債 権 執 行 に お け る 配 当 要 求 の 効 果
谷 忠
之
6 ‑ 2 ‑203 (香法'86)
の申立てをすることになる︒﹂
(1 )
と解答されている︒
問題の提起
民事執行法の下では︑債権執行に対して配当要求することのできる債権者は︑執行力ある債務名義の正本を有する
債権者等に限られている︵民執一五四条一項︶︒それでは︑この債権者が配当要求した場合には︑どのような効果が生
﹁執行力のある債務名義の正本を有する債権者の配当要求に対しては︑差押債権者の取立てにより︑その分配に
あずかれる権利を認めているが︑差押債権者が積極的に債権の取立てをしないからといって︑配当要求債権者が
一定
の
自らその取立てをすることは許されていない︒この点旧法では︑配当要求債権者が差押債権者に対して︑
期間内に取立ての手続の開始︑続行をするように催告し︑この催告の効果がなければ︑執行裁判所に取立許可の
裁判を求められるとしていたのであるが︵民訴旧六二四条︶︑現行法では︑これを認めていない︒したがって︑差
押債権者が債権執行の申立てを取り下げたとき︑または債権執行手続が取り消されたりしたようなときには︑配
当要求債権者は差し押えられた債権からの分配を受けることができないことになり︑この場合には自ら債権執行
しかし︑この解答には︑直ちに幾つかの疑問が沸いてくる︒まず︑﹁⁝⁝配当要求に対しては︑差押債権者の取立て
により︑その分配にあずかれる﹂との説明であるが︑ごく正常な経過を考えてみると︑配当要求が却下されることな
く認められれば︑配当要求があった旨の文書が第三債務者に送達され︵民執一五四条二項︶︑送達を受けた第三債務者 じるのであろうか︒この点について︑例えば︑
三四
6 ‑ 2 ‑204 (香法'86)
債権執行における配当要求の効果(三谷)
が生じてくる︒そもそも︑
三五
という疑問 は︑﹁差し押えられた部分に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託をしなければならない﹂のである︵民執一五六条二項︶︒そして︑供託した第三債務者は︑供託をした事情を執行裁判所に届け出なければならず︵民執一五六条三
︵民執一六六条一項一号︶︒そうすると︑差押債権者の取立てとは関係ないのでは
また︑右に述べたような法の建前からすれば︑配当等の実施の手続が開始されることになるが︑﹁差押債権者が債権
執行の申立てを取り下げたとき︑⁝⁝配当要求債権者は差し押えられた債権からの分配を受けることはできないこと
にな﹂るのであろうか︒配当等の実施後の債権執行の取下げによっても︑手続は全て消えてしまうのか︑
この段階で債権執行の取下げが認められるのであろうか︒
本稿は︑このような疑問を解消すべく︑債権執行における配当要求の効果に関する二︑三の問題を取り扱っている︒
( l
)
斎藤秀夫編・講義民事執行法(‑九八一年︱一月三
0
日︑青林書院新社︶三二八頁︹渡辺綱吉︺︒この本の模範となったと思われる、田中康久•新民事執行法の解説(-九七九年八月二五日、金融財政事情研究会)二六一頁(〔増補改訂版〕(一九八0年一0月六日︑金融財政事情研究会︶三二九頁︶も同様である︶も︑﹁執行力のある債務名義によって配当要求をした債権者は︑新法では︑
旧法と異なり︵旧法では︑差押債権者が取立てを怠るときは︑裁判所の許可を受けて︑自ら取立てできることとされていました︶︑
単に分配にあずかれる権利しか有していませんので︑差押債権者が取立てに努力しないときは︑特段の措置を採ることができず︑
差押債権者が債権執行の申立てを取り下げたり︑債権執行手続が取り消されたりすると︑被差押債権からの分配にあずかれないこ
とになります︒﹂と主張されている︒
( 2
)
石川明編・民事執行法(‑九八一年一
0
月三
0
日︑青林書院新社︶二六二頁︹栂善夫︺︑深沢利一・民事執行の実務中(‑九八三年
