インターネット社会における企業と消費者のネット ワーク形成とその関連性
著者 齋藤 敦
雑誌名 同志社商学
巻 60
号 5‑6
ページ 86‑101
発行年 2009‑03‑15
権利 同志社大学商学会
ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007400
インターネット社会における企業と 消費者のネットワーク形成とその関連性
齋 藤 敦
蠢 本稿の意図
蠡 日本におけるインターネットの展開とブロードバンド化
蠱 日本企業のネットワーク形成による電子商取引と企業行動の新たな展開 蠶 電子商取引と消費者のネットワーク形成
蠹 企業,消費者ネットワークの形成とその関連性
Ⅰ 本稿の意図
現代における「情報化社会」では,人と人,人と組織が日々コンピュータなどの電子 機器を介して情報のやり取りをしている。個人では,特にインターネットが出現して電 子メールでのコミュニケーションが行われた
1
り,様々なホームページから文字や映像の 情報を得た
2
り,インターネットを介して買い物することもできるようになってきてい
3
る。また移動電話によって音声コミュニケーションだけではなく,電子メールのやり取 りやインターネットとの接続による動画情報のやり取りさえユビキタスでできるように なっているのであ
4
る。さらに今日インターネットを介して,そこかしこでコミュニティ の形成もなされつつあ
5
る。すなわち「情報化社会」が個人の生活を豊かにしているので ある。
他方,企業などの組織は,情報処理の進展とインターネットの出現によって,購買,
生産,販売,会計,人事など様々な企業内の業務に関する情報を全社的に管理するよう な情報システムを構築することが可能とな
6
り,そのシステムを基盤として他社や個人と の取引が可能となって,これによりマーケティング,購買管理,顧客サービス,新製品 開発,在庫管理,コスト削減など様々な目的のために業務の効率化をはかることができ
────────────
1 松岡正剛,金子郁容,吉村伸著『インターネットストラテジー』ダイヤモンド社,1995年,22ペー ジ。
2 電通総研編『情報メディア白書2006』ダイヤモンド社,2005年,180ページ。
3 財団法人インターネット協会『インターネット白書2004』インプレスネットビジネスカンパニー,2004 年,153−161ページ。
4 電通総研編『情報メディア白書2006』,前掲書,162−169ページ。
5 松岡正剛,金子郁容,吉村伸著,前掲書,16−17ページ。
6 定道宏『ビジネス情報学概論』オーム社,2006年,2, 3ページ。
86(278)
るようになってい
7
る。つまり各業務・システムにおいて利用するデータが体系的に示さ れるようになり,これを用いて業務内容の改善やとるべき方策の策定ができるようにな ってきたのであ
8
る。すなわち「情報化社会」が企業の業務を効率化しているのである。
本稿では,日本におけるインターネットという高度情報通信ネットワークの展開と,
その展開の中で企業と消費者を含む市民社会においてネットワークがいかに形成されて きているか,および両者はどうかかわるかについての検討を課題とする。
Ⅱ 日本におけるインターネットの展開とブロードバンド化
世界的に固定電話において,データ伝送等の基盤となるインターネットが発展する礎 を開くこととなったのは,1993年に米国で打ち立てられた情報スーパーハイウェイ構 想である。1993年1月に米国副大統領に就任したアルバート・ゴア・ジュニアは,20 世紀を支配したメディアは,出版にしても放送にしても,映画にしても,同じようなピ ラミッド型の構造をもっており,中央に機能を集中させて,莫大な投資を必要とする装 置産業化し,情報の流通を統制してきたが,パーソナル・コンピュータ(パソコン)と いうインテリジェントなディジタル端末を前提として,分散型のオープンでフラットな ディジタル・ネットワークである情報スーパーハイウェイを構築することで,中央への 機能集中の流れをとき,情報の流通を自由に行わせる構想を打ち出した。これが情報ス ーパーハイウェイ構想であり,この路線は,クリントン政権で1993年9月に「全米情 報基盤 行動アジェンダ」が発表されて,米国政府の方針として推進されることとなっ
9
た。
そして,この構想は,日本の旧郵政省が1994年1月に2010年までに56兆円市場と 240万人の雇用の創出を目指すという政策を打ち出
10
すなど,世界中に波及し,各国で同 じようなプロジェクトが展開されて,世界的なネットワークの構築へと発展するのであ る。
その後,日本では1995年にウィンドウズ95が発売されるに及び,素人にも簡単に扱 えるパソコン・インターネットが各家庭に登場し,インターネット人口を爆発的に拡大 させることとなり,「インターネット元年」と呼ばれるような状況が生じることとな る。このことについては第1図,第2図で確認することができる。まず,ウィンドウズ
────────────
7 ウイリアム・ラップ著,柳沢享,長島敏雄,中川十郎訳『成功企業のIT戦略』日経BP社,2003年,
46ページ。
8 情報通信総合研究所編『情報通信ハンドブック2005年版』情報通信総合研究所,2004年,18ページ。
9 アルバート・ゴア・ジュニア他著,浜野保樹監修,門馬淳子訳『情報スーパーハイウェイ』電通,1994 年,5−6, 21−22, 30ページ。
10 江戸雄介『情報スーパーハイウェイの覇者』ディーエイチシー,1994年,159ページ。
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0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000
1994年 1995 年
1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
億円 パソコン市場
