女 子 中 ・長距 離 選 手 の月 経状 況
阿 部 正 臣 ・梶 原 洋 子 ・〆木 一 郎
Menstrual Condition of Middle, Long Distance Runners
Masaomi Abe, Yoko Kajiwara, Ichiro Shimeki
1.は じ め に
運 動 ・ス ポ ー ッが 女 子 の性 機 能 に及 ぼす 影 響 に つ い て は,器 械 体 操 の選 手 や陸 上 競技 の 中 ・長距 離 選 手,バ レ リー ナ な どを対 象 にい ろ い ろ報 告 され る よ うに な り,一 般 女 子 に比 較 して初 経 の遅 延 や 月経 異 常 が 多 い こ とな ど
は よ く知 られて い る.
近 年,陸 上 競 技 の 中 ・長 距 離 選 手 を中心 に, 走 行 距 離 と月 経 異 常 との 関連,さ ら に,性 ホ
ル モ ンや骨 濃 度 と月経 異常 との 関連 も検 討 さ れ て い る.
既 に,筆 者 らは女 子 マ ラ ソ ン選手 の調 査 か ら,女 子 マ ラ ソ ン選手 に お い て は① マ ラ ソ ン の専 門的 トレーニ ング 開始 後 に月経 異常 の発 現 頻 度 が 高 ま り,高 度 の場 合 に は無.月経 に陥 る例 も少 な くな い こ と,ま た,② 経 年齢 の低 い,特 に20歳 未 満 の選 手 や パ フ ォー マ ンス の 高 い選 手 に月 経 異常 が 多 い こ と,そ して,③ 週 当 りの走 行 距離,す な わ ち,ト レー ニ ング 量 の増 大 に伴 な って月 経 異 常 の発 現 頻 度 が 高 くな る傾 向 にあ る こ とな どの結 果 を得 て い る.
そ こで,本 研 究 で は女 子 マ ラ ソ ン選 手 よ り も低 年 齢 で あ る陸上 競 技 の 中 ・長 距 離 選 手 を 対 象 に,ト レー ニ ング に よ る月経 状 況 に対 す
る影 響 につ いて,ト レーニ ング実 施 と初 経 発 来 との 関連,ト レーニ ング量 及 び トレー ニ ン グ 強度 と月 経 周 期 との 関 連等 につ い て検 討 を 試 み た ので 報 告 す る.
II.調 査 方 法
本 調 査 は昭 和62年1月,全 国 都 道 府 県 対 抗 駅 伝 の 出場 選 手 を対 象 に記 名 の質 問 紙 法 に よ る ア ンケ ー ト調査 を実 施 し,回 答 を得 られ た 462名 を サ ン プル と して検 討 した もの で あ る
(回 収 率81.9%).
調 査 内 容
1.現 在 の 月経 状 況
月 経 周 期 の順 ・不 順 とその 原 因,月 経 随伴 症 状,月 経 随伴 症 状 出現 の 時期 とそ の 症状 の 程 度,生 理用 品 の使 用 状 況 等
2.中 ・長距 離 の専 門的 トレー ニ ン グ開始 後 の 月 経状 況
月 経 周期 の順 ・不 順 とそ の原 因,月 経 随伴 症 状,経 血 量,ト レーニ ン グ量 増 減 に伴 な う 月 経 周期 へ の影 響,月 経期 間 中 の トレー ニ ン
グの軽 減 の有 無
3.ウ ェ イ トコ ン トロ ール
ウェ イ トコ ン トロ ール の必 要 性,実 施 の頻 度,ウ ェ イ トコ ン トロ ール実 施 に よる月 経 周
一124一
期 へ の影 響 等.
皿.結 果 と考 察 1.現 在 の 月 経 周 期
女 子 中 ・長 距 離 選 手 の 月 経 周 期 は,現 在 厂月 経 が ず っ と な い 」(8 .3%),「 月 経 が 不 順 で あ る(月 経 周 期 が 何 日 か 見 当 が つ か な い, 月 経 が た ま に しか な い)」(39.8%)と す る 無 月 経 や 稀 発 月 経 等 の 月 経 異 常 は 選 手 の 約5割 に も発 現 し,川 頁調 な 月 経 周 期 を 有 す る選 手, す な わ ち,厂 月 経 が 毎 月 規 則 的 で あ る 」
(12.4%〉 と 「月 経 は と き に 不 規 則 だ が,ほ ぼ 順 調 で あ る 」(39.5%)は5割 と低 率 で あ る.
