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ポリ塩化ビニルの熱劣化(第三報) (昭和46年10月21日 原稿受理)

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(1)

ポリ塩化ビニルの熱劣化(第三報)

(昭和46年10月21日 原稿受理)

工業化学科教室原  泰 毅    〃  小 林 久仁臣

   〃    長   田  英  世

Thermal Degradation of Polyvinyl Chloride. III.

By Yasutaka HARA    Kuniomi KOBAYASHI and Hideyo OSADA

  The mechanism of the thermal degradation of polyvinyl chloride(PVC)was investigated in the previous report. The thermal change of isotactic and syndiotactic structure of PVC and the effect of stabilizers on the thermal degradation were studied by the thermal analysis, IR and ESR spectrometry in this report.

  The dehydrochlorination is accelerated with oxygen The activation energies to fission C−CI bond in the isotactic and the syndiotactic structure are almost same but lower than in the crystalline syndiotactic structure.

  In the stabilizers used in this study, tribasic lead sulfate(1) and lead stearate

(II)inhibit the dehydrochlorination of PVC but cadmium stearate shows no effect of the inhibition. I and II react with hydrochloride and PbC12 is formed,

      いて熱処理による立体構造の変化を赤外吸収スペ

1緒  言      ハルで検討した。ま嫌近よく使用されている

 ポリ塩化ビニル(以下PVCと略す)の熱劣化  PVCの熱安定剤を数種選び,それらがPVCの について,第一報1)では平均重合度及び塩素含量  熱劣化に対して如何なる機構で作用し,その熱安 の異なる様々なPVCを用いて,主として200℃  定性を高めているかを検討した。

以上の温度領域で示差熱分析,熱天秤,脱塩化水

素量の測定等を用いて熱劣化の機構を検討した。   II実     験 また第二報2)では,第一報で用いた試料のうち塩   1.試   料

素含有量の異なる二種のPVCを選び,主として   試料PVC及び後塩素化PVCはT社製のもの 200℃以下の温度領域で熱的解析法,赤外及び紫  で,可塑剤や安定剤を含まない粉末を用い,それ 外吸収スペクトル,電子スピン共鳴吸収等を用い  をテトラヒドロフラン(以下THFと略す)に て脱塩化水素機構を検討した。本報では,PVC  29/25 m1の濃度で溶かし,5mmHgの減圧下で のアイソタクチック,シンジオタクチック構造に  5時間減圧乾燥して製膜した。使用したPVCの 着目し,その構造の相違が劣化に及ぼす影響につ  重合度,塩素含量は表1の通りである。

いて考察した。赤外吸収スペクトルによるこれら   また安定剤としては市販一級試薬のステアリン の立体構造の研究例3)〜5)は多数あるが,熱処理に  酸カドミウム,ステアリン酸鉛,三塩基性硫酸鉛 よる立体構造の変化を赤外吸収スペクトルで扱っ  の三種を選択し,各々5%含有のPVCの膜を作 たものは少ない。そこで第二報と同一の試料を用  り試料とした。

(2)

表 1 試   料

〔B〕

〔F〕

平均重合度1塩素饅(%)       PVC〔,〕

860 840

56,7 65.9

 2.赤外吸収スペクトル

 PVC 29を25m1のTHFに溶かし,岩塩板上

に塗布して減圧乾燥した後,一定温度で所定時間         (1)

加熱して,冷却後測定した。       ↓  (2)

㌶き瓢㌘の_を恥て  ↓(3↓)

   (2) (3)

(1) ↓↓

PVC〔B〕

行なった。

 4.脱塩化水素量の測定

第一報に乱た方法と剛方法を恥た・    :。。numb。,濫→)

 5.電子スピン共鳴吸収      (1)アイソタクチック(690cm−・)

PVCの舗量が…mgになるようセこ試料を li;シンジオ元クチック1㌶;ll㌫:1;

取り,ESR試料管に入れ,昇温2°C/minで加熱      図1赤外吸収スペクトル し,日本電子製のJES−ME型を用いて測定した。

また9値の標準物質としてはマンガン(Mn++)を 使用した。

III結果及び考察

a

 1.赤外吸収スペクトル

 第一・,二報ではOH基, C=O基, C−C結    b 合,C−C1結合等の昇温による吸収強度の変化に

ついて検討したが,本報では一定温度における   = C=C結合,及びC−C1結合,特に第一,二報   『       C では取り扱わなかった立体構造を示すC−C1結   舗        ら 合等による吸収強度の時間変化について検討し   一       む た。試料〔B〕〔F〕のC−C1結合の赤外吸収ス   ミd        Q ペクトルを図1に,その構造を下に示す。

 H H H H H  l l l l l

−C−C−C−C−C−

 l l l l l  H CI H CI H

ア・fソタクチック構造

        Time(hr)

0     2     4   0     2     4

融ミ§ミ8≡≡三㍍

ペミ1こ!

