企業内訓練校における「現場人材活用型教育体制」の 効果と機能条件
島 内 高 太
Who are in Charge of Instruction in Japanese Corporate Vocational School ?
Kota S HIMAUCHI
In this paper, characteristics of education system of corporate vocational school are exam- ined focusing on instructors. Many companies among major automobile and parts manufac- turers run their own vocational schools where part of new graduates are cultivated as core workers. It has been discussed in many studies on how and whom corporate vocational schools have cultivated. Distinctiveness of this paper is the way of analyzing education sys- tems focusing on who cultivate new graduates, who are in charge of instruction.
It has been concluded that corporate vocational schools have assigned factory worker to in- structor for practical training and that they have also grown in the course of their task as an instructor. It has been also revealed that the education system works well precisely because it not only enhances training effect of schools but also gives advantage of improvement in work- ers’ capability to factories which provide them as instructors.
Key…Words:… education… and…training,…corporate…vocational…school,… instructor,… automobile…
and…parts…manufacturer
Ⅰ は じ め に
2017
年4
月1
日,トヨタ自動車の副社長に技能職出身の河合満氏が就任した。高い技 能と指導力が評価されて技術・技能系の最高職位である技監や専務役員として後進の人材 育成に力を注いでいた河合氏は,同社の企業内訓練校であるトヨタ工業学園の前身,トヨ タ技能者養成所の出身者である1)。ここで企業内訓練校とは,新卒(中卒・高卒)の技能系若手従業員の一部を対象に職場
1) 『日本経済新聞』2017
年3
月2
日付,2018年12
月18
日付を参照。配属前の一定期間,ものづくりの基本知識・技能や心構えを形成するための体系的な教育 訓練を提供する学校形式の訓練課程のことである。その目的は,将来,生産現場をはじめ とする技能系部門の現場監督者など,いわば現場の中核層として活躍できるような人材を 育成することにある2)。これは,かつては養成工制度として日本製造業に広く見られた中 核層育成の仕組みであり,今日でも,大手自動車関連企業を中心に運営されている。トヨ タ工業学園をはじめ,日産テクニカルカレッジ,いすゞ高等工業学校,デンソー工業学園 などはその代表格である。
教育訓練の類型論に基づけば,企業内訓練校は長期の
Off-JT(職場外訓練)と位置づ
けられる。それは現場仕事を通じた短期促成的教育訓練であるOJT(職場内訓練)とは
異なり,特別な実習期間を除けば基本的には訓練生を生産活動に従事させず,中核層の候 補者育成という長期的視点から編成されたプログラムを提供する。それはまた,多額の費 用を投じて運営されている3)。1990
年代以降,日本製造業では長期的な経済停滞の影響もあり,人材育成の費用削 減,短期化,そして外部化が進行してきた。そのため,人材育成の「劣化」(戎野,2006)とか「人材育成の失われた
10
年」(青島編,2014)と指摘されてきた。それにもかかわら ず,多くの大手自動車関連企業は訓練校での人材育成を重視し続けている。その理由は,訓練校出身者が中核層として企業の競争力を支えているからである。
製造業において,企業競争力の中心が製品競争力(QCDF:品質,コスト,納期,製品 多様性)にあるとすれば,それを直接的に規定するのは生産システムである。日本企業の 生産システムは,「幅広い職務に対応できる多能工を中心にしたフレキシブルで効率のよ い改善指向型の生産システム」(藤本,2001)と特徴づけられているが,現場監督者をは じめとする中核層は,そこで重要な役割を果たしている。
例えば,現場監督者は作業組織の取りまとめだけでなく,量産過程でのトラブル対応,
改善活動,そして生産準備や製品設計への関与といった側面でも活躍している(浅生他,
2005)。また,社内で生起する多様なアイデアをスクリーニングし収斂させる場合,現場
監督者の意見が重視される(藤本,1997)。さらに,日本企業におけるフレキシブルな生2) 本稿において,技能系職場とは,主に,機械加工や組立を中心とする直接生産職場と保全部
