• 検索結果がありません。

公的年金制度改革  及び税制改革における夫婦像

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "公的年金制度改革  及び税制改革における夫婦像"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

公的年金制度改革   及び税制改革における夫婦像

法経論集第63弩

根 本

は じ め に

 性差別の多くは︑男女の役割に関する伝統的な観念11性ステレオタイプを前提とするものであった︒その代表

は﹁パンを稼ぐ男性︵夫︶;家庭を守る女性︵妻ごであろう︒そして︑法律家は︑この考え方自体が︑憲法の

男女平等の要求に反するとは考えなかった︒それゆえ︑性差別のうち︑女性に対する保護的な取り扱いはー妊

娠︑出産以外の領域においても︑憲法違反ではなく︑むしろ︑弱者である女性にとって望ましいものとみなされ

た︒これらの例として︑労働法上の女子に対する厚い保護規定や男子のみの徴兵制をあげることができる︒

 しかし︑いまや︑この考え方はとられていない︒性にもとつく役割分業論そのものが男女平等の要求に反する

と認められるに至った︒男性か女性かというその人にとっては︑いかんともしがたい偶然によって︑その入の生

き方ーライフスタイルが決定されるのは不合理だというのである︒この変化には︑従来の役割分業からはみだし

(2)

論 た多くの男女の出現が貢献したことはいうまでもない︒  アメリカ合衆国では︑陪審員となる義務が女牲は容易に免除される︵その結果︑陪審員は︑全員または大半が

男性となる︶という性差別の合憲性が争われたが︑これに関して︑連邦最高裁判所が下した二つの判決が︑この

変化を如実に示している︒

 すなわち・一九六一年のホイト判決駕N ﹁女性は・なお・家庭と家族生活の中心である﹂と述べて︑女性の家        ︵2> 庭責任を理由とする陪審員義務の免除の合憲性を支持したが︑︼九七五年のテイラー判決では︑ほぼ同旨の事案

について︑正反対の結論に達した︒そして︑その理由づけにおいて︑女性︑とりわけ子どもをもっている女性で

さえ︑多くが勤労しているという統計を引いて︑これらの統計は﹁きっと︑すべての女性は︑その性及び家庭内

の仮定的な役割にのみもとついて︑陪審員の職務から免除されるべきであるという示唆をやめさせるのに力を貸

すであろう﹂と述べた︒

 この変化は︑また︑国際労働機関︵ILO︶の二つの勧告・条約にもみてとれる︒ILOは︑一九六五年に﹁家

庭責任をもつ女子の雇用に関する勧告﹂を採択したが︑これは︑タイトルからも想像できるように︑家事︒育児

の第一の担い手は女性であることを前提としたうえで︑いわば︑対症的な問題解決を試みたものであった︒それ

に対して︑一九八一年の﹁家庭責任をもつ労働者の機会と待遇の平等に関する条約﹂では︑性にもとつく役割分

業論そのものをやめることを宣言し︑男女を問わず︑家庭責任と労働との調和を模索するものであった︒

 さて︑わが国では︑最近公的年金制度と税制において︑大きな改革が実施された︒性差別の撤廃をライフスタ

イルの自由の確保ととらえるとき︑二つの制度改革は︑これに対してどう影響するかを探ろうというのが本稿の

目的である︒私は︑性ステレオタイプの中核は︑﹁パンを稼ぐ男性︵夫︶1家庭を守る女性︵妻︶﹂であると考え

ω

(3)

