第36巻第5弓
貸付資金の創造または仲介と 料 金融機関の役割
金 森 恒 利
・−−1・/ −
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1.問題の提起
(1)信用の創造または仲介の銀行理論的概念
伝統的な銀行理論に′よれば,銀行組織,すなわち発券銀行および商業銀行等 の貨幣組織ほ信用またほ.貨幣の創造を行うが,その他の金融機関(われわれほ 以後簡単化のために貯蓄銀行でこれを代表させる)ほ単に信用の仲介を行うに すぎないといわれ,特に商業銀行ほと.れまで貨幣当局によって,その他の金融 機関に比べて厳しく管理統制を受けてきた。ここ紅いう信用創造とほ,−・般に 銀行が自らの債務であるとちろの銀行貨幣を創造して信用の供与を行うことを いう。南米銀行の場合ほ,自らの債務であるところの,いわゆる当座預金を創 造することによって,貸出またほ証券投資を行うことをさす。そして発券銀行 の場合ほ,いうまでもなくその債務である銀行券の発行によって信用供与を行 うこ.とをいう。しかるに,その他の金融機関は.このような信用創造の能力をも っでいない。明らか紅,これらの金融機関の債務,たとえば貯蓄銀行の貯蓄性 預金またほ貯蓄債券ほ,商業銀行の当嘩預金と追って,小切手の使用によって その預金の形態のまゝで支払手段としての機能を営むことはできない。したが って,貯蓄銀行の場合にほ,予め他の貯蓄者によって:預入れられた貨幣を,他 の借手に貸出すのであって,いわゆる,貸手と借手との間に介在して,信用の 仲介的な役割を果すにすぎないといわれる。ところが,商業銀行の場合ほ,先 述のように,このような予め他のところでなされた貯蓄を前提とすることな
く,いわば貨幣を「無」から創造するこ.とによって,貸出または証券投資を行 うことができる。このような商業銀行の特殊な能力に注目して,これまで商業 卿了は特に信用または貨幣の創造機関として,その他の信用仲介的金融機関と
549 壬納 資金の創造またほ伸介と金融機関の役割
−−5−
区別されてきた。このようなミクロ経済的または銀行理論的見地からみたとこ ろの商業銀行の信用創造と貯蓄銀行等のその他の金融機関の信用仲介の概念に.
ついてほ,今日なお詳細な点紅おいて色々と論ずぺき問題も多く残されている
(1)
かもしれないが,大吊的な見地からは大体異論のないものと思われる。
(2)貸付資金の創造または仲介の国民経済的概念
上記の商業銀行の信用創造と貯蓄銀行の信用仲介の概念が一−・般的な承認を得 られるものとすれば,それではどうしてこのような商業銀行の信用創造がこれ まで特にやかましく問題とされ,貯蓄銀行と特に区別されて,貨幣当局紅よ.っ て厳しく管理統制されてきたのであろうか。それはこのような商業銀行の信用 創造が貨幣の「超過供給」を発生せしめ,国民経済の運行に対して撹乱的な作 用を及ぼすものと解されたためである。先紅も述べたように.,商業銀行は予め 他のところでなされた貯蓄を前提とするこ.となく,「■無」から貨幣を創造する
ことによっ七信用の供与を行うことができるが,このことほいわゆる事前的な
(ex ante)経常的貯蓄を超過して,貸付資金を供給せしめうる能力をもつもの といわねばならない。したがって,国民経済的な貯蓄・投資の過程において,
後に詳細に述べるように,事前的な経常的投資をして,事前的な経常的貯蓄を 超過せしめうることが可能となる。このこ.とは結局は有効需要の増大を可能に
し,経済の成長発展をもたらす要因となるであろう。したがって,それほ国民 経済の活動状況の如何に・よってほ,比較的安定した価格水準のもとで,実質的 国民所得と雇傭の水準を上昇せしめ,必ずしも有害な粒乱的作用を国民経済浸
(1)たとえば,個々の商業銀行は信用創造を行うことはできないが,銀行組織全体として は可能であるとい・う問題。また,信用創造と貨幣創造とを同一祝するか,あるいは区別 するとしてもそれに対する見解の相異。、さらに,貯蓄銀行もまた商業銀行と同じ意味に おいて信用創造を行いうるのかどうかの問題などである。た鱒し,ここでほわれわれは,
商業銀行組織および貯蓄銀行組織を対象とし,個別銀行を問題としない?
なお,われわれは商罪銀行が「頻りから貨幣を創造することによって信用供与を行い うると述べたが,これはハ−ン流の「無現金経済」を想定した上の議論1であって,今日 の「混合貨幣経済」においてはそのまゝ芸当しない。帝米銀行のイ言用創造は,中央銀行
貸幣による本源的預金を前提することほいうまでもない。しかし,この本源的預金を基 礎として,乗数倍の預金貨惰ほたは「貨幣」を創造しうることほ,今日の銀行理論の−ハ
般に認めるところであろう。
第36巻 解5号 550
ーーー 6 −
及ぼすとは限らないであろうノ。経済の成長発展のためにほ銀行の信用創造が不 可欠の要因とさえいわれる。しかし,その経済が完全雇臓の水準に近づくと き,なおこのような信用創造にもとづく投資活動が過度龍継続されるならば,
結局物価と賃銀の上昇を誘発し,国民経済を混乱に陥れることもまた周知のと ころであろう。しかるに,貯蓄銀行は先述のように,このような信用創造の能 力をもっていない。それほ単に信廟仲介的な作用を営むにすぎず,上記の貯 蓄・投資の過程に.おいても,貨幣の超過供給,すなわち貸付資金の追加的創造 を発生せしめる能力を全くもたないものと解されてきた。したがって,このよ うな貯蓄銀行の信用仲介作用は,国民経済的な貯蓄・投資の過程においても,
せいぜい事前的な経常的貯蓄に等しい範囲に・おいて貸付資金を供給しうるにす ぎザ,いわゆる,貸付資金の仲介的役割を果すにすぎないものとされ,国民経 済に対して何ら撹乱的作用を生じないものと解されてきた。したがって,これ までその活動は,商業銀行のように当局によって厳しく管理統制されることな く,比較的自由な営業活動が認められてきたといわねばならない。しかし,こ のようなミクロ経済的またほ銀行理論的な立場からみた信用創造と信用イ中介め 概念を,果してそのま」マクロ経済的または国民経済的立場からみた,貯蓄・
