発達障害児・者への災害時支援のあり方について
~発達支援教室講演会からの考察~
菅原 佐和子1) 清水 道子1)2) 藤原 加奈江1)2)
1)東北文化学園大学医療福祉学部発達支援教室
2)東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科言語聴覚学専攻
要旨
未曾有の震災の経験から,その対応が困難な自閉症スペクトラム児者への災害時支援の在り方を検討 した.当事者として仙台市及び石巻市の保護者,支援者として支援学校教員及び福祉事業所職員の体験 談から地域による共助,公助の必要性が浮き彫りとなった.これらをもとに,我々は避難する避難所が 事前に決まっている「登録避難所」システムを提案した.これは①障害種別に応じて避難所を設定する ことによりそれぞれの特性に合わせた支援が可能となる,②自分が行く避難所の場所や建物が決まって いる事で,事前に下見や訓練を行うことができ,災害発生時の不安や混乱が軽減できる,③要援護者や その家族が周囲に遠慮することなく安心して避難でき精神的な孤立を避けることができるという利点を 持つものである.
【キーワード】 東日本大震災 自閉症スペクトラム 避難所
Ⅰ.はじめに
本邦の発達障害児者への災害時の支援に関し ては内閣府作成の「災害時要援護者の避難支援 ガイドライン」1)が一つの指針となる.それは 果たして東日本大震災で十分に機能したのであ ろうか.それを検証する方法の一つとして,様々 な立場の体験者の声を集めることが挙げられる.
大規模で総合的なアンケートという手法もある が,一方で,一人ひとりの体験を草の根レベル で集約していくことも必要である.また,発達 障害児者といっても多様であり,それぞれにニ ーズが異なることから,それぞれの支援分野で 声が集約されることも大切である.今回,自閉 症スペクトラムの啓蒙及び地域交流の場として 本学発達支援教室で毎年開催してきた「ひろば」
を通して,東日本大震災の保護者の体験,特別 支援学校及び支援事業所の体験を集約し,今後
の発達障害児者への災害時支援の在り方につい て検討した.
Ⅱ.方法
発達支援教室「ひろば」は,地域と共に発達 障害を考え,話し合う場として平成
21
年の支 援教室開設以降,年3
回シリーズで毎年開催し ている講演会兼交流会である.「ひろば」のテー マは毎年異なり,自閉症スペクトラムを柱にこ れまでは特性の理解,家庭や学校での具体的支 援方法,関係者の連携等について取り上げてき た.今年度は
H23
年3
月11
日に起こった東日本 大震災という未曾有の事態を,身を持って経験 したことを活かし,そのとき自閉症スペクトラ ムを持つ児者やその保護者,支援関係者がどう 乗り越えたかを共有し,それを基に今後の避難支援の在り方を考える場とした.テーマは「よ り良い未来のために~東日本大震災の経験を活 かす」と題し,第一回目(
H23/11/20
)に「保 護者の立場から」をテーマに,自閉症児者の保 護者である仙台市の高橋みかわ氏,石巻市の三 浦由里香氏が当時の体験報告を行った.第二回目(
H23/12/4
)は「支援者の立場から」と題して,船岡特別支援学校の田嶋容一氏・齋藤彰氏,
ピボット若林の支援専門員の檜山智彦氏が支援 者としての経験と必要と思われる支援について
報告した.その結果,阪神淡路大震災の経験が あったにも関わらず障害児者の避難支援におい て様々な課題があったことが浮き彫りとなった.