るので︑共働き世帯と片働き世帯の比較を中心にする︒

 私は︑本稿において︑伝統的なライフスタイルである片働きは誤りで共働きは進んでいると主張するつもりは

ない︒それは︑当事者の選択の問題である︒大切なのは︑その選択の自由を最大限尊重することである︒説得的

な理由もないのに︑共働き世帯と片働き世帯の片方だけを優遇または冷遇し︑その結果として︑選択の幅を狭め

ることは避けなければならない︒

 本論にはいるまえに︑わが国における︑片働きと共働きの勢力図をみておくのが有用かもしれない︒

 ﹁就業構造基本統計調査﹂︵一九八七︶によると︑世帯主に配偶者がある世帯は︑全国で︑二︑七=一万世帯あ

るが︑このうち︑共働きは︼︑二九三万世帯︑片働きは一︑一五六万世帯となっており︑共働き世帯が優勢であ

る︒︵ほかに︑夫婦とも無業の世帯が二六三万世帯ある︶

 また︑世帯主が雇用者︵サラリーマン︶である世帯に限ってみると︑一︑八三一万世帯中︑共働きは八八八万

世帯︑片働きは九四三万世帯となっており︑勢力比は逆転するが︑依然︑共働き世帯は大きな勢力である︒さら

に︑共働き世帯のうち︑配偶者も常勤の雇用者︵フルタイマ←である世帯は︑四=一万世帯であり・配偶者が

パートタイマー︒アルバイトの雇用者である世帯は三︸九万世帯︵税制上︑パートタイマーに準じた扱いをうけ

る内馨を加︑託ば三七八万世帯となる︶となっている︵なお︑配偶者が農禁産業の雇用者である共働き世帯

が六万世帯あるが︑雇用形態が明・りかにされていないので︑ここでは除いた︶︒大ざっぱにみて・サラリ←ン世

帯の半数近くは共働きであり︑そのまた半数近くはフルタイマーの共働き世帯である︒

 ω 麟◎讐タ羅o円鶯ρω①︒︒ご゜ω宕︵おOご纂

 ② ↓醸ざ吋ダピo鼠ω寅欝矯霞⑩⇔Dω゜詔籍︒︵一⑩胡︶°

法経論集第63号

61

(4)

説 論 公的年金制度改革

 公的年金制度改革は︑その中核となる﹁国民年金法等の一部を改正する法律﹂が︑ 一九八五年春成立し︑翌一

九八六年四月から実施された︒この改革の主要な内容は二点であって︑基礎年金の導入と給付水準の引き下げで

ある︒  基礎年金は︑ここでの関心に限定していえば︑厚生︵共済︶年金加入者の被扶養者である配偶者に︑付加的な

年金保険料負担なしで︑月額五万円︵加入四〇年の場合︶の年金給付を行なうものであった︒それまで︑これら

の者は︑別に国民年金に加入する︵保険料は自己負担︶か︑厚生︵共済︶年金加入者の加給年金︵月額一万五千

円︶として考慮されるのみだった︒

 一方︑給付水準については︑次のようにした︒厚生年金は︑報酬比例部分と定額部分とから成るが︑この改革

では︑報酬比例部分の計算方法︵乗率︶を千分の十から千分の七・五に改めた︒また︑定額部分については︑単

価を二︑四〇〇円から一︑二五〇円に改めた︵年金額やその単価については︑制度改正前後の比較を明確にする

ため︑一九八五年度の価格によっている︒その後の物価スライドにより︑現在は若干改善されている︶︒そして︑

この定額部分については︑国民年金の基礎年金として支給することになった︒︿ただし︑基礎年金は六五・歳支給開

始なので︑六〇歳から六四歳までは︑特別支給の厚生年金とし︑同額を支給する︶

 ここに︑標準報酬月額が二七万円で四〇年加入の者がいるとしよう︒この者の年金額は︑旧制度では︑報酬比        ︵3︶ 例部分が一〇万八千円︵二七万円×千分の十×四〇︶︑定額部分が九万六千円︵一一︑四〇〇円×四〇︶の合計二

(5)

○万四千円︵月額︶だった︒しかし︑新制度では︑報酬比例部分︵厚生年金︶が八万一千円︵二七万円×千分の

七︒五×四〇︶︑定額部分︵基礎年金︶が五万円︵一︑二五〇円×四〇︶の合計=二万一千円にとどまる︒トータ

ルでみると三六%弱の引き下げである︒

 ところで︑この者に扶養配偶者がいれば︑配偶者は︑付加的な保険料を支払うことなしに︑六五歳から基礎年

金が支給されることになるから︑この分を加えると︑年金額は一八万一千円となり︑引き下げ率は一七%強と大

幅に圧縮される︒︵なお︑旧制度におけるこの場合の年金額は︑前述の二〇万四千円に配偶者の加給年金一万五千

円を加えた二一万九千円となる﹀

 このように概観しただけでも︑この公的年金制度改革は︑片働き世帯には比較的影響が小さかったことがうか

がえるが︑以下において︑少しくわしく検討してみよう︒

 初めに︑試算の前提を示さなければならない︒ここでは︑直近の統計の小数点以下を四捨五入し︑夫婦の年齢

差は三歳︑夫は七六歳︑妻は八︸歳でそれぞれ死亡するものとする︒また︑厳密に考えれば︑遺族年金や障害年

金も含めた影響を検討すべきであろうが︑計算を簡単にするため︑老齢年金と老齢年金受給者の死亡による遺族

年金に問題を限定する︒女子については︑六〇歳以前の支給開始が認められているが︑この差別は︑現在では存

在理由の乏しいものであり︑実際にも解消の方向にあるので︑男女とも六〇歳支給開始を前提とする︒

 まず︑共働き世帯から問題をながめてみよう︒制度改革実施時である一九八六年春における標準報酬月額の平

均により︑夫の標準報酬月額を二七万円︑妻のそれを一五万円とする︒この共働き世帯の年金額ぼ・図1のよう

になる︒妻の年金受給が始まってから夫が死亡するまでの期間についてみると︑改正前の月額三六万円から︑二

二万六千円に切り下げられることになり︑実に三七%強のダウンである︒年金支給総額でみても・三六%強の引

法経論集第63号

(6)

