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2015年箱根火山活動に伴い傾斜計で観測された地殻変動

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数は,5 月中旬にピークに達し,その後減少に転じた。6 月には一時的に地震活動や地殻変動は緩やかになった が,6月29 ∼30日にごく小規模の水蒸気噴火が大涌谷で 発生した。さらに7 月 21 日 12 時頃にも短時間の噴石や 火山灰の噴出現象が観測された (気象庁,2015)。その 後,8 月には山体膨張が停止し,地震活動も低下して, 火山活動が静穏化した。 この間,気象庁は5 月 6 日に噴火警戒レベルをレベル 2(火口周辺規制)に引き上げ,さらに水蒸気噴火が発生 した6月30日には,レベル3(入山規制)に引き上げた。 火山活動の静穏化に伴い,気象庁は9月11日に噴火警戒 レベルをレベル2 へ,また 11 月 20 日にはレベル 1 に引 き下げた。 1.はじめに 箱根火山は伊豆半島の付け根に位置するカルデラ火山 である。噴気の活発化や,崩壊,土石流がしばしば発生 するほか,多数の有感地震を伴う火山性の群発地震が観 測される(気象庁,2013)。そのため,神奈川県温泉地学 研究所(以後, 温泉地学研究所と称す)によってGNSS観 測,光波測距観測,傾斜観測,地下水位観測,地震観測 などが行われている(伊東,2009)。 箱根火山では2015 年 4 月 26 日頃から地震活動が活発 化した。原田ほか(2015)によれば,この活動に関連し て,4 月はじめから 6 月下旬にかけて山体膨張を示す地 殻変動が観測され,5月2 ∼3日頃には大涌谷において暴 噴現象が発生するなど,噴気異常も確認された。地震回

Hakone volcano resumed a seismo-volcanic activity in April 2015. The activity led to a very small phreatic eruption on June 29 and 30. The Hot Springs Research Institute of Kanagawa Prefecture is operating a volcanic observation network composed of 7 stations with borehole seismometers and tiltmeters. Five of them are located in Hakone region, and the other two outside of it. We tried to detect small ground tilt changes associated with the 2015 Hakone volcano activity by correcting tidal effects and atmospheric pressure responses by applying BAYTAP-G. The results show clear tilt changes at 5 stations in Hakone region starting with the earthquake swarm in April 26. The largest tilt change was observed at Kozukayama station. The tilt change reached about 6.5 μ rad until the end of May. Although at these stations, small tilt changes were observed prior to the earthquake swarm, it is difficult to identify that these tilt changes were volcanic origin because of the effects of the large amount of precipitation around the Hakone region on April 20. At Komagatake station, however, tilt change observed in the present volcanic activity is similar to that observed in the 2001 volcanic activity. In both cases, similar small tilt changes appeared during about 20 days before the earthquake swarms. Keywords: tiltmeter, BAYTAP-G, Hakone volcano, crustal deformation

2015年箱根火山活動に伴い傾斜計で観測された地殻変動

Kaito KATANO

, Masatake HARADA

**

and Motoo UKAWA

*** (Accepted November 11, 2016) * 日本大学大学院総合基礎科学研究科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 ** 神奈川県温泉地学研究所:   〒250-0031 神奈川県小田原市入生田586 *** 日本大学文理学部地球科学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University:

3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan

** Hot Springs Research Institute of Kanagawa Prefecture: 586, Iriuda,

Odawara, Kanagawa, 250-0031, Japan

*** Depar tment of Ear th and Environmental Sciences, College of

Humanities and Sciences, Nihon University:3-25-40, Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan

片野 凱斗

・原田 昌武

**

・鵜川 元雄

***

(2)

汐や気圧変化による応答,「ステップ」,「とび」,降雨に よる変化などが記録されている。片野ほか(2016)は地 球潮汐成分に注目した解析を行った。今回の調査では地 球潮汐成分や気圧,「ステップ」,「とび」などの変化はノ イズとして取り扱う。このため本研究では,BAYTAP-G (Bayesian Tidal Analysis Program - Grouping Model;

