地球環境論の試み
著者 伊藤 通玄
雑誌名 静岡地学
巻 68
ページ 33‑42
発行年 1993‑11‑14
出版者 静岡県地学会
URL http://doi.org/10.14945/00025323
静 両 地 学 第68号 (1993)
地隷環境論の試み
伊 藤 通 玄 本
i はじめに
人類の生産。流通@泊費活動の急速な拡大に伴い、かつては特定地域の問題とみなされていた環境 問題(大気汚染@水汚染@土壌汚染@森林破壊等)が、今日では一国の対応では解決し得ない広域環 境問題(地球温暖化@オゾン層破壊@酸性雨@広域森林破壊@砂漠化等)に発展し、地球規模での対 応が求められているO
こうした状況を反映して、地球環境問題に対する 境問題の現状、発生@拡大の要因、将来の予測、打開の
ちの関心はかなり高く、複雑多様な地球環 を系統的に学び、問題解決のための実 践に役立つ講義の開設が求められていたO
折しも、大学設置基準の大縮化(弾力化) の検討のなかで、 も 科目を補完する共通科目の中核となる「主題別科目J(8単位必修、うち 6単位は同一主題のもとに関
される授業科目を選択する)が開設されることとなり、「地球と環境Ji自然と数理Ji人間と行動j
f社会と人間Ji言語と文化Jの5主題のもと、 1993年度より実施されることになった。
以下は半期30時 間 (2単位)という制約のなかで実施された「地球と環境jに関わる主題別科白 II J (地球環境論:地球の進化と環境変遷)の試行報告であるO
11 地球環境論(地球の進化と のねらい
、 ? t泊 四
オゾ
は、地球環境の形成過程とその変遷を概観するとともに、地球の温暖化@広域酸性雨@
の援壊@海洋汚染@森林破壊@砂漠化@生物種の減少等、地球的規模で深刻化しつつある を地球進化論をベースに考察し、次の諸点、を理解させることをねらいとした。
1 )われわれ人類をはじめ地球上のすべての物質(環境要素)は、宇宙における天然核融合炉の放出 物質(超新星残骸)を起源とし、それらが様々なレベルに進化したものであることO
2 )原姶海洋で誕生したと推定される地球型生命は、地球環境の変遷のなかで進化@多様化したが、
これらの生命活動も太陽活動@地殻変動などとともに地球環境を変えてきたこと。
3 )現在進行中の地球環境の急速な変化の要国は、人類の進化@発展(文明化@人口増)に伴う 力の拡大、急速な資源@エネルギーの消費と環境汚染物質対策の不備 e不履行にあることO 4 )人類を含む地球上の生命が共生し得る道は、国際的な協力体制のもとでの徹底し
ネルギー@人口抑制政策の推進と環境汚染物質の封じ込め(蕗棄物処理の徹底)にあることO
5 )省資源@省エネルギー@有害廃棄物処理の徹底は、行政@企業の努力@実践にとどまらず、
33
流通@ に関わるすべての人々の自覚的実践なしに いことO
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と l 地球物震の題漉と (1) 地球物質の起源と進化
における地球の位置@
核融合炉J(恒星)での核融合反応により、
る霊元素 (C,O… 族 ) が 形 成 さ れ る
(2) 地球物質の供給
銀河系における「特殊な複合核融合炉の崩壊現象J
「大型単独核融合炉の崩壊現象J(超新墨江型)で放出さ (託"He) を概観するO
したうえで、銀河系における ら土iftI求の
@組成等
(C,O… 族 ) 、 (Ag,Au,
I型)で放出された (H,
Pb,Th,Uなど)が集積して地球物質となったことを強調するO
(3) 地球物質の集積
銀河系の渦状腕近く した を引き金とした
@地球@火星)が形成された過程 の集積@ @分化により、
を林(京大)モデル に紹介するO
2 地球環境の変遷(本論 1)
(1) 原始地球の形成と
原始地球の形成過程、とくに大気と
@奇跡、の旅立ちJ(地球大紀行第 1
そ
1987)で紹介し、その るとともに、林 (京大)モデルと
(2) 海生生物の出現と
原始海洋中で誕生@進化したと推定される原始生物の一部が光合成機能 を用いて比較 e るO
し、進化毎 を遂 に現れ、オゾン層が形成され
1987)で紹介し、補足するO