論  説

図1

夫 渡妻

60歳

老齢摩生年金 20.4万円

76歳

老齢厚生年金 15.6万円

        60歳      81歳

世帯年金倒鴛;一一一36−−1−・5・6−i

     6◎歳      76歳       厚生年金特劉 老齢厚生年金 8・1万円     夫

      支給13・1万円  基礎年金  5万円   新制度

         厚生年金特別    基礎年金 5万円

    妻 支給9・5iEB老翻年鋤万円遺族厚生年金6』筋円         60歳       81歳

世帯年金倒繋}一一22・6−一一i一ユ1・・75−1

図2

度妻 制 旧

歳      76歳

加給年金 L5万

老齢厚生年金 20.4万円

遺族摩生年金102万円

      73歳      81歳

齢年金倒一一一一21・9−−1−・L7−−1

     60歳      76歳

    夫厚生輔別老鵬生盤8・1万円

      支給13・1朋 基礎年金5万円   新制度

       基礎年金 5万円

    i妻      65歳      遺族厚生年金6.075万門

       81歳 齢年鎌}−13・1−1−18.1−一勘1−11.・75 ・・ ・一 一・ 一 iiep・1

年金総額  7、848万円

5,060.4

 万円

年金総額  5,328万円

4,058。4

 万円

64

(7)

き下げとなっている︒

 次に︑片働き世帯についてみよう︒まず︑夫の標準

報酬月額を共働き世帯の夫と同じ二七万円と仮定す

る︒この世帯の年金額は︑図2のようになる︒妻の基

礎年金受給が始まってから夫死亡までの期間を比較す

ると︑月額二一万九千円が 八万一千円に引き下げら

れたことになり︑引き下げ率は一七%強となる︒年金

支給総額でみると︑二四%弱のダウンとなっている︒

 さらに︑世帯収入が共働き世帯と同じと仮定して︑

夫の標準報酬月額が四二万円の片働き世帯について検

討してみよう︒この世⁝帯の年金額は図3のようになる︒

妻の基礎年金受給開始から夫死亡までの期間では︑月

額二七万九千円が一一二万六千円に引き下げられたこと

になり︑引き下げ率は一九%弱である︒年金支給総額

でみると︑二二%強のダウンとなる︒

 以上の試算から︑一九八六年に実施された制度改革

は︑共働き世帯にとって厳しいものであったという結

論が一応出せそうである︒ただ︑この試算は︑制度改 円

年金総額  6,768万円

0歳       76歳

加給年金 L5万

老齢厚生年金26.4万円

遺族厚生年金13.2万円

図3 6

  夫

旧制度

       73歳

27・9−一一一一i−14.7

       76歳

81歳

一一

P

5,246.4   万円

蹄盤劉魂

     60歳

老齢厚生年金12.6万円 基礎年金 5万円

厚生年金特別 支給17.6万円

基礎年金 5万円

遺族厚生年金9.45万円

・…

P・・ssgt

22.6 申 14.45→

17.6

  新制度       妻

蹄輸額ト

法経論集第63号

(8)

説 論

革前後のある世帯の無金額の比較にすぎないのであって︑同時期における共働き世帯と片働き世帯の年金額の比

較もしてみる必要がある︒旧制度では共働き世帯が著しく優遇されていたのが是正されただけ︑ということも論

理的にはあり得るからである︒

 そこで・次に支払い保険料も加味しながら︑この作業にとりかかろう︒年金保険料は︑標準報酬月額に比例す

るので︑共働き世帯の保険料負担は︑夫の標準報酬月額が四二万円の片働き世帯と同じであり︑夫の標準報酬月

額が二七万円の片働き世帯より︑五六%弱多いことになる︒︵なお︑年金保険料についても︑女子は一定の優遇措

置が認められてきたが︑これもまた理由なき差別でかり︑現在︑解消の方向にあるので︑男子と同じとして計算

する︒もし︑女子に対する︑年金支給開始年齢や年金保険料の優遇措置を前提として試算すれば︑制度改革の共

働き世⁝帯への打撃は︑もっと大きかったことになる︶

 豪ず︑世帯としての年金保険料が同じである片働き世帯と共働き世帯とを比べてみよう︵図1及び図3︶︒旧制

度では︑共働き世帯は︑片働き世帯に比べて︑一六%弱年金支給総額が多く︑共働き世帯を優遇しすぎているき

らいがある︒しかし︑制度改革後では︑この関係が逆転し︑四%弱ではあるが︑片働き世帯のほうが多くなって

いる︒  今度は︑夫の標準報酬月額が同じである共働き世帯と片働き世帯とを比べてみよう︵図1及び図2︶︒旧制度で

は︑共働き世帯の年金支給総額は︑片働き世帯に比べて︑四七%強多く︑ほぼ保険料負担の割合とつりあってい

る︒しかし︑制度改革後では︑この比率は︑二五%弱となり︑保険料負担を勘案すると︑共働き世帯にはかなり

不利なしくみになっている︒

 このバランスシートは︑主に︑妻の遺族厚生年金受給期間の長短に左右される︒共働き世帯では︑この期間に︑

(9)

