健全性評価が,

研究分担者・川崎によって実施された.この成果概要については,5.9 節を参照されたい.

また,橋脚基礎の洗掘については,橋脚の傾き等がなければ水害後の検証が難しい.これを振

動モニタリングによりチェックする方法について,研究分担者・野村によって検討がなされた.

この研究概要については,5.10 節を参照されたい.

5.それぞれの研究成果

5.1 流体力評価の精度検証と,流体・剛体連成問題の妥当性確認

浅井 光輝(九州大学大学院 工学研究院)

○概要

津波時などの橋梁流失予測を行うには,まずは橋梁に作用する流体力の評価の精度が重要とな

る.その精度検証を立命館大学の実験と比較することで実施した.また,流失挙動までを再現す

るために,流体剛体連成解析ツールを開発し,実験との比較により妥当性を確認した.

○成果

1) 流体力について,橋梁に作用する抗力・揚力とも,十分に実用的な範囲内で事前予測が可能と

判断した.

2) 流体力を受ける剛体移動の挙動までを適切に評価できることを確認した.

5.2 斜橋に対する津波流体力の評価

伊津野 和行(立命館大学 理工学部)

○概要

2011 年東日本大震災における橋梁の津波被害を受け,津波外力の推定やその軽減対策について,

各機関で活発な検討が進められている.しかしそのほとんどは直橋に関する研究であり,斜橋に

関する検討は遅れている.津波作用力を求める簡易照査式も,斜橋に関するものはない.そこで

本研究では,直橋と斜橋の模型実験と数値解析により,斜橋に作用する津波外力の特徴について

検討した.

(5)

○成果

1) 斜角 60 度の斜橋に作用する流下方向の水平力は,その方向への投影面積が同じ本実験では,

直橋と比較して同程度だった.しかし最大値をとる時間は波が作用する時間が場所によってず

れるため,直橋よりも遅くなった.

2) 揚力は斜橋の方が直橋より 1.3 倍大きくなったが,これは桁模型が振動した影響が大きいと考

えられる.背の高いゴム支承で支持された橋のように,波の作用によって動きやすい橋では,

桁の動きも考慮する必要がある.

3) 水路幅方向の水平力は,波が桁に角度を持って作用するため,斜橋の方が直橋より 2 倍ほど大

きい.本実験では片持ち梁形式で桁模型を支持しているため,直橋でも水路幅方向に水平力が

作用した.しかし,実際の直橋では無視できる力であり,斜橋の場合のみ考慮すればよいと考

えられる.

4) 数値解析では桁が動かないものとしてモデル化したため,実験で発生した作用力の変動が再現

できなかった.波の作用によって動きやすい橋では,構造物と流体との動的相互作用を考える

必要がある.

5) 数値解析では,桁の縁で剥離した波を精度よく表現しないと,実験における桁への作用力の再

現精度が低い.また,水で囲まれた部分の負圧が実験より大きくなりやすく,流下方向の水平

力を過大評価しやすい.

6) 斜角を変えた数値解析結果では,斜角が小さい斜橋ほど,流下方向の水平力が小さく,水路幅

方向の水平力が大きく,下向きの鉛直力が小さくなった.上向きの鉛直力にはあまり差が生じ

なかった.

○発表論文

伊津野和行・川崎佑磨・中津研人:斜橋に対する津波作用力に関する基礎的研究,構造工学論文

集,Vol. 63A,pp. 353-362,土木学会,2017.

5.3 部分的フェアリングの設置による津波流体力の軽減に関する研究

伊津野 和行(立命館大学 理工学部)

○概要

津波流体力を軽減するため,風対策として用いられているフェアリングの利用が考えられる.

しかし,抗力を低減させるためにフェアリングが有効だとわかっても,桁端部など施工上,全面

に設置することができない場合も想定される.そこで本研究では,部分的にフェアリングを設置

した場合の流体力軽減効果について,水理実験および数値解析によって検討した.

○成果

その結果,75%桁側面をフェアリングで覆うことができれば,100%覆わなくても図 1 のように

抗力(水平力)低減に効果があることがわかった.図

2 の揚力(鉛直力)についても,限られた

津波に対する検討ではあるが,部分的なフェアリングの効果があることがわかった.表

1 のよう

に,部分的フェアリングの設置による流体力低減効果が明らかになった.