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
1994年 1995 年
1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
億円 インターネット
接続市場
95が発売された1995年には,第1図に見られるように,日本のパソコン市場は前年比
47.3% という大きな成長を見せるが,このパソコン市場の急速な成長に合わせて,第2
図に見られるように,インターネット接続市場は1995年には前年比144.7% の増加を 見せており,その後の時期にも見られないような大きな成長を示している。
続く,1996年頃には,小型のモジュラージャックを採用し,電話機,ファクシミ リ,データ端末,画像端末など,全ての端末に共通して使えるようにしたISDNが大幅 に普及し,これによって宅内系の配線がすっきりしたものになってい
11
る。
さらに1999年12月以降,既存の電話線(銅線)を利用した高速ディジタル通信技術 で,上りと下りの通信速度が非対称であるが,廉価で高速通信サービスを提供すること ができるADSLが急速に普及している。また,2001年には,家庭までの加入者回線を 光ファイバーで構築するサービスであるファイバー・トゥー・ザ・ホーム(FTTH)が 本格的に展開された。このADSL, FTTHの他,CATV事業者も,高速で低価格なイン ターネットを提供してい
12
る。以上ADSL, FTTH, CATVの3つによって,日本でも従来
────────────
11 井上伸雄『通信の最新常識』日本実業出版社,1993年,28−29ページ。
12 日本情報処理開発協会編『情報化白書2002』コンピュータ・エージ社,2002年,290, 292−293ページ。
第1図 パソコン市場の年別推移
出典:電子情報技術産業協会『パーソナルコンピュータに関する調査 研究報告書』各年版をもとに筆者作成。
第2図 インターネット接続市場の年別推移
出典:デジタルコンテンツ協会『デジタルコンテンツ白書』各年版,
総務省『情報通信白書』各年版をもとに筆者作成。
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88(280)
0 5 10 15 20 25
1990年 1992年
1994年 1996年
1998年 2000年
2002年
兆円
0 5 10 15 20 25 30
%
情報化投資 の金額 対民間設備 投資比率
のナローバンドよりも大容量の情報を伝達できるブロードバンドが進展することとなっ た。このブロードバンド化によって,第2表に見られるように,日本では2001年にイ ンターネットの普及の拡大が見られるのであり,このようなことから,日本では2001 年を「ブロードバンド元年」と位置づけている。
Ⅲ 日本企業のネットワーク形成による 電子商取引と企業行動の新たな展開
1.日本企業の情報化と企業内・企業間ネットワーク形成
日本のインターネットの普及状況を見てみると,第2図に見られるように,「インタ ーネット元年」の1995年に大きく進展し,加えて「ブロードバンド元年」の2001年頃 に再び急展開を見せている。前者は,上述したようにウィンドウズ95の発売をきっか けにパソコンによるインターネットの利用が簡易化したことによるのであり,後者は ADSLなどのブロードバンド技術の普及によるところが大きい。
このような状況の中で,日本の民間企業は同時期,電気通信機器,コンピュータ本体 や付属装置,およびソフトウェアを中心
13
に,第3図のような情報化投資を行ってきてい る。この第3図からは,日本の民間企業の情報化投資は上述の2つの時期に急激に増加 していることがわかる。
このとき,とくに「ブロードバンド元年」の2001年前後までの時期の情報化投資が どのような目的で行われたかを見ると,企業全体においても,製造業,非製造業におい ても,「事務処理の省力化・迅速化」と,「部門内・企業内での情報伝達」が最も求めら れている。つまり,コンピュータによる事務処理の効率化の推進と,企業内での情報ネ ットワークの構築がなされたと見ることができるのである。一方,情報化投資の効果を
────────────
13 総務省編『平成19年版情報通信白書』ぎょうせい,2007年,11ページ。
第3図 日本企業の情報化投資額と設備投資における比率
出典:総務省編『平成16年版情報通信白書』ぎょうせい,130ページよ り筆者作成。
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企業内ネットワーク
サプライヤー メーカー 流通業者
資材調達 →生産 →販売/物流
発注 発注
供給 供給
企業間ネットワーク 企業間ネットワーク
企業内ネットワーク 企業内ネットワーク
見ると,「事務処理の省力化・迅速化」,および「部門内・企業内での情報伝達」が最も 高くなっているが,製造業において,これらに加えて「生産の効率化」,「企業間の決済 や受発注の効率化」にも高い効果がもたらされたとの認識が多くなってい
14
る。このこと は,原材料の供給元から納入を受け,生産をし,販売先へと流す一連のサプライチェー ンの流れが構築されてきていることの表れと考えられるだろう。つまり,第4図のよう に,企業内にネットワークが形成され,かつメーカーが原材料の供給元(サプライヤ ー)や販売先(流通業者)と結びつく企業間ネットワークが構築されてきてい
15
ることを 表すと考えられるのである。つまり,企業は2001年前後までのインターネットの急激 な普及に対して,企業内情報ネットワークと企業間情報ネットワークを構築してきてい るのである。
2.電子商取引の発展
