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スポーツ観戦における経験価値尺度開発およびJリーグ観戦者の分類

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(1)

【原著論文】

スポーツ観戦における経験価値尺度開発

および J リーグ観戦者の分類

齋藤れい

1)

 原田宗彦

2)

 広瀬盛一

3)

Abstract

This research develops the Experiential Value Scale for Sport Consumption (EVSSC). Drawing from the literature on experiential research, a second-order factor model of experiential value was developed. The items were mainly adopted from the Experiential Value Scale (EVS) by Mathwick, Malhotra, and Rigdon (2001). The original items were generated from in-depth interviews with professional football spectators, in addition to the review of previous research. The reliability and validity of the proposed measures were assessed by Cronbach’s alpha coefficients and a confirmatory factor analysis. The results provided fair support for the EVSSC. Confirming an acceptable model fit to the data, hierarchical and non-hierarchical cluster analyses were conducted by using eleven factors in the EVSSC. Four clusters emerged and were interpreted as “Experiential Valued Spectators,” “Non- Experiential Valued Spectators,” “Intrinsic Valued Spectators,” and “CROI Valued Spectators.” Although the results showed the modification on the EVSSC constructs, the findings and recommendations for future research provide numerous opportunities for advancing our understanding of experiential value marketing.

Key words: experiential marketing, sport spectators, cluster analysis

キーワード:経験価値マーケティング、スポーツ観戦者、クラスター分析

The Scale Development for Experiential Value Scale for

Sport Consumption (EVSSC) and Fan Segmentation in J-League Team

1)早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 2)早稲田大学スポーツ科学学術院 3)東京富士大学経営学部 連絡先: 齋藤れい 早稲田大学スポーツ科学研究科, 〒 202-0021 東京都西東京市東伏見 2-7-5 早稲田大学体育教室棟 305 号室

Address Corresponding to: Rei Saito, Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, 2-7-5-305, Higashi-Fushimi, Nishi-Tokyo, Tokyo 202-0021, Japan e-mail: [email protected]

(2)

研究の背景 1993 年にスタートしたサッカーの J リーグは、 これまで、開幕直後の人気沸騰や顧客数低迷、そ して 2002 年のワールドカップ開催による盛り上 がりなど、人気の上昇と交代を繰り返しながら、 チーム数と観客動員数を増やしてきた。その過程 においては、1 試合平均観客数が 4 万人を超える 浦和レッズのようなビッグクラブも現れ、J リー グの存在感を高めた。現在は、2010 年の年間総 観戦者数を 1100 万人にするという「イレブンミ リオンプロジェクト」の達成を目前にしており、 サッカー人気は安定期に入ったと考えられる。し かしながら、プロスポーツはファンに支えられた ビジネスであり、人気と実力を兼ね備えたチーム でも、サッカー観戦価値がないと判断された時、 急速なファン離れが起きる可能性がある。それゆ え、プロクラブの安定経営には、多数のコアファ ンによって構成される顧客ベースの存在が不可欠 である(原田,2008)。開幕から 17 年目のシー ズンを迎える J リーグチームの戦略は、新規ファ ンの開拓とともに、既存ファンのコア化を積極的 に推進する段階にあり、そのためには、ファンの 生活の拠り所となるような「深い経験」(profound experience)を提供し、ファンとチームの関係を 深めるマーケティング活動が必要とされている。 マーケティング研究では、有形財を対象とする 伝統的なマネジリアルマーケティングが、無形財 を対象とするサービスマーケティングへと広がる 一方、データベースマーケティング、ダイレクト マーケティング、リレーションシップマーケティ ングなど、顧客へのアプローチの方法が従来とは 異なる新しいマーケティングの考え方が、時代の 流れにともなって出現した(コトラー・アームス トロング,2003)。本論文がテーマとする経験価 値マーケティングは、これまでの流れの延長線上 に出現した、顧客の経験を重視するマーケティン グの考え方である。経験価値マーケティングの原 型は、「消費経験」(consumption experience)と「顧 客価値」(customer value)の概念から構成されて いる。消費経験とは、「消費者が製品またはサー ビス自体から得るものではなく、消費する過程に おける経験」(Holbrook and Hirschman, 1982)で あり、顧客価値とは「製品やサービスから顧客自 身が得る好ましい経験」(Holbrook, 1994)である。 Mathwick et al.(2001, 2002)は、これらの先行研 究から、消費経験の枠組みの中で生じる顧客価値 を「経験価値」(experiential value)とし、これを「顧 客自身が消費経験を通じて、製品やサービスに対 して知覚した好ましい事柄」と定義した。 かつて、グッズドミナントロジックの考えのも とで、有形財の商品を売るマネジリアルマーケテ ィングは、無形財を扱うサービスマーケティング へと領域を広げたが、サービス経済が成熟し、製 品(モノ)が、サービス財の触媒的機能を果たす ことが理解され始めた時代においては、プロダク トそのものが、モノかサービスであるかは問題 視されなくなってきた。例えばスポーツ観戦で は、ファンが、スタジアムの雰囲気を構成する役 割を担うなど、サービスを受ける客体ではなくサ ービスを生み出す主体として、「ゲーム」という サービス財の生産過程に参加し、同時に、スタジ アムや応援グッズなどのモノが生み出す機能を 享受することによって、経験価値を生み出してい る。それゆえ、モノとサービスを切り分けて観戦 経験を論じることは困難である。別の言葉で表現 すると、ファン行動の理解においては、スポーツ 観戦から得られるサービス満足度を測るサービス マーケティングだけでなく、サービスドミナント ロジックの視点から、スタジアムの雰囲気や応援 グッズなど、モノとともに生み出される総体的 な経験価値を考慮することが重要であると考え られる。このことは、サービスのカスタマイゼー ションや共創の重要性を指摘し、企業・製品・ブ ランド中心のロジックから、顧客・経験・関係 性中心のロジックへの転換を指摘した Vargo and Lusch(2004)の考え方に近似している。これは、 近年、経験価値を論じる上で、しばしば顧客経 験(customer experience)といったキーワードが 用いられている(Grewel et at., 2009; Verhoef et al., 2009; Puccinelli et al., 2009)ことも関連している

