軽運動が大学生活に与える影響(2)
The Effects of Light Exercise on University Life(2)
渡部芳栄 (高等教育推進センター)
井上一彦 (高等教育推進センター)
高瀬和実 (高等教育推進センター)
Abstract
This paper reports on the results of experiments on the impact of exercise using a Swiss ball on college students’ lifestyles.
Exercise using a Swiss ball did not always directly increase heart rate. However, it had a positive impact, both physically and mentally, on the college students, particularly in the morning. In the afternoon, however, exercise tended to have a negative physical and mental impact.
We examined the relationship between any negative impact and how the students spent that day and the day before the experiment. Whether or not the subject had drunk alcohol on the previous day, or coffee on the day of the experiment, and the time of going to bed and getting up, proved likely to affect the results.
Exercises using a Swiss ball did not always significantly increase heart rate. However, they can be completed quickly and are therefore easy for students to engage in.
Unfortunately, because their positive effects do not last long, students may need to do their exercises not only in the morning but also at other hours of the day. What is most important is to create a system that encourages students to voluntarily engage in exercise.
We regard this as a subject for future studies.
キーワード:運動プログラム,軽運動,心拍数,大学生活
1.前年度の研究における達成度と課題
渡部・井上・高瀬(2019)において,岩手県立大学生の学びを促す適切な運動の時間,内容,
環境などを検討した。その結果,
・多くの学生の登校時間は20分未満
・多くの学生は十分な睡眠時間だが,短時間睡眠の学生や長時間睡眠の学生もいる ・平日に朝食を全く食べていない学生も14.3%いる
・サークル,クラブ活動,アルバイトなどについてはモチベーションが高い
・運動時間の最大心拍数の平均は119.72
・「いつもと比べて,疲れにくかった」を選択した学生は約21%
・「いつもと比べて,学ぶことに意欲があった」を選択した学生は約29%
・「いつもと比べて,体が軽かった」を選択した学生は約38%
・「いつもと比べて,集中力が続きやすかった」を選択した学生は約39%
といった,実験及び実験後のアンケート結果を提示した。
その一方で,
①運動時間の把握の問題 ②運動後の効果が現れる時間帯 ③否定的な効果に関する要因
の3つについては,今後の課題としていた。本研究ノートでは,それらの点を特に念頭 に置きながら,2019年度に行った実験・アンケートの結果を報告する。
2.調査の対象・方法
