特集◎公正と救済
格 差 社 会 中 国 の 現 状 を ど う 見 る か
急速な経済成長の陰で深刻化する格差︒発展に取り残された人びと︑不平等に憤る人びとの間には権利意識が広がり︑各地でさまざまな抗議の声があがっている︒かつて世界でもっとも平等な国といわれた中国の大転換のなかで形成された巨大な格差社会の現実と︑これに向き合わなければならない胡錦濤政権の取り組みを︑中国の現実を凝視してきた研究者とジャーナリストが深く語り合う︒
小島麗逸︿大東文化大学名誉教授﹀×清水美和︿鑛舗﹀×阿古智子︿醤譲轍舗囎﹀×
厳善平︿桃山学院大学経済学部教授﹀×今井理之︿畿齢獺灘﹀司会砂山幸雄︿愛知大学現代中国学部教授﹀
砂山今回は﹁中国の格差問題をどう見
るか﹂というテーマでご案内しましたけ
れども︑最近の中国は︑格差ということ
以上に︑むしろ不平等という言葉で現実
を把握しようという傾向があるように思
います︒日本でも︑﹃不平等国家中国﹄
や﹃中国の不平等﹄など﹁不平等﹂がス
トレートに本のタイトルになったりし
て︑もはや格差は格差では終わらない︑
深刻な社会問題︑政治問題になってきて いるのが︑今日の中国の現実ではないか
と思います︒
この問題について︑様々な角度から
語っていただくために︑五名の先生方を
お招きしました︒ご紹介しますと︑中国
経済の大家でいらっしゃる小島麗逸先
生︑中国問題のジャーナリストとして第
一線で活躍していらっしゃる清水美和先
生︑それから中国農業にお詳しい厳善平
先生にも大阪からご出席いただきまし た︒さらに︑現代中国社会を社会学およ
び人類学の角度から幅広く研究してい
らっしゃる阿古智子先生︑愛知大学から
中国経済の今井理之先生にも加わってい
ただきました︒
格差の現状一
砂山まず最初に︑中国の格差というの
は実際にどの程度のものであるのかとい
格差社 会 中国 の現状 を どう見 るか
M
うことを︑共通理解として確認したいと
考えて︑あらかじめ厳先生に最新のデー
タをご紹介していただくようお願いして
あります︒厳先生から簡単にご説明いた
だければと思います︒
厳それでは中国の格差の現状につい
て︑簡単に紹介したいと思います︒
中国の経済格差についてはこれまで中
国社会科学院を中心に大規模な国際共同
研究が行われ︑一九八八年︑九五年︑二
〇〇二年と三回の全国調査も行われて︑
中国語︑そして英語による論文や専門書
がたくさん出ています︒今︑四回目の調
査も実施準備の段階だと聞いておりま
す︒そういった研究からわかった中国の
格差の主な特徴の一つは︑よく言われる
ジニ係数で表す格差の拡大です︒これは
都市・農村を問わず︑あるいは都市・農
村を合わせた全体の格差も非常に拡大し
ています︒このジニ係数はここ数年○・
四五を上回っています︒○・四というの
は︑社会の安定を脅かす臨界水準とされ
ていますので︑まさしく非常に厳しい状
況にあります︒国際的に見ても○・四を
厳 善 平[YanShanping]
超える国は非常に少ないわけです︒日本
は︑再分配の前は○・四九とか言われま
すが︑実際には再分配の後は○・三三ぐ
らいですかね︒とにかく格差が非常に拡
大しているという点がまず挙げられま
す︒また都市の中の格差もあります︒も
う一つ︑中国の格差を語る際の重要な特
徴として︑地域間格差も大きいですね︒
よく挙げられる貴州と上海の例でいう
と︑十数倍もの格差があったりします︒
これは国が大きいからしょうがないとい
う面もありますが︑やはり考える上では
非常に特殊な点だということですね︒ もう一つ︑格差とかなり近いものです
が︑中国の場合は貧困というのもありま
す︒その貧困と格差の関係についても︑
最近注目されています︒それから中国の
格差を語る際のもう一つの注意すべき点
はいわゆる差別なんですね︒戸籍制度を
はじめとする様々な差別があるんです︒
いわゆる制度差別です︒個人の能力や努
力を問わずに︑出身だとか戸籍などで︑
最初から職業や住居の選択が許されな
い︒そこから発する格差というものも問
題視されています︒
そういう格差の状況については︑統計
でいうと︑都市・農村間の格差はここ数
年ややペースが落ちているものの︑依然
拡大する傾向にあります︒二〇〇七年に
は都市住民と農村住民の所得格差は三・
三倍にも達し︑これは史上最高とされて
おります︒もし︑それに福祉なども含め
た消費格差でいくと︑五倍︑六倍という
水準に達するという指摘もあります︒こ
の格差が形成された背景には︑所得階層
別の所得増加率が違うことがあります︒
富んでいる者はますます富んでいく︑貧 4
しい者はますます貧しくなっていくとい
うような状況です︒例えば都市部では︑
所得の最も高い上位一割の人たちの所得
が非常に速く伸びているのに対して︑下
位一割の人たちの所得は︑三分の一か四
分の一しか伸びていないですね︒農村部
だと︑九〇年代後半の五年間に︑所得の
最も低い︑下から二割の実質所得は減少
しているんですね︒ただ近年︑胡錦濤・
温家宝政権の下で様々な政策をとってき
た結果︑格差拡大のペースがやや落ちて
きているのも確かです︒その対策の具体
的な内容については後ほどご紹介したい
と思います︒
今井地域格差については︑一人当たり
