フランス国勢調査の地位分類
杉 森 滉 一
フランスの国立統計経済研究所は,1954年以来,人口構造のひとつとして,
社会職業分類cat6gories soci。一一professionnelles(以下,三二分類と略記 する。表1参照)を用いた人口分類を国勢調査のたびに発表している。同研究 所によると,社職分類は,「人口を,ある社会的等質性をあらわすような,比 較的少数の諸項目にわけることを目的とした(傍点は引用者)」(6,P5)
分類系である。この分類は,人口を,社会的に異質の諸集団にわけるものと して すなわち一種の社会階級分類として一賃銀から死亡率にいたる,さ らにテレビ視聴率までもふくむ,ほとんどすべての経済・社会統計をグループ わけするのに用いられている。国民経済計算で家計部門をわけるときの基準 にもなっている。社職分類は,フランスの階級構成を知るための素材として も,またフランスの経済・社会統計を理解する上でも,必須の研究対象であ
(1)
る。
ところで,社職分類の各項目を計数するときには,「職業分類」と「地位分
(2)
類」とのクロス表が使われる。この両分類を交叉させてできる各部分を,社
(1)一種の社会階級分類である社職分類が官庁統計としてつくられ発表されていること,
また社職分類は国連の統計活動からは独立してフランスで独自に発展してきたことな ども注目さるべき点である。
(2)職業分類 大分類76項目と小分類284項目からなる。現在,この分類の大がかりな改 訂作業が行なわれている。
地位分類 後の表3を参照。わが国の「従業上の地位」分類にあたる。(表3参照)
職分類のどれかの項目に帰属させるわけである。そこで,社職分類を検討す るには,その全体的構成や各項目をそれ自体として吟味するまえに,この二 つの分類をまず検討する必要がある。とくに地位分類の検討は重要である。
後述のように,社職分類は地位分類をもとにして生れ,それが拡大されて現 在の形になったと考えられるからである。本稿ではごく大まかにではあるが,
地位分類の生成過程を追うことによって,この分類の構成上の特徴とその理 論的意味を知る手がかりをえたい。
本稿は傭観的な素描であって,各時代の各項目についてのくわしい理論的 吟味や,手続き的な細部の確認(限界的な場合をどう処理しているかとか,
活動人口の範囲がどうかわったかなど)には及んでいない。また,依拠した 文献は主として国勢調査各報告書の「活動入口」の部分である。これらから 引用するさいには一検索は容易なので一年度のみをしるし,ページ数を
省略した。
1 1851−1891年
地位分類は,この時代には職業上の地位position dans la professi。n分 類とよばれた。この分類は,正式には1851年の国勢調査(以下,調査と略記 (1)
する)から始まり1891年調査までひきつづいて用いられた。その項目構成は つぎのようであった。
・経営者 ・職 員 ・労働者
またこの分類は,個人調査票の,つぎのような質問に対する回答を基礎に
(1)国勢調査は,1851年以後1946年までは,暦年の末尾に1か6のつく年に行なわれた。
(1871,1916,1941の各区は戦争のために中止になった。)戦後は不定期になり,1954,
!962,1968,1975,1982の各年に行なわれた。
して計数された。
・あなたの職業は何ですか
・あなたは経営者,職員あるいは事務員,労働者,日雇い,人夫,家事使
(1)
用人のうち,どれにあたりますか。
1.この分類にあたっては,人口のどういう側面を分類するのか,また,分 類の標識は何かについてふれられていない。また上記三項目の定義もな い。つまりこの分類は,漫然と当時の日常的表象に依拠しており,きわめ て非意識的・非理論的なものであったといえよう。また,各項目が明示的 根拠にもとづいていない以上,限界的な場合については慣習的もしくは恣 意的にどこかの項目へ帰属させざるをえなかったであろう。(さらに,分類 が,上のように被調査者の回答に直接に依拠しているため,分類結果は,
客観的な「地位」自体をというよりは,被調査者による主観的な自己評価 をあらわすものになった,という欠陥もある。)しかしこうした欠陥はある
が,この分類は,地位分類の初期の形態として,歴史的にはそれなりの意 義をもっている。また,項目だてのさいほとんど表象にのみ依拠していた とはいえ,以下のような程度でなら,理論的根拠(のようなもの)も,とも かくも唱えられていた。「……職業を捨象して考えると,人口は社会的機能 による位階的順序に沿って分類されうる。……第一グループとしては,農 地地主,小作人,分益小作人,木こり,庭師,商・工企業の長,自由業者 および自らの所得に直接依存して生活する人々がある。彼らは自らの生 存を,自らの所得あるいは自らの思惑でまかなわねばならない。これに対 して,第二のグループの,職員,労働者,日雇いは,直:接に俸給によって
生活する」(1872)。ここにみられるように,職業から「社会的機能」一そ の内容は漠然としているが一を区別しようとしていたはじめての試みで あること,これがこの地位分類のもつ意義であったと考えられる。この
(1)家事使用人は,発表のさい最終的に労働者にふくめられた。
「社会的機能」が重視されていることは,活動人口の発表が,職業分類を 縦に,地位分類を横にとったクロス表の形で行なわれるようになった(1876
−1886) ことカ・らもうかがえる。
表1 社会職業分類 0 農業者 1 農業雇用者 2 商工業経営者
91 旧説盛営著
ts⊥ 。 _しいンNILLロ」 H
22.職 人 23.漁業経営者 26。大商人 27.小商人
3 自由業者と高級幹部 30.自由業者
32.教師,科学者,文学者 33.技 師
34.高級管理幹部 4.中級幹部
41.