2018年度の調査と同様の方法で,協力者(被験者)を募集し,実験を実施した。具体的 には2019年10月~ 11月の第1回調査においては17名,同11月の第2回調査においては9 名の協力者を得て,調査・実験が実施された。学生には普段の生活等についてのアンケー ト調査,軽運動(バランスボール)後には運動の効果についての主観評価を尋ねるアンケー ト調査を実施した。また,学生は調査の期間中は,できる限り腕時計型の活動量計を装着 するよう求められると同時に,今回の実験では,運動実施の際,自らの活動量計を確認し ながら開始時刻と終了時刻を記載させた。
なお,第1期の学生には平日毎日(月~金。祝日を除く。),第2期の学生には週3回(月・
水・金)の運動実験を行なっている。
3.運動実験中の心拍数
図1は,例として第2回の実験に参加した学生9名の11月20日における,午前8時から 正午までの心拍数の推移である。薄い赤で塗りつぶされているところは,各学生が実験メ ニューを実施している時間帯である。被験者4・5のように,比較的長く実践している学 生もいれば,被験者7のように,すぐに終える学生もいる。また,実験前に心拍数が高くなっ ている学生も多く(被験者1・2・3・4・5・7・8),また実験後に別のピークがあ る学生もいる(被験者3・4・5・7・8・9)。加えて,最大心拍数が150前後の高い学 生がいる一方(被験者1・2・3),110前後の学生もいる(被験者4・5・8)。前号で 使用した日常の心拍数に対してどのくらい上がったかという指標(最大心拍数 / 日常平 均心拍数)はそれなりに意味があるかもしれないが,やはり最大心拍数が運動実験による ものとは限らないことがわかった(むしろ実験中は,心拍数が落ち着きを見せる学生もい る)。
高等教育推進センター紀要『リベラル・アーツ』15 号 研究ノート:軽運動が大学生活に与える影響(2)
図1 運動時間(11月20日)の例
4.運動後の効果が現れる時間帯
図2は,種類別効果(運動メニューを実施した日に現れた変化)が現れた時間帯別割合 を示している。図を見れば明らかなように,1限の時間帯にいろいろな効果が出ていると 言える。特に多いのは,「いつもと比べて,体が軽かった」で(のべ)4人に1人が感じて いる結果となった。また,「いつもと比べて,集中力が続きやすかった」も16%以上が感 じており,「いつもと比べて,疲れにくかった」「いつもと比べて,学ぶことに意欲があっ た」も1割程度の学生が感じている。なお,2限の時間帯でも「いつもと比べて,集中力 が続きやすかった」は1割弱の学生が感じている。2限より後の時間帯ではあまり効果は 感じられていないようであるが,唯一例外的に,5限の時間帯に11%の学生に「いつもと
以上のことから,今回の運動の効果の持続時間は2時間程度,長くても4時間程度とい う可能性が示唆された。
図2 効果の現れる時間(種類別)
5.否定的な効果に関して
否定的な効果については,特に午後の時間になると,肯定的に感じるよりも否定的に感 じる項目が多くなる傾向がありそうである。例えば,3限の時間帯に着目すると,「いつ もと比べて,体が軽かった」と回答する学生が1.5%だったのに対し,「いつもと比べて,
体が重かった」と回答する学生が7.7%と多くなっている。同様に,「いつもと比べて,疲 れやすかった」と回答する学生が8.7%だったのに対し,「いつもと比べて,疲れにくかった」
と回答する学生は2.6%,「いつもと比べて,集中力が続きやすかった」と回答する学生が 5.6%だったのに対し,「いつもと比べて,集中力がとぎれやすかった」と回答する学生が 8.7%と,いずれも否定的効果を感じる学生のほうが多くなっている(学ぶことへの意欲や,
授業以外の活動への意欲については,肯定的な回答のほうが多い)。これらの傾向は,概 ね4限の時間帯でも同様のようである。一方,5限の時間帯では,その差は小さくなる。
否定的な効果が,運動を実施した結果なのかどうかを探るため,ここでは,「昨日の夜,
酒類を飲みましたか」「昨日の夜,寝たのは何時ごろですか」「昨日の夜,夜ごはんを食べ ましたか」「今日の朝,コーヒーを飲みましたか」「今日の朝,起きたのは何時頃ですか」「今 日の朝,朝ごはんを食べましたか」の6つの質問項目との関連を見てみる。単純化のため に,ここでは1限の時間帯から5限の時間帯までのどこかで否定的な効果を感じた学生の 割合をグラフ化している。
高等教育推進センター紀要『リベラル・アーツ』15 号 研究ノート:軽運動が大学生活に与える影響(2)
図3 否定的な効果との関連(上から「いつもと比べて,体が重かった」
「いつもと比べて,疲れやすかった」「いつもと比べて,集中力がとぎれやすかった」
