Education Methods for Improving the Communication Skills in the Initial Period after Entry to a Nursing University:
Focus on the Effectiveness of Conversation Techniques
Mariko I
SHITOBI1), Masako K
ANAYAMA2), Kazunori Y
AKEYAMA1)1)
Department of Psychiatric Nursing, School of Nursing, Faculty of Medicine, Fukuoka University
2)
At the time of study, Department of Fundamental Nursing, School of Nursing, Faculty of Medicine, Fukuoka University
Abstract: The aim of this study was to investigate the effects of lectures and seminars on human relations
for students in the initial period after entering a nursing university, the goal of which was for students to acquire communication skills, using confirmation techniques as part of the conversation technique. The participants were 110 first-year students enrolled in a human relations seminar at a nursing university who completed a questionnaire on communication behavior before and after the seminar. The questionnaire data were verified and analyzed qualitatively. The results of a Mann-Whitney U-test revealed a significant difference between the scores before and after the seminar, while the analysis of free comments clearly revealed an understanding of the importance of communication skills and self-reflection after the seminar.
The role of the lecturer was to provide positive feedback to students on successful communication experiences, with a need to link this to increased motivation to further develop communication skills and to increase the students’ confidence. Support to improve communicative competence on an ongoing basis is also important.
Key words:First-year education, Conversation technique, Communication, Education methods, Seminar
看護系大学入学後の初期段階におけるコミュニケーションスキルを 高める教育方法の検討
− 対話技法の効果に焦点をあてて −
石飛マリコ
1),金山 正子
2),焼山 和憲
1)1)
福岡大学医学部看護学科精神看護学
2)
元福岡大学医学部看護学科基礎看護学
要旨: 本研究の目的は,看護系大学入学後の初期段階における人間関係論の講義の中で,対話技法における 確認の技法を活用したコミュニケーションスキルの獲得を目指したもので,講義・演習での効果を検証することで ある.看護系大学に在籍し人間関係論の演習を受講した 1 年次生 110 名を対象に,演習前後でコミュニケーショ ン行動に関するアンケート調査を実施し検定および質的分析を行った.結果,Mann-Whitney の U 検定で有意 差が認められ,自由記載の分析から自己の振り返りとコミュニケーションスキルの大切さについて理解しているこ とが明らかになった.
教員の役割としては,コミュニケーションに対する成功体験を学生に肯定的にフィードバックし,コミュニケーショ
別刷請求先:〒814-0180 福岡市城南区七隈7丁目45-1 福岡大学医学部看護学科 石飛マリコTEL : 092-801-1011(内線4385) FAX : 092-865-5117 E-mail : [email protected]
は じ め に
コミュニケーションは,看護実践の基盤となる相互関係 を成立,発展させるために必要な技術であり,看護実践に おいてコミュニケーション能力は欠かせない
1).しかし,そ のコミュニケーションが生活環境の変化により希薄となり,
コミュニケーションがとれなかったり,人間としての深いか かわりの体験を味あうことも少なくなっているのが現状で ある
2).そのため,看護学生は,自分自身のコミュニケー ションスキルに自信がないまま実習に臨み,患者とのコミュ ニケーションに悩み患者理解に苦慮している状況も少なく ない.
看護基礎教育においては,望ましい人間関係を構築する 理論を学び,具体的なコミュニケーションスキルを身につけ ることができるよう,模擬患者や盲体験などを活用した学 生同士のロールプレイングによる演習
1), 3)や講義が多く取 り入れられている.看護学生のコミュニケーションスキルに 関する研究では,個人の自我状態とコミュニケーションス キルとの関連
4)において,コミュニケーションスキル低値群 と高値群では,NP (養育的な親の自我状態) ・ A (大人の自 我状態) ・ FC (自由な子供の自我状態)の得点が低く AC (順 応した子供の自我状態)得点が高いといった,自我状態と スキルに有意の差が認められている.また,コミュニケー ションスキルの記号化(自分の意図や感情を正確に伝える スキル)では,解読(相手の意図や感情を正確に読みとる スキル)と正の相関が認められ
5),自分自身を振り返り自分 の性格やコミュニケーションの傾向を看護学生自身が理解 しておくことの必要性が示唆されている.
