速報海外ニュース
2018 年 206 号(平成 30 年 9 月 15 日)
金子 晃 監修
内 容
○ 米国反トラスト法の最近の動向
1 ワシントン DC 地区地裁、AT&T によるタイム・ワーナーの買収計画を容認する判決を 下す(2018 年 6 月 12 日) 2 最高裁、アメックスの営業慣行を巡る訴訟で同社勝訴の高裁判決を支持(2018 年 6 月 25 日) 3 司法省、電解コンデンサーに係る価格カルテルに関して、二人目の重役が有罪答弁を 行ったと発表(2018 年 6 月 27 日)○ 欧州競争法の最近の動向
1 欧州委員会、EU 合併規則の下、コムキャストによるスカイの買収を容認
(2018 年 6 月 15 日)2 欧州委員会、Fortum による Uniper の買収を容認
(2018 年 6 月 15 日)公益財団法人 公正取引協会
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米国反トラスト法の最近の動向
1 ワシントン DC 地区地裁、AT&T によるタイム・ワーナーの買収計画を容認する判決を 下す(2018 年 6 月 12 日)1
ワシントン DC 地区地裁は、通信大手の被告 AT&T Inc.(以下「AT&T」という。)によるメデ ィア大手の被告 Time Warner Inc.(以下「タイム・ワーナー」という。)の買収計画を無条件 で容認する判決を下した。 AT&T は固定電話と携帯電話事業を営むほか、同社の子会社である衛星放送局 DirecTV 及 び同社自身の配信インフラを使用する U-Verse を通じて多チャンネル型動画配信サービス の提供をも行っている。タイム・ワーナーは、映画スタジオのワーナー・ブラザーズ、ニ ュース放送専門局 CNN、有料テレビ放送局 HBO などの幅広いコンテンツ企業を抱えている。 AT&T は 2016 年 10 月 22 日、タイム・ワーナーを 854 億ドル(約 9 兆 4794 億円、1 ドル= 111 円)で買収すると発表した。 これに対し、司法省は 2017 年 11 月、上記買収が多チャンネル型動画配信市場における 競争を実質的に減殺させるおそれがあると主張し、当該垂直統合の阻止を求める訴えをワ シントン DC 地区地裁に提起した。訴状によれば、同市場にはケーブルテレビ会社(Comcast など)、衛星放送局(DirecTV など)及び通信会社(U-Verse など)などの伝統的な多チャンネル 動画配信事業者のみならず、生放送と番組をオンデマンド形式で提供する仮想的な多チャ ンネル動画配信事業者(YouTube TV を提供する Google など)も含まれる。またそれによれば、 買収後の企業は、人気の高いタイム・ワーナーのコンテンツの取得を通じて交渉力を高め、 それをテコにして競争業者に対してコンテンツ配信権の付与を拒否すると威嚇し、その結 果として、競争業者からより高い料金を受け取れるようになる。 これに対し、買収当事者は、コンテンツを作成して消費者に直接ネットで販売する(生 放送なし)サブスクリプション型ビデオ・オン・デマンドサービス提供者(ネットフリックス など)に AT&T が押されており、これを考慮すると、これらの巨大なメディア企業も関連市 場に含めるべきだと強く反論した。次に、買収当事者は、統合はこれらの企業に対抗する ために必要であり、統合後の企業は料金を不公正に引き上げる交渉力を持つことにはなら ないとの追加的反論を展開した。 裁判が開かれ、2018 年 3 月 19 日から 23 日間続いた。同地裁は 2018 年 6 月 12 日、訴え に十分な根拠がないとして原告側の主張を退け、計画通りの買収を認める判決を言い渡し た。判決理由で、レオン判事はまず、多チャンネル型動画配信市場における著しい変化を 背景に、当該市場には伝統的な、また仮想の多チャンネル動画配信事業者だけでなく、サ ブスクリプション型ビデオ・オン・デマンドサービス提供者も含まれると判示した。その 上で、同判事は、コンテンツ所有者と配信サービス事業者との間の交渉は「様式化され、 また凝った歌舞伎の演技」の様に複雑なものであるが、上記変化によってより協調的なも のに変わらざるを得ないであろうとの見解を示した。
2 最高裁、アメックスの営業慣行を巡る訴訟で同社勝訴の高裁判決を支持(2018 年 6 月 25 日)2