門を中心とする準直接生産職場を含む用語として使用している。また,中核層という用語は,職長などの現場監督者を中心に現場運営の要になる人材を示すものとして使用している。
3) 筆者によるトヨタ自動車へのインタビュー(2013
年8
月実施)やパンフレットによればトヨタ工業学園(中卒
3
年課程)の訓練生一人当たりの年間手当給付額は平均約210
万円である。在籍者は約
300
名であり,訓練生手当は年間約6
億円となる。産労働の基盤となっている協調的労使関係の維持という点でも,組合の職場役員の多くを 現場監督者が担うなど,重要な存在となっている(野村,1993)。
このような重要性ゆえに,中核層の供給源である訓練校やそのルーツである養成工制度 については,そこで育成される人材の能力・意識,教育訓練の内容,そして出身者の活躍 ぶりなどについて多くの歴史研究・現状分析があり,また近年では,熟練工養成や中核層 育成に関する国際比較研究も充実してきている4)。そうした先行研究を踏まえて展開され る本稿の独自性は,訓練校の人材育成について,教育訓練を担う指導員に注目して研究し た点にある。
具体的には,生産現場をはじめとする技能系職場において現役で活躍している人材(本 稿では「現場人材」とする)を訓練校に配置転換して指導員を担わせ,一定期間後に現場 に復帰させる仕組み(本稿では「現場人材活用型教育体制」とする)に注目し,その効果 と効果を持続的に生み出すための条件について明らかにしている。
Ⅱ 先行研究のレビューと研究課題の設定
企業内訓練校は,企業が自らの負担で社内に設置・運営する学校形式の教育訓練課程で ある。そこでは系統的な教育訓練を通じて,技能系職場の中核層候補者が育成される。こ うした中核層育成の仕組みの原点は,日露戦争後に生まれた養成工制度に遡る。本章では 先行研究に依拠して,養成工制度や企業内訓練校における人材育成の特徴を検討し,本稿 の具体的な研究課題を提示する。
1.養成工の「二重の役割」5)
企業内訓練校の起源ともいえる養成工制度については,日本の職業訓練発展史をまとめ た隅谷編(1971)が参考になる。そこでは,1900年代初頭の日露戦争を契機とした独占 資本の形成期において,生産技術の発展と労使紛争の激化を背景に,必要な技能者を内部 養成するために養成工制度が成立したことが指摘されている。
こうして展開されはじめた組織的で系統的な技能者育成の仕組みのことを,同書は「養 成工制度」と呼び,その概要を整理している。それを要約すると,養成工制度は,企業が
4) 例えば,平沼他編(2007)は,各国の徒弟制や日本の企業内訓練校など熟練工養成の国際比
較をし,榎・小野塚編(2014)も,労務管理の生成に関連づけて各国の熟練資格や熟練工養成 について取り上げている。また,谷口編(2015)は,エンジニア職種の生成と現場主義の多様 性について国際比較を展開している。5) 第二次大戦前における養成工制度の成立と普及については隅谷編(1971),戦後の養成工制度
の発展と衰退については隅谷・古賀編(1978)を参考にした。新規学卒者(義務教育修了者)を試験によって直接採用し,寄宿舎に住まわせ,手当も支 給しながら,将来の「中堅技能工」育成のために約
3
年間,座学,実習,修身教育を施す ものであった。当時の大企業は,こうした体系的な教育訓練を年功賃金や終身雇用と組み 合わせることで「忠誠心高き基幹職工」6)を子飼い養成したのであり,こうした制度は1920
~1930
年代には日本の大企業の間に普及していった。その後,第二次世界大戦時における軍需産業の活況や国家総動員体制下で制定された
「工場事業場技能者養成令」の影響を受け,大企業工場部門は養成工制度を拡充した。し かし,戦局の悪化に伴って働き手の量の確保が優先されるようになると育成制度としては 事実上崩壊していった。それが復活するのは戦後のことであり,その背景には,労働基準 法第
7
章に「技能者養成規定」がおかれ養成工酷使の排除と訓練への集中が重視されるよ うになったこと,そして高度経済成長期にかけて人手不足への対応が必要になったことが ある。こうして養成工制度を復活あるいは新設する大企業が増え,それは1950
年代にか けて大企業における基幹工の供給源として定着していった。そうした企業において,養成工出身者は“技能的にも精神的にも現場を束ねる支柱”
(伊原,2016)として活躍した。戦後の激しい労使対立を解消する役割を果たし(例え ば,読売新聞特別取材班,2003),また,現場監督者としてだけでなく生産,開発,教 育,そして海外支援などでも重要な役割を果たした(大場,2014)。まさに,「生産への共 働」の中心であり「組合の草の根」でもあった(小池,2013)。
2.中核層育成システムの再編
ところが
1960
~70
年代になると,義務教育修了者(中卒者)の高校進学率上昇と高度 経済成長の終焉を背景に,養成工制度を運営する企業は減少していった。中卒者に3
年間 の教育訓練を施す仕組みを養成工制度だと理解すれば,今日,それを維持しているのはト ヨタ,デンソー,日野自動車,日立製作所の4
社のみであるから養成工制度は「消滅」7)したと捉えられないこともない。
しかしこの現象は,現場の中核層育成という視点から見れば,育成システムの「再編」
であったといえる。1970~
80
年代にかけてはJIT,自働化,及び全社的品質管理を中心
とする日本的生産システムが普及して労働者の能力や働きに大きく依存する「技能活用 型」システム(史,1994)が展開されるとともに,ME化の進展によって生産システムの6) 隅谷編(1971)40
ページ。7) 小池(2013)は,高校進学率上昇などの影響による養成工制度の衰退を「消滅」と表現し,
現場から組合役員の供給源が喪失したことを指摘している(同書,100ページ)。