コミュニケーションは,その場その時の関係性で,雰囲 気や患者の気持ちを感じたり,受けとめたり,言葉の背景 を読みとりながら,物事を判断する流動的な双方向性のや りとりである.そのため,同一内容の双方向性のやりとり の関係性が再び構成されることは稀である.また,コミュ ニケーション技術が獲得されればよいというわけではなく,
その場その時のコミュニケーション場面で,コミュニケー ションスキルを応用していく,コミュニケーション・センス,
技術が必要とされる
2).しかし,臨地実習の場で,学生が 患者との適切なコミュニケーションを行う実践的なスキルを 育成する標準的な技法はまだ解明されていないと言われて いる
4).
先行研究の多くは臨地実習におけるコミュニケーション
スキルの実態調査やコミュニケーションスキルを高めるため に実施した演習の効果を検証した研究がほとんどであり,
短期間でのスキル獲得は不可能であると考えられ,早期か らの学習が必要と思われた.
そこで,今回われわれは,看護系大学入学後の初期段 階における人間関係論の講義の中で,対話技法における 確認の技法を活用したコミュニケーションスキルの獲得を 目指した講義・演習を行い,その効果を検証することを目 的とした.
この調査から,コミュニケーションスキルを高める効果 的な技法を見出す一助になり,看護系大学入学後の初期 段階から実施することで看護学生が臨地実習はもとより将 来看護師となり,看護実践の場での患者との良好なコミュ ニケーションを図ることが可能になると期待できる.
コミュニケーションの語源は,「伝える、分かち合う、あ るいは共有する」という意味のラテン語からきた言葉とされ ている
2).また,コミュニケーションスキルを明確に定義し ている文献はみあたらないが看護のスキル,技能を「自分 の所有する知識を,有効に敏速に用いる能力」と定義され ている
6).コミュニケーションは,知識や技術だけではな く対象である人を理解する姿勢が重要である.理解するた めには人間関係を構築する理論を学ぶことが必要である.
以上から本研究では,コミュニケーションスキルを人間 関係構築における理論に基づいた知識・技法・感性を活 用したコミュニケーション技能と定義する.
研 究 目 的
本研究の目的は,看護系大学入学後の初期段階におけ るコミュニケーションスキルを高める技法の効果を検証する ことである.
研 究 方 法
1.研究デザイン
量的関係探索研究および質的研究を用いたミックス法
2.研究期間
平成 24 年 4 月〜平成 24 年 12 月
3.対象者:看護系大学に在籍している
1 年次生 110 名 対象者は,人間関係論の演習の中で,第1セッション【コ ンスキルのさらなる学習意欲の向上や自信の獲得につなげる必要がある.また,継続したコミュニケーション能力 を向上するための支援が重要である.
キーワード:初年次教育,対話技法,コミュニケーション,教育方法,演習
ミュニケーションの基本フォームの獲得】,第2セッション
【確認の技法の獲得】および第3セッション【コミュニケー ションスキルの獲得】の演習を受けた者である.
1) 演習方法の具体的な内容は以下の通りである.
第1セッション
コミュニケーションの基本フォームの獲得を目的に,
3 人〜4人のメンバーで,話し手と聞き手,および観察 者を構成し,話し手が「昔話」をし,聞き手が聞いた ことの確認をする方法を行う.
第2セッション
確認の技法の獲得を目的に,メンバーのシャッフル 交代で,話し手が,聞き手に「1 週間から 1 ヶ月の間 にあった楽しかった,嬉しかった,辛かった出来事な どを 2 分程度で」話し手の話しの「言ったこと」「言い たいこと」の内容を確認する方法を行う.
第3セッション
コミュニケーションスキルの獲得のまとめとして,聞 き手が SST: Social Skills Training (社会生活技能 訓練)の基本訓練モデルの演習を通して,話し手の言っ たことの確認をする方法を行う.
4.調査内容
調査表は,廣瀬らが作成し妥当性が検証されている「基 本的コミュニケーション尺度」を用いる
7).日常でのコミュ ニケーション行動に関する内容で,『相手にわかりやすい言 葉で伝えていますか』『相手の表情に合わせて、自分の表 情を変えることができますか』などの 26 項目から構成され ている質問内容で,「5 :いつもそうだ」「4 :たいていそうだ」
「3:どちらともいえない」「2:たいていそうでない」「1 :い つもそうでない」のいずれかにあてはまる番号に○をつけ てもらう尺度構成法である.
この調査票は,日常で本人が自然におこなっているコ ミュニケーション行動を評価することができるため,今回 の演習によって,日常でのコミュニケーション行動の変化 を把握することで,コミュニケーションスキルの向上・獲 得を検証できると考えた.研究者が本研究の趣旨を対象 者に文書および口頭にて説明し,アンケート調査用紙提 出を持って了解が得られたと判断する一斉アンケート調査 を行った.アンケート調査は,講義および演習におけるコ ミュニケーションスキルを高める学習の効果を検証するもの で,演習開始の前と終了後 2 回,同様の調査を実施した.