今後の避難支援体制について考察を加え,提案 を第三回目(
H23/12/20
)に「よりよい未来の ために」として行ない,第一回目,二回目の報 告者とともに,震災に備えて障害児者やその家 族に対してどのような支援体制を確立していく 必要があるか意見交換を行った(表1).表1 発達支援教室講演会「ひろば」の開催概要 開催場所:東北文化学園大学
日時 テーマ 講師 内容
第 1 回目 H23 年 11 月 20 日(日) 「保護者の立場から」 仙台市 高橋みかわ氏 石巻市 三浦由里香氏
保護者としての経験、
必要な支援について
第 2 回目 H23 年 12 月 4 日(日) 「支援者の立場から」
船岡特別支援学校 田嶋容一教頭 齋藤彰教諭 相談支援事業「くれよん」
相談支援専門員 檜山智彦氏
支援者としての経験、
必要な支援について
第 3 回目 H23 年 12 月 20 日(日) 「よりよい未来のために」 1 回目、2 回目の講師 今後必要な支援体制 について意見交換
Ⅲ.結果
1) 保護者の立場からの報告(第一回目)
a)
高橋みかわ氏 仙台市中心部・在宅避難 仙台市中心部のマンション在住で,夫(埼玉 県単身赴任中),長男(知的障害を伴う自閉症・作業所通所中),次男(市内高校在学)の
4
人 家族.自閉症の長男は,初めての人や場所が苦手で,
感覚過敏で子どもの泣き声なども嫌がり,不安 になると飛んだり跳ねたりする.避難所に行け ば周囲に迷惑をかけ,冷たい視線をあびるのも 明らかだったことから行くのを諦めた.自宅は 耐震性や地盤の固さ,宮城県沖地震でのライフ ライン復旧状況を考えて購入していたし,水や 食料といった物品も十分に確保していたので在 宅避難が出来た.
避難生活の最優先事項は長男の安定だった.
まずパニックになるのは当たり前と考えた.そ の上でパニックにならないように,①落ち着く 場所,②不安なときに歩き回るルート,③安心 するお気に入りグッズを確保するといった環境 整備を行った.家族で混乱させない関わり方を 話し合い,
NG
ワード(例えば断水で入れない お風呂を想起させるような言葉)も決めた.話 しかけるトーンにも気をつけ,“ダメ”だと言う のではなく新しい行動を教えるようにした(例 えばトイレの後“手を洗う”を“手を拭く”流 れをすぐに教えた).避難生活では地域にも助けられた.日頃から 挨拶はきちんとさせる,ごみ出しを一緒にする,
地域の活動に参加するといったことを通じて顔 見知りになり,支援が必要な子がいることを知
ってもらっていた.お陰で同じ高校に通うマン ション住人が次男の迎えを申し出てくれ,自分 は長男のために時間を使うことができた,
安全な場所と物資があり,在宅避難を自ら選 ぶのであればそれも良いだろう.しかし問題な のは,自閉症児者を抱える家族には“避難所に 行きたくても行けない現実”があることだ.指 定避難所は人でいっぱい,福祉避難所はどこに あるか分からない,あったとしても実際は高齢 者や肢体不自由児者が利用の中心である.今回 の震災では,避難所に居ることが出来た自閉症 児者やその家族は2~3日が限度で
1
週間以上 居た人は稀だったと聞く.それだけ避難所の敷 居は高いということだ.精神的に孤立もし易い.今回は自閉症の子を持つ親同士の携帯メールネ ットワークを利用し,医療情報を共有したり交 流することで,孤立感を感じないようにした.
都市部の在宅避難者に対して行政からの支援は ほとんど無かった.在宅避難する要介護者に対 して見守りや買出しの代行を行った民間ヘルパ ー事業所にも行政の支援は入らなかった.その 点の見直しも急務と感じる.
b)三浦由里香氏 石巻市・避難所
石巻市在住で,夫,長男(大学生),長女(知 的障害を伴う自閉症・支援学校高等部在籍)の
4
人家族.地震発生時,自閉症の長女は兄と自 宅で被災した.すぐに仕事から帰宅し地域の中 学校へ移動した.体育館は人も多く音も反響し,小さい子やペットを連れ込む人もいて音に敏感 な娘には無理だと思った.そこで大人が多く子 どもの少ない美術室に行った.そこにはペンや 絵の具,マジックがあり,絵を書く事が好きな 娘はそれらを使わせてもらった.いつも外出時 に必ず持って出るキャラクターや本,お絵かき セットの入った“宝ものグッズ”は自宅に忘れ てきていた.それだけ気が動転していたのだと 思う.