一
0
月三
0
日︑新日本法規出版︶五三九頁は︑第三債務者の供託前の取下げを前提としている︒ない
か︑
という疑問が一っ出てくるであろう︒
項 ︶ ︑
かくて︑配当等が実施される
6‑2 ‑205 (香法'86)
2
取立ての範囲と支払を受ける範囲取立権と配当要求債権者
民訴旧六二四条は︑﹁差押債権者取立手続ヲ怠リタルトキハ執行カアル正本二因リ要求シタル各債権者ハ一定ノ期間
内二取立ヲ為ス可キコトヲ催告シ其催告ノ効アラサルトキハ執行裁判所ノ許可ヲ得テ自ラ取立ヲ為スコトヲ得﹂と定
めて
いた
︒
そして︑強制執行法案要綱案︵第一次試案︶第百三十四の︵注︶山及び強制執行法案要綱案︵第二次試案︶第二百︱︱︱
十の
4
は︑類似の規定を設けていた︒しかし︑この制度は廃止され︑民事執行法には︑これに該当する規定は存しない︒その理由は︑配当要求債権者は
ということを徹底させたからのようである︒他の債権者の手続に乗って単に分配に与かれる権利しかない︑
ところで︑差押債権者が差押債権を取り立てることができるのは︑債務者に対して差押命令が送達された日から一
週間を経過してからである︵民執一五五条一項本文︶︒取立ての範囲は︑差押えの範囲︵民執一四六条一項︶との関係
で問題がある︒例えば︑債権者が請求債権額
( 1 0 0
万円︶を超えて差押債権(‑口で︱二
0
万円︶の全部についての差押命令を得たとしよう︒民執一五五条但書が﹁差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることが
できない﹂と定め︑支払を受けた額の限度で弁済の効果が認められているのであるから︵民執一五五条二項︶︑
1
民訴旧六二四条
三六
たとえ
6 ‑ 2 ‑206 (香法'86)
債権執行における配 廿要求の効果(;.谷)
それでは︑競合債権者が配当要求債権者である場合にはどうであろうか︒配当要求債権者は︑差押債権者と異なり︑
そもそも第三債務者から直接取り立てる権限はないのであるから︑取立訴訟を起こす資格はない︒
のあった旨を記載した文書の送達を受けた第三債務者は供託義務があり︵民執一五六条二項︶︑文言上︑
は︑手続上の義務とはいえ︑供託に利害関係を有する配当要求債権者に対しても負っていると解することができる︒
4
義 務 供 託
七条
四項
︶︒
押債権者が存在する場合には︑ のではないのである︒したがって︑ それはともかくとして︑
3
差押債権の全額(一―10~円︶を取り立てても︑上述の範囲を超える額
( 1 1 0
万円
︶
る︒執行裁判所へ提出すべき規定は存しないからである︒
直接取立て は債務者へ返還することにな
このような恙押債権者の直接取立ては︑常にできるわけではない︑
三七
この供託義務 ということを注意しな
ければならない︒直接取立てが可能であるのは︑民執一五六条一声項から明らかなように︑債権者が競合しない場合だ
けである︒差押命令等の送達を受けた後に第こ債務者が取吃てに応じたとしても︑競合債権者に対抗できないのであ る︒第三債務者は二重弁済を強いられることになる︒他の債権者は︑取立てをした差押債権者から取り立てたりする
この場合には︑取り立てた金員の分配に与かれる権利があるのではない︒他に差
一部の差押債権者の取立てに応じても︑第三債務者は︑他の差押債権者からの供託要
求を拒否できないのである︒すなわち︑他の差押債権者は︑取立訴訟を提起して︑供託させることになる
︵民
執一
五
しかし︑配当要求
6‑2‑207 (香法'86)
5
そうすると︑配当要求債権者は︑供託しない第三債務者に対して供託を求める訴訟を提起する資格のあることが認められるであろう︒取立訴訟において供託の方法による主文の場合には︵民執一五七条四項︶︑通常の金銭執行の方法によって強制執行することができる︒ところが︑配当要求債権者には取立権がないのであるから︑通常の金銭執行によることはできない︒差押債権者と配当要求債権者との関係は債権者・債務者の関係にはないから︑配当要求債権者が
