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幸福度分析に基づく財政活動の評価分析

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(1)

著者 伊多波 良雄

雑誌名 經濟學論叢

巻 65

号 1

ページ 131‑150

発行年 2013‑07‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/00027377

(2)

【論 説】

幸福度分析に基づく財政活動の評価分析

1)

伊 多 波 良 雄  

は じ め に

 本稿は,都道府県の財政活動の幸福度に及ぼす影響を見ることによって,

都道府県の財政活動の評価を試みる2).都道府県の取り上げる財政活動は,

社会資本ストック,社会資本ストック便益,歳出額,地方債現在高,将来負 担比率および国からの都道府県に対する補助金である.

 これらの都道府県の財政活動の評価に関して多くの分析がこれまで行われ てきた.それらの分析のほとんどは,合理的な経済主体からなる経済モデル を構築し,財政活動の経済厚生に及ぼす影響を検証するものである.本稿は,

最近展開されている幸福の経済学の手法を用いて,財政活動の評価を試みよ うとするものである.

 海外では,政府の規模と幸福の関係などに関する分析はかなり行われている.

日本では,國光(2007)や野田(2011)などが自治体レベルで幸福度と財政変数 との関係を分析している.しかし,これらは対象とする地域が限定されており,

全国的なレベルでの分析が待たれるところである.本稿は全国レベルでの独自 のアンケート調査を基に,都道府県レベルでの財政活動と幸福度の関係を探る.

 本稿の構成は次のとおりである.第1節でデータを紹介し,準備作業とし

1) 本稿は,日本財政学会第69回大会(淡路夢舞台国際会議場)で報告されたものである.座長

の中井英雄氏(近畿大学)と討論者の堀場勇夫氏(青山学院大学),およびフロアの皆様方に感 謝いたします.

2) 本稿では,幸福度と満足度を同じものとして捉えている.

(3)

て主な財政活動と幸福度の関係を簡単に見る.第2節で順序ロジット分析を 用いて統計的検証を試みる.最後にまとめと課題を述べる.

1 データの紹介と主な財政活動と幸福感の関係

 ここではデータを紹介すると同時に,準備作業として主な財政活動と幸福 度の関係を記述的に見てみる.

(1)データ

 2008年2月に実施された独自のアンケート調査個票データを用いる.データ の調査期間は,2008年2月24日(日)~3月2日(日)で,調査データの名称は「地 域移動と生活環境に関するアンケート調査」の個票データ(科学研究費補助金(基

盤研究A)による研究における「地域間格差生成の要因分析と格差縮小政策 」(研究代表・

橘木俊詔)」の下で実施されたアンケート調査)である.調査対象は,満20歳以上の 調査会社提携モニターであり,調査配信数は19,158件である.調査は「gooリサー チ」に依頼した.調査票回収数は8,890件で,回収率は約46.4%であった.

(2)主な財政活動と幸福度の関係

 本稿では,都道府県レベルで人々の幸福度と財政活動との関係を見る.デー タは個票になっており,アンケート回答時点の個人の居住都道府県が分かっ ている.都道府県ごとの社会資本ストックや歳出などのデータは,それぞれ が収録されている資料から得られるので,得られたデータに対応する都道府 県のデータとして個票データに追加している.このようにして,アンケート 調査では尋ねていない都道府県のデータを対応させることによって,都道府 県レベルで幸福度と財政活動の関係を見ることができるようにしている.

1人当たり社会資本ストック

 最初に社会資本ストックを見てみる.この次に社会資本ストックの便益に ついても見るが,これら社会資本ストックに関しては補論で簡単に説明され ている.詳しい説明は伊多波(2012)で行われている.

(4)

 社会資本ストックの存在は,人々の生活を便利にするので幸福度は増大す るものと思われる.人々の幸福度に影響を与える変数は,社会資本ストック の総額ではなく1人当たり社会資本ストックが適当と思われるので,ここで は1人当たり社会資本ストックに注目する.図を用いて幸福度との関係を示 すため5つのカテゴリーに分けている.最小値と最大値を5等分してカテゴ リー化している.後で取り上げる変数が数字の場合,同じようにカテゴリー に分けている.