この結 果 は,ト レー ニ ング実 施 に関 連 した 月経 異 常 の発 現 は持 久 的運 動 で 顕 著 で あ る と す る報 告 と一 致 す る もの で あ る.ま た,筆 者 らの女 子 マ ラ ソ ン選 手 の調 査 よ り も月経 異常 (48.1%)の 発 現 頻 度 は高 く,こ れ まで の 報 告 に比 べ て高 い 方 に属 す る.
本 調 査 の女 子 中 ・長距 離 選 手 にお い て は, 月経 周 期 日数 の分 類 如何 に よ っ て は,不 整周 期 症,頻 発 月経 等 各 種 月経 異 常 の発 現 頻 度 は
さ らに高 ま り,か な りの高 率 に な る もの と思 わ れ る.
月経 異 常 の発 現 は経 年齢 に よる影 響 の 大 き い こ とが 報告 されて い るが,学 校 ・社 会 人 別 に,さ ら に初 経(初 潮)発 来後 の年 数,い わ ゆ る 婦 人 科 年 齢 別 に も検 討 した(図3,図
4).
女 性 の 月経 現 象,性 機 能 は初 経 か ら年 齢 と と もに徐 々 に完 成 して い く もの で あ り,18〜
20歳 頃 に な る と,ほ とん どの者 は月 経 周 期 が 順 調 に発 来 す る よ うにな る と考 え られて い る.
しか し,本 調 査 の女 子 中 ・長距 離 選 手 にお い て は そ の よ うな 傾 向 は認 め ら れ ず,大 学 生 (平 均 年 数20.6±1.0)で は6割,社 会 人 (平 均 年 齢21.2±1.6)で は約5割 と月 経 異
常 の発 現 頻 度 が 高 い.経 年 齢 別 にみ て も同様 で,月 経 異 常 は初 経後3〜4年 で6割,9年 以 上 で も4割 とそ の発 現 頻 度 は極 め て高 い.
本 調査 の女 子 中 ・長 距離 選手 は,全 国都 道 府 県 対 抗女 子 駅 伝 出場 選 手 で全 国 レベ ル の選 手 で あ る.こ の た め,週 あ た りの 練 習頻 度 は 高 く,9割 以 上 の選 手 が 週6日 以 上,2時 間 程 度 の トレ ーニ ン グを実 施 して お り,週 当 り
の 走 行 距 離(km)の 平 均 は109.8±35.6と ハ ー ド トレー ニ ング を余儀 な く され て い る.
殊 に,社 会 人 選 手 及 び 大 学 生 選 手 で は,一 段 と ト レ ー ニ ン グ 量 が 増 大 し て お り,週 当 り の 走 行 距 離(km)の 平 均 は 各 々137.3±50.2,
126.4±39.3と 中 ・高 校 生 よ り も有 意 に 多 く, 女 子 マ ラ ソ ン選 手 に 匹 敵 す る 走 り込 み を し て い る(表1).ま た,ト レ ー ニ ン グ や レ ー ス 等 に 伴 う 身 体 的 ・精 神 的 負 担 も 大 き い(図
5).
表1学 校 ・社 会人別 の週 当 りの走 行 距離(km)
全 体 中学生 高校生 大学生 社会 人
ヌ 109.8 77.8 109.8 126.4 137.3
S.D 35.6 34.9 4L7 39.き 50.2
全 国 レベ ル の 女 子 中 ・長 距 離 選 手 に お いて は,一 日あ るい は一 週 当 た りの総 トレー ニ ン グ量 は相 当 な もので あ り,こ の よ うな持 久 的 トレー ニ ング の量 的 な側 面 が経 年 齢 に拘 らず, 月 経異 常 の発 現 頻 度 の 高 め る原 因 にな って い る もの と思 わ れ る.