42.
教員,知的職業従業者 医療的および社会的サー
ビス従事者 43.技術者 44.中級管理幹部
5.職 員 51.事務職員 53.商業職員 6 労働者
60.職・工長 61.熟練労働者 63.半熟練労働者 65.鉱 夫 66.船員,漁夫 67.見習い者 68.不熟練労働者 7 サービス従事者
70.家事使用人 71.派出婦
72.その他のサービス従事者 8 その他
80.芸術家 81.僧職者 82.軍人,警官 9.非?舌豪者
91 17才以上の生徒,学生 92 徴 用 兵
93 もと農業者(経営者と雇用・者)
94 事業引退者
95 公共部門からの引退者 96 もと私的部門の雇用者 97 その他の16才以下の非活動者 98 その他のユ7才〜64才の非活動者 99 その他の65才以上の非活動二
2.このクロス表によって,当時,地位分類の各項目がどのような職業の者 をふくんでいたかがわかる。すなわち,
経営者(patron)……小作農,分益小作農をふくむ農業者すべて。商,金 融,輸送,工,鉱各業の企業(または事業所)の長,労働者を統卒する 者,自由業者など。
職員(employ6)……公務員,経営者づきの補佐者,販売店員,会計担当者 など。
労働者(ouvrier)……労働者,日雇い,人夫,家事使用人,見習い,ボー イなど。
これによると,「経営者」はきわめて包括的で,資本家階級,いわゆる山中 間層,上層の職員をふくんでいる。これは,三者の展開・分離がまだ充分 でなかった当時の状況を反映していると考えられる。
3,職員と労働者が早くもここで区別されている。ただし,当時の表象では,
職員とは「事務所で働く者」のことであり,具体的には主として公務員の
(1)
ことであった。(したがって公務員でも,たとえば看守などは職員から除か れていた。)肉体労働をするか否かという標識も二二的にはほぼ同時に考え られているが,より感覚的に「働く場所」がまず意識され,肉体労働をす るか否かという標識はそこから派生したもののようである。現代的な意味 での「職員」(サラリーマンあるいはホワイトカラー)が層としてまだ充分 に展開していなかったから,公務員が「職員」の主な種類と考えられたの は当然である(したがってこの当時の「職員」はかなりの上層的な「イメ ージ」を伴なっていた。)これにたいして労働者とは,工場,鉱山,作業場 で働く者のことであった。なお当時の職業分類における「労働者」という 言葉は,この種のきまった労働場所できまった雇主の下に恒常的に働く者
(1)バルザックのLes employ6s(1837)やPhysiologie de l employ6(1841)と題さ れた小説でえがかれているのは公務員である。
のみをさし,日雇いやいわゆる重労働者をふくんでいなかった。地位分類 における「労働者」という言葉は,広義に使われているわけである。この ことは地位分類の項目だてとは直接には関係ないが,日雇い等々から成る 層が社会的存在としては「ふつうの」労働者とはちがうものだという表象 が当事広汎に存在していたことをあらわしている点で注目に値する。この 表象は,のちの地位分類で顕在化する。
要するに,この時代の地位分類は,充分に理論的でも意識的でもなかった のであって,それはまた,当時のなお未分化な側面のあった階級構成上の状 況の反映でもあった,ということができる!i)
ll 1896−1936年
1896年調査では,地位分類として,産業上の位置situation dans I ndustrie 分類がたてられた。この分類は,のちに若干の小修正をうけたものの,基本 的な枠組みとしては同じままで1936年調査まで使われた。
1896年調査では,まず「事業所」6tablissementが定義され,これを基礎に して分類が行なわれた!2〕(この定義によると,事業所とは,「協同して,恒常 的に,きまった場所で,同一の商号を代表する一人または数人の代表者の指 揮のもとで働く複数人の総合体」をいう。)すなわち,つぎのような分類であ
(!)参考のために1851年の数字をあげておく(単位千人)。経営者 9,932職員272 労 働者11、673(うち家事使用入907)。