夫死亡による遺族厚生年金と妻本人の老齢厚生年金が︑いわば︑ダブってしまい︵両方は受給できず︑一方のみ

選択できる︶︑妻の働きが生きてこないのである︒したがって︑この期間が短いモデル︵夫婦の年齢差や平均寿命

の差が小さい︶を作れば︑共働き世帯が比較的有利になり︑その反対のモデルでは︑共働き世帯が比較的不利に

なる︒  少しわき道にそれたが︑結局︑さきほど一応出した結論は動かないことになる︒すなわち︑保険料負担を勘案

するとほぼつりあいがとれていた片働き世帯と共働き世帯の年金額が︑制度改革によって︑共働き世帯に厳しい

結果となった︒夫の標準報酬月額が四二万円という高所得者を想定すると︑今述べたことはあてはまらないが︑

このケースでも︑制度改革後において︑四%弱ではあるが︑共働き世⁝帯の年金額が少ないことが注目される︒

 なお︑現在⁝提案されている厚生年金の支給開始年齢引き上げが実現すると︑共働き世帯の不利は一層明らかに

なる︵年金の支給開始年齢が国民年金と同じになるので︑妻の就労の効果が︑なお失われる︶が︑参議院におけ

る与野党逆転という政治情勢を考慮して︑現行制度で記述した︒

③ 旧制度においては︑定額部分について︑加入期間が長いときでも︑年金額の計算については︑三五年をもって頭

 打ちとするという規定があったが︑ここでは︑比較のため︑加入期問に応じて計算する︒ここでの主要な関心は︑

 公的年金制度における共働きと片働きの損得勘定である︒本来ならば︑一年︵または一月︶の保険料納付がどう年

 金支給に結びつくかを検討すればよいが︑それでは︑現実性がうすく話がわかりにくいと考え︑一応︑現在モデル

 としてよく用いられている四〇年加入の場合を使った次第である︒

法経論集第63号

67

(10)

説 論 税 制 改 革

 所得税・住民税制の改革の概要は︑次のとおりである︒

 政府は︑一九八七年春︑売上税法案と抱きあわせで︑所得税・住民税の減税法案を国会に提出したが︑同年四

月の売上税法案の廃案により︑間接税とは一応きりはなして︑同年八月︑部分的な手直しを行なった︒政府は︑

売上税にかわる間接税として︑消費税導入をはかり︑翌一九八八年一二月︑これを成立せしめたが︑その際︑所

得税・住民税の抜本的な改革も行なった︒

 この一連の所得税・住民税制改革のポイントは︑通欝の給与所得者︵サラリーマン︶に⁝関していえば︑二点で

ある︒  第一は︑配偶者特別控除の新設である︒一九八六年までの税制においては︑扶養配偶者について︑基礎控除と

同額︵所得税三三万円︑住民税二六万円︶の所得控除が認められていたが︑この配偶者控除とは別に︵それに加

えて︶︑配偶者特別控除が導入されたのである︒この配偶者特別控除は︑扶養配偶者のうちで所得のない者に適用

し︑所得がある扶養配偶者については︑所得額に応じて︑控除額を増減させることになっていた︒扶養配偶者で

はない配偶者についても︑所得が少ない者には︑適用していた︵くわしくは︑表5をみよ︶︒また︑配偶者特別控

除の額は︑制度改革完了時の一九八九年度︵住民税については一九九〇年度︶以降において︑基礎控除と同額︵基

礎控除も引き上げられたので︑所得税三五万円︑住民税三〇万円︶であり︑途中年度においては︑その半額程度

であった︒

(11)

