卒業研究論文
首都圏鉄道における旅客流動の再現と 運行スケジュールの評価
学籍番号 07D8104019G 松本 徹朗
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2011 年 3 月
i
あらまし
本研究では,私鉄,JRの電子時刻表を用いて,空間的な移動と時間の進行を表現する時 空間ネットワークを構築し,首都圏の鉄道の運行を表現する.次に,大都市交通センサス より交通需要データを抽出し,各利用者の交通需要データについて時空間ネットワーク上
でDijkstra法を用いて最短経路問題を解き,首都圏鉄道における旅客流動を再現する.さ
らに,旅客流動のシミュレーション結果から,JR京浜東北・根岸線,JR中央・総武線各 駅停車,JR山手線の3路線の役割を分析する.
また,JR中央線上りに着目して,各駅での実際の乗降者人数から算出した停車時間と各 駅間の所要時間を用いて,各電車の運行状況を推定し,時刻表の運行ダイヤと比較して運 行スケジュールを評価する.
キーワード:公共交通機関,鉄道ネットワーク,時空間ネットワーク,Dijkstra法,停車 時間関数
ii
目次
第 1 章 序論 ... 1
第 2 章 首都圏鉄道の時空間ネットワーク ... 2
2.1 時空間ネットワークの概要 ... 2
2.2 時空間ネットワークの構築 ... 2
2.2.1 駅ノード ... 3
2.2.2 走行リンク ... 4
2.2.3 待ちリンク ... 5
2.2.4 待ち合わせリンク ... 5
2.2.5 乗換リンク ... 6
2.2.5.1 同一視駅間乗換リンク ... 7
2.2.5.2 乗換可能駅間乗換リンク ... 8
2.3 構築した時空間ネットワーク ... 10
第 3 章 旅客流動の再現 ... 13
3.1 通勤利用者移動データ ... 13
3.1.1 大都市交通センサスデータ ... 13
3.1.2 乗車時刻の決定 ... 13
3.1.3 乗車時刻の平均化 ... 16
3.1.4 ネットワーク上での鉄道利用開始と鉄道利用終了 ... 18
3.2 交通量配分 ... 19
3.2.1 Dijkstra 法 ... 19
3.2.2 利用電車割り当てアルゴリズム ... 20
3.2.3 乗降者人数計算アルゴリズム ... 21
3.3 路線の役割の分析 ... 22
3.3.1 JR 京浜東北・根岸線の分析 ... 23
3.3.1.1 南行路線の役割 ... 23
3.3.1.2 北行路線の役割 ... 24
3.3.2 JR 中央・総武線各駅停車の分析 ... 29
3.3.2.1 西行路線の役割 ... 29
3.3.2.2 東行路線の役割 ... 29
3.3.3 JR 山手線の分析 ... 34
3.3.3.1 外回り路線の役割 ... 34
iii
3.3.3.2 内回り路線の役割 ... 34
3.3.3.3 利用者の利用傾向 ... 34
第 4 章 JR 中央線上りの運行スケジュールの評価 ... 41
4.1 JR 中央線の現状 ... 41
4.2 各停車駅での停車時間の分析 ... 45
4.2.1 停車時間関数 ... 45
4.2.2 各停車駅での停車時間 ... 46
4.3 運行スケジュールの評価 ... 49
第 5 章 結論 ... 52
5.1 まとめ... 52
5.2 今後の課題 ... 53
謝辞... 54
参考文献 ... 55
付録 鉄道定期券・普通券等利用者調査 ... 56
1
第1章 序論
日本の首都圏における鉄道ネットワークは,世界的に見ても非常に緻密な作りとなって いる.特に都心部では,ネットワークが網の目のように張り巡らされているため,通勤,
通学といった目的地への移動手段として,鉄道は非常によく利用されている.その一方で,
首都圏への人口集中も原因となり,利用者が集中する通勤,通学の時間帯では,混雑が非 常に激しい状況となっている.
鉄道は,専用に作られた線路の上をあらかじめ作成されたスケジュールに従って運行す るため,安全性と定時性に優れている.逆にこの特性上,事故や設備・車両の故障,ある いは混雑による遅延が発生してしまうと運行スケジュールが狂ってしまい,乗客に多大な 影響を与えるという短所もある.
通常,電車が混雑すればするほど利用者の乗降に時間がかかり,電車の運行に遅れが生 じてしまう.さらに,もしある電車で遅延が発生すると,先行する電車との運行間隔が広 がり,そのために先々の駅で待っている利用者数が増加する.そして,乗降者数が増加す ると乗降時間が長くなるため,遅延の規模が拡大してしまう.このような状況に対して,
各鉄道会社は,利用者の集中による遅延を考慮して,予め余裕のある運行スケジュールを 計画している.しかし,都心部のように各電車の時間間隔が狭いスケジュールで運行して いる路線では,遅延を吸収するための時間を十分に確保できないため,遅延が慢性化して しまう.
このような状態を改善するために,列車の長編成化や線路の複々線化,電車本数の増便 などの対策が取られているが,土地や費用の面で制約が多かったり,安全性を考慮して電 車の本数を増便できなかったりと,混雑緩和が一気に進む状況にはない.
そこで本研究では,まず,各路線の時刻表を用いて,首都圏鉄道ネットワークにおける 電車の運行スケジュールを表す時空間ネットワークを構築する.次に,構築した時空間ネ ットワーク内で,大都市交通センサスのデータに則して鉄道利用者を移動させることによ り,旅客流動を再現する.また,各路線での時間ごとの移動人数を計算し,その結果から 路線の役割を分析する.さらに,通勤,通学の時間帯に激しい混雑による遅延が目立つJR 中央線上りに着目して,各電車の停車駅での停車時間を,電車の到着時刻と発車時刻の差 に,利用者の混雑により通常よりもかかってしまう利用者の乗降時間を加えて計算する.