Ishiguro et al., 1981; Tamura et al., 1991)を使用し,地球 潮汐変化,気圧による応答,「ステップ」,「とび」を除 去し,トレンドを抽出した。図2(a)は寄観測点東西成 分のBAYTAP-Gによる解析結果を例として示したもので ある。 (1)「ステップ」や「とび」について 傾斜データには,地震によってデータが短時間のうち に階段状に変化する「ステップ」や,データが一時的に 変化する「とび」が発生する場合がある。そのような場 合は,目視で「ステップ」および「とび」の時刻を同定し, BAYTAP-G を実行することによりこれらを取り除いた。 「とび」は,発生頻度が低いときは月に数回,高い時は 5 ∼ 9 回ほどで,「ステップ」は発生頻度が低いときは 月に1 ∼ 2 回,高い時は 2 ∼ 4 回ほど起こる。図2(b)(c) に「ステップ」と「とび」の例を示した。 (2)超パラメータ D について BAYTAP-G には,トレンドの滑らかさを調整するため の超パラメータD がある。D の値が大きいときはトレン ドが直線に近づき,逆に小さいと入力データに近いトレ ンドの変化が得られる。前者の場合「トレンドが硬い」, 後者の場合「トレンドが軟らかい」と表現することもあ る。本研究では,潮汐以外の短い周期の変動やノイズ, 気圧の影響を小さくするため,塔の峰,寄観測点では超 パラメータD を 10,駒ケ岳,小塚山,岩倉観測点では 30,湖尻,裾野観測点では50として通常よりDの値を大 きくし,トレンドを硬くした。図2(d)(e) (f)に岩倉観 測点についてDの値をそれぞれ0.2,30,50と変化させた 例を示す。この時のABICはそれぞれ-6345.92,-5980.92, -5816.70である。この中ではABICがD=0.2の時,最も 小さいが,1 ∼ 2 日程度の気圧と似た周期の変化が大き い。気圧変動の影響を除去し,火山活動に起因する変化 を抽出するためにここではD=30を採用した。 4.結 果 各観測点の傾斜変動の時系列を図3 から図 9 に示す。 各図においては(a) が東西成分,(b)が南北成分である。 東西および南北成分の正の向きはそれぞれ東および北下 2015 年に発生した小規模な水蒸気爆発を含む火山活 動は,2001年の火山活動の活発化とほぼ同規模の活動で ある(原田ほか,2015)。2001年の火山活動については地 殻変動観測からマグマの動きがモデル化され,1 つの球 状圧力源と2 つの浅部の開口割れ目からなるモデルで観 測された地殻変動が説明されている(代田ほか,2009)。 本研究で対象とした2015 年の火山活動においても地下 のマグマの動きと考えられる地殻変動が観測されてい る。例えば,温泉地学研究所と国土地理院のGNSS デー タでは,地震活動に先行して4 月上旬から箱根火山の膨 張が確認され (原田ほか,2015 ),また,板寺・吉田(2015) の解析結果は,火山活動が活発化した期間の傾斜変動は 傾斜観測点近傍で発生する地震活動と対応することを示 している。 本研究では,温泉地学研究所が設置しているボアホー ル型傾斜計で,2015年の火山活動の活発化に伴い,どの ような地殻変動が時間とともに観測されたかについて解 析を行った。特に4 月上旬から GNSS によって捉えられ た地震活動に先行する地殻変動が,傾斜変動でも観測さ れていたかに注目する。 2.使用データ 解析には,温泉地学研究所により設置された7 観測点 (駒ヶ岳,湖尻,小塚山,塔の峰,裾野,岩倉,寄)の ボアホール型傾斜計による観測データを使用した。傾斜 データの補正に必要な気圧データは気象庁の三島気象観 測所による気圧データを使用し,また降雨については箱 根と小田原のアメダスの降雨データを参照した。各観測 点の配置を図1 に示す。地震活動の変化については,温 泉地学研究所による震源カタログを使用した。 各観測点のボアホール型傾斜計は,深度約100 m の観 測井の孔底に設置され,南北および東西方向の2 成分観 測が行われている。これらの傾斜計により,10−9 rad 程 度の傾斜変動まで検知することができる(温泉地学研究 所,1999)。本研究ではこれら 7 観測点の南北および東 西成分を合わせた14成分を解析対象とした。 各観測点の傾斜観測データはリアルタイムで温泉地学 研究所に送信されており,毎分0 秒(正分)の値を 1 分 値ファイルとして保存している。この1 分値ファイルを もとに毎時0 分から 59 分までの平均値を 1 時間値とし て解析に使用した。解析期間は,2015年3月から2015年 6月の4 ヶ月とした。 3.解析方法 傾斜変化には,火山活動に伴う地殻変動のほか地球潮

