長野工業高等専門学校紀要 ・第
20号
(1989) 155高専における「線形代数」の理解度の分析 中 沢 喜 昌
The Analysis of the Grade of the Students' Understanding
in "Linear Algebra" in National College of Technology
Yosbimasa NAXAZAWA
Wegavelinearalgebralessonstothefifthgradestlldentsasanelectivesubject andanalyzed thattowhatextentstudentsunderstoodthelinearalgebra,judging from theresultofquestionairesandtests.
Itshowedthattheyaregoodattheproblemsaccompaniedbycalculationssuch asinversematrix,simllltaneouslinearequation,andpropervaluep'roblem andthat
,
on thecontrary,itisdi氏culttounderstandtheabstractnotionlikelinearspace andlinearmap.1.
研究の動機 とね らい
現代の高等数学では,解析学 としての徴積分 と線形代数が数学 の基礎 としての
2本の柱に なっている.大学では教養部においてほ とん どの ところで扱われている.それに比べて,高 専では微積分関係は相当扱われているが代数関係は少ない.
最初 の頃は大学 と同 じ位に行列を扱 っていたが,5
2年の薮育課程の改訂で数学の時間数が 拭 ってか ら代数 ・幾何関係の減少が 目だつ よう一 手なってきた・
高専における線形代数 としては
2年次に代数 ・幾何の中に行列 と行列式が含 まれている.
その取扱は最近特に少な くな り,高校並に簡単になってしまっている.実際,行列 とは こ う い うもの,程度で終わ りになっている.全般に高専の数学 のテキス トが レベルダウンの方向 にある.行列 の部分に閑 し七は,行列の階数や連立
1次方程式 の解に関する性質がない し, 固有値や
2次形式がな ぐなっているものもある.
コンピューター時代の数学 としては線形代数は大事であると考 える.大部分 の高専では代 数関係は
2年で終わ りなので,程度は下げて も線形代数 としてある程度まとまった形のある
ものに したい と思っていた.
5年生の選択で数学特論 ( 後期 2単位)の授業を担当す ることにな り,その内容 として高
* 平成元年 8 月2 日 第71 回 日数教千葉大会にて発表
** 一般科 助教授
原稿受付 平成元年
9月
29日
専の数学で不足 している線形代数を昨年度後期 に行い
,写年次の不足を補 うことを主な目的 とした.選択 とい うことで対象の集団は数 も少な く,数学が比較的できる方の特殊 な集団で はあるが,テス トやアンケー トなどか ら線形代数に関す る理解度の分析を試みた.
2.
研 究 の 内 容
2‑1指導の内容
線形代数の項 目を(
1)〜(6)とおおまかに分けて指導の概要を示す.ただ し,[ ]内は指導 し た時間数, ( )内はその内容である.
なお時間数の配分については,‑年分の内容を後期の車で教 えるので, 2 年での既習事項 を省略 して もかな り無理があるのは しかたがない.
(1)
行列
:[3時間]
( 行列の定義,行列の清算法則 と分割,正則行列 と逆行列)
この項 目は 2年次に 2, 3 次で済ませてあるので ( m, n)形の一般 の行列の説明と,行列の 分割および正則行列について簡単に扱 う.
(2)
行列式
:[0時間]
( 行列式の定義,行列式 の性質,展開 と逆行列
,Cramerの公式)
これ も2 年次に
3次を主体に済 ませてある.行列式の定義が一般的でないが,時間の関係 で この項 目はすべて省略す る.
(3)
連立
1次方程式
:[6時間]
( 線形独立 と線形従属,基本行列 と行列の階数,連立
1次方程式 と消去法,連立
1次方程式 の解 の構造)
2
年次には消去法をやってあるので解 の存在条件 とか解空間について線形独立や階数を用 いて証明す る等理論的に扱 う. また,演習の時間を とって実際に具体的な問題を与 えて授業 中に解かせる.
(4)
線形空間 と線形写像 :
[8時間]
( 線形空間の定義,基底 と次元,線形写像 と行列,線形空間の内積)
ここは高校 と同 じく2 次元での
1次変換をや ってある. しか し,あま りよく理解 している よ うではないのでほ とんど初めてと同 じである.本来ならばこの項 目を重点的に講義すべ き であるが時間の関係 もあ り詳 しくは扱わない.ただ,新 しい概念なので定義お よび例を主体 に一通 り全部を駆け足で一方的に講義する.