債権者代位権によって取立訴訟を提起する資格はない︒そこで︑供託義務を実効あらしめるためには︑特に執行力あ
る債務名義の正本を有する債権者しか配当要求する資格がないのが原則であるから︑民執一五七条四項及び五項を類
推適用する以外に方法はない︑ということになろう︒
配当要求の時期と配当要求文書送達の時期のずれ
次に︑差押債権者が取り立てた金員に対して︑配当要求債権者が自己への分配を要求できる場合が考えられる︒そ
れは︑執行裁判所に対して配当要求する時期と配当要求があった旨を記載した文書の第三債務者への送達時期との間
にずれがある場合である︒すなわち︑配当要求は執行裁判所へ申し立てた時にその効力が生じるのであるが︑第三償
務者への文書送達までの間に︑差押債権者に取立てに応じて第三債務者が支払をしてしまった場合である︒この場合
には︑第三債務者の支払は有効であり︑差押債権者が支払を受けた時点で執行は終了しているのであるから
︵ 民
執 一
( 1 2 )
五五条二項︶︑結局︑配当等の手続は実施されず︑したがって︑配当要求債権者は︑配当に与かれないことになる︒し
かし︑配当要求債権者は︑配当等の手続が実施されないのではあるが︑支払を受けた差押債権者に対して︑自分が配
当を受けることのできた額に相当する額の支払を要求できると解すべきではなかろうか︒第三債務者による支払は︑
第三債務者の免責に本来の意義があるのであって︑取立債権者と配当要求債権者との間の関係まで律するものではな
三八
6‑2 ‑208 (香法'86)
債権執行における配当要求の効果(̲:. 谷)
必要も全くないのである︒
三 九
︵民執一五六条一項の また︑差押債権者の支払を受けることのできる額が︑差し押えられた債権額よりも少なかったとしても︑残額を執
行裁判所へ提出して︑その後は裁判所が処理するという規定も存しない︒すなわち︑残額があるとしても︑配当等の
手続が実施されるわけでもないのである︒もちろん︑残額がない場合でも︑取立金を裁判所に提出する義務も︑
その
このように考察してくると︑民事執行法の下では︑差押債権者の取立金に対して配当要求債権者が︑取立後に配当
手続による配当を受ける機会は存しないことになるのではなかろうか︒
ただ︑差押債権者からの取立てがなくても︑第三債務者は供託する権利はあるのであるから
いわゆる権利供託︶︑配当要求のあった後で配当要求のあった旨の文書の送達があるまでの間に第三債務者が権利供託
した場合には︑配当等の手続が実施されるのであるから︵民執一六六条一項一号︶︑配当に与かることができよう︒こ
( 1 6 )
の点に関し︑第三債務者の供託の場合にも︑配当要求債権者は無視される︑と説くものがある︒しかし︑供託された
場合には︑第三債務者から供託の事情届が執行裁判所に提出され︑しかもその時点には執行裁判所には配当要求のあ
ったことが判明しているはずであるから︑当然に配当等の手続が実施されるであろう︵民執一六六条一項一号参照︶︒
したがって︑第三債務者が供託した場合についてまで配当要求債権者が無視される︑とはいえないのではなかろうか︒
( 3 ) この規定については︑﹁有名義債権者がすべて差押命令および取立命令を求める取扱が一般化しているため︑本条の取立許可の裁 判が利用されることは稀である。」と指摘されている(鈴木忠1•三ヶ月章・宮脇幸彦編集・注解強制執行法②(-九七六年二月
︳一五日︑第一法規出版︶四七八頁︹宮脇︺︒
︑4
1
‑l
いで
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う︒
6‑2 ‑209 (香法'86)
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( 4
