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「サービス経済化」と雇用の関係

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(1)

「サービス経済化」と雇用の関係

二 村 重 博

Ⅰ はじめに

Ⅱ 基本モデル

Ⅲ 基本モデルの展開

Ⅳ 日本経済への当てはめ

Ⅴ おわりに

はじめに

経済が「サービス経済化」しているといわれて久しい。これは,広義のサービス部門 における生産や雇用の経済全体に占める割合が大きくなっていくことを示している。こ の現象は,経済発展過程におけるぺティー=クラークの法則としてもよく知られてい る。

農林水産業,鉱業,製造業,建設業を物財部門(第一次産業と第二次産業)とし,電 気・ガス・水道業,卸・小売業,金融・保険業,不動産業,運輸・通信業,サービス業 をサービス部門(第三次産業)として,日本経済の産業全体に占めるサービス部門の割 合を

1970, 80, 90, 2000

年についてみてみると,経済活動別名目

GDP

では,それぞれ,

47.2%,54.1%,58.3%,67.3% でこの 30

年間に

20.1% の増加(物財部門の相対的低

下)を示している。経済活動別実質

GDP

では

50.6%,56.0%,59.6%,66.0% でこの 30

年間に

15.4% の増加であり,就業者の割合では 40.7%,48.3%,54.9%,61.9% とこの 30

年間に

21.2% の増加となってい

1

る。

経済をこの二部門に分けて考えれば,各部門の生産の増加と労働生産性の増加の関係 が問題になる。なぜならば,生産の増加率が労働生産性の増加率を超えれば雇用は増加 するが,生産の増加率が労働生産性の増加率を下回れば雇用は減少することになるから である。したがって,経済のサービス化を物財部門からサービス部門への労働のシフト としてとらえるならば,サービス部門では生産の増加率が生産性の増加率より大きく,

物財部門では生産の増加率より生産性の増加率が高かったことになる。問題は,物財部 門とサービス部門はどのように関係していて,物財部門からシフトした労働がどのよう にサービス部門に吸収されるかである。

本稿では,この問題に対して簡単なモデルを考え,名目生産,実質生産および雇用に

────────────

1 経済企画庁編[5],内閣府経済社会総合研究所編[7]のデータによる。

899)285

(2)

おけるサービス経済化を可能にする条件は何かを示し,日本経済に対してこの傾向に対 する試算を試みることが目的である。次節では,単純な二部門モデルを考える。第Ⅲ節 ではそれをもとに雇用の変化との関係を分析し,サービス経済化の条件をみてみる。第

Ⅳ節では日本経済のデータに当てはめた試算を行い,サービス経済化には二つの違った 局面があることを指摘し,最後に本稿の分析の問題点をまとめ

2

る。

基本モデル

経済は物財部門(以下

M

部門とする)とサービス部門(以下

S

部門とする)の二部 門から成り立っているものとする。生産量を

Y

,労働量を

L

,価格を

P

で示し各部門 のそれらには

m, s

の添え字をつけて区別する。添え字の無い記号は経済全体のもので ある。したがって,経済全体の関係はつぎのようになる。

PY

=Pm

Y

m+Ps

Y

s (1)

L=L

m+Ls (2)

各部門の付加価値は各部門の賃金総額と総利潤に等しい。いま,付加価値に占める賃 金総額の割合(労働分配率)を

σ

で示し労働者一人当り賃金を

W

とすれば,

P

m

Y

m=Wm

L

m/σm (3)

P

s

Y

s=Ws

L

s/σs (4)

である。

(4)式を(3)式で割れば,

P

s

Y

s

──

P

m

Y

m

ω L

s

──

σ L

m

(5)

