キャリア・コミュニティについての実践的研究 : 人的資源の活用、自律的キャリア学習との関わりの 探究
著者 三宅 麻未
URL http://hdl.handle.net/10236/00029105
博⼠論⽂ 要約
キャリア・コミュニティについての実践的研究 -⼈的資源の活⽤、⾃律的キャリア学習との関わりの探究-
三宅⿇未 1. 本研究の⽬的
本研究は、「コミュニティ」を「共同体意識を持った⼈々の集団」と定義し、それが、
仕事⼈⽣、すなわち「キャリア」に関する気づきや学びを得るために重要な役割を果たす ことに着⽬した「キャリア・コミュニティ」の研究である。キャリア・コミュニティとは
「仕事⼈⽣における学びを与え合う組織内外に形成される共同体」を指す。近年のキャリ ア理論には⼈間関係や⼈脈を重要視するものが多く、「コミュニティ」の概念について取 り扱ったものも少なくない。しかしキャリア形成におけるコミュニティの具体的な活⽤や 包括的な研究はまだ少ない。キャリア・コミュニティが個⼈のキャリア・デザインに与え る効果を分析し、⼈材育成のためにこれを活⽤する実践的な⼿法について明らかにするこ とが本論⽂の⽬的である。
これまでの Parker at al.(2004)に代表されるキャリア・コミュニティ研究は、既存のコ ミュニティ活動がキャリアの気づきにどのような影響を与えるかを観察する受動的なもの にとどまっていた。しかし筆者は、企業⼈材が企業内のみならず、特に企業外のコミュニテ ィ活動や学習活動に参加することが、キャリア観にどのような影響を与えるか、キャリアの 学びを⽬的としたコミュニティは、いかに形成できるのか、またそれらは経営組織側には、
どのような影響を与えるかについて、複数の参与観察によって能動的な分析を⾏った。
本研究における調査は、フィールド調査と先⾏研究レビューを主体とし、コミュニティ 活動に参画する組織に対して参与観察を⾏った。筆者⾃⾝もプロジェクトへ参加しなが ら、参加メンバーへの個別インタビューやグループヒアリングを⾏い、活動の中で⾒られ る変化を観察したものである。
2. 本研究のリサーチクエスチョン
本研究では、キャリア形成を個⼈および組織の各々に委ねるだけではなく、共通の関⼼を 持った⼈が集まるコミュニティの働きによって考えることの意味と重要性について検討し た。研究にあたり、下の三つのリサーチクエスチョンを提⽰した。
RQ 1 コミュニティはキャリアのデザインにどのような影響を与えるのか
RQ 2 コミュニティでキャリアを考えることはその他のキャリア・デザインの⼿段とど のような違いがあるのか
RQ 3 キャリアの学びに資するコミュニティは、どのように形成されるのか
3. 本論⽂の構成と概要
本論⽂の各章の構成は次の通りとなる。
第⼀部 研究の背景と動機 第1章 はじめに
第⼆部 先⾏研究レビュー
第2章 キャリア・コミュニティのレビュー 第3章 キャリアのレビュー
第4章 コミュニティ・デザインのレビュー
第5章 実践共同体とキャリア・コミュニティのレビュー 第6章 先⾏研究まとめ
第三部 事例研究
第7章 ゼロエンファーム:コミュニティ形成プロセスとサポートの観察 第8章 CCH:働き⽅を考えるコミュニティが働き⽅に与える影響
第9章 ⽶国 A 社:企業内キャリア・コミュニティの形成とマネージメント 第10章 事例研究まとめ
第四部 総合考察
本論⽂は上の通り四部からなる。第⼀部は本研究の背景と意義、第⼆部はキャリア・コ ミュニティ研究に関連した先⾏研究レビューを⾏った。第三部は先⾏研究レビューから明
⽰された課題を解決するための三つの事例の参与観察を⾏った。第四部では、先⾏研究と 事例検討から明らかとなったことを総合的に考察した。
第1章では本研究の⼆つの端緒を⽰した。⼀つは「働き⽅改⾰」や「多様な働き⽅」な ど社会的ニーズの⾼まりから⾒たもの。もう⼀つはキャリア教育の変遷に伴うキャリア・
デザインの担い⼿の多様化から⾒たものである。また本研究の⽬的と意義を明らかにする ため、また本研究で取り扱う「キャリア」及び「コミュニティ」の定義について明⽰し た。
第2章では本研究の主軸となる「キャリア・コミュニティ」について、Parker et al.