(5)
固有値問題
:[9時間]
( 固有値 と固有ベク トル,行列の対角化,実対称行列
, 2次曲面の標準形
, 2次 形式)
この項 目は工科系に とっては線形代数の中で も重要な項 目であると考え られ る.
2次の行 列の固有値,固有ベ ク トルの幾何学的な説明か ら入 り,代数的な定義に入 って行 く.演習時 間を とり
, 3次の行列の固有値 と固有ベ ク トルを計算 させ,対角化可能なものはそれを求め させ る.固有方程式がいろいろな解をもつ もので練習させて,特に重解の場合には対角化が 可能か可能でないかに注意 させ る.一般に固有値,固有ベ ク トルには抵抗があるが,沢山扱
って慣れさせ る方針を とる.
高専における 「 線形代数」の理解度の分析
157 (6)Jordanの標準形
:[3時間]
(Cayly・Hamilton
の定理
,Jordanの標準形)
ここは相当な時間をかけなければ証明とか理解 までには至 らない部分である.理論的には 扱わず
2次または
3次の例を与えて説明するのみ とする.
以上のような授業展開を した後の結果をまとめた.
2‑2
理解度の分析
2‑2‑1
テス ト結果の考察
定期テス トの
2週間前の授業時間に下記のテス トを60 分で行った.以下に問題を示す.
問題
1次の
(1),(2)の小間に答えよ.
・ 1 , 行列
A‑〔…≡
…〕
(2) 3つのベ ク トル α
1‑は正則かどうか調べよ.
li]
・a2
‑〔;〕・a3‑[!]( 逆行列が存在するか)
の組は線形独立であるか線形従属であるか調べ よ.
問題
2次の
(1),(2)に答えよ.
(1)R3‑R3
の
2つの直交変換
y‑Vx
,I‑Uyがあ るとき
Z‑UVx は直交変換であることを示せ.
(2) 2
つの線形写像
f,gの標準基底に関する行列がそれぞれ
0l1
321一一
し
こA 0120112013/l■.lll.llllllllヽ■二月 12
1 3
であるとき
行列
BAは何次元か ら何次元への線形写像を表すか.また
,ABについては どうか.
問題
3次式が成 り立つことを示せ.
0
0 1
S0
l ∬
cllガOo..
ガ
008問題
4連立
1次方程式
‑ cox
3
+cIx2
+ C2X+cSx ‑2Z=3 x
+
2y+ Z‑ 2
‑3x+2y+9Z‑ ‑10 x+4y+42‑1
( 1 ) 解をもつか どうかを階数を用いて調べ よ.
(2)
解がある場合は解け.
問題
5について
︺10
2
12
0
3
1 1 し
こ A
列 行
2
次形式 Q
‑ 3x12+2x2 2
+2x32+2xI x2
+2xIX3の とき
(1)Aの固有値
Ih}
2,1 3を求め よ.
(2)
l l ,} 2 ,1 3に対する大 きさ1 の固有ベク トル pl ,P2
,P3を求めよ.
( 3 ) Q を t xA x の形に表せ. また
,p‑ ( pI P2
P3)とす るとき直交変換 x‑ Py に より 2次曲面
0‑8の標準形の式を求め,その名称をいえ.
以上の問題についての得点分布を示す.受験者は
5年生1
8人で度数は%で示す.
20‑ 130‑ I40‑
問題は計算がほ とん どの簡単なものであったが,特別で きの悪い学生がいた.これはテス トを実施 した頃が卒研の発表会の準備で追われていたせい もあ; り,あま り勉強 しなかったの と,計算間違いの多か ったせいのよ うである.
次に各間の正答率( 中間点や減点を含む得点の割合)を示す.配点は各問すべて
10点 とす る.
問 題
3 14(1)正 答 率
これを各問題について個別に見てい く.
問題
1(1)の正則性,すなわち逆行列に関するものは良 くできた.. 逆行列は
2年でやってあ るせいもあると思われる.
1
(2)の線形独立 と線形従属に関す る問題はあま り良 くない.定義が頭に入 っていなくて証 明の方針がたっていない もの と,最後の判定が逆 のものが半々である.
問題
2の写像に関する証明 とか次元のよ うに,最初か ら行列が与え られていない問題は簡 単なもので も出来が よくない.
2
(1)は易 しくしたつ もりで
R3
‑R8とい う条件をつけたので,かえって一般 の3次の行列 を使 って失敗 していた. また,直交変換そのものの理解不足のせいもある.
2(2)
のような常識的なことが頭に入っていないのは意外であった.後半 の
ABが計算で き ないので解答に困って無答が多かった と考 えられる.