GRP(域内総生産)で一番高い上海市
と一番低い貴州省がよく比較されます︒
一番ひどかったのは二〇〇四年の=二倍
ですね︒それ以降は実はずっと下がって
います︒四捨五入すると全部十倍になる
んですが︑二〇〇五年が一〇・二倍︑二
〇〇六年が九・九倍︑二〇〇七年が九・五
倍と︑少しずつですが下がってきてい
る︒ひょっとしたら西部大開発の影響が あるかもしれませんね︒
厳いや︑それもあるかもしれません
が︑むしろ計算の仕方が変わったことが
大きいです︒それ以前は上海の総人口は
戸籍を持った人口に限られていたので
す︒それが確か二〇〇五年から統計方法
が変わり︑ここ二︑三年の計算では︑い
わゆる外来人ロー1常住人口ですがー
も分母に入れるようになりました︒した
がって上海も一人当たり域内総生産が下
がってきています︒それ以前は外来人口
は分母にも入れられなかったため︑実際
はもっと低かったのに見かけの高さが
あったんですね︒そういうことなので︑
格差はほぼ一貫して縮まっていないよう
に思います︒ただし︑私自身は貴州と上
海を比べることにあまり意味はないと思
います︒これらは特殊な二つの地域で
あって︑その一番高いのと一番低いのを
除くと︑ほぼ四︑五倍に留まっています︒
今井日本の地域格差はどうなっている
かですが⁝⁝︒
厳二倍くらいですね︒
今井一九六一年が一番ひどかったらし いです︒通商白書によると︑一人当たり
県民所得の比較で東京はその時一番低
かった鹿児島の二・九倍︑最近の二〇〇
四年度では︑東京は一番低い沖縄県の
二・三倍です︒なお︑中国の一人当たり
GRPにより近い︑日本の一人当たり県
民総生産で見ると︑二〇〇四年度で東京
は一番低い沖縄県の二・八倍です︒その
他の国との国際比較は非常に難しい︒
データがとりにくいんです︒
厳ここにも世銀の統計があるにはあり
ます︒中国は○・四五で︑ロシアやブイ
リピンといった非常に悪いところと肩を
並べているのは確かです︒
今井その他︑先ほども出ましたけど︑
都市内格差というのも大きいですね︒
厳紹介しますと︑例えば所得の最も高
い五%の人たちの平均所得と一番低い
五%の人たちとの格差は︑八五年には
三・二倍だったのですが︑二〇〇六年に
は=・三倍に拡大しています︒ジニ係
数で見ると︑資料にありますように○・
三五〇です︒これは二〇〇四年のデータ
ですから︑今はもうちょっと上がってい
格差社 会 中国 の現状 を どう見 るか
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るかもしれません︒ちなみにこの統計の
対象には農民工が含まれていません︒そ
の人たちを入れるとジニ係数はもっと上
がります︒上海︑北京ではいわゆる外来
人口が三割から四割を占めています︒そ
の人たちの収入はもっと低い︒彼らを含
めると格差はもっと広がるはずなのです
が︑既存の統計にはそれが反映されてい
ません︒
今井日本と比較するために︑二〇%ず
つの五分位にした中国の統計数字があり
ます︒都市の最高収入層二〇%の収入を
最低収入層二〇%の収入と比べると︑二
〇〇五年が一番高くて五・七倍なんです
ね︒二〇〇七年は五・五倍だから︑これ
も少し下がり気味になってきている︒同
じ五分位に分けた最高収入層と最低収入
層の日本の比率は︑二〇〇五年度の数字
で︑全世帯で四・四倍︑勤労者世帯で三・
六倍です︒これと比べると中国の数値は
少し高い程度ですね︒中国の農村の最高
収入層と最低収入層の格差はもっと大き
くて︑二〇〇五年で七・二六倍︑二〇〇
七年で七・二七倍︒ほぼ七倍強で推移し
今 井 理 之[ImaiSatoshi]
ています︒
砂山格差が相当に大きいということが
よくわかります︒中国の場合︑﹁改革開
放﹂が始まる以前は︑完全に平等という
わけではなかったにしろ︑世界でも稀に
見る平等な社会だと言われていたわけで
すね︒それがごく短期間のうちに急速に
不平等な社会に変わってきた︒その大き
な逆転ということが︑やはり中国の場合
には特に問題になるのではないかと思う
のですが︑この点︑長く中国経済を見て
こられた小島先生の目から見ると︑現在
の格差拡大現象というのは︑どういう意 味を持っているとお考えでしょうか︒
小島一つ補っておきます︒ジニ係数で
すが︑○・二台の国がスウェーデンなど
西洋にいくつかあります︒福祉を通して
の再配分による平等性というのは︑福祉
の厚い西洋の国にいくつかある︒日本は
○・三二です︒中国は○・四七︒○・五以
上のところはラテンアメリカの国に多い
のです︒しかし︑アフリカと南アジアは
計算することがなかなか難しい︒厳さん
が言われるとおり︑○・四以上というの
はかなり不平等な社会で︑アメリカが現
在○・四二ぐらいあります︒中国は不平
等社会と言われるアメリカより随分ひど
いんです︒
砂山やはり相当格差の大きい国の部類
だということですね︒
小島そうです︒たぶん間もなくラテン
ァメリカのレベルに入ると思います︒
今井中国も一九八〇年代の初めごろは
○・二強だったんですね︒
厳このデータによりますと︑中国の統
計では都市と農村を別々にとっているん
ですね︒ただ︑中国自身が発表していな 6