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生体膜過酸化に及ぼすプラズマローゲンの影響

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)菊地数晃 学位 論文題名

生体膜過酸化に及ぼすプラズマローゲンの影響 学位論文内容の要旨

  生体膜の主要な構成成分であるりン脂質の中で、アルケニルアシル型(プラズマ口 ーゲン)はグリセ口ール骨格の1位にピニルェーテル結合、2位に高比率の高度不飽 和脂肪酸(PUFA)を結合するユニークな構造のりン脂質である。プラズマ口ーゲン の動物組織における分布の特徴は、酸素消費量の高い組織に偏在することであり、生 体膜中での抗酸化性脂質としての機能が予測されている。プラズマ口ーゲンの抗酸化 性に焦点をあてた研究については、リポソーム、LDL(低密度リポプ口ティン)、あ るいは培養細胞を用いたin vitroでの検討が多く、in vivoでの研究はほとんどみあ たらない。

  そこで著者は、酸素消費が高い心臓組織にプラズマ口ーゲンが特異的に分布するこ と、また、生息環境が違えば心臓機能にも影響を及ぽす可能性があることから心臓組 織に着目して、生体膜成分の酸化という観点から、プラズマ口ーゲンの生理機能を明 らかにしようとした。

  第1章では、生息環境や行動様式の違いにより酸素消費量も異なっていると推測さ れる動物(回遊魚、底生魚、および陸上哺乳類)について、それらの心臓リン脂質サ ブクラスの分布と脂肪酸組成にどのような違いがあるかを検討した。その結果、ホス ファ チジルコリン(PC)およびホスファチジル工夕ノールアミン(PE)におけるプ ラズマ口ーゲンの割合が、陸上動物(ウシ、ブ夕)よりも魚類で低く、また魚類間で 比較すると、回遊魚(マグ口、カツオ)と底生魚(スケトウダラ、カジカ)では差は 認められなかった。一方、心臓プラズマ口ーゲンを構成する脂肪酸組成は、動物種を 問わずPUF、Aが主要成分であることが確認された。すなわち、陸上動物の心臓プラ ズマ 口ーゲンの主要脂肪酸はn―6系のりノール酸(18:2)およびアラキドン酸   (20:4)であるのに対し、魚類心臓のそれはn―3系のDHA (22:6)であった。

これらのことから、動物種やりン脂質クラスの違いにかかわらず、心臓プラズマ□ー ゲンを構成する主要脂肪酸はPUFAであり、プラズマ口ーゲンの生理機能にPUF、A が大きく関係していることが推察された。

  そこで第2章では、生体膜成分の酸化という観点から、心臓プラズマ口ーゲンに対 する酸化ストレスの影響について検討した。魚油を4%含む餌料を給餌したラットで は、その心臓のりン脂質、とりわけプラズマ口ーゲンヘの明らかなnー3系PUF、Aの 反映が認められ、その反面、酸化ストレス負荷によりa―トコフ工口ール含量の低下 あるいはTBARS値の上昇に示されるような脂質過酸化が起こりやすいことも認めら れた。この際、n―3系PUF、Aが最も高濃度に反映したPEプラズマ口ーゲンの減少 が顕著であった。一方、大豆油に富む餌料を給餌したラットでは、酸化ストレスを負 荷しても魚油給餌群ほどの脂質過酸化は起こらなかったが、逆に酸化夕ンパク質の増

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大が認められた。すなわち、魚油の摂取によって膜夕ンパク質の酸化に対しては抑制 的に 作用す るこ とが 示さ れた。 この こと から 、プラズマローゲン、とくにPEプラズ マ口ーゲンが積極的に酸化を受けることにより、近傍のタンバク質成分に対して抗酸 化的に機能するという機序が考えられた。

  第3章 では 、意 図的にプラズマ口ーゲンを摂取した場合、すなわち 外因性プラズ マ口ーゲン の影響を抗酸化作用との関連でラットを用いて検討した。はじめに、プ ラ ズ マ 口 一 ゲ ン の 人 工 胃 液 中 で の 分 解性 に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結果 、 乳 化 系 (pH2―pH4)にお ける プラ ズマ口 ーゲ ンは ジア シル型と同様、ほとんど水解されず、

高い安定性を有していることが認められ、食餌性リン脂質は少なくとも胃酸では分解 されずに腸管へ移行することが示唆された。そこで、プラズマ口ーゲン含量の異なる 餌料、すなわちジアシル型リン脂質、あるいはプラズマ口ーゲンに富む餌料をラット に4週間 給餌 し、 血漿脂質成分および心臓脂質成分へのプラズマ口ーゲンの反映につ いて検討した。その結果、プラズマ口ーゲン給餌はわずかながら血漿および心臓のプ ラズマ口ーゲン量を増大させることを認めた。さらに、プラズマ口ーゲンが心臓の被 酸化 性に及 ぼす 影響 につ いて検 討し た結 果、 プラズマ口ーゲン餌料群のラット心臓 TBARS値 がジ アシ ル型リ ン脂 質給 餌群に 比し 、よ り低 いレベ ルで 維持 され ること も 認められた。これらの結果から、臓器組織の酸化的安定性はプラズマ口ーゲン含量の 多寡に関係することが推測された。事実、プラズマ口ーゲン含量の高い心臓組織ホモ ジネートは鉄依存性脂質過酸化反応が明らかに低いことを認めた。以上のように、プ ラズマローゲンは組織過酸化の進行を抑制する抗酸化作用に深く関与していることは ジアシル型リン脂質との化学構造の違いを考慮すると、アルケニル基の関与に基づく ものと考えられた。

