• 検索結果がありません。

1980年のスウェーデンにおける         家庭科の教育課程の改訂

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "1980年のスウェーデンにおける         家庭科の教育課程の改訂"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

茨城大学教育学部教育研究所紀要20号(1988)123 一ユ27 123

1980年のスウェーデンにおける

         家庭科の教育課程の改訂

永 島 利 明

はじめに

 日本では1986年エ0月に教育課程審議会の中間答申が出されている。技術・家庭科では木工,電気,

食物,家庭生活が必修とされている。そのほかの領域は選択である。したがって,必修領域は共学で実 施されることが多いであろう。しかし,選択の領域ではやはり従来通り,男子が技術領域を学び,女子 が家庭領域を学ぶというかたちが行われ,性的役割分担は依然として残ることが予想される。

 一方,スウェーデンでは1969年の教育課程(以下69年と略称)の改訂により家庭科は完全に男女共学 となつぜこの点では世界最初の国である。款,この国では三門家としての政策を反映した教育課 程である。このふたつの事情を反映した1980年の教育課程(以下80年と略称)を紹介することによって

日本の参考に供することにした3)

 主要な改正点

       3)

 スウェーデンでは69年半教育課程では家庭科は8学年に3時間,9学年に2時間配当されていた。そ の80年では中学年(4〜6年)に1時間,高学年(7〜9年)に4時間配当されている。義務教育期間 申の時間の変更はないが,中学年に1時間配当されているのが変わっている。そして9学年の保育は家 庭科のなかにありながら,独立した教科のように1時間のみ学ぶという変則的な形態であった。80年に は保育は生物および社会科に分散されている。

 80年の目標は「生徒は住居,家庭の食物の管理,被服,衛生の管理および家政に関する経済計画を作 ることができなければならない」,「生徒は個人および社会の資源を維持する重要性を明確に理解しな ければならない」としている。保育が社会科に移動したためか「経済問題について,こどものしっけに 役立つ」ということがなくなっている。

 主要な領域としては69年には「食物,住居,衛生,労働,消費,経済,社会集団と家族,家族の権利 と義務の役割,見学・調査」等の9領域があったが,今回はf食物,衛生,環境,消費,人間関係」

の5領域となっている。英語版では69年版が9頁あったものが5頁に圧縮されて,簡略化されている。

 69年には「勧告と説明」の9項目があった。この9項目の要約を参考までに示すとつぎの通りである。

① 生徒のもつ経験から出発して,教育のテーマを作り,生徒の興味をひきつける。

② 家庭科の授業では生徒の毎日の状態を管理することを教えるために,できるだけ題材を広範囲にと  りあげる。

③ 生徒は家族や生徒集団のメンバーである。彼等は社会の価値のある知識や技能が必要である。

④ 授業では生徒を未来の家庭の形成者として,異性と調和して生活できる条件を創造するようにする。

⑤労働と賃金に関連した知識を教えるべきである。

⑥ 生徒の美的な発達を促進し,環境に対する責任感を養うべきである。

⑦家庭科の授業は毎日の生活を満足に送ることや家庭における伝統を創造することに興味を刺激する

(2)

124 茨:城大学教育学部教育研究所紀要20号(1988)

  仕事に貢献すべきである。アルコール飲料や非アルコール飲料についても考慮すべきである。

⑧ 栄養的に正しい食事を作ることができる態度を養うべきである。

⑨ 生徒の成熟度と個人の欲求を考慮すべきである。

 この「勧告と説明」は80年ではなくなっている。このような現象が教師に徹底したからであろう。

 80年では前述のように中学年に1時間配当されているので,中学年の領域の学習事項が示されている のは,当然であるが,配当されていない低学年にも共通した「低中学年」の学習事項が示されている。

これは中央集権的な教育制度をもつ日本の教育関係者から奇異にみられるかもしれない。スウェーデン の80年の基本理念としているのは,「社会および実際との結合」,「平等への努力」,「地方分権の発展」

の3つである。この国では教育の絶対的権限をもっているのは,自治体であって政府ではない。教育の 地方分権が徹底しており,自治体によっては低学年でも学習できるようになっている。教育課程にはオ

リエンテーション教科がある。この教科は日本の理科に社会を合科したものであるが,このなかで技術 科や家庭科を学ぶように配慮されている。

 授業は「実習や技能の習得を基本とする」とのべられており,机上の学習だけということはない。つ ぎに各領域についてのべる。(以下は80年の公式教育課程の学習項目を訳したものである)?