上述のように,グローバル競争の進展に対する経営の効率化と,企業活動全体の同期 化のために,サプライヤー・メーカー・流通業者・消費者間を高度情報通信ネットワー クで結んだ第4図のような企業内,企業間ネットワークが構築されるという動きさえ出 始めている。さらに,コンピュータを使って,この企業内,企業間ネットワーク全体を 統合的に管理するシステムを構築しようとするサプライチェーン・マネジメント(Sup- ply Chain Management:以下SCM)の動きも合わせて生じてきている。このとき,イン トラネットを使って企業内では企業内ネットワークが構築され,さらにそれがサプライ ヤーや流通業者とインターネットを通じて企業間ネットワークを作り上げているのであ る。そしてメーカーや流通業者が消費者との間でインターネットを介して結びつこうと しているのである。
このとき,上述のようなインターネットの発展にともなって,1990年代以降,企業 はインターネットを用いて電子商取引を行うようになってお
16
り,インターネット人口の
────────────
14 日本情報処理開発協会『企業における情報化動向に関する調査(平成15年度)』日本情報処理開発協 会,2004年,24, 29ページ。
15 このとき,資材の調達から最終消費者に届けるまでの資材や部品の調達・生産・販売・物流といった業 務の流れを統合して,全体を一つのバーチャル企業のようにとらえて全体を管理するやり方がとられる ことになる。
16 日本情報処理開発協会編『情報化白書1998』コンピュータ・エージ社,1998年,40ページ。
第4図 企業内,企業間ネットワークの展開
出典:SAPジャパン『R/3 Systemアプリケーション概要』SAPジャパン資料,34ページより筆者作成。
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90(282)
0 20 40 60 80 100 120
1998年 1999年
2000年 2001年
2002年 2003年
2004年
兆円
0 20 40 60 80
% 市場規模
成長率
0 10000 20000 30000 40000 50000 60000
1998年 1999年
2000年 2001年
2002年 2003年
2004年
億円
0 100 200 300 400 500
% 市場規模
成長率
増加の中で,米国を中心に企業のネット販売や企業間取引の急速な成長スピードは注目 に値するものであると指摘されてい
17
る。この電子商取引の急速な成長は米国だけのもの ではなく,第5図,第6図に見られるように,日本においても急速に成長しているので ある。
この電子商取引に関しては,書籍,パソコン,衣料,食品の販売などオンライン・シ ョッピングや,自動車,旅行の情報仲介・購買支援等,様々なものが考えられ
18
る。これ らを取引に関わる関係者という視点で分類すると,主として,電子商取引としては,サ プライヤーとメーカー,流通業者間の企業間ネットワークにおいてなされる取引(Busi- ness to Business:以下「B to B」)と,メーカーや流通業者と消費者との間でなされる取 引(Business to Consumer:以下「B to C」)に区分される。
このとき,上述したように,日本のインターネットの普及状況は,「インターネット 元年」の1995年に大きく進展し,加えて「ブロードバンド元年」の2001年頃に再び急 展開を見せており,この2つの時期に日本企業は情報化投資を行ってきている。そして
────────────
17 夏目啓二「『インターネット経済』の光と影」,『経済』200年1月号,新日本出版社,2000年,31ペー ジ。
18 インターネットビジネス研究会『インターネットビジネス白書2000』ソフトバンクパブリッシング,1999 年,28−128ページ。
第5図 日本の電子商取引(B to B)市場規模と対前年成長
(注)1999年はB to B市場規模調査未実施のため,1998年調査の予測値を記載 出典:経済産業省商務情報政策局情報経済課「平成16年度電子商取引に関する
実態・市場規模調査」,経済産業省,2005年,14ページ。
第6図 日本の電子商取引(B to C)市場規模と対前年成長率の年別推移
出典:経済産業省商務情報政策局情報経済課「平成16年度電子商取引に関する 実態・市場規模調査」,経済産業省,2005年,21ページ。
インターネット社会における企業と消費者のネットワーク形成とその関連性(齋藤)(283)91
この情報化投資の中で,企業内,企業間ネットワークが形成されてきているのである。
そこで,これらの時期に電子商取引がどのような市場規模の推移を見せたかを第5図,
第6図から検討することにする。
残念ながら経済産業省の電子商取引に関する調査は,1998年以降に行われたもので あり,「インターネット元年」と呼ばれる1995年前後の電子商取引の市場規模のデータ がないが,「ブロードバンド元年」と呼ばれる2001年前後のデータは第5図,第6図で 確認することができる。まず第5図によると,日本の企業間の電子商取引であるB to Bの市場規模は「ブロードバンド元年」前の2000年に最大の成長を見せていることが 分かる。つまり,「ブロードバンド元年」頃の時期における企業の情報化投資の盛り上 がりによって形成された企業内,企業間ネットワークを通じて,物品やサービスが取引
されるB to Bが確実に大きな成長を見せたと言えるだろう。
さらに,第6図を見ると,メーカーや流通業者などの企業と消費者との間の電子商取 引であるB to Cの市場規模も,1998, 1999年は非常に小さいものであり,本格的な成 長を示しているのは,2000, 2001, 2002年頃だと言える。つまり,やはり「ブロードバ ンド元年」頃の時期に,上述の企業内,企業間ネットワークが消費者と結びついて,B to Cの本格的な発展が見られたと考えられる。
3.電子商取引の発展と企業側の顧客へのアプローチ
上述のような電子商取引の発展に合わせて,今日企業側では顧客(企業であれ消費者 であれ)に対するアプローチもインターネットを通じて行われるようになり,これに合 わせて製造業などを中心に資材・部品調達,生産管理,在庫管理などの一連の流れにつ いて情報通信技術(ICT)を利用してサプライチェーンとして管理し,電子商取引につ なげていこうとする動きが促進されている。