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と考えられるだろう。 これまで、スポーツ消費者行動研究において、 経験価値に関する実証的な研究は限られている。 スタジアム観戦における経験のどの部分が観戦者 に価値を与えているのかを定量的に測ることは、 今後スポーツ観戦の価値を論じる上で、基礎的な 資料となると考えられることから、尺度開発の必 要性があると考えた。また、マーケット・セグメ ンテーションに関して、藤本・原田(2001)は「マ ーケット構造を把握し、ターゲット・マーケット の選定やマーケティング戦略展開のプライオリテ ィを決定する上で非常に有効な方法」と指摘して いる。したがって、本研究で開発された尺度を応 用して、観戦者をセグメンテーションすることは、 チーム間やスポーツ間での観戦者の特色を比較で きる可能性があると同時に、マーケティングのタ ーゲット対象を検討する上でも有用性があると考 えた。そこで、本研究ではスタジアムにおけるス ポーツ観戦の経験価値を「スタジアムにおいて、 試合やサービスや他の観客とインタラクションす ることにより、観戦者が知覚する付加価値のある 経験」と定義し、研究をすすめていくこととした。 先行研究の検討 1.経験価値に関する研究 経験価値とは、内的価値(intrinsic value)と外 的価値(extrinsic value)を与えてくれるもので あり、それらは、それぞれ快楽的価値(hedonic value)と機能的価値(utilitarian value)と同義で あるとされてきた(Babin and Darden, 1995; Batra and Ahtola, 1991)。 そ こ に、 能 動 的 価 値(active value)と受動的価値(reactive value)の概念を付 加したのが Holbrook(1994)であり、Mathwick et al.(2001)は、この考えをもとに経験価値を類 型化し、各象限に、「審美性」(aesthetics)、「遊び」 (playfulness)、「サービスエクセレンス」(service

excellence)、「 投 資 効 果 」(customer return on investment)という名称を付与した(図 1)。彼ら は、この類型をもとに経験価値尺度を開発し、小 売・サービス部門の枠組みにおいて実証研究を行 った。図 2 に示したのは、Mathwick et al.(2001) が用いた経験価値の構造を分析したモデルであ る。また、経験価値を論じる上で、しばしば顧客 経験の重要性が指摘されている。スポーツ観戦に おいて、顧客は観戦者と言い換えられることから、 顧客経験は顧客の知覚する経験価値であることか ら、観戦者の経験価値とほぼ同義と考えられる。 その顧客経験に関しては、昨今の小売・サービス 部門における研究において、単に低価格で革新的 な製品を顧客に提供するだけでは、厳しい経済 環境や、競争が激化する小売業界で生き残ること ができないということが指摘されており(Grewel et al., 2009)、顧客接点における「顧客経験マネ ジ メ ン ト 」(customer experience management) の 重 要 性 が 指 摘 さ れ て い る(Verhoef et al., 2009; Puccinelli et al., 2009)。他にも、快楽的価値を求 める消費者は、機能的価値を求める消費者に比べ て、より顧客ロイヤルティが高まるとした実証的 な研究(Chirruei et al., 2008)が行われるなど、近年、 顧客経験に関連する研究が積み重ねられてきてい る。 さらに、経験価値と、遊びやフローとの関係 性に着目した研究も増加している。これは、ス ポーツ観戦に特有な経験価値を検討するうえで、 有用な示唆を提供してくれる。例えば遊びには、 顧客との関係や態度を変える、思い出に残る経 験を創造する力があるとした研究(Deighton and Grayson, 1995)がある。それ以外にも、近年増加 しているウェブサイトに関する経験価値研究にお いて、暇にまかせてネット検索している人と、調 べ物をネット検索している人のフロー状態を比較 内発的 遊び 審美性 価値 外発的 投資効果 価値 能動的価値 受動的価値 (Mathwick et al., 2001) 図1: 経験価値の類型 サービス エクセレンス 図1 経験価値の類型

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した研究(Novak et al., 2003)や、フローと遊び の密接な関係を実証した研究など(Mathwick and Rigdon, 2004)がある。 フ ロ ー に つ い て チ ク セ ン ト ミ ハ イ(1996, 2008)は、「一つの活動に深く没入し、ほかの何 ものも問題とならなくなる状態で、その経験自体 が楽しいので、純粋にそれをするということの ために多くの時間や労力を費やすような状態」で あり、スポーツは、「フローの状態が特に起こり やすい環境を与える」と指摘している。また原田 (2008)は、スポーツは遊びであり、楽しみ、興奮、 社交、誇りといったさまざまな経験価値を便益と して提供することから、その行動の理解には、ホ イジンガのホモ・ルーデンス(遊ぶ人)という人 間観がフィットし、このことがスポーツマーケテ ィングの独自性を際立たせる特徴のひとであると 指摘するなど、スポーツ観戦独自の経験価値とし て、フローが密接に関係することが推察される。 スポーツマーケティング分野では、隅野(2005) が指摘するように、スポーツ観戦行動を消費行動 と捉え、消費者行動研究の理論を援用しながらス ポーツ観戦者行動の解明を試みてきたように、昨 今では、経験価値の概念を応用したスポーツ消費 者行動の解明が試みられている。たとえば、シュ ミット(2004)が行った劇場におけるインタビュ ー調査を参考にして実施された研究では、調査員 がマンツーマンで観戦者に張り付き、その場で 感じたことをインタビューで逐次イン テイクし、時系列に経験価値を探った研 究( 齋 藤 ほ か,2008) や、Mathwick et al.(2001)の経験価値尺度を援用して、 J リーグ観戦者を対象に尺度作成を行っ ている研究(Saito et al., 2008)があるが、 その数は限られているのが現状である。 スポーツ観戦イベントにおいて観戦者が 獲得する価値を最大化させるため、中核 的要素(ゲームやリーグの運営)に加え て、周辺的(拡張的)要素(催し物、付 帯施設、プロモーション活動など)に注 意を向ける必要がある(原田,2008)。 したがって、スポーツ観戦独自の経験価 審美性 遊び サービス エクセレンス 投資効果 演出 エンタテイメント 逃避 内なる楽しみ 効率性 経済的価値 Y1 Y2 Y3 Y4 Y5 Y6 Y7 Y8 Y9 Y10 Y11 Y13 Y14 Y15 Y16 Y17 Y12 e1 e2 e3 e4 e5 e6 e7 e8 e9 e10 e11 e14 e15 e16 e17 e18 X1 X2 e12 e13 e19

