段階 SAIDS による ガソリン価格変化の影響分析
横 山 佳 充
は じ め に
本稿の目的は,ガソリン価格の変化に伴い,ガソリンの消費量および関連す る他の交通関係の財やサービスに関する消費量の影響についての変化につい て,他財との代替・補完という相互関係を通して,家計の最適行動の視点から 分析し,シミュレーションを行うことである。ガソリンの価格の変化に関する 問題は主に,交通量の分析に関して交通間の代替の観点や,エネルギー効率や 環境税の視点で分析が行われており,家計の消費行動という観点から他財との 関係を分析するということはあまり行われていない!。家計にとって,交通にお けるガソリンの存在は多数の財が存在する中で,唯一の非耐久財であり,比較 的価格変動が大きい。ガソリン価格の変動により家計の消費変化がガソリン自 体や他財の消費量の数量的影響を捉えることは,今後発生するであろう更なる ガソリンをはじめとするエネルギーの価格動向に対処する意味でも重要であろ う。本稿ではそうした状況に鑑み,多品目需要関数体系をより精緻な形にした SAIDS(Semifleible AIDS)を 段階に適用することで,ガソリン価格の変化
( ) ガソリンの弾力性に関する議論は,交通需要におけるガソリンの弾力性計測として
Goodwin et al.( )による研究が有り,推定期間,使用データや分析方法による分類
と比較検討を行っている。また最近ではLina and Princeb( )の前半部分に弾力性計 測に関するまとめがある。一方で,環境経済やエネルギー経済の分野からは,一部ガソ リンの効率性という形で,天野( )や星野( )のサーベイがある。ただし,こ れらの分析結果は基本的に各個別の需要関数を個別に推定したものであり,本稿の目的 とするものとは異なる。その中では例外として,小池( )がAIDSを用いる形で交 通需要の分析を行っている。
第 巻 第 ・ 号 年 月 −
の家計への影響について分析する。
分析に関して,本稿では各財の弾力性を導出することを行う。単純なモデル 構成としては両対数モデルや線形支出体系モデルなどが最初に考察されるであ ろう。ただし,こうしたモデル構成には経済学的に問題点が生じることが知ら れている!。こうした際に,財間の関係を損なわない形で最も用いられるモデル としてはAIDS(Almost Ideal Demand System)がある。AIDS自体は経済学的 に優れたモデルであり,消費者需要の満たすべき条件を備えている。AIDSモ デルはこの性質を持つモデルの中でも最もポピュラーなものであり,現在はこ のモデルを含め多くの派生的モデルが存在するが,基本的性質を有しているこ と,および操作性の点で比較的扱いやすいという点で,その後登場したモデル と比較しても頻繁に利用されている。
一見,有効な性質を持ち,分析にも頻出するAIDSではあるが,問題がない わけではない。いくつかの問題点のなかで,実証的な分析を行おうとする際に は,推定後のモデルのワーキングの問題が挙げられる。本来AIDSは支出関数
をShepardの補題を用いる事によって導出しており,消費行動をしている経済
主体は最適化行動をしているものとしている。そうした意味で,導出されたモ デルは本来最適化行動を満たすように,対応するSlutsky代替行列が半負定符 号行列とならねばならないが,この値は事後的に確認せざるを得ないことにな り,場合によっては条件を満たしていない場合も生じうる。この点を解消する 方法として半負定符号行列を仮定して推定を行うという方法がある。以下,本
稿ではSlutsky代替行列を半負定符号行列に仮定した方法により,交通に関す
る消費者モデル,特にガソリンの価格変化に着目し,経済主体の最適化行動と 整合的な形での分析を目的とする。
本稿では,シミュレーションを行う上で,価格部分に関するパラメータの行 列を半負定符号行列を課すなど,最適化行動に基づくモデルを作成し,推定を
( ) 両対数モデルは単純であるが,総和条件さえ満たさない。線形支出体系モデルはその 取り扱いの容易さとは別に,周知の通り経済理論的な整合性に関して問題を含むモデル であり,本来多品目の財の関係を分析する際,下級財の存在を仮定しない,財同士の関 係を補完財としては認識しないなど,分析の関係を歪めてしまう可能性がある。
wi =αi+βilog x P +
N
j=1γijlogpj
行い弾力性等の導出を行った後,想定されるシナリオに基づき各種価格変化の 影響を考察する。特に考察の対象はガソリンを含む交通関係のモデル考察を行 い,ガソリン等の価格変化が与える影響を分析する。