その意味で,インターネット上では,そもそも顧客がどのような商品,サービスを求 めているのかを調査し販売につなげていく動きや,および商品,サービスの広告に関し て新しい展開が見られるが,ここでは,その新しい動きを概観する。
そもそもインターネットを用いて顧客の需要を調査するやり方としては,低価格で素 早くインターネット上で顧客の需要を調査できることから,アンケート調査やホームユ ーステスト(家庭での商品テスト),インターネット上でグループに意見を交わし合っ てもらう中で情報を収集するグループインタビューなどのインターネットリサーチがあ る。この方法は,特定商品を所有しているなど調査対象の条件設定がしやすく,画像・
音声を用いた調査も可能であり,調査対象の地理的制約もないことなどから,日本でも 1995年から試験的に行われるようになり,とくに2000年頃から本格的に発展してきて い
19
る。
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92(284)
その他,インターネットを用いた市場調査を販売拡大につなげるやり方としては,顧 客との信頼関係を高めて親密度の高い顧客を創出し,業績の向上につなげる(Customer Relationship Management : CRM)ため,情報通信技術(ICT)を用いて,いつでも誰で も顧客とのコンタクト情報を参照しできるように,顧客とのコンタクト履歴をデータベ ース化し,そのコンタクト履歴を使って顧客一人一人の特性にマッチした商品・サービ スの提示をするワン・トゥ・ワン・マーケティングがあ
20
る。これは,この例として「イ ンターネット元年」の1995年に開業したアメリカのアマゾン・ドッド・コ
21
ムを挙げる ことができるだろう。アマゾンはワンクリックによってオンライン注文ができることか ら,低価格,豊富な品ぞろえ,スピード配送,きめ細かい顧客サービスができて,急成 長した企業であ
22
る。とくに同社は「この本を購入した人は,こんな本も買っています」
という,読者の好みに応じて本を紹介するリコメンデーション・サービスによって,ベ ストセラーではないニッチ商品的な本を多く販売することができたことから,ベストセ ラー本だけではなくそれらの売上の集積によって多大な収益を生み出すロング・テール 現象を作り出しているのであ
23
る。ただし,同社が営業利益をあげられるようになったの は,2002年からであり,その後順調に利益を出してい
24
る。
これに対し,インターネット上で広告をする形態が出始めたのは1994年からである が,インターネット広告会社は主として1996年から立ち上げられたものが多
25
い。ネッ ト広告の形態として最も古く,一般になじみ深いのがバナー広告で,長方形の枠内に企 業等の広告画像を表示し,そこをクリックすることでユーザーを広告主のページに誘導 できるような仕組みになっている。また1999年頃からメールマガジンやメールニュー スが数多く発行されるようになり,これらの媒体を対象にし,本体コンテンツ間に広告 を挿入した形態のメールマガジン広告も急増している。
この他,成果報酬型広告(アフィリエイト広告)もある。これは,出稿したい広告主 と広告を掲載したいメディアの両方が,アフィリエイト・サービス・プロバイダーに登 録し,アフィリエイト・サービス・プロバイダーは両者のマッチングを行い,適切な広 告をメディアに掲載して,出稿された広告を経由して広告主のページにたどり着いた顧 客が購買や資料請求を行うと,その報酬が広告主から支払われる仕組みとなっている。
────────────
19 酒井隆,酒井恵都子『図解インターネットリサーチがわかる本』日本能率協会マネジメントセンター,
2007年,22−23, 30−31ページ。
20 杉本英二『新版インターネット時代の情報システム入門』同文舘出版,2008年,203−204ページ。
21 森健『グーグル・アマゾン化する社会』光文社,2006年,93ページ。
22 日本情報処理開発協会編『情報化白書2001』コンピュータ・エージ社,2001年,70ページ。
23 村田潔「ネット・ビジネス」,遠山暁,村田潔,岸眞理子『新版経営情報論』有斐閣,2008年,194−195 ページ。
24 アマゾン・ドット・コム資料。
25 株式会社オプト,ETIM研究所編『インターネット広告による売上革新』同文舘出版,2006年,7ペー ジ。
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0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000
1999年1月 2000年1月
2001年1月 2002年1月
2003年1月 2004年1
月 2005年1
月 2006年
1月 2007年1月
2008年1月
団体数
0 20 40 60 80 100 120 140 160
% NPO認証数
対前年増加率
さらには,検索エンジンで何かのキーワードを検索すると,検索結果の画面上に,その キーワードと関連した広告が表示される検索連動型広告や,サイトの内容に関連性の高 い広告が自動配信されるコンテンツ連動型広告などがあ
26
る。
これら様々な形態が生み出されてきているインターネット広告の市場は,日本におい ては2000年以降500億円を越え,以後順調に拡大をしてきてい
27
る。
以上のように,インターネット上で顧客の需要を調査するインターネットリサーチ も,顧客の過去の購買履歴を利用して商品・サービスの提示を行うワン・トゥ・ワン・
マーケティングも,様々なインターネット広告も,いずれも「インターネット元年」の 1995年以降に生み出され,とくに「ブロードバンド元年」の2001年前後の時期に本格 的に発展していくものである。
