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地域金融機関の貸出に関する考察

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株式市場や債券市場の整備は進んできているものの、地方の企業や中小企 業にとって銀行借入はいまだなお重要な資金調達手段である。地域経済活性 化、中小企業支援等の点から地域金融機関には貸出の増加が期待されている が、新しい会計基準である

IFRS

導入を控えて、地域金融機関は貸出をどう 考えていくべきだろうか。本稿では、主に地方銀行の貸出についての分析を 通じて、今後の貸出戦略を考察する。第1節で先行研究の紹介をし、第2節 で銀行貸出の現況を述べる。第3節では

IFRS

導入について述べ、第4節で 貸出に関する回帰分析とクラスター分析を行う。第5節は結論である。

1.先行研究

地域金融機関の行動を分析した研究は多数あるが、例えば堀江(2008)は 地域金融機関経営のミクロ分析を行っている。堀江は、第5章では活動につ いて、第6章では利益構造や経営規模について、そして第7章で貸出行動を 分析しているが、貸出については、県内の経済活動との関係を重視した内容 になっている。銀行の業務や貸出先の分散化を収益の点から分析するのが畠 田敬、立花実(2009)である。財務情報などのハード情報を用いた分析が多

地域金融機関の貸出に関する考察

有 岡 律 子

福岡大学経済学部

−243−

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いなか、貸出におけるソフト情報に関する分析を行ったのは島袋(2005)で ある。一方、藤野(2004)は地域金融機関の生産効率性に目を向けている。

IFRS

については、特集の雑誌や書籍が多数出版され、IFRSが銀行に与え る影響として概説を述べたようなものは存在するものの、データを用いた深 い分析はまだ蓄積されていない。会計処理の変更が企業に与える影響を分析 した研究は米国を初め、多数あるが、銀行に注目すると、例えば宮田・近

(1999)は銀行の会計処理変更の株価に与える影響をパネル・データにより 分析している。処理変更で新たに付加された情報の影響を株価により分析し たもので、貸出には注目していない。また、白田(2005)は会計制度改革の 影響を株価ではなく財務数値の変動に注目して分析しているが、銀行貸出に 限定していない。

本稿では、財務データにより、特に地域金融機関の貸出に関する考察を行 うが、新しい会計基準導入を見据えたものであること、地方銀行をタイプで 分類しているところ等が特徴である。

2.貸出の現況

銀行にとって、貸出金は主要な資金運用手段である。資産における貸出金 の割合は下落傾向にあるものの、依然6、7割程度あり、2番目の有価証券 運用割合をはるかに上回っている(図表2−1)。業態別に、貸出割合を大 きいものから順に並べると第2地方銀行(以下、第2地銀という)、地方銀 行(以下、地銀という)、都市銀行(以下、都銀という)となっている(図 表2−2)。ここ10年の推移を見ると、都銀の値の変動は大きいのに対して、

第2地銀、地銀の値が高い値で安定している。特に、地域金融機関にとって 貸出が恒常的に重要であることがわかる。

貸出に伴う利息に目を向けると、主に、貸出金利息や有価証券利息配当金

−244−

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0

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 0.1

0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

貸出有価証券

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

都銀 地銀 第2地銀 図表2−1 貸出金および有価証券の総資産比率 全国銀行

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

図表2−2 貸出金の総資産比率

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −245−

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0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

都銀 地銀 第2地銀 に代表される資金運用収益と手数料等の役務取引等収益面から構成される経 常収益のうち、貸出金利息が占める割合の大きいものから順に並べると、

貸出運用割合同様、第2地銀、地銀、都銀となっている(図表2−3)。貸 出金利息以外の収益源を多く保有する都銀に比べて、地域金融機関は貸出金 利息に依存する割合が高い。貸出金利息の経常収益に対する比率を貸出の総 資産に対する比率で除した値は2003年の第2地銀以外を除いてすべて1を下 回る(図表2−4)。これは資金運用によらない収益のためであるが、2009 年、2010年は地銀が都銀を下回っており、リーマン・ショック以降、都銀に 特に多かった資金運用以外の収益が減少しているのは注目すべき内容である。