 食物

 理科および体育と提携して,生徒は健康の重要性を理解することができる。

 低中学年一食事中のよい習慣とテーブルでの楽しい行動の大切さ。子どものための適切なバランス のとれた食事。家庭や学校での日常食,健康の重要性,労働能力と福祉。朝食の=選択と準備,よい食習 慣を与えるスナックやその他の簡単な食物,異文化における簡単な食物。スウェーーデンや他国における 食習慣。一般の食品の価格と栄養価。世界のいろいろな国における食物の原料と食資源の保存。食事の ための家事労働と分担と責任。

 高学年一あらゆる年齢の適切なバランスのとれた食事,食事中の習慣。食習慣,運動と飲み物の習 慣とその健康,労働,幸福に関する影響。家族・学校・働く場所での食事,消費者と食糧の知識と技能 をもつ生産との潜在的な長所。食品の消費と異なった食資源をもつ国における身心の発達・健康・働ら く能力についての影響。食物の原料の保存。バランスのとれた食物の計画と準備・道具の異なった調理 法・合理的で衛生的な作業法。食事のための家事労働の責任と分担。食物材料の購入計画と費用の見積

り,材料の栄養価・質・価格の比較,経済と食物との観点からの貯蔵と準備。消費者問題,購入法およ び消費者の要求と行動に影響する問臨食習慣・食事中の習慣・異文化における家事労働の分担,異文明に おける食物の準備。

 衛生

 すべての実習において,生徒は衛生に注意して作業をすることを教えられる。このことは食品の扱い だけではなく被服管理,織物,家財を扱うことにもあてはまる。

 生徒は電気や水の使用をするとき,節約する習慣をつけなければならない。また,掃除用品を適切に 使用する習慣をつけることが必要である。

 スロイドに関連して,生徒は被服の選択と健康の重要性についての洞察力を修得する。それ故に,被

服について教えることはスロイドと調整が行われるべきである(スウェーデンでは被服は家庭科の領域

ではなく,木工・金工・織物の3領域をもつスロイドで行われている。このため家庭科で行う被服管理

(3)

永島:1980年のスウェーデンにおける家庭科の教育課程の改訂

ユ25

と織物の調整が必要であるとのべているのである)。

 低中学年一家庭および学校における調度品の扱い方。靴および被服の扱い方,現在の消費者問題。

掃除用品とその使用法,保管,そのなかにある危険物。衛生的に働らくこと。掃除,洗たく,クリーニ ングの協同および責任をもってひきうけること。

 高学年一家庭および学校における調度品の扱い方。被服および繊維製品の分類,洗たくおよび後始 末。織物,被服,清掃用品とそれらの製造に関連した消費者問題,購入法と消費者の希望と行動。洗 たく,クリーニングの衛生的で合理的な方法。衛生的で環境を破壊しない清掃薬品の使い方。世界各地 における水,エネルギー,機械装置の利用と働らく方法,衛生,健康,福祉の影響。掃除,洗たく,ク

リーニングに関する協力と責任の分担。

 環境

 個人や地域の環境をみだしたり,破壊することは不快であり,浪費であり,かつ,未来をおびやかす から,生徒は周囲に積極的に働きかけ,環境を保護し,保全しなければならない。環境の保全は地域の 研究機関,学校施設および学校の周辺で直接実施できる。