で示される。ここで,ω=Ws/Wm

, σ

=σs/σmである。

経済全体の名目生産額に占める

M

部門のシェアを

θ

(=Pm

Y

m/PY)とし,総労働量に 占める

M

部門の労働投入量のシェアを

φ

(=Lm/L)とすれば,(5)式より

────────────

2 この問題に対して拙稿[3]で分析を試みたが,本稿は分析方法とデータにおいてそれを発展させたも のである。なお,物財部門,サービス部門ともに産業を細分化して考えれば発展の形態は様々である が,ここではマクロ的に捉え個別産業の動向には立ち入らない。

同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

286(900

(3)

θ

φ

─────────

ω

/σ+(1−ω/σ)

φ

(6)

である。ω/σ を一定とすれば,d

θ

/d

φ

>0から,各部門の全体に対するシェアの変化 は名目生産額でも労働量でも同じ方向に関係していることが分かる。

ここで,長期的には,市場の競争によって両部門の賃金率は同じになり,また両部門 の労働分配率も同じになると仮定しよう。すると,ω=σ=1であるから,(5)式はつ ぎのようになる。

P

s

Y

s

──

P

m

Y

m

L

s

L

m

(5)′

このとき,(6)式から

θ

=φ であるから,両部門の全体に占める名目生産額のシェア と労働量のシェアは同じになることがわかる。

ここで,P, Y, L の増加率を

p, g, l

で示し,(5)′式の対数をとり時間で微分すれば,

(5)′式は成長率表示で以下のように示すことができる。

(ps−pm)+(gs−gm)=ls−lm (7)

M

部門の労働生産性

Y

m/Lm

S

部門の労働生産性

Y

s/Lsの増加率をそれぞれ

r

m

, r

sで 示すと,rm=gm−lm

, r

s=gs−lsであるから,(7)式は以下のようになる。

p

s−pm=(gm−lm)−(gs−ls)=rm−rs (8)

(8)式を利用すれば,(7)式は以下のようになる。

(rm−rs)+(gs−gm)=ls−lm (7)′

また,経済全体の労働生産性は

Y

/L であるから,r=g−l となる。成長率表示で は,g=θ

g

m+(1−θ)

g

s

, l

=θ

l

m+(1−θ)

l

sであるから,

r=g−l

=θ

g

m+(1−θ)

g

s−θ

l

m−(1−θ)

l

s=θ

r

m+(1−θ)

r

s

となり,経済全体の成長率は,労働力の増加率と

M

部門の全体に占めるシェアと各部 門の生産性との関係で,

g=l

+θ(rm−rs)+rs (9)

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (901)287

(4)