3
日目にようやく道路の水が引いたので 自宅の様子を見に行くと,運河が決壊して流れ 込んだ水ですっかり浸水していた.津波の被害を直接受ける地域ではなかったので思いもよら なかった.“住むことが出来ない”と避難所生活 を覚悟した.
避難所は当初二千人近くが避難しており,夜 も横になれない状態だった.2,3日経って人 が減ると多少空間は出来たが,兄は廊下,父は 机の上で寝ていた.夜にはいびきや歯軋りの音 もあり,音に敏感な娘は辛かったと思う.でも
「地震」「おなかすいた」と言う以外は大人しく しており,本人なりに我慢していたのだと思う.
徐々に先生や中学生がボランティアで活動 を始め,部屋でもリーダーを決めて仕事を分担 し,協力して生活し始めた.家族はそう決めて いたわけではなかったが,迷惑をかけると察し ていたので率先して係になった.兄は部屋のリ ーダーや親を無くした子どものケアのボランテ ィア,父は物資仕分けやリーダーの補佐,母は 炊き出し班に参加した.周囲への挨拶は欠かさ ず,迷惑をかけたら謝り,本人にも謝らせた.
そんな姿を見て少しずつ受け入れてくれたのだ と思う.同じ避難所にいる娘の同級生や母達が 声をかけてくれたことは本人の安定の一つにな った.家族も精神的に追い詰められることが無 かった.誰かに何か一言でも辛いことを言われ たら避難所にはいられなかったかもしれない.
一週間が過ぎた頃,娘は大声を出すようにな った.夜はほとんど眠れていないようで,医療 班から睡眠薬,心のケアボランティアの医師に 安定剤も処方してもらったが一時しのぎだった.
そこで夜だけでも別に眠れる所はないかとお願 いし,夜には使わない自衛隊の給湯室を借りる ことができた.そこで眠ることができるように なると状況は大分改善された.いつ家に戻れる のか,学校に行けるのか分からないことにも苛 立っていたと思う.そこで家での作業の日は作 業内容をホワイトボードに書き,それをクリア することで自宅の復旧を進めているのが分かる ようにした.ガスと水道が通ってからは料理や 洗濯をしてもらい,非日常から日常へシフトし
ていった.学校を訪ね,先生の口から始業式が
5
月にあることを伝えてもらうと納得したよう だった.しかし1
ヶ月近く経った頃,突然父親 の頭を何度も激しく叩き始めた.多分我慢の限 界が来たのだと思う.早く戻らねばという気持 ちがますます強くなり,それまで以上に家の作 業を急ぎ,2
ヶ月が過ぎた頃にようやく自宅に 戻ることができた.2
ヶ月間避難所生活が出来たのは,様々な恵 まれた条件が重なったからだと思う.本人の頑 張りもあったが,自分達の姿勢を周囲が理解し てくれたことが大きい.小学校から中学校の9
年間を地域の中で生活したことも大きかった.今でも先生や同級生,地域の関わってくれた人 たちに感謝している.もしまた同じ状況があっ たとしても同じようには出来ないと思う.今回 は幸い地域の避難所で生活できたが,障害者や その家族がもっと簡単に気軽に行ける避難所が あると良い.
2)支援者の立場からの報告(第二回目)
a)
宮城県立船岡特別支援学校 田嶋容一教 頭,齋藤彰教諭宮城県立船岡特別支援学校は宮城県南部に位 置する肢体不自由児のための支援学校で,小中 高等部を有している.地震直後の学内・寄宿舎 の対応,石巻西高等学校への人的支援,新学期 開始後の対応は以下のようだった.