投資の過程にノおけるイ言用の創造と仲介の概念に適用することがゆるされるであ ろうか。ここに,われわれはミクロ経済的または銀行理論的立場からでなく,
マク?経済的または国民経済的立場に立って,かかる銀行の信用創造または侶 剛中介の作用のもつ意義を,もう−・皮考察し直す必要があるように思われる。
そこで,われわれほ幾分概念を勝手に規定しすぎる嫌いがないわけでほ.ない が,これまでの銀行理論的な立場からみた信用の創造と仲介という概念に対し て,新しく国民経済的立場からみた「貸付資金」の創造と仲介という概念を設 定して,マクロ経済的立場からこれらの金融機関の役割を再検討しようとする
(2)
のがこの小論の目的である。
l2)本稿は,金融学会関西部会(昭和37年12月)および同西日本部会(昭和38年9月)の 報告の−・部に加筆修正を加えたものである。なお、本稿執筆中,大阪府立大学の鍬田邦
夫氏が 貸付資金と金融政策 (バンキング,187号56〜57頁)と題し,同じく貸付賀金 の創造の問題を論ぜられた。色々と有益な示唆を与えられたこと性感謝の恵を表する。
拭付賀金の創造または仲介と金融機関の役剖
−7−−
551
2.経済循環と金融構造
(1)モデルの説明
ゎれわれは以上の問題を考察するために,極めて簡単なマクロ的経済循環と 金融構造の一つのモデルを想定することが便利と思われる。問題の焦点を明確 にするために,われわれはかなり大胆な抽象化を行うことをゆるされたい。傾
1図参照)
さて二,われわれめ国民経済においては,財および用役の生産の主体は企業で あり,それは期首に†定の実物資本財を400(貨幣単位で表わされる。以下同 じ。)支配するとともに,今期の生産のために必要な労働および土地用役等の
生産用役の購入やその他の支払のため紅必要な貨幣100を商業銀行から一一周間 第1図 経済循環と金融構造
⊂二二二ニコ
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/⁚叫 ㌧K = 長物茨木明
白 =∴明細券または蛮卜次証甥
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M,= 情動災難
M2 = 不i.1動j呈幣
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NⅥ㌧ こ=正味資産
第36巻 第5−ぢ
552 ーβ一−
借入れて,生産を開始するものとする。なお仁説明を簡単にするため,政府の 経済活勒と外国貿易は捨象する。したがって,その期間に,企業ほ100の生産 物を生産し,他方家計ほその間紅賃銀,地代,利潤,利子等として100の貨幣 所得を受取るととも紅,それをその期の生産物に対して支出するものとサーる。
次に企業の支配する実物資本財の形成に必要な資金ほ,確定利付の永久債券の 発行によって調達されるものとする。実際に.ほ株式,出資証券等の持分権や社 債,手形,借用金等様々の種類の債務からなるであろうが,簡嘩化のためにこ の事米債券で代表せしめたわけで,必要に.応じてそれを多様化することに.する。
これはガーレ−・Vヨク両教授によって,第一・次証券(primary securities)ま たほ膚接負債(direct debt)と呼ばれるものに当る。さて,企業ほ.すで紅実物 資本財を400支配しているのであるから,すでに.400の尊兼備券を発行してい
(3)
るごとになる。しかもその400は家計の貯蓄勘定の過去のポートフォーーリオ の選択に従って−,商業銀行に200,貯蓄銀行に100,家引に200とそれぞれ配 分,保有されており,家計の貯蓄勘定ほまたこの200の事業債券以外に貨巧守,
すなわち商業銀行の当座預金を100,貯蓄銀行の貯蓄債券を100,それぞれ保 有しているものとする。家討の保有する100の貨幣は,いわゆる不活動貨幣と
しですでに保蔵またほ退蔵されてきたもので,価値貯蔵手段としての機能を営 んでいる。したがって,家計の保有する金融資産の合討ほ400で,企業の前期
(4)(5)
までの事業債券の発行高の合計に等しい。
(3J資産側の実物資本財の貨幣価値と負債側の事業椴券の貨幣価値とが,つねに等しいと いう保証ほないかもしれないが,ここでほ両者ほ等しいものと仮定しておく。
l射 銀行もー・種の企業であって,国民生産と所得の分配に参加する。われわれは商業銀行 と貯蓄銀行を企業から分離して特別の勘定として図示するが,それは実物的な経済循環 と金融構造を示すためで,国軍所得の循環との関係に・おける金融機関の活動は,企兼の 中に含まれている。
(引 期間の長さを如何に定めるかが問題であるが,活動貨幣の平均所得循環速度が1に等 しい期間をとることにする。これほフローとしての国民所得をヌトソクとしての貨幣残 高の大きさに−L致せL.めるという便遍をもつためである。しかし,このような取扱いに
も,かなり問題がふくまれているかもしれない。というのほ.,現実の貨幣残高の中に ほ,企業と家計との間の所得循環に関ノ亨しない埼幣残直があるからである。たとえば、
企業間の■1]閥丑産物の収引や,既みの土地∴建物,およぴその他の資本則の転売や,金 融贅産の亮貰のための営業貨幣である。政称や外国貿易も考慮すれほ,さらにそれほ糟
貸付資金の創造または伸介と金融機灘の役割 −・9−−
553
次に・簡単化のために,貨幣ほすべて商業銀行の当座預金からなるものと仮定
(6)
する0現金貨幣と預金貨幣との両者からな・る今日の混合貨幣経済のレステムを 考えるとき,このような無現金経済の仮定は,極めて\非現実的な抽象であると の非難を受けるかもしれない。殊に,今日の英米等の先進国におけるように預 金貨幣の比重が極めて大きい場合に.
