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キノコ由来の植物成長調節活性物質に関する有機化 学的研究

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(1)

キノコ由来の植物成長調節活性物質に関する有機化 学的研究

著者 松? 信生

発行年 2017‑12

出版者 静岡大学

URL http://doi.org/10.14945/00025254

(2)

博士論文

キノコ由来の植物成長調節活性物質に関する 有機化学的研究

2017 年 12 月

静岡大学大学院 創造科学技術大学院

松﨑 信生

(3)

Chemical studies

on plant growth regulatory activity compounds by mushrooms

Nobuo MATSUZAKI

Graduate School of Science and Technology

Shizuoka University

(4)

博士学位論文目次

第 1 部 Russula vinosa の子実体由来の植物成長調節物質の探索

第 1 章 緒論 1

第 2 章 本論

第 1 節 Russula vinosa 由来の化合物の単離・精製 1-2-1-1 1 回目抽出分の分画・精製 2

1-2-1-2 抽出および化合物の単離・精製 (2 回目 ) 6

第 2 節 Russula vinosa から得られた化合物の構造解析

1-2-2-1 化合物 1 の同定 9 1-2-2-2 化合物 2 の同定 13 1-2-2-3 化合物 3 の同定 17 1-2-2-4 化合物 4 の同定 21

1-2-2-5 化合物 5 の同定 25

第 3 節 植物成長調節活性試験

1-2-3-1 レタスに対する成長調節活性 29

第 3 章 実験部

第 1 節 使用器具および材料 31

第 2 節 Russula vinosa 乾燥子実体からの化合物の単離 32

第 3 節 植物成長調節活性試験 33

第 2 部 植物における ICA の活性と代謝に関する研究

第1章 諸論 34

第 2 章 本論

第 1 節 様々な処理条件における ICA の植物に対する影響

2-2-1-1 様々な科の植物における ICA の植物成長調節活性試験 36

2-2-1-2 低温下における ICA 処理イネの植物成長調節活性試験 38

2-2-1-3 イネの葉からの ICA の取り込み実験 39

第 2 節 ICA 代謝産物の単離と精製

2-2-2-1 ICA 処理した植物における ICA 代謝産物の確認 40

2-2-2-2 ICA 処理したイネからの ICA 代謝産物の単離と精製 42

(5)

第 3 節 イネにおける代謝産物の構造決定

2-2-3-1 化合物 1 の構造決定 43

2-2-3-2 化合物 2 の構造決定 51

2-2-3-3 化合物 3 の構造決定 58

第 4 節 植物における ICA と ICA 代謝産物の内生の確認

2-2-4-1 様々な科の植物における ICA と 1 の内生の確認 67

第 5 節 ICA、1, 3 の活性と代謝経路の解明

2-2-5-1 1, 3 の植物成長調節活性試験 69

2-2-5-2 1, 3 処理イネの HPLC 分析 70

2-2-5-3 ICA 処理イネの継時的 HPLC 分析 71

2-2-5-4 ICA, 1, 3 処理イネにおける代謝効率の定量化 72

2-2-5-5 ICA 処理イネにおける ICAR (4)の確認 73

第 6 節 ICA とプリン代謝経路の関わりの証明に向けた実験

2-2-6-1 イネにおけるラベル体 AICA 処理実験 74

2-2-6-2 イネにおける AICAR 処理実験 75

2-2-6-3 AICAR から ICAR(4)の生合成に関わる酵素の探索 75

第 7 節 考察 76

第 3 章 実験部

第 1 節 使用器具および材料 79

第 2 節 ICA 処理イネからの化合物の単離 81 第 3 節 植物に対する化合物処理および分析 82 第 4 節 植物内生化合物の検出実験 86

第 5 節 AICAR から ICAR (4) への変換に関わる酵素の探索 87

第 6 節 LC-MS/MS を用いた化合物 の検出条件検討 88

論文要旨 90

Summary 92

参考文献 94

謝辞 96

(6)

1

1Russula vinosa の子実体由来の植物成長調節物質の探索

第 1 章 諸論

近年、植物ホルモンとして認知されている auxins 1)、ethylene 2) 、gibberellins 3,、cytokinin4)、 abscisic acid 5)、brassinosteroid 6)、jasmonic acid 7, 8) はそれぞれの基質と受容体との作用機序 が解明された。さらに、植物と菌類の相互作用に関与する植物成長調節物質として strigolactones 9,10) や 2-azahypoxanthine 11)、imidazole-4-carboxyamide12) が発見された。この様 な植物成長調節物質の発見やその作用機序の化学的解明は農業面の応用に対して非常に有 効である(Figure 1)。