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よる可能性も考えられる。地震活動の活発化した4 月 26 日頃から傾斜変化が加速した。その後は,東西成分の傾 斜変化は6 月まで一定の割合で変動し,南北成分は 5 月 12日をピークに変化が緩やかになる。 リサージュ図(図10)によると,傾斜変化量は,4月20 日から5月8日までに西北西方向に約1.2μラジアン,5月 8日から5月14日までは北北西方向に約1.2μラジアン,5 月14 日から 5 月末までは西北西方向に約 1.0μラジアン 変化した。全体的に見ると,北西方向に約3.0μラジア ン変動した。 (b) 湖尻観測点 湖尻観測点は,2009年 7 月中旬から数時間程度の不規 則な変動が見られることもあり(原田ほか,2010),特に 東西成分では他の観測点よりも多く「とび」を設定して いる。 東西成分(図4(a))は,4月20日から西下がりとなる。 これは,駒ヶ岳観測点と同様に4 月 20 日の日降水量が 100 mm を超える降雨(箱根アメダス)の影響の可能性 がある。4 月 28 日頃からは東下がりとなり,5 月 15 日か ら再び西下がりとなる。6 月は緩やかな西下がりを示す。 南北成分(図4(b))では,4月20日頃に南下がりとなり, 4 月 26 日から 5 月 15 日にかけて北下がりを示す。その後 5 月 26 日まで南下がりを示し,6 月 20 日頃まで再び北下 がりを示すようになる。 リサージュ図(図11)では,3月から地震活動の開始(4 月26 日)までは,西南西方向に約 1.0μラジアン変動し ている。地震活動の開始後(4 月 26 日)から5 月 15 まで には,一旦北北東方向に約1.7μラジアンに変動するが, その後約2.8μラジアン西南西下がりとなる。4 月 26 日か ら5 月末の全体で見ると,西北西方向に約 2.7μラジアン 変動した。 (c) 小塚山観測点 東西成分(図5(a))では,4月20日から21日に小さな 西下がりの変化が見られるが,4 月 22 日からは東下がり の明瞭な変化が観測されている。4 月 26 日からは東下が りの変化が加速し5月5日頃から緩やかになりはじめ,5 月末から6月にはほぼ停滞する。南北成分(図5(b))は, 3月から4月上旬にかけての変化は小さいが,3月中にや や南下がりだった傾向が4 月 6 日頃から北下がりになっ た。東西成分と同様に4月20日から21日に小さな変化(南 下がり)が見られ,4月22日からは4月6日頃からの北下 がりと同程度の変化量の北下がりを示す。