れないが,わが国のように現金貨幣の比重が極めて大きい国では,かなり問題 の多いことはいうまでもない。しかし,われわれほ.そうした問題のあるこ.とを
−ト分承知の上で,あえて上記の仮定を設けることにし,後に必要に応じて中火 銀行と商業銀行とに∴二分することにする。というのは,国内経済のみを問題と する限り,発券銀行である中央鈍行と当座預金銀行であ亭商業銀行を一・体とし てみるときほ,銀行券と預金貨幣とを一・体とした貨幣の供給遍は,これらの銀 行によ?て技術的には無制限に創造されうると考えられうるからである。な お,′われわれほ商業銀行の預金貨幣の創造限度ほ,貨幣当局によって,何等か
(7)
の方法で,常に.統制されているものとする。
さて,以上のモデルにおいて,企業ほ家討から労働および土地用役等の生産 用役を購入して生産を開始するわけであるが,いま企業ほ.今期の100の生産物 のうち,消費財に対する需要を80,資本財に.対する需要を20と予思して,消費 財を80,資本財を20それぞれ生産するものとする。他力,家計の消費支出は国 民所得の水準軋依存するものとし,その平均消費性向を0.8と仮定しよう。す
加する。特に企菓闇取引の営業貨幣ほ,企業間信用の増減によって変動するであろう。
ま㌧た活動貨幣と不活動貨幣の区別も統言寸的にほ観粍である。このように考え.ると,現実 の眉幣残高と国民所得の大きさから,直ち紅活動貨幣の平均的所得循環速度を求めるこ とも,実麒の問題として必ずしも容易ではないであろう。ただここでは,所得貨幣とそ れ以外の取引貨幣との問に比較的安定した関係のあるものと仮定して,一応理論的に所
得貨幣の平均的循環速度が1に等しい期間をとることにした。したがって,簡単化のた めに,不活動貨幣は別として,所得貨幣以外のものほ除かれている。、なお,この期間が 衷定かど・うかが問題であるが,われわれほ活動貨幣の所得縮環題叔が1に等しい期間 を,それぞれの期間として選ぶということで,こ.の問題を−一一一瀬解決してこおく。
l61商業銀行の定期預金ほ除いた。それほ貯蓄性預金であって,機能的に.ほ貯蓄銀行に含
まれるべきと考えるためである。
(7〉 たとえば,扱高預金額制限制度,またほ支払準蛸率制度に類似の方式。なお,貯蓄戯 行の支払準備金の存在ほ鮨祝する。
554 第36巻 解5号
− ノ(ト一一
ると,家計ほ今期の所得100のうちから80を消費支出に振り向け,残りの20を 貯蓄するであろう。この結果,企業の消費財生産部門ほ,期首に予燈して生 産した80の消費財を丁度売り尽ぐすことができ,今期の消費財の生産のため紅 支出した80の貨幣が,期末紅丁度その生産物の売上代金として手許に還流して きたことを見出すであろう。ノしたがって,消費財市場においてほ需給が均衡す る。企業は,期首に銀行から短期に借入れた1()0の貨幣のうち,80を銀行に返 済することができるであろうっすなわち,期首に発行した事業債券を期末に買 い戻すことがそきる。
次に資本財生産部門ほ.どうであろうか。その前に,われわれほ次のような仮 定を設けよう。すなわち,われわれほ.投資活動ほもっぱら企業が行うものとす
るが,一応この企業の投資活動を機能的軋,その資本財生産部門から分離し,
企業の投資勘定が生産部門から資本財を購入することによって行うものと仮定 する。なお,われわれの所得ほすべて家計に分配されて,企業にほいわゆる留
(8) 保所得は存在しないものと仮定する。したがって,企業の投資勘定ほ全く収入
をもたないわけで,投資のため紅必要な資金ほ全く外部金融に依存しなければ ならないであろう。そこで,この勘定は,事業債券,すなわち第一・次証券を発 行して,家計の財蓄勘定またほ金融機関から調達した資金によって,企巣の生 産部門から資本財を購入して投資活動を実現するわけである。ここた企其の投 資勘定から貸付資金に・対する需要が発生する。また他方では,家計は今期に貯 蓄した貨幣でもって,直接に実物資本財を購入しないものとする。したがっ て,それむ草すペて貸付資金として供給されるか,あるいは貨幣の形態で資産と して退蔵さ叫るであろう。要するに,企業の投資勘定ほ,ガ」−レイ・ショウ両 教授のいわゆる赤字支出単位(deficit spending units)であり,家封の貯蓄勘
(9)
走は諾字支出単位(surplus spending units)というわけである。
(8)簡易化のために,内部金融の問題は省略した。
(9)ここで貯蓄の概念について,ニつの見方のあることを,チャンドラーにしたがって,
注意しておこう。すなわち,貯蓄の一・つの概念ほ,生産物に対する消費として需要ざれ た後に「変転された」生産物の価値を・示すものである。それに対してもう仙つの概念ほ,
国民所得のそれぞれの水準において,消費として支出されないところの,それゆえに投
員付資金の創造またほ仲介と金融機閲の役割 肝JJ−
555・
(2)直接金融
さて,われわれのモデルでほ,家計は今期の所得から20の貯蓄を行い,貸付 可能な資金として20を保有する。このことは,明らかに企業の生産部門におい て−,この20の貯蓄に見合う資本財の供給のあることを意味する。次に.われわれ は,資本の限界効率と利子率およびその他の諸要因に.よって,企業の投資勘定 ほ∴その投資水準を決定するものとする。しかもいま,現行の利子率の水準のも とで,今期のこの計画された投資は,丁度今期の家計の計画された(またほ意 図された)貯蓄20に等しい大きさであると仮定しよう。企業の投資勘定ほその ために20の事業債券,すなわち第一・次証券を発行して−貸付資金を需要するであ ろう。もしこの20の第・−−㌧次証券が,家計の貯蓄勘定の手許紅ある20の貸付可能 な資金によって購入されるならば,投資勘定ほその20の資金で,資本財生産部 門において生産された20の資本財を丁度購入することができるであろう。そ
こ.で,企業の資本財生産部門に.おいても,期首に予想した需要のもとに生産し た資本財を,実際に計画通りに売り尽ぐすことができたわけで,この資本財生 産部門に.おいても需要が均衡することになる。したがって,資本財生産部門に おいて卑,期首に投下した貨幣資本が期末紅丁度手許に回収されたわけで,銀 行にそれを返済することができるであろう。
このようにして,家計の今期の所得からの封画貯蓄に等しい貸付資金の供給 が,投資々金として需要されで投資勘定に∴流れるときは,結局企業の消費財並.