2.ウ ェ イ トコ ン トロ ール と月 経 周 期 陸 上競 技 の 中 ・長 距 離 は体 重 を移 動 させ る 持 久 性 の スポ ー ツ種 目で あ り,選 手 の形 態 的 特 徴 は体 重 が 少 ない こ と,体 脂 肪 量 が 低 い こ とが あ げ ら れ る.跡 見 らは体 脂 肪 率 と長 距 離 走 タイ ム との 間 に負 の 高 い相 関が み られ る こ と を報 告 して い る.こ の こ とは,長 距 離 選 手 に と って余 分 な体 脂 肪 量 はマ イナ ス 要 因 とな す こ と を示 す もの で あ り,殊 に,体 脂肪 量 が 男 子 の 約2倍 の女 子 に お いて は競 技 力 向 上 の ため に は,ト レー ニ ング や食 生 活 の 改 善 に よ る ウ ェ イ トコ ン トロ ー ルが 重 要 な課 題 と な る.
こ の ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル に 対 し て女 子 中 ・長 距 離 選 手 が どの よ うな意 識 を持 ち,取
り組 んで い るか をみ る と,選 手 の 多 くが ウ ェ イ トコ ン トロ ー ルの 必 要性 を強 く意 識 して お り,特 に大 学 生 選 手 にそ の傾 向 が 認 め られ る
(表2).
実 際 に,食 事 制 限 に よ る ウ ェ イ トコ ン ト ロ ール を して い る選 手 は,全 体 の4割 程 度 で
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図5ト レ ー ニ ン グ や レー ス 等 で の 心 身 の 負 担 度
表2ウ エ イ トコ ン トロ ー ル の 必 要 性 に つ い て の 意 識 の 有 無(%)
全 体 中学生 高校生 大学生 社会人
あ る 62.5 39.8 n.s 79.2 76.2
な し 21.9 60.2 28.1 20.8 23.8
あ り,そ の実 施 頻 度 は さ ま ざ まで あ るが,年 間 レース 出場 回数 の 平均 が13回 で あ る こ と を 考 慮 す る と,食 事 制 限 を して い る多 くが 日頃 か らの 長期 的 な取 り組 み に よる ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル で あ る とい っ て よ い で あ ろ う(表 3).
節 食 ・減食 の食 事 制 限 に よる体 重 減 少 に起 因 す る月経 異 常 が 知 られ て い るが,上 記 の ウ ェ イ トコ ン トロ ール と月経 異 常 との 関係 をみ る と,月 経 異 常 群(「 月 経 が 不 順 で あ る(月 経 が た まに しか ない,月 経 周 期 が 何 日か 見 当 が つ か な い)」,「月経 が ず っ と ない」)の 方 が 月 経 正 常 群(「 月 経 が 毎 月 規 則 的 で あ る」,
「月 経 は と き に不 規 則 だ が,ほ ぼ順 調 で あ る」)よ りも ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル の必 要性 を強 く意識 す る者 が 多 く,ま た,食 事 制 限 し
図6月 経 周 期 に よ る ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル の 必 要 性 に つ い て の 意 識 の 有 無
て い る者 も多 い(図6,図7).特 に,体 重 が低 値 で,〔 身長(H)一 体 重(W)〕 値 が 大 で あ る大 学 生 の月 経 異 常群 に そ の傾 向 が 強 く 認 め られ,ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル に よ る体 重 増 加 の抑 制 や減 少 が 月 経異 常 の発 現 機 転 の 一 つ の要 因 で あ る こ とが 示 唆 され る(表4).