地震直後,学内・寄宿舎では児童生徒を一時 建物外へ避難させ,保護者に引き渡すまでの間 は校舎内で待機させた.地震が発生した
3
月11
日から13
日までの3
日間,帰宅できなかった 生徒,帰宅に不安を感じた生徒や保護者,町内 で一人暮らしをしていた卒業生,職員など全77
名が学校での宿泊を余儀なくされた.そのため 寄宿舎から寝具や非常食,暖房用具を運び,食 事は災害対策用として備蓄していたアルファ米 や飲料水,給食や舎食用の食材を使い1
日3
食 を提供した.ライフラインは,停電,断水になったが
LP
ガスが使用できた.飲料水やトイレ 用水は近隣の大学や役場に依頼し,受水槽の水 も利用した.校内の電話回線は復旧まで使用で きなかったが,寄宿舎の公衆電話が14
日から 使用できた.そのため公衆電話と担当教員の携 帯電話を通じて14
日中に児童生徒,保護者全 員の安否が確認できた.過去3
年間の卒業生や 職員についても無事を確認した.その後,直接 子どもたちの様子を知るために可能な範囲で家 庭訪問を行った.その後小中学部は卒業式や終 業式は行わず,学校は4
月20
日まで休業にな った.津波被害の大きかった石巻地域の特別支援学 校や高等学校への人的支援について,県教育庁 から依頼され,石巻西高等学校,石巻特別支援 学校へ
3
月17
日~30
日まで行った.そのうち 石巻西高等学校について報告するが,石巻西高 等学校では教室や武道館が避難所になり,体育 館は遺体の仮安置所となっていた.行った業務 は,飲料水の配布,トイレ用水の運搬とトイレ 掃除,避難所の受付と案内,交通誘導,避難者 への心のケアであった.心のケアでは,車いす を使用した男性が,自分と両親とで一つの教室 を使用したことを「自分たちだけで一つの教室 を使用しているのを,周りの方はどう感じてい るのか心配です」と相談があったが,どう対応 していいかわからなかったのが心に残った.バ リアフリーの避難所の必要性を感じている.新学期開始後は,今回の大震災の教訓をもと に早期に学校や宿舎内の避難経路を確認した.
避難訓練も,寄宿舎においては様々な時間帯を 想定し,子どもたちにフラッシュバックがない ように留意しながら進めている.特に自閉症ス ペクトラム児については見通しを持って避難に 慣れさせるために,回数を増やす,避難を予見 できる配慮をしながら繰り返し行っている.ま た「危機管理マニュアル」の見直しも行ってい る.
表 2 自閉症児者とその家族にまつわる避難時の問題点
在宅避難 ・外出困難で食料や燃料確保が困難(檜山)
・行政から物理的な支援が入らない(高橋)
・インフラ寸断により支援者の手が届かない(檜山)
・家族のみで介護するため精神的な負担が増加(檜山)
・精神的に孤立(高橋・檜山)
指定避難所 ・移動手段が無くいけない(檜山)
・避難勧告などの情報が入らない(檜山)
・避難所の物資や支援が不足(檜山)
・避難所環境に適応できない(檜山)
例 はじめての場所や人が苦手(高橋)
感覚過敏で子どもの泣き声や体育館の反響などが辛い(高橋・三浦)
人の多い所では眠れない(三浦)
非日常に見通しが持てずストレス(三浦)
不安により行動障害を起こす(高橋)
・周囲に遠慮を感じる(高橋・船岡支援)
・長期間いることは困難(高橋・檜山)
福祉避難所 ・所在地などの情報提供が不十分(高橋・檜山)
・事前の物的・人的体制の確保が不十分(檜山)
・入居者が軽度介護者(身体障害や高齢者)が中心(高橋・檜山)
その他 ・要援護者の避難情報を支援者が把握できない(檜山)
・民生委員などは支援意識はあるが障害の特性理解やニーズの把握が不十分(檜山)
・在宅避難の要援護者を支援している民間事業所に行政の支援が入らない(高橋)
b)ピボット若林相談支援事業「くれよん」 相 談支援専門員 檜山智彦氏
障害者相談支援事業とは,障害のある方やそ の家族,福祉事業所などからの様々な相談に応 じ,行政や事業所,地域の方と協力しながら,
地域生活をより豊かにできるよう援助すること である.また,相談や支援の中から出てきた地 域の課題を集約し,行政や各機関とともに解決 に取り組む.ピボット若林は仙台市若林区にあ る事業所で,事業所への津波被害はなかったが,
管轄地域である若林区は甚大な津波被害にあっ た.今回の報告は相談支援専門員として経験し たこと,市内の相談事業所連絡会で挙がったこ との中で,避難所で起きたこと,自宅避難で起 きたことについてである.