この停車時間と各駅間の所要時間を用いて,各電車の運行状況を推定し,時刻表の運行ダ イヤと比較して運行スケジュールを評価する.
2
第2章 首都圏鉄道の時空間ネットワーク
2.1 時空間ネットワークの概要
鉄道ネットワークとは,駅をノードとし,駅間にリンクを張ったネットワークのことで ある.鉄道利用者の旅客流動を再現するには,駅間の移動のような空間的変化だけでなく,
移動に伴って進行する時間的変化も考慮しなければならない.そのため,鉄道ネットワー ク上で動的にネットワークフロー問題を解かなければならないが,本研究で扱う鉄道ネッ トワークのような大規模なネットワークに対して,動的にネットワークフロー問題を解く ことは非常に困難である.
鉄道は時刻表に従って運行するため,鉄道ネットワークの時間的変化が確定的であると いう特徴を持つ.この特徴を利用して,鉄道ネットワークを時間軸方向に拡張することに よって,動的なネットワークを静的なネットワークとして構築することができる.この構 築したネットワークを時空間ネットワークと呼ぶ [6,7,8].
2.2 時空間ネットワークの構築
本研究では,2005年の全国JR時刻表と2010年の私鉄時刻表の2つの電子時刻表をも とに,2005 年に実施された第 10 回大都市交通センサス [4] の対象範囲である 132 路線 1899 駅で時空間ネットワークを構築する.図2.1 に対象範囲を示す.参考までに,図 2.1
(b)に都心部を拡大したものを示す.図中の緑の線は山手線を示している.
図2.1:対象範囲
(a) 対象範囲の鉄道網 (b)都心部拡大
3
鉄道利用者の利用開始から終了までの行動を以下のように分類することができる.
・ 電車に乗って次の駅へ移動する.
・ 駅で次の電車を待つ.
・ 駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える.
・ 駅で別の路線に乗り換える.
ここで,すべての駅に停車する各駅停車などの電車(以下,緩行電車とする)が急行など の通過する駅がある電車(以下,優等電車とする)を待って発車することを待ち合わせと 呼ぶ.これらの行動をネットワークで表すために,以下のノードとリンクを定義する.
・ 駅ノード : 各駅における各電車の停車
・ 走行リンク : 電車に乗って次の駅へ移動する行動
・ 待ちリンク : 駅で次の電車を待つ行動
・ 待ち合わせリンク : 駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える行動
・ 乗換リンク : 駅で別の路線に乗り換える行動
2.2.1 駅ノード
駅ノードは,各駅における各電車の停車を表すものであり,以下の要素に分けられる.
・ 着ノード : 各駅における各電車の到着
・ 発ノード : 各駅における各電車の発車
・ 着発間リンク : 駅での電車の停車
図2.2に駅ノードのイメージを示す.
図2.2:駅ノード
電子時刻表には,電車が到着する時刻(以下,着時刻とする)と電車が発車する時刻(以
4
下,発時刻とする)が記載されている駅と,発時刻しか記載されていない駅がある.以降,
前者を着発別,後者を着発同時とする.着発別の駅の場合は図2.2のような駅ノードとなる が,着発同時の駅の場合は着ノードの情報がないため,発ノードが駅ノードとなる.また,
電子時刻表に記載されている着時刻と発時刻の単位は [分] であるため,ネットワークの基 本単位は [分] となっている.
2.2.2 走行リンク
走行リンクは,電車に乗って次の駅へ移動する行動を表すものであり,着発別の駅の場 合は,移動元の駅の発ノードと移動先の駅の着ノードを繋ぐリンクである.着発同時の駅 の場合は,移動元と移動先の発ノードを繋ぐ.着発別のイメージを図2.3に,着発同時のイ メージを図2.4に示す.
図2.3:着発別の走行リンク
図2.4:着発同時の走行リンク
各走行リンクは列車種別と定員の情報を持つ.列車種別は,2005 年に実施された第 10 回大都市交通センサスを参考に,緩行電車,無料優等電車,有料優等電車,新幹線に分類 する.定員は車両定員に編成数を掛けた値とし,路線,列車種別ごとに値を定義する.混
雑率が100 [%] のとき,乗車人数は定員と等しくなる.図2.5に混雑率の目安を示す [6,
8].(a)~(e)はそれぞれ以下のような状況を表している.
(a)座席につくか,吊革につかまるか,ドア付近の柱につかまることができる.
(b)肩が触れ合う程度で,新聞は楽に読める.
(c)体が触れ合うが,新聞は読める.
(d)体が触れ合い相当圧迫感があるが,週刊誌程度なら何とか読める.
(e)電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きができず,手も動かせない.
5
図2.5:混雑率の目安
2.2.3 待ちリンク
待ちリンクは,駅で次の電車を待つ行動を表すものであり,各発ノードから次にその駅 を発車する同一路線の電車の発ノードへのリンクである.図2.6に待ちリンクのイメージを 示す.
図2.6:待ちリンク
2.2.4 待ち合わせリンク
待ち合わせリンクは,駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える行動を表すものであり,
先に到着した電車の着ノードから,次に到着し,先に発車する電車の発ノードへのリンク である.着発同時の駅の場合,待ちリンクが待ち合わせリンクと同じ役割を果たすため,
待ち合わせリンクは張らない.図2.7 に待ち合わせリンクのイメージを示す.図 2.8(a)
(a)100% (b)150% (c)180% (d)200% (e)250%
6
の紫の線は,待ち合わせによる電車1から電車2への乗換の様子,図2.8(b)の紫の線は,
待ち合わせによる電車2から電車1への乗換の様子を表している.