Ⅳ 電子商取引と消費者のネットワーク形成
1.市民社会のネットワーク形成
今日,企業セクターや行政セクターに属さない,市民セクターという概念が提唱され てきており,その市民セクターに属する人々の中で,企業等の商品・サービスを購買す る人々が消費者という側面を持つことになる。そのような市民セクターに関して,近年 日本でも全国各地で特定非営利活動法人(NPO)が設立されている。NPO自体日本で は1999年以降に設立されるようになったのであるが,第7図に見られるように,イン ターネットの普及の急激な進展が見られた2001年前後の時期に,NPOの認定数は最も 高い成長率を見せていることがわかる。
市民セクターから生じてくるNPO自体,職業,性別等様々な人の集合体であること
────────────
26 佐藤光紀『Web 2.0時代のインターネット広告 その仕組みから導入まで』日本経済新聞社,2006年,
24−28ページ。
27 電通資料「日本の広告費」。
第7図 日本の特定非営利活動法人(NPO)認証数の推移
出典:内閣府資料より筆者作成。
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94(286)
0 20 40 60 80 100
199 5年
11月 1997年2
月 1999年2
月 1999年11月
2001年3月 2002年6
月 2003年6月
2004年5 月
% 利用経験率
が多いが,これらの人々のライフスタイルは文字通り多様である。したがって,本来,
NPOでの活動をする場合,時間的・空間的制約を受けることが多い。それら制約を受 けざるを得ないNPOのメンバーは,インターネットがなければ議論の輪に参加するこ ともままならず,都合のついたときの議論を知り得るだけで,しばしば最終的に出され た結論を知るのみになりかねない。しかし,今日のインターネット社会では,NPOの メンバーは,最初から最後まで議論に参加することが可能になるのである。つまり,議 論の過程に参加することによって,議論の内容自体に関心を持ち,いつの間にか中に引 きずり込まれてしまうことも往々にしてあり得るのであ
28
る。その意味でも,インターネ ット時代,とりわけ「ブロードバンド元年」と呼ばれる2001年前後の時期に最もこの NPOの数が増加していることは想像に難くない。実際,NPOはインターネット上にホ ームページやブログを解説して,連絡先や活動の沿革および理念,イベント・フォーラ ムの開催情報,活動報告などあらゆる面について,頻繁なところでは週1回以上定期的 に情報発信を行っている。また,NPO自体消費者の保護を図る活動や経済活動の活性 化を図る活動を行っているものもあ
29
り,この「ブロードバンド元年」前後の時期のNPO の数の増加については,上述の企業のネットワーク形成とも大きく関わっていると言え るだろ
30
う。すなわち,市民社会において,「ブロードバンド元年」前後の時期にネット ワークを形成する下地があったのである。
2.消費者の電子商取引の利用
そこで,次に日本の消費者が電子商取引をいかに利用するようになってきているかを 見ることにする。第8図では,日本におけるインターネット・ユーザーの電子商取引の 利用経験率を示している。この図表を見ると,定期的に調査が行われたわけではなく調
────────────
28 岡部一明「NPO活動とインターネット」,山岸秀雄編著『アメリカのNPO』第一書林,2000年,287−288 ページ。
29 内閣府国民生活局「平成19年度市民活動基本調査報告書」内閣府,2008年,7, 9, 17ページ。
第8図 日本の電子商取引の利用経験率の推移
出典:情報通信総合研究所編『情報通信ハンドブック2005』情報 通信総合研究所,2004年,96ページ。
インターネット社会における企業と消費者のネットワーク形成とその関連性(齋藤)(287)95
0 2 4 6 8 10
1997年2 月 1999年2
月 1999年11月
2001年3月 2002年6月
2003年6月 2004年5
月
回数
0 2 4 6 8 10 12 14
万円
平均購入回数 平均購入額
査間の間隔にずれがあるが,日本の電子商取引の利用経験率は,1999年11月時点では 約半数を超えた程度であるが,2001年までに80% を超える水準に達しており,「ブロ ードバンド元年」の時期に高水準の状態まで引き上げられたことがわかる。
また,第9図では,日本の電子商取引における消費者の1年間の平均購入回数と平均 購入額の推移を示している。この図表を見ると,消費者の1年間の平均購入回数の増加 はなだらかな上昇傾向を示しているが,平均購入額については,2001年3月以後2002 年6月までに急激な上昇を見せている。つまり,購入回数が増えたことに加えて,1回 の購入金額も増加したのである。このことは,1回の購入で,多くの商品,サービスが 注文されるようになったか,より高額の商品,サービスが求められるようになるなど,
高額から低額まで取引される商品,サービスの幅が広がったと言えるだろう。
以上のことから,上述のような「ブロードバンド元年」前後の時期の企業の情報化に
よるB to B, B to Cの電子商取引の拡大の中で,次のようなことが言えるだろう。つま
り,この時期,消費者において電子商取引はほとんどが利用するような身近なものとな るに至り(第8図),かつより多くや高額・低額様々な商品,サービスが購入されるよ うになるなど,個々の消費者の生活に深く入り込むようになった(第9図)のである。
3.消費者のネットワーク形成
上述したように,2001年前後に,企業セクターや行政セクターに属さない市民セク ターに属する人々の中で,近年日本でも全国各地で特定非営利活動法人(NPO)という ようなネットワークが形成されてきている。また,特にこの時期以降,これらの市民セ クターに属する人々の中で,消費者として電子商取引を行う人々も増えてきた。そこで 今日,インターネットを通じてどのような消費者のネットワークが形成されてきている かを見ることにする。