(2004)の理論的背景を整理しながら、2004 年以降のキャリア・コミュニティの活⽤やその
効果について広域な英⽂論⽂のレビューを⾏った。
第 3 章ではキャリアにおけるコミュニティの意義を解明するため「キャリア」理論の基 礎的なレビューを⾏った。キャリア・アイデンティティや、企業組織や業界の境界を超え て形成されるバウンダリレス・キャリアのレビューを⾏い、キャリア理論におけるコミュ ニティの意義を明らかにした。さらに、キャリアを形成する基盤としてコミュニティがど のような意義を持っているのかについて考察した。
第4章では、キャリア・コミュニティの構築⽅法を明らかにするため、コミュニティ・
デザインのレビューを⾏った。コミュニティ・デザインは、街やコミュニティの活性化に
⽤いられ、新しいコミュニティを構築するノウハウからキャリア・コミュニティ形成につ いても⽰唆を得た。さらに、キャリア・コミュニティを維持継続するための具体的サポー トについても考察した。
第 5 章では、キャリア・コミュニティの関連概念としてあげられている実践共同体のレ ビューを⾏った。両者の理論を⽐較し、それぞれの特徴を明らかにした。これにより、キ ャリア・コミュニティの特徴的な要素を提⽰できた。
第 6 章では先⾏研究から明らかになったことを⼩括としてまとめた。
第 7 章は事例検討に⼊る。はじめに⾼齢者が中⼼となって農業活動を⾏うゼロエンファ ームにて⾏なった参与観察についてまとめた。ゼロエンファームの活動が、地域コミュニ ティの活性化だけでなく、キャリア・コミュニティ機能を果たしているのかについてイン タビューを通して分析した。
第 8 章ではキャリアを考えることを⽬的に形成されたコミュニティCCHの運営メンバ ーに半構造的インタビューを⾏いキャリアについて考えることを⽬的としたコミュニティ を社外に持つことの具体的メリットと、それが個々⼈のキャリア観にどのように作⽤する のかについて検討した。
第 9 章では、企業内のキャリア・コミュニティについてその構築⽅法と維持継続につい て検討するため⽶国(イリノイ州)に⽇本から出向した⽇系企業の⽶国⽀社マネージャー にインタビューを⾏なった。A 社では異⽂化理解を進めるため企業内に異⽂化理解コミュ ニティを⽴ち上げているが、これが中⻑期的な業務改善という視点でどのような効果があ るのかを検討した。
第10章では三つの事例から明らかとなった、キャリア・コミュニティの実践的貢献に ついてまとめた。
第 4 部では、総合考察として各章で明らかになったことと、またこれらが経営学の中で どのような位置付けとなりうるのかについて検討した。
4. 本論⽂の理論的・実践的貢献
英⽂、邦⽂のレビューおよび三事例の参与観察の結果、キャリア・コミュニティは意図し て形成できることが明らかとなった。キャリア・コミュニティ内でどのような学びや気付き を獲得するかは参加する個⼈の主体性に委ねられるが、しかしコミュニティを形成する中 で、共通の関⼼や悩みを発⾒できる柔軟性があることが分かった。
類似概念である「実践共同体」は関⼼や問題意識を共にする⼈が集合する集団であるが、
キャリア・コミュニティは、実践活動を通してメンバーが⽬的を発⾒することができる包摂 性が特徴である。したがってキャリア・コミュニティでは何らかの実践活動の場を持つこと が最も重要である。活動の中から参加メンバーは⽬的や課題意識を発⾒するばかりでなく、
コミュニティ全体としての役割や参加資格を定義し次第にコミュニティとして凝集性を⾼
めていくプロセスが特徴である。
CCHのインタビュー調査からは、新しいキャリア概念として「キャリアの過視感」が発
⾒された。キャリアの過視感とは、「キャリアの先⾏きが⾒えすぎている」という感覚であ る。過視感に類似する概念としてキャリア・プラトー(Ference et al.,1977)が考えられるが、
プラトーが実際にキャリア上に障壁がある状態を指す⼀⽅で、過視感「⾒えすぎている」と 感じることにより仕事への前向きな観測が持てなくなっている状態である。この問題に対 しキャリア・コミュニティは、参加者の相互刺激によって過視感状態に新たな視点を与え、
視座を矯正や修正することがわかった。これまで多くのキャリア研究は、キャリアの展望を 明らかにしようと試みるものが多い中で、「⾒えすぎてしまっている感覚」もまたネガティ ブに働く可能性が⾼いことを発⾒したことは、本研究における重要な発⾒である。
本研究の理論的貢献はキャリア論に「コミュニティ」の概念を取り⼊れることの意義を明 らかにし、まだ未整備であったキャリア・コミュニティ理論に総合的な研究を実施した点で ある。それに加え、キャリアの世代間発達におけるキャリア・コミュニティの貢献を明⽰し た点にある。
また実践的貢献は、キャリア・コミュニティ理論を⼈材育成に取り⼊れることで主体的な キャリア開発が促進し⼈材がいきいきと働くことができることを⽰した点にある。企業内 外の多様な相互関係の中で実践活動を⾏い議論をすることによりキャリアについて⾃⼰理 解が進み、その⼈らしい働き⽅につながると考える。これは働く⼈の⽣きがいや満⾜感につ ながる真の「働き⽅改⾰」に貢献するものである。また業務と離れたところに構築されるコ ミュニティは、働き⽅への客観的な視点の獲得や⼼理的な拠り所、さらにはロールモデルの 発⾒につながる効果があり、今後ますます期待される⼥性の活躍推進にも貢献するものと 考える。
以上