地域金融機関が今後、都銀同様に収益源を多様化しようとすると、収益が安 定しない可能性がある。いずれにせよ、運用手段の面でも、収益の面でも、

地域金融機関にとって貸出は重要であり、これをどう考えるかが課題である。

経常収益の主要項目は資金運用収益、役務取引等収益、特定取引収益、その 他業務収益、その他経常収益等、信託報酬である。

図表2−3 貸出金利息の経常収益に占める割合

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

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0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

都銀 地銀 第2地銀

3.IFRS 導入にあたって

債権関連の変更点の概要

現在、導入が議論されている

IFRS(国際会計基準)は、現行の日本の会

計基準と異なっている点が多い。利害関係者は企業が会計基準に従って算出、

開示している財務情報等をもとに意思決定しているため、会計基準の変更は 企業に直接的にはシステムや開示内容、書類の変更等に伴うコスト増大をも たらし、間接的には利害関係者の行動の変化を通じて影響を与えることにな る。銀行貸出に大きな影響を与えそうな項目として、例えば債権等の損失関 連の変更がある。これは、損失を発生時に計上するモデルから将来損失を見 込むモデルへ変更するものである。

図表2−1、2−2でみたように、銀行の資産における貸出金割合は高い だけに、モデル変更で損失計上額が拡大する恐れがある。金融資産のうち、

「貸付金及び債権」に関する損失(減損)について、現行基準では貸付金が 回収されないときに計上するため、計上は限定的であった。しかし、将来損

図表2−4 貸出金利息の経常収益に占める割合/貸出金の総資産比率

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −247−

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失を見込んで計上するモデルへ変更されると、毎期、債権を評価し、取得原 価との差額が大きいときには損失を計上しなければならない。評価にあたり、

債権から得られるキャッシュ・フローの割引現在価値を考えることが一般的 であるが、将来の不確実性を考慮してキャッシュ・フローや割引率(リスク を反映させたプレミアム部分も含む)を見積もらなければならない。状況の 変化によって予想見積もりが変わると債権価値は変動し、損失計上の可能性 が高まることが予想される。実勢に比べて安い金利での貸出については、契 約金利ではなく実効金利をもって債権価値を考えなければならず、債権価値 は減少する。また、優良でない貸出先についてはリスク負担増大によるプレ ミアムが大きくなるので割引率は高く、価値は小さくなるため、損失計上す る可能性が高まる。

このように、IFRS導入後は、今以上に債権の優良性が問われることにな るため、現在銀行が抱えている不良債権について業態別にみていく。開示さ れている不良債権は(1)金融再生法に従うものと(2)銀行法に従うもの(リス ク管理債権)がある。(1)は貸出金と貸付有価証券などのその他の債権が対 象であり、破産更生債権及びこれらに準ずる債権、危険債権、要管理債権に 分類される。(2)は貸出金のみが対象であり、破綻先債権額、延滞債権額、

3ヶ月以上延滞債権額、貸出条件緩和債権額の4つに分けられる。貸出金 残高は大きいものから都銀、地銀、第2地銀の順であるのに対して、(2)の 不良債権額(リスク管理債権額)は地方銀行が最も大きい(図表3−1)。

したがって、地方銀行では損失計上額が大きくなり、利益に影響する可能性 が高い。ただ不良債権額の貸出金に対する比率は、地域金融機関のほうが都

金融庁の発表によると、貸出金に関する2010年3月期の残高は(1)の分類に おいては、それぞれ、28,750億円、67,280億円、21,180億円となっている。

金融庁の発表によると、2010年3月期の残高はそれぞ れ、11,190億 円、

81,900億円、1,440億円、19,750億円である。

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( 6 )

(7)