最高裁は、クレジットカード大手の被告(被上告人)American Express Company(以下「ア メックス」という。)の営業慣行がシャーマン法に違反するとして、原告(上告人)司法省及 び 17 州の司法長官室が同行為の差止めを求めた訴訟の控訴審で、アメックス勝訴の二審 判決を支持する判決を言い渡した。 アメックスは、カード所有者及び加盟店の両者に対してクレジットカードサービスを提 供している。アメックスカードの所有者がアメックスの加盟店でカードを使用して買い物 をする際、同取引は決済ネットワークを通じて同社によって処理され、クレジットカード の取引手数料が差し引かれた金額が同社から加盟店に支払われる。アメックスは、加盟店 に対して、「顧客勧誘禁止」規定(取引手数料がより低い他社カードでの支払いを顧客に勧める ことを禁じる規定)を代理店契約に挿入することに同意するよう義務付けている。 司法省とメリーランド州など 17 州の司法長官室は 2010 年 10 月、アメックス、ヴィサ 及びマスターカードの 3 社がそれぞれの代理店に課している上記規定がシャーマン法に違 反すると主張し、3 社に対する民事訴訟をニューヨーク州東部地区地裁において提起した。 2011 年、ヴィサとマスターカードの 2 社は原告団と和解し、代理店契約での上記規定を 外した。アメックスは和解に応じず、事件は裁判に持ち込まれた。裁判官による裁判が 7 週間続いた。 裁判で、原告側は、高度寡占的である米国の加盟店関連カードサービス市場におけるア メックスの約 26%シェアなどを考慮に入れると同社は市場支配力を有すると主張・立証し た。また、原告側は、アメックスが 2005 年から 2010 年の間加盟店の脱落をそれほど招く ことなく 20 回も取引手数料を引き上げ、当該市場において反競争的効果をもたらしたと も主張・立証した。 これに対して、アメックス側は、同社が他のクレジットカード会社と同様に、カード所 有者と加盟店といった2つのユーザー・グループと取引をし、両グループを結び付ける二 面プラットフォーム(片面には買い物客関連カードサービス市場、もう片面には加盟店関連カー ドサービス市場がある。)として機能していると反論・立証した。また、二面プラットフォー ムには間接的なネットワーク効果が働いているとも反論・立証した。これは、とりわけク レジットカードの場合、買い物客がより多くの商店で使えるカードを持ちたがり、また商 店がより多くの顧客に使われているクレジットカードに加盟したがることを意味するもの である。その上で、アメックス側は、同社がカード所有者向けに非常に充実したポイント プログラムを展開しており、同プログラムの資金源として取引手数料の収入が用いられて いると説明した。それを踏まえ、アメックス側は、同プログラムを維持するために加盟店 がアメックスカードの所有者をレジで他のカードへ流さないようにするのが必要であり、 上記規定によって当該行為が防止されていると反論・立証した。 同地裁は 2015 年 2 月、加盟店関連カードサービス市場における取引手数料の競争減殺 効果に着目し、原告ら勝訴の判決を下した。 控訴審において、第 2 巡回区控訴裁判所は 2016 年 9 月 26 日、被告逆転勝訴の判決を言 い渡した(速報海外ニュース 185 号参照)。判決理由で、ウエズリー判事は、間接的ネットワ ーク効果が強く働いているため、加盟店関連カードサービス市場のみならず、買い物客関 連カードサービス市場といったプラットフォームの両面を評価しなければならないと判断 した。その上で、同判事は、本件対象期間中、カードサービスの質もカードの取引量全体
も上昇していたと指摘した。 最高裁は 2018 年 6 月 25 日に賛成 5、反対 4 で、高裁判決を支持する判決を言い渡した。 判決理由で、トーマス判事は、クレジットカード取引の特殊性に鑑み、本件ではプラット フォームの両面全体を評価することが正当化されると判示した。 3 司法省、電解コンデンサーに係る価格カルテルに関して、二人目の重役が有罪答弁を 行ったと発表(2018 年 6 月 27 日)3 司法省は 6 月 27 日、日本の電解コンデンサー・メーカーであるエルナー株式会社の重 役トクオタタイが米国その他の地域の顧客に販売される電解コンデンサーに係る価格カル テルに関与していたことを認め、有罪答弁を行った(訳者註:罪状認否手続はカリフォルニア 州北部地区地裁の公開法廷で行われた。)と発表した。 2016 年 12 月にカリフォルニア州北部地区地裁に提出された正式起訴状によれば、タタ イは価格カルテル及び入札談合を行うことにより、電解コンデンサーの競争を制限及び排 除することを共謀していた。それによれば、タタイは遅くとも 2009 年 1 月から 2012 年 1 月までの間、当該共謀行為に加担していたとされる。