 配偶者特別控除新設の理由は︑自営業者と異なり︑所得分割が事実上不可能な給与所得者の配偶者︵多くは主

婦︶の﹁内助の功﹂に報いるためであると説明された︒

 その二は︑税率のフラット化︑いいかえれば︑累進税率の緩和である︒︵図4参照︶

 まず︑所得税についてみると︑給与所得者の大半が含まれる課税所得三〇〇万円︵標準世帯では︑給与所得七

〇〇万円程度︶までは︑旧制度において︑〜○・五%から一七%までの四段階だったのが︑一律一〇%の税率と

なった︒課税所得三〇〇万円超についても︑大幅に緩和された︒住民税についても︑所得税ほどではないが︑税

率が︑相当フラット化されたことがわかる︒

 さて︑次に︑この所得税︒住民税制改革が片働き世帯と共働き世帯にどのような影響を与えたかの試算にとり

かかろう︒初めに︑試算の前提を示さなければならない︒

 まず︑社会保険料をどうみるかである︒政府の試算では︑給与所得五〇〇万円までは七%︑五〇〇万円をこえ

一〇〇〇万円までは二%と仮定している︒一方︑﹁家計調査﹂から推定すると︑五〇〇万円程度までは七%台半ば・

それをこえる部分︵八〇〇万円程度藤で︶については︑四%前後と思われる︒ここでは︑計算を簡単にするため︑

給与所得八〇〇万円まで︑一律︑七銘として計算する︒

 次は︑個人住民税均等割である︒政府の試算ではこれを含めていない︒住んでいる都市の規模によって税額が

異なるからであろう︒ここでは︑人口五〇万人以上の大都市を想定して︑三︑二〇〇円とする︒

 おそらく一番やっかいなのが︑共働き世帯の収入比率であろう︒これについては︑政府の三・三対⁝とするも

のから︑男女平等の理念から一対一とするものまで︑さまざまな数字が出ている︒共働きとひとくちにいっても・

夫婦ともフルタイマーなのか︑片方はパートタイマーなのかは︑税制上重要な相違点なので︑両方をこちゃまぜ

法経論集第63号

(12)

論  説

図4 所得税・住民税率の推移

所得税

 点線は改革前  実線は改革後

1◎%

税率

   25%1−』卿軸鱒暢鱒 一』齢讐『⇔…蜘働,輪學 鱒噛圏鞭範 一 鱒,

      i

r鴨・一噂 儀・盤藺岬鱒一髄幽一

課税所得 100万 20◎万 3◎0万 400万 5◎0万

{主民税

点線は改革前  実線は改革後

5%

税率

課税所得  10◎万 200万 300万 400万 500万

70

(13)

にした数字︵たとえば︑政府の三︒三対一など︶は適切ではないだろう︒ここでは︑夫婦ともフルタイマーの共

働き世帯について検討し︑片方がパートタイマーの共働き世帯については項を改めて論じたい︒その場合でも︑

夫婦の収入比率が一対一というのは︑いささか現実離れしているように思える︒﹁全国消費実態調査﹂︵一九八四︶

によると︑夫婦ともフルタイマあ共働き幕の収入比率は・丁七対複度と推測され華

 これらの点を総合して︑共働き世帯の収入比率を︑ここでは︑ ㎝・五対一と仮定する︒

 また︑今回の制度改革では︑ 一六歳からニニ歳までの特定扶養親族に対する扶養控除め割増制度︵いわゆる教

育控除︑所得税一〇万円︑住民税五万円︶が新設されたが︑これについては︑適用がない場合を基本に試算し︑

必要に応じて︑適用がある場合に論及する︒

 なお︑従来︑その減税がどの階層に大きな恩恵をもたらすかを評価する基準として︑減税率という観念が使わ

れている︒これは︑旧税額と新税額とを比較して︑その減少の割合をいう︒たとえば︑旧税制では納税額が一〇

万円だった者が︑新税制において五万円となれば︑減税率は五〇%となる︒この考え方は少しおかしい︒早い話

が︑納税額がきわめて多い者は︑ 一〇%の減税率でも非常に歓迎するだろうし︑納税額が少ない者にとっては︑

一〇〇%の減税率でも興味ないだろう︒極端な例をあげるが︑所得税額一〇〇〇円の納税者の多くは︑今回の減

税で非課税となったが︑減税率一〇〇%をありがたがるだろうか︒

 このことは︑今回のように︑減税が︑間接税の増税とだきあわせで実施された場合には︑より一層あてはまる︒

額はわずかでも減税率一〇〇%に感激した低所得層は︑税率が一律である間接税の打撃で涙を流すのである︒私

は︑減税がどの所得階層を重視したものかは減税率ではなく︑減税額が︑所得または可処分所得に対してどのく

らいの比率にあるか;これも︑ある意味では減税率といえるがーによって評価すべきではないかと考えてい

法経論集第63号

(14)