 第 1 図によると1人当たり社会資本ストックの場合,金額が大きくなるに つれ,満足(「満足している」と「まあ満足している」の合計)の割合が減少し,

不満(「やや不満だ」と「不満だ」の合計)の割合が増大している傾向が見られる.

1人当たり社会資本ストックは幸福度を引き下げているように思われる.

1人当たり社会資本ストック便益

 人々が実際に感じるのは1人当たり社会資本ストックではなくそれがもた 第 1 図 1人当たり社会資本ストックと幸福度の関係(円,2000年価格)

(5)

らす便益である.そこで社会資本ストックの限界生産性を1人当たり社会資 本ストックにかけたものを便益と考え,これと幸福度の関係を表したのが第 2 図である.1人当たり社会資本ストック便益が大きくなるにつれ,満足(「満 足している」と「まあ満足している」の合計)の割合が若干ではあるが増加し,不 満(「やや不満だ」と「不満だ」の合計)の割合がわずかではあるが低下している ように思われる.このように,1人当たり社会資本ストックとは異なり,1人 当たり社会資本ストックの便益が大きくなるにつれ満足度が高くなっている ように思われる.

県内総生産に対する歳出

 歳出は公共サービスの提供を通じて人びとの幸福度に影響を及ぼしている.

ここでは,県内総生産に対する歳出を変数として用いる.データは,日本経 第 2 図 1人当たり社会資本ストック便益と幸福度の関係(円,2000年価格)

(6)

済新聞社(2012)から得ている.以下の地方債現在高,将来負担比率,県内総 生産および補助金(普通交付税と国庫支出金)も同様である.第 3 図で示されて いるように,県内総生産に対する歳出が上昇するにつれ満足度(「満足している」

と「まあ満足している」の合計)が低下し,不満(「やや不満だ」と「不満だ」の合計)

の割合は増加している傾向が見られる.政府規模の増大は幸福度を引き下げ ているように思われる.

1人当たり地方債現在高

 財政の健全化を示す指標はいくつかあるが,1人当たり地方債現在高と将 来負担比率を財政健全化の変数として取り上げた.第 4 図に見られるように 1人当たり地方債現在高の場合,その金額が大きくなるにつれ,満足(「満足 している」と「まあ満足している」の合計)の割合が減少し,不満(「やや不満だ」

と「不満だ」の合計)の割合が増加しているように見える.地方債残高の増大は,

満足度を低下させているように思われる.地方債現在高の増大は,その返済 のための将来の増税が予想されるため満足度が低下すると予想される.ここ

第 3 図 歳出対県内総生産比率と幸福度の関係(2003~07年の平均)

(7)

での観察結果は妥当と思われる.

将来負担比率

 将来負担比率は「地方公共団体の財政健全化に関する法律」定められてい るもので,早期健全化基準の1つである.これは,地方公共団体の借入金の などの負債を,その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものであ る.市町村では350%,都道府県では400%とされている.

 第 5 図によると,将来負担比率が増大すると,満足(「満足している」と「ま あ満足している」の合計)の割合が減少し,不満(「やや不満だ」と「不満だ」の合計)

の割合が増加している傾向が弱いながらも確認できる.将来負担比率の増大 は,人々の将来の負担の増大を意味するので妥当な観察結果と思われる.

県内総生産に対する補助金

 県内総生産に対する補助金(普通交付税と国庫支出金)が上昇するにつれ満足 度(「満足している」と「まあ満足している」の合計)が低下し,不満(「やや不満だ」

と「不満だ」の合計)の割合は増加している傾向が見られる.補助金の増大は,

第 4 図 1人当たり地方債現在高と幸福度の関係(円,2000年価格)

(8)

幸福度を引き下げていると思われる.

2 統計的検証

 幸福度と主な財政活動との関係について図を用いて見てきた.そこで幾つ 第 5 図 将来負担比率と幸福度の関係(%)

第 6 図 補助金対県内総生産比率と幸福度の関係(2003~07年の平均)

(9)

かの関係を見ることができたが,それらの関係は見かけ上のものかもしれな い.そこで,ここではコントロール変数として,性別,年齢,婚姻状況,本 人の学歴,年収,地域変数として失業率を用いて順序ロジット分析を試みる.

地域変数として1人当たり県内総生産も考えられるが,取り上げる財政変数 との相関が大きいため多重共線性が見られるので割愛した.取り上げた変数 の記述統計料は第 1 表に示されている.