図2.7:待ち合わせリンク
図2.8:待ち合わせによる乗換
2.2.5 乗換リンク
乗換リンクは,駅で別の路線へ乗り換える行動を表すものである.図2.9のように,路線
1と路線2がB駅とB’駅で乗換が可能であるとすると,乗換リンクはB駅の着ノードか
ら,B’駅で乗換が間に合う最も早い電車の発ノードへのリンクである.図 2.10 に乗換リ ンクのイメージを示す.
7
図2.9:乗換可能な駅
図2.10:乗換リンク
乗換リンクは,乗換に時間がかからない駅対(以下,同一駅対とする)と時間がかかる駅 対(以下,乗換可能駅対とする)でリンクの種類が異なる.同一駅対のリンクを同一視駅間 乗換リンク,乗換可能駅対のリンクを乗換可能駅間乗換リンクとする.
2.2.5.1
同一視駅間乗換リンク
同一視駅間乗換リンクは同一駅対の乗換リンクであり,すべての乗換が同一ホーム内で できる駅同士を繋ぐリンクである.同一駅対では乗換時間を0 [分] として考えるので,乗 換元の着ノードの時刻より遅い最初の乗換先の発ノードと乗換元の着ノードをリンクで繋 ぐ.図2.11のような相互直通運行を同一ホームで行なう駅は同一駅対である.また,図2.12
8
(b)の駅 B,B’,C,C’が図2.12(a)のようなホームの構造をしているとき,図 2.12
(b)の駅Bと駅B’の駅対は同一駅対であるが,駅Cと駅C’の駅対は同一駅対ではない.
図2.12(b)の駅Cと駅C’の駅対では,利用者が図2.12(c)の緑の矢印のような行動を
する可能性があるからである.その場合利用者は,駅C または C’で降りたホームとは違 うホームへ移動しなければならないため,駅C,C’の駅対は同一駅対ではない.
図2.11:同一ホームでの相互直通運行
図2.12:並走する路線の同一駅対と乗換駅対
2.2.5.2
乗換可能駅間乗換リンク
乗換可能駅間乗換リンクは乗換可能駅対の乗換リンクであり,違うホームへの乗換が 1 つでもある駅同士を繋ぐリンクである.乗換可能駅対では乗換にかかる時間があるので,
乗換元の着ノードに乗換時間を足した時刻よりも遅い最初の乗換先の発ノードと乗換元の 着ノードをリンクで繋ぐ.乗換時間は,2000年に実施された第9回大都市交通センサス [3]
9
と,2005 年に実施された第 10 回大都市交通センサスの鉄道ターミナル乗換施設実態調査 から抽出する.鉄道ターミナル乗換実態調査には,乗換時間や施設内容(水平・垂直方向 の移動距離,階段の段数など)が収録されており,乗換時間はピーク時・オフピーク時に 分かれている.これらの乗換時間は,実際に測定者が旅客の流れに乗り,ストップウォッ チにより計測した時間である.本研究では朝の通勤時間帯を分析対象としているので,ピ ーク時の乗換時間を用いる.乗り換える駅が同じ場合でも乗換の際に使用した施設や上下 線などが異なれば,別データとして収録されている.そのため,1つの駅対に複数のデータ が収録されている場合もある.交通量配分において,鉄道利用者が乗換で利用する駅構造 の経路まで推定することは困難であるため,複数データがある場合はその平均値を用いる.
また,乗換の方向(A駅からB駅への乗換と,B駅からA駅への乗り換え)は区別しない.
鉄道ターミナル乗換施設実態調査には,オフピーク時の乗換時間しか収録されていない 駅対がある.そのようなデータについては,オフピーク時の乗換時間からピーク時の乗換 時間を推計する.図2.13にピーク時とオフピーク時,両方の乗換時間がある駅対の散布図 を示す.このデータを用いて,ピーク時の乗換時間をtp,オフピーク時の乗換時間をtopと して線形近似を行なうと,以下の式を得る.
op
p t
t 33.391.056 (2.1)
上記の式を用いてオフピーク時の乗換時間からピーク時の乗換時間を推計する.
図2.13:乗換時間 0
200 400 600 800 1000
0 200 400 600 800 1000
ピーク時[秒]
オフピーク時[秒]
10
ピーク時,オフピーク時両方の乗換時間のデータがない駅対に関しては,乗換駅s,tの座
標(単位 [m])を(xs,ys),(xt,yt),歩行速度を55 [m/分](=3.3 [km/時]),改札や階段 を通過するためにかかる時間の合計を2 [分] として以下の式で乗換時間を推計する.
乗換所要時間 [分] 2
55
) (
)
( 2 2
xs xt ys yt
[分] (2.2)
2.3 構築した時空間ネットワーク
首都圏の鉄道網を時間軸方向に拡張し,構築した時空間ネットワークを図2.14に,ネッ トワークの規模を表2.1に示す.平日に運行する電車を対象としている.図2.15に待ち合 わせリンク,図2.16に乗換可能駅間乗換リンク,図2.17に新幹線の走行リンクを拡大した ものを示す.図2.15,図2.16,図2.17の橙色のリンクが待ちリンク,図2.15,図2.16の 青色のリンクは緩行電車の走行リンク,図2.15の水色のリンクは優等電車の走行リンク,
図2.17の赤色のリンクは新幹線の走行リンク,図2.15,図2.16,図2.17の黄色のリンク は着発間リンク,図2.15の黄緑色のリンクは待ち合わせリンク,図2.16の水色のリンクは 乗換可能駅間乗換リンクである.同一駅間乗換リンクは乗換可能駅間乗換リンクの乗換時
間が0 [分] のものとみなす.