本稿の構成は次の通りである。まず,第 節においてAIDSを含むモデルの 考察を行い,第 節においては使用するデータの特性についての予備的分析 とともにモデルに適用できるように再集計やスケール変換を行う。第 節に おいて推定方法を確認した後,第 節において,交通モデルおよび支出全体 のモデルの推定結果およびそれを用いた分析結果を示す。また同節の後半部に おいてはシナリオに基づいたシミュレーションを行い,価格変化の影響を確認 する。
モ デ ル
. AIDS
本全節においては交通関係に関するモデルを作成し,その中で,ガソリン価 格が家計に与えるモデル分析を行う。そのうえで消費者となる家計の反応を精 査するため,本小節においてAIDSモデルを確認し,さらに次小節のSAIDS モデルに連結する。導出に関する細かな議論,過程に関しては省略するが,前 述のとおり,AIDSモデルは消費者需要モデルを分析する際に最も用いられる モデルであり,Deaton and Muellbauer( )によって提案された。
求めるモデル体系は第i財に関して
⑴
であり,piは第i財の価格,N は財の総数であり,qiはここでは明示的には現 れていないが,第i財の消費量を示す。xは支出総額でありx= Ni=1piqi,αi, βi,γijは対応するパラメータである。wiは第i財の占める支出割合,すなわち wi = pixqiを意味する。これに関して第 財からN 財の連立方程式体系を考察 することになる。なお,Pは基本的に総合価格であり,ここではトランスログ
log(P) α0+
N
i=1αilogpi+ 1 2
N i=1
N
j=1γijlogpilogpj
=
N i=1αi= 1
N i=1βi= 0
N i=1γij= 0
N j=1γij= 0
γij =γji
z Sz侑 0 価格指数を採用すると,
⑵
となる。
ここでモデル体系は総和条件,同次性の条件,対称性の条件を満たさなけれ ばならない。総和条件は,
⑶
と表現できる。
次に,同次性の条件については,
⑷
と表される。
最後に,対称性の条件は,すべての第i財と第j財に関して,
⑸ と表記される。
この際,Slutsky代替行列であるSの第i行j列の要素はAIDSの場合γijで 表され,Sは半負定符号条件を満たす必要がある。すなわち,N× の要素を 持つベクトル∀zについて,
⑹ を満たさねばならない。ここで,z の表記はzの転置を示す。ただし問題点 は通常のAIDSモデルであれば総和性,同次性および対称性を課した形で推定 できるが,半負定符号条件を満たすかどうかは推定の結果に依存する。本来こ
log(Pα)
N
i=1αilogpi
=
wi=αi+αilog pi
Pα +βilogx P +
N
j=1γijlogpj
wi=αi+αilog pi
Pα +βilogx P +
N−1
j=1γijlog pj
pN
の条件を満たすことは経済理論的に最適化行動をしていることを意味するが,
実際になされる計算においては点推定されたSの値はこの条件を満たさない ことも見られる。
特に,多品目の財・サービス間の関係を考察した上で,シミュレーション等 の分析を行う際には経済の最適化行動を仮定しているので,これらの制約部分 を軽視することは分析上の不明瞭な結果をもたらすこととなる。本稿ではモデ ルに基づいた最適化行動の帰結を得ることを目的に,ローカルな半負定符号条 件を付加することで,より経済理論的に整合的なシミュレーションを行う。
. SAIDS
前小節において示したAIDSのモデル体系に加え,本稿ではさらにSlutsky 代替行列の半負値定符号条件を満たすと仮定するため,Moschini( , ) に基づき,AIDSをSAIDSという形に拡張する。
はじめに,⑶の関係を用いて物価指数Pαを定義する。
⑺
この関係を用いて,⑴を書き換えると,
⑻
さらに,⑷の条件を用いて,
⑼
となる。これに伴い,トランスログ価格指数⑵は,
log(P)=log(Pα)−1
2{log(Pα)}2+
N i=1
αi(logpi)2+1 2
N−1 i=1
N−1 j=1
γijlog pj
pN
log pj
pN
τij= τij= 0 i侑j
0 otherwise
T =
τ11 τ12 τ13 τ1 −1
0 τ22 τ23 τ2 −1
0 0
τN−2N N
−1
0 0 τN−1N−1 N
S=−T T
⑽
と表現できる。
以上の変型より,本来のN 本の体系において,γij要素を持つN×N 行列S は,その部分集合であるN− 本の体系で表現可能で,N×N行列Sから不 要な部分を除いた(N− )×(N− )行列Sが半負値定符号行列であれば,最 適化のための十分条件を満たすこととなる。前述したとおり,通常AIDSで分 析する場合には計算結果において条件を満たしているかどうかを確認するしか なく,事前に制約を課すことはできない。
なお,(N− )×(N− )行列S自体を,半負値定符号行列に限定するため に(N− )×(N− )の上側三角行列であるTを導入する。すなわち,Tの要 素である[τij]は,