 分析結果は第 2 表に示されている.コントロール変数の結果は,幸福の経

度数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 幸福度 1=不満である ~

5=満足である 8,890 3.240832 1.086918 1 5 性別 1=男性  2=女性 8,890 1.512261 0.499878 1 2

年齢

1=20~29歳未満 2=30~39歳未満 3=40~49歳未満 4=50~59歳未満 5=60~69歳未満 6=70歳~

8,890 2.679303 1.169834 1 6

婚姻状況 1=未婚  2=既婚

3=その他(離婚,死別) 8,890 1.755231 0.538472 1 3 本人の最終学歴

1=中学卒  2=高校卒 3=専修・短大・高専卒 4=大学卒  5=大学院卒

6=その他

8,890 2.873116 0.963671 1 6

失業率 8,890 4.469944 0.939445 2.7 7.7

年収 1=なし  2=~250万円未満 3=250~650万円未満

4=650万円~  5=分からない 8,890 2.473903 1.014156 1 5 1人当たり社会資本ストック(対数) 8,890 15.09062 0.442299 14.44799 16.01542 1人当たり社会資本ストック便益(対数) 8,890 12.31441 0.27077 11.89623 12.9402 1人当たり地方債現在高(対数) 8,890 13.32559 0.309224 12.79216 14.18516 将来負担比率 8,890 5.385245 0.39442 4.417635 5.890815 県内総生産に対する歳出 8,890 -2.42126 0.337069 -2.89693 -1.49796 県内総生産に対する補助金 8,890 -3.8224 0.892977 -5.40316 -2.16765

第 1 表 記述統計

(10)

満足 対数生活の満足度:被説明変数 現在の生活の満足度:1=不満だ ~ 5=満足している 1人当たり社会 資本ストック(対 数)

1人当たり社会 資本ストック便 益(対数)

1人当たり地方 債現在高(対数) 03-07の平均 円将来負担比率(対 数)2007歳出対県内総生 産(対数)03-07 の平均

補助金対県内 総生産(対数) 03-07の平均 性別男性(リファレンス) 女性0.71320.71620.7170.71740.71170.7105 [14.21]***[14.29]***[14.29]***[14.31]***[14.18]***[14.16]*** 年齢

ln(年齢)-0.9891-0.9939-0.9907-0.9931-0.9897-0.9931 [-12.90]***[-12.97]***[-12.93]***[-12.96]***[-12.91]***[-12.96]*** ln(年齢)の2乗0.15350.15450.1540.15440.15360.1541 [12.61]***[12.70]***[12.65]***[12.69]***[12.62]***[12.67]*** 婚姻状況

未婚(リファレンス) 既婚0.68410.6870.6790.6840.68290.6895 [13.66]***[13.71]***[13.57]***[13.64]***[13.64]***[13.76]*** その他(離婚・死亡)-0.238-0.2457-0.2429-0.2424-0.2422-0.24 [-2.49]**[-2.58]**[-2.55]**[-2.54]**[-2.54]**[-2.51]** 本人の学歴中学卒(リファレンス) 高校卒0.18030.18330.17610.17590.18120.1854 [1.36][1.38][1.32][1.32][1.36][1.39] 専修・短大・高専卒0.28750.29320.28940.28970.28820.2901 [2.12]**[2.16]**[2.13]**[2.14]**[2.12]**[2.14]** 大学卒0.57090.57890.57130.57560.57050.5774 [4.21]***[4.27]***[4.21]***[4.25]***[4.21]***[4.26]***

第2表 推定結果

(11)

本人の学歴

院卒0.94780.95570.94870.95070.94840.9532 [5.61]***[5.66]***[5.62]***[5.63]***[5.62]***[5.64]*** その他(無回答)0.32460.33420.31860.32670.31810.3391 [0.85][0.88][0.84][0.86][0.83][0.89] 地域変数失業率0.00220.01080.00870.01420.01530.0076 [0.10][0.51][0.41][0.67][0.72][0.36] 年収