図2.14:時空間ネットワーク
時間
11
表2.1:時空間ネットワークの規模
ノード
922,066
リンク
3,290,322
走行リンク
540,188
着発間リンク346,989
待ちリンク567,809
待ち合わせリンク22,622
同一視駅間乗換リンク448,155
乗換可能駅間乗換リンク1,364,559
図2.15:待ち合わせリンクの拡大図
時間
12
図2.16:乗換可能駅間乗換リンクの拡大図
図2.17:新幹線の走行リンクの拡大図
時間
時間
13
第3章 旅客流動の再現
3.1 通勤利用者移動データ
3.1.1 大都市交通センサスデータ
大都市交通センサスは,首都圏,中京圏,及び近畿圏の三大都市圏における鉄道・バス 等の大量公共輸送機関について,鉄道ならびにバス・路面電車の利用者に対するアンケー ト調査や駅・停留所の乗降状況等を調査することにより,その利用実態を詳細に把握し,
三大都市圏における公共交通施策の検討に資する基礎資料を提供することを目的として,
昭和35年以来5年ごとに実施しているものである [9].本研究では,2005年に実施された 第10回大都市交通センサスのうち,首都圏の鉄道定期券・普通券等利用者調査,鉄道駅名 コード,鉄道路線名コードの 3 つのデータを旅客流動の再現のために使用する.鉄道定期 券・普通券利用者調査の調査期間は2005年11月15日から17日である.全体で約800万 人にのぼる鉄道定期券利用者のうち,約14万人がサンプルとして選ばれている.鉄道定期 券・普通券利用者調査のデータ・レイアウトと収録項目を付録に掲載する.
鉄道定期券・普通券等利用者調査には,首都圏の鉄道利用者を対象に,年齢,性別,居 住地,定期券保有状況,最大 2 回の鉄道利用状況,帰宅時の鉄道利用状況のデータとその 利用者のデータが何人分を代表するかを表す拡大率のデータがある.以降,これらのデー タを総称して,利用者データとする.本研究では,利用者データから表3.1の項目を抽出し,
旅客流動の再現に利用する.
ただし,乗車駅や降車駅が不明の場合や調査対象圏域外の駅の場合,鉄道利用の間にバ スを利用している場合はそのデータを持つ利用者データを除外する.
3.1.2 乗車時刻の決定
本研究で行なう旅客流動の再現とは,大都市交通センサスデータに記載されている通り に鉄道利用者を移動させるものである.この方法で利用者の移動を再現することによって,
朝の通勤時間帯における首都圏の鉄道利用状況を詳細に把握することができる.各利用者 データに最大 3 つの電車利用状況が収録されているので,1 つの利用者データから最大 3 つの電車利用のデータ(以下,電車利用データとする)を作成する.しかし,定期券・普 通券等利用者調査には乗車時刻や降車時刻などが不明となっているデータや,乗車時刻よ りも降車時刻の方が遅くなっているデータが存在する.
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表3.1:抽出したデータ
1回目の鉄道利用状況
出発地の出発時刻
出発地から鉄道駅までの合計所要時間 乗車時刻
利用経路数 乗車駅 降車駅 列車種別 降車時刻
2回目の鉄道利用状況
乗車時刻 利用経路数
乗車駅 降車駅 列車種別 降車時刻
帰宅時の鉄道利用状況
乗車駅 降車駅 乗車時刻 降車時刻 拡大率
このような誤りがある電車利用データを除外するため,図3.1や図3.2のような条件で電 車利用データをふるいにかけた.図3.1は1回目の電車利用状況,図3.2は2回目の電車利 用状況と帰宅の電車利用状況の条件分岐である.ここで,鉄道駅に到着してから改札など を経由して乗車ホームに到着するまでの時間を2 [分] とする.図3.1と図3.2の青色のセ ルに出力されるデータ,赤色のセルには無効であることを書き込む.この操作を行なった 結果,電車利用データ数が285,785個から265,927個に減り,19,858個の電車利用データ が除外された.以降除外されなかった電車利用データを有効利用者データとする.
15
図3.1:1回目の電車利用状況における乗車時刻の出力
図3.2:2回目及び帰宅の電車利用状況における乗車時刻の出力
16
3.1.3 乗車時刻の平均化
前述したように,大都市交通センサスはアンケート形式で実施されている.したがって,
調査対象者の回答に誤りがあった場合,それが明らかな誤りであれば3.1.2項によって除外 することができるが,そうでない場合は判断することは難しい.特に,時刻に関しては分 単位で記入されているものの,分単位で生活時間を管理している人は多くないであろうか ら,すべての対象者が最小単位まで正確に記入しているとは言い切れない.
有効利用者データにおける乗車時刻別の移動人数を図3.3に示す.このグラフでは,各時 間の0分,5分,10分というように,5分刻みで高い山ができている.すべての電車が常 に 5 分刻みで運行してはいないので,アンケート回答者の人為的な問題があると考えられ る.かなりの利用者は,「何時何分の電車に乗る」という意識ではなく,「大体,何時何分 ごろに到着する電車に乗る」という意識で回答していると考えられる.また,時刻を正確 に記憶している人であっても,アンケートに記入する際に [分] 単位で正確に記入せず,0 分,5分,10分といった5分刻み,あるいは10分刻みで表現する人が多いと考えられる.
以上のことを考慮して,有効利用者データの乗車時刻を前後 4 分ずつに均等に振り分ける 操作を行なうと,図3.4のような乗車時刻分布を得られる.図3.4は図3.3に比べて5分刻 みの山がなくなり,自然な分布になることが分かる.