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000

都市銀行 70,000

2006 2007 2008 2009 2010

地方銀行

2006 2007 2008 2009 2010

地方銀行Ⅱ

2006 2007 2008 2009 2010

条件緩和先 3ヵ月以上延滞先 延滞先 破綻先

銀より高いものの、ここ5年では下落しているのに対して、都銀はリーマン・

ショック後、上昇している(図表3−2)。また、地域金融機関は都銀に比 べて、破綻先+延滞先の割合が高く、不良の程度が高い(図表3−3)。地 域金融機関にとって、会計基準の変更は不良債権額の大きさ、債権の優良性 の乏しさの面で、懸念事項である。

また、近年、銀行は法人貸出ばかりでなく、住宅ローンなどのような個人 向け貸出にも力を入れている。住宅ローンは長期にわたることが多いが、長 期の債権は将来の不確実性に左右されやすいため、損失額の増加の恐れがあ る。ここ数年は低金利が続いているが、将来、金利が上昇すると低金利時代 に発生した債権の割引現在価値は低下することになるのに加え、金利上昇に より返済の滞りの可能性も高く、損失計上額が膨らむ可能性がある。なお、

このような債権を譲渡したとき、現行では損失計上しなくてもよくなるが、

新しい基準では実質的な移転がなければ、損失を計上しなければならない点 も懸念材料である。

図表3−1 不良債権額(リスク管理債権額)残高

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −249−

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0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06

2006 2007 2008 2009 2010

都銀 地銀 第2地銀

0%

20%

40%

60%

80%

100%

都市銀行

2006 2007 2008 2009 2010

地方銀行

2006 2007 2008 2009 2010

地方銀行Ⅱ

2006 2007 2008 2009 2010

条件緩和先 3ヵ月以上延滞先 延滞先 破綻先 図表3−2 不良債権比率

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点 リスク管理債権額を貸出金額で除したものである。

図表3−3 不良債権の種類別比率

全国銀行協会 全国銀行総合財務諸表(単体)より作成 3月期末時点

破綻先債権額、延滞債権額、3ヶ月以上延滞債権額、貸出条件緩和債権額をそれぞ れ貸出金額で除したものである。

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4.地方銀行の貸出に関する分析

4‐1 回帰分析

金融庁の政策として、2003年より地域密着型金融(リレーションシップ・

バンキング)の強化が打ち出されている。地域金融機関には、事業再生をは じめとする取引先企業の支援強化や、地域経済発展への貢献、中小企業への 貸出の促進等が奨励されており、その取り組み状況の報告が求められている。

ただ、中小企業への貸出促進は早めに破産したほうが好ましい中小企業の延 命にすぎず、銀行の採算悪化要因となっているとの批判もある。また、地域 金融機関は都銀に比べて貸出先の業種や規模、活動地域が限定されやすく、

採算がよくない傾向があると言われることもあるので、2010年3月期の65地 方銀行(埼玉りそな含む)の貸出に関連するデータを用いて優良性、採算性 等を検証する。地域金融機関の貸出の資産運用比率(貸出総資産比率)は、

地域密着度、地域経済への貢献度を直接測る指標ではないものの、貸出は地 元向けのものが多いものとして、その値を地域密着度、貢献度とみなすこと にする。値が高いほど密着度、貢献度が高い。また、中小企業向け貸出が促 進されていることから、中小企業向け貸出の金額や比率を考え、これらと収 益、貸出利回り、不良債権率、

ROA

等の関係について分析する。なお、不 良債権率は不良債権額を貸出額で除したもの、ROAは業務純益を総資産額 で除したものである。

まず、金額ベースであるが、不良債権額を被説明変数とし、説明変数とし て貸出額、中小向け貸出額、1件あたり中小向け貸出額をとるとき、貸出の 規模が大きいと不良債権額も大きいことが予想されるため、いずれも符号は 正が予想される。結果はその通りである。前2者は1%水準で有意であり、