2: Mathwick et al. (2001) による経験価値尺度図2 Mathwick et al. (2001) による経験価値尺度

値尺度を開発するには、小売・サービス部門にお ける経験価値研究を援用して検討することが有効 であると考えられる。 2.マーケット・セグメンテーションに関する   研究 消費者の価値観や嗜好が多様化している今日、 市場の消費者ニーズを単一なものと考えて、同じ 製品を投入していくマスマーケティング手法で は、製品を消費者の個々のニーズに適合させるこ とが困難になっている(コトラー・アームストロ ング,2003)。したがって、マーケット・セグメ ンテーションを行うことによって、欲求や属性等 が類似するグループに細分化し、ターゲット市場 を見つけ出すことにより、訪れる観戦者に対して、 効果的なマーケティング活動を行うことができる (Mullin et al., 2007)。一般に、セグメンテーショ ン基準には、デモグラフィック基準、サイコグラ フィック基準、製品ベネフィット、製品使用、の 4 つの変数が用いられ、スポーツの世界でも多く の研究が行われてきた(Bennet et al., 2003; Trail et al., 2002)。 日本においても、スポーツ観戦者においてマー ケット・セグメンテーションを行った研究が散見 される。例えば、複数のトップリーグチームの観 戦者を観戦動機尺度から分類を行った研究(高田 ほか,2008)や、プロバスケットチームのファン

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クラブ会員の特性を Points of Attachment 尺度を用 いて分類を行った研究(大西ほか,2008)がある。 また、藤本・原田(2001)は、スタジアムでの J リーグの観戦経験がない潜在的観戦者を対象に、 観戦意図や関心度、チーム・アイデンティティ等 を用いて分類を行っている。しかしながら、製品 ベネフィット基準によってマーケット・セグメン テーションを試みた研究は存在するものの、消費 行動において顧客が獲得する様々な経験価値に着 目したマーケット・セグメンテーション研究は不 足している。また、セグメンテーションの要件と して、焦点化、到達可能性、安定性、柔軟な対応 などが判定の基準になるといわれている(Wedel and Kamakura, 2000)。例えば、デモグラフィック 特性は到達可能性が優れている一方で、顧客一人 ひとりの特性に応じた柔軟な対応などは劣ってい るとされる。経験価値に基づくマーケット・セグ メンテーションは、尺度が既存のサイコグラフィ ック基準のセグメンテーションを補う可能性があ ると考えられることから、本研究では、探索的に セグメンテーションを行うこととした。 研究の目的 本研究では、観戦者がスポーツ観戦に求める経 験価値に注目した。スポーツ観戦に伴う経験価値 は、チケットを購入したときから、試合中はもち ろん、終わった後も継続する、観戦にまつわる一 連の経験に伴う価値と考えられるが、本研究にお いては、スタジアム観戦のみを対象とし、試合前 の観戦者に対してこれまでの観戦経験について尋 ねることとした。消費者の過去の経験を基にした 研究は、サービスクオリティ研究に多くみられる。 例えば、Bolton and Drew(1991)は、「顧客の電 話サービス関する経験を十分に引き出すために、 顧客が最近経験した様々なサービスの評価を報告 してもらった」(p.380)としており、Dabholkar et al.(1996)においても、「顧客の最近のショッピ ング経験を反映するために、買い物前の顧客に対 して店舗入り口で質問紙を配布し回収した」(p.9) ほか、Brady and Cronin(2001)は、「参加者はサ

ービス提供者との間で長期的に取引されたサービ ス経験を基に回答した」(p.41)としている。こ れらの研究と同様に、本研究においても、スポー ツ観戦者が経験したスポーツ観戦イベントの価 値を十分に引き出すために、試合開始前の調査に おいて過去の経験を想起させて経験価値を測定し た。経験価値の定量的測定については、Mathwick et al.(2001)の多次元の経験価値尺度(experiential value scale:以下「EVS」と略す)を援用し、そ こに新たにスポーツ観戦独自の因子(選手・雰囲 気・覚醒・共感)を付加し、スポーツ観戦におけ る経験価値尺度(experiential value scale for sport consumption:以下「EVSSC」と略す)の開発を 行うこととした。本研究では EVSSC を開発する と同時に、尺度の信頼性と妥当性を確認すること を「研究その1」の目的とし、EVSSC を用いて 観戦者のセグメンテーションを行い、類型化を行 うことを「研究その2」の目的とした。 研究その 1:尺度開発 1.研究方法 1)構成概念の定義と項目設定

本 研 究 で は、Mathwick et al.(2001) の EVS を 基 盤 と し、「 審 美 性 」(aesthetic)、「 遊 び 」 (playfulness)、「サービスエクセレンス」(service

excellence)、「 投 資 効 果 」(customer return on investment)の 4 つの上位構成概念、10 の下位因 子、32 項目からなるものとした。そして、予備 調査において、便宜的に選ばれた 10 代から 50 代の男女計 6 名を対象に、試合会場におけるイ ンデプスインタビュー調査を、定性データ分析ソ フトである Maxqda 2007 を用いて、筆者らが分析 を行った結果、「選手にほれぼれする」、「スタジ アムの雰囲気が好き」、「わくわくする」、「選手と 一体感を感じる」等の、「選手」、「雰囲気」、「覚 醒」、「共感」に関する項目が抽出された(齋藤ほ か,2008)。これらをふまえ、以下、順に本研究 における構成概念の定義と項目設定について説明 を行う。 ①審美性(aesthetics)