げたことにより、海洋表層が酸素で飽和され、
た過程を資料映像「残されていた原始の海J(地球大紀行第3 (3) 陸上生物の出現と
オゾン腐の形成、太陽紫外線到達量の減少、
化、際上環境の改変、陸生動物群の出現と進化
初期陸上植物群の出現と進 るO 白亜紀の活発な海底火山活動、海洋@大
(4)
気僚の温暖化、
と 人
にも触れるO
修耕地の拡大⑫土地利用
ことを紹介するO 産業革命以降、近代科学 e技 術 し
た に拡大に こと るO
3 地球諜壌の現状と将来(本論 2)
(1) 大気環境の現状と将来
地球物質総量の 10‑6以下に過ぎない地球大気は、太陽活動@地殻変動e生物活動@人間活動の影響 を最も敏感に受けるO 広域大気汚染や酸性雨、温室効果ガスによる地球温暖化等を概観し、経済成長@
人口増加と化石燃料増加@省エ/レネギー効果との関係を検討するO
(2) 海洋(生物)環境の現状と将来
地球上の H20総量は地球物質総量の約0.03%に過ぎないため、大気についで太陽活動e地殻変動@
生物活動 e人間活動の影響を強く受ける。油@重金属@有機堪素化合物汚染や富栄養化が、内湾@沿 岸域外洋域へ拡大し、海生生物をはじめ、食物連鎖で陸上生物に及んでいることを指摘するO
(3) 陸上(生物)環境の現状と
光合成機能を持った緑色植物が次第に地表を緑の紋笹で覆い、生物資源の生産(一部は地下資源化)、
新たな生物環境の形成、物質@エネルギー循環および環境変動の制御、生物種の進化。多様化等 献してきたが、人間活動の活発化に伴い、
(4) 地球環境問題の打開策
現代人は生物として必要なエネルギーの約10信(アメリカ人は 50培、日本人は 25倍)のエネルギ
@エネルギーの加速度的大量消費が地球環境問題の要国である以上、
じ込め(技術開発と実践)の緊急性を指摘するO
の破壊が激化していることを指摘するO
IV
l 地球物欝の恕源と (1) 地球物質の起源
における を銀河系
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を図2 表1等で解説後、超新星爆発にふたつの型があることを指摘した。その具体例として 1987 年2月24目、1.Sheltonによって発見され、東大宇宙線研究所神岡地下観測所で放出ニュートリノが 確認された日型超新患の封 1987A)を取り上げ、資料映像「超新星との遭遇J(銀河宇宙オデツセイ
図2 質量別にみた慣農の進化と終末 (1970年代の考え方) 杉本大一部(1979)に加筆
2集、 NHK1991)を紹介後、 I型..II型の を比較@検討した。
(3) 地球物質の集積
「現代の太陽系化学J(長谷川@大林:1984) く「太陽系の形成過程J(林モデル)を 配布資料で解説後、その後に提起された「松 井モデルJに基づく地球物質の集積過程を映 像資料 f水惑星@奇跡の旅立ちJ(地球大紀行 1 NHK 1987)で紹介し、両モデノレの主
要 @保温効果ガス@
など)を比較@検討した(図 3)0
2 地球環境の変遷
(1)原始地球の形成と地球環境
1 ‑(3)の両モデルにおいて、
微惑星の形成、微惑星の衝突@合体、
6以 下
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(1980年代の考え方) 野本陽代(1988)
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現在の太陽系
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図3 林モヂjレと松井モデルの比較図 (1988)
原始地球という基本過程に差異はないが、 f松井モデルjで は 一 次 大 気 ,He)消失後も
@ 合 体 が 続 き 、 そ の 際 放 出 さ れ た ガ ス ,C02など)の保温効果によって、衝突@合体時に解放 された熱エネルギーが蓄積され、マグマの海が形成されたのに対し、「林モデルjでは一次大気(H,He) の保温効果でマグマの海が形成され、ここから二次大気 (H20,C02など)が形成されたとする
ることを指摘した。
(2) 海生生物の出現と地球環境