3.ト レー ニ ン グ が月 経状 況へ 及 ぼ す影 響 (1)ト レー ニ ング と初 経発 来年 齢 との関係
運動 選 手 で は初 経 の 発 来 が一 般 女 子 よ りも 遅 延傾 向 に あ る こ とが 報告 さ れ て い る.本 調
表3ウ エ イ トコ ン トロ ール(食 事 制 限)の 実 施 頻 度 (/〉
全 体 中学生 高校生 大学生 社会人
レー ス に拘 らず いつ も して い る 28.1 21.8 21.7 51.4 21.1
レー ス1ヶ 月 前 か ら してい る 7.3 6.3 8.4 0 5.3
レー ス2週 間 前 か ら してい る 9.0 0 8.4 8.6 10.5
レー ス1週 間 前 か ら してい る 12.5 9.4 13.3 2.9 11.8
食事制限 していない 43.4 62.5 48.3 37.1 51.3
表4女 子 中 ・長 距 離 選 手 の 〔身 長(H)一 体 重(W)〕 値
順 調 ほ ぼ 順 調 不 順 無 月 経 未 経
中 学 生 113.Of3.9 112.9t3.7 111.7±3.5 114.4±3.7
高 校 生 112.4±3.0 111.3±3.0 111.3±3.3 111.4±4.3 117.0±3.1
大 学 生一 109.3±2.9 109.1±3.5 110.3±3.6 1]3.9±3.3
社 会 人 111.0±2.9 111.6±3.4
'
111.5±3.2 111.9±2.1
図7月 経 周 期 別 ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル(食 事 制 限)の 実 施 頻 度(%)
査 の 中 学 生 選 手 で は99名 中35名 が,高 校 生 選 手 で は,205名 中3名 が 初 経 前 で あ る.
初 経 発 来 の 平 均 年 齢 は13.5歳 ±3.6月 と 山 川 や 目 崎 ら の 報 告 よ り も さ ら に 遅 い.そ こ で,
中 ・長 距 離 の ト レ ー ニ ン グ 開 始 時 期,す な わ ち,専 門 的 ト レ ー ニ ン グ 開 始 時 期 と 初 経 発 来 年 齢 と の 関 係 を検 討 し た.
初 経 発 来 以 前 に 専 門 的 ト レ ー ニ ン グ を 開 始 し た 群 を 「A群 」,初 経 発 来 後 に 専 門 的 ト レ ー ニ ン グ を 開 始 し た 群 を 「B群 」 とす る と, 年 齢 別 の 発 来 頻 度 はA群 が13歳,B群 が12歳
を ピ ー ク と す る 分 布 を示 し,A群 がB群 よ り も 初 経 の 発 来 が 遅 い こ と が 認 め ら れ る(図
8).ま た,初 経 発 来 年 齢 の 平 均 で もB群 の 13歳0.8月 ±r歳3.2月 に 対 し,A群 は14歳 0.2月 ±1歳0.2.月 と初 経 の 発 来 が 有 意 に 遅 く, 他 の 報 告 と 同 様,ト レ ー ニ ン グ 実 施 と初 経 発 来 の 遅 延 と の 関 係 が 示 唆 さ れ る.
な お,初 経 前 の 中 学 生 選 手35名(平 均 年 齢 13歳11.8月 ±9.7月)の 身 体 発 育 状 態 を み る
図8初 経発 来年齢 の分布
一128一
表5女 子 中 ・長 距離選 手 の身長,体 重 と月経 周期
順 調 ほ ぼ 順 調 不 順 無 月 経 未 経
中 学 生
身長 157.9±4.0 157.2+̲4.5 156.5±4.0 154.0±4.8
体重 44.1±1.7 44.6±3.5 44.0±3.6 39.8±4.2
高 校 生
身長 157.5±5.5 158.0±4.3 158.0±3:9
157.4±4.2 161.5±0.5
体
重 45.7±3.0 46.7±4.0 46.8±3.8 46.9±3.9 44.5±3.9
大 学 生
身長 158.1±4.63 157.6±5.7 157.0±5.03
161.6±5.8
体
重 48.0±5.5 48.0±5.5 46.7±3.3 47.9±5.8
社 会 人
身長 158.2±4.5 158.6±5.2 158.4±4.6 157.6±3.4
体
重 47.2±3.1 47.0±4.5 46.9±4.3 45.4±3.6
と,身 長(cm)・ 体 重(kg)の 平 均 は 各 々 154.0±4.8,39.8±4.2で あ る(表5).
初 経 の 発 来 に は 一 定 の 身 体 発 育,特 に体 重, す な わ ち,体 脂 肪 量 が 必 要 と考 え ら れ,初 経 発 来 年 齢 の 時 期 の 体 重 は43kg程 度 と 言 わ れ て い る.し か し,初 経 前 の 中 学 生 選 手 の 平 均 体 重 は40kgを 下 回 る 低 値 で あ り,ま た,週 当 り の 走 行 距 離 の 平 均 は 約78kmと,日 常 継 続 的 に 実 施 さ れ る 持 久 的 ト レ ー ニ ン グ に よ る 体 重 増 加 の 抑 制 も 考 え ら れ,こ れ ら が 初 経 発 来 を 遅 延 させ る 原 因 に な っ て い る もの と 思 わ れ る.
