九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
欠陥を有するカーボンナノチューブの熱輸送特性
林, 浩之
https://doi.org/10.15017/1441239
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式3)
氏 名 林 浩 之
論文題名 欠陥を有するカーボンナノチューブの熱輸送特性
区 分 甲
論 文 内 容 の 要 旨
カーボンナノチューブ(
carbonn a n o t u b e ; CNT
)はs p 2
混成軌道による強い結合と繋ぎ目の無い 分子構造のために理論上はダイヤモンドを超える熱伝導率(>2000 W/m ・ K
)を有するとされるが,実際の計測結果は
100W/m・K
から3500W/m‑K
と報告によってー桁以上異なる.計測誤差以外に この差の原因として考えられるのは熱輸送の異方性,長さ依存性,欠陥依存性,カイラリティ依存 性である.これらによってCNT
内の熱輸送が変化する機構を明らかにすることはCNT
の応用上も 重要であるが,実験的に調べることは容易ではなく多くが未解明のままである.本論文では,熱処 理および集束イオンビーム(f o c u s e di o n beam; FIB
)による欠陥導入と独自の熱伝導率計測技術と を組み合わせることで,CNT
熱物性の未踏領域である熱輸送の異方性と長さ依存性を調査した.さ らに,SWNT
に欠陥を不均一に導入することで熱整流作用が発生することを分子動力学法と一次元 格子を用いた数値計算によって示し,熱整流作用の発生機構を明らかにした.加えて,ラマン分光 を組み合わせることで単層CNT ( s i n g l e ‑ w a l l e d carbon nanotube; SWNT
)のカイラリティ,正確 な直径,欠陥量を把握した上で熱伝導率を計測する手法を開発した.本 論 文 は 全
6
章 か ら 構 成 さ れ る . 第1
章 で は , 本 研 究 の 背 景 と し てCNT
の 熱 輸 送 特 性 , 特 に 異方性,長さ依存性,欠陥依存性,カイラリティ依存性,熱整流作用について解説し,目的および 論文の構成を述べた.第
2
章では,熱処理によって欠陥を導入した多層CNT( m u l t i ‑ w a l l e d carbon n a n o t u b e ; MWNT)
と熱処理を行っていないMWNT
の熱伝導率を計測し,それぞれ1 0 3W/m・K
と391W/m・K
と得ら れ,体積比率にしてわずか2.8%
の欠陥で熱伝導率が74%
減少することがわかった.これは,欠陥 の無いMWNT
において熱流は主に熱伝導率の高い層内を移動するが,欠陥が存在するMWNT
で は熱流が欠陥の部分で熱伝導率の低い層間方向を移動する必要がありMWNT
全体の熱抵抗に層間 の熱抵抗が加わるためである.そこで,2
つの試料の熱伝導率計測結果と熱伝導率の異方性を考慮 した数値計算を比較することでMWNT
の層内方向の熱伝導率を1800W/m・K
,層間方向の熱伝導 率を0 . 0 5W/m・K
と初めて定量的に推定することが出来た.得られた層間方向の熱伝導率はグラフ ァイトの層間方向の熱伝導率より層間の空隙のためにー桁以上小さいことがわかった.また,層間 方向の低い熱伝導率のために内層は熱を伝える働きが小さいためにMWNT
全体の熱輸送が理論値より劣ることがわかった.
第
3
章では,MWNT
を分割するようにFIB
を局所的に照射することによる熱コンダクタンスの 変化を計測した.FIB
を照射した部分はMWNT
の結晶に欠陥が生じる.そのため,熱コンダクタ ンスの減少の原因は照射部分の欠陥による熱抵抗の増加と,照射されていない部分の長さ依存性に よる熱伝導率の減少の2
つが考えられる.透過型電子顕微鏡を用いて観察した欠陥の形状から熱抵 抗を仮定し,長さ依存性を考慮、したモデ、ルを適用することで長さが4.8μm
から0.3μm
へ減少することによって熱伝導率が 50%以上減少する長さ依存性を示すことがわかった.これは数値計算によ る
SWNT
の長さ依存性の予測とよく一致した.第
4
章では,欠陥が不均一に分布したSWNT
における熱整流作用を分子動力学法と一次元格子 を用いて調査した.既存の数値計算では温度制御にLangevin
法を用いているために熱浴の部分で 温度ジャンプが生じ熱整流作用の要因が欠陥か熱浴によるものか不明であった.そこで,熱浴部分 に温度ジャンプが生じないNose‑Hoover
法を用いた計算を行うことでLangevin
法と同様に熱整流 作用が発生することを確認し熱整流作用が欠陥によるものであることを明らかにした.さらに,一 次元格子を用いたモデ、ル計算を行うことで熱整流作用がフォノンの不整合のために得られることが わかった.さらに,熱整流作用の温度差に対する依存性やパネ定数依存性を示した.第
5
章では,正確な直径や欠陥量を把握した上で熱伝導率を計測する手法を開発した.SWNT
は 直径lnm
程度でありハンドリングが困難である.MEMS
技術を用いて四端子電極聞にトレンチ構 造を有する回路を作成したS i
基板上に化学気相蒸着法によって四端子聞に懸架するようにSWNT
を合成した.懸架したS V ¥
明T
のカイラリティ,直径,欠陥量をラマン分光によって同定し,計測 対象のSWNT
以外をマニピュレータで物理的に切断することで,カイラリティ(1 6 ,7
),直径1 . 6nm
で欠陥量の指標となるD
バンドのラマン信号がほとんど見られないSWNT
をハンドリングすることなく四端子電極間に架橋させることに成功し,熱伝導率計測に向けた基本的手法を構築すること ができた.
第