(2)工業センサスは1865年をさいごに行なわれなくなっていた。そこであらたに工業特 別センサスが企画されたものの,工業経営者の反揆をおそれて実行されなかった。そ こでかわりに国勢調査で工業センサスの一部分を代用することにし,個人調査票を事業 所別に集めなおして産業部門ごとの従業員規模別の構造をひきだそうとした。 「この ような調査をつづけることによって,製造工業の進歩,企業の集中と分散,合併の様 子が判断されうる。このことこそが,社会組織の観点からもっとも重要視さるべき 問題なのである」(1896)。1896年国勢調査で事業所が定義されたのは,このような背景 による。なお,工業センサスはその後も計画だおれがつづき,実現されたのは1931年に なってからであった。
る。
…嘱す・者 E謙ll長
事一属・ ゙驚1講欝旧套霧所…一一E・ない
地位の不明な者
この新分類が立脚する個人調査票は,表工,II, IHのとおりである。(各 々1896,1901,1906年。1906年のものは1936年までそのままで使われた。)こ れによると,経営者や事業所の長と,「他人の指揮のもとで」一すなわち 干われて 働く者は,各々ちがう欄の質問に答えるように指示されており,
また,雇われて働く者については,雇主の住所氏名や事業所の名称,その住 所を書くよう指示されている。さらに,職業を「正確に」書くよう求めてい
る。これらは,以下にのべるようなこの分類の目的に対応した形式であると ともに,地位にかんする回答の恣意性を排除しようとした工夫である。
1.この時代のおもな変化はつぎのとおりである。
(1)1901年調査 事業所に属さない勤労者を一括して「孤立勤労者」travai1−
leur is。16と呼んだ。また,1896年では職員と労働者が一括されていたの にたいして,あらたに両者が分離された。
(2)1906年調査 孤立勤労者を「小経営者」とそれ以外の者にわけ,さらに 後者を手間賃請負者と不規則労務者とにわけて,これら三者の数を試算し
た。
(3)1911年調査 孤立勤労者を分解し,経営者,職員,労働者のいずれかに わけた。つまり小経営者を経営者に入れ,手間賃請負者と不規則労務者を,
各人の職業を参照して職員か労働者かに入れた。
(4>1921年調査 1911年のときのような再分類をやめ,孤立勤労者として再
表1 個人調査票(部分)1896年
9.職業と地位:あなたの職業は何ですか。正確に書いてく ださい。
A.経営者の場合
(1農業の場合,自作農,小作農,分母小作農のどれです
か。
(2)工業の場合 あなたが作業場で製造作業に従事してい るときは,○○の製造者というようにこたえてくださ い。そうでないときは,たとえば砂糖の精製者,○○
の請負老,○○の修理者というようにこたえてくださ い。
(3)商人の場合 ○○の卸売業者,○○の商人,○○の賃 貸業者というようにこたえてください。
(4泊由業お』よびその他の場合 公立学校の教員,私立学校 校の教員,画家,詩人というようにこたえてください。
B,職員と労働者の場合 あなたの専門を正確にこたえて ください。たとえば,布地図案家,会計担当者,木工,
石工,銅工,農場使用人,家事使用人など。
あなたが(農業,工業,商業,
自由業の)経営者あるいは事業所 の長,もしくは自宅で手間賃を受 けて働く請負者である場合は,つ ぎの問いにこたえてください。
a) あなたが指揮している企業 または事業所の商号,名称,
住所
b) その事業所で雇っている人 の数 男
女
。) あなたは自宅で働く労働者 ですか
あなたが他人の指揮下で,ある いは他人のために(教員,技師,
職員,労働者,日雇い労働者,ボ ーイ,見習い,家事:使用人などと
して)働いている場合
a) あなたを雇っている経営者,
企業,官庁の名称と住所 その経営者の職業の種類 あなたに職のないとき,その理由 疾病あるいは障害
労働季節の終了 その他の原因
表ll 個人調査票(部分)1901年 7.あなたの職業は何ですか。
(職業,産業,商業を正確にくわしく書いてください。報酬 をともなういくつかの仕事をしているときには,主たる仕事 について書くこと。何の職も持っていないときには「なし」
と書き,下の質問には答えないこと。)
8、調査当時の,職業あるいは主たる産業についての調査
〔a)は1896年のと同じ〕
b) その事業所で雇っている人の 数(経営者自身または自宅で働 く者自身をふくめないこと。ま た,個人の用事だけをする使用 人をふくめないこと。)