すなわち,
⑾
と定義して,
⑿
⒀ を満たすようにSを形成する。すなわち,
S= −
τ112 τ11τ12 τ11τ13 τ11τ1N−1
τ122 +τ222 τ12τ23+τ22τ23 τ12τ1N−1+τ22τ2N−1
symmetric N−2i τi N−2τiN−1 N−1i τi2i
logPsτ =
N−1
j=sτsjlog pj
pN s= 1 2 N−1
wi=αi+αilog pi
Pα +βilogx P−
i
s=1τsilogPsτ
log(P)=log(Pα)−1
2{log(Pα)}2+
N
i=1αi(logpi)2−1 2
N−1
s=1{log(Psτ)}2
⒁
である。
ここで,新たに計算をするために,便宜的に価格指数として,
⒂
を定義する。すると,
⒃
と表記できる。
トランスログ価格指数⑽はさらに,
⒄
と表すことができる。ここで,現実的な問題として,後に行う際の推定ではN
− の半負値定符号行列を構成するのにN− のランクを用いた上側三角行列 を示しているが,推定作業を行う際において極度にパラメータが非線形になり 推定が困難になる。したがって,のちの推定ではランクを に落とすことで,
推定上生じる困難を回避している。したがって,分析に利用する行列は以下に 示すTとなる。
T =
τ11 τ12 τ13 τ1N−1
0 0
0 0 0
0
0 0 0
S= −
τ112 τ11τ12 τ11τ13 τ11τ1N−1
τ122 τ12τ23 τ12τ1N−1
symmetric τ1N−2τ1N−1
τ12N−1
e∗i = ∂logqi
∂logx =1+ βi
wi
mij= ∂logqi
∂logpj = −δij+ γij
wi−βiwj
wi
hij=mij+wje∗i
⒅
同じく,式⒀の関係から,
⒆
である。
最後に,分析を行う上での判断の材料になる弾力性に関して,確認を行う。
支出弾力性は
⒇
であり,Marshallの価格弾力性に関しては
となる。なお,δijはKronecker deltaを示している。これら式の導出に関して は通常のAIDSと変わらない。加えて,Hicksの価格弾力性はSultsky方程式の 弾力性版である
の関係を用いて計算することができる。
デ ー タ
. データの取扱い
データに関しては各家計の支出額に関して『家計調査』の全世帯の月次デー タを用いている。一方で,価格に関しては全国の消費物価指数(CPI)を用い ている。分析期間は 年 月から 年 月まで分析期間におけるデータ 期間は である。期間が 年以上に及ぶことで,支出データ及び物価指数 にも,いくつかの調査対象となる項目の改廃などの変更点がある。
分析においての注目点は特に石油を中心とするガソリン価格の高騰であり,
通常のマクロモデルによる分析では原油や石油価格の上昇はコストプッシュ要 因として,他の財への価格の上昇をもたらし,日本経済においては需要や実質 GDPの減少をもたらす要因となるが,本稿においては生産側の価格波及効果 は考察せず,主に交通手段としてのガソリン価格変化とそれによるガソリン自 体の消費量や消費額の変化,またこれに関する財・サービスへの消費量や消費 額に関する波及効果についても考察する。
前述のとおり,家計がガソリンを購入する目的は自動車をはじめとする交通 手段の燃料を確保するためであり,基本的にはそれ以外の目的では使用しな い。ガソリン自体は価格が大きく変化する財であり,分析期間中においても石 油の需給状況,石油産出国の情勢,投機等の思惑,為替レート加えて各種税金 が加算されガソリンとしての小売価格を形成している。実際に図 に示したと おり,日本におけるガソリンの小売価格に関しては分析期間内の 年 月 から 年の 月にかけて 年代の当初のガソリン リットルあたり 円の最低レベルから 年 月に最高値の 円を記録するなど,おおよそ
倍に近い価格変化を示している!。期間内の時系列傾向としては基本的に上昇 傾向で推移しているが, 年の我が国の国会の混乱による暫定税率の一時 廃止や,世界的な需要に関する思惑の変化などによる価格の急激な変化なども
( ) 総務省統計局『小売物価統計調査』における自動車ガソリンの東京都区部の小売価格 より作成している。
200 180 160 140 120 100 80
円/ℓ 2000年1月 2001年1月 2002年1月 2003年1月 2004年1月 2005年1月 2006年1月 2007年1月 2008年1月 2009年1月 2010年1月 2011年1月 2012年1月 2013年1月
pt= Pts t=1 TPts
あり,ガソリン価格は不安定である!。
