科学技術と社会の間のコミュニケーション活性の試み
1. サイエンスカフェ
最近巷ちまたでは,町中のカフェやバーあ るいは多くの人が行き交う広場など で,サイエンスカフェと呼ばれる催し を目にすることが多くなった.サイエ ンスカフェとは講義や講演会などとは 異なり,リラックスした雰囲気の中,
科学技術についてその面白さや疑問,
喜びや不安を率直に語り合える場を設 けるという意図で始まったイベント で,イギリスやフランスが発祥の地だ といわれている(1).もともとは,フラ ンスで古くから行われていた哲学カ フェにならって 1998 年ごろから科学 をテーマにした対話イベントとして各 地に広まっていったとされる.
日本におけるサイエンスカフェの試 みは,学識者の有志で行った 2004 年 の京都サイエンスカフェが最初だとい われている.その後,日本学術会議が 後押ししたこともあり,全国各地のさ まざまな大学や博物館などで開かれる ようになった.とくに,サイエンスカ
フェの普及と前後して,大学や博物館 などで設置された「科学(サイエンス)
コミュニケーター」や「科学ジャーナ リスト」と呼ばれる専門家を育てよう とする養成コースでは,教員や学生が 中心となってサイエンスカフェを定期 的に開催している(図 1).一般的に,
サイエンスカフェにはファシリテー ターという司会進行役がいて,話題提 供者である科学者と市民との意見交換 をスムーズに行う役割を担っている.
前述の養成コースでは,学生にファシ リテーターを務めさせて,そのコミュ ニケーション能力を高めさせる意図が ある.
2. 科学コミュニケーター
科学コミュニケーターの養成コース は文部科学省の支援事業として北海道 大学,東京大学および早稲田大学で開 講されたのをはじめ,その他の大学で も課外コースとして設置され,さらに 日本科学未来館や国立科学博物館にお いても従来からの学芸員養成に加えて こうした科学コミュニケーターの養成 に力を入れ始めている.
科学コミュニケーターというもの は,科学技術に関するコミュニケー ションをサポートする人のことを意味 し,前述のファシリテーターもその一 つであるが,一般的に科学技術者と一 般社会の人々との相互理解を促進す る,科学ジャーナリストも含めた,い わゆる通訳者として活躍する人材のこ とをいう.社会に対して , 科学技術に 関する事柄をわかりやすく解説すると ともに , 一般社会からの科学技術に対 する意見を科学技術に携わる者に伝達 する役割を担う人材の養成および確保 の重要性については,2004 年に文部 科学省によって発行された「科学技術 白書(2):社会とのコミュニケーション
のあり方」において指摘された.ここ では,科学技術者は,たとえば原発開 発や遺伝子技術など,一般市民が不安 に思う事柄について,一方的に情報提 供するだけではなくて,非専門家であ る一般市民と十分コミュニケーション をとり,社会的倫理規範のもとに研究 開発を行う必要があることが示されて いる.しかし,科学技術者も,社会的 な意見や倫理観を調査し分析する能力 においては非専門家であり,こうした 一般市民の視点をわかりやすく科学技 術者に伝えることも科学コミュニケー ターの重要な役割といえる.
3. 科学コミュニケーターへの期 待
このように,科学コミュニケーター は科学技術の内容を正確に理解でき る,いわゆる理工系の素養と,一般市 民が疑問や不安を感じる視点を理解 し,さらに,その後に想定される行政 あるいは政治問題についても対応でき る,社会学や倫理学あるいは政治・行 政学等の素養を併せ持った特殊な能力 が必要であるといえる.とくに近年で は環境問題など,科学技術者の対応だ けでは解決できない問題が多く,今後 はこうした技術と社会との間の問題に ついて,お互いの理解を促進させる仲 介者として,科学コミュニケーターへ の期待が大きくなっていくと考えられ る.そしてさらに,そうした問題の解 決の場の一つとして,サイエンスカ フェもまた,今後大きな役割を担って いくのではなかろうか.
(原稿受付 2009 年 8 月 28 日)
〔神奈川工科大学 佐藤智明〕
●文 献
( 1 )北海道大学科学技術コミュニケーター養成 ユニット編,はじめよう!科学技術コミュ ニケーション,(2007),ナカニシヤ出版.
( 2 )文部科学省,科学技術白書,(2004),111- 125.
図1 北海道大学科学技術コミュニケー ター養成ユニット主催によるサイ エンスカフェ(札幌紀伊国屋書店 前広場)
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