17
図3.3:乗車時刻分布(基データ)
図3.4:乗車時刻分布(修正後)
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000
6:00 6:10 6:20 6:30 6:40 6:50 7:00 7:10 7:20 7:30 7:40 7:50 8:00 8:10 8:20 8:30 8:40 8:50 9:00 9:10 9:20 9:30 9:40 9:50 10:00
乗車人数(人)
乗車時刻
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000
6:00 6:10 6:20 6:30 6:40 6:50 7:00 7:10 7:20 7:30 7:40 7:50 8:00 8:10 8:20 8:30 8:40 8:50 9:00 9:10 9:20 9:30 9:40 9:50 10:00
乗車人数(人)
乗車時刻
18
そこで,各有効利用者データの乗車時刻を1 分ずつ,前後4分間までずらしデータを新 たに作成する.具体的には,1つの有効利用者データから9つのデータを新たに作成する.
このとき,各データの拡大率を9分の1にすることで総人数を変えずに乗車時刻のみを平 均化することができる.以降,新たに作成したデータを修正後データとする.
例えば,ある有効利用者データの乗車時刻が0648(6時48分),拡大率が00090(90人 分)だったとする.このデータに対する修正後データの乗車時刻と拡大率を表3.2に示す.
表3.2:修正後データの乗車時刻と拡大率
乗車時刻 拡大率 0644 00010 0645 00010 0646 00010 0647 00010 0648 00010 0649 00010 0650 00010 0651 00010 0652 00010
3.1.4 ネットワーク上での鉄道利用開始と鉄道利用終了
出発駅と目的駅との間の交通需要をネットワークフロー問題の入力とするために,利用 者が鉄道の利用を開始したことを意味するソースと,利用者が鉄道の利用を終了したこと を意味するシンクをネットワークに付加する.
修正後データの各データに対して,その利用者が出発する駅と乗車時刻の情報を持った ノード(出発ノード)を作り,出発駅の乗車時刻より遅い最初の発ノードへリンク(出発 リンク)を張ることにより,利用者の鉄道利用開始をネットワーク上で表現する.同様に,
各駅に対してただ一つのシンク(到着ノード)を作り,その駅に到着する電車に対応する 着ノードからリンク(到着リンク)を張ることにより,利用者の鉄道利用終了をネットワ ーク上で表現する.図3.5にネットワーク上での鉄道利用開始と鉄道利用終了のイメージを 示す.
19
図3.5:ソース・シンクの付加
3.2 交通量配分
3.1.3項で作成した修正後データを出発地目的地(Origin Destination, OD)交通需要と
して,第 2 章で作成した首都圏鉄道の時空間ネットワーク上で交通量配分を行ない,旅客 流動を再現する.ただし,利用者は乗車駅から降車駅まで最短経路で移動すると仮定する.
そこで,利用者の最短経路を求めるために,Dijkstra法を用いる.
3.2.1 Dijkstra 法
本項では,ネットワーク上のある 2 つのノード間の最短経路を探索する方法である.
Dijkstra法について [1] をもとに説明する.
まず有向グラフGに対して,Gのすべての辺の集合をE(G),Gのすべての点の集合を )
(G
V として,Gの各辺e(u,v)E(G)に実際の長さlength(e)が割り振られているネッ トワークN (G,length)があるとする.このネットワークN (G,length)の各辺eの長さ
) (e
length がすべて非負のとき,Dijkstra法は始点sからすべての点への最短経路を求める ことができる.Dijkstra法のアルゴリズムを以下に示す(VPはsからの最短経路が確定し た点の集合,V(G)VPは最短経路が未確定の点の集合を表す).
20
sからの最短経路木を求めるDijkstraのアルゴリズム
1. スタート点sを選び,VP: distance[s]:0;とする.
s以外の点vに対しては,distance[v]:;とする.
2. VPV(G)である限り以下の(a),(b)を繰り返す.
(a)V(G)VPの点の内でdistanceの値が最小な点wを求める.
(b)VP:VP{w}とする.さらにwを始点とする各辺e(w,v)に対して,
) ( ]
[ ]
[v distance w length e
distance ならば,
d i s t a n c e[v]:d i s t a n c e[w]l e n g t h(e)とする.
3.2.2 利用電車割り当てアルゴリズム
前述したように,3.1.3項で作成した修正後データをOD交通需要として,第2章で作成 した首都圏鉄道の時空間ネットワーク上で交通量配分を行ない,旅客流動を再現する.
OD交通需要の各データは以下の情報を持っている.
(1) 乗車時刻:on_time
(2) 利用経路数:route_num
(3) 乗車駅:on_sti (i1,2,,route_num)
(4) 降車駅:off _sti(i1,2,,route_num)
(5) 利用する電車の列車種別(各駅停車,急行等):tr_typei(i 1,2,,route_num)
(6) 拡大率:mag
(1),(2),(6)にはそのままの値が入り,(3),(4)には駅コードが入る.また,(5)に は利用する電車が緩行電車ならば1,無料の優等電車なら2,乗車券の他に特急券等が必要 な有料の優等電車ならば3,新幹線ならば4が入る.これらの情報をもとに旅客流動を再現 していく.
各利用者の利用電車割り当てアルゴリズムを以下に示す.ここで,リンクiを通る人数を useri,各利用者がi個目に利用したリンクをlinkiと表す.
ステップ 1. i 1,j0とする.on_stiのon_time以降の最初の発ノードを出発ノ ードOとする.すべてのリンクxに対してuserx 0とする.
ステップ 2. k 1とする.off _stiの着ノードを到着ノードDとして,OD間の最短
経路をDijkstra法で求める.ただし,利用できる電車はtr_typei以下の
列車種別の電車に限る.
ステップ 3. 求 め た 最 短 経 路 に 含 ま れ る す べ て の リ ン ク y に 対 し ,
21 mag
user
usery y とする.