消費者のネットワークの形態の一つとして,ブログがある。ブログとは,ネットで情 報を共有するシステム「ウェブ」とコンピュータの通信記録「ログ」を組み合わせた造
第9図 日本の電子商取引における1年間での平均購入回数と平均購入額の推移
出典:情報通信総合研究所編『情報通信ハンドブック2005』情報通 信総合研究所,2004年,97ページ。
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語で,当初はコメントが付けられる個人の日記というイメージのものだった。それが,
1999年にアメリカでブログを手軽に作成できる専用ソフトがネット上で無償配布され 始め,ブームに火がついた。日本で本格的にブログ作成サービスが提供され始めたのは 2003年で,そこから一気にブログ利用者が増えることとなる。ブログの内容として は,個人の趣味,雑記等を含めた多種多様なものとなっている。ブログが普及した背景 には,上述の誰でも簡単に無料で自分のホームページを作成できるサービスが用意され ていることの他に,トラックバッ
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ク,コメント機能による連
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鎖,RSS機
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能など,コミ ュニケーションを活発化するツールがあることなどが挙げられ
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る。
近年では,ブログ上で話題になっているキーワードのランキングを表示するサービス や,あるキーワードがブログ上でどのように話題になっているのかを時系列的に表示す るサービス,ブログ専門の検索エンジンなどもあって,これらをビジネスに利用する動 きも見られ
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る。また,企業の側でも,顧客と直接のコミュニケーションをとること,顧 客への周知によりブランドを確立すること,自社の独自性を語り他社との差別化を図る ことなどの理由からブログを開設する動きがある。企業側でもブログを開設することに よって,優れたアイデアや素晴らしい製品を開発することができたり,企業や製品の認 知度を高めたり,社員同士のコミュニケーションも高まって最適なチームが社内に形成 されるなどの利点が生じやすいのであ
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る。
また,消費者のネットワークの形態の他のものとしてソーシャル・ネットワーキング
・サービス(SNS)がある。このSNSは,2003年にデートの相手探しや友人探しのサ イトとして無料でサービスを開始したFriendsterが登場し,出会い系サイトとは異なる 匿名性の低さが引き金となって,さらには友達の友達という形で連鎖していく仕組みそ のもののゲーム性が受けたこともあり,世界に広がっていく。日本ではmixi等が2004 年にサービスの提供を開始している。SNS では,上述のように,信頼性を確保するた
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30 拙稿「通信産業の事業展開とネットワークの形成」,夏目啓二編著『21世紀の企業経営』日本評論社,
2006年,47−48ページ。
31 トラックバックとは,他人のブログを参照して自分が記事を書いた際,参照先のブログに自分の記事の 要約へのリンクが自動的にはられ,自分のブログにリンクをはったことが通知される仕組みのことで,
これにより自分の記事が誰に参照されているかを簡単に確認することができる。
32 通常,ブログの記事の下にトラックバックがならび,その下にコメント欄がある。ここにコメントを書 くと自動的にリンクがはられるので,トラックバックと同様に,コメントした相手や相手のブログを訪 れた人が自分のブログを読んでくれる可能性があるのである。つまり,ブログの書き手と読者によるコ ミュニケーションが生まれ,さらに,第三者へと連鎖的につながってくのである。
33 これは,各サイトのタイトルや見出しをまとめたデータのことで,RSSに対応しているブログからデ ータを一定時間ごとに自動的に取り込み,最新記事の一部を表示してくれる。よく読むブログを登録し ておけば,わざわざ巡回する手間が省け,最新の記事が一気にチェックできる。
34 坂下玄哲,森口直子「コミュニケーションを誘発するブログ・サイト」,石井淳蔵,水越康介編『仮想 経験のデザイン』有斐閣,2006年,123−130ページ。
35 総務省編『平成18年版情報通信白書』ぎょうせい,2006年,43ページ。
36 ジェレミー・ライト著,関信浩,大里真理子訳『企業ブログ戦略』ダイヤモンド社,2006年,29, 41−46 ページ。
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め既存利用者からの紹介がないと登録できないシステムとなっており,このため実名を 公表する人も多く,相手の見えるコミュニケーションが実現され,クローズドなコムユ ニティとして会員間に高い信頼性が保たれてい
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る。
このSNSに関して,企業側では,相手の見えるコミュニケーションであることから SNS利用者の登録・公開情報を利用し,利用者の趣味やニーズに応じた広告の表示や 商品,サービスの販売促進,顧客満足,商品の評判の調査,顧客の囲い込み,新製品の 開発等,マーケティング戦略に活用することが可能なのであ