となる。

つぎに,名目生産,実質生産および雇用の全てにおいて,長期的に

S

部門のシェア が

M

部門のシェアを上回る条件を考えてみよう。そのためには,雇用においては

l

m<ls

でなければならないので,(7),(7)′式の右辺は正である。(7)式は(5)′式から導かれ たものであるから,S 部門の労働投入の増加率が

M

部門の労働投入の増加率を上回っ ているということは,名目生産でも

S

部門のシェアが増加していることになる。

l

m<lsならば

l

m<l<lsの関係にあるの

3

で,S 部門の労働投入の増加率は全体の労働力 の増加率よりも大きいことを意味している。経済全体の労働力が増加していても,M 部門よりも高い率で

S

部門に吸収されていくことになる。すると,M部門のシェアの 比率である

θ

の値は低下するので,名目比率でも労働比率でも

S

部門のシェアは増加 していくことになる。

他方,実質生産

Y

s/Ymの関係についてはどのようになるかは明らかでない。これをみ るために,労働生産性を基準にして(7)′式の左辺が正になる条件を考えてみよう。

2−1 r

m>rsの場合

この場合は

g

m<gs

g

m>−

g

sの両方の場合が考えられるが,いずれにしても,θ が時 間とともに低下していくから,(9)式より,経済全体の労働力の増加率

l

を一定とす れば,経済全体の成長率も低下していくことになる。時間とともに

θ

が限りなくゼロ に近づけば経済全体の成長率は

g=l

+rsに近づいていくことにな

4

る。

g

m<gsならば実質生産でもサービス経済化していることになるが,gm>−

g

sの場合は実 質生産ではサービス経済化はしていないことになる。

2−2 r

m<−

r

sの場合

この場合は,(7)′式より,左辺が正であるためには

g

m<gsでなければならない。S 部門の労働生産性の増加率が

M

部門の労働生産性の増加率以上のときは,労働投入の 増加率が

S

部門で

M

部門を超える限り,S部門の実質生産の成長率も

M

部門の実質 生産の成長率を超えることになる。つまり,この場合は実質,名目,雇用の全てでサー ビス化が達成されていることになる。

────────────

3 これは,θ が0<θ=(l−ls)/(lm−ls)<1の関係にあることから導かれる。

4 Baumol[1]は,労働生産性に格差のある二部門モデルを分析し,命題4のなかで,「ある部門の生産

性と総労働力が一定のままならば,経済の成長率は漸近的にゼロに近づくだろう。」(419ページ)とい っている。これは(9)式でl=rs=0のときである。これに対し,Oulton[8]は,Baumolの命題は生 産性の低いサービス産業が最終生産物を生み出しているときには当てはまるが,ビジネスサービスのよ うに中間生産物として使用されているときには,「より一般的な命題は,資源が中間生産物を生み出す 産業にシフトすれば,全体の成長率は増加するということ。」(611ページ)という異なった結論を導い ている。

同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

288(902

(5)

基本モデルの展開

ここまでは,M部門と

S

部門は与えられた労働生産性の増加率で独立な経済成長を しているという前提でサービス経済化が達成される条件を分析してきた。ここでは,M 部門の労働生産性は

M

部門の成長率とも関係しているという点と,両部門の拡大はお 互いに関係している部分があるという点を考慮に入れてみよう。

M

部門の労働生産性は,技術革新でもたらされる新生産物や組織の変化等で

M

部門 の市場変化とは関係なく長期的にある与えられた増加率

α

%で増加しているものとす る。一方,M部門の生産の拡大はより大きな市場を創りだし,静学的規模の経済性の みならず動学的な規模の経済性を生みだして,市場の拡大自体が労働生産性を高めてい くと仮定しよう。この市場の拡大によって引き起こされる労働生産性の増加率は実質生 産の成長率

1% に対し β

であるとする。このことを式で示せばつぎのようになる。

r

m=α+β

g

m (10)

ここで,α>0, 0<β<1を仮定す

5

る。

他方,S部門の市場は

M

部門とは関係なく独立に拡大する部分と

M

部門の成長によ って影響を受ける部分に分けることが出来るとす

6

る。サービスに対する

M

部門とは関 係しない需要の増加によって引き起こされる成長率を

γ

としよう。一方,S部門は

M

部門と密接に関係している産業があるために,M 部門の拡大の影響を受けて

S

部門が 拡大する割合は

M

部門の実質生産の成長率

1% に対し δ

であると仮定する。これを式 で表し,

g

s=γ+δ

g

m (11)

とする。ここで,γ>0,

δ

>0を仮定する。

以上の関係から,両部門の労働投入の変化率をみてみよう。M部門の労働投入の変

────────────

5 この関係は,Kaldor[4]によってVerdoornの法則と呼ばれたものである。特に,製造業における実質 生産の成長率と労働生産性の増加率との関係を示したもので,コブ=ダグラス型生産関数と対応させる ならば,規模に対する収穫逓増を示している。Verdoornの法則については,拙稿[2],McCombie[6]

を参照のこと。特に,この法則の理論的背景についてはMcCombie[6]が詳しい。なお,次節で日本 経済のデータを当てはめるときには,個別産業の分析ではなくサービス経済化の分析というここでの課 題のために,この法則を製造業だけでなく物財産業としてより広い範囲の産業分類に応用した。

6 このことの分類とM部門とS部門の拡大がそれぞれの部門に与える相互作用と波及効果の分析につい ては,拙稿[3]を参照。

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (903)289

(6)