怨ム毒醸

る︒可処分所得を分母にとれぼ︑減税が可処分所得のどのくらいの増加をもたらすかを意味することになり︑生

活者の実感ともいくらか一致するのではなかろうか︒

 だいぶ前置きが長くなったが︑以上の前提で税制改革の影響を試算した結果を表に示した︒表1がまとめであ

り︑よりくわしい数字は表2から表3にある︒

 この比較から二つのことが読みとれよう︒

 第一は︑今回の制度改革が比較的高額所得者により大きな恩恵をもたらしたことである︒このことは︑再三指

摘されてきた点であり︑ここでの関心とは直接関係ないのでこれ以上立ち入らない︒

 もうひとつは︑片働き世帯を共働き世帯より著しく優遇していることである︒まず︑世帯年収を同じくする両

者を比べてみよう︒中堅所得層で︑可処分所得の増加率は︑片働き世⁝帯が共働き世帯の約三倍となっている︒ま

た︑低所得層の共働き世帯には今回の減税の効果はほとんどないが︑片働き世帯には︑それなりの効果が認めら

れる︒次に主たる稼得者の収入に着目して比較してみよう︒世帯年収に着目した場合に比べて︑かなり格差はち

ぢまるが︑なお︑可処分所得の⁝増加率は︑片働き世帯め方が︑相当高くなっている︒

 このような共働ぎ世帯と片働き世帯との格差の原因は明らかである︒

 初めに︑所得税・住民税制改革のポイントは二点あると書いたが︑そのこ点が︑共働き世帯にはあまり関係の

ないものだからある︒配偶者特別控除が共働き世帯にほとんど無縁であることは説明するまでもないが︑税率の

フラット化もまた︑たいした恩恵となっていない︒共働き世帯は︑もともと︑夫婦で所得がある程度分割されて

いたので︑高い税率が適用されていたのはよほどの高所得層だけである︒多くの共働き世帯に影響を与える最低

税率は︑ほとんど引き下げられていないのである︒︵図4参照︶

(15)

      表1 所得税・住民税制改革による可処分所得増加率

世帯年収基準 主たる稼得者の年収基準 年  収

片働き 共働き 片働き 共働き

(参考)

ニ身者

300万円 S00万円 T00万円 U00万円 V00万円 W00万円

2.47%

Q.91%

R.48%

S.18%

T.28%

T.47%

0.52%

O.59%

O.95%

P.41%

P.71%

k99%

2.47%

Q.91%

R.48%

S.18%

0.95%

k61%

Q.17%

Q.99%

1.65%

Q.40%

R.61%

R.80%

夫婦と子ども2人の4人世帯で、教育控除はなし、共働き世帯の収入比率は1.5 対1とする。

表2 標準世帯(片働き、子ども2人)の新旧税額等の比較

新制度(教育控除なし〉 新制度(教育控除1人)

旧制度税額

税  額 可処分所得

掾@加 率 税  額 掾@加 率 可処分所得

300万円 81,325 14,450 2.47% 1L950 2.56%

400万円 2ユ8,950 116,950 2.91% 104,450 3.27男

500万円 397,250 249,200 3.48% 234,200 3.83%

600万円 603,150 395,200 4.18% 380,200 4.48%

700万円 859,650 561,200 5.28% 546,200 5.55%

800万円 1,150,6GO 806,700 5.47% 781,70◎ 5.87%

73 法経論集第63号

(16)

説 論  こうしてみると︑この税制改革は︑共働き世帯にとって︑ほと んどメリットのないものであったと結論づけられる︒このことは︑較       比 所得税・住民税減税が︑一律三%の消費税とセットで実施されたの       等 ことを思い出すとき︑ 一層強く感じられる︒      額       税  ところで︑公的年金制度改革のところでやったように︑同時期旧        新 における共働き世帯と片働き世帯との比較をしてみると︑奇妙なの

ことが発生しているのがわかる・それは・片働き世帯と共働き世幻         帯の税額の逆転現象である︒従来の税制においては︑世帯年収を嵩       子 同じくする片働き世帯と共働き世帯とでは︑例外なく︑片働き世       L 帯の税額が多かった︒しかし︑今回の制度改革により︑共働き世対       5 帯の税額が多くなる事例がかなり広くみられるようになった︒配靭        ヒ 偶者特別控除の新設と税率のフラット化がもたらした矛盾の象徴母 といえよう・       倣

表4からわかるように︑幕年収四五〇万円以下では・共働き騰        き 世帯め税額が多くなっており︑所得税だけに限定すれば︑世帯年働        共 収五〇〇万円でもこの逆転現象はみられる︵住民税では︑配偶者       ヨ 特別控除が所得税におけるより五万円少ないことと課税所得一二表

○万円で税率が五%から一〇%にアップすることにより︑逆転現

新制度(教育控除なし) 新制度(教育控除工人)

世帯年収 旧制度税額

税  額 可処分所得

掾@加 率 税  額 騨盆礫

300万円 47,685 33550 0.52% 21,050 0.97%

4⑪0万円 153,645 132,45◎ o.59% 119,95G G.94%

500万円 267,800 226,200 G.95% 213,700 1.23%

600万円 400,200 326,850 1.41% 311,850 1.71%

700万円 558,720 457,200 1.71% 4荏2,200 1.96%

800万円 728,860 595,200 L99% 580,200 2.22%

900万円 926,380 739,200 2.51% 724,200 2.72%

1000万円 1,129,250 885,200 2.99% 870,200 3.17%

(17)