c) あなたが自宅で働く手間賃請 三者である場合,質問b)でこた えた人数のうち,あなたの家族 の数
〔a)は1896年のと同じ〕
b) あなたを雇っている経営者あ るいは官庁の,職業・産業・商 業の性格
。) あなたに職のない場合,いつ からそうですか
(自宅で働く手間賃請負者は左の 欄の問いにごたえること)
表皿 個人調査票(部分)1906年
7.職業:あなたの主たる職業は何ですか。
他にも職業をもっている人は,それも書いてください。
8.調査当時の職業あるいは産業についての調査
〔a),b)は1901年のと同じ〕
c) あなはは自宅で働く手間賃請 負者ですか。
〔a),b)は1901年のと同じ〕
c)あなたに職のない場合
︷
いっからですか
それは病気のためですか。
び一括した。
2.この分類の主たる目的は,事業所の長と,事業所で働く職員および労働 者という二者(のちには三者)を区別することにあった。孤立勤労者と失
業者は,基本的には,これら二者あるいは三者のどれにも属さない部分を カバーする項目として,消極的,補心的に併置されたにすぎない。上記の 1911年調査のときのような,この部分を上記二者のいずれかに還元するよ うな扱いかたが行なわれたのもそのあらわれである。
3.この分類の基礎は(1)「事業所で働いているか否か」(2)「事業所に雇われ て働いているか否か」であり,さらに,追加的には,一これは陽表化さ れてはいないが一H3)「事業所で雇われて働くときに,肉体労働をするか 否か」である。これらはいずれも外的に一応見わけのつく特徴である。す なわち地位分類を,このような「直接に観察可能な事実」に立脚させ,そ
の範囲で確定できるものに絞る,というのがこの時代にあたらしく出た動 きなのである。旧来の地位分類は,その理論的内容は明らかでないものの,
直観的に,また漠然と社会階級的なものを志向していたと考えられる。これ にたいして今回の分類は,地位概念を理論化する:方向にではなく,むしろ それを限定する方向にすすんだ。つまり,理論的含意においては旧来のも のより狭いかわりに,「確実な」事実に立脚するようにしたのである。異質 な諸集団をふくんでいるはずの孤立勤労者層を,基本的にあえて分割 せずにすませているのは,ひとつにはこのためである。「事業所の長,職 員,労働者だけにわけたことによって,ある種の興味ある,社会階級への 分類をあきらめたことにはなろう。しかし社会階級へわける場合,その基 準は何か,限界はどこかということはわからないのであるから,計数にお ける焦点の定まらなさもやむをえない」(1896)。
4.外見的に明瞭な特徴というものは,それ自体では無意味であって,分類 基準として使うためには,その特徴が何をあらわすものとしての特徴なの かという,何らかの「理論的な」解釈が必要なはずである。しかるにこれ についての説明は,この時代の諸報告書にはみられない。1921年調査のさ いに行なわれているつぎのような言及が,当時,分類者が地位をどのよう なものとして観念していたかをわずかにうかがわせるのみである。「職業上
の地位は,ふつう,社会的地位position socialeと呼ばれているものに対 応ずることが多い。職員や労働者が労働を指揮する長の監督下で働くとい う物理的従属は,経済的従属をも意味する。ゆえに,私的事業所の長を経 営者とし,職員や労働者を被雇用者として区別することは当をえている。
孤立勤労者は,経営者にも被雇用者にも入れられない層である」(1921)。
5 職員と労働者との区別のむずかしさがたえず問題とされた。この両者は 1896年には一緒にされていた。この理由のひとつは,区別することが実際上
困難であるということにあった。「多くの場合,両者の区別は微妙であ る。工場でタイルを切る者は労働者とみなされるが,同じ仕:事を卸売業者 のところでする者は職員になる」(1896)。1906年に両者が分離されたさい も,「計数は恣意的かもしれないが」というただし書きがついていた。以来,
どの年度の調査報告書でも,この両者の区別のむずかしさがのべられてい る。「どちらにわけたらよいかわからない職業がよく出てくる。肉屋の店 員,布地の図案家,道具運ばん者など。……また名称は職員的でも実体は 労働者という場合もある。……一般的な規則としては,職員は,指揮・管 理をする者,事務所で働く者,販売や監視にあたる者であり,労働者は,