(2)ト レ ー ニ ン グ 量 と 月 経 周 期 との 関 係 週 当 り の 走 行 距 離 や 練 習 時 間 の 増 大 に伴 な い,月 経 異 常 の発 現 頻 度 が高 くな る こ とは, 筆者 らの女 子 マ ラ ソ ン選 手 の調 査 や 他 の 報 告 で も指 摘 され て い る よ うに,ト レーニ ン グ量 や 強 度 の増 大 は月 経 周期 に影 響 を与 え る よ う で あ る.
本調 査 で も先 の 女 子 マ ラソ ン選 手 の 調査 と 同様 に,ト レーニ ン グが 月経 状 況 に及 ぼ す 影 響 に つ い て検 討 す るた め に,中 ・長 距 離 の専 門 的 ト レー ニ ン グ の 開 始 後 の 月 経 状 況(周 期 ・経 血 量 ・随 伴 症状)の 変 化 を調 査 した.
変化 を認 め た者 は選手 の4割 で,そ の ほ とん
ど は月 経 周期 の不 規 則 性 で,無 月経 に陥 る例 も決 して 少 な くな い.こ の 傾 向 は大 学 生 ・社 会 人 選 手 に顕 著 で あ る(図9).
一 方,中 学生 で は変 化 を認 め た者 は少 な く, 変化 の有 無 をつ か み得 ない 者 が多 い.こ れ は 経 年齢 が低 く,自 己の 月 経状 況 を充 分 に把 握 で きず に い る こ とが 予 想 され,ま た競 技 経 験 が 浅 い こ とな どか ら,ト レー ニ ング に よ る影 響 を十 分 に判 断 で きない た め と思 わ れ る.
図9中 ・長距 離走 開始後 の 月経変 化
以 上 の よ うに,持 久 的 トレー ニ ングが 月 経 周期 に影 響 を与 えて い る よ うで あ るが,こ の こ と を さ らに 明確 にす るた め に,中 ・長 距 離 の 経 験 年 数 ・練 習 回数 ・練 習 時 間 ・走 行 距 離 等 と月経 異常 の発 現 頻 度 との 関係 につ い て検 討 した(図10,11,12).
まず,中 ・長距 離 経 験 年 数 と月 経異 常 との 関係 をみ る と,中 ・長 距 離 の 専 門 的 トレー ニ ング を 開始 した ば か りの1年 未 満 の 選 手 で は 約5割 と月 経 異 常 の発 現 頻 度 が 高 い が,そ れ 以上 の競 技 経 験 年 数 の選 手 で は月 経 異 常 は年
数 に拘 らず 約4割 とほ ぼ一 定 で あ る この結 果 は本 調 査 の 対 象 の よ うに,女 子 マ ラ ソ ン選 手 と比 較 して 低 年 齢 で,全 体 的 に ラ ンニ ン グ ス ピー ドの 高 い 選 手 層 に お い て は 持 久 的 ト レーニ ング を ほ とん ど毎 日継 続 的 に実 施 す る
一 .130一
限 り,高 い頻 度 で 月 経異 常 が 発 現 す る可 能性 が 大 きい こ とを示 唆 す る もので あ る.
Warrenは バ レ リー ナ の調 査 か ら,週 当 り の 練 習時 間 の増 加 に伴 な い月 経 異 常(続 発性 無 月経)の 発 現 頻 度 が 高 くな る こ と を明 らか に して い る.そ こで 本 調査 に お いて,月 経 正 常 群 と月経 異 常 群 とで 週 当 りの練 習 時 間,一
日の 練習 時 間 を比 較 す る と,両 群 間 に有 意 な 差 は認 め られ な か った が,練 習 回数 及 び練 習 時 間 と も月経 異 常 群 の 方 が 多 い傾 向 にあ る.