表4 片働き世帯及び共働き慢帯の税額の比較

片 働 き 世帯 共働き世帯(収入比率1,5対1) 共働き世帯(収入比率1対1)

世帯

N収 所得税 住民税 合 計 所得税 住民税 合 計 所得税 住民税 合 計

300万円 S00万円 S50万円 T00万円 U00万円

      0

U7,500 P0填,000 P4G,5◎0 Q13,500

14,450 S9,450 V2,200 P08,700 P81,700

14,450 P16,950 P76,200 Q49,200 R95,200

16,900 V9,500 P10,500 P42,000 Q08,000

16,650 T2,950 U8,450 W4,200 P18,850

33,550 P32,450

、78,950 Q26,200 R26,850

19,000 V9,000 P10,500 P42,000 Q05,000

22,7◎0

T2,700 U8,450 W4,200 P15,700

41,70◎

P31,70G P78,950 Q26,20◎

R20,700

表5 配偶者がパートタイマ…一である者の配偶者控除及び    配偶者特別控除の合計額

旧 制   度 制   度

年  収

所得税 住民税 所得税 住民税

60万円 70万円 60万円

70万円 60万円 50万円

33万円 26万円

80万円 50万円 45万円

90万円 40万円 35万円

95万円 35万円 30万円

100万円 30万円 25万円

110万円 0 0 20万円 15万円

工20万円 10万円 10万円

130万円 0 0

75 法経論集第63号

(18)

隠瓜 爵狂1

象はいくらか限られたものになっている︶︒

 この逆転現象は明らかに不合理である︒       ︵5︶  所得が同じである者は︑同じ税額を払うべきであるという原則は︑一応承認されよう︒しかし︑収入が同じで

ある片働き世帯と共働き世帯とでは︑通常は︑所得は同じではない︒共働き世帯のほうが労働による心身の消耗

の度合いが大きいから︑その回復のための経費も余計かかるのが普通だろうし︑おそらく多くの場合︑家事サー       ︵6︶ ビスや保育のための費用も必要となってこよう︒これらは︑共働きのための﹁必要経費﹂である︒そうすると︑

収入を同じくする両者では︑共働き世帯のほうが︑必要経費を差引いた所得は少ないとみるのが常識であろう︒

にもかかわらず︑共働き世帯の税負担が多いというのは︑説明のしようがない矛盾である︒

 ここでは︑フルタイムで働く夫婦という︑いわば本格的な共働き世帯と片働き世帯との比較をしてきた︒そう

すると︑次に︑フルタイマーとパートタイマーで構成する共働き世帯はどうなるのか知りたくなるだろう︒

 税制改革が︑パートタイマーの年収そのものに影響する可能性が高いーパートタイマーは︑可処分所得の多

少を重視して︑課税回避のために収入を調整する傾向が強いので︑細かな数字はあげなかったが︑この共働き世

帯に対する税制改革の恩恵は︑その世帯が︑どの程度︑配偶者特別控除の適用をうけられるかにかかっている︒

少し具体的にいえば︑パートタイマーの年収が六〇万円程度までや九〇万円強の世帯では片働き世帯に近くなり︑

パートタイマーの年収が九〇万円弱や=︷○万円程度以上なら共働き世帯に近いことになる︒︵表5参照︶

ω この調査によると︑共働きのサラリーマン世帯のうち︑妻も常勤のサラリーウーマンである世帯では︑世帯主の

 収入が二六四︑四八二円︑妻及び他の世帯員の収入が一七〇︑八七七円と計算できる︒ここまでは︑﹁科学﹂といい

(19)

 うる︒しかし︑妻と他の世帯員の内訳は明らかにされていない︒そこで︑共働き世帯全体の他の世帯員の収入は一

 七︑五一八円とわかっているので︑これをさきほどの数字から差引くと︑妻の収入は一五三︑三五九円と推測でき︑

 収入比率は︑一・七二対一となるわけである︒なお︑ここに示した収入額は︑一ケ月あたりのものあり︑一晴金︵ボー

 ナス︶は含んでいない︒

⑤ 野ロ悠紀雄﹁税制改革の構想﹂四一頁︵一九八六︶︒野口は︑議論の出発点として︑次のこ点をあげる︒

﹁ω 世帯主のみが働いていても︑あるいは夫婦共かせぎであっても︑家計としての所得が等しい二つの家計は︑等

 しい税を負担すべきである︒

 ② 税制は結婚の決定に関して中立的でなければならない︒﹂

⑥ 野口︑前掲五〇ー五一頁︒

ま と

最近の二つの大きな制度改革は︑共働き世帯に冷たいものだったということができる︒

 公的年金制度改革についてみると︑この制度改革は︑共働き世帯と片働き世帯の双方にメリットの少ないもの

だったが︑共働き世帯により一層の犠牲を強いるものだった︒たしかに︑制度改革前には︑ 一部に︑共働き世帯

を優遇していると思われる事例もみられたが︑この制度改革は︑これを解消したばかりか︑共働き世帯の不利ば

かりが目立つ公的年金制度を生み出した︒

 税制改革についてみると︑所得税・住民税減税は︑共働き世帯と片働き世帯の双方にメリットをもたらしたが︑

法経論集第63号

77

(20)