)
( 5 ) ( 6
)
( 7
)
( 8 ) ( 9
)
3
﹁差押債権者が取立金の供託義務を履行しないときは︑執行裁判所は︑他の債権者の申立てにより︑取立債権者に対し︑その取立 金の供託を命ずるものとし︑この供託命令は︑執行力のある債務名義と同一の効力を有するものとすべきか︒﹂というのが︑検討
課題とされていた︒
第二次試案の第二百三十は︑﹁取立ての届出及び提出命令﹂と題して︑
﹁1
取立命令に基づき取立てをした差押債権者は︑遅滞なく執行裁判所に取立ての届出をしなければならないものとすること︒
2
債権につき差押えが競合する場合においては︑差押債権者は︑その取立金を執行裁判所に提出しなければならないものとす
るこ
と︒
差押債権者が前項により取立金を提出しないときは︑執行裁判所は︑配当にあずかることができる債権者の申立てにより︑
取立てをした債権者に対し︑当該取立金を執行裁判所に提出すべき旨を命するものとし︑この提出命令は︑執行力のある債務
名義と同一の効力を有するものとすること︒
4
前項の提出命令を得た債権者がその執行を怠るときは︑配酋にあすかることができる他の債権者は︑当該提出命令を得た者 に対し︑相当の期間内にその執行をすべきことを催告することができるものとし︑その催告の効果がないときは︑執行裁判所 の許可を得て︑自らその提出命令に基づき強制執行をすることができるものとすること︒
5略
6
略 ﹂
と定め︑︵注︶において︑﹁取立金を供託するものとすべきか否かについては︑なお検討すること︒﹂とされていた︒
田中・解説二六一頁︵︹増補改訂版︺三二九頁︺︑深沢・中五一↓一九頁︒
一週間経過することによって取立権が発生するのか︑それとも︑差押命令が効力を生じたときに取立権は既に発生し︑取立権の行
使が[週間経過するまで制限されているかの問題については︑山口繁﹁差し押えた債権の取立てと転付﹂竹下守夫"鈴木正裕編●
民事執行法の基本構造︵↓九八こ年五月:日︑西神田編集室︶四四七頁参照︒
実務では︑申立ての範囲を請求債権額に限定する指導がなされているようである︒座談会民事執行の実務︵一九八一年︱一月一六
日︑
法曹
会︶
一︱
1 0
九頁以下︑村上譲﹁債権差押えの範囲﹂判夕四四五号(‑九八一年九月一五日︑判例タイムズ社︶六七頁︒
民 執 規
:
1一七条一●一号によっても︑届出義務があるのは︑第一ご債務者から支払を受けた額だけである︒しかも︑これは単なる事後報
告の性質を有するにすぎない︒債権執行の本質的部分ではない︒同旨︑最高裁判所事務総局編・条解民事執行規則︵一九八
0
年一
四 〇
6 ‑ 2 ‑210 (香法'86)
債権執行における配当要求の効果(:=.谷)
( 1 0 ) ( 1 1 )
( 1 2 )
( 1 3 )
( 1 4 )
( 1 5 )
( 1 6 )
四
月一八日︑法曹会︶四
0
七貞
︒ この点に関し︑村上博已編著・民事執行︵理論と実務︶卜︵.九八^年.ご月 1四日︑新日本法規出版︶︱
0
二九頁には︑﹁債 権者の取立届によって強制執行は︑終了する︒したがって︑配崎要求はこの取立ての完r
︵第三債務者の支払の完r )
までにしな
ければならない︒Lとある︒第:.債務者の支払い完︐Jは︑債権者の取立届が裁判所に提出されて始めて生じる趣旨にも取れるが︑
もしそうなら︑取立届がなされるまで配甘要求をすればよい︑という見解を採っていることになる︒この見解によれば︑取立届は︑
単なる事後報告ではないことになろう︒
﹁他に競合する差押債権者または配当要求債権者がいる場合は︑第.
t
債務者は^五六条により供託を義務づけられるから︑差押債.
権者の取立権︵自己への支払を求める権限︶は行使できない︒﹂というのは︑竹
F
守夫/上原敏夫/野村秀敏・ハンディコンメンタール民事執行法(‑九八五年:日?