しか し,学 校 ・社 会 人 別 に み る と,大 学 生 の よ う に月 経 異常 群 の 方 が 月経 正 常 群 よ り も逆 って 練 習 回 数,練 習 時 間 と も少 な い場 合 もあ り,月 経 異 常 の発 現 機 転 を練 習 回数 及 び練 習 時 間 の 増 加 の み か ら説 明 す る こ とは で きない.
週 当 りの 走 行距 離 との 関係 で は,月 経 異 常 は走 行 距 離 の 増大 に伴 って 発現 頻 度 が 高 くな る 傾 向 が 認 め ら れ,週 当 りの 走 行 距 離 が 150kmを 越 え る選 手 で は6割 に も達 し,無 月 経 の発 現 頻 度 も高 い(図13).
これ らの 結 果 を筆 者 らの女 子 マ ラ ソ ン選 手 の調 査 と比 較 す る と,70km未 満 の 選 手 で は
月 経 異常 の 発現 頻 度 は本 調 査 の 女子 中 ・長 距 離 選 手 の 方 が 顕 著 に多 い(図14).こ の 理 由 と して は,本 調 査 の対 象 は性 機 能 の成 熟 度 の 面 か らみ る と,思 春 期 及 び思 春期 か らの成 熟 期 に 移行 した 時期 に あ た る選 手 が ほ とん どで あ り,こ の 時期 の女 子 は性 機 能完 成 に 向 けて 過敏 な 時期 に あ た る た め,種 々 の要 因で 比 較 的容 易 に 月経 異 常 が惹 起 され る と考 え る.
な お,週 当 りの 走 行 距 離 の平 均(km)は, 月 経 正 常 群 の103.4±56.3に 対 し,月 経 異 常 群 は118.5±56.1と 有 意 に多 く,ト レー ニ ン グ量 の増 大 が 月経 異 常 の発 現 の原 因 とな る こ とが示 唆 され る.
(3)ト レー ニ ング強 度 と月経 周 期 との 関 係 週 当 りの走 行 距 離 な ど トレー ニ ング量 の 増 大 が 月 経 周 期 に影 響 を与 える よ うで あ るが,
トレーニ ング強 度 の 差 に よる影 響 を検 討 す る た め に,そ の手 掛 りにな る と思 われ る ラ ンニ ング パ フ ォー マ ンス,こ こ で は 日本100傑 内 に入 る群 を 「A群 」,そ うで な い群 を 「B群 」 と して月 経 異 常 との 関係 を比 較 検 討 した(図 15).
表6パ フ ォ ー マ ン ス と週 当 りの 走 行 距 離(km)
全 体 中 学 生 高 校 生 大 学 生 社 会 人
A群 106.7±38.8 80.2f35.4 103.1±39.2 121.3±30.6 109.2±39.0
B群 139.2±48.8 61.8±29.2 125.4±43.6 126.4±39.3 152.8±49.0
通 常,中 ・長 距 離 トレ ー ニ ン グ に お け る ラ ン ニ ン グ ス ピ ー ドや ペ ー ス の 決 定 は,簡 便 的 に は 特 定 距 離 の 最 高 記 録 に 基 づ く場 合 が 多 い.
従 っ て,パ フ ォ ー マ ン ス の 高 いA群 の 方 が よ り高 い ラ ン ニ ン グ ス ピ ー ドや ペ ー ス で 種 々 の ト レ ー ニ ン グ 内 容 を実 施 して い る こ と は 容 易 に 想 像 で き る.
月 経 異 常 はA群 が 約6割,B群 が4割 と ラ ン ニ ン グ パ フ ォー マ ン ス の 高 いA群 に そ の 発 現 頻 度 が 高 く,ま た,無 月 経 に 陥 る 頻 度 もA 群 が 顕 著 に 高 い.
Daleら は ジ ョ ガ ー 群 よ り も ラ ン ニ ン グ ス ピ ー ドの 高 い ラ ン ナ ー 群 に 月 経 異 常 の 多 い こ と を報 告 し て い る が,本 調 査 に お い て も 同 様 の 結 果 を得 た.