化率は,lm=gm−rmであるから(10)式から

l

m=−α+(1−β)

g

m (12)

となる。また

S

部門の労働投入の変化率は,ls=gs−rsであるから(11)式から,

l

s=γ+δ

g

m−rs (13)

である。S 部門の労働生産性の増加率には多様な要因が考えられるので,M 部門のよ うに

S

部門の労働生産性を

S

部門の成長率と関係付けることは理論的に困難である。

そのため,以下では

S

部門の労働生産性の増加率は

r

s=τ で与えられたものとして分 析を進めることにする。

以上のことを前提にして,サービス経済化の条件を導くいくつかの基準値を見ておこ う。

先ず,両部門の実質成長率が等しい条件,つまり

g

m=gsの条件を求めてみる。この

値を

g*とすれば,これは,

(11)式より

g*=γ

/(1−δ)

となる。δ<1ならば,gm<g*のとき

g

m<gsとなり,実質生産でのサービス経済化が保 証される。

つぎに,両部門の生産性が等しくなる条件,つまり

r

m=rs=τ の条件を求めてみる。

この値を

g**とすれば,

(10)式から,

g**=

(τ−α)/β

である。gm>g**ならば

r

m>rsとなる。

さらに,両部門の労働投入量の変化率がゼロとなる条件を見てみよう。lm=0は(12)

式から,ls=0は(13)式から求められる。それぞれのゼロとなる値を

g′ , g″

とすれ ば,以下のようになる。

g′

=α/(1−β)

g″

=(τ−γ)/δ

同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

290(904

(7)

明らかなように,gm<g′ならば

l

m<0, gm>g′ならば

l

m>0である。また

g

m<g″ならば

l

s

<0, gm>g″ならば

l

s>0である。

また,両部門の労働投入量の変化率がゼロとなる条件,つまり

l

m+ls=0の値を求め て

g

0とすれば,(12),(13)式より,

g

0=(α−γ+τ)/(1−β+δ)

となる。

ここで,以上の基準をもとに,前節の名目でも実質でも雇用でもサービス経済化する 条件を再度考えてみよう。名目と雇用のサービス経済化は

l

m<lsのとき達成された。こ のとき実質でもサービス経済化するためには,rm>rs=τ のとき

g

m<gsであるか,rm<−

r

s

=τ であればよかった。前者の条件は,上の値を導出した過程から明らかなように,

g**<g

m<g*

ならば達成される。後者の条件は,

g

m<−

g**

のとき達成される(ただし,これは

l

m<lsのための条件ではない)。

問題は,この範囲で

l

m

, l

sがどのような値を取っているかである。例えば,両方とも プラスであったり,一方がゼロでも他方がプラスならば,経済全体の労働投入量は増加 しつづけることになる。このとき,それに見合う労働力の増加が無ければ労働力不足か ら両部門の成長を維持することはできないであろう。また,両方ともマイナスであった り一方がゼロでも他方がマイナスならば,全体としての雇用量は減少していることにな り,失業問題が発生するだろう。したがって,これをバランスさせる成長率は何かとい うことが問題になる。

このことを,第

1

図を用いて考えてみる。第

1

図は,横軸に

M

部門の成長率

g

mを とり縦軸に各値の増加率をとって(10),(11),(12),(13)式をグラフにしたものであ る。また

S

部門の生産性の増加率

τ

は例示のため任意の値で示している。横軸上の

g*, g**, g′ , g″ , g

0は上記の意味と同じである。両部門の実質成長率が等しい条件であ

g*は,g

s

45

度線と交わる値であり,両部門の生産性の増加率が等しい条件である

g**は, r

m線と

r

s線の交点の値である。また,

M

部門の労働投入増加率がゼロとなる

g′

l

m線が横軸と交わる点であり,S部門の労働投入増加率がゼロとなる

g″

l

s線が横

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (905)291

(8)