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る。
さらに,2000年半ばから進展したWeb 2.0では,投稿者が実際に体験した感想や意 見等を掲示板に書き込み,閲覧者がそれを商品購入やサービス利用等の判断材料に使う インターネット上の掲示板である口コミサイトが作られている。この口コミサイトは,
口コミ自体がデータとして残り,他のユーザーが読むものや見るものの対象となり,対 面関係を超えた広がるネットワークがあることから近年発展してきている。この口コミ サイトは,企業にとって商品開発時点では,消費者の中で特定のターゲットがどんな話 題について関心を持っているかを知り新商品のヒントを得たり,競合商品の評判をつか むことに利用されうる。また商品化後は,企業は口コミをその商品のどこをユーザーが 評価しているのか,あるいは評価していないのかや,その商品自体どのような使われ方 がされているのかを知ることに使ったり,ホットな話題をキャッチコピーに利用するな ど商品のプロモーションに用いたりしうるのであ
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る。
今日,上述のようにブログやSNS,口コミサイトなど多様な消費者個人による情報 発信が容易になるに従い,情報の信頼性の確保が重要となっている。インターネット上 の口コミ情報の信頼性の根拠としては,誰が発言しているかという「発言者の信用」が 重視されており,発信者に対する信用は,情報の信頼性と密接に関係している。この情 報発信をする消費者の中で,その発言に他者から信頼を得てカリスマ的な影響力を持つ 者も出てきており,彼らはカリスマ消費者と呼ばれてい
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る。
今日,製品の安全性や過剰包装,製品表示や製造物責任,ごみなどを含む環境問題な ど,消費者の生活環境や消費生活をめぐる社会的規範に対する関心が拡大したことと,
消費が多様化したこと,さらには規制緩和や市場のグローバル化などによる価格構造が 変化したことから,消費者のネットワーク化の動きが生み出されてい
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る。そしてインタ ーネットと電子商取引の発展の中で,特に「ブロードバンド元年」前後の時期以降,ブ
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37 水越康介,前中泉「現実とネットが交差するSNS」,石井淳蔵,水越康介編,前掲書,150−153ページ。
38 総務省編『平成18年版情報通信白書』,前掲書,43ページ。
39 村本理恵子『Web 2.0時代のネット口コミ活用book』ダイヤモンド社,2007年,2−3, 58, 76−77, 88−89, 94−96, 102−103ページ。
40 総務省編『平成18年版情報通信白書』,前掲書,44ページ。
41 久保康彦「マーケティング・ネットワークの理論的展開」,陶山計介,宮崎昭,藤本寿良編『マーケテ ィング・ネットワーク論』有斐閣,2002年,49−50ページ。
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ログやSNS,口コミサイトなど消費者発信メディアが台頭し,カリスマ消費者も出現 してきていることが,社会における消費者の意見や評価の影響力を高めることに貢献し ており,消費者主権の向上にもつながるものと考えられる。つまり,「ブロードバンド 元年」前後の時期以降,国領二郎氏のいう顧客同士のコミュニケーションが商品の売れ 行きや顧客満足に影響を与える顧客間インタラクショ
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ンが発展し,インターネットを通 じた消費者のネットワーク形成が進展してきているのである。
そもそもネットワークの価値は参加者数の二乗に比例する(メトカルフの法則)とす るならば,インターネット上での消費者ネットワークへの参加者が多ければ多いほどネ ットワークの価値が高まるのであり,ひとたび価値を持った消費者ネットワークが形成 されれば,消費者が引き寄せられ,ネットワークが広がっていくのである。このとき,
インターネット上では相互作用性(インタラクティビティ)が高いほど,顧客との接触 が増え
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るのであり,企業側でも,消費者に企業自体や製品の情報を伝えるだけではな く,顧客のニーズ等を積極的に組み入れようとして消費者ネットワークとの相互作用に 努めれば,販売の機会が増えると考えられる。
このとき,プラハラッドとラワスマミが言うように,顧客のニーズやアイデアを企業 の中に取り込んで,それらによって企業自体の競争優位を構築しようとすること,すな わち顧客を企業の新たなコンピタンスの源泉にしていこうという考え
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方が,上述のよう なインターネット上での状況では有効であろう。事実,インターネットを通じたもので はないが,筆者が本務校の徳島文理大学でマーケティング論の授業の一環として取り組 んだロールケーキ(筆者の出身地山形と勤務地徳島の特産物を使った両地のコラボレー ション・ケーキ)の販売では,商品開発の段階で,試作デザインを見てもらいながら 色,形などについて100人にアンケートをとって,その意見を商品開発に活かす試みを した。ロールケーキは40人分製作され,販売時に購買動機を調査して32人から回答を 得たが,企画関係者2人が購買した他,アンケートに協力した100人のうち12人がケ ーキを購買し,さらに彼らは口コミで14人の顧客を創出して,通りがかりでケーキを 目にして購買した人は4人にすぎないという結果になった。製品開発アンケートに協力 したロイヤリティの高い顧客が,顧客間インタラクションによって消費者ネットワーク を拡大したのである。