まず,前日の夕食と酒類については,そもそも夕食を取らない学生や酒類を飲む学生は 多くはない。そのうち,前日の夕食については,食べなかったからといって否定的な効果 を感じる学生はいなかった。一方,酒類については,前日酒類を摂取した学生の半数もし くは4人に3人は,否定的な効果(「体が重い」「疲れやすい」「集中力がとぎれやすい」)
を感じている。就寝時間については,「22時台」や「26時台」に就寝した学生において,
否定的な効果をやや感じやすくなっているように見える。26時台,すなわち午前2時台に 就寝というのは寝るのが少し遅いと言わざるを得ないが,22時台でも否定的な効果が出や すいというのは,寝すぎることもよくないということか(もしくは,それほど疲れた日々 を送っているということか)。当日の朝については,4時台に起床する学生の半数は否定 的な効果を感じており,早すぎる起床も問題かもしれない。5時台に起床する学生は集中 力のとぎれやすさ以外は比較的否定的な効果を感じる割合は高くはない。朝食については 意外な結果ではあるが,取らなかった学生のほうで否定的な効果を感じる学生が少なかっ た。また,当日朝のコーヒーは,摂取した学生のほうで否定的な効果を感じる割合が低く なっている。
データ数が少ないという制約はあるものの,以上の結果からは,前日の飲酒や当日のコー ヒーの摂取の有無,就寝・起床時刻も否定的な効果と関連している可能性が示唆された。
6.考察と今後の課題
今回の実験の結果から,考察を行う。
まず,2年間にわたる運動実験では被験者に活動量計を装着してもらい,心拍等の活動 量のデータを収集した。確かに,運動実験を行った朝の時間帯に心拍数が上昇する学生は 多かったものの,今回の実験からは運動中よりは運動前,あるいは運動後の心拍数が高く なっている学生が多くいることがわかった。近年,心拍数を適度にあげることで学習効果 を高める研究成果が出されているものの,それはあくまで持続系の,有酸素運動のような ものをさせる場合に使われる指標なのかもしれない。今回のバランスボールを使った実験 で効果が現れたとすれば,例えば「集中力」のようなものが高まった可能性もあり,心拍 数以外の指標で検証する必要があるだろう。20 ~ 30分運動を継続する必要がある有酸素 運動ではと比べれば,学生にとっては(時間的には)取り組みやすい運動と言え,そうし た運動メニューを学生に提示することも今後検討したい。
しかし,今回の運動の効果は長くてもせいぜい4時間程度であることから,運動を実施 する時間も朝のみならず,他の時間帯も検討しなければならない。特に,午後は否定的な 効果を感じる学生の割合が高くなっており,これは昼食後の血糖値の上昇で仕方がないこ となのか,それとも,適切な時間に運動を行えば,今回の1限の時間帯に見られたような 効果が3限や4限の時間帯にも見られるものなのかどうかも,検証が必要である。
最大の問題は,学生が主体的に,あるいは完全に主体的・自律的でなくても,継続でき るような運動プログラムとは何かということになるだろう。今回はバランスボールを使っ て,実験という名目で参集してもらったわけだが,仮に効果があると言えたとしても,学 生が自ら運動を実施しなければ意味がない。運動場所の確保の問題のほかに,学生が運動 を継続するような仕組みも検討しなければならないだろう。
高等教育推進センター紀要『リベラル・アーツ』15 号 研究ノート:軽運動が大学生活に与える影響(2)
付 記
本研究は令和元年度学部等教育研究推進費(研究代表者:渡部芳栄,研究分担者:井上 一彦・高瀬和実,研究課題名:県大生の学びを促す運動プログラム開発のための基礎的調 査研究)の助成を受けたものである。
参考文献
大学生の健康・スポーツ科学研究会編著,2014,『大学生の健康・スポーツ科学(第5版)』道和書院。
電気通信大学健康スポーツ科学部会編著,2016,『大学生のための「健康」論』道和書院。
福岡大学スポーツ科学部編,2017,『大学生のスポーツと健康生活』大修館書店。
ジョンJ.レイティ , エリック・ヘイガーマン(野中香方子訳),2009,『脳を鍛えるには運動しかない!—
最新科学でわかった脳細胞の増やし方』NHK出版。
松下健二,2000,「体育授業における運動強度と大脳賦活水準との関係」『日本教科教育学会誌』第23巻 第1号,pp.77-84
菅原洋平,2017,『頭がいい人は脳を 「運動」 で鍛えている』ワニブックス。
山地啓司,2013,『こころとからだを知る心拍数』杏林書院。