軸と交わる点で示される。また

g

0

l

sと−lm の値が同じという条件であり,gm<g0の ときは,lmのマイナス部分が

l

sのプラス部分を超えて大きくなっている。

1

図の場合は,rm>rs=τ でサービス経済化する

g

m の範囲は

g**<g

m<g*のときで ある。このとき,g*<g′であるから,M 部門の労働投入量はマイナスで減少してお り,S部門の労働投入量はプラスで増加している。gm=g0のときは,M部門の労働投 入量の減少率と

S

部門の労働投入量の増加率が等しいときである。両部門の労働投入 のシェアが等しく,全体の労働投入量の増加が無い経済を考えれば,M 部門の雇用の 減少分を

S

部門で全て吸収していることになる。しかし

g

mがこれ以下になると失業問 題が生じる可能性が発生するだろう。gm>g*にあれば,名目生産と労働投入量ではサー ビス経済化しているが実質生産では

M

部門のほうにシフトしていることになる。特に

M

部門が

g′

を超えた成長をしているときには,lmも正であるから,両部門の雇用を可 能にする全体の労働力の増大が無ければ,完全雇用制約のためにこの成長率を維持する ことは困難になるだろう。

r

m<−

r

s=τ でサービス経済化しているのは,gm<−

g**のときである。第 1

図の例の場合 には名目,実質,雇用の全てでサービス経済化しているが,図から明らかなように

g

m

<0<g0であり,深刻な失業問題が生じると思われる。

第1図 サービス経済化の条件 同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

292(906

(9)

日本経済への当てはめ

ここでは,以上の分析が,実態経済とどのように関係しているのか,また,冒頭に述 べた日本経済のサービス経済化とどのように関係しているのかを調べてみる。以下で は,1970年から

2000

年までのデータを当てはめて,これまでの分析とどのような関係 があるのかを,試論としてみてみることにす

7

る。

上の分析で取り上げた変数は,成長率表示で物財部門の実質成長率

g

m,物財部門の 労働投入変化率

l

m,物財部門の労働生産性変化率

r

mとサービス部門の実質成長率

g

s, サービス部門の労働投入変化率

l

s,サービス部門の労働生産性変化率

r

sであった。す でに定義したように,物財部門を第一次産業と第二次産業の合計とし,サービス部門は 政府サービス生産者と対家計民間非営利サービス生産者を除いた第三次産業とし,対前 年増加率を計算して

5

年間の平均値を出したものが第

1

表に示されている。第

1

表の

ω

/σ は(5)式のものと同じであり,サービス部門の物財部門に対する名目生産の比 率をサービス部門の物財部門に対する就業者数の比率で割ったものである。

1

表からつぎのようなことが分かる。

先ず,ω/σ はこの

30

年間を通してほとんど変化していないか,変化してもその数 値は小さく一定の傾向をもたないランダムなものであるということである。このこと は,第Ⅱ節のモデルでこの比率を一定とした仮定を正当化させてくれるだろう。モデル では,さらにその比率を

1

としてきたが,これは(6)式のようにシェアを求める場合 には影響しても,その他の成長率の分析には影響は無いと思われ

8

る。

つぎに,第

1

表の

g

m

g

sのデータから,86−90年を除けば他の期間はサービス部門

────────────

7 利用したデータは,1970年から1989年までは経済企画庁編[5],1990年以降は内閣府経済社会総合研 究所編[7]の暦年データである。労働投入量は「付表」の就業者数を用いた。なお,1990年の対前年 増加率は[5]のものを用いて計算した。