(6)

1 抗力の比較

図 2 揚力の比較

1 フェアリングの効果

フェアリング

設置率

0%

75% 100%

抗⼒最⼤値(N)

2.3

1.7

1.4

軽減率

27%

39%

揚⼒最⼤値(N) 1.4

1.0

1.2

軽減率

24%

14%

揚⼒最⼩値(N) 1.9

1.4

1.0

軽減率

-

27%

48%

5.4 津波作用時の上部構造の挙動分析

中尾 尚史(独立行政法人土木研究所 構造物メンテナンス研究センター)

○概要

津波が作用した時の上部構造の挙動について,実験等により検討が行われている.しかし,多

くの研究は橋桁の横断勾配がない直線橋を対象としており,橋桁に横断勾配がある場合の影響に

ついて検討されている例は少ない.そこで本研究では,橋桁に横断勾配がついている橋桁模型を

作製し,横断勾配があることで上部構造の挙動にどのような影響を与えるのか,水路実験により

検討した(図-1,図-2).

また,津波外力を軽減させることを目的として,下部構造に取り付ける等,橋桁に直接取り付

けずに独立させたフェアリング(津波作用力を軽減させる装置)を提案した.この独立したフェア

リングを設置するに際し,津波外力軽減に有効な位置(高さや,上部構造とフェアリングの間隔)

についても検討した(図-4).

図-1 実験装置 (a) 勾配なし (b) 前部を 5mm 高くした場合 (c) 後部を 5mm 高くした場合 図-2 上部構造模型 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 2.0 3.0 4.0 抗⼒ (N ) 時間⒮ フェアリング0% フェアリング75% フェアリング100% ‐4.0 ‐3.0 ‐2.0 ‐1.0 0.0 1.0 2.0 2.0 3.0 4.0 揚⼒ (N ) 時間⒮ フェアリング0% フェアリング75% フェアリング100% 6000 上部構造模型 40 ゲート 貯水槽 2000 2500 1500 貯水高 ( 初期水深 ) 5 ( 桁下高 ) 5 5

(7)

○成果

・橋桁に横断勾配がある場合の上部構造の挙動

模型前部が

5mm 高くした場合,貯水高が 25cm までは,勾配がない場合に比べて床版張出部底

面に津波が作用しにくくなるため,鉛直方向の津波外力が小さくなることがわかった(図-3,写真

-1).逆に,貯水高が 25cm を超えると,勾配なしの場合に比べて,鉛直方向の津波外力が大きく

なることもわかった.模型後部を

5mm 高くした場合,貯水高 20cm を除き,鉛直方向の津波外力

は,勾配なしに比べてほぼ同じ,または小さくなる傾向になることがわかった.

図-3 鉛直方向の津波外力(最大値) 写真-1 津波作用直後の流れの様子

・上部構造から独立させたフェアリングを設置した場合の上部構造の挙動

本研究では,独立させたフェアリングに半円フェアリングと平板フェアリングを用いた.この

フェアリングを図-4 に示す位置に設置した場合における津波外力の軽減効果を図-1 の実験装置を

用いて検討した.その結果,図-5 に示すように,平板フェアリングを設置すると,半円フェアリ

ングを設置する場合に比べて,津波外力の軽減効果が大きいことがわかった.また,フェアリン

グを橋梁模型より低い位置(s-⑦~s-⑨,f-⑦~f-⑨),又は橋梁模型から離れた位置(s-③,s-⑥,s-⑨,

f-③,f-⑥,f-⑨)に設置すると,津波外力の軽減効果が高い傾向にあることもわかった.これは,写

真-2 に示すように,フェアリングの下面から剥離した流れが,津波作用側の主桁や床版張出部底

面に作用しないためであると考えられる.

(a) 半円フェアリングを設置した場合 (b) 平板フェアリングを設置した場合 図-4 独立させたフェアリングの設置位置とその名称 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 18 20 22 24 26 28 30 32 勾配なし 前部+5mm 後部+5mm 鉛直方向の 津波外力(最大値)( N ) 貯水高(cm) f-① f-② f-③ f-④ f-⑤ f-⑥ f-⑦ f-⑧ f-⑨ s-① s-② s-③ s-④ s-⑤ s-⑥ s-⑦ s-⑧ s-⑨ 10 20 30 10 10 20 30 10 20 30 10 10 20 30 10 20 30 10 20 30 10 10 d d

(8)

図-5 フェアリングを設置しない場合の津波外力(最大値)を 1 とした場合の津波外力(最大値)の割合 (a) フェアリングを設置しなかった場合の流況 (b) 半円フェアリングを設置した場合の流況 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 s-① s-② s-③ s-④ s-⑤ s-⑥ s-⑦ s-⑧ s-⑨ f-① f-② f-③ f-④ f-⑤ f-⑥ f-⑦ f-⑧ f-⑨