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審美性について、消費者行動研究では、小 売サービスの主体が視覚的に訴える美的要素 や、ドラマチックな展開によって顧客を楽しま せ る こ と(Deighton and Grayton, 1995; Mano and Oliver, 1993)としている。そして、顧客にとっ て、買い物という主目的が達成されなくても、 「演出」(visual appeal)と「エンタテイメント」 (entertainment)の側面は、即時に美的な喜びを

与えてくれるものである(Deighton and Grayton, 1995)。先行研究では、ショッピングに付随する 経験価値として「演出」(3 項目)と「エンタテ イメント」(3 項目)の 2 因子によって説明された。 本研究では、スポーツ観戦が本質的に「エンタテ イメント」であると考えたことから、「エンタテ イメント」に関わる項目を「演出」の概念に含 める計 6 項目とした。さらに、メインパフォー マーである「選手」(player:3 項目)を変数とし て追加した。「選手」については、Trail and James (2001) の Motivation Scale for Sport Consumption (MSSC)における選手のパフォーマンスの美し さに着目した Physical Skill 因子の 3 項目を引用 した。また、ショッピングでは、その場の雰囲気 が影響を及ぼすとした指摘があることから、「雰 囲気」(atmosphere:3 項目)を追加した。「雰囲気」 についてはスタジアムの雰囲気について尺度開発 を行った、Uhrich and Benkenstein(2008)から引 用した。 以上を参考に、本研究では、スタジアム観戦に おける「審美性」とは、「目前で繰り広げられる、 スタジアム内の演出やエンタテイメント、試合そ のものや観衆が作り出す雰囲気が、消費者に総合 的に五感に訴えて美的な喜びをうながすこと」と 定義したい。 ②フロー(flow) 先行研究では、「逃避」(escapism:3 項目)と 「内なる楽しみ」(intrinsic enjoyment:2 項目)の 2 つの因子から説明される「遊び」(playfulness の)概念であったが、本研究では「フロー」(flow) の概念に置き換えることとした。以下、理由を述 べたい。チクセントミハイ(1996)によれば、フ ローとは、自分の行為に完全に没入しているとき の意識状態であり、さらに体験した人に何か特別 なことが起こったと感じさせる、心と身体が自然 に作用し合う調和のとれた経験である。さらに、 スポーツ観戦については、選手も観客も人目を引 くユニフォームを身につけ、世俗の世界から彼ら を一時的に切り離すために作られた特殊な文化の 領域に入る。そして、試合中選手や観客は常識に 従う行為をやめ、試合独自の現実に注意を集中す ることから、フローを経験しやすいと指摘してい る。チクセントミハイ(2008)によれば、最適経 験であるフロー(flow)が生じると気分が高揚す るとした。また、フローが生じた結果、自己を超 えた他者との結合が生じるとした。したがって、 「覚醒」(arousal:2 項目)と「共感」(empathy: 3 項目)を変数として追加することとした。「覚醒」 については、情緒は高レベルの覚醒状態であると した、Mano and Oliver(1993)を参考にして、ス ポーツ観戦にあてはまるように作成した。「共感」 については、スポーツにおいて、コアファンであ るほど負けたときに怒りを感じるという共感の概 念を組み込んだ動機尺度(SCM: James and Ross, 2004)があるものの、インタビューで得られた回 答の内容やフローの概念とは整合性が取りづらい ことから、心理学における情動的共感(3項目) と認知的共感(2項目)の概念を検討した。情動 的共感とは、無意識に入り込んでしまう意味を含 有し、認知的共感とは、自己を他者へと立場を置 き換える意味を含有する。これらは、小池(2003) に基づいて、スポーツ観戦におきかえて作成する こととした。この構成概念は、チクセントミハイ (2008)のフロー概念に相当すると考えられるこ とから、EVSSC を検討するにあたり、「遊び」を 「フロー」の概念に置き換えることとした。 本研究では、スタジアム観戦における「フロー」 とは、「観戦者が、試合や応援を心から楽しむと 同時に、日常を忘れるほど没入して高揚し、選 手及び周りの観客と自然に融合する感覚を伴うこ と」と定義する。 ③サービスエクセレンス(service excellence) サービスエクセレンスは、消費者行動研究にお いては、消費者による受身的な反応を反映してい

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るとされる。つまり、小売サービスの主体が消 費者本位の立場にたった手段となり得ているか によって、好感を持つかどうかである(Holbrook and Corfman, 1985; Holbrook, 1994)。Oliver(1999) は、サービスの品質が最終的に評価されるのが、 サービスエクセレンスであるとしている。また、 Zeithaml(1988)は、小売サービスの主体による、 様々な取り組みは、消費者にサービス全体に対す る素晴らしさ(エクセレンス)を知覚させること により価値となると指摘している。項目設定にあ たっては、スタジアムにおけるサービスの総合的 な知覚をあらわす項目として新たに追加するべき ものが現段階でないと判断したことから、先行研 究の2項目のみにて測定することとした。 本研究では、スタジアム観戦におけるサービス エクセレンスとは、「消費者が、スタジアムで受 けるサービスについて総合的に優れていると感じ ること」と定義したい。