8 (6)式でみたように,その比率が1で無い場合でも,比率が変動しなければθ とφ は同じ方向に動く から,分析結果に大きな修正を必要としないであろう。

第1表 係数と対前年増加率の5年間平均値

ω/σ gm gs lm ls rm rs

71−75 76−80 81−85 86−90 91−95 96−00

1.26 1.26 1.23 1.19 1.24 1.28

3.64 3.54 3.16 5.28

−1.06 0.62

5.79 5.89 4.04 5.16 3.21 1.91

−1.11

−0.44

−0.50 0.27

−0.92

−1.59

2.34 2.32 2.14 1.78 2.02 1.18

4.77 4.00 3.68 4.99

−0.14 2.23

3.37 3.49 1.87 3.32 1.16 0.72

92−00 1.27 −0.48 2.24 −1.55 1.48 1.08 0.76

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (907)293

(10)

の実質成長率が物財部門の実質成長率以上であったことが分か

9

る。86−90年の期間はバ ブルの期間を含んでいるので成長率も高く,lm

, l

sのデータから分かるように両部門で 雇用を増加させている。この期間は上で定義した

g

m>g*の経済であり,実質生産では サービス経済化していないことになる。

さらに,gm のデータから,91−95年の平均ではマイナスになっている。このことを更 に詳しくみてみると,全期間で物財部門の成長率がマイナスになったのは,74年,75 年,86年と

92

年,93年,94年,98年であり,特に

92

年以降の成長率はそれ以前と 違ってプラスになっても低成長率であった。さらに名目値での物財部門の成長率を見て みると,91年まではマイナスの成長率は無かったが,92年,93年,94年,95年,98 年,2000年とマイナスになっている。このことから,92年以降の経済はそれまでとは 異なった動きをしていることが予想される。そのため,92年から

2000

年の

9

年間にお ける各値の平均値を第

1

表の一番下の行に示した。

つぎに,第

1

表の

l

m

, l

sのデータから労働投入の変化率をみてみると,全期間に渡っ てサービス部門の増加率が物財部門の増加率を上回っていることが分かる。雇用では全 期間に渡ってサービス経済化していることになる。しかし,96−00年と

92−00

年の期間 をみると,その他の期間では物財部門の労働投入の変化率よりサービス部門の増加率の ほうが大きかったのに対して,物財部門の減少率はサービス部門の増加率より大きくな っていると言う特徴が見られ

10

る。

さらに,第

1

表の

r

m

, r

sのデータから両部門の労働生産性の増加率を見てみよう。91

−95

年を除けば,物財部門の生産性増加率はサービス部門の増加率より大きい。一方,

91−95

年は物財部門の実質成長率もマイナスであり,前節で定義した

g

m<g**の経済に

あったと思われ

11

る。

以上のことから,1991年まではバブル期を除けば高い成長率に支えられて名目生産 においても,実質生産においても,雇用においても順調なサービス経済化が進行したと 言えるであろう。このとき,モデルの分析から,経済はバブル期を除き

g**<g

m<g*に あり,gm

g

0より高い値を取り,物財部門からの雇用減少をサービス部門が引き受け てきたと言えるであろう。

他方,1992年以降の経済では,g**<gm<g*のときは,物財部門の低い成長率のため に,経済は

g

0の近くに位置し,失業問題が深刻になってきたといえる。91−95年のデ ータのように

g

m<g**でサービス経済化したときもあった。

以上のことを更に詳しくみるために,(10)式と(11)式にデータに当てはめてみ

────────────

9 全期間を通じてgm>gsの年は,73, 76, 84, 85, 87, 88, 89, 90, 2000年であった。

10 全期間を通じてlm<0でこれに該当するのは,74, 75, 94, 95, 98, 99年であった。

11 1991年以降のrm<rsの年は,91, 92, 93, 94, 98年であった。

同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

294(908

(11)

た。経済構造の変化を考慮して,1970年から

2000

年の全期間と,1970年から

1991

年 の期間,1992年から

2000

年の期間に分けて回帰分析を試みた。(10)式と(11)式の 結果は以下のようであった。なお係数下の括弧は

t

値を示してい

12

る。

1970〜2000

年の期間

r

m=1.251+0.792 gm (10−1)

(5.563)(15.984)

R

2=0.901

s=1.022 DW

=1.562

g

s=3.250+0.428 gm (11−1)