「準備,制御,保守」労働の重要性が高まった(林,1998)。そのため,組織的で系統的な 教育訓練の必要性はむしろ高まったと考えられる。多くの企業は養成工制度を廃止する一 方で,中核層の供給源を高卒者にシフトさせ,高卒
1
~2
年間の認定職業訓練課程を利用 した中核層育成システムとして再構築したのである8)。こうした経緯で設置されるように なった訓練課程を,現在,多くの企業は「企業内訓練校」や「企業内学校」と呼んでい る。3.企業内訓練校の今日的特徴
次に,日本的生産システムの普及や
ME
化の進展と関連づけて企業内訓練校の現状分 析を行った調査研究(例えば,明治大学企業内教育研究会編,2000,上野,2000a,2000b,小松,2001,木村・永田,2005,島内,2008,伊原,2016)を参考に,訓練校の
今日的特徴を整理する。先行研究が共通して指摘している特徴をまとめると,以下のよう になる。① …訓練校における人材育成の目的は,将来,技能系職場において現場監督者など中核 層として活躍できる人材の育成におかれている。
② …多くの訓練校は養成工制度を前身としており,今日は認定職業訓練として,主に高 卒者を対象にした
1
~2
年間の訓練課程(中卒3
年課程を維持しているのはトヨタ など4
社のみ)として展開されている。③ 訓練生には,手当・賃金を与えながら訓練に専念させている。
④ …教育訓練は,学科教育(座学),実技訓練(実習),心身訓練(社会人・企業人教 育)から構成されており,認定職業訓練の枠組みを基礎にしてものづくりの基本的 知識・技能を習得させるとともに,各社独自のやり方で社会人・企業人としての意 識や行動を身につけさせようとしている。
⑤ …出身者の多くは生産(機械加工,組立など)や保全といった技能系職場,場合に よっては生産技術系の職場に配属されている。
⑥ …出身者を特別に優遇する制度はないものの,多くの企業において訓練校出身者の定 着率や現場監督者への昇進確率・スピードは高水準である。
以上を踏まえると,養成工制度から企業内訓練校へと中核層育成システムが再構築され
8) 認定職業訓練とは,「職業能力開発促進法」による基準を満たし,各都道府県知事が認定した
訓練のことである。訓練施設には共同施設と単独施設があり,本稿が取り上げるのは主に大手 製造業企業が独自に設立する単独施設である。例えば愛知県の場合,単独施設は52
あり,その うち大手自動車関連企業の単独施設は13
となっている(2014年時点の情報。筆者による愛知県 産業人材育成室への聞き取りによる)。るなかで,採用対象者や訓練期間は大きく変化したものの,中核層育成としての目的や教 育訓練の基本的な構造については連続性が認められる。
4.指導員への注目(図 1)
ここまでで検討したように,先行研究は,訓練校を日本経済や日本企業の経営の展開過 程と関連づけながら,訓練校で育成される人材の能力・意識,教育訓練の内容,そして出 身者の活躍ぶりについて相当程度のことを明らかにしてきた。しかし,先行研究が十分に 明らかにしていない論点もある。それは,指導員を中心とする教育体制の問題である。
教育訓練は「訓練する者」(トレーナー)と「訓練を受ける者」(トレイニー)の「教授 学習過程」として展開される9)。こうした認識枠組みに基づけば,先行研究は主に「訓練 を受ける者」に注目した研究であったといえる。日本製造業は,技術革新への対応と労使 関係の安定化,あるいは日本的生産システムの展開と協調的労使関係の維持という経営課 題に直面した。養成工制度や企業内訓練校はそれらの課題に現場レベルで対応できる中核 層を育成するために展開された。その意義を明らかにするためには,「訓練を受ける者
(あるいは受けた者)」にフォーカスし,誰がいかなる内容の教育訓練を受けて中核層とし て育成され活躍しているのかを明らかにする必要があった。
しかし,企業内訓練校はどのような工夫をすることで効果的に中核層候補者を育成して きたのかという問題を考察するためには,「訓練する者」への注目が欠かせない10)。人材 育成の効果を高めるために,企業は指導員の人選や指導のあり方に工夫を凝らすと考えら れるからである。先行研究は指導員に言及するものの,それを分析の正面に据えているわ けではない。
そうしたなかで,「訓練する者」に注目した研究として日本労働研究機構(1994)があ る。同報告書は企業内訓練校(自動車メーカーや電機メーカー
10
社の高卒2
年短大課程 の訓練校)に対する実態調査を行い,多くの訓練校が人材育成の効果を高めるために,現 場第一線をよく知る技能者を訓練校に異動させて指導員を担わせていることを紹介してい る11)。また木下(2010)(2014)は歴史研究を通じて,労働組合運動を主導する熟練工から新
9) 佐々木英一・平沼(2011)を参照。
10) 佐々木英一・平沼(2011)は,OJT=職場内,Off-JT=職場外という,誰がどこで訓練を受け
るかという「場所基準」による教育訓練の類型化は,「訓練する者」の意義に関する研究を妨げ ていると指摘する。11) 同調査報告書の執筆者の一人である谷口雄治氏による谷口(2000)も同様の指摘をしている。
卒若年者を隔離する「鉄壁」として養成工制度を捉え,そこでは訓練の主体の陶冶が重要 であったこと,そして,会社に忠誠心を示すベテラン労働者に養成工に対する指導を担わ せることで一定の態度を身に付けた労働者の世代的再生産が実現されてきたことを指摘し ている12)。
このように一部の先行研究は,現場で経験を積んだ人材を指導員として活用すること が,訓練生を育成するうえでは,技能形成のためにも,「一定の態度」を身に付けるため にも効果的であることを指摘している。「教授学習過程」の認識枠組みに基づき「訓練す る者」に注目することで,企業内訓練校の人材育成の効果をより深く理解することが可能 になる。