なし(リファレンス) ~250万円未満-0.0974-0.1024-0.1012-0.1039-0.0963-0.097 [-1.61][-1.70]*[-1.68]*[-1.72]*[-1.60][-1.61] 250~650万円未満0.3280.32530.33050.32890.32810.325 [4.96]***[4.92]***[5.00]***[4.97]***[4.96]***[4.91]*** 650万円~0.82530.82420.83450.8330.82120.815 [9.49]***[9.48]***[9.61]***[9.59]***[9.44]***[9.37]*** わからない-0.1075-0.1167-0.1067-0.1146-0.1042-0.1113 [-0.88][-0.95][-0.87][-0.94][-0.85][-0.91] 財政変数

1人当たり社会資本ストック(対数)-0.1309 [-2.89]*** 1人当たり社会資本ストック便益(対数)0.2451 [3.33]*** 1人当たり地方債現在高(対数)03-07の平均 円-0.1075 [-1.67]* 将来負担比率(対数)2007-0.0967 [-1.90]*

(12)

財政変数

歳出対県内総生産(対数)03-07の平均-0.1973 [-3.33]*** 補助金対県内総生産(対数)03-07の平均-0.128 [-3.98]*** cut point 1-4.51980.5126-3.949-3.0123-2.01-2.3421 [-6.28]***[0.55][-4.50]***[-9.22]***[-8.03]***[-11.54]*** cut point 2-3.11291.9199-2.5424-1.6056-0.6028-0.9346 [-4.33]***[2.06]**[-2.90]***[-4.93]***[-2.42]**[-4.65]*** cut point 3-2.09792.935-1.528-0.59120.41240.081 [-2.92]***[3.15]***[-1.74]*[-1.82]*[1.66]*[0.40] cut point 40.77825.81181.34692.2843.2892.9587 [1.08][6.22]***[1.54][7.00]***[13.06]***[14.49]*** サンプル数8,8908,8908,8908,8908,8908,890 対数尤度-11,891.584-11,890.2-11,894.4-11,894-11,890.2-11,887.8312 Pseudo R20.03440.03450.03420.03420.03450.0347 自由度161616161616 LR testchi2847.8808850.6419842.3287843.1432850.5882855.3868 chi2を超える確率000000 * p<0.1,** p<0.05,*** p<0.01.[ ]内はt 値である.   Cut point i (i=1,…, 4)は,現在の生活の満足度i (i=1,…, 4)よりも大きい値になる確率を示すロジスティック分布のしきい 値である.

(13)

済分析に関するこれまでの実証分析の結果とほぼ同様である.性別では,女 性の満足度が男性に比べて1%有意水準で統計的に有意に高い.年齢では,

年齢の係数はマイナス,年齢の2乗の係数はプラスになっている.1%有意水 準で統計的に有意である.婚姻状況では,未婚に比べて既婚は満足度が高く

(1%有意水準で統計的に有意),離婚及び死亡では低くなっている(5%有意水準 で統計的に有意).本人の学歴では,中学卒に比べて高校卒以上の学歴では幸福 度がより大きくなっている.高校卒では10%有意水準で統計的に有意でない.

これ以外では1%あるいは5%有意水準で統計的に有意である.さらに,高校 卒から院卒に学歴が高くなるにつれ幸福度が大きくなっているのが読み取れ る.サンプル数を減少させないために本人の学歴に回答しない者も分析に含 めている.これら無回答者は統計的には有意ではない.地域変数である失業 率の係数はプラスである.失業率が大きい地域では幸福度が低下すると予想 されるので予想外の結果である.しかし,統計的には有意ではない.年収の 係数は,250~650万円未満と650万円~においてプラスで,1%有意水準で 統計的に有意である.年収が増大するにつれて幸福度が増大していることが 分かる.

 次に財政変数の係数について見る.最初は社会資本ストックである.社会 資本ストックの便益に関する研究は,これまでかなり行われてきている.岩 本(2005)がまとめているように,主に生産関数を用いて分析が行われてきた.

しかし,これまで幸福度と社会資本ストックの関係について都道府県レベル での研究は行われていない.幸福度と社会資本ストックの関係に関する国際 的なレベルでの研究もそれほど多くない.Bjørnskov, Dreher and Fischer (2007) は,対象期間を1997年から2001年,74カ国,120,000人を対象とする分析 の中で,資本形成と幸福度との間に有意な関係はないことを示している.こ こでは,社会資本ストックの係数(対数表示)はマイナスで,1%有意水準で 統計的に有意である.