問題
3の行列式の計算は今回は全然ふれなか った割には良 くで きた
.ン 行列式は2 年次でや ってあ り,ほ とんどの学生は
2年の数学の成続が良いせいである.
=問題
4の連立
1次方程式に関するものも具体性があるので比較的できは良い.ただ,(
2)が 違 っていた ものは全員( 1 ) の計算違いのためであった.
問題
5( 1 ) の固有値 の計算等のように具体的な計算は非常に正確にできる. .
5(2)の間違いは計算違いがほ とん どであ り分かってはいるよ うである.
5
(3)はいろいろな内容を含んでいるので出来は良 くなか った. また, 2次曲面の名称など
高専における 「 線形代数」の理解度の分析
159も2 年次におけるテキス トの扱いが簡単になって しまったせいか忘れているものの方が多い のが気になった.
2‑2‑2
大学生 との比較
ち ょうど同 じ頃,筆者が某国立大学工学部の
2年生に行 ったテス トに計算問題の部分に一 部同 じ問題を出した.その結果を参考 までに比較 してみる.
問 題
1 3 1 4( 1 )
1 4(2) 5(1)l 5(2) 5(3)人数 時間 問題数
72.2%l 60.6 28.4 257人
90分 6題
90.0% l7
0.0 l72.2 37.8 18人
60分 5題 ただ し,大学生は選択ではあるがほ とん どの学生が とっている. .高専生は
5年生で歳は同 じだが
, 2年次の数学の成績は優 1 1 人,良
5人,可
2人でその平均点は
80.4点 ( 全体 の平均 点6
8.9点) の高専 としては数学ができる方の一部の学生である.
この ように対象学生の違い,テス ト問題, 使用テキス ト
2) ・
3) , 講義内容や形憩が同 じでは ないので単純な比較は問題があるが,上記の表にあるような計算問題に関 しては この集団の 高専生は平均的な大学生 よりできると言える.
2‑2‑3
アンケー ト結果の考察
下記のようなアンケT t l をテス ト後 の最後の授業の ときに行 った.
質問1
.数学特論を選択 した理由を苔いて下 さい.
質問2
.各項 目の理解度を記入 して下 さい. ( 理解できたは
○,理解できないは
×, どち ら ともいえないは△を入れ よ.)
(1
) 線形空間 ( 定義,線形独立 と異 風 基底 と次元,線形写像 と行列)
(2)
行列 ( 定義,清算法則 と分割,逆行列,階数,連立
1次方程式 の消去法 と解 の構造, 正則行列 と逆行列の計算)
(3
) 行列式…
(4
) 線形写像‑ と内積空間 ( 線形写像 と表現行列,内積空間,直行変換)
(5
) 固有値問題 ( 固有値 と固有ベク トル,行列 の対角化,実対称行列,実
2次形式, 2 次 曲面の標準化)
( 6 ) 特論 ( ‑ ミル トン ・ケ‑ リーの定理, ジョルダソの定理) 質問
3.数学の好 き,嫌い,普通を入れて下 さい.
( ‑‑・ 略‑・ ‑)
質問
4.高専の数学 ・応数の内容の理解度,興味等の中か ら一つずつ○をつけて下 さい.
( ‑‑‑略‑‑・ )
質問5
.数学特論 ( 線形代数)を学んでの感想を記入 して下さい.
質問6
.高専の数学 ・応数の授業について感想を記入 して下 さい.
以上のアンケー トの結果を順に見てい く.
まず,質問1 .については 「 大学へ進学す るので役に立つ と思 ったか ら」が一番多 くて半数
があげている. 「 数学が好 き, または得意だか ら」が二番 目に多い.その他は, 「 数学が苦
手なので
」,「 選択の中でT 一番役に立 ちそ うだ ったか ら
」,「 専門で必要性を感 じたか ら」等
が校数あった. 1
質問
2.については細かい項 目については省略 して大 きい萌 日のまとめを示す.表中の数字 はパーセン トを示す.以下同 じ
'これか ら見るに行列 と行列式および固有値問題はほ とんど理解 した.
反対に線形空間および線形写像 と内積空間は理解出来なか った学生がかな り多い. これは 予想 された ことではある. ここは大学で も部分空間や基底 と次元の問題を出しても出来が悪 い ところである.
特に,・ 最後の特論 とした ところは半数が理解 しなかった. ここは きちん とやれば相当時間 もかかるし難 しい ところだが,時間がなか ったので急いで例を上げて説明 した程度で終わ り に したせいでもある.