(9.204)(5.498)

R

2=0.519

s=1.605 DW

=1.665

1970

年〜1991年の期間

r

m=1.071+0.816 gm (10−2)

(3.095)(12.021)

R

2=0.884

s=1.051 DW

=1.587

g

s=3.745+0.388 gm (11−2)

(6.971)(3.687)

R

2=0.417

s=1.630 DW

=2.082

1992

年〜2000年の期間

r

m=1.476+0.827 gm (10−3)

(4.210)(6.636)

R

2=0.863

s=1.036 DW

=1.503

g

s=2.298+0.116 gm (11−3)

(7.152)(1.018)

R

2=0.129

s=0.950 DW

=0.665

この結果をもとに,各係数の値を(12)式と(13)式に代入した。ここで問題になる のはサービス部門の生産性の増加率である

τ

の値である。ここでは各期間の平均値を 用いた。全期間の平均値は

2.321, 1970

年から

91

年の平均値は

2.992, 1992

年から

2000

年の平均値は

0.757

であった。

────────────

12 拙稿[3]でも,1970年〜1991年のデータの回帰分析を試みたが,そこでの値と同じでないのは,ここ では1990年から[7]のデータを用いたためである。

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (909)295

(12)

1970

年〜2000年の期間

l

m=−1.251+0.208 gm (12−1)

l

s=3.250−2.321+0.428 gm (13−1)

1970

年〜1991年の期間

l

m=−1.071+0.184 gm (12−2)

l

s=3.745−2.992+0.388 gm (13−2)

1992

年〜2000年の期間

l

m=−1.476+0.143 gm (12−3)

l

s=2.298−0.757+0.116 gm (13−3)

この結果をもとに,物財部門とサービス部門の労働投入変化率の実績値と計算値を示 したのが第

2

図である。第

2

図は,1992年以降の経済構造の変化を考慮して,1991年 までは(12−2)と(13−2)式を,1992年から

2000

年までは(12−3),(13−3)式で計算 した結果を示している。

つぎに,この係数の結果を利用して,前節で分析した

g*, g**, g

, g″ , g

0の値を計算 した結果が,第

2

表に示されている。(11−3)式で示される係数

δ

t

値はかなり低く また決定係数の値も小さい。これはこの期間の物財部門の成長率が低かったことが影響 していると思われる。そのため,この期間の

g

sの平均値をとり,物財部門と関係させ ずに計算してみた。この期間のサービス部門における成長率の平均は,2.242であっ た。第

2

表の下段の括弧はこの数値を用いて計算したものを示している。

第2図 物財部門とサービス部門の就業者の増加率 同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

296(910

(13)

1970

年から

1991

年までは,

g″

<g0<g**<g′<g*

の関係にある。g′の値は

5.82

とかなり高いが

g

0<g**なので,雇用に不安の無いサー ビス経済化を達成してきたといえるだろう。すでにみたように,バブル期には実質生産 でみたサ−ビス経済化の条件は満たされなかったが,これは

g*<g

mの状況であったと 思われる。

他方,1992年から

2000

年までの数値は,

g″

<g**<g0<g*<g′

の関係にある。g*<g′からサービス経済化は必ず物財部門の雇用の減少を引き起こ し,g**<g0からサービス部門に十分な雇用吸収力が無ければ失業問題が発生するとい うサービス経済化である。さらに,すでにみたように,物財部門の生産性の成長率はサ ービス部門の生産性の成長率より低いケースもあった。このとき,gmはマイナスの増 加率を示しているから

g

m<g**の状態にある。このときも経済はサービス経済化してい るが,失業の問題を抱えたサービス経済化である。

以上みたように,経済のサービス化を,名目生産においても実質生産においても雇用 においても物財部門の比重が低下しサービス部門の比重がを高まること,と定義すれ ば,雇用に不安の無いサービス経済化と雇用に不安を生じるサービス経済化があること になる。失業問題が生じるサービス経済化の場合には,物財部門の成長率を高めるか,