:水平方向の津波外力

:鉛直方向の津波外力

半円フェアリング 平板フェアリング フ ェ ア リ ン グ設置 時の 津波 外力( 最大 値) フ ェ ア リング なし の津 波外力 (最 大値) s-① s-② s-③ s-④ s-⑤ s-⑥ s-⑦ s-⑧ s-⑨

(9)

(c) 平板フェアリングを設置した場合の流況 写真-2 津波作用直後の流れの様子(フェアリングを設置しなかった場合の時刻に統一)

5.5 橋梁における流木の被害軽減対策に関する研究

里深 好文(立命館大学 理工学部)

○概要

近年,林業の衰退による山林の荒廃や地球温暖化の影響を受けた集中豪雨等による斜面崩壊に

伴って発生する土石流や洪水とともに流木が流出し,下流域の橋梁等で閉塞に伴って橋梁の損傷

や流出,橋梁周辺への洪水氾濫の原因となることが,近年の災害事例より報告されている.橋脚

における流木対策等として,古くから橋脚の上流部に設けられた木除杭(例えば,渡月橋:写真

1)が提案されている.木除杭は芥留杭とも称されており,流木の橋脚への衝突防止や橋脚で詰ま

りやすい流木や芥の巻付け防止を目的としている.ただし,木除杭に関する設計手法は確立して

おらず,橋梁毎にその杭の配置形式等が異なっている.そこで,まず,木除及び芥留杭の機能や

その配置設計に関して,基礎的な実験に基づいて提案した(図

1).さらに,下流への流木流出の

更なる低減のために,上流域の不透過型砂防ダムにおける流木制御の高度化を目的に,鋼材を効

果的に併用した対策に関して実験により提案した(図

3).

○成果

1) 木除杭は流木の橋脚への直接的な衝突防止だけでなく,杭を中心とした回転による流木の流向

制御に関する機能も期待できることが実験により新たに確認された(図

2).

2) 部分透過型砂防堰堤における流木捕捉高は,水深程度(約 1.0 倍から 1.2 倍程度)までである

ことが,新たにわかった(図

4).

f-① f-② f-③ f-④ f-⑤ f-⑥ f-⑦ f-⑧ f-⑨

(10)

写真

1:木除杭(京都嵐山 渡月橋)

1:木除杭実験水路概要

2:木除杭のメカニズム

図 3:部分透過型砂防堰堤の実験水路概要

4:部分透過型砂防堰堤の捕捉メカニズム

○研究成果

1) 原田紹臣・里深好文:橋梁における歴史的な流木対策に関する研究,歴史都市防災論文集,

10 巻,2016 年,pp.115-122.

2) 原田紹臣・高山翔揮・里深好文・水山高久・中谷加奈:不透過型砂防堰堤における鋼製部材

を用いた流木対策工の捕捉機能に関する基礎的な実験,土木学会論文集

B1(水工学),現在投

稿中.

5.6 橋梁に対する漂流物の影響評価(木除杭の効果)

竹田 周平(福井工業大学 工学部)

○概要

近年,洪水や津波により橋梁上部構造や橋脚が流出する被害が認められている.これに伴い,

洪水及び津波を外力として,橋梁の橋桁及び下部構造に作用する流体力を明らかにする研究が盛

んに行われた結果,徐々に解明されてきた.しかしながら,洪水や津波はいくつかの漂流物と共

Out driftwood : Vw Video camera Outflow: Water

P

θ2= 5deg. Inflow:qin θ1

(11)

に流れるため,条件によってはこれらが橋梁被害に影響するが,未だ漂流物が橋梁に与える影響

評価がなされていない.以上より,本研究では,いくつかの種類を想定した漂流物を様々な条件

で流下させ,構造物に与える影響を検討すると共に,木除杭を配置した場合の効果を明らかにす

る実験を行った.実験は,安定した流量が期待できる実水路を利用し,漂流物を木材(4 種類)を

流下させ,橋脚付近での振る舞いや通過率の比較を試みた.また,橋脚付近に木除杭を設置し,

この木除杭の効果を検証した.

○成果

実験の結果,木除杭を配置した場合は,木除杭がない場合に比較し,漂流物の通過率が高くな

る結果を得た.また,また漂流物の形状により,流速が同じでの流下率に差が認められること,

更には木除杭と橋脚の距離が離れるほど,通過率が向上する結果等を得た.