本稿では分析を行う上で,ローカル点上での最適化を行うため,データ自体 を次のように加工している。まず価格情報については,『家計調査』を用いオ リジナルのデータを得た後,X により季節調整を行い,その得られた値を期 間内で幾何平均を取り,その値で除することで平均時点が になるようにして いる。すなわち,t期における季節調整後の価格の値をPtsと表記すると,全 T期間において
にて計算している。ptが実際に推定において利用するデータである。
支出に関するデータも基準化する必要があるが,先程と同様に季節調整後の
( ) 実際,後の部分で価格指数を用いても分析を行ったが,他の交通モデルの財に比較し てガソリン価格は同様に不安定であった。季節調整後のガソリン価格指数の変動が他の 財・サービスと比較してどの程度の変動を示すかどうかを変動係数にて分析した結果 が,表 のPT の部分である。
図 :ガソリン価格の変化
Xist
t
= Xs i i=1NitXs
t i
=1
x = Xs
t TitXs
t i
第i財のt期の値をXistとすると,
と変型し,さらに,
とする。これらより,qit=x /pit itより数量を求めることができる。なお,こ れらの標準化により平均時点ではpitとxitはともに となり,その際には各 xitの値が全体の第i財の平均ウエイトを示す。ここでもxitが実際に推定に おいて利用するデータである。
最後に数量に関するデータの取り扱いであるが,数量に関するデータは明示 的な形で得ることはできない!。数量に関するデータは一部例外を除けば,『家 計調査』のデータからは支出額のみが得られる。それをX で季節調整した 後,さらに先ほど求めた季節調整後の価格で割り,数量を求めた後,価格同様 その得られた値を期間内で幾何平均を取りその値で除して求めている。
. 交通データ
ガソリンの家計における消費額自体は『家計調査』の全世帯の調査より得る ことができる。『家計調査』においては 大費目の「交通・通信」に含まれる。
そのうち中分類に該当する交通の項目を列挙したものが,表 である。表に関 しては 年以降の分類を表示している"。
( ) 交通需要を到達距離数などで定義すれば,数量として定義できる。実際交通モデルに おいてはこうした定義が使用されている。本稿では家計の支出額から消費数量を考察し ている点が異なっている。
( )『家計調査』の含む項目は,細かい構成要素に関しては改廃を含めて若干の見直しが なされる。期間内においては 年, 年, 年そして 年において改変が なされている。ただし,改変自体は小さなものであり,大勢に影響を与えない。また,
『家計調査』の調査内容,方法や問題点については総務省統計局( )を参照。
この中の交通の費目の中にガソリンは含まれるが,交通自体はこの中はサー ビスや耐久財,非耐久財が混合した形で形成されている。具体的な費目として は中費目として,「交通」「自動車等関連費」と分かれ,「交通」は通勤関係,
通学関係及び実際使用する電車,バス,タクシーなどのサービス料金が含まれ る。中費目の「自動車等関連費」の概念は広く,さらに分類を細かくした小分 類は「自動車等購入」「自転車購入」「自動車等維持」であり,自動車に関連す る関係支出を示している。「自動車等購入」「自転車購入」は自動車や自転車の 本体の購入を示し,財の性質としては耐久財である。「自動車等維持」はガソ リンなどの燃料で非耐久財に相当するもの,自動車関連で購入する備品の類,
これらは基本的に半耐久財に相当する。ほかに含まれる費目としては整備費,
駐車場料金や自動車関連保険にあたるサービスである。モデルを作成するうえ での詳細な分類に関しては,表 に示している。分析はこれらのデータをカテ ゴリー別に分割する。分割するカテゴリーはT :公共交通関係,T :有料道
. 交通 .. 自転車購入
鉄道運賃 .. 自動車等維持
鉄道通学定期代 ガソリン
鉄道通勤定期代 自動車等部品
バス代 自動車等関連用品
バス通学定期代 自動車整備費
バス通勤定期代 自動車以外の輸送機器整備費
タクシー代 X年極・月極駐車場借料
航空運賃 他の駐車場借料
有料道路料 Bレンタカー料金
他の交通 他の自動車等関連サービス
. 自動車等関係費 自動車保険料(自賠責)
.. 自動車等購入 自動車保険料(任意)
自動車購入 自動車保険料以外の輸送機器保険料
自動車以外の輸送機器購入
表 :交通及び自動車関係費
*費目の前の数字は『家計調査』における分類番号を表す。
路通行費用,T :ガソリン,T :自動車備品・サービスそしてTex:自動車本 体費他と分類し分析を行った。表 には分類の他にS:サービス,ND:非耐 久財,SD:半耐久財およびD:耐久財の別が示されており,基本的には財・