熟練・不熟練の労働者と,注視を仕事とする者,配達者,助手や見習い,
家事使用人である」(1931)。
6.孤立勤労者の扱いも,この時代の分類法が苦慮した問題であった。この 層は,上述のように,基本的には,事業所の長および事業所に属する職員 と労働者以外の者という扱いかたをされている。このことは,この層の中 核である旧中間層をひとつの独立した社会的集団(ないし階級)とみなす 見地がまだなかったことをあらわしている。したがってまた逆に,「小経営 者」(=旧中間層)を,本来は労働者または職員であるはずの手間賃請負者 や不規則労務者などと一いずれも事業所に属さない者として一同一視 することもできたわけである。ただし,孤立勤労者が,性格的に異質な諸 集団をふくんでいるということは認識されていた。とくに小経営者層へ
の言及はたびたび行なわれている。1906年調査は,この層を小経営者と それ以外の者とにわけ,さらに後者を手間賃請負者と不規則労務者とにわ け,各々の概数を推計し,1911年調査では,この細分類にもとづいて,こ の層を経営者,職員,労働者のいずれかへ分解し帰属させた。ただし,こ れらの推計は,調査回答の不正確さのために,いずれもかなり粗いものた らざるをえなかった。「農業では,日雇い(不規則労働者の一種一引用 者)は,孤立勤労者にではなく労働者に入っているであろう。また,蹄鉄 職人,車大工,小商人などの孤立勤労者が経営者に入っていたり,船ひき 人夫,配送夫,御者など(これらも孤立勤労者に属する一引用者)が職 員または労働者に入っていることも考えられる。孤立勤労者を二つに(小 経営者とそれ以外の者とに 引用者〉わけても,えられる数字はかなり 恣意的である」(1911)。
1921年調査のさいには,孤立勤労者という項目を復活させたこともあっ て,この項目の再定義が行なわれている。これによると,孤立勤労者とは,
「紙入,商人,農業者などであって,他人の助けなしに働く者,自己の思 惑で働く労働者,自宅または他人の家で,固定した経営者なしに日雇いで 働く労働者」(1921)のことである。
7 手間賃請負者,日雇い,不規則労務者が,労働者とは別の項目に分類さ れている。これは,「事業所に属さない者」という分類基準のせいでもある が,働き場所もしくは雇い主が一定しない者は狭い意味の労働者とは区別 されるという当時の通念の反映でもある。
8 「事業所の長」が等質でないことが1921年調査のさいに指摘されている。
これは,地位分類の後の展開からみて一応注目にあたいする。「事業所の長 は,一般には経営者であるが,なかには,じっさいには役員や支配人にす ぎない者もいる」(1921)。
9 「職のない労働者,職員」つまり失業者という項目が新設された。それ までも失業者の計数は一応されているが,無為人口population oisiveに
入れられたり(1861),施設収容者や収監老などと一緒にされたり(1881)
しており,独立的にたてられるべき項目とは考えられていなかった。
10.この時代の,活動人口の表示の仕方はつぎのようにかわっていった。す なわち,
(1)
(1)1896−1901産業分類と,「産業上の位置」分類とによるクロス表(以 下,A表とよぶ)。
(2)1906 職業分類と「産業上の位置」分類とによるクロス表(以下,B表 とよぶ)およびA表という2本立て。
(3>1911 B表のみ (4)1921−1936 A表のみ
この変せんは,地位(分類)が職業(分類)や産業(分類)とどう関係す るのかにかんして定見がなかったことをあらわしていると考えられる。
田 1946年
上記の「産業上の地位」分類は全廃され,まったく別の,職業的位置sit−
uati。n professionnelle分類がつくられた(表2参照)。
この分類の基本構造はつぎのようである。まず,全体を大きく,経営者,
独立勤労者,雇用者,家族従業者にわける。(「国際的な分類によるとこれが 基準的である」と書かれているので,国際連盟の分類を参照してそれに依拠 したのであろう。)ついでこれらを,つぎの諸要素を考慮して:再分類する。す なわち,