決定係数も高い。平均中小向け貸出額については5%水準で有意であるもの の、決定係数は低い。(図表4−2)。

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −251−

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次に、業務純益を被説明変数とし、説明変数として貸出額、中小向け貸 出額、不良債権額をとる。貸出の規模が大きいと業務純益も大きいことが予 想されるため、前2者の符号は正が予想される。結果はその通りである。一 方、不良債権額が大きいことは利益にマイナスであるため、符号は一概には いえないが、結果は正である。貸出規模が大きいほど不良債権額、業務純益 がともに大きいため、このような結果になっていると考えられる。いずれも 1%水準で有意であり、決定係数も高い(図表4−3)。

次は比率を中心にみていく。ROAを被説明変数とし、説明変数として貸 出総資産比率、中小向け貸出比率、不良債権率をとる。また、同一県内で第 2地銀が存在する場合、貸出競争が予想されることから第2地銀の有無のダ

業務純益は基本的な業務から得られた利益であり、収益から経費を差し引い たものである。

図表4−1 データの統計値 総資産 貸出

中小企 業向け 貸出

中小貸 出件数

1件 当たり 中小向 け貸出

不良 債権

業務 純益

貸出 利回り

(%)

貸出 総資産

比率 中小企 業向け 貸出 比率

不良 債権率 ROA

平均 37966 24822 17931 135335 0.1338 753 217 1.985 0.6535 0.7163 0.0312 0.0052 最大 116818 85257 69421 382275 0.2724 2391 1111 3.31 0.7822 0.9442 0.0514 0.0109 最小 3875 2697 1960 14546 0.0655 114 13 1.69 0.5410 0.5471 0.0168 0.002

総資産〜業務純益の単位は億円

図表4−2 不良債権額との関係

回帰係数 t 決定係数 貸出 0.027*** 16.759 0.817 中小向け貸出 0.033*** 13.062 0.73 平均中小向け貸出 2695.692** 2.011 0.06

***:1%水準で有意、**:5%水準で有意

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( 10 )

(11)

ミーを入れる。第2地銀がある場合は1とし、ない場合を0とする。貸出で の運用割合が高いほど、また、中小企業向け貸出割合が高いほど、ROAは 高くなっている。金融庁が2003年から進めてきた政策、すなわち銀行に地域 密着度を強めさせ、中小企業向け貸出を促進することは、銀行自身の収益率 にもプラスであることになる。地域金融機関は一般的に貸出のバリエーショ ンが限定されるマイナス面があると言われるがそうとは言いきれないようで ある。不良債権率が高いほど

ROA

が低くなっているのは予想通りである。

第2地銀が存在する場合、貸出競争で業績が相対的に悪い先にまでも貸し出 さざるをえず、収益率の低下の恐れもあるが、ダミーの係数の符号は正と なっている(図表4−4)。

次に、不良債権率を被説明変数とする。説明変数として中小向け貸出額、

図表4−3 業務純益との関係

回帰係数 t 決定係数 貸出 0.011*** 25.711 0.913 中小向け貸出 0.014*** 28.066 0.926 不良債権額 0.33*** 12.612 0.716

***:1%水準で有意

図表4−4 ROAとの関係

回帰係数 t 決定係数 貸出総資産比率 0.0053 1.525 0.04 中小向け貸出比率 0.0050** 2.473 0.09 不良債権率 −0.044 −1.669 0.04 貸出総資産比率 0.0007 0.186 0.12 中小向け貸出比率 0.0038 1.531

不良債権率 −0.02 −0.739 第2地銀の有無 0.0005 1.