サービスの消費目的と特性により分類を行っている。分析をAIDSモデルで行 う前に事前的なデータの検証を行うため,データを精査した結果,本データに はデータ自身の持つ特性が確認された。まず,データを集計した後,X によ り季節変動を取り除き,その後,それらによって得られた価格と消費額のデー タをカテゴリー別にPまたはXで始まる変数名にしている。その記述的統計 的特性を示したものが,表 である。
表 により,価格データと支出データを検証する。価格自体はシステム外の 要因によって決定されており,季節変動を取り除いたあとの自動車等本体の価 格の変動PTexは極めて小さい。一方で,自動車本体の支出のデータを検証す T .公共交通関係 T .ガソリン
鉄道運賃 S ガソリン ND
鉄道通学定期代 S T .自動車等維持
鉄道通勤定期代 S 自動車等部品 SD
バス代 S 自動車等関連用品 SD
バス通学定期代 S 自動車整備費 S
バス通勤定期代 S 自動車以外の輸送機器整備費 S
タクシー代 S X 年極・月極駐車場借料 S
航空運賃 S 他の駐車場借料 S
他の交通 S B レンタカー料金 S
Tex.交通に関する耐久消費財 他の自動車等関連サービス S
自動車購入 D 自動車保険料(自賠責) S
自動車以外の輸送機器購入 D 自動車保険料(任意) S
.. 自転車購入 D 自動車保険料以外の輸送機器保険料 S T .有料道路通行費用
有料道路料 S
表 :交通費目に関する変数の再編
*費目の前の数字は『家計調査』における分類番号を表す。
**費目の後の記号,はS:サービス,ND:非耐久財,SD:半耐久財,D:耐久財を示す。
14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0
99 100 101 102
交通に関する耐久消費財の価格(2005年基準)
交通に関する耐久消費財の購入額(円)
103
るとXTexの変動が極めて大きい。これは要因として次のことが考えられる。
まず,データ自体が耐久財の消費額を示しており,購入頻度は他の財に比較し て多くないことに加えて,購入した場合の金額自体が大きいので,特殊なイベ ントとは関係なく『家計調査』の調査対象家計が偶然に財を購入した場合,消 費額が大きくなり,全体的には変動が大きくなる。したがって,価格との関係 性は基本的になく,ランダムな要因にて消費額が決定される。この理由によ り,Texを単独の財として,価格の変化を分析モデルに加えることは不適切で あり,分析対象から除外した。簡単な分析として自動車本体等の価格と支出額 に関する図 でも,これらの価格と支出の関係が薄いことを示している!。
PT PT PT PT PTex XT XT XT XT XTex
平 均 . . . . . , , , ,
標準偏差 . . . . . ,
変動係数 . . . . . . . . . .
表 :変数の変動について
*PまたはXで始まる変数は,各カテゴリーごとの価格または支出額を示す。
図 :交通に関する耐久消費財の価格と消費量
以上より,交通に関するデータセットの作成の仕方は,自動車本体等のデー タを除外した上で,T からT までの 種類の費目に集約できる。T からT まで分類により各価格と各支出額のデータを得ることが出来るので,(Pi, Xi) のデータセットを得ることが出来る。それらのデータを用いて再度全支出を構 成し,前述の方法に従って,(pi, xi)を作成することにより,ローカルポイン ト,(psi, xsi)=( , )において半負定符号条件を満たすように推定を履行する。
. 全支出データ
交通に関する限定されたモデルとともに,全体の支出行動の中での各支出費 目の影響を分析するために全体のモデルを作成する。本来は詳細な費目に関し て対応するモデルを作成し大規模なモデルを作成することも考えられるが,大 きなモデルを作成するには推定パラメータ数の増加やパラメータ間の非線形の 存在のため,推定や分析が困難となる。
本稿においてはこの問題を回避するため,交通関係に関するモデルととも に,支出モデル全体を示すモデルを作成し弱分離可能であることを仮定し,消 費者が 段階の支出分配を行っていると仮定している。より具体的には表 に 示しているように,全体のモデルを つの費目に分類し,その一部が交通関係 の費目を構成する。全体のモデル編成は表 の通りであり,A からA のカ テゴリーに分割し,A が食料,A が住居衣類等,A が交通モデル全体を示 したものである。A には家計の全支出中A からA 以外の支出を含んでお り,交通モデルで除外されたTexの自動車等の本体部分の消費部分,すなわ ち交通に関する耐久消費財も財の一部として挿入している。全体のモデルと,
交通関係のモデルの関係を示したものは図 である。
ここでは,弱分離性が仮定されているので,交通費目の中に存在する各小費
( ) 簡単な推計を行ってみたところ,
XTex=− . + . PTex, R2= .