④投資効果(customer return on investment:  CROI) 投資効果について、Mathwick et al.(2001)は、 財務的、時間的、行動的、心理的な資源を積極的 に投資することによって、どれほどの利益を得ら れるかであるとしている。つまり、投資した時間 や金額に見合った見返りが得られるかどうかで ある。本研究においても、先行研究と同様に、投 資効果を説明する因子として、主体から得られ た時間的効率性(Holbrook, 1994; Zeithaml, 1988) と、小売サービスの主体に対する支払いに対して 得られた質に感じた価値(Thaler, 1985; Grewal et al., 1996; Yadov and Monroe, 1993)の 2 つの側面 から測定するものとする。項目設定にあたって は、スタジアム観戦に特有な項目が現時点で見当 たらないことから、先行研究と同様に「効率性」 (efficiency:3項目)と「経済的価値」(economic value:3項目)にて測定することとした。 本研究では、スタジアムにおける投資効果とは、 「時間や資金的な投資によって、消費者が利益を 得ることができたと感じること」と定義すること とした。 2)専門家評価 構成概念を表すワーディングの妥当性を高める ため、マーケティングの研究者とスポーツマネジ メントの研究者の計2名に専門家評価を依頼し た。それは、筆者が和訳した質問項目を原著の項 目と照らし合わせ、スポーツ観戦の枠組みに意訳 できているかを検討し、ワーディングの検討を行 った後、質問項目が構成概念を正確に代表してい るかについて内容的妥当性の検討を行うものであ った、評価の結果、ワーディングの修正を行った。 3)プレ調査 本調査前に、項目のワーディングや構成を確認 するために、プレ調査を行った。対象者は、便宜 的に抽出した5大学の大学生および大学院生、計 135 名であった。その結果、「演出」因子におけ る 6 項目のうち、「試合以外にも色々なお楽しみ をラインアップしている」という測定項目に関し て、推定値が有意でなかった。これは、スポーツ 観戦においては、製品そのものが「お楽しみ」で あることから、ワーディングがわかりづらいと 判断し、削除して5項目とすることとした。ま た、新たに付け加えた「共感」因子に関して、情 動的共感と認知的共感の概念を表す 5 項目があ ったが、次に示した、認知的共感の2項目、「私 はあたかも自分自身がピッチに立ってプレイして いるかのように感じることがある」と「選手がミ スすると、私がもしその選手だったらどんな気持 ちか考えることがある」を除外した。それは、情 動的共感(3項目)のみの方が、適合度が高か っ た た め(CFI = .793 → .804、GFI = .685 → .709、AGFI = .629 → .650、RMSEA = .091 → .093)である。したがって、本調査には 29 項目 が採用されることとなった。なお、分析にあたり、 SPSS ver.11.5 および Amos 5.0 を分析用ソフトと して使用した。 4)本調査 調査は、事前にトレーニングされた 27 名の調 査員による訪問留置法による質問紙調査法で実施 した。質問項目全体の指示文として、「川崎フロ

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ンターレのホームゲームにおける、あなた自身の サッカー観戦についておたずねします。等々力競 技場・ホームゲームを想定して、以下の項目それ ぞれについて、当てはまる番号1つに○をつけて ください。」と記載した。これは、当日の経験は 試合終了後でなければ測定できないことから、過 去のスタジアム経験について想起した回答を得 るためである。日時は、2008 年 11 月 23 日に 等々力競技場にて開催された J リーグ Division 1 第 32 節、川崎フロンターレ vs ガンバ大阪の試 合、観客者数 21,714 人にて実施した。調査時間 は 10:00 のスタジアム開門後から試合開始約 30 分前までの 12:30 までとし、スタンドに着 席している観戦者に対し質問紙が配布、回収され た。調査員はそれぞれ担当するブロックで、観戦 者の年齢層と男女比を考慮し、ブロック全体を反 映させるようランダムにサンプルを抽出した。調 査対象は、12 歳以上のホーム側座席における観 戦者を対象とした。コンタクトを取った観戦者の うち、回収数は 982 名であった。席種別にみると、 有効回答数は 961 名(有効回答率 97.9%)であ り、自由席 682 名(71.0%)、S ブロック席 202 名(21.0%)、SS・SB 席 36 名(3.7%)、後援会 指定席 15 名(1.6%)、その他 26 名(2.7%)で あった。シーズンチケットホルダーは、有効回答 数 958 名(有効回答率 99.7%)中 538 名(56.2 %)であった。男女比では、有効回答数 963 名 (有効回答率 98.1%)中、男性 605 名(62.8%)、 女性 358 名(37.2%)であり、2008 Jリーグス タジアム観戦者調査報告書の結果(男性 63.7%、 女性 36.3%)と比較すると同等の水準であった。 また、平均年齢は、有効回答数 963 名(有効回 答率 98.1%)で、36.1 歳であり、2008 Jリー グスタジアム観戦者調査報告書の川崎フロンター レの平均年齢 35.8 歳と比較すると同等の水準で あった。 2.測定尺度の分析結果 本調査において回収された質問紙の中から、 EVSSC に関する項目に欠損値がある標本および、 EVSSC に関する項目にすべて同じ値で回答して いる標本を分析から除外して、有効回答数 863(有 効回答率 87%)の標本を用いた。まず、確認的 因子分析を行い、収束的妥当性および弁別的妥当 性を検討するために、因子負荷量、AVE(average variance extracted)、相関係数を分析した。尺度 の信頼性の検討は、Cronbach α 係数により行う と同時に、構成概念信頼性を確認するために CR (composite reliability)にて検討した。 はじめに、確認的因子分析の結果であるが、サ 審美性 フロー 投資効果 逃避 共感 効率性 CFI=.870 GFI=.859 AGFI=.831 RMSEA=.071 n = 863 .79 .60 .84 .64 .61 .88 .80 .85 .71 .46 .35 .63 .65 .37 .60 = df / 2 χ 5.342 18 19 20 21 24 17 e24 e25 e26 e27 e28 e29 12 13 14 15 16 11 6 7 8 9 10 5 2 3 4 1 22 23 25 26 27 28 29 e16 e17 e18 e19 e20 e21 e10 e11 e12 e13 e14 e15 e4 e5 e6 e7 e8 e9 e1 e2 e3 e22 e23 .68 .45 .85 .75 .85 .70 .78 .87 .70 .87 .81 .65 .78 .88 .86 .83 .79 .85 .79.77 .85 .71 .71 .88 .88 .65 .82 .67 .81 演出 内なる楽しみ 覚醒 経済的価値 雰囲気 選手 サービス エクセレンス 図3 スポーツ観戦における経験価値尺度の検証結果 ンプル数が大きいことから、カイ二 乗適合度検定によれば許容されない こととなった。朝野ほか(2007)に よれば、サンプル数 500 以上の大 標本の場合、たいていのモデルが棄 却されるようになることから、各 適合度指標であてはまりを検討する べきとしている。つぎに、適合度 指標であるが、CFI = .870、GFI = .859、AGFI = .831 と い う 結 果 と なり、.90 以上を許容範囲(acceptable fit)とした Hair et al.(2006)の指摘 からは、当てはまりがいいとはいえ ない結果となった。また、RMSEA (.071)においても、サンプル数が 250 以上の場合、.07 以下が許容範