  そ こで、 第4章 では、プラズマ口ーゲンのピニルエーテル結合が膜脂質の抗酸化性 の発現にどのように寄与しているかを明らかにするために、リポソームによる酸化実 験を行った。この場合、プラズマ口ーゲン分子中のアルケニル基の関与を明確にする ため には分 子内 の構 成脂 肪酸を あら かじ め規 定したものを供試することが必須であ る。 そこで2位の 脂肪酸を改変したプラズマローゲンを合成し、被酸化性指標である PI indexが同一で、かつアルケニル基含量のみが異なるりポソームを調製し、それら の 酸 化安 定 性 を 比 較 検 討 し た 。 そ の結 果 、1―alkenyl‑2―arachidonoyl‑PCと1‑

acyト2―arachidonoyトPCを そ れ ぞ れ 組込 ん だ り ポ ソ ー ム の 過 酸 化反 応 で は1− alkenyト2―arachidonoyトPCに よっ て顕 著に 抑制されることが示された。さらに、

1―alkenyl−2―docosahexaenoyl−PCと1―acyl−2−docosahexaenoylーPCをそれぞれ 組込 んだり ポソ ーム の過 酸化反 応に おい ても1―alkenyl‑2―docosahexaenoyトPCを 組込んだりポソームの過酸化がジアシル型のそれに比してより強く抑制されることが 示された。これらの結果から、プラズマ口ーゲンのアルケニル基は、その同一分子内 にあるPUF、Aの酸化を防止し、かつ、それを組込んだりポソームの過酸化を抑制し、

しか もアラ キド ン酸 と比 ベ不飽 和度 の高 いDHAを 結合 したプ ラズ マ口 ーゲ ンの酸 化 抑制 作用が 、よ り効果的であることが明らかとなった。第4章で得られた知見は、内 因性、あるいは外因性プラズマ口ーゲンが心臓組織における過酸化反応の抑制と密接 に関 連する もの であ ろう とした 第2章お よび 第3章の推定(仮定)をプラズマ口ーゲ ン分 子のア ルケ ニル 基の 機能と して 説明 でき るものであることを明確にした。併せ て、本研究の結果は、PUF、Aを高比率で構成分とするプラズマ口一ゲンの特異性とそ の抗酸化作用発現の関係を明確に示したものとなった。

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  本研究で得られた知見から、我々の日常生活において回避できない酸化的ストレス の暴露からの健康維持のために、aートコフ工口ールの摂取はもとより、プラズマ口 ー ゲ ン の 積 極 的 な 摂 取 は む し ろ 望 ま し い も の で あ る と 結 諭 さ れ た 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

生体膜過酸化に及ぼすプラズマローゲンの影響

  プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン は11ア ル ケ ニ ル‑2― ア シ ル ・ グ リ セ 口 リ ン 脂 質 で あ り 、2 に 結 合 す る 脂 肪 酸 は 一 般 に 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸(PUFA)で あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 し か し 、 こ の よ う な 特 異 な 構 造 を 有 す る 膜 構 成 脂 質 の 生 理 的 意 義 に つ い て は 必 ず し も 十 分 に 解 明 さ れ て る と は い え な い 。 本 研 究 は 、 プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン が 動 物 で は 酸 素 消 費 の 激 し い 臓 器 に 多 く 存 在 す る こ と に 鑑 み 、 そ の 生 理 的 意 義 を 抗 酸 化 機 能 の 面 か ら 明 ら か に し よ う と し た も の で あ る 。 そ の た め に 、 心 臓 に 着 目 し 、 生 息 環 境 が 明 ら か に 異 な る 動 物 間 の り ン 脂 質 サ ブ ク ラ ス の 組 成 と 脂 肪 酸 組 成 の 分 析 比 較 、 高 度 不 飽 和 油 脂 あ る い は プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン の 経 口 摂 取 に よ る 心 臓 脂 質 、 と く に り ン 脂 質 サ プ ク ラ ス やPUFA分 布 へ の 影 響 の 他 、 心 臓 組 織 の 過 酸 化 反 応 と の 関 係 等 に つ い て 検 討 し た 。 そ れ ら の 知 見 か ら 導 か れ た 仮 説 に つ い て 、 所 定 の 脂 肪 酸 を 結 合 さ せ た プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン お よ び ジ ア シ ル 型 リ ン 脂 質 を 合 成 し 、 そ れ ら を 組 み 込 ん だ り ポ ソ ー ム 実 験 か ら 検 証 し て い る 。