しかも,「訓練する者」を分析の正面に据えることで,訓練の主体である指導員自身の 成長を明らかにすることもできる。「訓練する者」と「訓練を受ける者」の関係につい て,従来は,前者から後者への一方的な知識の流れが想定されていた。しかし認知科学,
経験学習論,そして組織間関係論などの分野では「ラーニング・バイ・ティーチング」な ど,教える側がそのプロセスから学びを得る効果が注目されている13)。
図
1
教授学習過程と本稿の焦点12) ここでの「鉄壁」という表現は,木下氏が大河内(1983)から引いているものである。大河
内氏は,会社が左傾化した熟練工を解雇し,代わりに学卒者を会社学校に養成工として囲い込 み,技能を養成するとともに,熟練工から隔離しようとしたとして,養成工制度を組合と若い 従業員を隔離する「鉄壁」と位置づけた。13) ヘラー,ダニエル・A.(2007),佐伯監修・渡部編(2010),及び中原編(2017)。
教育訓練 学習・成長
学習・成長
訓練をする者
訓練を受ける者
先行研究の焦点 本稿の焦点
出所) 筆者作成
また,訓練校が現場で経験を積んだ人材を指導員として活用しているのだとすれば,現 場人材に指導員=「訓練する者」を担わせるための配置転換のなかに,現場や訓練校は当 該人材の成長をどのように組み込み組織的に活かそうとしているのだろうか。こうした論 点も提起できる14)。
5.本稿の研究課題
以上の検討を踏まえて,次章以降(Ⅲ,Ⅳ)では,現場で活躍する人材を訓練校に異動 させて指導員を担わせる仕組み,すなわち現場人材活用型教育体制に焦点を当て,その効 果と教育体制を機能させるための条件について具体的に明らかにする。
まずⅢでは,現場人材活用型教育体制の内容を明らかにし,そのうえで,この教育体制 が生み出す効果について検討する。その場合,2つの問題に注目する。ひとつは,現場人 材に指導員を担わせることが,訓練校の二重の側面(ものづくりの基本知識・技能の形成 と社会人・企業人としての意識・行動の形成)に対してどのような意味で効果的なのかと いうことである。もうひとつは,指導員業務を通じて現場人材はどのように成長するのか ということである。さらにⅣでは,こうした教育体制が持続的に機能するための条件につ いて,当事者である訓練校と現場の組織的関係に注目して考察する。
Ⅲ 現場人材活用型教育体制の仕組みと効果
前章(Ⅱ)で提示した研究課題にアプローチするために,ここでは,筆者が大手自動車
関連企業
16
社(表1)の企業内訓練校担当者に対して行ったインタビュー結果を分析す
る15)。その場合,教育体制に関する担当者の回答に基づいて,各訓練校の共通点を抽出す る方法で分析を行っていく。
14) 人事労務管理論の分野では,配置転換に人材育成効果を見出してきた。例えば江夏幾太郎
(2018)では,1つの仕事を長く行っていると成長の限界が見えてくるため,その限界を超える ために企業は従業員の配置転換を行い,新しい仕事を経験させるとする。従来の仕事と質的に 違う仕事は,視野の広がり,不確実な状況下における適応力・学習力の向上に役立つという(同 書,152ページ)。
15) インタビューは,訓練校における人材育成の全体像を理解するために,訓練校の教育目的,
教育内容,教育体制,出身者の職場での処遇などについて半構造的インタビューとして実施さ れた。主に,学園長や指導員の代表者など,訓練校を代表して回答できる立場にある方々にご 協力を頂いた。16社(A社~
P
社)に対するヒアリング時期は主に2011
年~2014
年であり,B
社のみ2005
年実施のインタビューデータを利用している。1.現場人材の活用実態
教育体制に関するインタビュー回答を整理したものが表
2
である。ここでは,現場人材 活用型教育体制の採用の有無に加えて,採用している場合は,訓練校が現場人材に求める ニーズ,配置転換に関する訓練校と現場の調整内容,そして現場人材に指導員を担わせる 場合の業務内容,について示している。表頭①に見られるように,現場人材活用型教育体制を展開している訓練校は,調査した
16
社のうち13
社(調査時点)であった16)。そこで,この13
社の事例に焦点を当てて,指導員の調達・活用の仕組みに関する共通点を整理すると以下のようになる。
16) 本稿では現場人材の活用に焦点を当てているが,現場から異動した人材だけが指導員を担う
わけではもちろんない。長期固定的に訓練校で活躍している指導員が大勢いる。後述するよう に,前者のメリットが実践性にあるとすれば,後者のメリットは,指導方針・方法の一貫性の 維持や教育訓練の専門性の向上にある。いずれの訓練校も,両者を補完的に活用して効果的な 人材育成を行おうとしている。表
1
調査対象企業及び訓練校のプロフィールA B C D E F G H
トラックメーカー 自動車メーカー 自動車
部品メーカー 自動車
部品メーカー 自動車
部品メーカー 自動車
部品メーカー 自動車
部品メーカー 自動車 部品メーカー 調査年月
2014
年8
月2005
年11
月2011
年2
月2011
年3
月2011
年3
月2012
年2
月2012
年8
月2012
年8
月課程 中卒
3年
工業高校課程高卒
2
年短大課程 高卒
1年課程
中卒3
年工業高校課程高卒
1年課程 高卒 1
年課程 高卒1年課程 高卒 1
年課程 在籍者数107
名(3学年合計)
121
名(2学年合計)
128
名(1学年合計)
106名
(3学年合計)
86
名(
1学年合計)
30
名(1学年合計)
63
名(
1学年合計)
44
名(1学年合計)
卒業生数
1,300
名1,088
名2,471
名2,975名 1,800
名 ―4,611
名 ―在職者数 ― ―
1,729