㌔、

驚1ミ:1

澤ミ≡§ごこ:ご…

蒔二:d

        ●   PVC〔B〕

\°〜−o−一〜。...。

  へ

8ここ6こ゜一一一Φ    ゜\8ここ。

 、o、

》   、、o、

  8×  \°

 。 ミ:\〉

\こ:

、 、o、__

、    o〜−o〜

\\8\。

\   、Φ\

、\s\べ。

、、\ o\o o  \。\。 \°

  \

 。 ×。\

\駅

PVC〔F〕

一8盟一!一『一  漂場讐㌻(=d:竺

晶己1晶  曇1二:∴㌶継;ε9鵠

シンジオククチック構造      図2C−CI結合の吸光度変化

(3)

は一一定温度で加熱処理した後の吸光度比109∬。/  スペクトルが小さいため,定量が困難であったの 1−Dを,加熱前の吸光度1)。で割った値一D/  で省略した。

1)。を縦軸にとった。各温度におけるこの値の変   次に,第二報でも記したように,C−C1結合 化を図2に示す。       の減少を測定した温度範囲(190℃〜220℃)で分  これより空気中におけるC−C1結合の減少は  解機構に変化がないものとすると,一定の分解量 窒素中の場合に比べるとかなり大きく,酸素が  に達するまでの時間τと分解温度τとの関係 C−C1結合の切断を促進していることが認めら  は1ηC+1η1/τ一1M−E/R7▼(C,メは定数)で示 れるが,どちらの構造をもっているものが切れ易  され,1η1/τと1/Tは直線関係にあり,その傾き いかということは判断し難い。またここで試料  が活性化エネルギー(E)を与えるので各々の場合

1.0

(0.5

  0

一〇.5

1.0

0.5

0

一〇.5

2.02  2.06  2.10  2.14      2.02  2.06  2.10  2.14

       1/T×103       ]了F×103         〔B〕      〔F〕

図 3  109(1/t)と1/Tとの関係(C−C1結合の吸光度変化)  記号は図2参照

10

  8 ε 6

セ 4

2

0

        /

°㌶ン・ニニ::

sξピ1ゴ

10

8

6

4

2

0

        ./

     /声

 0      2       4     0      2       4       Time(hr)       Time(hr)

       〔B〕      〔F〕

○:190°C,●:200°C,◎:210℃,○:220℃,実線:空気中,破線:窒素中       図 4  C=C結合(161①cln−1)の吸光度変化

(4)

表 2       表 3

〔B〕空気中

〔B〕窒素中

〔F〕空気中

〔F〕窒素中

zチフ多,膓㌶多

18.7       24.8 19.9    i   32.2 11.5      − 29.9      一

シンジオタ   空気中i窒素中クチック       1

〔B〕 20.7Kca1/mole   25.1Kca1/mole

15・1   〔F〕 21.3    29.0

19.5 25.4

23.ユ   吸光度比1)を縦軸にとった。これより後塩素化       による影響は認められないが,C−C1結合の場       (単位 Kca1/mole)

      合と同様,酸素による分解促進が認められる。ま においてこの関係から活性化エネルギーを求め,  たC−C1結合の場合と同様にして活性化エネル それを図3に示す。またその値をまとめて表2に  ギーを求め・その結果を図5に示す・またその値 示した。       をまとめて表3に示した。

 これより空気中における活性化エネルギーは窒   この値は脱塩化水素から求めた値と大きな差は 素中におけるものより低く,これからも酸素が分  なく,脱塩化水素した後にC−C結合の主成が行 解を促進していることがわかる。また構造の相違  なわれることを示すものであるが,酸素による による活性化エネルギーはシンジオタクチック結  C−C結合の酸化によるC−0結合の生成やC一 晶のC−C1結合の減少より求めた活性化エネル  C結合のポリマー化が続いて起るものであろう。

ギーが最も大きく,他の場合のC−C1結合より

切れにくいと思われる.また後塩素化した試料 2・安定剤の効果

〔F〕は〔B〕より活性化エネルギーが大きく,塩   2・1・示差熱分析及び熱天秤

素化すると熱的に安定であると考えられる。     試料〔B〕のPVC単独と安定剤を含んだPVC  次にC−C結合の場合について赤外吸収スペク  とを比較して安定剤の効果を検討する。PVC単 トルで定量した結果を図4に示す。この場合には  独及び安定剤入りのPVCの示差熱分析及び熱天 C−C1結の定量の時と違って加熱前のPVCには  秤の結果を図6に示す。