1 0
日︑判例タイムズ社︶.︱‑五;︳頁︹上原︺である︒ただ︑本文でいう直接取立てとぱ︑自己
への支払を︑供託の方法ではなく︑直接に金銭を交付する方法でもって求めることを意味する︒上原氏のいう自己への支払を求め
る権限も︑同じことを意味していると思われるのであるが︑民執こ止七条四項に﹁⁝⁝金銭の支払は供託の方法によりすべき旨
⁝⁝﹂とあるように︑この場合でも差押債権者への支払を命じる主文が最初に掲げられるのであるから︑必ずしも正確な表現では
ないのではなかろうか︒
支払をした第一二債務者と支払を受けた差押債権者との関係で︑支払が有効かどうかは︑別の問題である︒山ロ・基本構造四六七頁
参照
︒
最高裁判所事務総局編・民事執行事件に関する協議要録︵一九八五年八月一五日︑法曹会︶一五三頁︒
反対︑富越和厚﹁新民事執行法における償権執行の実務(﹂NBL︱
1 0
0
号︵一九八0
年一月一日︑商事法務研究会︶六二頁︑山ロ・基本構造四五一頁︒
稲葉威雄﹁償権執行の競合﹂鈴木
1 1三ヶ月監修・新・実務民事訴訟講座
1 2
︵一九八四年九月二
0
日︑日本評論社︶四0
五頁以下参村上編著・上一〇六一頁も︑取立金に対しても配当に与かる権利がある︑という︒ 照 ︒
住吉博・民事執行法入門(‑九八
0
年五
月︱
1 0
日︑法学書院︶ニニ五頁には﹁配当要求はなされているが︑いまだその文書は第三
債務者に送達されていないという中間の時期に︑第三債務者が差押債権者の取立に応じて支払ったり︑任意の供託(‑五六条一項
の方︶をしたりすることもありうるが︑これは適法であり︑それぞれ弁済または供託として有効視される︒つまり︑配当要求債権
6 ‑ 2 ‑211 (香法'86)
者は無視される結果となる︵一六五条一項および一五六条一項︑二項を総合して理解せよ︶﹂とある︒供託により事件は終了する︑
として同旨を説くのは︑村上編著・上一〇六
0
頁で
ある
︒ ( 1 7 )
配当要求債権者が供託金より配当等を受けることができる︑と明言しているものに︑竹田稔・民事執行の実務
I I
︵一九八一年一〇
月一五日︑酒井書店︶四三四頁︑深沢・中五三八頁︑最高裁判所事務総局編・協議要録一五三頁及び一六三頁がある︒
いつまでできるのであろうか︒強制競売の申立ての取下げについては︑民執七六条
が定めている︒すなわち︑買受けの申出があるまでは︑差押債権者は自由に取下げができるが︑買受けの申出があっ
た後の取下げについては︑最高価買受申出人︑買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならないのが原則で
ある︒これは︑同意を得なければならない人々の期待権を守るためである︒
民事執行法︵仮称︶案要綱の第一︑二四②
2 3
には︑﹁差押債権者は︑債権の取立てをするまで︑又は第三債務者が債務額の供託をするまでの間は︑差押命令の申立てを取り下げることができるものとすること︒﹂という規定があったが︑
右に述べたような種類の規定が設けられなかった理由は明確ではないが︑少なくとも︑他の債権者との競合がなく︑
1
債権者の競合がない場合
民事執行法案及び成立した民事執行法には︑この種の規定は存在しない︒ 債権執行の申立ての取下げは︑
執行申立ての取下げ
四
6 ‑ 2 ‑212 (香法'86)
{責権執行における配当要求の効果(三谷)
この場合の供託は︑もちろん義務供託である
︵民
執一
五六
条二
項︶
︒
差押債権者が差押債権を直接取り立てたときは執行は終了するから︑
に対して何の影響も与えない︒したがって︑
四
そのとき以後の執行取下げは意味がなく︑執行
その時点までは︑債権執行も自由に取り下げることができる︑と解して
もし第三債務者が権利供託をした後で事情届をする前に債権執行を取り下げる書面が裁判所に提出された場合はど
うであろうか︒この場合には︑もちろん第三者の供託は有効なものとして︑すなわち︑第三債務者は弁済したものと