 社会資本ストックと幸福度の関係を見るとき,幸福度と個人が実際に利用

(14)

することによって得られる便益との関係が重要であり,幸福度と関係するの は社会資本ストックそのものの値ではない.本来であれば,人々が享受する 便益を求める必要がある.ここでは,1人当たり社会資本ストック便益を求 める際,社会資本ストックの限界生産性を用いている.このようにして得ら れた1人当たり社会資本ストック便益(対数表示)の係数はプラスで,1%有 意水準で統計的に有意である.

 1人当たり地方債現在高と将来負担比率(いずれも対数表示)の係数はマイナ

スで,それぞれ10%有意水準で統計的に有意である.これらの指標の増大は,

将来の負担の増大を意味するので妥当な結果と思われる.

 歳出対県内総生産(県内総生産に対する歳出,対数表示)の係数はマイナスで,

統計的には有意である.政府規模と幸福度の間には,理論的には次のような 考えがある.Bjørnskov, Dreher and Fischer (2007)は,新古典派の考えとして,

政府は市場の失敗を矯正するため介入するので,最適な供給量を達成し,均 衡においては政府規模と幸福度の間には何らの関係も見られないとまとめて いる.Mouritzen (1989)は,改革理論(The Reform Theory)の考えとして,政府 規模が大きくなると規模の経済が見られたり,様々なニーズに対応できたり するので幸福度が高くなることを示している.さらに,Mouritzen (1989)は政 治経済学的理論(The Political EconomyTheory)として,政府規模が大きくなる と,民主主義制度の下では,少数意見が採用されたり,官僚制が肥大化する ため非効率的になったりするため幸福度が低下するとする考えを紹介してい る.このように,理論的には政府規模と幸福度の間には確定的な答えはない.

 Bjørnskov, Dreher and Fischer (2007)は,政府の直接の介入を測るためGDP に対する一般政府消費を用いて,これと幸福度の関係を国際的に検証した結 果,GDPに対する一般政府消費が増大すると幸福度が減少することを確認し ている.さらに多くのサンプルを用いて分析したRim (2009)では,幸福度と GDPに対する一般政府消費の間には有意な関係がないことを得ている.日本 の分析において野田(2011)は,市町村ベルでは政府規模(1人当たり歳出)の

(15)

幸福度に及ぼす影響は統計的に有意な結論は得られていないとの結論を得て いる.本稿のデータを用いて,1人当たり歳出の対数を説明変数にして計算 すると,係数はマイナスであるが,統計的には有意ではない.念のため,1 人当たり歳出を2次形式で推定してみても,有意な結果は得られない.

 県内総生産に対する補助金の比率(対数表示)の係数はマイナス,1%有意 水準で有意である.補助金の影響は2つあると思われる.補助金の増大は,

個人にとっては所得の増大を意味するので幸福度が増大する.他方,補助金 の増大は,地方公共団体の非効率性を増大させ,このことが住民サービスを 低下させ,最終的に幸福度が低下する.ここでは,地方公共団体の非効率性 の効果が大きいため,幸福度が低下していると考えられる.

  お わ り に

 都道府県の財政活動として,1人当たり社会資本ストック,1人当たり社会 資本ストック便益,歳出額,地方財現在高,将来負担比率および国からの都 道府県に対する補助金を取り上げ,これらと幸福度の関係について分析を試 みてきた.

 その結果,1人当たり社会資本ストックの便益と幸福度の間には,1%有意 水準でプラスの関係があることが確認された.幸福度とマイナスの関係が見 られた変数は,1人当たり社会資本ストック(2006年度,2000年価格,対数),1 人当たり地方債現在高(2003―2007年度の平均,対数),将来負担比率(2007年度,

対数),歳出対県内総生産(2003―2007年度の平均,対数),補助金対県内総生産(2003

―2007年度の平均,対数)である.1人当たり地方債現在高と将来負担比率は

10%有意水準で有意であるが,他は1%有意水準で有意である.

 以上の分析から,歳出規模の縮小と補助金の縮小が幸福度を高めることが 期待される.政策的インプリケーションとしては,歳出規模の縮小は地方政 府の効率化の徹底,補助金の縮小は中央政府からの地方への財源移転が望ま しいこと点を挙げることができる.

