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詩を創る−「のはらうた」の表現の手法に学ぶ−
著者 川畑 惠子
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 20
ページ 6‑14
発行年 1997‑03‑30
URL http://hdl.handle.net/10105/10678
詩を創る
ー﹁のはらうた﹂の表現の手法に学ぶ
川畑恵子
一︑はじめに
国語の授業において︑一年生は﹁命﹂について考えることを年間
の学習テーマとして指導をすすめている︒教科書単元においては︑
﹁命﹂の尊さを扱うものがあるが︑学年を通して学び続けるテーマ
として設定したいと考えている︒
なぜなら︑あまりにも﹁命﹂が軽んぜられることが︑生徒たちの
間で起こっているからである︒いじめや塾での競争など︑彼らを取
り巻く状況は厳しい︒
生徒たちは個々を主張したいと思いながらも︑目立つことを避け︑
周囲と同化してしまったり︑流されてしまったりすることがしばし
ばある︒また︑集団に属さなかったり同化できない生徒に対し︑存
在価値を十分認めなかったり疎外しがちであったりする︒このよう な生徒の実態があるからこそ︑﹁命﹂について学び続ける必要性が
あると考える︒
ここでは︑詩を創ることを通して一人一人の存在や個々の願いに
気づかせ︑﹁命﹂を考える授業の実践を紹介したい︒
二︑実践
(一)指導の意図
﹁のはらうた﹂(工藤直子)の手法に学び︑表現と理解を関連さ
せながら︑詩を創る︒
﹁のはらうた﹂を読んでいると︑心がうきうきしてくる︒気持ち
が優しくなってくる︒精一杯生きている野原の生き物たちがかわい
くなってくる︒野原の生き物になったようだ︒
これは︑学習途中の生徒の感想である︒﹁のはらうた﹂は︑自分 一6
﹁
を素直に出せたり︑そのものになりきれる魅力がある︒ 学ばせ︑自己を表現させたいと考えた︒ その手法を
(二)指導の実際
指導目標
1表現の優れた特徴をとらえさせ︑読み味わわせるなかで︑そ
の効果を理解させる︒
2身近なところに題材を求める方法によって︑表現に親しませ
る︒
3表現の優れた部分を参考にしながら詩を創らせ︑自己を表現
させる︒
4作品に込められた気持ちが伝わるように朗読させるとともに︑
聞き手にも発表者の伝えたいことを受け止めさせ︑﹁命﹂の
尊さや一人一人の存在について考えさせる︒
ステップー﹁のはらうた﹂に学ぷ
一年生の教科書(光村)の学習導入教材である﹁野原はうたう﹂
(﹁のはらうた﹂工藤直子)では︑表現の特徴をとらえるとともに︑
野原の生き物の気持ちになって朗読する指導をおこなった︒
詩の中には︑﹁いのち﹂という作品のように︑全ての物をつつみ 込むような︑まさに﹁命﹂をうたいあげているようなものや︑﹁お
れはかまきり﹂のように︑自分の存在を精一杯示しているものがあ
り︑﹁命﹂ということを考えさせたり個々の存在に気づかせたりす
る教材として内容的にもふさわしい︒
生徒は︑速度や声の大きさ︑声音に変化をつけたり︑身振り手振
りを交えたりして読み方を工夫することにより︑詩の中の生き物に
自分を託すことができ︑素直な気持ちを出せたようである︒また︑
反復法や擬音語の使用︑文末の言葉遣い︑ひらがなの多用︑ペンネ
ームの工夫など︑特徴的な表現は︑後で詩を創るときの学ぷべき点
となった︒
ステップ2詩を創る
﹁のはらうた﹂は﹁書く﹂ことに苦手意識を持っている生徒にと
って︑抵抗を取り除くような表現の楽しさやおもしろさがある︒
また︑自分が野原の生き物になりきることによって気持ちが出し
やすかったり︑全く違ったものになることで解放感が味わえる︒
その手法に学び創作をおこなった︒
学習目標
1自然の中のものになって︑自分の気持ちを表そう︒
2気持ちがよく現れるような︑効果的な表現を考えよう︒ ︻7
一
3読み方を工夫して︑
4詩の発表を通じて︑
表現を学ぽう︒ 気持ちを伝えよう︒
創った人の気持ちを感じ取るとともに︑
学習過程(全八時間)
第一次取材をする(一時間)
一年生は﹁奈良めぐり﹂・﹁曽爾野外活動﹂などの校外学習があ
り︑自然に触れる機会が多い︒自分を何にたとえたら今の気持ちを
十分表せるか考え︑取材する︒
第二次詩を創る(二時間)
自分を何にたとえ︑どんなことばや表現技法をつかったら効果的
か考えながら詩を創る︒﹁のはらうた﹂の表現を参考にして創って
みる︒イメージを確かなものにするために︑情景を絵でも表現する︒
第三次解説を書く(一時間)
どのような効果をだしたくて自然の中の物になったのか︑どのよ
うな気持ちを託したかったのか説明し︑気に入った表現やこだわっ
たことばを書く︒
第四次音読の仕方を考える(一時間)
読み方をどのように工夫すれば効果的か︑音読の仕方を考える︒
第五次詩の発表(二時間) 発表者は︑自分の作品を気持ちが伝わるように工夫して音読する︒
聞き手は︑気持ちや工夫された表現をしっかり聞き取る︒
個々の思いを受け止め︑﹁命﹂について考える︒
第六次学習の反省(一時間)
自分がどれだけ工夫して詩を創れたか︑気持ちが表れるように読