**:5%水準で有意、:10%水準で有意

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −253−

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貸出総資産比率、中小向け貸出比率をとる。また、同一県内で第2地銀が存 在する場合、ライバル企業との貸出競争で業績が相対的に悪い先にまでも貸 出すことが予想されるため、第2地銀の有無のダミーを入れる。中小向け貸 出額が大きくなっても、不良債権率は小さくなっていることから、中小企業 への貸出促進は早めに破産したほうが好ましい中小企業の延命にすぎず、銀 行の優良性悪化要因となっているとの批判はあたらない。第2地銀のダミー を入れた場合もそうでない場合も、貸出での運用割合が高いほど、また、中 小企業向け貸出割合が高いほど、不良債権率は低くなっており、ダミーを入 れると決定係数が高まっている。金融庁が2003年から進めてきた政策、すな わち銀行に地域密着度を強めさせ、中小企業向け貸出を促進することは、銀 行にプラスであることになる。ダミーの係数の符号は負であることは、ライ バル関係があっても不良債権率は高くなっていないことを意味している。自 己資本比率の維持が厳しく求められていること、国債での運用も可能である ことが理由かもしれない(図表4−5)。

図表4−5 不良債権率との関係

回帰係数 t 決定係数 中小向け貸出 −1.30E‐07 −1.713 0.045 貸出総資産比率 −0.036** −2.232 0.073 中小向け貸出比率 −0.026*** −2.724 0.105 貸出総資産比率 −0.0328** −2.049 0.105 第2地銀の有無 −0.003 −1.48

中小向け貸出比率 −0.024** −2.436 0.128 第2地銀の有無 −0.003 −1.264

貸出総資産比率 −0.018 −0.955 0.141 中小向け貸出比率 −0.018 −1.593

第2地銀の有無 −0.003 −1.236

***:1%水準で有意、**:5%水準で有意、:10%水準で有意

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( 12 )

(13)

では、貸出利回りとの関係はどうなっているだろうか。貸出利回りを被説 明変数とし、説明変数として貸出額、貸出総資産比率、中小向け貸出比率、

不良債権率をとる。また、同一県内で第2地銀が存在する場合、ライバル企 業との貸出競争で利回りが下落することが予想されるため、第2地銀の有無 のダミーを入れた場合も考える。貸出の符号は負となっている。貸出を増や そうとすると本来は高い貸出金利を提示すべき業績が相対的に悪いところへ の貸出も増加するので、利回りにはプラスの側面もある。しかし、金利減免 やそもそも見合った金利がつけられないなどがあるのではないか。第2地銀 のダミーを入れた場合もそうでない場合も、貸出での運用割合が高いほど、

また、中小企業向け貸出割合が高いほど、利回りは高くなっているが、ダミー を入れると決定係数が高まっている。特に中小企業向け貸出比率は有意性が 高い。金融庁が2003年から進めてきた政策、すなわち銀行に地域密着度を強 めさせ、中小企業向け貸出を促進することは、銀行にプラスであることにな る。ダミーの係数の符号は負であるので、ライバル関係は利回りにはマイナ ス方向に働いている。また、不良債権率が高いと利回りは悪化することが予 想されるが、確かに符号は負となっている。(図表4−6)。

一般に株式投資では分散投資をするほど、すなわち銘柄数を増やすほどリ スクが低下するといわれているが、貸出の場合はどうだろうか。不良債権率 を被説明変数とし、説明変数として中小向け貸出件数とする回帰によれば、

決定係数は小さいものの、符号が負であるので、中小企業貸出件数が増加す ると、確かに不良債権率は低下している。株式投資同様、貸出の分散効果が あるといえる(図表4−7)。

4‐2 クラスター分析

4‐1で用いた不良債権率、中小企業向け貸出比率、貸出運用比率、ROA、

貸出利回りのデータをもとに、クラスター分析をした。まず変数間での関係 は、図表4−8で示される。

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −255−

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クラスター分析樹形図

図表4−6 貸出利回りとの関係

回帰係数 t 決定係数 貸出 −3.50E‐06** −2.016 0.061 貸出総資産比率 1.197** 2.47 0.088 中小向け貸出比率 1.23*** 4.64 0.255 不良債権率 −4.66 −1.227 0.02 貸出総資産比率 1.217** 2.474 0.09 第2地銀の有無 −0.023 −0.329