さらに,講義・演習後にどういったことに役立っているか,
どういうことが出来るようになったのか,またどういう変化 があったのかを自由に記載してもらった.
5.分析方法
演習前後のコミュニケーション行動について Mann-
WhitneyのU 検定を行った.アンケート調査の自由記載は,
カード構造化法を用いて質的分析を行い両者を組み合わせ るミックス法で行った.
カード構造化法は,授業の具体的な文脈から発生し,
教師自身の授業を対象化する記述力をもった「研究」のこ とばをどのようにして獲得し,洗練していくかが授業評価 にとって重要な課題であり,その課題に応えることを目的 に開発された教員の授業リフレクションに関する手法であ る
8).カード構造化法の手法を応用し本研究では,精神 看護に精通した 2 名の教員で分析を行った.教員 2 名の うちのひとりはカード構造化法を用いた研究の経験がある.
「人の気持ちが分かる人になってほしい」「コミュニケーショ ンの意味がわかる人になってほしい」を目標におき,自由 記載に記載されていた文言と目標とを照らし合わせて該当 する文言を抽出し,カードを作成した.カードを 2 分割し,
さらに分割し,ひとつのカードの山が 10 枚程度になるまで 分割し,そのまとまりごとに学生の学びに関する見出し語 をつけた.すべてのカードの山の見出し語を付け終わった 後,見出し語間の関係性を検討し抽象度をあげた名前を つけつつ,見出し語間の関連を検討した.
6.倫理的配慮
本研究は研究者の所属する施設の倫理委員会の承認後 に実施した.対象者には,研究者から研究協力依頼時に,
研究趣旨,手続きには書面を用いて口頭で説明し,対象 者へ研究の参加を依頼した.研究への協力は自由意志に 基づくものであること,研究への同意を承諾した後でも途 中辞退は可能であることを口頭および書面で説明した.研 究への協力を拒否しても,成績に影響するなどの不利益を 被ることは一切ないことを説明した.
結 果
対象者 110 名のうち,演習前後のアンケート調査両方に 回答し,有効な回答を得た 100 名(有効回答率 90.0%)を 分析対象とした.
1.演習前後におけるコミュニケーション行動の変化結果
(表
1)コミュニケーション行動を演習の前後で比較した結果
(Mann-Whitney の U 検定),有意差がみられたのは質問 1 「会話では適切な語彙を使うようになった」( p =.006),
質問3「相手にわかりやすい言葉で伝えるようになった」 ( p
=.001),質問4「だれが,いつ,何を,なぜ,どのように したのかなど,具体的に伝えるようになった」(p =.000),
質問 11 「人の話をきくときは,適切なタイミングでうなずけ
るようになった」(p = .021),質問 19 「他者と協力して集
団の課題に取り組むことができるようになった」 (p = .023),
表1 演習前後におけるコミュニケーション行動の変化(Mann-WhitneyのU検定)結果 n=100
質問 24 「人の話を聞いていると自信がもてるようになった」
( p =.031),質問 26 「自分と関係ないことでも,耳を傾け るようになった」( p = .000)であった.
2.カード構造化法による分析結果(図1)
分析の結果 21 の見出し語が抽出された.自由記載から アンケート調査では見いだせなかった以下の内容が明らか になった.
臨床見学実習前の演習であったため,見学実習におい て演習で獲得したコミュニケーションスキルを活用できてい た.また,普段の生活の中でコミュニケーションを通して 自分の良くない部分に気付いた,コミュニケーションに自信 のない自分がみられたのでより以上にできるようになりたい などの自己を振り返ることができるようになっていた.さら に,初対面の人でも緊張しないでコミュニケーションができ る,適切なコミュニケーション技法が心の安らぎになること に気付く,相手に好印象を与えられる,小集団の中で自分
の意見を言ったり,相手の話を聴いたりできる,コミュニケー ション技法が会話に役立つなどのコミュニケーションスキル を獲得し日常のコミュニケーションに肯定的な変化を感じ とり,コミュニケーションスキルを実践することの効果に気 づいていた.最終的に,「TPO に応じてコミュニケーショ ンができる」スキルを獲得していたことが明らかになった.