  先 ず 、 家 畜 ( ウ シ 、 ブ 夕 ) お よ び 回 遊 魚 ( マ グ ロ 、 カ ツ オ ) と 底 生 魚 ( ス ケ ト ウ ダ ラ 、 カ ジ カ ) に つ い て 、 ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン(PC)お よ び ホ ス フ ァ チ ジ ル エ タ ノ ー ル ア ミ ン(PE)の プ ラ ズ マ 口 ー ゲ ン 分 布 を 分 析 し 、PCに お け る プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン の 分 布 は 、 ウ シ く47.0 mol%)は ブ 夕(8.2 moP6)よ り も 多 く 、 魚 類 の 心 臓 で の そ れ は 魚 種 に か か わ ら ず 約7 mol%で あ り 、 家 畜 心 臓 よ り も 魚 類 の 心 臓 で 低 い 分 布 で あ る こ と を 示 し た 。 ま た、PE― プラ ズマ 口ー ゲン の分 布も 、家 畜 く45.O―57.9 mo協 ) と 魚 類 (261297mo協 ) と で 明 ら か に 異 な る こ と を 認 め 、 生 息 環 境 や 習 性 を ー に す る 動 物 問 で 特 徴 的 な プ ラ ズ マ 口 ー ゲ ン 分 布 を 示 す こ と を 指 摘 し た 。 ま た 、 家 畜 プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン は り ノ ー ル 酸 と ア ラ キ ド ン 酸 、 魚 類 の そ れ で は ド コ サ ヘ キ サ エ ン 酸 くDH心 が 主 要 な 構 成 脂 肪 酸 で あ り 、 プ ラ ズ マ ロ ー ゲ ン の 生 理 機 能 に

蔵 夫

也 郎

   

   

浩 和

鐵 是

間 下

木 橋

高 宮

鈴 高

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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PUF、Aの構成が大きく関与しているものと推察した。

  次いで、4%の魚油、あるいは大豆油を含有する飼料を調製し、食餌性PUFA の心臓プラズマローゲンヘの反映についてラットを用いて検討した。4週間の給餌 実験の結果、魚油含有飼料の摂取によルラット心臓プラズマローゲンにn―3系 PUF、Aが反映することを明らかにした。この際、酸化ストレスの負荷は、魚油摂 取群の心臓組織過酸化を促進し、PE―プラズマ口ーゲンの減少を伴うこと、しか し酸化夕ンパク質の蓄積を抑制することを大豆油摂取群との比較から明らかにし た。

  一方、あらかじめプラズマ口ーゲンもジアシル型脂質も胃内での分解がほとん ど起こらないことを人工胃液処理法を用いて確認し、これらの脂質を直接経口摂 取した際の心臓脂質への反映についてラットを用いた4週間の給餌実験によって検 討した。その結果、プラズマローゲン給餌はわずかながらラットの血漿脂質およ び心臓のプラズマローゲン含量を増大させることを認め、組織過酸化度も低く維 持されることを明らかにした。さらに、心臓組織ホモジネートの鉄イオン誘導過 酸化反応についても検討し、プラズマローゲン含量の高い組織ホモジネートで過 酸化レベルが低いことを明らかにした。これらのことは、心臓組織の過酸化抑制 にプラズマ口ーゲンが大きく関与していることを示したものであり、その機能発 現にはプラズマローゲン分子を構成する脂肪酸がPUF、Aであることのみならず、

アルケニル基の存在が必須であるものと推察した。

  そこで、srr2位にアラキドン酸やDHAなどのPUF、Aをはじめ、各種脂肪酸を結 合させたPCおよびPC一プラズマ口ーゲンをウシ心臓由来のPC標品から合成し、

P―.index(被過酸化指標)を同一にしたPCあるいはPC―プラズマ口ーゲンをそれ ぞれに組み込んだりポソームを調製してそれらの酸化安定性を比較検討した。そ の結果、ジアシル型であるPCを組み込んだりポソームよりもプラズマローゲンを 組み込んだりポソームでより高い酸化安定性のあることを明らかにした。この場 合、構成脂肪酸がより高度な不飽和酸である方がプラズマローゲンとしての抗酸 化効果を高めることをも明確にした。

  以上の結果を踏まえ、プラズマローゲンの膜脂質過酸化抑制作用は分子中のア ルケニル基の存在に基づくものであり、DHAのようなより不飽和度の高い脂肪酸 の構成がアルケニル基の抗酸化作用を増大させる要因のーつであるとする機序を 提起した。これらの成果は食餌性水産プラズマローゲンの意義についても有益な 示唆をもたらしたものとして高く評価される。よって、審査員一同は申請者が博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。

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