名1,820名 1,389
名 ― ― ―I J K L M N O P
自動車メーカー 自動車
部品メーカー自動車メーカー 自動車メーカー 自動車 部品メーカー
自動車 部品メーカー
自動車 部品メーカー
自動車 部品メーカー 調査年月
2013
年7
月2013
年7月 2013
年7
月2013
年8
月2013
年12
月2014
年2
月2014
年7月 2014
年8
月課程 高卒
2
年短大課程 高卒
1
年課程 高卒1年課程
中卒3
年 工業高校課程高卒
1年課程
(就業後に訓練
:1年
5
ヶ月)高卒
1
年課程 高卒1
年課程 高卒1年課程在籍者数
46
名(2学年合計)
46
名(1学年合計)
35
名(
1学年合計)
293
名(
3学年合計)
196
名(
1学年合計)
65
名(1学年合計)
20
名(1学年合計)
91
名(1学年合計)
卒業生数
1,008名
―5,086
名17,345
名3,437
名 ―858
名1,326
名在職者数 ― ― ―
8,762
名 ― ―496
名 ―注 1)… 企業によっては訓練校内に複数の課程を設置しているものもあるが,ここでは調査時にまとまった情報を得 られた課程についてのみ記載。
注 2)… 表中の「―」はデータが得られなかったことを示す。
注 3)… J校在籍者数は 2012 年度実績。L校卒業生数と在職者数はヒアリング対象とした中卒 3 年課程だけでなく高 卒 1 年課程の訓練生も含む数値。
出所) 各社から提供を受けた訓練校要綱,訓練校入学案内パンフレット,そしてヒアリング調査結果より筆者整理。
[特徴
1]…訓練校が求める現場人材は,30
歳前後の訓練校OB
が多く,今後,現場監督 者としての活躍が期待されている人材である(表頭②)。[特徴
2]…訓練校の担当者は,現場の職制に対して直接,現場人材の配置転換を申し入
れている。その場合,当該人材を
2
~5
年(多くの場合3
年)後に元の所属 先職場へ帰すことを条件に配置転換を打診している(表頭③)。[特徴
3]…訓練校では,調達した現場人材に,座学・実技訓練等での指導,教材等の開
発・改善,そして訓練生クラスや寮の担任,という主に
3
つの業務を担当さ せる(表頭④)。ここで,現場人材活用型教育体制の仕組みをイメージしやすくするために,D社及び
P
社における訓練校担当者の回答を紹介しておこう。「実技指導員の多くは
OB
が担当している」。「指導員の確保についてはD
校の職制 が職場の職制に話を持ちかける。……現在の活躍ぶりや将来の役割を考えて,……4~
5
年で原籍に戻すという形で出向してもらう」。「1学年30
名ほどを3
名の指導員 表2
現場人材活用型教育体制に関するインタビュー結果①配置転換の有無 ②訓練校の人材ニーズ ③配置転換のあり方 ④指導員の業務内容・範囲 訓練校
OB
年齢,職位,その他 調整方法 形式 期間 指導 教材開発 担任A
有 ○ ・30歳前後・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰
3年
○ ○ ○B
有 ○ ・30歳前後 直接 原籍復帰2年
○ ○ ○C
有 ○ ・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰2~ 3年
○ ○ ○D
有 ○ ・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰4~ 5年
○ ○ ○E
有 ○ ・相応しい人材 直接 原籍復帰3年
○ ○ ○F
有 × ・人格や技能の見極め 直接 原籍復帰2~ 3年
○ ○ ○G
有 ? ? 直接 原籍復帰2年
○ ○ ○H
無 ―I
無 ―J
有 ○ ・優秀な人材 直接 原籍復帰3年
○ ? ○K
有 ? ・30歳前後・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰
3年
○ ? ?L
有 ○ ・30歳前後・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰
3
年 × × ○M
無 ―N
有 ○・30歳前後
・職業訓練指導員免許保有者
・技能検定
1
級保有者 直接 原籍復帰3~ 5年
○ ○ ○O
有 ○ ・30歳前後・現場監督者の直前段階 直接 原籍復帰
5年
○ ○ ○P
有 ○ ・30歳前後 直接 原籍復帰3年
○ ○ ○注…) 表中の「○」は該当,「×」は非該当,「?」はデータが得られなかったことを示している。
出所) 筆者によるインタビュー調査結果より。
でまとめていく。そのほかに,テキストや現物教材などの教材開発も仕事である。教 材開発の能力は指導員にとって必須の能力である」。(D社)
「現場で働く
OB
のなかから私と指導員とで相応しい人物を選び出し,私が個別に 現場に配置転換を依頼して指導員を調達する。この場合30
歳から30
代半ばまでの人 材を調達することが多い。元職場に戻すつもりでローテーションしている」。「3年間 など期限は決めて依頼する」。「指導員はそれぞれ学科,実技を担当するが,自分が担 当する科目の教材,テキストについては,その制作,改善も行う」。また「訓練生の 班の担任を務める」。(P社)2.多様な人材育成効果
では,なぜ多くの訓練校はこうした教育体制を展開するのだろうか。先行研究は,日本 の大手製造業企業における中核層を“技術的・精神的に現場を支える支柱”として二重の 役割を果たす人材と捉え,その候補者を育成する訓練校の教育訓練には,ものづくりの基 本的知識・技能の形成と社会人・企業人としての意識・行動づけという二重の側面がある ことを指摘してきた。現場人材活用型教育体制は,中核層候補者育成の
2
つの側面に対し てどのような意味で効果的なのだろうか。(1)訓練生育成の