 保育,図画,社会と連係して,生徒は安全で快適な環境を与えられるために,子どもが必要とする知 識を持たなければならない。

 低申学年一生徒の周囲にある調度品,その機能,デザイン,使用法および管理。

 高学年一住居の形態,住居の取得と所有,住宅費。賃借住宅の権利と義務,住宅に関係したアドバ イスと援助。住宅の使用法,設備,インテリア。家具と設備,機能,デザイン,使用法と価格。子ども の環境,家庭における子どもの事故の予防法。家具と設備,機能,デザイン,使用法と価格。家具およ び設備の維持,管理,修理,車使用法。家庭および学校の家具と設備の費用計算。家庭の設備の購入に 関係した消費問題。購入法と消費者の欲求と行動への影響。家庭の環境への責任。

 消費経済

 全学年一一利用できる資源使用の経済計画,費用の計算と比較,支払法。消費者情報の評価と使用。

マーケットの目的と方法,欲求を創造する方法に関連した異なった意見。消費者の権利と義務,消費者 立法,消費者に対して地域から与えられる援助。家事労働で使われる製品が環境におよぼすことについ ての責任。消費者問題で重要な役割を果すいろいろな職業。

 人間関係

 家庭や労働における両性の平等の前提条件のひとつは男女間および大人と子どもの間で家事労働の責 任をわかちあうということである。家事労働についてみんなが平等に知識をもっていることは,家族の メンバーが役割を果す能力を増大する。生徒は家族生活のなかでどんな家事があるかを学び,それを実 習すべきである。少女も少年も同時にいっしょに協同して作業をしなければならない。

 全学年一人間関係に関する問題と家族内・成人間および大人と子どもの相互関係,人間関係および 協同に重要な関係をもつ規範・規則e法律。異なった態度や価値観をもつ人間の相互関係と地域での経 験,協同して労働をする重要性。女と男・大人・子ども・青年の家族内部における平等に影響する要因,

労働および余暇の機会の平等に関する家庭のなかの平等。家事労働の計画,仕事の分担,協同と責任の

とり方。異なった文明における家族。同居の形態と伝統。

(4)

126 茨城大学田育学部教育研究所紀要20号(1988)

日本がスウェーデンに学ぶもの

 最近日本では教育の国際化の必要性が力説されるようになってきた。しかし,それは多くの場合,英 語や帰国子女教育の問題としてとりあげられることが多い。国際理解教育の一例として東京都港区立赤 坂申学校の例をみよう。この学校では4項目の教育をとりあげている8)

 (1)学習指導 帰国子女等を含め,個別化学習に対する学習指導の内容,方法の研究実践を行う。

 (2)生活指導 生きがいを持ち,視野の広い,個性の豊かで社会性があり,国際性を身につけた生徒の   育成をはかって,学校行事,特別活動,道徳等の各領域で実践する。

 (3)適応指導 同校にはカンボジア大使館があり,戦火を避けたカンボジア人の生徒5名が在住して,

  登校している。能力がありながら,日本語がわからないために能力を発揮することができないと放   匂しておくことは許されない人権問題である。そこで①日本語の基礎学力を向上させることにより   学習へのよりよい適応をはかる。②日本の生活文化について理解を深めるとともに,生活上の不安   や悩みを解決し,社会生活や学校生活への適応をはかる。③外国生活によって得た文化的価値の維   持,増進を図り,図際理解教育の進展をはかる。適応教育の対象はカンボジア人5名,韓国人・ア   メリカ人各1名,帰国子女1名で計8名で1986年は実施した。

 (4)国際理解部の教育 ①英文による手紙等を身につけながら国際理解を高める。②国際理解新聞等の   発行。③学校裁量のうち月1回を国際理解にあてる。④報道関係海外特派員による講演会をする。

 また,各都道府県の国際化に対する対応をみると,福島県では62年開設の県北の高校で国際文化科を 設置し,国際理解を重視している1)茨城県でも中央高校を新設し,国際文化財を設置している。同じよ