びに資本財の両生産部門年おいて需要と供給は均衡し,企業全体として期首に 投下した貨幣資本は計画通り順調に回収されうることになる。短期分析として
資支出を金融するために利用可能な,可処分国民所得の一部を示すものである。一腰に 国民所得分析に.おいて用いられる投資,貯蓄の概念は,前者の意味のもので,実物的性 格のものである。したがって,貯蓄によって表わされる生産物の供給が,たとえば投資 需要より大であるような場合には,生産物の仙部闇売れ残ることになり,そのため生産者 は次期にその生産罷を減少せざるをえなくなるというように解サるわけである。しかし,
−・搬に利子率の水準の決定等,金融の問題において用いられるのは,むしろ後者の意味
の貯蓄の側面,すなわち投贅々金の供給由源泉としての貯蓄であって,資金的性格をも つものである。このことほ利子理論における措付資金説に.おいて,貸付登金の供給の貯
泉として貯蓄があげられる場合,それは資金的性格の貯蓄であることに留意すべきこと を意味する。(LVChandler,The Economicsof Money and Banking,pp」233,234)
第36巻 第5号
5.56
‑‑ 12 ‑
投資の産出効果を−・応無視しうるとすれほ,ここにいわゆるケインズ的な短期 均衡の状態が成立するであろう。したがって,他の事情にして変化のない限
り,国民生産と国民所得の水準は,打一・の規模に維持,継続されるものと解さ れる。すなわち,次期に.おいても企業は期末に銀行に返済した100の貨幣をま
(10)
た借入れて,80の消費財と20の資本財の生産を計画サーるであろう。
さて−,このような国民生産またほ国民所得の均衡が成立す−るためにほ,実物 的な意味の計画投資と計画貯蓄の均等を条件とする。しかし,そのためにほ上 述のように.,家計の今期の封画貯蓄に等しい貸付資金の供給が,企菜の投資勘 定紅投資資金として需要されねばならない。われわれはこのことと,投資勘定 の発行した第†・次証券の20が,丁度家計の貯蓄勘定において購入されることに 見出したわけである。こ.のように,赤字支出単位の発行する第一・次証券または 直接負債(direct debt)が,直接に黒字支出単位によって購入されることによ
り,貸付資金が後者から前者に金融される金融形態を,われわれほ.「直接金 融」(direct finance)と呼ぶ。
(3)間接金融
われわれはこれまで第一・次証券を単に優良な事業債券でのみ代表せしめてき
たが,実際の問題としては,その種類は極めて多く,流動性,安全性,確実
性,収益性,期間の長短,担保の有無とその瞥など,その性質ほ極めて多種多 様なものからなっている筈である。また,蓼計の貯蓄にもとづく貸付可能な資 金の性質にしても必ずしも−・様なわけでなく,貸付可能な期間の長短やその金 額の大小などその内容もまた多種多様であろ・う。したがって,これらの円滑な 需給の一・致ほ,各主体の麿接的な取引にそれぞれにまかされるときは,必ずし
(11)
も容易に達成されるとほ期し難いであろう。特に貨幣ほ−・般的交換手段として
(10)投資の産出効果を考慮するとき,資本係数−・定のもとに,カッセル的な均斉的前進経
済(die gleichm孟ssig fortschreitende Wirtschaft)のモデルを,これから導き出すこ ともできるが,いまこれには立入らない。
旭 この直接金融を円滑に.するために,証券会社やその他のプロ一九ー的商人が仲介的役 瑚を演ずるであろう。しかし,これらほ次をこ述べる間接金融のための金融機関‡こほ含め ない。
欝イ]資金の創造またほ仲介と金融機関の役利
一J3−
557
使用されるのみでなく,また仙他の貯蔵手段としても利用される。なるはど,
それは第一・次証券と追って,利子や配当等の収益や資本利得を生じないかもし れない。しかし,一・方でほそれは最も流動的で且つ価格の安定した確実で安全 な資産でもある。したがって,家封は,その経常的な計画貯蓄に等しい貸付可 能な資金を,全部直接金融の径路を通して昇一・次証券またほ直接負債の購入に 振り向けないで,その・−部を資産貨幣として,いわゆる予備的動機や投機的動機 から保蔵することも考えられる。それゆえ,このような状態において,もっぱ ら直接金融のみが行われると,貸付資金の供給に対して,需要ほ超過傾向を生
、、じ,その結果−・・般的に利子率がかなり上昇するものと期待されるであろう。も ちろん,この利子率の上昇によって,投資のための資金需要が低下せしめられ るとともに,他方では家計の貯蓄からの直接的な貸付資金の供給もあるいほ増 加をみるかもしれない。とにかくこのようにして,いま直接的な金融市場を通 して貸付資金の需給が均衡するとともに一・定の利子率の高さが決定されたとし よう。しかもその結果,20の貯蓄の中で10が直接的に算−・次証券の購入に流 れ,残りの10が貨幣,すなわち当座預金の形態で保有されるものとしよう0明 らかに,投資勘定の今期の実現された投資ほ10となり,資本財生産部門において ほ計画した生産鼠が全部売却されず,したがって期首に投下した資金は全部ほ 回収されないであろう。この場合資本財の価格が下落するか,あるいほ意図し ない在辟の蓄積となるかば.,それ垂れその時の経済状況と企業の態度によって 異なるであろう。いずれにせよ,企業の資本財生産部門において,予期せぬ損 失(windfal1loss)が発生するわけで,10だけ資金の不足を生ずる。それは新し
く滞貨金融として銀行からの貸出を受けるか,過去の退蔵貨幣を放出するか,あ るいほ.家計から新しく借入れをなすかしなければ,今期の生産のために期首に 借入れた100を全額ほ銀行に返済することほできないであろう。要するに,一 般的に言って,このような状態では,短期的には,企業は.次期紅は生産の縮少を 余儀なくされ,国民所得と雇傭の水準の低下あるいは物価の下落をもたらすも のと期待される。したがって,今期の計画貯蓄に等しい投資が実現され,少く
とも現行の価格と利子率の水準に串いて−,前期と同一・の規準の経済活動が維持
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・・一 り −