C−C結合(1610cm−1)の吸収スペクトルは現わ   示差熱曲線及び重量減少曲線の形はいずれの場 れていないので・加熱処理後の吸収スペクトルの  合もほとんど同じであるが,示差熱における吸熱

0.6

0.4

ぷ 0.2

一〇.2

   8

2.02  2.06   2.10   2.14  2.182.02  2.06   2.10   2.14  2.18

    1/T×103      1/T×103      〔B〕       〔F〕

        ○:空気中,●:窒素中

図 5  10g(1/t)と1/Tとの関係(C=C結合の吸光度変化)

(5)

5

§

60

Yヱ  30

  0

  DTA       度,即ち脱塩化水素開始温度はPVC単独の場合

(1),   ,   1   ,    に比べて安定剤を用いた場合は,ステアリン酸鉛        で10℃,三塩基性硫酸鉛で20℃高くなり熱分解

(2),  ,      、    を抑制している。またステアリン酸カドミウムは        PVC単独の場合とほとんど変らず,熱分解抑制

(3),   、   ,   ,    の効果はないと思われる。

      2.2.脱塩化水素量の測定

(4)・ 1 ・ 1  サンプル量…mg,昇齢C/minで第_報に

       記した方法で脱塩化水素量を測定し,その結果を        図7に示す。なお理論塩化水素量を100としてこ

       タ彩        れた結果と同様に安定剤を添加したものは脱塩化        ノ

      γ グ TGA      水素開始温度が高くなる。但し,ステアリン酸カ

      オ ノ

     r,       ドミゥムにっいては示差熱分析,熱天秤では熱分      『

    〃       解抑制の効果は認められなかった。また最終塩化

    リレプ

200  250  300  350    水素量が100%に達しないのは製膜する際用い     T,mB(℃)        た溶媒のTHFの除去が完全でないのと・塩素が          、       塩化物として残っているものがあるためと考えら

(耀(・) 纏縦醐示ポ示差熱分析及び熱天秤より得ら

(1)PVC〔B〕,(2)ステアリン酸カドミウム5%

添加,(3)ステアリン酸鉛5%添加,(4)三塩基   れる。

性硫酸鉛5%添加       次に260℃,270℃,280℃,300℃の一定温度 昇温速度:5°C/mi叫試料100mg        における脱塩化水素速度を測定し,その結果から 図6PVCおよび安定剤添加PVCの示差熱天秤 @前述した一定分騨(4・%,6・%)セこおける1。9        1/τと1/τの関係を用いて活性化エネルギーを求        めた結果を図8,9に示す。

100

80

訳 60 両副

6出  40 20

0

  200      300       400      500

      Temp《℃)

○:PVC〔B〕,㊤:ステアリン酸カドミウム5%添加,⑧:ステ アリン酸鉛5%添加,●:三塩基性硫酸鉛5%添加

     図7 塩化水素の発生

(6)

100

50

0

100

喜500

  0

100

(1)(・)(3)(、)

活性化エネルギーは三塩基性硫酸鉛,ステアリン 酸鉛は24〜26kcal/moleで,ステアリン酸カド

ミウムは22〜23kca1/moleである。また第二報 に述べたPVC単独の場合の脱塩化水素量の測定 より求めた活性化エネルギーは21.3kca1/mole で,安定剤を加えることによる活性化エネルギー の変化はあまり認められない。

 しかし,同温度における脱塩化水素速度には各 安定剤間で差がある。反応機構が同一の場合は,

速度定数は分解率一定に達するまでの時間の逆数 に比例するので,一例として温度300℃における 時間の逆数をPVCを1として表4に示した。

表4 比 速 度

50 \〜  定1 ステアリ

         ン酸カド 分豊率(%)   一_ミー旦を

ステアリ 三塩基性

ン酸鉛 硫酸鉛

0

     10     20     30     40       60         1.4

       Time(min)

圏霧罐裁論5%添加   これより,三塩難硫酸鉛,ステアリン酸鉛は 18〕3詰聾欝8魎力17ぴC(4)26ぴC 脱塩化隷搬を㈱してし・るが・ステアリン酸

   図8 脱塩化水素速度の比較       カドミウムには抑制効果は認められない。また脱        塩化水素測定後の残渣をX線で調べ,三塩基性硫         1/T×103

0

≧o.4

0.8

      

S0 U0

1.6 P.4

0.88 O.71

0.43 O.50

0

1.75 1.8 1.85 1.gO     酸鉛,ステアリン酸鉛含有のPVCの残渣からは

こ\。〔A〕 ㍍1蹴謬驚三㌫㌶ら二

\.こ\   回折ピークが得られなかつた・このことより前二

      \・\:  ㌶ぎ繁㌫聯麓芸生ぎ

、○

、\:。〔B〕

      \:

ミo.4   0.8

0    の結果と併せて上記のことを考察すると,これら      安定剤はPVCのラジカル生成の温度を高めて抑

α4 r  制効果を示すと共に,塩化物として塩素を固定す      曽  る作用もあり,見掛けの脱塩化水素の速度を低

0.8 一

     め,また塩化水素の発生する温度を高くしている      ものである。

      2.3.電子スピン共鳴吸収

    ゜\.へ   加したPVCを加熱することによっ牲成するラ

       \●、        ジカルを電子スピン共鳴吸収装置(以下ESRと 是鍵〔8〕4!》港鴨ず    略す)セこより測定した・ESRの測定はラジヵ・レ

図9109(1/t)と1/Tとの関係(脱塩化水素)   を一次微分形でチャートに記録させた。ラジカル

(7)

30

蓋20

§

}卜10

→∠H特

 のエぽトのア

   !h    l

             8

       1

       耀

IV.結     論

     200      240      280

       Temp(℃)       _     _

        記号は図7参照      ステアリソ酸鉛はラジカルの生成を抑えることか     図1°ラジカル生成温度の比較   ら安定効果を示し更に塩化繰と反応して塩化        鉛を生成することにより塩化水素の発生を固定化 生成量は一次微分形の4H2×乃に比例する11)が・  し,見掛けの脱塩化水素量を減少させている。

本実験では∠Hが一定であったので,ラジカル

生成の相対量として乃を縦軸にとった。またこ      文    献

こで題したラジカノ唖ポリエニル型ラジカル ・)原銚椰晃づ長田難、九州工業大学研

{−CH2−(CH−CH)。−CH−)と考えられる12)。   究報告(工学),19,97(1969).

結果を図10に示す。各安定剤ともPVC単独の   2)原泰毅福田晃一長田英世:九州工業大学研

場合砒べてラジカル生成を搬ており・その効 3)禦麟Lh鴛認霊Hunt。ちCh。ユ&

果は熱分析,脱塩化水素速度の場合と同様に,三    Ind.,1958,71g.

塩基性硫酸鉛,ステアリン酸鉛,ステアリン酸力   4)島内・土屋・水島:高分子・8・202(1959).

ドミウムの順である・また安定剤を単]虫で加熱し ;渇鍮鑑眺8い374(196°〉

た場合,ステアリン酸鉛,三塩基性硫酸鉛はラジ   7)E.工Arlman,工Polym. Sci.,12,547(1954).

カルの生成が認められなかったが,ステアリン酸   8)DE・Winkle「・ibid・35 N128(1959)・

カドミウムではラジカルの生成が認められた.ス 9)N会鑑㌫:&Pa°1 11隅Mate「 e Plast ch烏 テアリン酸カドミウムより生成するラジカルが他   10)B.Baum, SPE Journa1,17, N1,71(1961).

の二種の安定剤の挙動と異なる作用をPVCの熱   11)日本化学会編実験化学講座続職丸善・電子

分=えていると考えられる力櫟田については、2)懲盟麗£認:1wiち正Phy飢Chユ

不明である。      65,815(1961).

 以上のことからPVCの構造及び安定剤の安定 化機構について次のようなことが考えられる。

 (1)アイソタクチック構造,シンジオククチッ ク構造の相違によるC−C1結合の切断には差が 認められないが,シンジオタクチックの結晶部分 は非結晶部分に比べ活性化エネルギーが大きいこ とより,結晶部分のC−C1結合は切断されにく い。また空気中におけるC−C1結合の吸光度が 窒素中に比較してかなり小さいことより,酸素に

より劣化は促進される。

 (2)PVCの加熱により生成するポリエニル型 ラジカルは脱塩化水素が始まる温度付近より生成 が始まる。

 (3)ステアリン酸カドミウムはPVCの劣化に 対して安定効果を不さないが,二塩基性硫酸鉛,

表 1 試   料 〔B〕 〔F〕 平均重合度1塩素饅(%)       PVC〔,〕860 840 56,765.9  2.赤外吸収スペクトル  PVC 29を25m1のTHFに溶かし,岩塩板上 に塗布して減圧乾燥した後,一定温度で所定時間         (1) 加熱して,冷却後測定した。                   ↓  (2) ㌶き瓢㌘の_を恥て  ↓(3↓)    (2) (3)(1) ↓↓↓ PVC〔B〕 行なった。  4.脱塩化水素量の測定 第一報に乱た方法と剛方法を恥た・    :。

参照

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