このようなことはインターネット上での消費者ネットワークに関しても同じように起
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42 国領二郎「ネットワーク上の顧客間インタラクション」,高木晴夫,木嶋恭一編著『マルチメディア社 会システムの諸相』日科技連出版,1997年,51ページ
43 ワード・ハンソン著,上原征彦監訳,長谷川真実訳『インターネットマーケティングの原理と戦略』日 本経済新聞社,2001年,124−126ページ。
44 三浦俊彦「ビフォア・マーケティングの戦略原理」,原田保,三浦俊彦編『eマーケティングの戦略原 理』有斐閣,2002年,46−52ページ。
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こると考えられる。つまり,ヘーゲルとアームストロングが言うようにオンライン・コ ミュニティ(消費者ネットワーク)自体が市場になり,市場を定義す
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る状態となるであ ろう。したがって,企業側としては,消費者ネットワークをサポートし,顧客間インタ ラクションが企業の経営の枠組みそのものに埋め込まれ
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るような形にすべきであろう。
Ⅴ 企業,消費者ネットワークの形成とその関連性
今日世界的にインターネットが構築されてきているが,日本においてもこのインター ネット社会の構築・発展は見られるものである。日本ではとくに「インターネット元 年」と言われる1995年にインターネットの普及が進んだ。またADSLやFTTH, CATV によるインターネットへの接続といったブロードバンドの諸技術が生み出され,高速で 大容量のデータ,映像等の送受信が可能となって,「ブロードバンド元年」と呼ばれる 2001年前後の時期にも,インターネットの普及が再び促進された。
このようなインターネットの普及が進んだ2つの時期には,日本の民間企業は,他の 時期に比べて,電気通信機器,コンピュータ本体や付属装置,ソフトウェアを中心によ り多額の情報化投資を行っている。とくに「ブロードバンド元年」前後の時期には,企 業内と企業間で情報ネットワークの構築が進展していると言えるだろう。そしてその時 期には,その企業内,企業間ネットワークにおいて,インターネット上で商品やサービ スがやり取りされる電子商取引の進展,すなわち,サプライヤーとメーカー,あるいは メーカーと流通業者といった企業同士の電子商取引(B to B)が大きく拡大し,それと 合わせて,企業と消費者間の電子商取引(B to C)も大きな発展を見せるのである。そ してその発展にともなって,「ブロードバンド元年」前後の時期以降には,インターネ ット上で顧客の需要を調査するインターネットリサーチや,顧客の過去の購買履歴を利 用して商品,サービスの提示を行うワン・トゥ・ワン・マーケティング,様々なインタ ーネット広告といった企業側のインターネットを通じた顧客へのアプローチが盛んに行 われるようになるのである。
他方,市民社会においても,職業,性別等様々な人の集合体である特定非営利活動法 人(NPO)が「ブロードバンド元年」前後の時期に盛んに組織されるようになった。市 民の中で,企業の商品,サービスを購買する人々が消費者という側面を持つのであり,
消費者となりうる市民側のネットワーク形成の下地がそもそもこの時期からあったので ある。また,この時期の上述のようにB to Cの電子商取引が発展していく中で,電子
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45 朴奎相「消費者から見た電子商取引」,須藤修,出口弘編著『デジタル社会の編成原理』NTT出版,2003 年,200ページ。
46 村本理恵子,菊川暁『オンライン・コミュニティがビジネスを変える』NTT出版,2003年,239ペー ジ。
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商取引自体,消費者のほとんどが利用経験があるようなものへと急速に普及するのであ る。加えて,消費者自身,この時期により多くの商品,サービスを購入するようになっ たり,高額・低額様々な商品,サービスを購入するようになるなど,電子商取引自体,
個々の消費者の生活に深く入り込むようになってきているのである。そして,このよう な消費者への電子商取引の普及の進展に合わせて,この「ブロードバンド元年」前後の 時期には,ブログの連繋やSNS,口コミサイトなどの消費者発信メディアが作られ,
インターネット上での消費者ネットワークが形成されるようになり,カリスマ消費者の ようなオピニオンリーダーも出現してきているのである。
つまり,日本では,とくに「ブロードバンド元年」前後の時期において,企業と消費 者(広くは市民社会)それぞれがネットワークを構築する動きが進展してきている。す なわち,主として企業と消費者のネットワーク形成は同時期に行われているという関連 性があるのである。そして,企業のネットワークからは消費者へのアプローチがなさ れ,消費者のネットワークもニーズなどの情報発信を行っているのであり,それぞれの ネットワークは相互作用が必要になってきている。今後は企業側でも,消費者ネットワ ークをサポートし,顧客間インタラクションが企業の経営の枠組みそのものに埋め込ま れるような形が求められるようになるであろうことから,企業と消費者のネットワーク の関連性はこれからますます深まっていくと考えられる。
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