み方を工夫できたか︑また︑聞き手としては︑発表者の気持ちや工
夫された表現をしっかり聞き取れたか︑自己評価する︒
生徒たちは︑予想していた以上に積極的に創作に取り組んだ︒し
かし︑何を題材にするか決まらなかったり︑適切な言葉が見つから
なかったりして︑なかなか書けない生徒もいた︒そのような生徒に
対しては︑次のような助言や手だてをした︒
今︑自分がいちばん言いたいこと︑強く思っていること︑喜び︑
悲しみ︑寂しさなどの感情をメモの形で書く︒その感情を何に例え
たらぴったりするか考える︒次に︑短文で表してみる︒反復︑擬音
語︑漢字・仮名の効果的な使用を試みる︒﹁のはらうた﹂の技法を
思い出してみる︒メモの段階の下書きを終えたら用紙に書く︒用紙
は︑文が書きやすいように︑﹁書き方の手順﹂と情景が書き込める
ような枠を添えたものを用意した︒(資料参照) 一8
一
三︑生徒作品例
次に生徒の作品をいくつか示す︒
金色の帯
わたしは今まで
たくさんの木々を育ててきました
葉と葉のすきまから
小さな木の芽を照らしてきました
大きくなあれ
大きくなあれ
暗い森の中に
金色の帯をそそぎながら
わたしはこの木の芽たちを
ずっと見守っていきます こもれび萌 きみもやま
みんなやま
太陽がぼくをてらす
大地がぼくをよぷ
空がぼくをさそう
ぼくはやま
きみもやま
みんなやま
人々がぼくの上を楽しそうにあるく
動物たちがあつまる
自然がぼくをまもる
みんな
みんな
ともだち 一9
ともだち
ぼくはやま やますぎぞうなにになるんだろう
あおむしけんた
ぼくはおおきくなったら
なにになるんだろう
あそこでゆれているおはな?
そらをとんでいることり?
でもにんげんにだけはなりたくないな
だっていっつもぼくを
いじめてきらうんだもん
ぼくはおおきくなったら
なにになるんだろう
でもずっとこのままだったら
いやだなあ
あっちょうちょがとんでいる
きれいだなとてもきれいだな
ぼくはちょうちょになりたいな
(解説)
わたしは時々︑自分は大きくなったらどんな人間になるのかなあ
と思うときがあります︒そういう気持ちは︑ちょうちょになる前の
あおむしと似ているような気がします︒ だから︑わたしは今の気持ちをあおむしの気持ちに変えて書きま
した︒
また︑ひらがなばかりで書いて︑まだ大人になっていないあおむ
しのようすを表しました︒
四︑考察
(一)生徒作品の考察
﹁金色の帯﹂では︑木漏れ日が木々の隙間の小さな木の芽にまで
優しく降り注ぎ︑温かく見守っている様子が表されている︒この詩
を創った生徒の優しさ︑温かさが感じられる作品である︒
木漏れ日を﹁金色の帯﹂と例えた表現や︑﹁こもれび﹂が木の芽
を萌え出ださせる関係を表したペンネーム︑﹁おおきくなあれ﹂と
いう優しい言葉の繰り返しに工夫がみられる︒
﹁ともだち﹂では︑人への信頼感︑心のつながりと安心感が﹁き
みも﹂︑﹁みんな﹂︑﹁:・が⁝する﹂という言葉から感じ
取れる︒
﹁やま﹂と平仮名にしたところが︑険しさではなく仲良く並んだ
山々(友達)を︑言葉や連の繰り返しが︑心の柔らかさを表してい
る︒﹁みんなみんなともだち﹂のところに︑一年生らしさが現
れている︒ 一10
一
﹁なにになるんだろう﹂は︑解説を生徒に書かせたものである︒
中学生という時期にみられがちな︑大人になることの不安と現状に
対する嫌悪感︑美しいものに対する憧れがよく現れている︒
自分とは何だろうという問いかけや︑全く違ったものになりたい
という願望を︑脱皮する﹁あおむし﹂に重ねる方法で表したこの作
品は︑生徒の感性の豊かさを物語っている︒
(二)指導方法の考察
今回の詩の創作の指導にあたっては︑行事を創作に生かすこと︑
解説をつけること︑お互いの作品を鑑賞し合うこと︑自己評価をす
ることの四点をねらいとした︒
校外学習を通して身近な題材を求めることは︑自然な形で取材が
行える結果となったようだ︒
そして︑解説をつけることで︑生徒は自分が表したかった気持ち
を具体的に掘り起こせた︒また︑他の生徒にも何を伝えたいのかが
分かりやすくなった︒表現の面でも︑何を工夫したのか整理できた
ようである︒
作品を発表し鑑賞し合う活動を取り入れたことは︑生徒が個々の
思いを感じ取り︑お互いの優れた部分を認め合える機会が設けられ
たこととして成果となった︒ さらに︑自己評価をすることは︑どれだけ工夫して詩を創れたか︑
読み方を工夫できたか︑発表者の気持ちを聞き取れたかという︑学
習の反省のまとめとなった︒(資料参照)
五︑おわりに
教科書教材﹁野原はうたう﹂では︑四編の詩が載せられている︒
生徒たちにどの詩が最も好きか聞いたところ︑半数以上が﹁いのち﹂
という詩を選んだ︒理由を聞くと︑優しい︑温かい︑全てを包み込
んでくれそうだ︑と言う︒このことは︑生徒たちが何を求めている
のかを考えさせられる機会となった︒そして︑詩の創作を通して︑
﹁命﹂の尊さを考える指導を試みようとしたきっかけでもある︒
今後も生徒の感性を大切にして︑一人一人の思いが表せるような
創作の方法を実践していきたいと考えている︒
(奈良教育大学附属中学校教諭) }
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