小塚山観測点 では,4 月 6 日から 4 月 26 日までの僅かな北下がりと同 程度の変化は頻繁に発生しているので,火山活動との関 連は考えにくい。4 月 26 日からは,北下がりの変化が加 がりを示している。緑の縦線は地震活動が活発化した4 月26日を示す。各図には,降雨,気圧,地震数も時間軸 を揃えて表示した。降雨の表示は,箱根火山から離れた 位置にある岩倉,寄観測点では小田原アメダス,それ以 外は箱根アメダスを使用している。地震数の表示は,温 泉地学研究所により箱根火山直下およびその周辺に震源 決定された深さ10 km以浅の地震を対象にした数である。 BAYTAP-G を用いて解析を行うにあたり,一度の解析 データ数を2000 程度以内( 1 時間値の場合 3 ヶ月程度) にするため,本研究では3 月から 5 月までの期間と 6 月 を分けて解析した。そのため,5 月末と 6 月はじめで, データが不連続となっている。図3 から図 9 の傾斜変動 図に現れる青の縦線は,「ステップ」や「とび」を同定し た時刻である。また,東西方向と南北方向の変動を合成 したリサージュ図を観測点毎に図10から図16に示す。 (1)BAYTAP-G により補正された傾斜変化の特徴の概要 BAYTAP-G によって処理した結果,潮汐による変動を 取り除くことに成功した。しかし,図7 に示すように裾 野観測点では,気圧の変動と似た傾斜変化がBAYTAP-G で処理した後のデータでも一部の時間帯に残っている。 この原因として,三島の気圧変化に対する裾野観測点の 傾斜変化の応答が時間的に一定ではないことが考えられ る。また,図4 に示す湖尻観測点では,降雨の影響と思 われる変化がみられ,4月の変動は複雑であった。塔の峰, 裾野,岩倉,寄観測点では,数日周期の変動が見られる。 これは,気圧の影響を除去しきれていないため,あるい は降雨の影響が補正されていないためと考えられる。 火山活動に同期した傾斜変動は箱根火山のカルデラ内 および山体に設置されている5 観測点(駒ヶ岳,湖尻, 小塚山,塔の峰,裾野)で捉えられた。これらの観測点 では,地震活動の活発化以前にも傾斜変動の変化が認め られる。詳しくは,次節にまとめる。 (2)各観測点の特徴 各観測点で火山活動に伴う傾斜変動や気圧,降雨など による特徴的な傾斜変化が確認された。その詳細を以下 に記す。 (a) 駒ケ岳観測点 傾斜変動の時系列図(図3(a)(b))に矢印で示すよう に,東西成分では4月10日頃から傾斜変動の傾向に変化 が見られ,また,両成分とも4月20日頃から変動傾向の 変化が明瞭になった。4 月上旬は,降雨がしばしば見ら れ,4 月 20 日には日降水量が 100 mm を超える降雨(箱 根アメダス)が発生した。観測された傾斜変化は降雨に