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されうるため紅は,今期の計画貯蓄に等しい貸付資金の供給が,投資々金とし て需要されることが必要であろう。しかるに.先にも述べたように,現行利子率 のもとでほ,直接金融のみでこのような貸付資金の需給の均衡を達成すること 醍極めて困難であろ・う。またたとえ貸付資金の需給の均衡が達成されたとして も,その時の利子率の高さにおいてこほ.,今期の計画投資は計画貯蓄をおそらく 下まわるであろう。そこで,この直接金融から生ずる貸付資金の需要の緊張を 緩和し,その困難を潅服すべく生れたのが,金融機関の仲介による「間接金 融_l(indirect finance)の形態であるといわれる。こ.の間接金融は,商業銀行を 経由する貨幣的間接金融と,その他の金融機関を経由する非貨幣的間接金融と に分けられる。さら紅,それは単に仲介的な場合と創造的な場合とに分けられ るが,われわれはまず仲介の場合から説明を始めよう。
5.貸付資金の仲介
(1)貸付資金の仲介と貯蓄銀行
前述のように,連接金融のみでは貸付資金の市場ほ超過需要の傾向を生じ易 く,そのため利子率の水準は−・般的に上昇の傾向を伴うであろう。しかる紅,
一・方でほ商業銀行の当座預金,すなわち貨幣に対して■は普通紅ほ利子が支払わ れない。そこでこの利子率の高さとその格差に注目して,第㌻・次証券の利子率 はどには高くはないが,貨幣と違ってノ利子が支払われるとともに,第一・次証券
(12)
よりも安全性,確実性,流動性,あるいはその他のサ−ビスの点において,比 較的優れているところの貯蓄預金またほ貯蓄債券を貯蓄銀行が発行したとしよ う。このような金融機関の債務を,ガ−レイ・ショウ両教授ほ,銀行の当座預 金とともに間接負債(indirect debt)と呼ぶ。この貯蓄債券の性質は,これま で第一・次証券を嫌って貨幣を選好して−いた貯蓄者をして,貸幣を放棄して貯蓄 債券を購入せしめるかもしれない。あるいは第一・次証券から貯蓄債券への転換
を誘発することも考えられる。そこで,貯蓄銀行ほこうして得た資金でもっ
(1カ たとえば,保険,銀行から梢入れの便甘,旅行,経常相談,住宅資金の貸付,その他 多くのサ′−ビスがあげられるであろう。
559 貸付資金の創造またほ仲介と金融機関の役割
・−お−
て−,彿−・次証券を購入しうることになるであろう。たとえば,前例において不 活動化されたiOの当座預金紅よって,新しく貯蓄債券が購入されるならば,貯 蓄銀行ほそれによっで第一・次証券を10購入しうることになり,企業の投資勘定 ほ家計の計画貯蓄に等しい計画投資を実現することが可能となる。家討の経常 的な計画貯蓄に等しい貸付資金のうち,10はこのように貯蓄銀行の仲介によっ て間接的に投資に金融されたわけである。この場合,貯蓄銀行は明らかに,ミ クロ経済的立場からほイ言用の仲介的機能を営んでいるにすぎない。そ・れは家計 から預った10の貨幣を単に企業紅貸出したにサぎない。なるはど,そこには貯 蓄債券という金融資産が創造されてはいるが,貨幣ほ創造されてほいない。そ
して,マクロ経済的に.も,それは貯蓄勘定の貸付資金が投資勘定紅間接的に金 融された紅すぎないのであって,いわゆる貸付資金の仲介作用が行われたので ある。こ.のように商業銀行以外の金融機関を仲介として,究極的な貸手である 黒字支出単位から,究極的な借手である赤字支出単位に対して二行われる貸付資 金の金融を,われわれは非貨幣的間接金融と呼ぶ。厳密には仲介的非貨幣的間 接金融と呼ばれるべきかもしれない。(第2図)
なお,与・こで反省しなければならないのほ,仲介の概念に・ついでであろう◇
貯蓄銀行等の金融機関が貸付資金の仲介を行うという場合に,それほ単に与え られた貸付資金の需給に対するプロカー的仲介を意味するのでなく,−▲般に言
第2図 非貨幣的間接金融
洩賛拗馬 1明光銀行 貯新鋭寺7
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−・J6
われるように信用代位の作用が営まれていることほ明らかである。貯蓄債券等 の間接負債ほ,それらの金融機関自体の債務であって,それが直接負債,すな わち錦←・次証券が特っていないような各種の性質のために遥好されるのであ り仁単に流動性の大小のためほかりでない。したがって,金融資産の多様化が 行われると,貸付資金の流れの径路もまた多様化されることになるが,このこ とは,単に.与えられた貯蓄からの貸付資金の流れが,貯蓄銀行等の介在によっ て辻廻化されるというのみでなく,その流れの幅そのものを大きくする作用を 営むのでないかという問題を生ずる。たとえば,新しい貯蓄債券の発行によっ て,これまで第一㌧次証券を嫌って貨幣を遜好してこいた人々が,貨幣から貯蓄儀 券にその道好を変えたとしよ・う。こ.の場合,もし新貯蓄債券が発行されなかっ たならほ,おそらく退蔵が行われ,それだけ減少していた筈の貸付資金の供給 が,実はこの新貯蓄債券の創造によってそれだけ減少をみなかったと解される からである。したがって,貯蓄銀行の仲介作用は決して単なる仲介でほなく,
却って創造と解されるべきでないか,という問題が生ずる。これについて:考え られることは,普通の商業匿おける仲介人(middle man)またほ商人の役割で あろう。そ・れぼ生産者と消費者との問の単な商品の仲継者ではなく,彼等によ
って商品の需給が円滑化され,それ樗よって商品の販売鼻が影轡を受けること ほいうまでもない。そこ紅ほ何らかのサービスが創造されており,考え方によ っ■てほ商人もまた生産者ともいえよう。しかし普通,われわれはこれらの商 人の機能を仲介と呼び,生産またほ創造とは考えない。同様に,われわれほ貯 蓄銀行等の仲介機関もある意味でほ創造作用をもつことを認めないわけでほな いが,やほりそれが究極的な貸手において与えられた経常的な計画貯蓄に等し い貸付資金が,究極的な借手に移されるという意味において,これらの金融機 関の作用に貸付資金の仲介という概念を適用したいと思う。このことは,次に 定義する貸付資金の創造の概念との対比によって,−・層明らかとなるであろ
(ピ)
つ0
(13)なお,一・言すべきことほ,貯蓄銀行等の間接負儀の創造に・よって,与えられた貯蓄から の罠付資金の流れの怖が大きくなるであろうと述べたが,このことほ他方でほ.投資勘定
561 貸付資金の創造またほ仲介と金融機関の役割
−J7・−
(2)貸付資金の仲介と商業銀行
しかし,間接金融はとの非貨幣的な形態のみとは限らない。前例では,家計 ほ直接金融に振り向けなかった貸付資金を,すべて貯蓄債券の購入に当てるも のと仮定した。しかし,貨幣とこれらの貯蓄債券で代表せしめられた間接負債
とほ,全く完全に代巷的とはいえない。少くともそれは交換手段として十山般的 受領性をもたず,したがって,それは流動性,便宜,安全性等において貨幣把 劣る。それゆえ,家計は貸付資金の一部を貨幣,甥やわち当座預金の形態のま