「残されていた原始の海J(地球大紀行第3集、 NHK1987)を素材にして、最古の微生物化石 (35
億年前の藍藻類)の特徴から、生命の起源はそれ以前に遡ること;強酸性の高温水、深海底の高温高圧 熱水下で現生している原始的生命の存在、高温@高圧条件下での生命体合成実験等により、地球型生命 誕生の場は原始地球の浅海や温@熱水域と推定されること;約20億年前のストロマトライト石灰岩、
酸化鉄鉱層の存在等により、大気中への遊離酸素の放出が光合成生物(藍藻類等)によってなされた と推定されること;などを指擁した。
(3) 陸上生物の出現と地球環境
映{象資料「臣木の森@大地を覆うJ(地球大紀行第6 民HK1987)および配布資料「古気候変動 からみた地球温暖化J(大嶋和雄
1992)等を用い、海生光合成生 物(藍藻類など)の活動による 大気中遊離酸素の増加、
にオゾン層(紫外線ブイノレ ター)の形成、生命の陸上進出 が可能になったこと;古牛γ ツ パラン類、ロボク@リンボク 木性シダ等への進化
(生物)環境を生み出すとと もに、盛んな光合成活動により 大 気 中 の CO2画 定 お よ び 大 中へのO2放出を行い、それらの
は理没して化石燃料 の母材となっ
した。
(4) 人類の出現@発展と
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37
された化石燃料消費に伴う い、農耕時代に始まる森林破壊、
1970‑80年代の COz排出の要悶変化を地域別に検討するにとどめた。
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陽ーほか(1993)"‑'
世界のCO2排出の要国変化 茅 図8
地球環境の現状と将来
(1) 大気環境の現状と将来
表2..国7等を用いて、温室効果ガスの発生源@蓄積速度@温暖化への影響度および年代別地表面 温度上昇率を比較@検討し、最近ではCO2濃度に比べ遥かに低濃度のアロン..CH4 ..N20に03を加え
3
た温室効果はCO2に匹敵すること :CO2の排出削減とともにアロン ..CH4等の排出削減対策が必要な ことを強調した。次に酸性降下物の生成機構、これらに由来する酸性雨@酸性霧の地表(土壌@森林 への影響を概観した。オゾン層の寄在意義、南極上空のオゾン@ホール、スカンジナゼア半島北 等)
方上空 中央シベリア北方上空のオゾン濃度の低下等にも触れたが、補足映像「地球汚染I
異変が起きている~J 1989)の放映は時間的制約のため省略した。
賜ーほか(1993)'"'‑J
地球温暖化
2
体本1) 主な発生源
55%
(約77%) 林 (約23%)
e種々 の使用
24%
4 %
ブ 口 ン11: 280ppt
アロン12: 484ppt アロン類(CFCs),
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310ppb (HFCs, HCFCs)叫
メタン
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3) を破壊しないが,温室効果ガスとなる るO
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1980年 代 1970 年代
1960年 代 1850~ 1960年
(10王手あたり) O
(1993) ‑‑ 39
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図8 @有機塩濃化合物汚染水域 茅陽一(1993)" J
(2) 海洋(生物)環境の現状と
海洋の汚染は、人関活動の場に近い内湾@沿岸域で問題となることが多かったが、
活発化に伴う資源@エネルギ…確保、物流活動の拡大とともに外洋域におよび¥地球規模の環境問題 となりつつあることを、油汚染、重金属@有機塩素化合物汚染(閣8)、富栄養化等について概観し、
これらの海洋汚染が海生生物の食物連鎖によって、高次捕食者の生体に濃縮される過程を配布資料お よび資料映像「地球汚染 II~海はひそやかに警告する~J (NHK 1989)で紹介した。富栄養化問題に 関連して、わが国海域の環境基準および設定の経緯(1960年代住民運動の結果)、海域の栄養階級区分@