日 常 の ト レ ー ニ ン グ や 強 化 合 宿 な ど は 選 手 に と っ て,肉 体 的 に も精 神 的 に も か な り の 消 耗 を 伴 な うよ う で あ る が,日 常 の ト レ ー ニ ン グ 強 度,す な わ ち,練 習 の 強 さ に つ い て 選 手 が ど の よ う に 受 け と め て い る か を 調 べ て み る と,中 学 生 を 除 く選 手 に お い て,月 経 異 常 群 の 方 が 月 経 正 常 群 よ り も練 習 が きつ い と 感 じ て い る者 が 多 い(図16).
ま た,A群 は トレ ー ニ ン グ 量 と して の 週 当 りの 走 行 距 離 の 平 均(km)に お い て も139.2
±48.3と,B群 の106.7±38.8よ り も有 意 に
多 く,パ フ ォ ー マ ン ス の 高 いA群 の 方 が 質 的 ・量 的 に も高 い ト レ ー ニ ン グ を実 施 して い る こ と が 浮 き 彫 りに さ れ た.
こ の よ う に,月 経 異 常 の 発 現 に は ト レー ニ ン グ 量 の ほ か,ト レ ー ニ ン グ 強 度 の 増 大 も 深 く関 っ て い る こ と が 予 想 さ れ,無 視 で き な い 一 つ の 要 因 で あ る こ とが 示 唆 さ れ る .
]V.ま と め
全 国都 道 府 県対 抗 女 子 駅 伝 に 出場 した 女子 中 ・長 距 離 選 手462名 を サ ン プ ル と して, 中 ・長 距 離 の 専 門 的 トレー ニ ングが 月 経状 況 に 及 ぼす 影 響 等 につ い て検 討 を試 み,次 の よ うな結 果 ・結 論 を得 た.
1)女 子 中 ・長 距離 選 手 の月 経 周 期 にお い て は,月 経 異 常 は選 手 の5割 に も発 現 して お り,そ の頻 度 は これ まで の報 告 に比 べ て 高
一132一
い方 に属 す る.
ま た,月 経異 常 は経 年 齢 や競 技 経 験 に関 係 な く,高 い頻 度 で 発 現 して い る.
2)女 子 中 ・長 距 離 選 手 は ウ ェ イ トコ ン ト ロ ール の必 要 性 を強 く意識 して お り,月 経 異 常群 ほ どそ の傾 向 が認 め られ,ウ ェイ ト
コ ン トロ ー ルの 実 施者 も多 い.特 に,体 重 が低 値 で,〔 身 長(H)一 体 重(W)〕 値 が 大 で あ る大 学 生 の 月経 異 常 群 に 上記 傾 向が 顕 著 で あ り,ウ ェ イ トコ ン トロ ー ル に よ る 体 重 増 加 の 抑 制 や体 重 減 少 が 月経 異 常 の発 現 機 転 の 一 つ の要 因 と なる こ とが 示 唆 され た.
3)女 子 中 ・長 距 離 選 手 の初 経 発 来 年 齢 は, これ まで の報 告 に比 べ て遅 く,ト レーニ ン グ実 施 と初経 発 来 の遅 延 との 関連 が 示 唆 さ れ た.
また,未 経 の者 で は 日常 継 続 的 に実 施 さ れ る持 久 的 トレーニ ン グに よる体 重 増 加 の 抑 制 も予 想 さ れ,そ れ の体 重 は極 め て 低値 で あ る.
4)選 手 の4割 は専 門 的 トレーニ ン グ開 始後 に,特 に月 経 周期 へ の変 化 を認 め て お り,
トレーニ ン グが 月経 異 常 を招 来 させ る と考 え てお り,大 学 ・社 会 人 の 選手 に そ の傾 向 が 顕 著 で あ る.
5)女 子 中 ・長距 離 選 手 で は,月 経 異 常 は競 技 経 験 ・週 当 りの練 習 頻 度 ・一 日の練 習 時 間 とい う トレーニ ングの量 的側 面 よ りも, 週 当 りの総 運 動 量,す な わ ち,走 行 距 離 の 増 大 との 関連 が 深 く,走 行 距 離 の 増 大 に伴 な っ て月 経 異 常 の 発 現頻 度 が 高 くな る傾 向 が 認 め られ た.