.」で貯蓄することを欲するかもしれない。たとえ.ほ,家計は前例の10の間接金 融めうち5を貯蓄眉券の購入に当て,残りの5を貨幣のま.」で保有しようとす るものとしよう。この場合,明らか紅企業の投資勘定への貸付資金の流れほ15 となる。今期の計画貯蓄の20のうら5ほ∴貨幣のまゝで退蔵されて,貸付資金の 市場に供給されないであろう。そこ.で今期の計画貯蓄に等しい計画投資が実現
されうるためにほ.,投資勘定の手許に売れ残った5の第一・次証券が売り尽され ねぼならない。そのために残された方法ほ,これを商業銀行に売却することであ ろう。しかるに,商業銀行は貯蓄銀行と違って,貨幣当局の管理のもとではあ るが,信用創造の能力をもつ。したがって,自らの債務である預金貨幣を創造
しト11
することによって,この5の第一・次証券を購入することができる。投資勘定の 計画投資の20ほ実現され,その経済において実物的な投資と貯蓄の均衡もまた
にとってほ資金のアグェイラビリティーが増加することであり,その結果実物的な投資 の増加が容易となるであろう。このことは次期における所得の増大,ひいてほ貯蓄の増 加となり,貸付資金の源泉としての貯蓄自体が増加することになる。とのととは当然に 次期の貸付資金の流れの幅を大きくさせることになるが,これほ本文で述べた場合と異 なるこ.とはいうまでもない。われわれがここで隊題とする貸付資金の創造あるいは仲介
の概念ほ・極めて短期の今期のについての考察であって,上記のよう年現象は宙按に対
象としていない。これについてはまた別の見地から考察が加えられるペきであろう。こ こでのわれわれの立場は期間分析をとる。したがって,その期に.−・般均衡が成立する ことを,必ずしも前提としていない。
仏側 貨幣が預金貨幣からのみなる現在のモデルでは,完全貸出(f山1yloaned up)が前提 される限り,このような家計の退蔵よって,商業銀行ほ当局からの援助なくして単独に 追加的な信用創造を行う能力をもたない。しかし,わが国のように現金貨幣が所得貨幣 の大部分を占めるときは,との現金貨幣が銀行の当座預金として退蔵されるならば,商
業銀行ほ信用創造を行うことができるであろう。
562
第36巻 第5号
・−Jβ■一・
維持されるであろう。この場合,なるはど商業銀行ほいわゆる信何の仲介を行 ったのでない。それは明らかに追加的な当座預金の増れすなわち貨幣の創造 を行っている。銀行理論的見地からは,まさに信用またほ貨幣の創造が行われ たわけである。しかし,国民経済的な貯蓄・投資の過程における貨付資金の流 れの上からみれば,今期の計画貯蓄に等しい貸付資金を投資勘定に金融すると いう仲介的な働きを営んでいるにすぎない。この場合,明らかに,商業銀行も 前述の貯蓄銀行の場合と同じく,貸付資金の仲介機関というこ・とができよう。
前者はいわゆる信用またほ貨幣の創造によって,後者は単なる信用の仲介によ って,いずれも究極的な貸手である黒字支出単位から,究極的な借手である赤
l 字支出単位に,貸付資金を移転するという仲介的役割を演じているにすぎな
い。
ガ・−レイ・Vヨク両教授は,その論文 FinancialAspect of丘conofnic
(15)
Development ノ において,商業銀行もその他の金融機関も同じく貸付資金の 仲介機関であって,商業銀行牲貸付資金の創造を行わないという新説を主張
(16)
し,カルバー・†ソン等多くの人々との間に論争を惹起した。それには確かに,
(17)
Wickerも指摘するように,貸倒資金について,eX pOSt とex anteの定義
(18)
の相異にもとづく誤解がふくまれている。その意味においてか,両教授ほその 近著 Moneyin a Theory of Finance において,今度はex anteの意味 において,商業銀行ほもちろん貯蓄銀行さえも貸付資金を創造するという新し
(15)JG.Gurley and E.SShaw,American Economic Review,VollⅩLV,1955・
(16)JM CulbeItSOn,IntermediaIies and Monetary Theory:JhGGuIley and ES Shaw,Reply,American Economic Review VolⅩLVIII,1958
(1m ERWicker,SomeLoanable・FundsConceptsand BankingTheory,Jo11rnalof
Finance,Sept.,1960
(18)曽て,投資と貯蓄の均等をめぐって,二人のケインズがいるといわれた。すなわちex postにおける恒等と,eX anteにおける均衡での均等の概念である。同じことが貸付 資金の需給の均等についても適用されるのでないか。すなわちex postにおける恒 等とex an土eにおける均衡としての均等である。貸付資金説の需給関係は,eX pOSt においてはI≡S+△M−△Lで表わされる。したがって,eX pOStにはⅠ≡Sである 限り,△M≡△Lとなり,貨幣の超過供給は発生の余地ほなく,商業銀行ほつねに貸付 資金の仲介機関にすぎないということができよう。ただし,Ⅰほ投資,Sは貯蓄,△M は賃幣の供給増分,△Lは貨幣に対する需要増分を表わす。
貸付資金の創造またほ仲介と金融機関の役割 −J9一−
563
い見解を述べ,貯蓄銀行を貸付資金の仲介機関と解すると.れまでの伝統的銀行 理論に対して挑戦するに至った。これ紅ついては次節に述べるが,いずれ紅せ よ,eX anteの意味においても,上述のように商業銀行もまた貸付資金の仲介 機関にすぎない場合のありうることほ,やはり強調されねばならないであろ
う。われわれほ.このような間接金融を貨幣的間接金融と呼ぶ。(第3図)−・般に IS,LMの交点で示される−・般均衡の状態把おいては,商業銀行もまた貸付資 金の仲介機関にすぎないであろう。
第3図 貨幣的間接金融
投資胸定 商業銀行
!l;・甘酢お
4.貸付資金の創造
(1)貸付資金の創造と商業銀行
われわれはまず初めに,「貸付資金の創造」の概念を明確に規定しておくこ とが,これからの説明において便利かと思われる。それほ.経常的な計画貯蓄
(SP)(ex anteの意味の)に等しい貸付資金の供給を超過するところの追加的 な貸付資金の供給の増分と定義される。利子論における伝統的な貸付資金説の 需給均等式,ド=S−P十△M−△Lで示せば,それは(△M−△L)>0,すなわ
(19
ち貨幣の超過供給として定義される。
(19)Ip,Spほ計画投資,計画貯蓄を表わす。△Lは貸層状.対する需要を表わすが,その 内容が活動貸幣需要増(△Ll)と不活動貨幣の需要増(△L2)の合計か,あるいは△L2 のみかについては,Sp を今期の所謂から貯蓄とするか,またはロバ−トソン的な前期 の所得からのものと考えるかによって異なるものと思われる。しかし,この問題にはい