戴A郡i…

共働き世帯へのメリットは︑片働き世帯に比べて小さなものだった︒また︑世帯年収を同じくする共働き世帯と

片働き世帯とにおいて︑共働き世帯の税負担を大きくなる場合がかなりみられるという不合理を生んだ︒そして︑

共働き世帯への小さなメリットは︑だきあわせで導入された消費税により︑ほとんど吹きとぼされた︒

 こうみてくると︑旧制度は︑共働き世帯に理解を示しているように思えるが︑そうではない︒旧制度では︑共

働きはみえていなかったのである︒片働きを想定して制度を作ったところ︑思わざる結果として︑共働きにもま

あまあのものだったというのが本当のところだろう︒

 公的年金制度改革の国会審議で︑厚生省の吉原健二年金局長は︑次のようにいっている︒

 ﹁⁝⁝今の厚生年金の水準というのはもともと夫が勤めまして奥様が家庭の主婦としておられる︑そういった

 場合を想定いたしまして年金の給付設計をしている︑計算方式を決めている︒⁝⁝それは奥様が勤めて原生年

 金の適用を受けられる場合にもそういう計算方式︑同じ考え方で計算をされるわけでございますので︑こう言っ

 ては何ですけれども︑いわば共働きの方につきましては非常に相対的に有利な年金といいますか︑それぞれ家        ︵7︶  庭に配偶者がいるという前提での計算になっておりますから︑大変有利であったわけです﹂

 誤解のないようにいっておけぼ︑私は︑旧制度は︑共働きに︑﹁非常に有利﹂だったとは思わない︒また︑年金

財政破綻の原因が共働きの増加にあるわけでもない︒共働きにせよ片働きにせよ︑そもそもが︑保険料に比べて

過剰給付だったのである︒

 改革に迫られたとき︑限りある財源でなんとか格好をつけるために︑目をつけられたのが︑収入面からは比較

的余裕があるようにみえる共働き世帯だった︒税制改革の国会審議で︑宮澤喜一大蔵大臣は︑配偶者特別控除を

共働き世帯には認めない理由のひとつを﹁世帯全体としては︑やはり主婦が働かれている方が所得は大きく世帯

(21)

         へき  としての税金は少ない﹂と述べている︒

 しかし︑夫婦が二人とも収入を得るために働き︑家庭も維持していくことは︑それだけで大変なことである︒

前述したが︑収入を得るための必要経費も多くかかる︒その労苦は正当に評価すべきであって︑収入が多いー←余

裕があるi←負担をお願いしてもよい︑というのは共働きを知らない人たちの発想である︒

 この二つの制度改革は︑片働き世帯に比べて︑共働き世帯を冷遇することにより︑男女の役割に関する伝統的

な観念である﹁パンを稼ぐ男性ーー家庭を守る女性﹂を︑結果的に︵あるいは意図的に?︶存続させる効果をも

つものであったということができる︒

法経論集第63号

㈹ 第一〇二回国会参議院社会労働委員会会議録第八号=二頁︵一九八五年三月二六日︶︒

⑧ 第一〇七回国会参議院予算委員会会議録第五号二一頁︵一九八六年一一月一一日︶︒

参照

関連したドキュメント

体化させるので問題である。 望ましい新税としては, ∼ %の税率で, 市町村が税率決定権を持つ価値創造税 所得 型付加価値税 が構想される。

18 ☆ 具体的内容について検討する。税制抜本改革とともに、平成 24 年通常国 会への法案提出に向けて検討する。

むすび

キャッシュバランスプラン 原則、65歳未満の被用者年金被保険者等全員

は し が

漸進的税制改革½ 別所俊一郎 これまでの最適課税論の分析は,いわば白紙の状態に最適な課税制度を構築するときの条件を考 えるものだった.最適税制の導入には大きな税率変更が伴うであろうし,そのための管理費用など も無視できないかもしれない.そこでここでは,既存の税制から望ましい税制に変更するときにど

 日本の寄附金控除の歴史はそれほど古くなく、昭和37年の所得税法改正に よって導入された制度である。この導入背景として

【図 8】運営形態別の企業年金加入者数の推移 (資料)JG 2016/17 のデータから筆者作成  図