ステップ 4. 求めた最短経路に含まれるリンクの数をnとし,k個目のリンクを
k
linkj とする.もしk nならば,k k1としてステップ 4を繰り返 す.
ステップ 5. もしiroute_numならば,この利用者の移動は終了する.そうでなけ れば,DをOとし,ii1, j jkとしてステップ 2へ戻る.
このアルゴリズムにより,各利用者の電車利用の詳細なデータと各電車の車内人数のデ ータを得ることができる.以降,前者を利用者トリップデータ,後者を乗車人数データと する.
3.2.3 乗降者人数計算アルゴリズム
3.2.2項で作成した利用者トリップデータを用いて,各駅での乗降者人数を計算する.
利用者トリップデータの各データは以下の情報を持っている.
(T1) 乗車時刻:ot
(T2) 拡大率:mg
(T3) リンク数:lk_num
(T4) リンク:lki(i1,2,,lk_num)
(T1),(T2),(T3)にはそのままの値が入り,(T4)にはリンクの通し番号が入る.ま た,各リンクには走行リンク,着発間リンク,待ちリンク,待ち合わせリンク,同一駅間 乗換リンク,乗換可能駅間乗換リンクの区別がある.
各リンクは以下の情報を持っている.
(L1) リンク通し番号:lk_ID
(L2) 始点ノード:s_nd
(L3) 終点ノード:t_nd
(L1)にはそのままの値が入り,(L2),(L3)にはノードの通し番号が入る.
各ノードは以下の情報を持っている.
(N1)ノード通し番号:nd_ID
22
(N2)ノード時刻:nd_time
(N3)対応駅番号:st_ID
(N1)にはそのままの値が入り,(N2)には着ノードならば到着時刻,発ノードならば 発車時刻が入り,(N3)には駅コードが入る.
利用者トリップデータの各データの乗降者人数計算アルゴリズムを以下に示す.ここで,
全利用者数をN ,ノードiの乗車人数をon_numi,ノードiの降車人数をoff _numi,1 つ前の走行リンクの終点ノードをpre_tndと表す.
ステップ 1. i 1とする.すべてのノードaに対してon_numa 0,off _numa 0 とする.
ステップ 2. lki lk_ID と な る リ ン ク の s_nd と t_nd に 対 し て , mg
num on num
on_ s_nd _ s_nd ,pre_tnd t_ndとして,ii1
とする.
ステップ 3. もしlkiが走行リンクならば,lki lk_IDとなるリンクのt_ndに対し て,pre_tnd t_ndとして,ステップ 4へ行く.そうでなければ,ス テップ 5へ行く.
ステップ 4. もしlki1が走行リンクでも着発間リンクでもなければ,lki lk_IDと なるリンクのs_ndに対して,on_nums_nd on_nums_ndmagとす る.
ステップ 5. もしlkiが走行リンクでも着発間リンクでもなく,かつlki1が走行リンク ならば,off _numpre_tnd off _numpre_tnd mgとしてpre_tnd 0と する.
ステップ 6. も し ilk_num な ら ば , lki lk_ID と な るt_nd に 対 し て , mg
num on num
on_ t_nd _ t_nd として,このデータの計算を終了する.
そうでなければ,i i1としてステップ 2へ戻る.
3.3 路線の役割の分析
[10] で混雑率が高い10 路線を表3.3に示す.3.2.3項で作成した各駅の乗降者人数をも
とに計算した,表3.3の上位 3路線,JR京浜東北・根岸線,JR中央・総武線各駅停車,
23
JR山手線の午前7時から午前8時59分までの乗車人数及び降車人数を図3.6から図3.17 に示す.このシミュレーション結果から,各路線の役割を分析する.
表3.3:混雑率ワースト10
順位 路線名 最混雑区間 混雑率
1 JR京浜東北・根岸線 上野→御徒町 209%
2 JR中央・総武線各駅停車 錦糸町→両国 206%
3 JR山手線 上野→御徒町 205%
4 JR埼京線 板橋→池袋 200%
5東京メトロ東西線 木場→門前仲町 199%
6 JR中央線快速 中野→新宿 198%
6 JR京葉線 葛西臨海公園→新木場 198%
6東急田園都市線 池尻大橋→渋谷 198%
9 JR京浜東北・根岸線 大井町→品川 197%
10 JR南武線 武蔵中原→武蔵小杉 193%
10 JR横浜線 小机→新横浜 193%
3.3.1 JR 京浜東北・根岸線の分析
JR 京浜東北・根岸線は,大宮駅から東京駅や横浜駅を結ぶJR京浜東北線と,横浜駅か ら大船駅までを結ぶJR根岸線を合わせた路線である.大宮駅から東京駅の区間はJR東北 本線の,東京駅から横浜駅の区間はJR東海道本線の一部である.
3.3.1.1
南行路線の役割
南行路線は大宮駅から東京駅,横浜駅を経由して大船駅を結ぶ路線である.南行路線の 乗車人数を図3.6に,降車人数を図3.7に示す.まず図3.6を見てみると,埼玉県内にある 大宮駅から川口駅での乗車が目立つ.また,上野駅や品川駅,東神奈川駅,横浜駅でも乗 車人数が多くなっている.これは,上野駅ではJR宇都宮線やJR高崎線からの,品川駅で は山手線からの,横浜駅では東急東横線,京急本線などからの乗換利用者がいるからと考 えられる.また,東神奈川駅はJR横浜線がJR根岸線・桜木町方面と直通運行を行なって いるため,乗車人数が多くなっていると考えられる.
次に図3.7を見てみると,秋葉原駅から関内駅までの区間に降車人数が分散している.ま た,赤羽駅でも降車人数が多くなっている.これは赤羽駅でJR埼京線やJR湘南新宿ライ ンへの乗換利用者がいるからと考えられる.