以上により,木除杭を設けることで,漂流物(今回は木材)が橋脚間をスムーズに流下し,閉

塞する可能性が低くなることが明らかとなった.

補足

具体的には,

5 径間の橋梁を想定し,丸二種類,角二種類の木材や瓦礫を想定した木材を流下さ

せ橋梁にどの程度閉塞するのかを明らかにした.実験では,いくつかの水位を対象に,

1 本ずつ流

下させた場合と

10 本同時に流下させた場合,また木除杭を設置し,この木除杭と橋梁との間隔を

変化して,どのような効果が期待できるのかを明らかにした.

5.7 渡月橋に設置された流木止めの効果に関する一考察

野阪 克義(立命館大学 理工学部)

○概要

京都の嵐山地区に架けられている渡月橋を例にとり,流木止めの効果について考察する.渡月

橋は流木止めが設置されているめずらしい橋の一つであり,2013 年に発生した台風 18 号では冠

水被害を受けたものの,橋の本体に大きな被害はなかった.橋が倒壊しなかった要因のひとつと

して流木止めの存在が考えられるがその効果は定かでは無い.

本研究の目的は,流木止めの存在による流況の変化を確認することである.流木止めあり・な

しの解析モデルを用いて解析を実施し,流線を比較することで流木止めが流況に与える影響につ

いて考察する.また,流木止めの配置を変えたモデルを作成し,解析結果を比較,流木止めの配

置場所の影響についても検討する.

○成果

・流木止めの効果が視覚的に表現できる

・流木止めの設置位置の検討項目について整理し,提案する

(12)

5.8 氷板漂流物を伴う冬期河川津波の橋梁に対する影響評価

阿部 孝章(独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所)

5.8.1 はじめに

北海道のような積雪寒冷地においては,

1 級河川のような大河川に

おいても,冬期間に河川で結氷が生じる.このような状態の河川に津

波遡上が発生した場合,津波によって結氷が破壊されて漂流物化する

ことが考えられる.実際に,2011 年東北地方太平洋沖地震津波発生

時には,北海道太平洋岸の河川で津波遡上が発生し,現地調査から,

大量の漂流物が河道内で発生したことが確認されている(写真-1).

このような漂流物に対し,河川構造物に及ぼす外力を把握することは,耐津波設計法の確立にあ

たり重要であると考えられる.しかしながら,漂流物を多量に発生させるような大規模津波は発

生事例も少なく,具体的な検討がほとんどなされていないのが現状である.

そこで本研究では,漂流物群を伴う津波を対象として,構造物に対する外力を数値的に評価す

るモデルの構築を目的とした.漂流物群を伴う河川津波に関する既報の水理実験と比較すること

により,モデルの妥当性を検証することとした.

5.8.2 手法

本稿では,河川構造物のような複雑形状を

有する境界条件のもと,流れと漂流物の挙動

を容易に追跡することが可能な粒子法に着目

し,Koshizuka ら

1)

が提唱した

MPS 法を標準

的な解析手法として採用することとした.支

配方程式は連続の式と

Navier-Stokes の運動方程式であり,完全 Lagrange 的に流体の挙動を追跡す

る.計算粒子の集合体として表現される漂流物については

Koshizuka らによる簡易剛体モデルを

用いた.また,

MPS 法の解における非物理的な圧力振動を抑制するため,Khayyer ら

2)

による安定

化スキームが適用された

CMPS-HS-HL 法を用いた.

検証用の津波漂流物に関する室内水理実験

3)

については,図-1 のような延長 15 m,幅 30 cm の

水路を用い,下流部

3 m 区間をダムブレーク造波用の貯水槽とし,中央部に高さ 2 cm,延長 4 cm

の橋桁模型を設置した.橋桁模型は

3 分力計に接続し,波力を直接計測できる構造とした.氷板

群を模擬するため,3 cm 四方,厚さ 5 mm の PP 板を橋桁模型の下流区間に密に並べた.波高を変

化させるため貯水位

H

0

17 cm, 25 cm の 2 通りとし,河道部初期水深 h

0

= 3 cm とした.流況を

確認するため,側方からビデオカメラによる撮影を行った.

実験水路を模擬するため,計算粒子径

d

0

= 1 cm で鉛直 2 次元の計算領域を作成し,流況及び橋

桁部に発生する波力の検討を行った.波力は以下の方法で算定することとした.橋桁部を速度は

持つが変位しない粒子で構成し,周囲の流況により発生すると見なし得る速度の時間変化率から

加速度を仮に求め,これに粒子の質量を掛けて時間的な力の変動を求めることとした.