また,月 経 正 常群 よ り も月 経異 常 群 の方 が 週 当 りの 走 行距 離 が有 意 に多 く,走 行 距 離 の 増 大 と月経 異 常 との 関 連 が示 唆 され た.
6)パ フ ォー マ ンス の高 い 群,す な わ ち,ラ ンニ ング ス ピー ドの高 い群 に月 経 異 常 の 発 現 頻 度 が 高 く,ま た,月 経 異 常 群 ほ ど 日常 の練 習 強 度 に対 して きつ さを感 じて お り,
トレーニ ン グ強 度 と月 経異 常 との関 連 も示 唆 され た.
な お,パ フ ォー マ ンス の高 い群 は低 い群 よ りも有 意 に 週 当 りの走 行 距 離 が多 く,質 的 ・量 的 に ハ イ レベ ル の ト レーニ ング を実 施 して お り,ト レー ニ ング量 や 強度 の増 大 が月 経 異 常 を惹 起 させ る原 因 とな る もの と 考 え る.
本 調 査 の女 子 中 ・長 距 離選 手 の ほ とん どが 週6日 以 上2時 間 程 度 の トレー ニ ング を実 施 して お り,週 当 りの 走 行 距 離 は100kmを 超 え る トレー ニ ン グ量 で あ る.こ のた め,日 常 の トレー ニ ング で は 肉体 的消 耗 の ほか,精 神 的 負 担度 も大 きい.ま た,女 子 マ ラ ソ ン選 手 よ りも低 年 齢 で あ り,そ の性 機 能 は い ま だ未 熟 な域 に あ り,種 々 の要 因で 月 経 異常 は比 較 的 容 易 に 高 い頻 度 で招 来 さ れ る もの と思 わ れ る.
本調 査 で は,月 経 異 常 の 原 因 と して の 身体 的 ス トレス とな る競 技 経 験 ・週 当 りの 練 習 頻 度 ・一 日の練 習 時 間 ・週 当 りの走 行 距 離 ・ラ ンニ ング ス ピ ー ド等 の トレー ニ ング量 及 び強 度 と月 経 周 期 との 関 連 を中心 に検 討 した が, 精 神 的 ス トレス が 一 方 に は その 原 因 と して あ
る こ と を見 過 ごす こ とは で きず,今 後 は心 理 的側 面 か らの検 討 も必 要 で あ ろ う.
現在 の と ころ,月 経 異 常 の 発現 機 転 の 詳 細 な メカ ニ ズ ム は ま だ解 明 され て お らず,女 子 ス ポ ー ッ選 手 の月 経 異 常 の 将 来へ の結 婚 ・妊 娠 ・出産 等 に与 え る影 響,ま た,月 経 異 常 の 対 策 につ いて の 報 告 や提 言 は な い.こ の た め 今 後 共,本 研 究 を継 続 し,サ ンプル を増 やす と と もに,選 手 生 活 を終 了 した者 に対 す る そ の後 の 地 道 な 追跡 調 査 が上 記 問 題 点 に 回答 を 与 えて くれ る と思 う.
参 考 文 献
(1)H.J.Mekau,P.E.Nowacki共 著 朝 岡 正 雄 訳:女 性 と ス ポ ー ッ,オ ー ム 社,1984.
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(3)田 中 宏 暁:一 般 女 性 と ス ポ ー ツ 運 動,Jpn.J.
SportsSci.,Vol.5(9)594‑601,1986.
(4)豊 岡 示 朗:女 子 長 距 離 選 手 と ス タ ミ ナ ト レ ー ニ ン グ,JPn.J.SportsSci.,Vol.5(9)602‑608,
1986.
(5)山 川 純 他:女 子 選 手 の 初 経 年 齢 及 び 月 経 状 態, 昭 和58年 度 日 本 体 育 協 会 ス ポ ー ツ 医 ・科 学 研 究 報 告,84‑99,1983.
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(io)進 藤 宗 洋 他:中 高 年 婦 人 へ の 自 転 車 エ ル ゴ
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メ ー タ ー に よ る50%Vo2max強 度 の60分 間 ト レ ー ニ ン グ の 効 果.体 育 の 科 学,Vol.3:58‑67, 1975.
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