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囲であるとした Hair et al.(2006)の指摘を満た すことはできなかった(図 3)。 次に、収束的妥当性と弁別的妥当性の検討であ るが、各変数の AVE を .50 以上を基準(Fornell and Larcker, 1981)に妥当性の検討を行った結果、 すべての変数において基準を上回る結果となった (表1)。したがって、構成概念の収束的妥当性を 有していることが示された。また、1次因子間の 相関係数2乗が各要因の AVE を超えないことが 確認されたことから、弁別的妥当性が確認するこ とができた(表2)。 項目 α AVE CR 演出  1 全体の演出方法はおしゃれである 2 競技場全体は見た目がかっこいい 3 全体の演出が好きである 4 エンタテイメント性が高い 5 熱狂的で心うたれる 選手 6 選手の美しいプレーや個人技にほれぼれする 7 選手の素晴らしいパフォーマンスを観るのが好きだ 8 スキルの高いフォーメーション・組織プレーを観るのが好きだ 雰囲気 9 競技場全体の雰囲気・空気が好きである 10 観客全員でつくりあげる雰囲気・空気が好きである 11 試合の流れによって変化する競技場全体の雰囲気・空気が好きである 逃避 12 日常から遠ざかって、非日常な気分を味わうことができる 13 まるで別世界にいるような気にさせてくれる 14 いつも(試合に)没頭してしまい、他の一切のことを忘れることができる 内なる楽しみ 15 純粋にサッカーを観戦するのが好きだ 16 試合を観戦するのは、純粋に楽しいからである 覚醒 17 競技場にくると、わくわくする 18 試合を観戦すると、気持ちが高揚する 共感 19 選手が頑張っている気持ちがわかる瞬間選手と一体感を感じることがある 20 試合中の選手のミスが、自分のミスであるかのように感じられることがある 21 チームや選手のプレーに強く心を動かされたり、深く入り込んでしまうことがある 22 会場全体のオペレーション・運営が優れている 23 川崎フロンターレが優れているのは会場全体の雰囲気である 効率性 24 試合がある日だったら、川崎フロンターレを見に行こうと思う 25 ホームゲームは気軽に訪れることができる 26 ホームゲームは私の都合に合わせやすい 経済的価値 27 ホームゲームはお得感がある 28 私は全体的にチケットの値段に満足している 29 等々力競技場で行われる試合は割安であると思う .80 .80 .80 フロー .80 .81 .83 .66 .99 .99 .99 .99 .99 .99 .99 .99 .66 .74 .78 .82 サービス エクセレンス .68 投資効果 .77 .85 .69 .99 審美性 .78 .78 .83 .85 .99 .76 さ ら に、 信 頼 性 の 検 討 を 行 っ た と こ ろ、 Cronbach α 係数は、「演出」(.80)、「共感」(.66)、 「サービスエクセレンス」(.68)の 3 つの因子に 関して .707 以下(Nunnally, 1978)となる結果と なった。CR 値は、許容範囲の .60 以上(Bagozzi and Yi, 1988)をすべての変数において上回る結 果となったことから、一定の信頼性を有している と判断した(表1)。 以上より、EVSSC の信頼性と妥当性の検証の 結果、妥当性においては検討する余地がある結果 となったものの、一定の信頼性を確認することが 表1 スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)の因子項目の信頼性と収束的妥当性

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できたと判断した。 研究その2:経験価値による観戦者の分類 1.研究方法 EVSSC 尺度において、妥当性においては改善 する余地がある結果となったものの、一応の信頼 性が確認されたことから、「研究その1」で用い た標本を用い、EVSSC の上位構成概念を変数と して用いた探索的なクラスター分析を行い、類型 化することにより、セグメントごとの特性を明ら かにすることとした。 はじめに、階層的クラスター分析を行うに際し、 EVSSC における上位構成概念4因子それぞれの 合成変数を Z 得点化して標準化した。個体間の 距離の測定方法は、平方ユークリッド距離を用い、 クラスター間の距離の測定方法は鎖効果(chain effect)が起こりにくいとされる、Ward 法を用い た。鎖効果とは、ある1つのクラスターに固体が 1つずつ順に吸収されていく状態をいい、一般的 に好ましくない分析結果として考えられている (村瀬ほか,2007)。階層的クラスター分析の結果、 3、4、または6クラスターに分かれることが推 察された。 次に、k 平均法による非階層的クラスター分析 を3、4、6クラスターにて試行した。「クラス ターの規模」、「クラスターごとの変数の差」の観 点からクラスター数の検討を行ったところ、クラ スター数を 4 に指定した場合に、最も市場規模 が均質でクラスターごとの変数に差がみられたこ とから、4個のクラスターを採用した。その後、 クラスター間の比較を行うため、一元配置分散分 析を行った。なお、SPSS ver.11.5 を分析用ソフト として使用した。 2.分析の結果 1)セグメントごとの経験価値特性の把握 クラスターごとの経験価値の標準化得点を図4 と表3に示した。カイ二乗検定と一元配置分散分 析を用いて、クラスター間の比較を行ったところ、 経験価値項目においては有意な関係が認められた ものの、性別と平均年齢においては有意な差がみ られなかった。そこで、この有意な関係が認めら れた経験価値得点の傾向から、クラスターの解釈 を行った。 2)第 1 クラスターの特徴 第1クラスターは全体の 11.0%(n = 95)を 占め、最も小さいクラスターとなった。男女比は、 男性 57.4%、女性 42.6%で、平均年齢は 37.2 歳であった。「審美性」、「フロー」、「サービスエ クセレンス」、「投資効果」のすべての4因子にお いて標準化得点が負の値であるうえ、全クラスタ ー中最も低い値を示す結果となった。以上のこと から、「経験価値を感じていない観戦者」と命名 した。 3)第2クラスターの特徴 演出 選手 雰囲気 逃避 内なる楽しみ 覚醒 共感 サービスエクセ レンス 効率性 経済的 価値 演出 1.00 選手 .37 1.00 雰囲気 .70 .46 1.00 逃避 .41 .33 .50 1.00 内なる楽しみ .25 .49 .34 .35 1.00 覚醒 .44 .53 .58 .53 .65 1.00 共感 .48 .71 .55 .50 .38 .68 1.00 サービスエクセレンス .75 .41 .71 .44 .23 .45 .57 1.00 効率性 .40 .35 .46 .21 .22 .29 .48 .47 1.00 経済的価値 .42 .27 .33 .24 .13 .31 .41 .61 .50 1.00 表2 スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)1次因子の相関行列