中小向け貸出比率 1.28*** 4.734 0.265 第2地銀の有無 −0.06 −0.947

貸出総資産比率 0.188 0.363 0.267 中小向け貸出比率 1.221*** 3.84

第2地銀の有無 −0.061 −0.95

***:1%水準で有意、**:5%水準で有意、:10%水準で有意

図表4−7 貸出件数と不良債権率 回帰係数 t 決定係数 中小貸出件数 −1.90E‐08 −1.588 0.038

図表4−8 変数間の関係

原データの距離計算はsqrt(2*(1−r))、r=相関係数とし、ウォー ド法を用いている

−256−

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次に、65行を不良債権率、中小企業向け貸出比率、貸出運用比率、貸出利 回りにもとづいて、ユークリッド距離、ウォード法に従って、3つにクラス ター分けすると、図表4−9のようになった。クラスターごとにそれぞれの 値の平均値を計算したものが、図表4−10である。グループ1は地域密着度、

中小企業への支援度、不良債権率の低さ、利回りのどの指標にも優れた最優 良行グループで、全体の43%の割合を占める。関東や関西など大都市圏に基 盤を持つ銀行が多いように思われる。グループ2は地域密着度が小さく、不 良債権率も高いという特徴を持っており、23行から構成されている。貸出の 優良性がより問われるようになる

IFRS

導入に向けて、早急な改善が望まれ る。グループ3は、利回りが最小で、中小企業向け貸出比率が低い。ここに は14行が含まれる。

IFRS

導入後、将来、金利が上昇したとき、貸出先から の金利返済に滞りが生じ、債権に関する損失計上の可能性が高い恐れがある ことに留意すべきである。

図表4−9 地方銀行の3つのクラスター

〈1〉 〈2〉 〈3〉

荘内 清水 秋田 百十四 北海道

東北 大垣共立 北都 四国 青森

群馬 十六 山形 佐賀 みちのく

足利 近畿大阪 岩手 十八 東邦

筑波 泉州 七十七 親和 常陽

埼玉りそな 池田 第四 肥後 八十二

武蔵野 紀陽 北越 大分 北國

千葉 但馬 山梨中央 宮崎 福井

千葉興業 阿波 百五 鹿児島 三重

東京都民 伊予 滋賀 鳥取

横浜 筑邦 京都 広島

富山 西日本シティ 南都 山口

静岡 琉球 山陰合同 福岡

スルガ 沖縄 中国 北陸

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −257−

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図表4−10 3クラスターの平均値

利回り% 貸出運用割合 中小向け貸出率 不良債権率 グループ1 2.085 0.696 0.811 0.029 グループ2 1.920 0.588 0.652 0.033 グループ3 1.891 0.677 0.633 0.032

図表4−11 3クラスター内順位

利回り 貸出運用割合 中小向け貸出率 不良債権率高い順 不良債権率低い順

グループ1

グループ2

グループ3

図表4−12 3クラスターの参考資料 サン

プル No.

サンプル名 クラスター No.

サン プル No.

サンプル名 クラスター No.

サン プル No.

サンプル名 クラスター No.

サン プル No.

サンプル名 クラスター No.

1 北海道 18 千葉 34 三重 50 百十四 2 青森 19 千葉興業 35 百五 51 伊予 3 みちのく 20 東京都民 36 滋賀 52 四国 4 秋田 21 横浜 37 京都 53 福岡 5 北都 22 第四 38 近畿大阪 54 筑邦 6 荘内 23 北越 39 泉州 55 西日本シティ 7 山形 24 山梨中央 40 池田 56 佐賀 8 岩手 25 八十二 41 南都 57 十八 9 東北 26 富山 42 紀陽 58 親和 10 七十七 27 北國 43 但馬 59 肥後 11 東邦 28 福井 44 鳥取 60 大分 12 群馬 29 静岡 45 山陰合同 61 宮崎 13 足利 30 スルガ 46 中国 62 鹿児島 14 常陽 31 清水 47 広島 63 琉球 15 筑波 32 大垣共立 48 山口 64 沖縄 16 埼玉りそな 33 十六 49 阿波 65 北陸 17 武蔵野