有罪答弁を行ったほか、タタイは、 366 日の禁固に服し(訳者註:量刑手続は 2018 年 10 月 10 日に行われる予定。)、また反トラス ト局の継続中の捜査に協力することに同意した。 司法省反トラスト局長のメイカン・デルラヒム局長は以下の声明を発表した。「反トラス ト局は、アメリカの消費者に損害を与える共謀行為に加担した外国人の責任を追及するこ とを決意している。本件電解コンデンサーに係る共謀行為は家電製品を日常的に使用して いるアメリカの何百万人もの消費者に損害をもたらした。」 電解コンデンサーは電子製品の内部で電気を蓄え、電流を制御する役割を果たし、コン ピューターやテレビ、車のエンジン、エアバッグシステム、家電製品、オフィス機器など に組み込まれている。 本日の有罪答弁は、電解コンデンサー産業における入札談合、価格カルテル及び別の反 競争的行為に対して司法省が現在進めている反トラスト審査の結果として行われたもので ある。司法省による審査では、これまで法人 8 社と個人 10 名が起訴されている。この審査 は、司法省反トラスト局サンフランシスコ事務所及び FBI(連邦捜査局)サンフランシスコ 支局により行われている。 (お問い合わせは、佐藤 潤、経済法学者・慶應義塾大学産業研究所共研究員・クレド法律事務所提 携ニューヨーク州弁護士 [email protected] 、までお願いします。
3 Press Release, Department of Justice, Second Executive Pleads Guilty to Participating in
欧州競争法の最近の動向
1 欧州委員会、EU 合併規則の下、コムキャストによるスカイの買収を容認(2018 年 6 月 15 日)4
欧州委員会は 6 月 15 日、EU 合併規則の下、米国に本拠を置く世界的なメディア、技術 また娯楽企業である Comcast Corporation(以下「コムキャスト」という。)による Sky plc
(以下「スカイ」という。)の買収計画を容認した。 届出がなされた買収計画は、オーストリア、ドイツ、アイルランド、イタリア及び英国 において主導的地位にある有料テレビ事業者(訳者註:より具体的にはその一種である衛星放 送局)であるスカイと、ハリウッドの六大映画会社の一であるユニバーサル・ピクチャー ズのみならず、CNBC、Syfy、また E!等のテレビ放送局をも所有するコムキャストを一体 化するものである。 コムキャストとスカイの両社は、オーストリア、ドイツ、アイルランド、イタリア、英 国及びスペインにおいて主として異なる市場で事業活動を展開している。両社は、とりわ けテレビ番組の調達市場と、有料テレビの基本チャンネルの卸供給市場で、限られた範囲 内でしか競争していない。 欧州委員会は、本件買収により関係加盟国でのテレビ番組の調達市場と、テレビチャン ネルの卸供給市場において当事会社の既存の市場占拠率が限定的にしか増加しないと認定 した。 買収の当事会社が主に市場の異なる段階で事業活動を展開しているため、欧州委員会 は、買収後における以下の点に評価の焦点を当てた。 ・ コムキャストがスカイの競争者に対し自己の映画やテレビ番組、又は自己のテレ ビチャンネルへのアクセスを禁止したり、又は相当程度限定したりする能力とイ ンセンティブを持つこととなるか。欧州委員会は、これらの懸念は生じないと結 論づけた。何故なら、有料テレビの配信サービス提供者が関係加盟国において、 コムキャストの競争者、並びに同等の番組を持ち、また類似の視聴者を惹きつけ ている複数の代替的チャンネルからコンテンツをアクセスし続けられるからであ る。 ・ スカイがコムキャストの競争者から番組を調達することを止めるインセンティブ を持つこととなるか。欧州委員会は、スカイが提供するサービスの質を下げるこ とになるため、この可能性は考えにくいと認定した。 ・ スカイが競合するチャンネルに対し自己のプラットフォームへのアクセスを妨げ る能力とインセンティブを持つこととなるか。欧州委員会の調査は、買収後の企 業がコムキャストの競争者を排除しうる能力は英国、ドイツ及びオーストリアに おける規制の存在のため、相当程度抑制されるだろうということを明らかにした 。加えて、排除の対象となりうる競争者は、契約により十分な期間にわたり保護 されているか、関連する加盟国においてスカイの小売プラットフォームに依存し ていないかの何れかである。 欧州委員会は市場調査の結果を受け、提案のあった買収は競争上の懸念を惹起するも のではないと結論づけた。