写真-1 河道内の氷板漂流

物(2011 年 3 月 14 撮影)

-1 実験水路の概要図

(13)

5.8.3 結果

図-2 に示したの

は数値解析結果及び

比較用の実験時の流

況撮影結果である.

上段(a)が H

0

= 17 cm,

(b)が H

0

= 25 cm の場

合に対応する.(a)よ

り水面付近で輸送さ

れる氷板群の挙動,

橋 桁 下 部 を 潜 り 更 に

上 流 へ と 輸 送 さ れ る

挙 動 は 計 算 結 果 と 実

験結果で概ね類似している.(b)より,波高が更に大きい H

0

= 25 cm の場合においても,氷板群周

辺の流況は概ね妥当な結果となっているが,衝突直前(t = 2.5 s)で氷板配置が異なる点,そして氷

板群の遡上後,橋桁部に付着する氷板群は計算上得られていない.これらの再現のためには氷板

群及び橋桁との固体間相互作用をモデル上考慮することが必要と考えられる.

次に,図-3(左)に示

したのは,図-2 (a)の場

合に対応する,時系列

波力の計算結果と実験

結果との比較である.

計算結果は実験結果に

比較して短周期の振動

を伴っているが,波力

のピーク値や大まかな

変動傾向は概ね再現されている.但し

z 負方向の作用は再現できていない.一方,図-3(右)は図

-2 (b)の場合に対応する時系列波力のグラフで,x 方向波力についてはピーク波力やピーク発生時

刻を良好に再現できている.

z 方向波力については,波力作用時間帯の前半は再現性が低いもの

の,後半部は概ね再現できている.また,図-3 右上段において,ピーク波力作用後の継続波力は

計算結果の方が小さく推移している.これは,図-2 (b) (t = 3.8 s)に見られるように実験では氷板が

橋桁模型に付着し流れを阻害して波力を増大しているが,数値解析上はこれを表現できなかった

ためと考えられる.

本稿では,漂流物群を伴う河川遡上津波により,河川横断構造物に作用する外力を検討する数

値モデルの構築を行った.いくつかの課題は存在するものの,実験で得られた,漂流物群を伴う

津波の流況や時系列的な波力の変動傾向をある程度再現できることが分かった.今後は本モデル

を用いた実構造物の被災予測などに活用していきたい.

1) Koshizuka, S., Nobe, A., Oka, Y.: Numerical analysis of breaking waves using the moving particle

semi-図-2 漂流物群を伴う津波が構造物に接近する様子の計算結果と実験結果の比

較((a) H0 = 17 cm, (b) H0 = 25 cm)

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 0 2 4 6 8 10 Fx (計算) Fx (実験) x 方向波 力 [N ] H0= 17 cm -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 0 2 4 6 8 10 Fz (計算) Fz (実験) z方向波力 [N ] 時間 [s] H0= 17 cm 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 0 2 4 6 8 10 Fx (計算) Fx (実験) x 方向波力 [N] H0= 25 cm -5.0 -2.5 0.0 2.5 5.0 0 2 4 6 8 10 Fz (計算) Fz (実験) z方向波力 [N ] 時間 [s] H0= 25 cm

図-3

H

0

= 17 cm(左),H

0

= 25 cm(右)の場合の波力 F

x

, F

z

の時系列変化

(14)

implicit method, International Journal for Numerical Methods in Fluids, Vol.26, pp.751-769, 1998.

2) Khayyer, A. & Gotoh, H.: Enhancement of stability and accuracy of the moving particle semi-implicit

method, Journal of Computational Physics, Vol.230(8), pp.3093-3118, 2011.

3) 佐藤好茂, 阿部孝章, 吉川泰弘, 伊藤丹, 氷板混合津波が橋桁に及ぼす波力特性に関する実験

的研究, 土木学会論文集 B2(海岸工学), Vol.70(2), pp.I_851-I_855, 2014.

5.9 水害後の橋梁部材の鉄筋腐食に対する健全性の評価に関する研究

川崎 佑磨(立命館大学 理工学部)

○概要

橋梁が津波や洪水などの水害を受けると,橋桁上部や橋脚全体などに河川水あるいは海水が接

触し,橋桁上部などには滞留する可能性もある.通常の設計あるいは維持管理において,橋桁上

部など橋梁全体系に水や海水が接触・滞留する可能性は考えていない.特に水害では,津波や洪

水時の揚力や抗力などの影響により橋梁自体が損傷することもあり,損傷した箇所に水や海水が

浸入すると,鉄筋腐食を加速的に誘発し,橋梁の劣化を早める可能性も考えられる.そこで,非

破壊試験法の一つであるアコースティック・エミッション(AE)法を利用して,水害後の橋梁部

材の鉄筋腐食に対する健全性評価を行う.