(16)

 都道府県を対象とする分析を行う場合,同じ都道府県内でも,居住してい る地域が異なるため回答者の受け止め方が異なる可能生があるという問題が 見られる.財政活動の変数は都道府県の値であるにもかかわらず,幸福度を 回答している個人はある都道府県の中の様々な地域に住んでいるため,同じ 都道府県内で異なる地域に居住する個人は都道府県の同じ値に直面している とは限らない.たとえば,舞鶴市に住む回答者と京都市に住む回答者は,京 都府の県内総生産に対する歳出の値を同じように受け止めているとは限らな い.この問題を解消するためには,より多くのサンプルが必要となる.

補  論

 ここでは,社会資本ストックデータとこの便益の導出の簡単な説明を行う3)

1 データ

(1)社会資本ストック(G)

 最近の年度まで社会資本ストックのデータをカバーしているのは内閣府政 策統括(2007)と電力中央研究所の推計である.前者は2003年度まで,後者 は2006年度までである.本稿ではより最近の年度までカバーしている電力中 央研究所の推計を用いる4).電力中央研究所では,今まで『公共工事着工統 計年度報告』(国土交通省)を用いて都道府県別社会資本ストックデータを推 計してきた.しかし,1999年度で『公共工事着工統計年度報告』(国土交通省)

の刊行が中止になったので,代わりに『建設総合統計年度報告』(国土交通省)

を用いて新たに推計している5).推計年度は1980年度から2006年度までで ある.電力中央研究所のデータは鉄道軌道や電信電話などの民間資本も含ま れているが,本稿では,農林漁業,道路,港湾,上水道,治山治水のデータ

3) 補論は伊多波(2012)から引用している.

4) 電力中央研究所による推計データは,財団法人電力中央研究所と伊多波とのソフトウエア使 用許諾契約に基づいて使用している.

5) http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/leaflet/Y08006.pdfを参照せよ.

(17)

定数t値民間資本ストックt値社会資本ストックt値修正済みR2 サンプル数 1980年度5.5295[4.49]**0.4464[6.07]**0.0949[3.26]**0.566347 1981年度5.679[4.41]**0.4465[5.77]**0.0898[3.01]**0.536547 1982年度5.1607[3.91]**0.4698[5.95]**0.0954[3.18]**0.553447 1983年度5.3282[3.97]**0.4595[5.72]**0.096[3.19]**0.538147 1984年度5.4628[4.05]**0.4516[5.59]**0.0964[3.23]**0.531447 1985年度4.6415[3.23]**0.4948[5.73]**0.1007[3.27]**0.542247 1986年度5.0916[3.44]**0.4786[5.39]**0.0939[3.01]**0.505847 1987年度4.5639[2.97]**0.5132[5.56]**0.0936[2.96]**0.515847 1988年度4.2835[2.59]*0.5359[5.37]**0.0921[2.77]**0.492947 1989年度4.0618[2.45]*0.5516[5.52]**0.092[2.84]**0.506947 1990年度3.7852[2.29]*0.5589[5.64]**0.0969[3.12]**0.523247 1991年度3.6026[2.17]*0.5817[5.89]**0.0895[2.97]**0.528147 1992年度4.2784[2.78]**0.5561[6.08]**0.0796[2.94]**0.537347 1993年度4.7759[3.21]**0.5402[6.08]**0.0707[2.75]**0.530147 1994年度4.9491[3.92]**0.5681[7.52]**0.0506[2.34]*0.606447 1995年度4.9914[4.02]**0.5627[7.39]**0.052[2.43]*0.614547 1996年度4.3789[3.38]**0.6004[7.59]**0.0522[2.35]*0.621947 1997年度4.3632[3.35]**0.5975[7.46]**0.0532[2.38]*0.619647 1998年度5.13[4.27]**0.5466[7.41]**0.055[2.68]*0.625747 1999年度5.695[4.51]**0.5134[6.61]**0.0542[2.51]*0.575547 2000年度5.4425[4.21]**0.529[6.67]**0.0545[2.47]*0.577247 2001年度5.2442[4.10]**0.5372[6.85]**0.0558[2.56]*0.591847 2002年度4.5541[3.47]**0.5902[7.35]**0.0497[2.23]*0.609447 2003年度4.6692[3.47]**0.5845[7.09]**0.0493[2.21]*0.592547 2004年度4.1154[2.95]**0.6085[7.12]**0.0545[2.37]*0.600347 2005年度3.2127[2.07]*0.6626[6.99]**0.055[2.16]*0.584247 2006年度3.4231[2.19]*0.6443[6.75]**0.058[2.29]*0.573847

補・第1表 生産関数の推計結果(2000年価格):電力中央研究所データ ***51

) 

(18)

を用いる.