このことから通勤時間帯の南行路線は,埼玉県から東京都へ向かう利用者だけでなく,
埼玉県から神奈川県,東京都都心から神奈川県へ向かう利用者もいると考えられる.すな
24
わち,通勤時間帯での南行路線には埼玉県と東京都を結ぶ放射線という役割と東京都と神 奈川県を結ぶ放射線という役割を持っている.ここで,放射線とは都心と郊外あるいは他 の都市を結ぶ交通網のことである.
3.3.1.2
北行路線の役割
北行路線は大船駅から横浜駅,東京駅を経由して大宮駅を結ぶ路線である.北行路線の 乗車人数を図3.8に,降車人数を図3.9に示す.まず図3.8を見てみると,横浜駅から品川 駅の区間での乗車人数が多く,他の駅ではほとんど乗車していない.
次に,図3.9を見てみると,石川町駅から秋葉原駅の区間と王子駅,赤羽駅,大宮駅で降 車人数が多くなっている.王子駅は東京メトロ南北線の,赤羽駅はJR埼京線の乗換駅とな っているため,降車人数が多くなっていると考えられる.
このことから通勤時間帯の北行路線は,神奈川県から東京都都心へ向かう利用者と東京 都都心を移動する利用者が多く,東京都都心から埼玉県へ向かう利用者はあまり多くない と考えられる.すなわち,通勤時間帯での北行路線は東京都と埼玉県を結ぶ放射線という 役割はあまり強くなく,神奈川県と東京都を結ぶ放射線という役割を強く持っている.
25
図3.6:JR京浜東北・根岸線の乗車人数(南行)
進 行方 向
26
図3.7:JR京浜東北・根岸線の降車人数(南行)
進 行方 向
27
図3.8:JR京浜東北・根岸線の乗車人数(北行)
進 行方 向
28
図3.9:JR京浜東北・根岸線の降車人数(北行)
進 行方 向
29
3.3.2 JR 中央・総武線各駅停車の分析
JR中央・総武線各駅停車は,三鷹駅から新宿駅や秋葉原駅を経由して千葉駅までを各駅 停車で結ぶ路線である.三鷹駅から御茶ノ水駅の区間はJR中央本線の,御茶ノ水駅から千 葉駅の区間は総武本線の一部である.また,三鷹駅から中野駅の区間と西船橋駅から津田 沼駅の区間で東京メトロ東西線との相互直通運行を行なっている.
3.3.2.1
西行路線の役割
西行路線は千葉駅から秋葉原駅,新宿駅を経由して三鷹駅を結ぶ路線である.西行路線 の乗車人数を図3.10に,降車人数を図3.11に示す.図3.10と図3.11を見てみると,千葉 駅から亀戸駅の区間ではほとんどの駅が降車人数より乗車人数の方が多くなっているのに 対して,錦糸町駅から市ヶ谷駅の区間,特に御茶ノ水駅から市ヶ谷駅の区間では降車人数 の方が乗車人数よりも多くなっている.また,四ツ谷駅から三鷹駅の区間では乗車人数も 降車人数も尐なくなっている.さらに秋葉原駅に着目してみると,乗車人数も降車人数も 多くなっている.これは,西行路線の利用者が秋葉原駅を目的駅として,または西行路線 と他の路線のハブ駅として利用していることを示している.
まとめると,通勤時間帯の西行路線の利用者は千葉県から東京都へ向かう利用者と,秋 葉原駅をハブ駅として目的駅へ向かう利用者がいると考えられる.すなわち,秋葉原駅以 東では千葉県と東京都を結ぶ放射線としての役割を持っているが,秋葉原駅以西になると,
都心部の駅間を結ぶ路線としての役割の方が強くなる.また,四ツ谷駅以西ではJR中央線 下りの緩行電車としての役割も持つようになる.
3.3.2.2
東行路線の役割
東行路線は三鷹駅から新宿駅,秋葉原駅を経由して千葉駅を結ぶ路線である.東行路線 の乗車人数を図3.12に,降車人数を図3.13に示す.まず図3.12を見てみると,三鷹駅か ら秋葉原駅の区間での乗車人数が多い.また,西船橋駅と船橋駅でも乗車人数が尐し多く なっている.これは,西船橋駅はJR武蔵野線,JR京葉線,東京メトロ東西線,東葉高速 線との,船橋駅は東武野田線,京成本線との乗換駅となっているからだと考えられる.
次に図3.13を見てみると,中野駅から亀戸駅の区間と千葉駅で降車人数が多くなってい る.
このことから通勤時間帯の東行路線の利用者は都内への移動手段として利用している人 がほとんどであると考えられる.すなわち,通勤時間帯の東行路線は東京都郊外と都心を 結ぶ路線としての役割と都心部の駅間を結ぶ路線としての役割が強く,東京都と千葉県を 結ぶ放射線としての役割はあまり強くない.
30
図3.10:JR中央・総武線各駅停車の乗車人数(西行)
進行 方 向
31
図3.11:JR中央・総武線各駅停車の降車人数(西行)
進 行 方向
32
図3.12:JR中央・総武線各駅停車の乗車人数(東行)
進 行 方 向
33
図3.13:JR中央・総武線各駅停車の降車人数(東行)
進 行 方 向
34
3.3.3 JR 山手線の分析
JR山手線は,品川駅を起点に渋谷駅,新宿駅,池袋駅を経由して田端駅を結ぶ路線であ る.また,田端駅から東京駅の区間で東北本線に,東京駅から品川駅の区間で東海道本線 に乗り入れることによって環状線となっている.ここで,環状線とは都心からほぼ一定の 距離を保ちながら,複数の放射線と交わる交通網のことである.
