アルミ−水反応の衛星推進系への適用 (室蘭工業 大学航空宇宙機システム研究センター年次報告書 2016)
著者 大堀 英雄, 後藤 翔, 今村 卓哉, 菅原 友里恵, 劉 思博, 今井 良二, 杉岡 正敏, 東野 和幸
雑誌名 室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センター年次
報告書
巻 2016
ページ 18‑23
発行年 2017‑08
URL http://hdl.handle.net/10258/00009808
18 アルミ-水反応の衛星推進系への適用
○大堀 英雄 (航空宇宙総合工学コース 博士前期 2 年)
後藤 翔 (航空宇宙総合工学コース 博士前期 2 年)
今村 卓哉 (航空宇宙総合工学コース 博士前期 1 年)
菅原 友里恵(航空宇宙システム工学コース 学部 4 年)
劉 思博 (航空宇宙システム工学コース 学部 4 年)
今井 良二 (航空宇宙システム工学ユニット 教授)
杉岡 正敏 (航空宇宙機システム研究センター 名誉教授)
東野 和幸 (航空宇宙機システム研究センター 特任教授)
1.背景
現在,宇宙機推進システムの燃料として主にヒドラジンが使用されている.ヒドラジンは高比 推力で着火性に優れる燃料であるが毒性を有するため,代替燃料を用いた推進システムの開発が すすめられている.航空宇宙機システム研究センターでは,アルミと水の反応から得られる水素 を宇宙機推進システムに適用する研究をこれまでに実施してきた.本システムではアルミタンク から取り出したアルミと水タンクから取り出した水を反応器で混合して高圧水素製造反応を起こ し,水素をスラスタに供給する構成としている.本システムでの反応物である水およびアルミ,
反応生成物の水素および水酸化アルミはいずれも毒性を有さないため,次世代の推進系への適用 が有望である.
昨年度までに,(1)水素製造循環における酸化アルミニウムの窒化の実証,(2)微小重力環境下に おける水タンク液体捕捉機構の考案,検証,(3)微小重力環境下における反応槽内部の流動挙動,
気液分離機構の検証水タンクにおける液体捕捉機構の検討,を実施してきた.上記に引き続き本 年度は,(1)水素製造循環における参加アルミニウム窒化条件の探索,(2)微小重力環境下における 金属製水タンク液体捕捉機構の考案,および検証を実施した.本報では2016年度の研究成果につ いてまとめた.
2.内容
2-1.Al/水系反応における水素製造循環に関する検討[1][2]
2-1-1 はじめに
現在,宇宙機推進システムの推進剤として主にヒドラジンが使用されているが,これは人体に 極めて有害であるため,今後は代替可能な推進剤の一つとして水素の利用が求められている.し かし,従来の水素製造法(水蒸気改質法)ではCO2の排出等の問題がある.そこで,本学では(1)式 で表されるAlと水による水素製造法(Al/水反応)を宇宙機推進システムに応用する研究を行って いる.
2Al+6H2O→2Al(OH)3+3H2 (1)
Al/水反応では,人体に無害で環境負荷の小さい物質を扱う.この反応を宇宙機推進システム に適用した場合のシステム重量の推算の結果,ヒドラジンを用いた場合より重量が大きくなるこ
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とが判明した.これまでに,Al/水反応後の副生物であるAl(OH)3を分解してAlに戻し,再び水素 を製造する水素製造循環の構築を検討した.この水素製造循環により,Alと水の搭載量が最小限 に抑えられ,推進系の軽量化が見込められる.Al(OH)3は加熱処理により分解してAl2O3になるが,
Al2O3を直接AlとO2に分解することは極めて困難である.そのため,宇宙機内で適用する際は(2), (3)式に表すように,Alへの分解がAl2O3よりも比較的容易な窒化アルミニウム(AlN)に一旦変換 してから分解する方が有利である.
Al2O3 + 3C + N2 → 2AlN + 3CO (2)
AlN → Al + 1/2N2 (3)
まずはAl2O3 を炭素還元窒化反応によるAlN合成実験を行った.(2)式の反応に添加物(鉄粉(Fe), コバルト粉末(Co)およびニッケル粉末(Ni))を用いてAlN合成反応の転化率を示すとともに,Al/
水系での水素製造循環システムの応用例も述べる.