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は南西方向の変動となり,この間の変動量は,約2.1μ ラジアンである。 4月22日から4月26日の間は,北北東-南南西方向の変化であり,傾斜変動の時系列で観測され た4月22日からの変化は,地震活動に先行した現象では なく,気圧変化の応答や降雨の影響の可能性も考えられ る。 (f) 岩倉観測点 東西成分(図8(a))では,3月はじめから西下がりが続 く。4 月下旬から 5 月上旬にかけて変化が停滞する。南 北成分(図8(b))では,3月はじめから緩やかな北下がり の傾斜変化が観測されている。岩倉観測点の2000年以降 の長期間の変動を見るとトレンドの方向が頻繁に変化し ている。4月下旬から 5月上旬に発生した傾斜変動の傾向 の変化は,この期間の降雨量がそれ以前に比べて少ない ので,降雨量に関係している可能性がある。地震活動が 活発化した期間とも重なっているが,その関係は明瞭で はない。5 月 30 日の小笠原諸島西方沖の地震直後から東 西成分,南北成分ともに傾斜変化の方向が大きく変化し ている。これらの変化は,塔の峰観測点などと同様に地 震動による傾斜計の機械的な影響と考えられる。 リサージュ図(図15)では,3月はじめから4月26日ま でに西北西方向に約1.6μラジアン変化し,その後も5 月 末まで同じ方向に約0.8μラジアンの傾斜変化が継続し ている。 (g) 寄観測点 東西成分(図9(a))では,3月はじめから緩やかな西 下がりが6月末まで続く。南北成分(図9(b))でも,3月 はじめから緩やかな北下がりが6 月末まで続き,傾斜変 動には4 月下旬からはじまった地震活動の活発化に同期 した傾向の変化は見られなかった。 リサージュ図(図16)では,3月から5月末までの傾斜 変化は概ね北西方向で,変動量は約0.9μラジアンであ る。この間に,4月14日から4月26日までは北方向,4月 26 日から5 月末までは西北西方向と傾斜方向の小さな変 化が見られる。 5.議 論 箱根火山では,4 月 26 日から地震活動が活発化した。 GNSSのスタッキング解析によれば,地震活動の活発化に 先行し4月上旬から地殻変動に変化が現れ,箱根火山を挟 む基線長の伸張が明らかになった(原田ほか,2015)。 今回解析した傾斜変動によれば,駒ヶ岳(図3,図10), 湖尻(図4,図11),小塚山(図5,図12),塔の峰(図6, 図13),裾野(図7,図14)の 5 観測点で4月下旬から明 速し,5 月末までに約 5.0μラジアンを超える変化を観測 した。この変化量は,全観測点のなかで最も大きい。6 月からは,1 ヶ月間で約1.0μラジアン未満の変動となり, 比較的緩やかな変動であった。 リサージュ図(図12)では,4月22日からの変動が確 認できる。4 月 22 日から 5 月 6 日までは,北東方向に約 3.8μラジアンの変動を示し,5 月 6 日から北北東へ僅か に向きが変化し,5 月末までに約 3.3μラジアンの変化が 見られる。 (d) 塔の峰観測点 東西成分(図6(a))は,4月26日から東下がりの傾斜 変化が明瞭に見られる。この変動は6 月まで継続してい る。この間に,5 月 30 日 20 時 23 分に発生した小笠原諸 島西方沖の地震(M8.1,深さ 682 km)による傾斜計の機 械的なステップが見られる。6月の変化量は,5月の変化 量を上回っているが,地震による機械的なステップが影 響している可能性がある。 南北成分(図6(b))では,4月15日から16日までに約 0.1μラジアン北下がりの変化が見られ,4月17日から26 日まで変化率は低いが同様の変化が継続し,17日からの 変化量は約0.1μラジアンに達した。これが箱根火山の 火山活動に関連したものかどうかの判断は難しい。4 月 26 日からは 6 月末までに一定の割合で北下がりの傾斜 変化が継続した。リサージュ図(図13)では,3月はじめ から4 月 14 日までに南方向に約 0.3μラジアン下がり,4 月14 日から 4 月 22 日までは北方向に約 0.2μラジアン下 がった。その後の4 月 22 日から 5 月末までは北西方向に 約1.4μラジアンの変化をした。 (e) 裾野観測点 東西成分(図7(a))では,3月はじめから4月22日頃 までは数日周期の変化が見られるものの概ね東下がりで ある。4 月 22 日頃から傾斜方向が西下がりへ変化する。6 月からは傾斜方向が西下がりの変化であるものの5 月ま でとは異なりやや緩やかな変化となる。南北成分(図7 (b))でも,3月はじめから4月22日頃までは概ね北下が りの変化であったが,4 月 22 日頃から 5 月末までは南下 がりとなり傾斜方向が変化した。6 月からは傾斜方向が 反転し,北下がりの大きな変化を示し,5 月末までの変 動方向と異なる。東西成分,南北成分ともに6 月から変 化の傾向が変化する原因は,塔の峰観測点と同様に5 月 30 日に発生した小笠原諸島西方沖の地震による傾斜計 の機械的な変化であると考えられる。 リサージュ図(図14)では,3月から4月22日までは北 北東方向での変化をしている。4 月 26 日から 5 月末まで