避難所については,発達障害児者は,移動手 段が無い,避難勧告などの情報が入らない,避 難所の環境に順応できない,避難所に必要な
物資や支援がないことから,地域の指定避難所 に行くことができず,被災した自宅への帰宅や 車中泊,県外避難を余儀なくされた.また,「配 慮が必要な障害者」の情報がとりまとまってお らず,どこに誰が避難したのかを支援者が把握 できなかった.民生委員の中には,支援する意 識はあるが,障害に関する知識や要援護者の情 報やニーズを十分把握していない者もいた.福 祉避難所は市内に
11
か所あったが,事前の物 的・人的体制の確保や情報提供が十分でなかっ た.また,福祉避難所の入居対象者は軽度の介 護を要する身体障害者と高齢者で,発達障害者 や重度障害者は対象外だったため活用されなか った. 自宅避難については,インフラが寸断 し支援者の手も届かない状況で,家族のみで介 護を行い,本人や家族の負担が増した.また外 出や買い出しができないために食料や燃料確保 が難しく,外部の情報も入らず,精神的にも孤立した.事業所は,安否確認についてもインフ ラ寸断のため
1
週間を要した,何らかのサービ スに繋がっていた方や避難所避難者は区などを 通じて確認できたが,自宅避難者は区と情報の 共有ができなかったため遅れた.情報の提供は ラジオや普段のネットワークを通じて行い,物 資の提供や買い物代行は全国からのサポートに より提供できた.Ⅳ.考察
第一回と第二回の報告を受け,自閉症児者や その家族が災害を乗り越えるために,個人,地 域,社会がそれぞれどのような備えをしていく べきかを「自助」「共助」「公助」の視点でまと め,第三回目に報告と提言を行った.
「自助」「共助」という言葉は,内閣府が作成 した“災害時要援護者の避難支援ガイドライン”
1) に記されている.その中で要援護者の避難支 援は,個人の備えや努力(自助)と地域の助け 合い(共助)が基本であり,行政は避難指示の 伝達体制を整備することなどを役割と定めてい る.仙台市も“地域で備える災害時要援護者支 援の手引き”2) の中で,要援護者への避難支援 は民生委員や町内会といった地域で行うこと記 している.もちろん自助や共助の力で要援護者 を支えることは重要であり,今回の震災でもそ の力で乗り越えた人は多い.しかし,様々な障 害特性を持つ要援護者に合わせた支援には専門 的な視点が必要であり,当事者や地域のみで十 分な支援を行うには人的・物的にも限界がある ので,行政レベルでの支援システム(公助)が 不可欠である.
保護者の立場の報告から,どのような自助が 必要かを以下にまとめた.また報告から明らか となった障害児者やその家族に対する避難時の 支援体制の問題点を受け(表2),共助・公助の 柱として「登録避難所」というシステムを提案 した.