ま立入らない。鎌倉昇氏著, 金融経済の構造 ,第Vl章,春男弔。
罪36巻 第5号 564
ー2クー−
さて,貸付資金の供給ほ,eXanteにおいては必ずしもこれまでの例のよう 紅,家計の今期の計画貯蓄S−Pに等しいとは限らない。すで紅商業銀行に信用 の創造能力が認められるとすれほ,その限度ほ貨幣当局によって統制されてい るとほいえ,商業銀行ほその限度内払おいて,家討の経常的な計画貯蓄の大き さを超えて,貸付資金を供給しうるであろう。たとえば,企業の投資勘定が今 期に80の投資を計画し,第一・次証券を80発行するとしよう。そして家計の方は 前例同様に,その計画貯蓄は20であって,第一・次証券を企巣から直接に10,貯 蓄債券を貯蓄銀行から5,購入し,残りの5を当座預金のま⊥で保有するもの
としよう。もし,前例通りに,商業銀行が貨幣を5創造するのみであれほ,貸 付資金の供給は20であって,一応利子率の影野を無祝すれば,この場合企業
の投資勘定は計画した30の投資を資金の不足から実現できないであろう。しか し,商業銀行がこの際,もし15の貨幣創造を行っで第一・次証券を15を購入する
く20)
ならば,企巣の投資勘定の今期の計画投資は実現される。計画貯蓄は20である から,10だけ貸付資金の創造が行われたわけである。この場合の商業銀行の貨 幣の創造ほ15であるが,そのうら5ほ家計の退蔵貨幣に眉合うものであるか
ら,いわゆる貸付資金の仲介にすぎない。このような仲介的な貨幣創造はまた 補整的薯幣創造(die kompensatorische Geldsch6pfung)とも呼ばれ,これ紅 対して残された10の部分ほ,追加的貨幣創造(die zus畠tzlicheGeldsch6pfung)
〈21)
といわれる。これはわれわれの貸付資金の創造に当る。そしてこの貸付資金の 創造,すなわち貨幣の超過供給紅よって,企業の投資勘定の今期の計画投資 は,家計の今期の計画貯蓄を超過することが可能となった。この計画投資の計 画貯蓄に対する超過が,国民所得,雇傭,物価および賃銀等の上昇に導くであ ろうことは,すでに述べた通りである。商某銀行が貨幣当局によって厳しく管 理統制を加えられてきたのも,実ほ商業銀行のもつ信用創造の力が,このよう な貸付資金の創造を可能紅し,経済の運行に対して挺乱的影響を与えた結果に
伽)もちろん,今期の資本財の生産は20であるから,かかる投資ほ単に資本財価格の上昇 となるか,意図しない資本財の在庫減少となるか,あるいは両者の組合せとなるかはそ
れぞれの場合によるであろう。いずれにせよ実物面における均衡は破られる。
窟1)RStucken,Geユd und壬(redit,1957
貸付資金の創造または仲介と金融機関の役割
−2ノー
第4図 貨幣的創嘩金融 投資期定 商業銀71
565
貯蓄勘定
他ならなかった。われわれはこのような貸付資金の供給を,貨幣的創造金融と 呼ぷ。(算4図参照)
(2)貸付資金の創造と貯蓄銀行
貯蓄銀行ほ商業銀行と違って,信用またほ貨幣の創造能力をもっていない。
したがって,明らかに.商業銀行のような貸付資金の創造能力をもたない。それ ほ単なる信用の仲介機関であると同時にまた貸付資金の仲介機関でもあるとい うのが,これまでの伝統的な見解であった。しかし,なるはど貯蓄銀行は商業 銀行と違って,積極的に貨幣を創造しうる能力をもっていないが,それは貨幣 に対して極めて代替的な金融資産を創造しうることに.よって,貨幣に対する需 要を減少せしめ,消極的ではあるが貨幣の超過供給,すなわち貸付資金の創造 を可能ならしめるという新しい主張が,ガ−レイ・ショウ両教授によっでなさ れるに至った。このことを,まず前例に従って説明しよう、。
さて,経常的な計画貯蓄と計画投資はそれぞれ20であって均衡するととも に,貸付資金の流れほ.,直接金融が10,貨幣的間接金融が5,非貨幣的間接金 融が5の割合でなされ,商業銀行も貯蓄銀行も単なる盛付資金の仲介的役割を のみ果しているところの,一つの短期的均衡状態がいま実現されているものと 仮定しよう。さて,企業の投資勘定が今期に何らかの事情紅よって,計画投資 を20から80に増加せしめたものとしよう。この場合,貨幣当局は,この計画投 資の増加が当局の経済安定政策の目標に反すると判断して,これを抑制しよう
566 第36巻 第5号
ーー22 一
とし,商業銀行に対して信用創造による追加的な貨幣創造を許可しないものと しよう。すなわち,今期も前期と同じく,5だけの補整的な貨幣創造しか認め ないわけである。したがって,このような事態においては,貸付資金の市場に ほ超過需要が発生し,おそらく算−・次証券の利子率はこ般的に上昇するものと 期待されるであろう。そ↓て貨幣当局(中央銀行)ほ商業銀行の信用創造を制限 するため紅,公定歩合の引上げ,あるいは公開市場の売操作を行うであろう。
さて,このような利子率の上昇ほ.,新投資を不利にし,今期の計画投資の80 ほ,前期と同じく20に低下せしめられるかもしれない。この場合,まさに当局 の貨幣政策はそごの効を奏したものといわねばならない。所期の経済安定の政策
目標は達成されるであろう。しかし,果してこのような安産均衡が,この貨幣 政策によって実際紅達成されるであろうか,というのがこれからのわれわれの 課題である。これ紅ついては,経常的な貯蓄・投資の過程における貸付資金の プロ−の面と,過去からの貯蓄の蓄蔵としての金融資産のストックの面と,二 つの面から考察がなされうる。しかしここでほ前者に限定し,後者紅ついてほ 次節で取り上げよう。
さて二,上記の場合,第一・次証券の利子率は−・般的に上昇するであろうと述べ たが,この利子率の上昇は,貯蓄債券等のその他の金融機関の間接負債の利子 率の上昇またはその他のサービスの増加を可能ならしめるであろう。そこで,
これ′までの金利体系やその他の諸条件のもとで,丁度,10,5,5の割合でな されていた貸付資金の流れは.,これらの金利休系の変化の結果,その流れの径 路が変更されるかもしれない。寛一㌧次証券の利子率の上昇ほ,直接金融のクエ イトを増すかもしれない。あるいは貯蓄債券の利子率の上昇は貨幣から貯蓄債 券への転換を誘引するかもしれない。それらは将来紅対する予想や色々の条件 によって決定されるであろうが,いまと紅かく,家計ほこれらの金利休系の変 化の結果,第一・次証券を11,貯蓄債券を8,貨幣を1の割合で,今期の計画貯 蓄20を配分するものとしよう。全体として貸付\資金の供給ほいくら紅なるので あろうか。直意金葡ほ11,貨幣的間接金融,すなわち商菜鍛行からの供給は仮定