4 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears Comcast’s acquisition of Sky
21 世紀フォックスの競合買収提案 コムキャストによるスカイの買収提案は、米国の 21 世紀フォックスによる買収提案に 対する対抗ビッドとして提示されたものである。21 世紀フォックスとコムキャストはスカ イの支配権取得をめぐり競合している。欧州委員会は 2017 年 4 月 7 日、21 世紀フォック スによるスカイの買収案を無条件で容認した。 当事会社と商品・サービス スカイはオーストリア、ドイツ、アイルランド、イタリア及び英国において主導的地 位にある有料テレビ事業者である。 コムキャストは、米国のケーブルテレビ事業者であり、欧州においてはハリウッドの六 大映画会社の一であるユニバーサル・ピクチャーズ、幾つかのテレビチャンネル(CNBC、 ユニバーサル・チャンネル、Syfy、E!、13th Street、Movies24、Studio Universal)とオンデマン ド・サービス(hayu、Studio Universal Classics、Picturebox、Syfy Horror)運営者を所有す る、NBC ユニバーサルを通じ事業活動を展開している。
なお、本件買収案は 2018 年 5 月 7 日に欧州委員会に届け出られたものである。
2 欧州委員会、Fortum による Uniper の買収を容認(2018 年 6 月 15 日)5
欧州委員会は 6 月 15 日、EU 合併規則の下、Fortum による Uniper の買収を無条件で容 認した。両社はエネルギー部門において事業活動を行っている。欧州委員会は、本件買収 が欧州経済領域(EEA)において競争上の懸念を引き起こさないと結論づけた。 欧州委員会は、本件買収が以下の点に与える影響について評価した。 ・ 両社が発電施設を有する唯一の加盟国であるスウェーデンにおける発電・送電と 付随サービス(この点に関する評価では、Fortum のフィンランドにおける発電事業も考 慮された。) ・ 北欧諸国における電力先物取引 ・ 電力の小売供給や地域熱供給のみならず、エネルギー生産に関するサービス等、 当事会社の一方又は両社が行っているエネルギー関連活動の幾つか 調査の過程で、欧州委員会は Fortum と Uniper の多くの競争者と顧客のほか、規制当局、 送電系統運用者、また北欧諸国とバルト諸国で電力取引が行われているノード・プールを 含むエネルギー取引所からコメントを受け取った。 欧州委員会の調査の結果、次のことが明らかになった。 ・ 本件買収は、スウェーデンにおける両当事会社のやや高い合計市場シェア(約 30%)、 隣国との高度な相互接続、スウェーデンにおける著しい供給余力、また買収後の 企業による値上げに対する他の事業者から生じうる反応等に鑑み、発電・送電分 野において有効な競争を妨げるおそれはない。 ・ 本件買収は、戦略を立てることが困難であるため、スウェーデンの発電と電力卸 売市場において相互協調行為が行われる可能性を高めるおそれはない。 ・ 本件買収は、発電余力及び/又は第三者による発電容量拡大の可能性、電力輸入 の可能性、また新規供給者の参入が起きうる可能性を送電系統運用者が積極的に 高めているという事実に鑑み、スウェーデンにおける付随サービスに関する競争 を歪めるおそれはない。
5 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves the acquisition of Uniper by
本件買収は、北欧諸国における電力取引市場の流動性を実質的に減少させたり、 取引価格を上昇させたりするおそれはない。 よって欧州委員会は、本件買収は影響を受ける如何なる市場においても競争上の懸念を 引き起こすものではないと結論づけた。 当事会社と商品・サービス Fortum はフィンランドを本拠とするエネルギー・グループであり、主として北欧諸国に おいて電力と熱の生産と流通に従事している。同グループは他の欧州諸国のほか、ロシア とインドにおいても事業活動を展開している。 Uniper はドイツを本拠とし、欧州とロシアにおいて事業活動を行っているエネルギー会 社である。同社にはエーオンの従来型の発電施設と商品取引部門が移管されている。 なお、本件買収案は 2018 年 5 月 7 日に欧州委員会に届け出られたものである。 (お問い合わせは、多田 英明・東洋大学法学部教授 [email protected] までお願いします。)