(1)全体に,農業部門と非農業部門を区別する。
(2)経営者については,農業では土地,工業では資本の所有を伴う者である
(1)この当時は,産業分類と職業分類とはまだ未分化であったから,厳密には産業分類,
職業分類という呼びかたはできない。しかし産業,職業のいずれかに重点をおいた二 つの分類(これは固定したものでなく,その時々で内容がちがっている)が使いわけ られていたので,近似的に産業(および職業)分類にあたるものはあった。
か否かで,農業であれば自作農とそれ以外の者とに,非農業であれば所有 経営者とそれ以外の者とに区別する。
表2 1946年地位分類 非農業 経営者と高級幹部
・経営者,役員,支配人
・職場主任,製造主任
●磁 八
職員,労働者と下級幹部 ・職長,黒毛,作業班長
●欝糊労/(公表のさいに合算)
●蠣馨の噸1
・不熟練労務者,重労働従事者 ・見習い
農 業 経営者と高級幹部
・小作農
・分益小作農
・耕作監督
・自作農 その他の耕作者
職員,労働者と下級幹部 ●耕作主任・作男の頭 ・常雇い労働者 季節労働者 1日雇い労働者 職業能力の劣る労働者 (15才以下,71才以上)
(3)独立勤労者については,職人か否かをつぎの基準で区別する。職業登録 をしている者で4人以下しか雇っていない者,あるいは,財政局によって 工房的活動とみとめられている活動をしており,1人あるいは見習いをい れて2人以下しか雇っていない者を職人とする。
(4)雇用者(とくに労働者)については,その占める職務の位階的位置およ び労働力の質によって数種類にわける。
(5隊族従業者については,経営者とみなせる者を区別する。
以上をまとめて図示するとつぎのようになる。
経 営 者
独立勤労者
雇 用 者
家族従業者
所有経営者離職炎 小 作 者
分高小作者
職 人 家族従業者のある者
{ のな賭
非剛家鰐者雛麓
役員・支配人 作業主任 職 員
事業所に属する者
職・署長 労働者 見習い者 手間賃請負者
孤立勤労者 季節労働者
日雇い労務者,不規則労務者 家事使用人
経営老とみなせる者 〃 とみなせない者
これにさらに若干の細分類を加えて整理したものが,先の表2にある分類 になるわけである。
1946年調査の,地位分類に関係する個人調査票部分は表IIのようになって いる。なお,表 llにはあげていないが,前述のように今回の分類は職務の位 階や労働力の質を考慮しているので,それに対応して学歴を問う質問が新設 された。(1936年までは,フランス語の読み書きができるか否かという質問し
かなかった。)
1.この分類では,旧来の地位分類の項目に,職務上の位階や格づけ(例:
職・工長)機能上の地位(例:職場主任),労働力の質(例:熟練労働者)
などの要素を考慮し,さらに農業・非農業という産業分類的区分までくわ えた,異常にくわしい分類になっている。たんにくわしいというだけでは
表ll 個人調査票(部分)1946年
10.あなたの主たる職業は何ですか(家事しかしていない女性は「なし」
と書くこと)
11.職業上の地位
12.あなたが事業所で働いている場合,その事業所の活 動の性格
あなたが1人で働いている場合,あなたは手間賃をとって自宅で 働く労働者ですか はい□ いいえ□
13.あなたは商業登録をしていますか はい日 いいえ□
あなたは職業登録をしていますか はい□ 腿状□
14.あなたが経営者か事業所の長である場合,全体で
何人雇っていますか 人 15.あなたに職がないとき,いっからですか
病気または事故のためですか はい□ いいえ[}
なく,必ずしも直接に観察されないものをふくめた諸要素を,しかも多重 的に組合わせているという点で,統計分類というよりはある種の理論的分 類に近い。またこの意味で,地位分類というよりはその後あらわれる社職 分類の(すなわち一種の社会階級分類の)前身とみなさるべきものであろ う。(じっさい,たとえば「職人一1は,社会職業的な次元での区別であるこ とが明記されている。)しかし一方ではこの分類はたしかに地位分類(の精
密化)として提起されてもいるのである。これは,地位分類一般の持つ一種 の「矛盾」のあらわれであろう。つまり,地位分類を精密化ないし豊富化 しょうとすればこのような形にならざるをえないが,しかしまたそれでは,