1)自助
自閉症児者を持つ家族の「自助」の柱は①物的 備え,②避難ルートや避難所の下見・災害を予 測した訓練,③地域とのつながり,④本人の力 を育てるにまとめられる.「物的備え」とは,家 屋の耐震性の点検や物資の備蓄(食料・飲み水・
内服薬等),気持ちの安定や時間を過ごすために 使うグッズなどを指す.「避難ルートや避難場 所の下見・災害を予測した訓練」は,自閉症児 者は特性上,初めての場所や出来事への適応が 困難なことから一般人以上に入念な練習や下見 が欠かせない.また災害時に身を守る方法や,
周囲に援助を求められるような手段を考え使え るようにしておく必要もある.これらについて は,自閉症協会作成の「自閉症の人たちのため の防災ハンドブック~自閉症のあなたと家族の 方へ~」3) や高橋氏の著書「大震災 自閉っこ 家族のサバイバル」4) が参考となる.「地域との つながり」については,日頃から地域との交流 を意識しその人(児)を理解してもらうことは,
孤立感を防ぎ家族の負担を軽くし,災害時には 物理的にも精神的にも大きな助けとなる.「本 人の力を育てる」とは,たとえ特性のために避 難所等で一般人と全く同等の生活は困難だとし ても,出来る範囲で他者に迷惑をかけずに一緒 に過ごせる力,不安や嫌な気持ちをパニックや 問題行動ではなく伝える力を育てることを指す.
2)共助と公助(図1、2)
共助・公助の柱としての「登録避難所」とい う新しいシステムは,現在の福祉避難所の概念 を基本としている.ただその違いは“登録制”
にあり,要援護者やその家族が避難する避難所 が事前に決まっているという点にある.登録制 のメリットは,①障害種別に応じて避難所を設 定することでそれぞれの特性に合わせた支援が 可能となる,②自分が行く避難所の場所や建物 が決まっている事で,自助にも挙げたような事 前の下見や訓練を行うことができ,災害発生時 の不安や混乱が軽減できる,③要援護者やその
家族が周囲に遠慮することなく安心して避難で き精神的な孤立を避けることができる,という 点にある.
避難所を障害別に設定する理由は,報告にも あったように自閉症児者の認知処理機能の違い や感覚的な問題を考慮すると,それに合った環 境的配慮や特化した支援を行う必要があるため である.他の障害児者についてもそれぞれニー ズは異なることから,そこに合った支援のでき る体制が望ましい.障害別に区分けされた避難 所については,日本自閉症協会の「東日本大震 災緊急現地調査(宮城県,岩手県)報告」5) の 中でも,医療機関や専門機関がピンポイントで 支援に入れる,同じ境遇の家族がいることで理 解し合えるので疲労感が違うことなどを利点と して提案されている.
障害児者の避難所への事前登録については,
登録によって避難所側が事前に登録者のニーズ や人数を把握することで,個々に合った避難支 援プラン(コミュニケーションや環境など配慮 点の検討,当事者の障害特性に合った防災訓練 の検討)を策定し,行政側に必要な支援物資や 人員の要請をスムーズに行うことを可能にする.
今回の震災では報告にもあるように在宅の要援 護者に対する行政からの物的・人的支援が滞り 課題を残した.要援護者の物資調達については 在宅避難ほど難しさがある.これについても登 録避難所が事前に地域の要援護者の所在や人数,
ニーズを把握しておくことで,行政やボランテ ィア団体からの物的・人的支援の分配拠点とな り得るだろう.
このように当事者やその家族のニーズや困り 感を理解し,安心して避難でき必要な支援を受 けられる体制が整っていることは,災害を乗り 越えるために必要な精神的な安定に大きく寄与 する.
この登録避難所が機能するためには行政との 連携が不可欠である.登録避難所の周知と登録
については,要援護者が常々利用する市町村の 母子保健や障害担当の窓口に役割を果たしても らえると良い.登録情報を行政が把握しそれを 支援の担い手である登録避難所と確実に共有す ることで,行政は登録避難所に対して物的・人 的支援を行え,避難所側は必要な備品・食料の 確保,避難所の設置や耐震、宿泊体制に関する 援助も受けやすくなり,より良い支援体制が整 えられるだろう.