○成果

AE 法は,固体材料の表面に AE センサを設置して,固体材料内部で発生する弾性波を検出して,

その波形を評価する.固体材料内部で弾性波が発生する要因の一つとして,鉄筋腐食生成物の成

長過程や膨張圧によるコンクリートのひび割れも考えられる.したがって,部材全体が鉄筋腐食

をする場合,鉄筋腐食生成物の膨張に伴い弾性波が発生するため,

AE センサで検出できることが

予想される.特に,

AE モニタリングを行い経時的な挙動を確認することで,非常に微小な鉄筋腐

食の進展過程を評価できる可能性も考えられる.

例えば,現在利用されている非破壊検査手法としては目視が挙げられるが,部材表面に錆汁な

どが顕在化しなければ判断ができない.コンクリート部材に限れば,錆汁が表面に顕在化するの

は,鉄筋腐食が加速的に進展している段階である.そこで,電気化学的手法である自然電位法が

広く適用されているが,かぶりコンクリートをはつらなければならないため,

「非破壊」ではなく

「微破壊」となる(場合によっては,多くの面積をはつる必要もある).図-1 に自然電位法による

測定結果の一例を示す.

「表面」はコンクリート表面に電極を設けた場合,「内部」は主鉄筋に電

極センサを設けた場合である.図中の-350mV に追記している点線は,「90%以上の確率で腐食あ

り」を示す.この結果より,自然電位測定では実験開始から

8 週目で腐食の可能性が示唆されて

いる.図-2 は同じ実験供試体に AE センサを 1 個設置した場合の結果を示す.AE モニタリングの

結果によれば,1 週目からコンクリート供試体内部から発生している弾性波を検出している.そ

の傾き(AE 現象の増加傾向)は,4 週目から大きくなっており,鉄筋腐食により発生する弾性波

を検出している可能性がある.

このように,AE モニタリングを行うことで,早期に鉄筋腐食評価が可能である.現時点では,

100mm 四方の供試体に 1 個のセンサを設置しているが,現地計測においては,1m 以上距離を話

してモニタリングすることも可能である.しかし,センサ間距離および評価方法の妥当性につい

(15)

ては現地計測も踏まえて今後の課題となる.

図-1 自然電位測定値の一例

図-2 AE 計測結果の一例

5.10 データ同化に基づく洗掘を受ける橋脚基礎の地盤剛性同定に関する基礎的研究

野村 泰稔(立命館大学 理工学部)

1 緒言

河川の流れを受ける橋脚において,洗掘が⽣じる事が知られている.鉄道橋において,河川の増

⽔時には,洗掘の発⽣や⽔位の上昇による危険性から,⽔位に応じた列⾞の徐⾏・運休といった

運転規制が⼀般的に取られている.しかし増⽔時に,橋梁下部⼯の⼤部分は⽔中に没しているた

め,その基礎の状態を把握することは極めて困難であり,橋脚の安全性の確認による運転規制解

除の判断は難しいとされている.現状,橋脚の安全性の判断は,⽬視による線路の異常の有無の

確認などによりなされているが,これらの基準は橋脚の物理的な安定性を⽰すものではない.

河川中の橋脚の安定性は,橋脚の洗掘深さと橋脚への作⽤外⼒の⼤きさに関係があると考えら

れている.本研究では、河川の流れを受ける橋脚の安定性を評価する上で,重要なパラメータで

ある地盤の剛性を流⽔⼒(⼊⼒)とそれによる橋脚の振動(出⼒)データから同定することを⽬的と

する.既往研究で⾮線形カルマンフィルタを⽤いたデータ同化⼿法が試されているが

(1)

,結果に

はばらつきが⽣じ,必ずしも精度の⾼い⽅法とは⾔い難い.そこで,本研究ではデータ同化で実

績の⾼いアンサンブルカルマンフィルタを⽤いてデータ同化の精度を評価することを試みる.同

定結果には,⾮線形カルマンフィルタ(UKF),アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)に加えて粒

⼦フィルタ(MPF)も⽐較対象に含める.