−258−

( 16 )

(17)

クラスター分析樹形図

1 29 2 24 26 4 38 10 35 49 48 31 43 41 25 15 9 42 34 19 21 18 40 45 32 33 27 20 16 50 46 17 12 36 28 13 6 47 30 39 22 7 5 8 23 37 14 11 44 3

5.結

貸出は、地域金融機関にとって、資産運用の7割前後、経常収益の6、7 割の源泉となっており、運用手段の面でも、収益の面でも重要である(第2 節)。債権に関する変更を含む

IFRS

導入後は、特に貸出の優良性が前より 問われるようになるが、地域金融機関の不良債権について、金額は都銀に比

クラスター

No. 件数 比率

28 43.08%

23 35.38%

14 21.54%

合計 65 100.00%

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −259−

( 17 )

(18)

べて大きく、不良債権率は下落傾向にあるものの、破綻先と延滞先の合計の 比重が高い、すなわち優良性が低いのが懸念材料である(第3節)。

回帰分析から明らかになったことは以下の通りである。金額ベースでは、

貸出の規模が大きいほど業務純益の規模は大きいものの、不良債権額も大き い。だが比率ベースにおいては、貸出での運用割合が高いほど、また、中小 向け貸出比率が高いほど

ROA

と利回りは高く、不良債権率は小さい。利益 額を増加させたい場合は、貸出を増やすとよい。しかし比率を重視するなら 預金額、総資産額を抑えることで貸出額をコントロールしながらも貸出での 運用、特に中小企業向けの貸出を増やすのが好ましい。2003年からの金融庁 のリレーションシップ・バンキングの促進は比率の点で銀行にいい結果をも たらしているといえる。また、中小企業貸出件数が増加すると、不良債権率 は低下していることから、株式投資同様、貸出の分散効果があるといえるの ではないか(第4節の1)。

クラスター分析によれば、28行が属するグループ1はどの指標にも優れた 最優良行グループであるが、23行から構成されるグループ2は地域密着度が 小さく、不良債権率も高いという特徴を持っており、貸出の優良性がより問 われるようになる

IFRS

導入に向けて、早急な改善が望まれる。残る14行が 属するグループ3は、利回りが最小で、中小企業向け貸出比率が低い。

IFRS

導入後、将来、金利が上昇したとき、貸出先からの金利返済に滞りが生じ、

債権に関する損失計上の可能性が高い恐れがあることに留意すべきである

(第4節の2)。

参考文献

白田佳子「会計制度改革の財務分析への影響」経営分析研究(21)1‐9 2005年 島袋伊津子「銀行貸出におけるソフト情報生産に関する実証分析」PRIディスカッ

ション・ペーパー・シリーズ(No.05

A

‐19)2005年9月

−260−

( 18 )

(19)

畠田敬、立花実「分散化が金融機関のパフォーマンスに及ぼす影響」神戸大学ディ スカッション・ペーパー・シリーズ2009‐10

藤野次雄「地方銀行の効率性分析」信金中金月報2004年3月号 堀江康熙『地域金融機関の経営行動』勁草書房 2008年

宮田慶一、近暁「銀行の上場株式・土地にかかる会計処理方法変更の株価への影 響」日本銀行金融研究所

No.

99‐

J

‐14 1999年

日経ビジネス「IFRS利益激変 決算書の常識が変わる」日経

BP

社 2010年8月 週刊ダイヤモンド まるわかり

IFRS

2009年10月30日号

株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング、監査法人元和『実務に 役立つ

IFRS

50のポイント』中央経済社 2010年

地域金融機関の貸出に関する考察(有岡) −261−

( 19 )

参照

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