(− . ) ( . )
という結果を示し,これも価格と支出の関係が薄いことの証左となる。なお括弧内はt 値,R2は決定係数である。
全体のモデル A1.食料 A2.住居衣類等 A3.交通 A4.その他
交通部分のモデル T1.公共交通関係 T2.有料道路通行費用 T3.ガソリン T4.自動車等維持
wi=αi+αilog pi
Pα +βilog x P −
i
s=1τsilogPsτ+ui
目T からT はA に含まれ,他のA ,A ,A にA 全体として関係はあっ ても,個々のT からT 自体としては直接他の全体の費目A ,A ,A とは 関係がない。
推定に関して
推定するための式は⒃に誤差項を加えた
であるが,総和の条件を含むため
A .食料 A .その他
食料(大) 家具・家事用品(大)
A .住居衣類等 保健医療(大)
住居(大) 教育(大)
光熱・水道(大) 教養娯楽(大)
被服及び履物(大) その他の消費支出(大)
A .交通 通信(中)
交通(本稿による分析) 交通に関する耐久消費財(Tex)
表 :全体の支出に関する変数の再編
*費目後の括弧内の大中は『家計調査』での大分類,中分類を示す。
図 :モデル構成に関する概念図
N i=1ui= 0
u=(u1 u2 uN)
u N(0 Σ)
ι u= 0
であることが求められる!。すなわち,各誤差項は独立の関係にはなく,した がってこれにより構成される誤差項の分布はN 個のuiを要素とするN× の 列ベクトルuは
であり,
ただし,N× の全ての要素が である列ベクトル ,Σは誤差項の分散共分 散行列部分を示すN×Nの対称行列と仮定するが,その行列式を取れば,
|Σ|= となり,行列として退化した状態になっている。N× の全ての要素 が である列ベクトルιを定義すると,
の線形関係があると表現できる。この関係より全ての体系を同時には推定でき ないので,通常はN 本の消費の体系式から任意に 本の式を除外することで,
N− 本の推定を行い,残りのパラメータに関しては式 の関係を用いて逆算 する。ここでは,N 番目に相当する方程式を除外することとし,N− 本で構 成される方程式体系を考察する"。したがって,推定を行うためにこれらに対応 するN− 本の方程式体系におけるN− 個のuiを要素とする(N− )× の 列ベクトルの仮定を確認すると,
( ) ただし,式 において,sのランクrを小さくした場合には,s > rに関してτsi= と なる。
( ) この推定方法の詳細についてはBarten( )参照のこと,そこでは各誤差項の関係 からの除外パラメータの導出とともに,最尤推定について考察している。
u=(u1 u2 uN−1)
u N(0 Σ)
e=(e1 e2 eN−1)
eΣe として,
となる。ここで,記号にバーをつけているものは対応する記号のN− 個の誤 差項に対応するものである。
以上のことより,式⒃をもとにし,推定値をwiとおいて,ei=wi−wiとす る。具体的にはこれらのN− 個が多変量正規分布に従うと仮定して,最尤法 等の推定手段を用いることになる。しかしながら,推定に関しては若干の注意 事項がある。本来は推定としては最尤法が適切ではあるが,推定を行う上で,
最尤法は複雑であり,推定を履行できない場合が生じる。そこで,最尤法以外 の方法を用いる必要があるが,ここでは変数間の関係を仮定しているため,
という表記を用いて,
を最小にする方法を用いる。実際には最小値を求めることは困難が生じるた め,逐次推定値を更新する方法で推定値を求める作業を行った。具体的にはは じめに各パラメータの初期値を与え,α[0]i β[0]i τ1j[0]Σ[0]を設定しそれに応 じ てPα,P,P1τ,P2τ,P3τを 再 計 算 す る。そ の の ち,そ れ ら を 用 い てα[1]i
i
β[1]τsj[1]を計算し,さらに残差よりΣ[1]を計算する。以上のプロセスを繰り 返し収束する推定値を得ることにする。
本稿における推定は,具体的には,データ数T としてモデルの財の数は交 通モデルにおいても全体の支出モデルであってもN= として考察しているの で,N− = の財に関して考察する必要があり,
β1=(α1 β τ1 11) β2=(α2 β τ2 12) β3=(α3 β3 τ13)
y1=X1β1+u1 y2=X2β2+u2 y3=X3β3+u3
X= diag(X1 X2 X3)
y=Xβ+u
β=(β1 β2 β3) u =(u1 u2 u3) とおいて,
を定義する。ただし,ここで,X1からX3で表記されているのは,対応する 説明変数による行列表記を示しており,逐次推定を更新する上ではP,P1τ, P2τ,P3τの更新によって再計算される。y1からy3も同様に対応する被説明変 数のベクトル表記である。
これらのX1からX3行列を対角部分に配置した行列,
を用いることで,
と表現できる。ただし,βとuは