によって従来通り5,そして非貨幣的間接金融は8となり,全体として24の賃
567 貸付資金の創造またほ仲介と金融機関の役割 −23−
付資金が企業の投資勘定に流れることになるであろラ。明らかに,これは前期 と比べて4だけ貸付資金の供給増加を示している。こ.のように,商業銀行の貨 幣の創造が前期と全く同じであって,積極的に増加していなくてこも,貯蓄債券 のように高度に貨幣に代替的な金融資産を,商業銀行以外の金融機関が積極的 紅創造することによって,貨幣紅対する需要が低下せしめられ,貨幣の超過供 給,すなわち貸付資金の創造が発生する。したがって,この場合ほ結局,経常 的な計画投資は経常的な計画貯蓄を4だけ上まわることにこなり,有効需要をそ れだけ増加させることになる。経済の安定均衡を目標とした当局の抑制的な貨 幣政策ほ,少くともこの範囲に・おいては.,その所期の目的を達成できなかった
といわねばならない。
この場合,確かに貯蓄銀行ほ信用の創造を行なっでいない。それは家計の貯蓄 勘定から預けられた資金を企業の投資勘定に.貸出したに.すぎないのであって,
ミクロ経済的には信用の仲介的機能を営んでいる。しかし,これを国民経済的 に・みるときは,この貯蓄鋭行の信用仲介の作用ほ,貨幣に対する需要を減少せ しめて,貸付資金を創造する機能を果したものと解される。もちろん,この場 合に,商業銀行が貨幣に対する需要の減少に見合って,それだけ貨幣の創造を 減少せしめておれば,貸付資金の創造は行われなかったわけであるから,この 場合もやはり貸付資金を創造せしやたのは商業銀行の信用創造であって,貯蓄 銀行ほあくまで貸付資金の仲介機関にすぎないという主張も成立しうるかもし れない。そして,少くともexpostに・はこのような考え方も必ずしも−・概に否
(22)
定できないように思われる。しかし,われわれはこ.の場合,少くともexante の意味においては,商業銀行からの信用創造の影響は一\応与え.られたものとし て議論がなされるべきであって,やほり貨幣に対する需要を減少せしめた貯蓄 銀行の槌極的な活動の貸付資金の創造に与えた効果に?いて,全く無視できな
飢lこの立場に立つ人々は,一叔に金融統制の対象は商業銀行で十分なりとし,貯蓄銀行 まで統制を拡張することを不必要とする。アメリナのCMCReportは大体この立 に立つ○したがって,貯蓄銀行の捌から貨幣刀超過供給が生ずるようなときは,それだ け余分に貨幣の供給を減らせば,それで十分金融統制の目的は達試されるという。(アメ
リカ通貨信用委員会著,通苫と信用,70頁)
568
軍36巻 第5号ーーl ユノ ー
いものと思う。貨幣の創造(△M)ほ前期も今期も同じ5でありながら,前期に は貸付資金の創造を行わず,今期にはそれを行うということほ.,やほり貨幣に 対する需要(△L)の減少が原因であって,かかる△Lの減少を生ぜしめた貯蓄 銀行がこノの貸付資金の創造の責任を負うべき1でなかろうかと思われる。もちろ ん,それほ貯蓄銀行のみでなく,そのような資産選好を行った家計の態度も問 題であろう。しかし,以上の見方に対して,−・方立場を変えれば△Lが5から
1に減少したのに対し,△Mを5今期商業銀行が創造したから4の超過供給を 生じたのであって,やはりこの貸付資金の創造ほ.4の追加的貨幣創造を行った 商業銀行が責任を負うべきでないかといわれうる。要するに,この立場は,貯 蓄・投資のプロ−の過程において,あくまでも貨幣に対する需要を所与とみ
て,貨幣の超過供給をすべて商業銀石の結果とするものである。その結果フロ ーの面では,貯蓄銀行はあくまで貸付資金の仲介機関であって,貸付資金の創
し二:;) 造を否定することに.なる。しかし,かかる見方はex post としては可能であ
(24)
ろうが,eX ante の見方としては上記のようにI考えられるのでなかろうか。
要するに,商某銀行と貯蓄銀行が貸付資金を創造しうるといっても,それを
(△M−△L)と規定する限り,あくまでも「相対的」な現象であちて,貨幣の 供給またはそれに対す需要のいずれかが,とに・かく一・定かあるいほ全く相殺的 な変化を行わないと仮定されての上の議論であるといわねばならない。ただ,
上記の理論から生ずる政策論的帰結紅ほ,かなり微妙な相異が生ずるであろ う。われわれはこの金融形態を非貨幣的創造金融と名付けよう。(第5図)この
位3)このようにフローの面において,貯蓄銀行の貸付資金の創造を否定する人々も,次節
に述べるストソクの面における貸付資金の創造,すなわち不偏動貨幣の活動化まこほ放 出の作用は認める。そして,貯蓄銀行の貸付資金の創造をこのストソク面にのみ限る か,あるいはフローの面に.おいて−も認めるかによって,貯蓄銀行に対する金融統制の必 要論もまたは微妙な相異を生ずるように思われる。というのは,もし貯蓄醜行のストソ ク薗からの放出金地が,現実の問題として,それはど重要でないとすれば,貯蓄銀行の 統制ほ不必要となるからである。しかしプロ−の面においても賃付遼金創造の可能性を みとめるならば,今日の商英銀行に比べての貯潜銀行の急速な成長は,金融政策の見地 からそのまま自由に放任してよいかどうかが問題となるからである。
(24)筆書としては.,できるだけ両教授の考え方に忠夷のつもりでその解釈を試みてみた0 その適否;こついて−ま大方の御教示を賜ゎりたい。
貸付票金の創造または仲介と金融機関の役割 −25欄
569
第5図 非貨幣的創造金融
捜査勘定 商業銀行 貯灘建前
貯蓄勘定
図より明らかなよう紅,eXpOStにおいては貨幣的創造金融と区別ができない。
なお,ここで忘れてならないことは,かかる貯蓄債券で代表せしめられた仲 介的金融機関の間接負債が,貨幣に対して代沓的関係に立ち,第⊥・次証券とは 代替的関係に.立たないことである。もし,貯蓄債券が節⊥・次証券に対して代替 的である場合は,この貯蓄債券の増加は決して貸付資金を創造することなく,
単なる仲介的機能な果すにすぎないからである。たとえば,前例において,
家計が貯蓄債券に二対する需要を5から8に増加した結果,第一・次証券紅対する 需要を10から7に減少せしめるならば,貸付資金の供給はやはり20であって,
経常的な計画貯蓄と等しいにすぎないからである。したがって,貯蓄債券の創 造が貸付資金を創造するといっても,それがあくまで貨幣に近い性質をもった いわゆるnear moneyにあたる場合で,しかも−・方においてそれと同時に,
貨幣の消滅が商業銀行の側で行われない場合に限られるであろう。
(3)貸付資金の創造と放出金融
これまでわれわれは貯蓄・投資の過程において,経常的な計画貯蓄に等しい 貸付資金がいかに投資々金紅流れてゆくかを考察してきた。そして商業銀行の