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第 2 章 既往の研究 第 1 節 既往研究の概要
勤政殿に関する既往の研究は,以下の五つ グループに分けられる.
(1)歴史研究:阮朝の漢喃資料は,欽定『大南 會典事例正編』・欽定『大南會典事例続編』・
『大南一統志』・『大南寔録』の4点が最も 重要な歴史資料である.また「Bullentin des Amis du Vieux Hue(B.A.V.H)」,「Le peuple Vietnamien」,「Revue Indochinoies」等 の仏文資料と越文資料がいくつかある.こ れらの歴史資料に基づいて,勤政殿の位置・
機能・創建年代・改変及び修復の履歴・焼 失の様子についてある程度の概要が把握で きる.
(2)復原的研究: 歴史研究・実測調査の結果・
白黒写真の分析から勤政殿の復原考察を行 う研究.早稲田大学建築史研究室のヴィエ トナム建築史研究に関する一連の学会論文
( そ の 23,29,30,42,55,73,74,89, 90,95,96,97,98,106),および同修士 論文:小榑哲央(1999),山内健太(2000),
小木曽浩一(2001),中村泰一(2003)を参 照した.
(3)復 原 設 計: 南ヴ ィ エ ト ナ ム政 府は1960 年 代に勤 政 殿の復 原 設 計 図 面を作 成し た.目的は観光資源としての開発のため.
ゲ ン・フ ク・チ ェ ン・ゲ ン【Nguyễn Phúc Chiêm Nguyên】氏による以下の復原図面が 残されている(写真1, 2, 3, 4).設計寸法 はcm 単位,立面図・断面図を見ると外観,
内観ともに太和殿とほぼ同様である.平面 図では勤政殿の規模・空間配置・壁板な どが我々の実測調査結果にほぼ一致する.
一例として参考にはなるが,寸法分析や部 材様式の復原などの目的には使用できる水 準では無い.現在,原図はホー・チ・ミン 市歴史博物館に保存され,フエ遺跡保存 センターにも複写版が保管されている.
(4)総合研究:「第一回勤政殿復原会議の紀要,
1997-2000」,この紀要には勤政殿について,
幾つか参考にすべき情報が含まれる.
第 2 節 日本語による関連する既往研究 これまで早稲田大学中川武研究室が,史料・
実測値・写真資料などに基づいて政殿・乾成 宮基壇遺構の復原考察を継続的に行なってお り,その成果を各種報告書あるいは日本建築学 会関東支部および大会において発表している.
また,修士論文・卒業論文の形としても整理 されている.
特に本論文を執筆するにあたり参考としたの は中村修論(2003 年度)である.中村修論では,
乾成宮域全体の構成を主に史料と実測値を用い て考察を行っているもので,勤政殿に関しても 多くの頁を割いて述べている.勤政殿の基本的 な沿革や基壇の実測値による特徴を述べ,平面 についてある程度の復原的な考察を試みてい る.ただし史料については,おおまかな配置構 成の推定に留まり,実測調査に関しては,詳細 な寸法を採っていないことから充分な分析とは なっていない点が指摘される.中村修論は基本 的に乾成宮全体を対象にしているため,勤政殿 についての詳細な検討の余地は依然として多い といえる.本論文は,この中村修論をベースに,
勤政殿の基壇に関して,詳細な基壇の野帳や光 波測距儀による厳密な実測値を用いて,さらに 深く考察し今後の勤政殿復原に資する基礎資料 を提示するものである.
また一連の「勤政殿の復原的研究」「乾成宮の 復原的研究」の研究報告の多くも本論文が参考 とするべき部分を含む.特に,「乾成宮の復原 的研究(VIII)」(松島彩ほか)では,勤政殿基壇 西側の平面上の葛石,敷石,礎石に残る痕跡に ついて報告しており,続く「乾成宮の復原的研 究(IX)」(レ・ヴィン・アンほか)では,同箇 所における立面・断面構成を対象に現状の観察 や記録から得た知見を報告するなど,この2 つ の研究報告の調査方法および研究方法は本論文 の軸となるものである.一方で,勤政殿の復原 を考えるとき,残されている20 世紀前半に撮 影された白黒写真資料の分析,類似の宮殿建築
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遺構の基壇や架構の分析も必要不可欠である.
また「勤政殿の復原的研究(IV)」(中川武ほ か),「勤政殿の復原的研究(VII)」(坂本忠規 ほか)は白黒写真解析の方法論を提示している 点で目を通す必要があり,宮殿架構全般につい ては「宮殿の木造架構」(坂本忠規ほか),特定 の宮殿に関してはすでに数多くの研究報告が為 されているが最近のものでは「隆安殿について
(I)〜(III)」(林英昭ほか)が参考となる.そ の他,勤政殿・乾成宮の復原的研究を考える上で,
「王宮の配置寸法計画」(中沢,大会1995 など)「尺 度」(小榑,大会1999 など)や「紫禁城」(坂本,
関東支部,2002 など)も重要な指摘をしており,
写真1. 復原設計図の全体計画
写真2. 復原設計図の立面
写真3. 復原設計図の梁行断面
写真4. 復原設計図の桁行断面
熟慮を要する.
他の研究組織の論文では,大山亜紀子らによ る「崇恩殿,表徳殿,和謙殿,良謙殿の基壇構 成についてヴィエトナム・フエ建築の基本構成 に関する総合研究その2」が皇帝陵における宮 殿建築の基壇に関して基本的な構成を述べてい る.単にフエにおける基壇構成の性格を知るこ とができるだけでなく,より客観性を強めるた めにも,これら他の研究組織における論文・研 究報告にも目を通す必要があるといえる.
以下を,本論文を執筆するにあたって参考と した報告書・論文・文献の一覧とする.