のストックベクトルを示す。diag(・)で示されている行列は,対角ブロック行 列である。
ここで,uはu N(0 Σ⊗I)である。ここでuは対応する式 に準じ,0 は0に対応するゼロベクトル,Σは式 に示された分散共分散行列である。
結果として,推定値やその分散共分散行列はそれぞれ,
β=(X(Σ⊗I)−1X)−1X(Σ⊗I)−1y
Var(β)=(X(Σ⊗I)−1X)−1
である。ここで,⊗の表記はKronecker積の演算子を示す。またIは単位行列 を示す。初期値を与えた状態で,このプロセスを計算し得られた残差からΣ を計算した後,新しい計算結果を用いて再度同プロセスを計算する。収束が得 られた時点で計算を停止し推定値を得る。
なお,式⒀の関係が存在するので,最終的に得られたτより計算されたγ に関しては,正規分布の再生性の議論が適用できず,理論的な推定分布を求め ることには問題がある。解析的に解くことは難しく,推定値の合成は単純な標 準正規分布の混合物ではなく,左右対称の分布でもない場合があるので,シ ミュレーションによって信頼区間を考察する。同様にそれを用いた価格弾力性 の分布に関しても解析的な導出は困難であり,シミュレーションを用いた分布 を考察する。
分 析 結 果
. 交通に関するモデル
計算結果は直接的に推定を行った場合,表 のようになった。ただし,α4
とβ4は直接に推定過程から得られたものではなく,変数間の関係を用いて計 算によって求めている。計算結果は基本的に推定値の %の信頼区間の範囲 を示している。この結果を見れば,αの値は基本的に各財の全体に占めるウェ イトを示しているが,標準誤差が小さいこともあり,全体的に信頼性の高い値 を得ることができる。次にβであるが,βの推定値は支出弾力性の変化に影響 を与え,特にこの値が正になるか負になるかで,その財が選択的支出的な財か 必需品であるかの分岐点になる!。計算結果はβ1,β2が推定値では正の値をとっ
( ) もちろん,値が極めて小さい場合には,場合によって下級財の可能性もある。
α1 α2 α3 α4 β1 β2
β3 β4 τ11 τ12 τ13
ているものの, %の信頼区間は負の領域をも含んでおり,通常の帰無仮説で
もβ= を有意水準 %で受容できない結果となる。一方で,β3に関しては推
定値は負をとっており, %の信頼区間も負の領域だけで構成されていること から負の値,すなわち後に計算される支出弾力性に関しても必需品である可能 性が高い。最後に,β4に関して,推定値は正であり, %の信頼区間も正の 領域だけで構成され,値としては正だと判断でき,後に計算される支出弾力性 は選択的支出財であるということができる。τの推定値自体はこれ自体が意味 をなすわけではなく,γを計算する際利用される。
表 の結果を受けて,τとγの関係を示す式⒁や,通常のAIDSである式⑶ や式⑷の関係を用いて残りの式のパラメータを求めたものは表 となる。ここ では点推定値のみを示している。なお,γによって構成される行列は対称行列 である。
ここで,γはτの関係より導出されているので,最初の仮定からτ自身は分 散共分散行列に式 を持つ正規分布に従って,推定値が分布していると考え られるが,γ自体の推定値は正規分布としては分布せず,平均値が でない 複数の正規分布の和や積の複合分布となる。本稿においては元々の正規確率変 数の誤差項を各 , 個与えることで,推定値の分布に関してのシミュレー
推定値 . . . . . .
標準誤差 . . . . . .
%信頼区間上限 . . . . . .
%信頼区間下限 . . . . − . − .
推定値 − . . . . .
標準誤差 . . . . .
%信頼区間上限 − . . . . .
%信頼区間下限 − . . . . . 表 :交通に関する推定結果
γ11 γ12 γ13 γ14 γ22
γ23 γ24 γ33 γ34 γ44
αi
βi
γ1i
γ2i
γ3i
γ4i
ションを行い,信頼区間の構成を行った。γの分布に関しては通常の対称分布 にはならず,特に,γの対角要素など初めに制約として正を仮定しているもの は分布の形状が強い非対称を示すものがあった。結果としてγの各値に関し てシミュレーションの結果信頼区間を求めた結果が表 である。γ自体は式⒁ の関係式よりτと結びつけられたものであるので,特に,対角要素部分は人工 的に負値をとるように設定されている。当然のことながら表 の信頼区間の構 成に関してもこの条件を満たすが,その推定値の分布の形は歪んでいたり尖っ ていたりしている可能性があり,通常の正規分布の形状とは厳密には異なる。
パラメータ名
平均 − . − . − . . − . 中央値 − . − . − . . − .
標準誤差 . . . . .
%信頼区間上限 − . − . − . . − .
%信頼区間下限 − . − . − . . − . パラメータ名
平均 − . . − . . − .
中央値 − . . − . . − .