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第 2 ク ラ ス タ ー は 全 体 の 27.9%(n = 241)を占め、2 番目に大きいクラスターとな った。男女比は、男性 63.3%、 女性 36.7%であった。平均年 齢は、35.9 歳であった。こち らのクラスターにおいては、「投 資効果」において標準化得点が 正の値を示したものの、「審美 性」、「フロー」、「サービスエク セレンス」においては、負の値 を示す結果となった。「審美性」 と「サービスエクセレンス」に おいて、第4クラスターに次い 女比は、男性 58.8%、女性 41.2%であった。平 均年齢は 36.1 歳であった。「フロー」の標準化 得点は正の値であったが、「審美性」、「サービス エクセレンス」、「投資効果」の3因子においては 負の値を示した。「フロー」と「審美性」におい て、第4クラスターに次いで、高い水準を示した ことから、純粋にサッカーが好きで、試合そのも のに楽しみを見出している層と考えられることか ら、「サッカーそのものに経験価値を感じている 観戦者」と命名した。 -2.00 -1.50 -1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00 審美性 フロ ー サービ スエク セレン ス 投資 効果 クラスター 4 クラスター 3 クラスター 2 クラスター 1 ▲ 図4 クラスター分析の結果 で、2番目に高い水準を示したことから、試合そ のものや選手にはそれほど興味はないが、スタジ アムにおける経験価値全体として、お気軽感やお 得感を感じ、レジャーのひとつとして楽しむこと ができている層であると考えられることから、「周 辺的要素に価値を感じている観戦者」と命名した。 4)第3クラスターの特徴 第 3 クラスターは全体の 20.5%(n = 177) を占め、3番目に大きいクラスターとなった。男 4クラスター結果における最終クラスター中心

cluster 1 cluster 2 cluster 3 cluster 4 F value

審美性 -1.58 -.45 -.01 .75 F(3,859)=365.98, p<.01 フロー -1.35 -.76 .36 .71 F(3,859)=415.77, p<.01 サービスエクセレンス -1.51 -.16 -.45 .75 F(3,859)=317.60, p<.01 投資効果 -1.4 .16 -.80 .69 F(3,859)=368.53, p<.01 (ケース数) (95) (241) (177) (350) 男性 54 (57.4%) 150 (63.3%) 104 (58.8%) 226 (66.1%) 女性 40 (42.6%) 87 (36.7%) 73 (41.2%) 116 (33.9%) (ケース数) (94) (237) (177) (342) 平均年齢 37.2 35.9 36.1 36.0 n.s. (ケース数) (91) (238) (176) (340) . . 994 . 3 2 s n x = 表3 スポーツ観戦における経験価値尺度(EVSSC)の非階層的クラスター分析結果

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5)第4クラスターの特徴 第4クラスターは全体の 40.6%(n = 350) を占め、最も大きいクラスターとなった。男女比 は、男性 66.1%、女性 33.9%であり、平均年齢 は 36.0 歳であった。こちらのクラスターにおい ては、すべてのクラスターにおいて最も高い水準 を示したことが特徴であることから、「経験価値 を感じている観戦者」と命名した。 結果のまとめと考察 1.研究その1のまとめと考察 本研究では、Mathwick et al.(2001)の経験価 値尺度(EVS)を発展させ、スポーツ観戦に特有 の変数を付加したスポーツ観戦における経験価値 尺度(EVSSC)の作成を試みた。 はじめに、EVSSC の測定尺度における、信頼 性および妥当性の分析結果について、以下考察を 行う。まず、妥当性の検証であるが、確認的因子 分析の結果、各適合度指標において基準値を満 たす結果は得られなかったものの、収束的妥当性 における AVE においては、すべての構成概念の 変数において、基準を満たす結果を得ることがで きると同時に、1次因子間の相関係数2乗が各要 因の AVE を超えないことが確認されたことから、 弁別的妥当性も確認することができた。また、信 頼性においては「演出」、「エンタテイメント」、「共 感」、「サービスエクセレンス」を除いた7因子に おいて基準を上回り、信頼性については、すべて の変数において十分に基準を満たす結果が得られ た。 適合度指標が基準値を満たすことができなかっ た理由として、因子間の相関係数の高さが考えら れる。例えば、「雰囲気」と「演出」の相関が高 くなった(.70)はどちらもスタジアムの全体的 な印象を測っているとも捉えられ、ゲームの雰囲 気と試合中の高揚感はどちらも感情的な反応であ り、差別化が非常に難しいと考えられる。また、「雰 囲気」と「サービスエクセレンス」の相関が高く なった(.71)理由として、どちらも雰囲気を扱 っていると捉えられたことが考えられる。同様に 「選手」と「共感」についても(.71)、どちらも 選手に関する記述であることから、選手のパフォ ーマンスを表した「選手」との差別化が難しかっ たと考えられる。そして、「演出」と「サービス エクセレンス」については(.75)、どちらも会場 全体のことをきいているとも捉えられる。これら については、今後ワーディングを再検討する必要 性があるだろう。さらに、「サービスエクセレン ス」と「経済的価値」に関しても相関が高めの結 果となったが(.61)、それは最近のマーケティン グ研究において定義される機能的価値が、利便性 と買い得感に加え、サービス品質を含めると指摘 されていることからも(Rust et al., 2004; Vogel et al., 2008)、今後の課題として、サービスエクセレ ンスの役割を検討すべきであろう(表2)。 また、本研究においては、試合前調査において、 観戦者の過去の経験について尋ねるという方式を とっているが、質問項目によっては当日の経験の 印象で答えているものもあるだろう。当日のスタ ジアム経験を測るには、試合後調査を検討する必 要性もあると考えられるが、勝敗に影響された回 答となる可能性もある。これらの問題は、質問紙 調査の限界であると考えられ、経験価値尺度を用 いて分析を行う際には、回答は、過去及び当日の 経験、そして気分等に左右されている可能性を考 慮することが必要である。 2.研究その2のまとめと考察 次に、EVSSC によるセグメンテーションを行 った結果について考察する。まず、階層的クラス ター分析を行った結果、4つのクラスターに分類 することが推察されたことから、次に k 平均法 による非階層的クラスター分析を行った。その結 果、割合の多い順に、「経験価値を感じている観 戦者」(40.6%)、「周辺的要素に価値を感じてい る観戦者」(27.9%)、「サッカーそのものに経験 価値を感じている観戦者」(20.5%)、「経験価値 を感じていない観戦者」(11.0%)となった。「経 験価値を感じている観戦者」が、4割も占めてい ることは、川崎フロンターレの観戦者においては、 調査における自由記述においても、フロントや運