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6.まとめ 箱根火山で2015 年に発生したごく小規模な噴火を伴 う火山活動の活発化の期間に注目して温泉地学研究所が 箱根火山とその周辺に設置しているボアホール型傾斜計 のデータを詳細に調査した。今回の研究では,火山活動 に関連する変動を抽出するためにBAYTAP-Gによって潮 汐成分と気圧による影響を除去した。 地震活動が活発化した4月26日から傾斜変動の変化は 駒ケ岳,湖尻,小塚山,塔の峰,裾野観測点で明瞭であっ た。傾斜変動の変化がもっとも大きかったのは,小塚山 観測点で4 月 26 日から 5 月末までに北東方向に約6.5μラ ジアンを超える変化量を示した。 地震活動の活発化に先行した傾斜変動の変化も見られ たが,4 月 20 日に日降水量が 100 mm を超える降雨(箱 根アメダス)があったことや変動量が僅かであったこと から,地震活動に先行した火山活動と関連する地殻変動 とは同定できない。しかし,駒ヶ岳観測点では,2001年 に発生した火山活動に伴う傾斜変動と比較すると,地震 活動の活発化に先行した傾斜変動の傾向が類似してい る。2015 年の群発地震に先行した変化は,火山活動に関 連した変化である可能性がある。 今回の解析と原田ほか(2015)による GNSS の結果か ら,4月上旬から中旬にかけての地殻変動源は比較的深い 場所にあり,地震活動が活発化した4月26日以後に浅い 場所にも変動源があった可能性があることがわかった。 謝辞 本解析には,気象庁気象官署の三島の気圧データおよび, 箱根と小田原のアメダスの降雨データを使用した。温泉地学 研究所の板寺研究課長ならびに日本大学の村瀬博士には,論 文の細部に亘るご指摘をいただき,論文の改善に大変役立ち ました。図の作成には Generic Mapping Tools(Wessel and Smith, 1995)を使用した。ここに記して感謝いたします。 瞭な変化が見られた。この5 観測点では 4 月中旬から 4 月26 日にかけて,火山活動との関連は不明瞭ながら僅 かな傾斜変動が捉えられている。降雨記録(箱根アメダ ス)を見ると,4月上旬から中旬にかけて降雨日が多く, 特に4月20日に日降水量が100 mmを超える降雨があり, 4 月中旬からはじまる傾斜変動の変化は降雨の影響によ る可能性が高い。 この中で駒ケ岳観測点では,4 月 10 日頃から傾斜変動 に変化が見られ,4 月 20 日頃からその変化は明瞭になっ た。我々は2001 年に発生した火山活動の活発化に伴う 駒ヶ岳観測点の傾斜変化と2015 年の傾斜変化を比較し た(図17)。2001 年の活動では,駒ヶ岳観測点で地震活 動が活発化する20 日ほど前から東西成分で西下がり, 南北成分で南下がりを示す傾斜変動の変化が捉えられて いる。図17 に示すように,2001 年ほど明瞭ではないが, 2015 年の傾斜変動においても地震活動の活発化する 20 日ほど前から同様の変化が見られる。2 回の火山活動の 活発化に伴って群発地震に先行する傾斜変動が観測され たことから,この駒ヶ岳観測点の傾斜変動は火山活動に 起因する変化であった可能性がある。 2015 年の火山活動では 4 月上旬から箱根火山を挟む GNSS の基線長に伸張が観測され,4 月 26 日からは地震 活動の活発化に伴い傾斜計でも明瞭な地殻変動が捉えら れた。箱根火山を挟むGNSS の長い基線長の変化は,深 部の変動源による地殻変動に対しても感度が高いと考え られるが,傾斜変化は浅部の変動源による地殻変動に敏 感である。そのため,今回GNSS と傾斜計で観測された 地殻変動から,4 月上旬から中旬にかけての地殻変動源 は比較的深い場所にあり,地震活動が活発化した4 月 26 日以後に浅部の変動源も活動した可能性がある。 代田 寧・棚田俊收・丹保俊哉・伊東 博・原田昌武・萬年 一剛(2009) : 2001 年箱根群発地震活動に伴った傾斜変 動と圧力源の時間変化,火山,54, 223-234. 原田昌武・板寺一洋(2010) :神奈川県西部地域における 2009(平成21)年の地殻変動観測結果,神奈川県温泉地 学研究所観測だより,60,41-48. 原田昌武・板寺一洋・本多亮・行竹洋平・道家涼介(2015) :2015 年箱根火山活動に伴う地震活動と地殻変動の特徴 (速報),47,1-10.