標準誤差 . . . . .
%信頼区間上限 − . . − . . − .
%信頼区間下限 − . . − . . − .
. . . .
. . − . .
− . − . − . .
− . − . .
− . .
− . 表 :交通に関する最終的な推定値
表 :交通に関するγの信頼区間について
e∗1 e∗2 e∗3 e∗4
表 自体の信頼区間を見ると,多くの標準誤差部分でその大きさが比較的小さ なこともあり,多くの場合が狭い区間で信頼区間を構成するか,もしくは信頼 区間内が狭くなくても区間が を横切ることはなく,符号の影響としては各推 定値は正負のいずれかに限定される。特に対角要素部分に相当するγの値は 理論的に負値をとるように設定されているので当然ではあるが,いずれも負値 であり,理論的に価格が上昇すればその財の消費量は減少することを示してい る。実際の値を含めた検証に関しては弾力性の値で評価したほうが,財の性質 自体がわかりやすいので,対応する価格弾力性部分で詳細に検証を行う。
初めに支出弾力性を計算するが,計算は式⒇を用いている。支出弾力性に関 しては初めにβが計算され,β自身の推定値の分布は正規分布に従い,その標 準誤差も算出できているので,表 の値より理論的に誤差が計算され,表 の ようになる。支出弾力性の計算結果は推定値の値だけを見れば,各財e∗1から e∗4まで上級財であり,そのうちガソリンの財を意味するe∗3のみが必需品の性 格を見せ,その他の財であるe∗1,e∗2,e∗4が選択的支出品の性格を有していると いうことができる。ただ,統計的な検証の上ではe∗1,e∗2は %信頼区間で判 断した場合,支出弾力性が から の領域にかかる部分がある。そうした意味 で,これらの財は選択的支出品に比重があるものの必需品としての可能性も捨 てきれない。したがって,厳密な意味での財の性格が不明確である。一方で,
e∗3とe∗4は統計的にも明確にそれぞれ必需品と選択的支出品であると結論付け ることができる。
次に価格弾力性について考察する。本稿においては表 と表 の結果を受け て点推定の結果として,表 の結果を得た!。計算結果はMarshallの価格弾力性
支出弾力性
推定値 . . . .
標準誤差 . . . .
%信頼区間上限 . . . .
%信頼区間下限 . . . . 表 :交通に関する支出弾力性
h1j
h2j
h3j
h4j
m1j
m2j
m3j
m4j
に加えてHicksの価格弾力性を計算している。これらが,p= かつx= の下
で,計算された価格弾力性ということになる。さらに,単純に点推定ではなく,
その推定量の分布も考察し,実際に推定値が信頼すべき範囲にあるかどうかを 前述のシミュレーションを用いて考察している。推定量の分布に関しては基本 的にはいくつかの確率変数が複合した分布になるので,初めに推定の際の正規 分布の仮定より,βとγを利用し,式 と式 を利用し,それぞれMarshallと
Hicksの価格弾力性とそれらの %信頼区間を求めている。その価格弾力性の
分布も含め信頼区間を示したものがMarshallタイプとHicksタイプごとに,そ れぞれ表 と表 に示している。また,その推定された価格弾力性の分布を 示したものをそれぞれ図 と図 に示している。
この段階で弾力性自体の推定値とその分布について求めることができたの で,ここで 計 算 に よ っ て 得 ら れ た,統 計 的 解 釈 に つ い て 言 及 し て お く。
Marshall型の価格弾力性は自己価格弾力性部分は明確に負の効果があるとでて
おり, 個いずれの自己価格弾力性も %信頼区間に関しても を含まず,
負の効果があることが確認できる。また,非自己価格弾力性の部分に関しても
( ) Goodwinet al.( )やLina and Princeb( )による過去の研究のまとめではガソリ ンの自己価格弾力性として短期で− . から− . 程度,長期で− . から− . が平均 的に示されているとしている。また,環境経済やエネルギー経済の分野からのサーベイ である天野( )や星野( )などには一部ガソリンや運輸関係の自己価格弾力性 が紹介され,そこでは− . から− . の範囲の値が示されている。それらの値の存在 と比較すると本稿においてそれに対応する値は− . と幾分高めではあるが,サーベイ 対象の研究は需要関数の特定化,対象自体や期間,データ等が異なり,一概に比較でき ないことを書き加えておく。本稿と分析手法が近い小池( )においては取り扱うデ ータやカテゴリーの枠組みが大きく異なるため,弾力性の値の比較対象とはならない。
Marshall j= j= j= j= Hicks j= j= j= j=
− . − . − . . − . − . . .
− . − . − . . − . − . − . .
− . − . − . . . − . − . .
. . . − . . . . − .
表 :交通に関する価格弾力性