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営に対する不満の声がほとんどきかれなかったこ とからも、チームと「経験価値を感じている観戦 者」との関係は良好であると推察される。また、 セグメンテーションの要件に関しては、クラスタ ー数をいくつにするかということに関して明確な 基準はなく(Hair et al., 2006)、本研究においても、 階層的クラスター分析においては、3、4または 6のクラスターが推察されたことから、最終的に 4つのクラスターに決定を行うに際し、全くの主 観が入らないわけではなく、焦点化、安定性にお いては劣っていると考えられる。また、基準変数 に用いた尺度は、確認的因子分析において適合度 基準を満たさず、因子や項目のコンビネーション が変わった場合、抽出されるクラスターも異なる ことが考えられる。さらに、経験価値尺度はサイ コグラフィック基準の一種であると考えられるこ とから、外見からどのクラスターに属する観戦者 かを判断することは難しいことから、到達可能性 において優れてはいないと考えられる。一方、経 験価値尺度によるマーケット・セグメンテーショ ンが、観戦者全体におけるクラスターごとの割合 に応じて、柔軟に対応できることは優れている点 であると考えられるだろう。特に、人口統計学的 特性を用いてクラスター間に統計的に有意な差が みられなかったことから、経験価値得点により特 徴づけることができたことは、有効であっただろ う。本研究における限界や今後の検討事項も多い ことがわかると同時に、観戦者を探索的に類型化 する目的を達することはできたと考えられる。 スポーツ観戦者は熱しやすく、冷めやすい、常 にファンのニーズや反応に気を配っていないと、 飽きられてしまう(原田,2008)。スポーツチー ムと観戦者の持続発展的な関係性を保つには、観 戦者の属性や種類に応じたマーケティング活動が 必要である。本研究の結果から、「サッカーその ものに経験価値を感じている観戦者」は、「サー ビスエクセレンス」や「投資効果」に経験価値を 感じないものの、「フロー」には正の値を示し、「審 美性」においても平均的な値を示していた。ま た、「周辺的要素に価値を感じている観戦者」に おいては、「投資効果」において正の値を示すと いう逆の結果を示していた。それは、本研究の結 果からはわからないが、前者はサッカー競技経験 があり、後者は競技経験はないもののレジャーと しての楽しみを感じている可能性も推察できるだ ろう。 結 論 本研究では、まず EVSSC の尺度開発と観戦者 の分類を通じてスポーツマーケティングの基礎的 データの蓄積に貢献することができたが、同時に いくつかの課題を浮き上がらせた。 はじめに、EVSSC 尺度が適合度基準を満た せなかった理由の1つとして、先行研究である Mathwick et al.(2001)の EVS の項目に大きく依 拠している点があげられる。スポーツ観戦という プロダクトそのものの機能的価値でもある「エン タテイメント」と、ショッピングにおける情緒的・ 快楽的価値である「エンタテイメント」概念との 整合性については議論の余地が残されている。本 研究においては、「演出」が「エンタテイメント」 の概念を包含する形となったが、今後の課題とし て、適合性の観点から、スポーツ観戦のコンテク ストに照らし合わせて、項目を再検討する必要性 があるだろう。また、適合度基準を満たせなかっ た2つ目の理由として、「サービスエクセレンス」 について、チケッティングやスタジアムにおける サービスなどのスポーツ観戦特有のサービス関連 項目を追加することにより、より現実に適合した モデルを検討する必要があると考えられる。さら に、相関係数が因子間で高かったことも原因とし てあげられることから、今後は項目のワーディン グを再検討する必要があると考える。 次に、クラスター分析の結果についてであるが、 クラスター数の決定方法に客観的な基準がないた め(Hair et al., 2006)、クラスターごとの規模が均 質で変数に差がみられたことを基準に最終的にク ラスター数を決定した。仮に、異なるクラスター 数で、クラスターごとの規模が均質で変数に差が 見られた場合、その際のクラスター数の決定方法 に関する妥当性の測り方については課題が残るで

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あろう。 そして最後に、本研究は川崎フロンターレ観戦 者のみを対象にした研究であることから、他のJ リーグチームの観戦者や、Jリーグ以外のスポー ツ観戦者との比較検討によって、スポーツ観戦に おける経験価値尺度(EVSSC)の精度を高める 必要性がある。そして、本研究において開発され た経験価値尺度が、観戦者や観戦者の心理や行動 とどのような関係があるのかについても今後検討 したいと考える。 謝辞 本論文を作成するにあたり、貴重なアドバイス を頂きました査読者の先生方に御礼を申し上げま す。また、調査にご協力頂きましたクラブ関係者 のみなさま並びに先生方、大学生、大学院生のみ なさまに心より感謝申し上げます。 【文献】 朝野熙彦・鈴木督久・小島隆矢(2007)入門共分散 構造分析の実際.講談社 : 東京 .

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2009 年3月 21 日受付 2009 年 10 月 24 日受理

図 2: Mathwick et al. (2001) による経験価値尺度 図2 Mathwick et al. (2001) による経験価値尺度

参照

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