して免責されることになる︒あとは︑供託された金銭の行方だけが問題になる︒供託金は債務者の取得するところと
( 1 8 )
なる︒そして︑債権者の取下げ後︑取下げの通知︵民執規一四条・一三六条一項︶が第三債務者になされる前に権利
供託がなされた場合には︑権利供託の要件を欠くものとして︑錯誤によって第三債務者が供託金の取戻請求ができる︑
( 1 9 )
との説が唱えられている︒
そこで︑次に︑配当要求債権者がいる場合であるが︑第三債務者の供託の前後に分けて考察するのが便宜であろう︒
まず︑義務供託する前に債権執行の取下げがなされた場合である︒具体的に述べると︑債権執行が有効になされ︑
配当要求も有効になされて︑配当要求があった旨を記載した文書の送達を第三債務者が受けて︑供託する前に債権執
行取下げの通知が第三債務者のところに届いた場合である︒配当要求債権者がいるからといって︑
債権執行の取下げが拘束される根拠はないから︑債権執行の取下げは有効であり︑
ては配当に与かることはできない︒配当すべき対象は存在しないのである︒
2
配当要求債権者がいる場合 も妨げはないであろう︒それだけの理由で
したがって︑配当要求債権者とし
6‑2 ‑213 (香法'86)
である︒配当要求債権者がいるから︑
とし
ても
︑
それは︑第三債務者の免 そして︑債権執行の取下げ後︑取下げの通知が第三債務者になされる前に義務供託がなされた場合にはどうか︒この場合の供託は有効と解されるから︑供託金に対して︑配当要求債権者が配当に与かれそうである︒しかし︑供託が有効だというのは︑第三債務者にとって︑債務の弁済として有効だという意味である︒したがって︑ら︑供託金について配当等の手続が実施されることはないのである︒
ここで
この場合
の供託金の所有権は執行債務者に属するのであって︑配当の対象となるものではない︒執行の取下げも有効であるか
そこで︑最後に問題となるのは︑義務供託がなされた後に︑債権執行取下げの書面が執行裁判所に提出された場合
この場合には︑配当等の手続が実施されることになる︒このような場合の取下
( 2 0 )
げについては︑﹁配当等の額の受領権の放棄とみな﹂すと解し︑より詳しく︑﹁配当表の確定に至るまでは配当等を受
( 2 1 )
けるべき債権者の権利の放棄︑配当表確定後は配当等の受領権の放棄と解﹂する説がある︒しかし︑これに対しては︑
﹁取下げとして扱っても特に問題はない︵もちろん︑第三債務者のした供託等の効力に影響しない︒︶﹂との主張もなさ
( 2 2 )
れている︒特に問題がないといえるのか疑問がある︒供託の効力に影繹はない︑
責の効果に影脚がないにすぎないのではないか︒債権執行の申立て後︑配当等の手続がなされうる根拠たる申立てが
取り下げられたというのであれば︑配当等の手続は直ちに取り止めるべきであろう︒したがって︑
( 1 8 ) 供託金を現実に債務者が取得する方法については︑山ロ・基本構造四五八頁参照︒
( 1 9 )
山l.基本構造四五六頁参照︒もっとも︑債務者への払渡しが可能かどうかについては明確でない︒ 理論的には︑供託
後の取下げを認めず︑取下書と記載された書面が提出されても︑配当受領権等の放棄と解釈して︑放棄として処理す
べきであるように思われる︒
四四
6 ‑ 2 ‑214 (香法'86)
{責権執行における配当要求の効果(三谷)
四 五
( 2 0 )
田中・解説︹増補改訂版︺三一
0
頁 ︒ ( 2 1 )
村上編著・上九九七頁︒
( 2 2 ) 鈴木
1 1三ヶ月編集・注解民事執行法④(‑九八五年九月三
0
日︑第;法規出版︶三九四頁︹稲葉︺︒座談会民事執行の実務三四九貞以下の議論も同旨゜
( 2 3 )
竹田
・
1 1 四四三頁は︑﹁供託後でも配当等の実施までは取下げることができる﹂と解している︒
6 ‑ 2 ‑215 (香法'86)