2
つの効果①実践的な知識・技能形成の実現
まず,知識・技能の形成について検討する。多くの訓練校は,認定職業訓練として展開 図
2
現場人材活用型教育体制のイメージ指導員業務 座学・実習指導
教材開発 担 任
訓練校 現場
中核層への 昇進・昇格
現場での活躍 元職場へ復帰
訓練校へ異動
職場配属
出所) 筆者作成
されており,専攻する学科17)ごとに定められている訓練内容・時間に沿ってものづくり の基礎を学ぶことになる。そうしたプログラムを展開する場合に現場人材に座学・実技指 導や教材開発などの業務を担わせるのは,現場の実態を反映したより実践的な教育訓練を 展開したいからである。
現場から指導員を調達して一定期間後に現場に戻す仕組みは,指導員を訓練校に固定せ ず定期的に入れ替えていくことになるため,訓練校で長く経験を積んだ指導員の方が効果 的な技能形成を行えるのではないか,あるいは頻繁な指導員の入替は訓練校への指導ノウ ハウの蓄積を妨げるのではないかという疑問も生じる。しかし,訓練校担当者はそのメ リットを以下のように説明する。
訓練校は「メンバーをあまり固定せず,指導員を入れ替えることで,現場の今のやり方 を教育訓練に反映させることをめざしている。……ローテーションは意図的に行ってい る」(C社)。「現場の最新情報を吸収していくのが目的になっている」(G社)。また,最 新情報という意味だけでなく,「現場の第一線の経験を踏まえて,失敗談も含めた現場の 泥臭い話ができることがメリットである」(L社)とも述べられている。
担当者たちには,「認定訓練の性格上基本的技能や知識の習得が必要となるが,それら が企業としてのものづくりに活かされなければ意味がない。職場での活躍が期待できる教 育内容の充実を進めたい」(N社)という考えがある。
こうした点については,調査時点において配置転換を通じた指導員調達を停止していた
I
社訓練校担当者の回答が示唆に富むので紹介したい。「(現場からの指導員調達が理想的だという-筆者)1つ目の理由は,技術技能面で 最先端を持つのは専門機能部署であり,教育部署がこれらを捉えるのはどうしても後 追いになるため,定期的な機能部署との人材ローテーションによって,常に新しいコ ンテンツと実務に即した臨場感を獲得する効果が得られることにある」(I社)。
このように知識・技能の形成をより実践的なものにしたいという考え方は,指導のあり 方だけでなく,指導に用いられる教材開発についても同様である。
多くの訓練校では「テキストの内製化や現物教材の整備に力を入れて」おり「指導員の
17) 自動車関連企業の訓練校の専攻について,例えば,完成車メーカーであるトヨタのトヨタ工
業学園(中卒3
年課程)の場合は,鋳造科,塑性加工科,機械加工科,精密加工科,自動車製 造科,自動車整備科,木型科,金属塗装科がある。またトランスミッションを中心とする部品 メーカーであるアイシン精機のアイシン高等技能学園(高卒1
年課程)の場合は,機械科,電 子科,電気科,金属材料科がある。役割の大きな部分を占める」(F社)という。現場人材が訓練校の指導員となり「簡単な 教材については自分で作ってしまう。また実習機などについても(専門メーカーに――筆 者)考案する」(N社)のである。「市販のテキストを利用していても社内の言葉で伝えら れるものとして内製,改訂していく。講師各自が取り組む」(O社)。そうしたものは「近 年はデータ化されているので,パソコンでどんどん変えていく。これは現場の人に来ても らい,現場を反映した考え方を入れてもらうということが目的」(A社)になっていると いう。
②中核層候補者としての意識・行動づけの促進
訓練校のもうひとつの重要な側面である社会人・企業人としての意識・行動づけという ことについては,訓練校が,指導員を務める現場人材を訓練生の成長モデルと位置づけて 活用している点に注目する必要がある。
現場から異動してくる人材の多くは,訓練校
OB
であり,現場での活躍も認められてい て,今後は現場監督者としての活躍を期待されている世代である。「現場から訓練校OB
を連れてくるのは,訓練生にとってはモデルになるような先輩が来ているということ」(A社)なのである。
そうした成長モデルとしての現場人材には,「クラス担任や寮担当を務めてもらいなが ら,心身教育を通じて企業人としてのあり方やリーダーシップを教えてもらう」(L社)
こと,「人生の先輩として良き相談相手となり,勉強だけでなく生活面でも積極的に訓練 生を指導できる」(B社)ことが期待されている。
なお,指導員として
30
歳前後の人材が求められている理由として,「学園生向けの実習 や行事には体力など若さも必要だ」(N社)ということもある。「学園生の中に溶け込みな がら,学園生以上に全力で取り組み,言葉よりも行動で示す」(P社)ということも重視 されている。(2)指導員の成長
①ラーニング・バイ・ティーチングの
3
つの側面Ⅱにおいて,「訓練する者」を分析の正面に据えることで,訓練主体の学びに気付くこ とができると指摘した。訓練校においては,指導員自身の成長ということである。この点 について前出の
I
社担当者の回答が興味深いので,まずは紹介したい。「(現場からの指導員調達が理想的だという――筆者)2つ目の理由は,講師として の経験自体を職場の中核人材育成の一助として機能させたいという狙いです。人を指 導するには,教わる側の何倍もの見識が必要で,同時にそれらを人に伝える技も必要 ですので,ローテーション講師たちは訓練校にアサインされている期間,自身の高度
化に努めます。……つまり,訓練生の成長と期間限定のローテーション講師の両方が 成長する,一挙両得を狙えます」(I社)。
この回答には,訓練生の成長とは区別される指導員の成長,つまり教わる側だけでなく 教える側もそのプロセスから学ぶという「ラーニング・バイ・ティーチング」効果の存在 を見出すことができる。