最後に地域への発達障害の啓蒙であるが,今 回の報告から地域共助の柱である民生委員をは じめとした町役員が必ずしも障害の知識や要援 護者のニーズを把握していないこと分かった.
共助には地域住民が当事者の障害特性を理解し 本人や家族を支援していくことが必要である.
民生委員や町内会などに対して発達障害の理解 や周知を進めることも行政の大切な役割と言え る.
登録避難所としては,当事者の馴染みのある 学校,特別支援学校,民間事業所が候補として 考えられる.現実的には,どのように登録避難 所として設定するか,その運営をどうするか,
その避難所自体が被害を受け利用が不可能にな った場合はどうするかといった問題は残るが,
それの詳細は今後市町村ごとに検討する課題と なろう.
本報告は,自閉症スペクトラム児者という限 られた領域,2 名の保護者と 2 名の支援者の体 験という限られた情報に基づくものであるが,
体験者の経験を深く掘り下げ様々な側面に光を 当てることができた.そしてそこから提案され た登録避難所というシステムは,自閉症スペク トラム児者に留まらず全ての障害児者に通じる 普遍的な利点を持つと考えられる.したがって アンケートなどによる量的評価に加え,このよ うな細やかな報告を行政レベルで集約すること で発達障害児者のニーズにより即した生きた支 援体制を作ることが可能となるだろう.
啓蒙
本人 家族
登録避難所
行政
支援 事業所 学校
・障害別の避難所
・登録者の優先受け入れ
・事前のニーズ把握、防災訓練
・登録者の情報を一括管理 在宅になった時の見守り・介護 物的支援、情報提供
物的・人的支援、
避難所設備、耐震、
宿泊設備の援助 学校
図1 登録避難所の役割
民生 委員 本人
家族
登録避難所の情報提供
・要援護者 リストの伝達
(守秘義務)
登録避難所
事業所 学校 支援 学校
町内 会 相談窓口
・障害の 啓蒙 公的機関
図2 行政の役割
Ⅴ.文献
1) 内閣府:災害時要援護者の避難対策に 関する検討会・災害時要援護者の避難支援 ガイドライン.
2006
:1-20
.http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/06 0328/index.html
2) 仙台市消防局・健康福祉局:地域で備 える災害時要援護者支援の手引き.
2008
:1-8
.http://www.city.sendai.jp/kurashi/shobo/b osai/_icsFiles/afieldfile/2010/06/07/tebiki.
3) 社団法人日本自閉症協会:自閉症の人 たちのための防災ハンドブック~自閉症の あなたと家族の方へ.
2009
:1-14
.http://www.autism.or.jp/bousai/bousai-hb
啓蒙本人 家族
登録避難所
行政
支援 事業所 学校
・障害別の避難所
・登録者の優先受け入れ
・事前のニーズ把握、防災訓練
・登録者の情報を一括管理 在宅になった時の見守り・介護 物的支援、情報提供
物的・人的支援、
避難所設備、耐震、
宿泊設備の援助 学校
図1 登録避難所の役割
民生 委員 本人
家族
登録避難所の情報提供
・要援護者 リストの伝達
(守秘義務)
登録避難所
事業所 学校 支援 学校
町内 会 相談窓口
・障害の 啓蒙 公的機関
図2 行政の役割
Ⅴ.文献
1) 内閣府:災害時要援護者の避難対策に 関する検討会・災害時要援護者の避難支援 ガイドライン.2006:1-20.
http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/06 0328/index.html
2) 仙台市消防局・健康福祉局:地域で備 える災害時要援護者支援の手引き.
2008
:1-8
.http://www.city.sendai.jp/kurashi/shobo/b osai/_icsFiles/afieldfile/2010/06/07/tebiki.
3) 社団法人日本自閉症協会:自閉症の人 たちのための防災ハンドブック~自閉症の あなたと家族の方へ.