考 察
1.演習前後のコミュニケーション行動の変化
看護系大学 1 年次生で習得が必要なコミュニケーション は,「身だしなみを整えることができる」「挨拶ができる」
「自己紹介をすることができる」「敬語・丁寧語で話ができ
る」「対象に応じた声の大きさで話すことができる」など社
会の一員としての基本的なコミュニケーション技術であると
述べられている
9).また,コミュニケーションが苦手である
とする学生の特徴として,「自分自身の言葉の量が少ない」
コミュニケーションの意味が分か る人になってほしい 人の 気持ちが分 かる人
になってほしい
日常生活の中で相手の話に 耳を傾けることができる 普段の生活の中でコミュニケ
ーションを通して自分の良 くない部分に気付いた
積極的に相手の話を理 解することができる コミュニケーションに自信のない自
分がみられたのでより以上 にできるようになりたい 意 識 し な い で
会話ができる
TPO
に応じてコミュニケーションが できる
学習を通して相手に配慮したコミュニケーションがで きるようになった
コミュニケーション技法が会話に役立つ
人の 話をしっか り聴く ことができる
適切なコミュニケーション技 法が心の安らぎに なることに気付く
相 手 に 好 印 象 を与えられる 初対 面の人でも 話がで
きるようになっている 傾聴の技法ができ
るようになった
初対面の人でもコミ ュニケーションができる
これまで以上に意識し てコミュニケーションができる 小集 団の中で自 分の意
見を言ったり、相手の話
を聞いたりできる 見学実習で患者と
の適切なコミュニケーション 技法を学んでいた
見学実習でコミュニケーション技法 を用いてコミュニケーション力がつ いた自分に気付いた 相 手 の 話 に 耳
を傾けるコミュニケ ーションができる 初対面の人でも
緊張しないでコミュ ニケーションができる 見学実習で患者との
会話が円滑になった
相手を意識しコミュニ ケーションができる
図1 自由記載分析結果
「言葉が出てこない」など他者との関わりにおいて知識不足 やスキルの未熟さが報告されている
10).現代の若者の特徴 であるメールやチャットでの会話のやりとりでは,最低限 の文章での会話のやりとりである場合が多く,基本的なコ ミュニケーションスキルが乏しくなっている可能性がある.
本研究の質問項目「会話では適切な語彙を使うようになっ た」「相手にわかりやすい言葉で伝えるようになった」「だ れが,いつどこで,何を,なぜ,どのようにしたのかなど,
具体的に伝えるようになった」は,演習前後で変化が見ら れ,演習の効果であると考えられる.3 つのセッションによ る演習において,まず「昔話」を用いた.「昔話」は,主 語や述語が明確でありわかりやすい語彙で表現されてい る.「昔話」での演習によって,適切な語彙を用いるきっか けが得られ,相手にわかりやすい会話の表現方法が身に 付いたのではないかと考えられる.看護の場面で,患者や 家族に説明する際には,専門用語を使わず共通の言葉で 行うことが原則で,患者と家族が分かる言葉を用い丁寧に 説明しなければならない
11).今後,実習の際や看護師とし て患者とコミュニケーションをとるときに本研究の演習の効 果が活かされることが期待される.一方,「目上の人と話す とき,敬語を適切に使うようになった」「話をするとき,内 容に合わせた声の抑揚をつけるようになった」「相手に聞 こえるような,はっきりとした声で話すようになった」など 先行研究
9)で述べられているようなコミュニケーションスキ ルに関しては,変化が認められなかった.今回の演習で は,同クラス内での演習で,日頃から親しんでいる学生同 士での演習であったことから敬語や話の内容に合わせた声 の抑揚などの演習に限界があったのではないかと考えられ る.今後は,コミュニケーション技術を高めるために有効 であるといわれている模擬患者を取り入れた演習も必要で ある
1).
また,現代青年の対人関係の特徴として,人は人,自 分は自分で深い関わりの回避や個人主義であることが述 べられている
12).一方,対人関係を深化させないのは個人 が主体的に望んでいるわけではなく,スキルの欠如に由来 する可能性が考えられ
13),そのため,対人関係において会 話は表面的で集団で群れることにとどまっていると言える.