訓練校に配置転換された現場人材は,指導員として座学・実技指導,教材開発・改善,
クラス担任等の業務を担当する。こうした業務の経験は,指導員の成長にとってどのよう な効果をもたらすのだろうか。
まず,座学・実技指導では得意分野を担当することになるため,自らの知識・技能のブ ラッシュアップが期待できる。しかも訓練校は,「指導員は,自分の専門の授業を担当し つつ,例えば『電気系統』といった一定範囲内で少しずつ異なる分野を学び授業を担当す るなど幅を広げさせるようにしている。そのことで,関連する資格や検定も取ることがで きるし,それは職場に戻った後にも役立つことになる」(F社)と考えており,知識・技 能を拡大・深化させる機会となっている。
次に,教材の開発・改善の経験は,現場では設備改善・工程改善にも活かされると考え られるが,「今までの経験の切り売りだけでは指導員の幅は広がらないと考え,担当でき る科目を拡大させるなど,自分自身の業務を改善していける環境を設けている」(C社)
という回答にもあるように,指導員として自らの業務を見直し改善を求められることで改 善能力が向上すると考えられる。
さらに,クラス担任や座学・実技指導などの経験は,中核層としてリーダーシップを発 揮し組織を管理監督するための能力育成に役立つだろう。L社によれば,クラスや寮の担 任を務める指導員は,訓練生に対して企業人としてのあり方やリーダーシップについて教 えるが,そのなかで「本人もリーダーシップについて学ぶ必要があり,そこで指導員自体 も成長する」という。より具体的には「訓練生の面倒見,失敗の指導だけでなく良いとこ ろを伸ばす指導をすることで,コミュニケーション能力,相手を見て動く力が身につく」
のであり,現場のマネジメントに必要なそうした力が現場で活かせる点だという。
②社内ネットワークの形成
指導員の成長については,指導員を務めることが社内ネットワークの形成に結びつくと いう点にも注目する必要がある。これは,現場業務に従事している場合と比較して,指導 員業務ではより広い人間関係が形成され,それが職場復帰後の業務に役立つということで ある。
この点については,自らも訓練校の出身者であり,技能系職場の技能員→訓練校の指導
員→技能系職場の現場監督者→訓練校の担当者という社内キャリアを積んできた
K
社訓 練校担当者に対するヒアリングに基づく知見である。回答を紹介しよう。「現場にいるだけでは人間関係が狭い範囲でしか形成できないが,指導員になると様々 な職種の指導員とともに仕事をするし,また訓練生の実習受け入れ等の依頼のために沢山 の職場に足を運ぶため,幅広い人間関係が構築できる。さらに,数年間指導員を経験する と,沢山の訓練生を教えることになるため,現場に人脈が広がる」。「指導員をやっている と人脈の広さがあるため全社的に顔が利くようになる」。「こうした人的ネットワークは職 場で問題解決を迫られたときに役立つ」。(K社)
このように,多くの指導員,現場職制,訓練生との幅広い社内ネットワークが形成され ることで,複雑な問題,不確実な問題に直面した場合に多様な解決策を模索できるように なるのかもしれない。
指導員を経験することで,現場人材は知識・技能の拡大・深化,改善能力の向上,管理 監督能力の向上,そして社内ネットワークの形成など様々な意味で成長している。現場復 帰後に中核層として活躍するうえで指導員経験が大いに役立つだろう(図
3)。
Ⅳ 現場人材活用型教育体制を支える組織的条件
前章(Ⅲ)で明らかにしたように,現場人材活用型教育体制は,訓練生の効果的な育成 と指導員の成長とを同時に実現するものであった。では,こうした仕組みが持続的に効果 を生み出すにはどのような条件が必要だろうか。
指導員を担う現場人材の異動に注目すると,この教育体制には,現場人材が製造現場で 図
3
指導員によるラーニング・バイ・ティーチング出所) 筆者作成 座学・実技訓練指導
教材開発・改善 クラス等の担任
固有知識・技能の拡大・深化 工程改善・設備改善の能力 マネジメント・リーダーシップ
社内ネットワーク形成
中核層 としての 活躍
運 営
蓄積した経験を訓練校での指導員業務に活かして訓練生を効果的に育成する局面と,訓練 校から現場に原籍復帰した人材が,訓練校での指導員業務を通じて得た経験を中核層とし ての業務に活かすという局面がある。2つの局面はともに,組織内における経験の蓄積と 交流であり,ここにこの教育体制の本質があると考えられる。
それゆえに,この仕組みを持続的に機能させるためには,長期的な経験の蓄積・発揮を 促進するような雇用・処遇のあり方が必要になると同時に,経験の蓄積・交流を進めるた めの配置転換とそれを実現するための部門間協力が必要になる。
ここでは後者に焦点を絞る。その場合,注目すべきは,教育と生産という機能分業の関 係にある訓練校と技能系職場にはそれぞれ重視すべき異なる課題があるということであ る。そのため,現場人材の訓練校への異動は容易には実現されない。具体的には,訓練校 は効果的な人材育成のために優秀な現場人材の配置転換を求めるが,現場は生産計画の達 成や円滑な職場運営のために優秀な人材を手放したくないため配置転換に難色を示すと いった問題が生じる。
それでもこの教育体制が機能しているのは,この仕組みに対する現場の理解が得られて いるからである。なぜだろうか。もちろん,現場人材による指導によって訓練生育成が効 果的に進めば,現場に良い若手人材が配属されるようになるということもある。しかしそ れだけではない。現場が訓練校に人材を送り出すことのメリットは,指導員業務を通じて 現場人材が成長して戻ってくるということである。つまり,現場人材活用型教育体制は,