特徴、具体的汚染データ(わが爵周辺海域)等を補足資料として配布したが、時間的制約のため説明 が不十分であった。
(3) 陸上(生物)環境の現状と将来
3 ..表 4等を含む配布資料を用いて、人類の諸活動(焼熔@放牧@森林伐採@化石燃料消費@都 市の形成等)に伴う大気環境@陸上環境等の悪化が森林の減少@衰退@土壌流失や砂漠化、種の多様 性の喪失等を引き起こしてきた過程と予測される将来像を概観し、最終総括の際放映する予定の映像 資料「太陽系第三惑星..46億年自の危機J(地球大紀行第12集、 NHK1987)でさらに補足すること
にしたが、配布資料の解説をより詳しく行う必要があったと反省しているO
地域
表3 熱帯林の減少面積@減少率 環境庁(1992)~
森林面積 森林面積 年平均森林減 年平均減 国数 1980 (千ha) 1990 (千ha) 少面積(1981制) 少 率 %
コシキメカ
カ 一 カ リ
リ一リ域メ
メ一 メ地 ア 一 プ ン 一 リ テ 一 カ
} ブ
87 1
4 2000年までの野生生物絶滅予測 環境庁(19ヲ1)
地 域 (千種)
封; 帯 林
中 米 300"'‑' 1,000 33 100'"'‑' 333 ア ブ リ カ 150~ 500 13 20'"'‑' 65 ジア、 ジア 300~ 1,000 43 129'"'‑' 430
計 750"'‑' 2.500 33 249"'‑' 828 (57%) 島等 I 2,250"'‑' 7,500 8 188"'‑' 625 (43%)
3 , OOO~10 , 000 15 437~1 , 453(100%)
(心地球環境問題の打開策
人類の諸活動の加速度的拡大が様々な地球環境問題を引き起こしている現状を踏まえ、省資諒@省 エネルギーの強化と環境汚染物質の徹底した排出規制(封じ込め)が必要なこと
に、補足資料「グローパノレ資源テーブノレとエネルギ一戦略J(槌屋治紀1992)などを用い、
び世界において資源やエネルギーがどのように消費され、どれほど
たO とりわけ、化石燃料による COz排出量がアメリカでは生物としての CO
約2お5倍)に及ぶぶ、こと;光合成生物の COz閤定以外に有望なCOz対策がない以上、あらゆる部門@レベ ルでの省エネ@省資源の徹底、エネルギー利用効率の向上とクリーンエネルギーの活用等に関する 施策の推進、
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ライフスタイ した。
やオイル@ショック
べき は、
的。 ることにも し八‑ 0
41
と @エネルギ
4
る
は不可分の関係Jとの立場から、「地球環境と 源験工
り
キ ユ 一 ブ
カ 汁 ノ
抗 期 た4別れ
大 ﹂ によ
エ ネ ル じ
ってい るO ほとんど毎週実施し
を紹介するスペース
い切って I
した「授業評価Jに示された
2 r地球環境の現状と将来Jにもっと時間が欲しいと るか、ごく簡単に取り扱うにとどめ、本論2の時間確
{呆鯵 ているO
を 反 映 し 九 @興味@関心の多様 化が年々
に応じ 系)0理科系
であり、克服すべき も少なくない。
のカリキュラム もこうした状況への対応ではあるが、
ることが不可能な現状では、文科系(人文@
らざるを得ず¥キメ細かな対応は依然として国難 クラス編成、 に見合った
にも しつつ、 けた
しユ。
か (1979):
野本陽代 (1988):ドキュメント
1I e大林(1984):現代の太陽系科学 (1988) :地球進化論
(1992) :古気候変動からみた地球滋暖化(日 内 嶋 善 兵 衛 (1990):ゆらぐ地球環境(合同出版)
(東大出版)
と技術33者 264
ほか (1993):ひと自でわかる地球環境データブック(オーム社) (1992) :平成4年版環境白書(大蔵省印船局)
環境庁(1991):平成3年版環境自書(大蔵省印刷局)
槌 屋 治 紀 (1992):グローパル資、源テーブルとエネル 日 目 と技術33巻 264号)