外見的に明白な特徴によって直接に分類するという,統計分類として持つ べき性格を損うのである。1954年には,地位分類の改訂(簡素化)とくわ しい社章分類の新設とが行なわれた。これは,この矛盾をそういう形で解
決しようとしたものと考えることができよう。
2.機能的位階および「格」という分類基準が導入されている。高級(また は下級〉「幹部」から見習いにいたる数種の区別がこれによって生じた。こ
のような基準がこの時代に導入された理由は二つある。ひとつは,1930年 代の後半から,雇用者がいくつかの層にわかれて各々労働組合あるいは団 体を結成し,諸々の要求を行なうようになったこと,すなわち,いくつか の階級ないし階層が社会的に顕在化したことである。(「幹部」という言葉
もこの中で生れた。)地位分類は社会階級分類ではないが,こうした事情は 少くとも間接的に地位分類に大きく影響したはずである。もうひとつに,
復興生産計画の遂行という戦争直後の課題のために,労働力の動向や転用 可能性を労働力の種類に応じて把握する必要があったことがあげられる。
「(この分類は一引用者)労働力と移民の有効な利用という政策目的にと って必要な分類の基礎を提供する(1946)。」)また生産活動とのからみで,予 備役と現役とをどのくらい,どのように確保しうるかをみとおすための,軍 事政策の資料としても必要であったことも理由としてあげられる。
3.「職人」という項目が新設された。旧分類で何かと問題になっていた「孤 立勤労者」から,現実力・らかなりおくれてではあるが,独立したひとつの 層としてここでやっと「認知」されたわけである。
4.職員と労働者が一括されている。この扱いはフランスの地位分類として は(主として技術的理由で一括された1896年をのぞいては)この時だけに しかみられない例外的なものである。この扱いがどうして生じたかは今の ところ不明である。参考のために,1947年に分類にかんする各省合同委員 会が職務の機能的位階に重点をお・いて作った位階的地位分類position hi 一一
6rarchiqueをみると,位階の下から上へ順に,見習い,単純作業者,半熟 練の労働者・職員,熟練の労働者・職員,職長・工長・職場主任,職人,
経営者・役員・支配人,となっていて,やはり職員と労働者が一括されて
(1)1930−40年代は,現在のフランスの階級構造の骨格がつくられた時期で,このとき の地位分類やその後の社職分類を理解するうえでのもっとも重要なポイントになって いる。これについては別稿であらためて論じる。
いる。したがって,戦争直後数年間にこうした扱いが一般的に行われて いたことだけは確認されうる。
5.不熟練労働者manoeuvreというのは,旧分類でいう事業所に属さない日 雇い労務者や不規則労務者のことである。この項目が「労働者(および職 員)」とならんで設けられているのは,この層を「通常の」労働者から層と して区別するというそれまでの地位分類の考えかたが,この時期にもなお 残っていたことをあらわしている。
N 1954年以降
1946年の分類は一回かぎりで廃止され,あらたな地位分類statutsがつく られた。これは現在までそのままつづいている(表3参照)。1946年分類が地 位分類としてはきわめて特殊なものであったことから,旧来の(1936年まで の)地位分類がいったん再興された。(「……statutsが示すものは,部分的 には 職業上の位置 という伝統的な考えかたに対応している」。そのうえで,
1946年分類を参照してそのいくつかの項目をとりいれ,旧来の地位分類を拡 大したのである。
1954年の個人調査票の関係する部分は,表皿に示してある。
1.前回の分類は,いままでの通常の地位分類のほかに一種目社会階級分類 的要素をまじえた,進歩的であると同時に中途半端な体系であった。これ をうけた今回の分類では,階級分類的側面については,あたらしく社職分 類をもうけて別個に行なうことにし,地位分類については,あくまで統計分
表3 地位分ue (1954年)
0.地位が無意味なもの*
1.雇用者のない独立勤労者 2.経 営 者
3.家族従業者 4.契約による見習い 5.私的事業所の雇用者
6.自宅勤労者
7.公共サービス部門の雇用者 8.国家,地方公務員
9.職を求めている者
(*主として僧職者をさす)
表皿 個人調査票(1954!