2 データ同化

データ同化とは,⼀般的にいうと,対象となるシステムの⼊出⼒データの測定値から,ある⽬

的で,対象と同⼀であるということを証明するために,なんらかの数式モデルを形成することで

ある.データ同化は,構造物全体を⼀つとしてとらえてマクロな状態でヘルスモニタリングする

ことが可能である.その上,構造物の運動⽅程式の物理情報をダイレクトに得ることができるな

-600

-500

-400

-300

-200

-100

0

0

2

4

6

8 10 12 14

表面

内部

時間(週)

電位(

mV

0

100

200

300

400

500

0

2

4

6

8 10 12 14

累積

AEヒット

時間(週)

累積

AE

ヒッ

(16)

どの利点がある.

3 アンサンブルカルマンフィルタの概要

(2)

アンサンブルカルマンフィルタ(以下,EnKF と⽰す.) は,アンサンブルを利⽤したカルマン

フィルタであり,地球科学において代表的な観測更新アルゴリズムといえる. EnKF ではアンサ

ンブルを⽤いて確率分布を近似するため,通常の KF では扱えない⾮線形のモデルにも適応可能

である.EnKF における事後分布の推定は KF の⼿順に準じ,次式により⾏われる.

(1)

(2)

ここで,

K

はカルマンゲイン,

P

は予測誤差の共分散⾏列,

R

は観測誤差の共分散⾏列である.な

お EnKF ではサンプルから予測誤差共分散⾏列

P

を直接求める.上式が⽰すように,EnKF では

予測誤差に応じて各サンプルの状態変数が修正されることから,粒⼦フィルタのような退化現象

は⽣じない.よって,⼀般的には粒⼦フィルタよりも少ないサンプル数でも良好な結果が得られ

る傾向がある.このようなことから,EnKF は状態ベクトルが⾼次元となる問題に対しても適⽤

が進んでいる.⼀⽅で,EnKF ではアンサンブル近似によりいかなる形状の確率分布も取り扱う

ことが可能であるが,フィルタリングの際には2次モーメントまでしか考慮していないため,状

態変数の確率分布がガウス分布と著しく異なる場合,事後分布の推定精度が低下する.

図-1 ロッキングモデル

図-2 ベースラインと仮定した波形

0 5 10 15 20 25 30 -150 -100 -50 0 50 100 150 t [s]  F[N ]

(17)

図-3 真値と仮定した波形

4 数値実験

4.1 逆解析モデル

本研究においては,橋軸直⾓⽅向の振動に着⽬し,橋軸直⾓⽅向の固有振動数を再現した⼆次

元モデルの作成を⾏った.橋脚は河川から受ける流⽔⼒程度であれば橋脚の弾性変形はほとんど

⽣じないため,橋脚は剛体に近い挙動を⽰すと考えられる.⼀⽅,橋脚のような⾼さのあるブロ

ック型の構造体の場合,作⽤外⼒により底⾯を中⼼に回転運動するロッキング運動をする事が知

られている.そのため逆解析モデルは図-1 のように底⾯を中⼼として回転運動するロッキングモ

デルを構築した.

4.2 運動方程式

底⾯中⼼の回転⾓を

とすると逆解析モデルの運動⽅程式は次のように表される.

(3)

は橋脚の慣性モーメント, は減衰定数, は底⾯回転バネ定数である.また は橋脚の⾼さ

であり,

は橋脚に作⽤する流⽔⼒が天端に作⽤したと仮定した時の換算値である.

本研究では,既往研究により設定された

6.24 10 kg ∙ m ,cr

5.06 10 N・m・s ,k

r

1.92 10 N ∙ m ,

1.21 10 N/m ,

10.31 m の値を⽤いる.

4.3 流水力(作用力)の真値の作成

本研究で実験するために⽤いる流⽔⼒は,既往研究で作成されたデータを⽤いることにする

(1)

増⽔時における作⽤外⼒のベースラインの周期w [Hz]は, w

0.31[Hz]とした.図-2 に作⽤⼒

のベースラインと仮定した波形を⽰す.また,⼊⼒の真値∆

は,ベースラインに摂動が加わっ

た波形であるとし,図-2 のベースラインに平均値 0,分散σ

1.0 10 のガウスノイズを加えた

波形を作⽤⼒の真値とした.図-3 に作⽤⼒の真値と仮定した波形を⽰す.

4.4 流水力(作用力)の仮定

本アルゴリズムを実橋脚の振動データに適⽤するにおいて,⼊⼒の摂動成分を正確に把握する事

は困難であると想定される.そこで,作⽤⼒のベースラインは把握できているものの⾼周波の摂

動成分の分散が未知であると仮定し,ベースラインにガウスノイズの分散を付加した⼊⼒を作成

した.