3.3.3.1
外回り路線の役割
外回り路線は,環状線を時計回りに運行する路線である.外回り路線の乗車人数を図3.14 に,降車人数を図3.15に示す.まず,図3.14を見てみると,放射線とのハブ駅である大崎 駅,渋谷駅,新宿駅,池袋駅,日暮里駅,上野駅,秋葉原駅,東京駅,品川駅で乗車人数 が多くなっている.
次に,図3.15を見てみると,ハブ駅となっている駅で尐々多くなってはいるが,全体的 に降車人数が分散している.これは,ハブ駅で別の路線から都心へ入ってきた利用者が目 的駅あるいはハブ駅への移動のために外回り路線を利用しているからだと考えられる.
つまり,通勤時間帯の外回り路線は放射線である他の路線や郊外からの私鉄路線が運ん できた利用者を目的駅へ,もしくは都心へ行くためのハブ駅へ運ぶ役割を持っている.
3.3.3.2
内回り路線の役割
内回り路線は,環状線を反時計回りに運行する路線である.内回り路線の乗車人数を図 3.16に,降車人数を図3.17に示す.まず,図3.16を見てみると,放射線とのハブ駅であ る大崎駅,渋谷駅,新宿駅,池袋駅,日暮里駅,秋葉原駅,東京駅,品川駅,さらに高田 馬場駅や代々木駅でも乗車人数が多くなっている.
次に,図3.17を見てみると,外回り路線と同じようにハブ駅となっている駅で尐々多く なってはいるが,全体的に降車人数が分散している.
このことから,多尐の差異はあるが通勤時間帯の内回り路線も外回り路線と同じ役割を 持っていると考えられる.つまり,JR山手線は進行方向の違いで役割が変わることはない と言える.
3.3.3.3
利用者の利用傾向
外回り路線と内回り路線の乗車人数,降車人数を見てみると,外回り路線と内回り路線 の全体的な起伏の違いはあまりない.しかし,細かく見てみると,上野駅での乗車人数や 渋谷駅での降車人数など,外回り路線と内回り路線で乗車人数,もしくは降車人数が大き
35 く異なる駅がある.
そこで,午前7時から午前8時59分までの乗車人数を外回り路線と内回り路線で比較し
たもの図 3.18(a)に,降車人数を外回り路線と内回り路線で比較したものを図 3.18(b)
に示す.このグラフから利用者の乗車の傾向と降車の傾向がわかる.
まず,図3.18(a)を見てみると,鶯谷駅から品川駅の区間では外回り路線に乗車する傾 向が強く,代々木駅から日暮里駅の区間では内回り路線に乗車する傾向が強い.
次に,図3.18(b)を見てみると,御徒町駅から田町駅の区間では外回り路線で降車する 傾向が強く,品川駅から新宿駅の区間では内回り路線で降車する傾向が強い.
このことから,外回り路線の利用者は環状線の東京駅側に多く,内回り路線の利用者は 環状線の新宿駅側に多いことが分かる.これは,郊外から来た利用者が,都心へ向かう電 車へ乗り換えるために新宿駅,渋谷駅,秋葉原駅,東京駅へ向かうからではないかと考え られる.
36
図3.14:JR山手線の乗車人数(外回り)
進 行 方向
37
図3.15:JR山手線の降車人数(外回り)
進 行 方 向
38
図3.16:JR山手線の乗車人数(内回り)
進行 方 向
39
図3.17:JR山手線の降車人数(内回り)
進行 方 向
40
図3.18:乗車人数及び降車人数の比較
図3.19:利用者の利用傾向
41
第4章 JR 中央線上りの運行スケジュールの評価
4.1 JR 中央線の現状
JR 中央線は,JR 東日本の中央本線のうち,都心部の東京駅から副都心である新宿駅を 経由し,多摩地区の高尾駅までを結ぶ快速系電車のことである.また,一部の電車は大月 駅や富士急行線の河口湖駅,JR青梅線の奥多摩駅,さらにJR 青梅線を経由してJR五日 市線の武蔵五日市駅やJR八高線の高麗川駅まで運行される.御茶ノ水駅から三鷹駅までは JR中央線が急行線を走行し,緩行線は中央・総武線各駅停車が走行する.日本の鉄道の中 では定時性があまり良くない路線で,通勤時間帯の遅延が頻繁に発生する.
表3.3で示したように,JR中央線上りの最混雑区間での混雑率は198% と3.3節で取り 上げた3路線ほどの混雑率ではない.しかし [2] によると,JR中央線は2009年5月の1 カ月に発生した遅延回数が始発から10時まででは表3.3の混雑率ワースト10の路線の中 で最も多く,全時間帯では全路線の中で最も多くなっている.この理由として,特急や特 別快速,通勤ライナーなどの多種多彩な列車種別があることや,青梅線などの支線が多く,
運行形態が複雑で遅れの回復が困難なことなどがある.表3.3の混雑率ワースト10の路線 の始発から10時までの遅延回数と全時間帯の遅延回数を表4.1に示す [2].
JR中央線上りの午前7時から午前8時59分までの各停車駅での乗車人数を図4.1に,
降車人数を図4.2に示す.図を見てもわかるように,JR中央線上りでは新宿駅以西の駅で 乗車した利用者のほとんどが新宿駅以東の駅の 5 駅で降車するという典型的な放射線の路 線の様相を呈している.そのため,新宿駅以東 5 駅では停車時間が長くなってしまい,遅 延の原因となっていると考えられる.特に新宿駅では,乗車人数も降車人数も多いために,
より停車時間が長くなってしまう.
そこで,各停車駅での乗車人数と降車人数,さらに車内の人数も用いて停車時間を計算 し,ダイヤ通りの運行が可能かを分析,評価する.