2-1-2 実験方法
実験装置は2015年次報告書で示したものと同一とした.また表1に実験条件を示す.本実験で は,プログラム管状電気炉および耐熱管を使用した.AlN合成を行うために試薬粉末の酸化アル ミニウム(Al2O3),活性炭(AC),Fe,CoおよびNiを用いて,任意の質量割合で混合させた粉末混 合物を試料とした.一方,Al2O3は結晶構造の違いによりα型(コランダム)およびγ型など同素体 が存在することが知られている.Al/水系反応後の副生物であるAl(OH)3は加熱処理により脱水さ れると,γAl2O3の結晶構造をとる.これはコランダムと比較すると化学反応性が良いことが知ら れているため,本実験ではγAl2O3をAlN合成反応の出発物質として選定した.実験試料はγ Al2O3(1.8g)とACおよび添加物(Metal)の混合物(ACおよび添加物の組成:
AC/[X]wt%Metal(X=0,10,30,60),3.6 g)を用いた.γAl2O3とAC/[X]wt%Metalの質量比は1:2であ り,これらの混合物(合計5.4 g)のうち,1.2 gを磁製ボートに載せ,耐熱管内に配置して窒素雰囲 気内で加熱,反応させた.
表1 実験条件
Experiment time [hr] 6
Sample mass [g] 1.2
Mass ratio [γAl2O3 :AC/[X]wt%Metal] 1:2 Experiment temperature [℃] 1280
Sample conditions γAl2O3+AC/10wt%Fe,γAl2O3+AC/30wt%Fe,
γAl2O3+AC/60wt%Fe
γAl2O3+AC/10wt%Co,γAl2O3+AC/30wt%Co, γAl2O3+AC/60wt%Co
γAl2O3+AC/10wt%Ni,γAl2O3+AC/30wt%Ni, γAl2O3+AC/60wt%Ni
γAl2O3+AC/0wt%Metal
20 2-1-3 XRD分析結果
図1にFe添加系におけるXRD分析結果を示す.図よりAlNのピークを確認することができた.
その他,Co添加系,Ni添加系実験後試料についても同分析を実施し,AlNのピークを確認した.
AlN合成反応が最も進行する試料条件を把握するためにXRD分析結果からAlN(○)およびα
Al2O3(▽)のピーク強度比を求めた.各試料条件における添加量とXRDピーク強度比の比較結果
を図2に示す.図より,各種添加物を用いた試料条件において添加量とピーク強度比の関係には 明確な傾向の違いを確認した.FeおよびCoを試料に添加するといずれの添加量でも添加物を用 いない条件より高いピーク強度比が得られた.一方,Ni添加条件のピーク強度比は試料に添加物 を用いない条件とほぼ変わらないか,むしろ下がる傾向があった.NiはFeやCoと似た反応促進 効果を有する物質であるが,本実験ではFeおよびCo添加系とピーク強度比に大きな差が生じた.
これは各種添加物には触媒効果を発揮するために適した温度帯が存在し,FeおよびCoではその
温度が1280 ℃であるのではないかと推測する.一般的にFeはアンモニア合成法において窒素を
活性化させる触媒として用いられる.そのため,本実験でもFeは窒素ガスを活性化させることで AlN合成反応の促進に寄与したと考えられる.
図1 XRD分析結果 Fe添加量 0,10,30,60wt%
図2 添加物重量が反応特性におよぼす影響
次に,ピーク強度比が最も高かったAC/10wt%Fe条件におけるAlN転化率を検量線から評価し た.図3にAlNおよびαAl2O3混合物中のAlN濃度ごとのXRDピーク強度比の関係を表した検量 線を示す.図より,AC/10wt%Fe条件でのAlN転化率は約80 %であった.そのため,本実験条件 ではγAl2O3の約80 %をAlNに変化可能であった.Al2O3の炭素還元窒化反応では,高熱伝導性を 有する高性能な基板の原料となる高純度微細AlN粉末の獲得に向けて,反応促進剤および焼結助 剤として主にCa化合物やY2O3などが選定される.一方,本実験では低温度条件でのAl2O3の不 安定化を目指しているが,生成物の形態および焼結性向上など,AlN自体の特性にはこだわらな い.そのため,高価な添加物を用いずとも高い転化率を示す条件の解明に取り組んだ.窒素ガス の活性化に着目し添加物を選定した結果,安価なFeおよびCo添加系により得られた転化率は他 の研究[3]と比較しても高く,比較的低温度(1280 ℃)でも反応が促進されたことから,本法はコス トおよび反応温度において従来の炭素還元窒化法よりも有利であった.
