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日本のライフ・オブ・アート ―谷崎潤一郎「陰影礼賛」を中心に―

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Academic year: 2021

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学園創立110周年・大学開設40周年記念行事

日本のライフ・オブ・アート

―谷崎潤一郎「陰影礼賛」を中心に―

清 水 良 典(クリエイティブライティング領域)

ライフ・オブ・アートを貫いた文豪

『痴人の愛』『細雪』などで知られる文豪・谷崎潤一郎の没後50年となる2015年。これを記 念した新たな全集の発刊やイベント開催など、今再び谷崎潤一郎文学が脚光を浴びています。

講演タイトルの「ライフ・オブ・アート」は、谷崎が表明した「美的な生き方」を指す言葉。

理想の美のために己の人生を捧げることを意味し、谷崎の作品づくりや人生の指針となった言 葉です。その思想が特に色濃く表れている作品が、随筆「陰影礼賛」。東日本大震災以降、文 明の力に頼らない日本の古き良き生活様式を伝える作品として注目されたことが記憶に新しい 方もいるのではないでしょうか。今回の講演では「陰影礼賛」を軸としながら谷崎の生涯や生 き様への強いこだわり、鋭い美的感覚に清水良典教授が迫りました。

恋あればこその谷崎文学

谷崎を語るうえで、その恋愛遍歴は大きな鍵のひとつです。生涯で三度もの結婚を経験し、

それらは谷崎の作風に少なからず影響を与えてきました。特に大きな転換点となったのが、三 人目の妻・松子との出会いです。関西の富豪の家に生まれた松子は、生まれた時から使用人に 囲まれて育った生粋のお嬢様。プライドの高い女性を好んだ谷崎にとって、理想の女性でした。

ひと目で恋に落ちた谷崎は、彼女に近づくために趣味趣向まで変えていきます。それまでは西 洋贔屓だったのに、日本の伝統文化を好む松子に合わせて日本古来のものを愛でるようになり ました。そんな心境の変化が作風にも如実に表れ、この出会い以降、『盲目物語』などの時代 物を描くようになりました。

ライフ・オブ・アートの極致

やがて松子と同棲するようになった谷崎は、松子を主人とあがめ、自らは使用人同然の生 活を送るようになります。この実体験から生まれたのが、使用人・佐助と女主人・春琴の物語

『春琴抄』です。谷崎は創作作品と区別がつかないような生活を送ることで、より深みのある 作品を描こうとしました。松子との恋が燃え上がるにつれ、その影響はますます色濃くなり、

谷崎の古典回帰のピークと言える時期に「陰影礼賛」は生まれました。豪奢な蒔絵は、薄暗闇 のなかで底光りするものが美しい。白米も薄暗闇で輝いて見えるからこそありがたみが増す。

ロウソク一本の明かりのもとで感受性が養われてきた日本古来の生活を「陰影礼賛」は示して くれます。ライフ・オブ・アートから生まれたこの名作を今こそ読み、現代の文化のあり方を 省みるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

参照

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