経営者,職人,独立勤労者,自 由業者,農業耕作者(有限会社や 合資会社の支配人,手数料をとっ て働く者をふくむ)の場合 17.あなたの事業所,企業,農業 経営体の名称と住所
18.あなたは他人を雇っています か □はい □いいえ 雇っている場合,何人ですか
(家族構成員や家事使用入をふ くめないこと。農業では常雇い のみを数えること。)
19.〔略〕
20.あなたが農業耕作者の場合,
あなたは自作農,小作農,分益 小作農のうちどれですか 現在仕事がなくてそれを探し ている人
24.あなたの職業
25 あなたは働いたことがありま すか はい□ いいえ□
26 あなたはいつから仕事を探し ていますか
雇用者(職員,労働者,幹部,契約 による見習い,公務員,農業労働 者,農業日雇い労働者,家事使用 人など)の場合
21.あなたが働いている事業所の 名称と住所(あるいはあなたを 雇っている人の姓名と住所)
22.その事業所の活動
23.あなたは「自宅勤労者」です か はい[コ いいえ□
働くのをやめている人(公共サ ービス部門の退職者,幹部退職者 事業引退老など)
27.あなたの主たる職業は何でし たか
類として直接観察可能な範囲の充分簡明なものに限定する,という1936年 までの態度にもどったと思われる。前節でのべた「地位分類の矛盾」は,
こうした形で「解決」されたのである。
ただし今回の分類は,1936年までの地位分類にくらべると,1946年分類 を参照した結果かなり拡大されている。(「見習い」,「職人」,「家族従業者」
の新設など。)
3 私的部門と公的部門という分割があたらしく始まっている。この分割を
採用した動機は不明である。ただ,この地位分類と同時に作られた社職分 類にも,またこのころまでの他の諸分類にも同じ分割が行われ,1956年ご ろから漸時消滅していったという事情があることから,公・私分割という
1955年ごろまでの一般的傾向にそったものであるということはたしかであ
る。
3.「家族従業者」項目が新設された。これは1946年分類を参照した結果で あるとともに,おそらく国際的な(とくにILOの)分類を参照したため であると思われる。
む す び
地位分類一般を理論的にどのように把握すべきかについて,われわれはま だ確定的なことをいいうる段階にない。しかし,「地位」の本質が生産関係 であり,生産関係の一側面を現象の次元でとらえて識別し分類したものが 地位分類であることはたしかであろう。この観点から考えると,フランス 国勢調査の地位分類の歴史は,一応つぎのようにまとめられよう。
1.当初この分類は,社会階級にかんする当時の日常的表象にのみもとづい て出発した。「職業上の地位」分類とはいわれていたが,内容的には,いわ ば即自的な段階での社会階級分類というべきものであった(1891年まで)。
つぎに,分類されるべき対象がより正確な意味での職業上の地位,すなわ ち「産業上の位置」としてやや明確に限定され,地位分類はこれを外見 的に明白な標識によって分類する体係として設定しなおされた。(1936年ま で)。そのあとさらに,外見的に明白な標識に依るという原則を保持しなが (1)
ら,分類項目を拡大することが行なわれた(1954年以降)。
(1)しかし1954年分類(現行の地位分類)が外見的に明白な標識のみから成っているわ けではない。とくに,「雇用者のない独立勤労者」と「経営者」の区別,「雇用者のな い独立勤労者Jと「自宅勤労者」の区別は喋々にして困難であることが分類作成者自 身によっても指摘されている(文献6,pp71−72)
2.地位分類の歴史は,一方からみると, 「職業上の地位」にかんして経験 的に異質的と思われるものを識別し分類するという純化の過程であった。
このことは,地位分類を統計分類体系として確立したという意味ではひと つの進歩である。他方,この方向は,「地位」のもつべき生産関係や社会階 級といった理論的含意を分類に生かすという方向をとざすことにもなった。
「地位」が理論的な意味において何をあらわすものなのか,何についての 現象的ないし可感覚的な表現であるのか,については,分類作成者は一貫 して追求を回避している。こうした理論的な世界から地位分類を切離して
独立させようとすることは 客観的には両者は結合している以上一む しろ,はっきりしない形で生産関係的あるいは社会階級的要素をたえず地 位分類に混入させる結果になる。統計分類として確立したはずの1896−1936 年間の分類でも「経営者」,「労働者」といった,社会階級を指す用語が使 われていることはそのあらわれであるし,より端的には,1946年分類のよ うに,地位分類が社会階級分類へそのままつながったものが生ずることに なるのである。
3.地位分類はもともと,職業上の地位という,一応は外見的に明瞭な標識 によるべき統計分類と,生産関係的ないし社会階級的な理論的分類の資料 によるべき要素とをふくんでいた。この両者はしだいに分離され,前者は 展開して現在の地位分類statutsになり,後者は二三分類として別個に独 立するに至ったと考えられる。
参 考 文 献
〔1〕国勢調査報告書(R6sultats du d6nombrement de la population)の1851年度から 1891年度まで。
〔2〕国勢調査報告書(R6sultas statistiques du recensement gさneral de Ia popula・
tion)の1896年度から1954年度まで。
〔3〕Evolution de la population active en France depuis cent ans d aprさs Ies d6nombrements quinquennaux Etude et conjoncture n。3 mai−juin 1953 230−
289
〔4〕B. Zarca La repr6sentation des artisans dans la statist{que officielle Consommαtion n。2 avril−juin 1976 7−42
L5」A. Desrosiereヒ:lements pour l histoire des nomenclatures socio−profess−
ionnelles in:Pour une histQire de la stat{stique Tome I l. N. S. E. E,1978 155−232
ロ
〔6〕Code des cat6gories socio−professionnelles 6 eed. 1. N. S. E. E, 19.77