(2)県内就業者数(N)

 経済企画庁『県民経済計算年報』の県内就業者数を使用した.

(3)県内総支出(Y)

 経済企画庁『県民経済計算年報』から得ている.1964年度までは旧SNA,

1975年度から1989年度までは68SNA(新SNA),1990年度以降は93SNA(改 訂SNA)による数値を用いている.

(4)民間資本ストック(K)

 民間資本ストックは内閣府HP6)より得ている.都道府県ごとの値はないの で,総民間資本ストックを都道府県に振り分ける必要がある.ベンチマーク として土居データ7)の1980年度の都道府県比率を使用し,1981年度以降の年 度の数値は,当該年度の『県民経済計算年報』の総固定資本形成(民間)の都 道府県比率を民間資本ストック額の増分に乗じた値を積み上げて求めた.

2 推定結果

 1975年度から2003年度まで都道府県を対象とする最小二乗法による推計 結果は,補・第 1 表のようになる.修正済みR2は0.5から0.62の値をとって いる.1人当たり民間資本ストックの係数は,1997年度から99年度にかけて 一時低下するが,全体としては増加傾向である.社会資本ストックの係数は 約0.1で推移してきたが,1990年度から1994年度にかけて低下し,その後ほ んと変化していない.

3 社会資本ストックの限界生産性

 補・第 1 図には社会資本ストックの限界生産性の都道府県の平均値が描か れている.参考として民間資本ストックの限界生産性も描かれている.民間

6) http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html.年度取り付けベースを使用している.

7) 土居丈朗慶應義塾大学教授のHPを参照せよ. http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/index-J.html

(19)

資本ストックの限界生産性は,0.3前後を推移している.1990年度前後のバ ブル期はやや上昇している.その後,1996年度頃には一時高くなるが低下傾 向が2000年度頃まで続き,2000年度からは上昇傾向を維持している.社会 資本ストックの限界生産性は1990年度までは0.13前後を推移するが,バブ ルがはじけた1990年度頃から低下し,1994年度頃から0.05前後を推移して いる.

補 ・ 第 1 図 民間資本ストックと社会資本ストックの限界生産性(都道府県の平均)

補 ・ 第 2 図 社会資本ストックの限界生産性

(20)

 補・第 2 図には1980年度と2006年度の社会資本ストックの限界生産性が 都道府県別に描かれている.1980年度と2006年度において都道府県間の相 対的関係はほとんど変わっていない.栃木,埼玉,東京,神奈川,京都,大阪,

福岡などの値は大きい.北海道,岩手,秋田など東北地方,新潟,富山,石川,

山梨,長野などの北陸・甲信越地方,鳥取,島根,徳島,高知,福岡を除く 九州地方などで値が比較的小さい.

【参考文献】

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國光洋二(2007)「住民満足度に影響する要因―市町村平均データによる分析―」『農林 業問題研究』170,299―304ページ.

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日本経済新聞社(2012)『日経NEEDS地域総合ファイル』.

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73―86ページ.

岩本康志(2005)「公共投資は役に立っているか」(http://www2.e.u-tokyo.ac.jp/~seido/

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Bjørnskov C., Dreher A. and Fischer J.A.V. (2007) “The Bigger the Better? Evidence of the Effect of Government Size on Life Satisfaction around the World, ” Public Choice, Vol.130, Issue 3―4, pp.267―292.

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Mouritzen, P. E. (1989)“City Size and Citizens’ Satisfaction: Two Competing Theories Revised,” European Journal of Political Research, Vol.17 (6), pp.661―688.

(いたば よしお・同志社大学経済学部)

(21)

The Doshisha University Economic Review, Vol.65 No.1 Abstract

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参照

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