サービス部門の生産を拡大させる必要がある。前者の場合は,物財部門の生産を拡大さ せることにより物財部門の雇用の減少を少なくするとともに,物財部門の拡大からもた らされるサービス部門の拡大が更に雇用を吸収することになる。後者の場合は,物財部 門の成長率が低くてもサービス部門が十分に拡大するならば物財部門で減少した雇用を 吸収できるが,問題はサービス部門が物財部門と関係しないでどのように拡大できるか ということであろう。

第2表 サービス経済化の基準値

g* g** g′ g″ g0

70−00 70−91 92−00

5.68 6.12 2.60

1.35 2.35

−0.87

6.01 5.82 8.53

−2.17

−1.94

−13.28

0.51 0.56

−0.22

(92−00) (2.24) (−0.87) (8.53) − (−0.05)

「サービス経済化」と雇用の関係(二村) (911)297

(14)

おわりに

ここでは,サービス経済化を雇用の問題を中心に論じてきた。雇用を問題とすれば,

サービス経済化には二つの種類があることをみてきた。そのための条件を提示し,サー ビス経済化している経済を分析する方法もある程度みることができた。

問題は,サービス部門と物財部門の相互作用に対する分析が二つの意味で不充分であ るということである。一つは,物財部門の成長率を与えられたものとして分析してきた ことである。これは物財部門への需要の成長率が外から与えられているという前提と同 じである。物財部門の成長率を長期的に決める要因は何かということが解明されなけれ ばならないだろう。他は,物財部門の成長率変化がサービス部門にどのように影響する かである。ここでは,単純に

δ

の係数で表したが,更に他の要因を考慮する必要があ ろう。それがまたサービス部門の労働生産性解明にも関連してくると思われる。

日本経済への当てはめについては,もちろんこの単純なモデルから多くを期待するこ とはできない。にも関わらず,サービス部門の生産性上昇率に過去の平均値を用いたと いう問題はあるが,両部門の労働投入変化率にある程度の傾向を見ることはできた。こ の単純モデルをどのように精緻化するかという問題が残る。そのためには,ここではマ クロ的視点から二部門モデルで分析してきたが,農林水産業から製造業まで含んだ物財 部門と電気・ガス・水道業からサービス業まで含んだサービス部門を各産業ごとに細分 化してミクロ的な視点を加えることが必要になってくると思われる。

参考文献

[1]Baumol, W. J., Macroeconomics of Unbalanced Growth : The Anatomy of Urban Crisis, American Eco- nomic Review, Vol. LVII, No. 3, June 1967, pp. 415−426.

[2]拙稿「産出量変化と生産性変化の関連性−Verdoorn Law 再考」『同志社商学』第40巻,第4号,

1988年11月,337−361ページ。

[3]拙稿「物財部門の成長率変化が経済に与える影響」『同志社商学』第45巻,第2・3号,1993年10 月,450−471ページ。

[4]Kaldor, N., Causes of the Slow Rate of Economic Growth in the United Kingdom, Cambridge University Press, 1966,(N. Kaldor, Further Essays on Economic Theory, London, Duckworth, 1978に収録)

[5]経済企画庁編『平成11年版(1999)国民経済計算年報』大蔵省印刷局。

[6]McCombie, J., Increasing Returns and the Verdoorn Law from a Kaldorian Perspective, Productivity Growth and Economic Performance−Essays on Verdoorn’s Law , ed. by J. McCombie, M. Pungno, and B.

Soro, Palgrave Macmillan, New York, 2002, pp. 64−114.

[7]内閣府経済社会総合研究所編『平成14年版(2002)国民経済計算年報』大蔵省印刷局。

[8]Oulton, N., Must the growth rate decline? Baumol’s unbalanced growth revisited, Oxford Economic Pa- pers, Vol. 53, No. 4, October 2001, pp 605−627.

同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)

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