0 5 10 15 20 25 30 -200 -100 0 100 200 t [s]  F[N ]

(18)

5 同定結果

以下の表 1.2 に,3⼿法を⽤いた場合の同定誤差を⽰す.表には,⼊⼒の真値を⽤いた場合と仮

定した⼊⼒を⽤いた場合を⽰している.同定したkrと実際のkrとの⽐較誤差を各 15 回算出し,最

良,最悪,平均を求め各⽅法の性能⽐較を試みた.ただし,誤差の最良,最悪,平均を算出する

際,15 回の結果のうち誤差が⼩さい上位 10 個の値から⽰すことにし,誤差の絶対値から平均を

とることにした.

表-1 同定誤差 (真値の⼊⼒)(%)

best

worst

average

UKF

0.3799

3.0106

1.99617

EnKF

0.0000247 0.0029

0.00133

MPF

0.1352

1.7281

0.79473

図-4 UKF 仮定した⼊⼒を⽤いた結果 図-5 EnKF 仮定した⼊⼒を⽤いた結果 図-6 MPF 仮定した⼊⼒を⽤いた結果

(19)

表-2 同定誤差 (仮定した⼊⼒)(%)

best

worst

average

UKF

1.5895

5.3648

3.47464

EnKF

0.2198

1.0665

0.66795

MPF

0.2086

5.1984

1.86843

表-2 から分かるように,EnKF から最も⾼い精度の同定結果が得られた.次に,EnKF に着⽬し

て仮定した⼊⼒に加える摂動ノイズの分散の⼤きさを変化させて同定検証を試みた. 表-3 にそ

の結果を⽰す.ただし,分散⽐とは真値に⽤いたノイズとの⼤きさを⽐べたものである.

表-3 ⼊⼒のノイズを変えた同定誤差 (%)

分散の⽐

best

worst

average

100

3.4561

52.8558

20.4805

10

0.332

17.7647

7.0050

0.1

0.1107

0.5923

0.35954

0.01

0.0078

0.4446

0.15901

ノイズなし

0.1044

0.8572

0.46675

EnKF の同定結果に着⽬すると,表-1 より,⼊⼒情報を完全に把握している場合かなり精度の

⾼い結果が得られた.しかし実際に河川の流れから⼊⼒情報を把握することは困難であるため,

あまり参考にならない.表-3 より,⼊⼒情報が完全に把握できずベースラインのみが分かってい

るとき,真値の摂動幅より⼤きい幅の摂動ノイズを加えた場合,真値との値が離れていくにつれ

同定精度は低下していった.しかし,摂動部分が真値よりも⼩さい場合,同定精度が低下するこ

とはなかった.従って,⼊⼒情報の摂動部分を把握することが困難な場合でも,ベースラインさ

え分かっていれば同定することが可能ということが分かった.

6 結言

本研究では,河川の流れを受ける橋脚の安定性を評価する前段階として,橋脚の安定性に関係

する地盤の剛性の同定を⽬的とし,EnKF の同定性能評価を試みた.データ同化の3⼿法の性能

を⽐較した結果,EnKF から最も精度の良い結果が得られた.その理由として,EnKF は融合粒⼦

フィルタとは違い,観測値との誤差に基づいて粒⼦を正確な値に修正していくという性質がうま

く同定できた点ではないかと考える.

参考文献

1) 船⽔洋輔,洗掘を受ける橋脚の振動モニタリングによる安定性評価に関する研究,京都⼤学⼤

学院⼯学研究科社会基盤⼯学専攻修⼠論⽂,(2015)

2) 珠玖隆⾏・吉⽥郁政・⼭本真哉・⽥中耕司・藤澤和謙・野村泰稔,各種観測更新アルゴリズム

による事後確率分布の推定,⼟⽊学会論⽂集,(2015)

図 1  抗力の比較    図 2  揚力の比較  表 1  フェアリングの効果  フェアリング  設置率  0%  75%  100%  抗⼒最⼤値(N)  2.3  1.7  1.4  軽減率    27%  39%  揚⼒最⼤値(N)    1.4  1.0  1.2  軽減率    24%  14%  揚⼒最⼩値(N)  1.9  1.4  1.0  軽減率  -  27%  48%  5.4  津波作用時の上部構造の挙動分析  中尾  尚史(独立行政法人土木研究所  構造物メンテナンス研

参照

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