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図3 AlNおよびαAl2O3混合物中のAlN濃度ごとのXRDピー ク強度比の関係を表した検量線
2-2.水貯蔵タンクの液体捕捉機構[4]
2-2-1 はじめに
本章では、Al/水反応推進系の構成要素の一つである水タンクにおける,液体捕捉機構の研究開 発結果について述べる.昨年度は親水性を有するシリカコーティングをアクリル樹脂製ベーン型 表面張力タンクに施し,短時間微小重力実験により,微小重力下での液体捕捉機構の検証を実施 した.本年度はこれに引き続き,より実機に近い金属製タンクに上記コーティングを施した際の 液体捕捉機構の検証を,短時間微小重力環境において実施した.なお,短時間微小重力実験は㈱
植松電機が所有する微小重力実験塔「COSMOTORRE」を利用した.
2-2-2 実験装置
図4に本実験で用いた金属製タンクを示す.タンクはステンレス(SUS304)と透明アクリル樹 脂製のブロックで構成され,透明アクリル樹脂を通してタンク内部を可視化した.ベーンの材質
もSUS304とし,金属タンク内面および金属ベーン表面にシリカコーティングを施した.
TYPE-A TYPE-B (a) 供試体部の分解図 (b) 金属製ベーン
図4 供試体部の構造およびベーン
図5に短時間微小重力実験用カプセルおよび実験機器の搭載状況を示す.供試体および各種計 測機器,実験機器は木製の円盤状に配置させた.図のⅠで示す段には二つの試験体,ビデオカメ
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ラ,光源を搭載し,カプセルの上段に設置した.図のⅡで示す段には加速度センサー,データロ ガー,光源用のバッテリを搭載した.バッテリの重量が大きいため,カプセル搭載の重心位置を 考慮し,本プレートはカプセルの最下段に搭載した.
図5 短時間微小重力実験用カプセルおよび実験機器の搭載状況
表2に実験条件を示す.実験ではベーン種類,液量等が液体捕捉機構におよぼす影響を調査し た.
表2 実験条件 No Vane
type
Liquid substance
Coloring agent Red color
Coated surface Liquid amount*
Tank Vane
1 A Water ✔ ✔ ✔ 32%
2 B Water ✔ ✔ ✔ 32%
3 B Water ✔ ✔ 32%
4 A Water ✔ ✔ 16%
* Volume ratio of tank volume
図6にTYPE AおよびTYPE Bのベーンを内蔵した金属製タンク内の液体捕捉状況を示す.本 実験条件では,視認性を向上させるため,試験液体を食紅で着色している.図より,TYPE Aのベ ーンで自由界面がタンク内壁を上昇する様子が確認できる.一方TYPE Bのベーンでは液面の移 動量が僅かとなった.この理由として,TYPE Bはベーンの高さが低く,液体捕捉機構が弱いこと,
食紅が自由界面に吸着して表面張力を低減させていること,が考えられる.後者につき,より詳 細に検証するため,食紅を用いない液体を用いた場合の液体捕捉機構を検証した結果,TYPE B ベーンでも液体捕捉が可能であることが示された.
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1G G
(a) Vane type: A, Coated both on tank wall and vane surface (Exp. No. 1)
1G G
(b) Vane type: B, Coated both on tank wall and vane surface (Exp. No. 2) 図6 微小重力環境下の液体捕捉挙動(液体積比 32 %)
参考文献
[1] 大堀英雄,中田大将,杉岡正敏,今井良二,東野和幸,Al/水反応における水素製造循環シス テムに関する研究,日本航空宇宙学会北部支部創立30周年記念2017年講演会ならびに第18回再 使用型宇宙推進系シンポジウム,仙台(東北大学).
[2] 大堀英雄, 中田大将, 杉岡正敏, 今井良二, 東野和幸:Al/水系反応を利用した水素製造循環に 関する研究(その3), 第17回北海道エネルギー資源環境研究発表会要旨集, p.25-26, 2017.
[3] André Luiz Molisani, et al.,“Low temperature synthesis of AlN powder with multicomponent additive systems by carbothermal reduction - nitridation method”, Materials Research Bulletin, 45, 733-738, 2010.
[4] Ryoji Imai, Sho Goto, Takuya Imamura, Masayuki Saito, Masatoshi Sugioka, Kazuyuki Higashino, Basic research for liquid acquisition device and reactor in thrust system utilizing hydrogen production by aluminum and water reaction, AIAA-2017-4762, Propulsion and Energy Forum and Exposition 2017 July 10-12, Atlanta, USA.