うな国際文化科に類似した学科を新設した府県は滋賀県,岡山県,鹿児島県がある。さらに東京都では 都内でホームステイをしながら高校に通う外国人の短期留学生に対し,都立校の門戸を広げるため,都 教委としては初めての「外国人高校生受け入れ要項」を作成し,各校に配布している。神戸市ではアジ

ア諸国の交流の拠点として「神戸アジアセンター」を設置した。

 いままでの公立の中高の国際化に対する施策をみてきた。ここで感ずることは,日本では各教科にお ける国際化教育をどのように進めるかという視野が,まだ,芽ばえていないということである。また,

日本に適応することは実践しているが,子どもが祖国の文化や言語を維持するということまでにはおよ んでいない。ましてやバイリンガル学習は行われていない。高校においても同様で国際理解に興味関心 をもった生徒だけが対象である。一方,水戸一中では1987年にアメリカの黒人女子青年が英語の助手 として来校しているが,生徒はクロマティなどの黒人野球選手をテレビでみているので,あまり外国人 に異和感をもっていないという。映像を通じて少しずつは国際化は進んでいるようである。

 各教科がどのように国際化に対応すべきかということはスウェーデンの家庭科が参考になる。食物に は低中学年の「スウェーデンや他国における食習慣」,「世界のいろいろな国における食物の原料と食 資源の保存」,高学年の「食品の消費と異なった食資源をもつ国」,「異文化における家事労働の分担」,

「異文明における食物の準備」などを通じて,他国を知ろうとしている。この点は日本も学ぶべきであ

る。

 「国際化」とは「モノ,カネ,情報(技術を含む)および総体としての文化などの国境を越える往来

の増大である」旧いわれている。国家相互の依存関係が深まりモノ,カネ,情報などの国際化は進んで

いるが,文化の国際化は容易に進んでいない。スウェーデンの家庭科が食物を通じて交流をはかろうと

しているのは注目に価する。また,大胆に保育を社会科や理科に移す改革を行ったことも参考になる。

(5)

      永島:1980年のスウェ_デンにおける家庭科の教育課程の改訂       127

引用文献

1.永島利明,「スウェーデンにおける工作および家庭科」,『茨城大学教育研究所紀要』第9号 1975

   61 in  690

2.永島利明,「スウェーデンの教育課程改訂案」,『茨城大学教育研究所紀要』第12号 ユ979,2玉7−223。

3. The Nabonal Swedish Board of of Education , Domestic Science and Child Care     (Frorn the curriculum for the comp rehensive school 1969),pp.1−90

4. Sko16verstyrelsen, Home Economics (From the curriculum for the compulsory 1980),

   pp. 1−50

5.橋谷田惇,「わが校における国際理解の教育」,『教職課程』12,(1986),31。

6. 「県別教育界の動向」,『教職課程』,5,(1986),22−31。

7。広瀬一彦,「国際化に思、う」,『茨城県議会広報』81,1987・ll。

       The Revision of Curriculum for }{ome Economics of Sweden in 1980

       Tosi aki Nagas i ma

   The curriculum for the compul sory school 1969 were revised in 1980. The nine p hase of domestic science and chi ld care were changed into the five p hases of home economics.

These were diet, hygtene , enviroRment , consumer ecenomics and hurnan relati ons.

Child care was al terd biology and social studies. It is useful for Japanese to learn diet which

deal with Sweden and in the other pares of the wor}d , so the chief aim of education in

the present Japan is t o intemationalizb.

参照

関連したドキュメント

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

 履修できる科目は、所属学部で開講する、教育職員免許状取得のために必要な『教科及び

2011

学年 海洋教育充当科目・配分時数 学習内容 一年 生活科 8 時間 海辺の季節変化 二年 生活科 35 時間 海の生き物の飼育.. 水族館をつくろう 三年

関西学院大学社会学部は、1960 年にそれまでの文学部社会学科、社会事業学科が文学部 から独立して創設された。2009 年は創設 50

社会教育は、 1949 (昭和 24