しかし,演習第 2 セッションで「うなずき」「確認」技法の 演習によって相手の話を聞き,あいずちをうつことまた確 認の技法を用いることで,「人の話をきくときは,適切なタ イミングでうなずけるようになった」「人の話を聞いている と自信をもてるようになった」の項目に変化が認められ,コ ミュニケーションスキルの獲得が促進されたのではないか と考えられる.また,会話において自分が意図的にうなず けるようになり,人の話を聞いているという自信をもてるこ とは他者との関係性を築くことへの自信にもつながるので はかと考えられる.コミュニケーションスキルの獲得の促 進によって表面的な対人関係から,相手のことを思う,ひ
いては患者の気持ちを考えるコミュニケーションが可能に なっていくのではないだろうか.さらに,質問項目「自分と 関係ないことでも,耳を傾けるようになった」においても変 化が認められた.看護における人間関係には,そのときそ の場の自分に気づき,それを受け入れ,他者の存在に気づ き,関わることが重要である
14).自己中心的な会話傾向
14)から他者の存在に気づき耳を傾けるようになったことは大 きな進歩であるといえる.看護における対人関係の場面の 体験が少ない一年次生において,今後の看護実習で学生 側の一方的な患者の情報収集ではなく,まず患者に関心 を向け患者の話に耳を傾けるコミュニケーションが重要で あることを学生に伝えることが必要であると考える.
また,質問項目「他者と協力して集団の課題に取り組む ことができるようになった」に変化が認められた.この質 問項目は『集団への参加』に関する内容である
7).学生同 士が同様の課題に全員が演習に向き合ったことで,集団へ の参加意識が高まったのではないかと考えられる.また,
後述する演習の効果に関する自由記載で「小集団の中で自 分の意見を言ったり,相手の話を聞いたりできる」というよ うな集団への参加に対する自信を学生は述べていた.相 手を意識したコミュニケーションができるようになり,演習 の会話の中でうなずいてもらう体験をすることで自分の話 や意見をしっかりと相手が聞いてくれているという感覚を抱 き,安心して発言できるような雰囲気が生じて学生同士の 関係が深まったとも考えられる.
2.演習による学生の学び ―
自由記載から ―
自由記載をもとにカード構造化法を活用して図 1 を作成 した.
見学実習において演習で獲得したコミュニケーションス キルを活用できていた.初めての実習であり,患者と何を 話したらよいのか,どのように会話をしたらよいのか不安 を抱いていたと思われるが,演習で獲得したスキルを実際 に患者との会話で実践し,コミュニケーションが上手くとれ た体験ができていた.そのことにより,学生はコミュニケー ションスキルの大切さをあらためて感じたのではないだろう か.教員は,患者とのコミュニケーションに対する成功体 験を学生に肯定的にフィードバックし,コミュニケーション スキルのさらなる学習意欲の向上や自信の獲得につなげる 必要があると考える.また,普段の生活の中でコミュニケー ションを通して自分の良くない部分に気付いた,コミュニ ケーションに自信のない自分がみられたのでより以上にで きるようになりたいなどの自己を振り返ることができるよう になっていた.自己を振り返ることは自己理解につながる.
自己理解を深めることがコミュニケーションスキルの向上に
繋がると述べていると報告されており
4),本研究では意図
的に自己を振り返るような教員の関わりはしていなかった
が学生自らがコミュニケーションの体験を振り返っていた.
教員は,演習を行うとともに学生自身が自己のコミュニケー ションスキルの課題を把握できるように支援することが必 要である.看護のコミュニケーション能力は,反応力でな ければならず患者の反応を受け止め何らかの行動を生み出 すことが重要である
2).そのような反応力としてのコミュニ ケーション能力とするためにはただ「わかった」で終わらず 自分の能力不足を理解し,目標を明確化し,自分の行動 視点を追加修正して再び行動するというようなフィードバッ クが大切である
2).学生個々の系統的なシートを作成して コミュニケーションスキルの学習プロセスを明確にしていく ことも重要であると考えられる.今回は看護系大学入学後 の初期段階にある一年次生を対象にし,演習による効果 を検討しているが一時的な効果である可能性がある.看護 大学生におけるコミュニケーションに関する教育は学生に あった段階的な教育方法を検討する必要性があり
15),今 後も大学 4 年間で継続してコミュニケーション能力を向上 するための支援が重要であると考えられた.一方,自己を 振り返ることでコミュニケーションスキルの乏しさを感じて 自信を失うことも考えられる.振り返りを通して,学生にど のような体験が生じているのかを明らかにし、支援をする ことも必要である.