現場にとっては中核層を担う直前段階の仕上げのように捉えられているのであり,現場側 もそのことを理解しているからこそ配置転換に応じるのである。このように,指導員の成 長効果は,現場が訓練校に人材を送り出す重要な条件になっているのである。
この問題をインタビュー回答に依拠して考察してみよう。Ⅲ-1において,D社訓練校 と生産現場がどのように配置転換の調整をしているか紹介した。再掲すると,「指導員の 確保については
D
校の職制が職場の職制に話を持ちかける。……現在の活躍ぶりや将来 の役割を考えて,……4~5
年で原籍に戻すという形で出向してもらう」というものであ る。この引用文を省略せずに記すと以下のようになる(省略していた部分に下線を施した――筆者)。
「指導員の確保については
D
校の職制が職場の職制に話を持ちかける。職場ではコ アになる人材を出したがらない傾向はあるものの現在の活躍ぶりや将来の役割を考え て,「人を教える経験」を積ませたい将来のリーダー候補の育成として職場へ異動を 打診する。4~5
年で原籍に戻すという形で出向してもらう」。(D社)このように,訓練校が望む配置転換は簡単には実現しない。「こちらの要望した人物に 対しては,大半は断られる。当然こちらがいいと判断して人選した人物は,現場において も良いわけで,現場としては抜けては困る」(P社)からである。
そうなると,訓練校は配置転換を実現するために現場の理解を得なければならなくな る。そのため訓練校は,現場人材の活用を,訓練生を効果的に育成するためだけではな く,指導員業務を通じて現場人材が成長するための場として積極的に位置づけていくこと が必要になる。
つまり「若手が訓練校に来て指導員を担い成長して現場に帰るという育成のパターン」
を重視し,「訓練校としては指導員として受け入れる者もレベルアップさせなければなら ないという使命感で仕事をする」(K社)ことが重要になる。
そして「人員派遣を依頼する時は,訓練校で何をしてもらうのか,そのことによって何 を身につけてもらうかということをはっきりさせることが重要になる」し,指導員経験を 通じて成長した現場人材が中核層として現場を牽引していく実績が積み重ねられていく と,「指導員としての学園へのローテーションが,現場にとっては監督者になる前の教育 訓練の一環と位置づけられている」(C社)状態になり,調整が難航しても配置転換を実 現できるようになる。
このように,現場人材活用型教育体制は,訓練校と現場の双方にとってのメリットを追 求しなければ持続的に機能しないものと考えられる。この点について,L社の回答は多く の訓練校が目指すべきところであろう。印象的であったため,最後に紹介しておきたい。
図
4
現場人材活用型教育体制の効果と機能条件出所) 筆者作成
・固有知識・技能の拡大・深化
・工程・設備改善の能力
・マネジメント,リーダーシップ
・社内ネットワークの形成
・実践的な
知識・技能の形成
・中核層としての 意識・行動づけ 指導員の成長
(現場のメリット)
訓練生の育成
(訓練校のメリット)
訓練校
メリットのすり合わせ
(相互協力)
現場 指導員業務
中核層への 昇進・昇格
現場での活躍 指導員経験の
現場での活用 現場経験の 訓練校での活用
「現場も忙しいため人員を出すことに渋い顔をする場合もあるが,多くの場合,現 場の優秀な人材には伸びしろがあると考え,学園に出して指導員経験を積んで成長し てほしいという意識で出してくれる」。「社内ではトレーナーやアドバイザーを育てる ことに力を入れていて,多くの従業員がトレーナーを経験しながら成長,あるいは昇 進・昇格していくことを期待している」(L社)。
Ⅴ ま と め
本稿では,教育訓練の「教授学習過程」という認識枠組みに基づいて,企業内訓練校に おける「訓練する者」すなわち指導員を分析の正面に据えて,人材育成の効果と組織的条 件を検討してきた。先行研究とは異なる視点で分析することで,訓練校の人材育成につい ての認識を一歩深められたのではないだろうか。その内容を,まとめておこう。
現場人材を訓練校に配置転換して指導員を担わせる現場人材活用型教育体制は,現場経 験を積んでいて訓練生のモデルとなるような人材を指導員に活用することで,新卒の訓練 生を将来の中核層候補者として効果的に育成していた。またこの教育体制の下では,指導 員を担当する現場人材も指導員業務を通じて多くのことを学び成長しており,現場復帰後 には中核層として活躍するようになるなど,多様な効果を発揮していた。
現場にとっては貴重な戦力を訓練校に送り出すことになるのだから,この教育体制の柱 となる配置転換には困難が伴うのだが,訓練校は自らの訓練生育成のことだけでなく,現 場人材が指導員経験を通じて成長し中核層として現場を牽引していくという循環をつくる ことを重視していた。そのことは,現場が訓練校に人材を送り出す決め手になる。訓練校 と現場の双方のメリットを統合しているからこそ,この教育体制は機能している。
本稿で見てきたように,大手自動車メーカー及び部品メーカーの人材育成は,従業員の 経験を組織内で長期間かけて活用していくという形で展開されており,その仕組みは雇用 の長期性や異動の柔軟性に基づいて機能している。上林(2018)によれば,グローバル市 場主義が浸透するなかで日本的経営は弱体化しているが,コア人材を内部育成する志向性 は残っていると指摘されている。しかし近年,“指導する人材の不足”が人材育成を停滞 させる要因になっている(島内,2017)。現場の人材がその経験を活かして効果的な人材 育成を行い,そのプロセスで得た経験を現場に持ち帰る現場人材活用型教育体制は,日本 企業の人材育成の活性化に多くのヒントを与えてくれるのではないだろうか。
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