Ishiguro, M., Akaike, H., Ooe, M. and Nakai, S. (1981) : A Bayesian Approach to the Analysis of Earth Tides, Proc. 9th Int. Sympos. Earth Tides, New York, 283-292.

板寺一洋・吉田明夫(2015) :2015 年箱根火山活動時の傾斜 変動と地震活動の相関,神奈川県温泉地学研究所報告, 47,11-22. 伊東 博(2009) :温泉地学研究所における地震・地殻変動 観測施設の整備について,神奈川県温泉地学研究所観測 だより,59,9-12. 片野凱斗・原田昌武・宮岡一樹・鵜川元雄 (2016):箱根火 山における傾斜計データを用いた潮汐応答の時間変化の 検出,日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,51, 109-128. 気象庁(2013) :活火山総覧,1498. 気象庁(2015) :箱根山の火山活動解説資料(平成27年7月), 引用文献

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Tamura, Y., Sato, T., Ooe, M. and Ishiguro, M. (1991) : A Procedure for Tidal Analysis with a Bayesian Information Criterion, Geophys. J. Int., 104, 507516.

Wessel, P. and Smith, W.H.F., (1995)) : New version of the Generic Mapping Tools release. Eos, Transactions of the American Geophysical Union 76, 329.

図1 傾斜計,アメダス,気象観測所の観測点配置図 http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/ STOCK/monthly_v-act_doc/tokyo/15m07/315_15m07. pdf (2016年10月31日最終閲覧) 温泉地学研究所(1999) :温泉地学研究所における「神奈川県 西部地震」の取り組み, 神奈川県温泉地学研究所報告, 29,3-40.

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図2(a) 2015年4月の寄観測点(東西成分)のBAYTAP-G解析結果例

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図2(c) 「とび」の事例(寄観測点南北成分) 図2(b) 「ステップ」の事例(岩倉観測点南北成分)

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図2(e) 岩倉観測点東西成分における超パラメータDによるトレンドの違い(D=30) 図2(d) 岩倉観測点東西成分における超パラメータDによるトレンドの違い(D=0.2)

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図3 駒ケ岳観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

(12)

図4 湖尻観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

(13)

図5 小塚山観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

(14)

図6 塔の峰観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

(15)

図7 裾野観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

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図8 岩倉観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

(17)

図9 寄観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分

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図11 湖尻観測点のリサージュ図 図10 駒ケ岳観測点のリサージュ図

(19)

図13 塔の峰観測点のリサージュ図 図12 小塚山観測点のリサージュ図

(20)

図15 岩倉観測点のリサージュ図 図14 裾野観測点のリサージュ図

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(22)

図17(a)(b) 駒ヶ岳観測点における2001年(紫)と2015年(赤)の群発地震で観測され た傾斜変動の比較

(a)が東西成分,(b)が南北成分を示す。時間軸は緑の縦線で地震活動 の活発化した2001年6月12日と2015年4月26日を一致させている。 は地震活動に先行した傾斜変化と考えられる期間。

図 2 (f) 岩倉観測点東西成分における超パラメータDによるトレンドの違い(D=50)
図 4 湖尻観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分
図 7 裾野観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分
図 8 岩倉観測点の結果(a)東西成分(b) 南北成分
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参照

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