さらに,初対面の人でも緊張しないでコミュニケーショ ンができるという記載があった.先行研究では,対人関 係で「自ら話しかける」「初対面の人と話すのが苦にならな い」というアサーティブな側面が低いと報告されている
16). コミュニケーションスキルの獲得によって,自ら話しかける ことに躊躇せず,相手に好印象を与えられる体験ができて いた.コミュニケーション技法が会話に役立つなどの有効 なコミュニケーションスキルを実践することの効果に気づい ていた.以上から,演習の効果として TPO に応じたコミュ ニケーションができるようになったことが示唆された.また,
学生との日常会話の場面でも学生のコミュニケーションスキ ルの変化に教員が注目し,肯定的な関わりを持つことが重 要であると考える.
本研究の限界と課題
本研究の対象者は,一つの看護系大学の学生で限られ た対象でコミュニケーションスキルは個人差があるため今 後対象者を増やし検討する必要がある.また,演習の前 後でアンケートを実施したがコミュニケーションスキルが変 化しなかった要因を検討することが必要である.今回の結 果は,一時的な結果である可能性がある.コミュニケーショ ンスキルの獲得に関する学習の支援を継続して行い,学び を積み上げていく教育方法を検討することが課題である.
結 語
1.演習前後におけるコミュニケーション行動では,適切な 語彙を使うこと,わかりやすい言葉で伝えること,具 体的に伝えること,適切なタイミングでうなずける,他 者と協力すること,人の話を聞いているという自信がも てる,自分と関係ないことでも耳を傾けることの 7 項目 で有意な変化が認められた.
2.演習で獲得したコミュニケーションスキルを実践するこ とを通して自己の振り返りとコミュニケーションスキルの 大切さについて理解していることが明らかになった.
引 用 文 献
1) 堀美紀子,松村千鶴,淘江七海子 : 模擬患者を導入
したコミュニケーションスキルトレーニングの学習効果.
香川県立医療短期大学紀要 5: 105-114,2003.
2) 大森武子,大下静香,矢口みどり : 仲間とみがく看護
のコミュニケーション・センス,医歯薬出版(東京),
2010.
3) 津田智子,中野栄子:コミュニケーション技術の教育
方法に関する研究.鹿児島大学医学部保健学科紀要 11: 31-35,2000.
4) 中村小百合,足立はるゑ,天野瑞枝,盛田麻己子,柴
山健三:看護学生のコミュニケーションスキル育成に関 する研究(第 1 報)−コミュニケーションスキルと自我 状態との関連−.日本看護医療学会雑誌 9: 18-26,
2007.
5) 阿部智美:患者とのコミュニケーションにおける看護学
生の自己効力感−実習経験、コミュニケーションスキル、
一般性自己効力感との関連から−.宮城大学看護学部 紀要 11: 43-48,2008.
6) トラベルビー 訳者代表 : 長谷川浩 : 人間対人間の看
護.医学書院(東京),2010.
7) 廣瀬春次,太田友子,井上真奈美,中村仁志 : 看護学
生のコミュニケーション行動に関する研究.山口県立大 学学術情報 4: 47-53,2011.
8) 浅田匡,生田孝至,藤岡完治 : 成長する教師−教師学
への誘い 金子書房(東京), 1998.
9) 上田ゆみ子,渡邉順子 : 看護学士課程におけるコミュ
ニケーション技術に関する研究.日本看護学教育学会 誌 22: 1-12,2012.
10) 酒井美子 : コミュニケーションが苦手な看護学生の対人
関係の特性から教育的支援を考える.群馬県立県民健 康科学大学紀要 5: 103-114,2010.
11) 渡部富栄:対人コミュニケーション入門 看護のパワー
アップにつながる理論と技術,pp.9,ライフサポート社
(神奈川),2011.
12) 橋本剛 : 現代青年の対人関係についての探索的研究−
女子学生の面接データから−.名古屋大學教育學部紀 要(心理学) 44: 207-219,1997.
13) 橋本剛 : 大学生における対人ストレスイベントと社会的
スキル・対人方略の関連.教育心理学研究 48: 94- 102,2000.
14) 足立美和,小笠原大輔,松本佳子 : 看護教育におけ
る「人間関係論」の教育方法−学生の学びを手がか りにして−.川崎市立看護短期大学紀要 13: 49-62,
2008.
15) 上野栄一,一ノ山隆司,明神一浩,上平悦子:看護学
生の段階別コミュニケーション能力評価尺度からみた 看護大学生のコミュニケーションの特徴.日本看護研 究学会雑誌 32: 217,2009.
16) 森千鶴,西村明子,佐藤みつ子: 看護系大学生のコミュ
ニケーション能力と対人関係との関連.看護教育研究 学会誌 1: 27-33,2009.
(平成25.1.10受付,平成25.4.1受理)