実は,最初の予定では連立
1次方程式、 と固有値問題 とジヨルダンの標準形のみを詳 しく扱 う予定であったが,集 まった学生がほ とん ど大学へ編入するので一通 り線形代数の全範囲を 講義することに した.そのため各項 目に十分の時間を当てることが出来なかった.
質問3
.については下表のようである.
これによると
3年で好 きが普通 にな り
4年で嫌いになる者が出て くる.やは り,. 4年 の応 数が難 しい ようである.受講生 の集団は数学が好 きな者の集 ま りか と思ったが必ず しもそ う
とは限 らなかった.
質問
4.については 略.
質問
5.については主 なものを以下に記す.
・固有値計算のような‑?の型 になっている計算は比較的簡単だが,概念的な定義だ とか証 明が理解 し難か った.
・行列に関するものは
2年 の時にや ?̲ J Cので比較的分か りやすか った・線形空間や線形写像 などが よく理解できなか?た・
・線形 とい う考 え方が理解できたことは良かった.実際の応用への使い方等について知 りた い と思 った. (コソピューターによる行列計算等を簡単に. また線形変換を用いたグラ フイ
● ック関係など. )
J計算方法は分か ったが概念的なものが よく分か らない. どのような分野でどのように使え
高専における
.r線形代数」の理解度の分析
161るかがはっき りすれば もっと学び易かった.
・黒板に詳 しく書いて もらえたのが良か サた.L A I l f,専門の教科で行列を使っていて役に立
った. . 、 , つ
・授業はノー トを. とるのに忙 しか った・内容 も具体的で ないので分か り・ に ・ (か‑ づた; ・ただ, . たまにや る演習は理解 しやすかったので演習を増や して もらえれば良か七二 7 °.'
・ バ ー.・大学受験の ときに線形代数の勉強をしたので授業は復習のよ5 r な形になった. ,編入学受験 生のために線形代数は前期にやって欲 しい.
質問
6.については 略.
3.
ま と め
テス ト結果やアンケー トの集計か ら見 ると,高専生は逆行列や連立
1次方程式 とか固有値 の計算のように計算を伴 うものは得意である.線形空間や線形写像のように概念的なものが やは り分か りに くいことが分かった.感想に も 「計算方法は よく分か ったが概念的なものが
よく分か らない」が多 く,テス ト結果に もその通 りに現れている.
線形空間の定義か ら始めて部分空間,線形独立,基底,次元,階数,‑‑・ 等の新 しい概念 に対する抵抗感がある. また, これ らを使っての行列の対角化 までの一貫 した理論の積み上 げに,ついて来るのが大変 なようであった.
また,具体的な応用例を望んでいる学生 も多か った・ これは高専に限 らず工科系の学生全 般に言えることではある. これが何に使 えるか, または使えそ うか と考えるよ うである. ち ちろん理論的な体系は教えなければいけないが,応用例を示せるものについては一言触れ る ことが工科系の数学の授業 としては大事であると分か った.
2
年での既習事項の定着率が良いことや,計算力は大学生に劣 らない とい うことが分か っ た. これ らか ら考えて最初の目標であった高専生への線形代数は
Jordanの標準形 までは無 理 として も,抽象理論に終わることな く深入 りしなければ計算を通 して固有値問題 までは
2年生でもできると思われる.
4.
今 後 の 課 題
今回は上級生 とい うことで少 し数学的に一般論を教え過 ぎた部分があった.やは り,高専 生には具体的な2, 3 次の例か ら徐々に一般論‑入って行 く必要性を感 じた. ここい らあた
りが高専生‑の授業の課題ではないか.
線形写像などはパ ソコン等によ り
2, 3次元のグラフィックスでイメージを十分につけて か ら一般論へ と発展 させて行 くのが頭の中‑残せ るよい教え方 の一つであると思われ る.現 在は∴高校 と同 じ2 次元の平面上での
1次変換のみだが,高専にはパ ソコンがあるので
3次 元 まで扱いたい.
行列については
3次の行列を主に扱 うのは良いが
, (m,n)型行列を入れるなどテキス ト にもう少 し一般性があって もいい し,高専では2 年で一応完了す ることを考えて固有値問題 なども3 次のものまで教え られればよい.
少 し例がある4 )が, 2 年次でも使えるような高専向きの計算を主体にした,ある程度 まと
まった線形代数のテキス トが作れれば と思っている.
参 考 文 献
1)
藤原重幸 :線形代数の数学教育的意義について,長野高専紀要第
8号
2)青木,大野,川 口 :線形代数要論,培風館
3)