Figure 1. Chemical structures of plant hormones and plant growth regulators

正紅菇 (Russula vinosa) は中国福建省に産生するキノコであり、成分分析の結果からは菌 糸体、子実体共に、タンパク質、アミノ酸、多糖類、不飽和脂肪酸、揮発性物質、エルゴス テロールおよび抗菌活性、抗癌活性を持つ物質を含む多くの種類の有効成分が含まれるこ とが報告されている13,14)。また正紅菇は外生菌根菌であり、ある研究では広葉樹の周りにそ の菌糸体を植えると一種の共生関係が生じて、正紅菇の子実体が形成しその収量が増加す る一方で、広葉樹の根毛が増加したとの報告もある 15)。外生菌根菌はしばしばセスキテル ペン類を放出することで、根の成長調節に関わることが知られる。例として、キツネタケ (Laccaria laccata)の菌糸が揮発性のセスキテルペンを地中に放出し、根の成長促進に関わる 遺伝子の発現を増大させることで発達を促すことなどがあげられる 16)。このように植物と の共生関係において、正紅菇は未知の植物成長調節活性物質を生産している可能性が考え られる。しかしながら、このような機能性物質の単離・構造決定はなされていない。

以上より、本研究ではR. vinosaに由来する機能性物質の探索を目的とした。

(7)

2

第 2 章 本論

1Russula vinosa由来の化合物の単離・精製

1-2-1-1 抽出および化合物の単離・精製 (1回目)

R. vinosa 乾燥キノコ 1.5 kg をヘキサン、 EtOAc, EtOHで順次抽出し、抽出物を減圧濃 縮して得られた各抽出画分を各種活性試験に供したところ、EtOAc 可溶部においてレタス の胚軸、根部共に成長が促進する傾向を示した(Figure 2)。

そこで各活性試験の結果を指標にしながら、EtOAc 可溶部をフラッシュシリカゲルクロ マトグラフィーに供した(Figure 3)。このうち 画分1~26 をレタスに対する植物成長調節活 性試験に供し活性を調べたところ,画分14と15に最も強い阻害活性がみられた(Figure 4)。

画分14 を 50%MeOH, 90%MeOH, MeOH, CH2Cl2で順次 C18 Sep-pakに通して得られた画 分14-1~3, MeOH 溶出画分, CH2Cl2 溶出画分をそれぞれ得た。そのうち画分 14-2 を ODS カラムクロマトグラフィーに供し、化合物 1を単離した。

さらに画分15 を C18 Sep-pak に通した後,ODS カラムクロマトグラフィーに供し 画分

15-1~10 を得た。それぞれの画分をレタスに対する植物成長調節活性試験に供したところ,

胚軸において画分15-3で最も強い阻害がみられた。さらに画分15-3 を逆相の HPLC で分 取し、画分15-3-1~9 を得た。このうち画分15-3-4を逆相のカラムの HPLC で分取を行い、

化合物 2を得た。

(8)

3

Figure 2. Effect of hexane, EtOAc, EtOH and H2O soluble parts of first extraction on the growth of lettuce. (a) graph (n=7; graph), (b) photo.

a

b

(9)

4

Figure 3. Purification procedure of 1 and 2 in the first extraction.

(10)

5 a

b

Figure 4. Plant growth activity against lettuce of fractions 1-26 from EtOAc soluble part in the first extraction (a) n=7; graph (b) photo.

(11)

6 1-2-1-2 抽出および化合物の単離・精製 (2 回目)

R. vinosa乾燥子実体 5.0 kg をヘキサン、EtOAc、EtOH、H2Oでそれぞれ2回抽出した

(Figure 5)。1回目の抽出において17) 構造決定に至らなかった化合物やその類縁体の探索

を行うため、EtOAc 可溶部をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーに供し、 画分

1~17 を得た。ここでレタスに対する植物成長調節活性試験に供したところ、画分8で根

および胚軸の伸長阻害活性、画分9で胚軸の伸長促進活性、胚軸の伸長阻害活性がみられ た(Figure 6)

画分8、9はそれぞれODSフラッシュクロマトグラフィーで分画した。画分8のフラッ シュ画分8-1~13のうち、画分8-2を40% MeOH、60% MeOHに順次溶解させ、C18 Sep-pak に通し、60% MeOH可溶部を画分8-2-1とした。これを55% MeOH、逆相HPLCにて分取

し、画分8-2-1-1~28を得た。このうち、画分8-2-1-22より化合物4、画分8-2-1-19より化

合物5を得た。

さらに画分9-1~20のうち、画分9-2/3を60% MeOH、90% MeOHに順次溶解させ、C18

Sep-pakを通した。60% MeOH可溶部を画分9-2/3-1とした。これを55% MeOH、逆相

HPLCにて分取し、画分9-2/3-1~23を得た。このうち、9-2/3-13をさらに逆相HPLCで分 取し、得た19フラクションのうち、フラクション12より化合物3を得た(Figure 5) 。

(12)

7

Figure 5. Purification procedure of 3, 4 and 5 in the secound extraction.

(13)

8

Figure 6. Plant growth activity against lettuce of fractions 1-17 from EtOAc soluble parts in the secound extraction (a) n=7; graph (b) photo.

a

b

(14)

9

2Russula vinosaから得られた化合物の構造解析

R. vinosa の酢酸エチル可溶部から単離した各化合物について、各種機器分析による構造

解析を行った。

1-2-2-1 化合物 1の同定

化合物 1は無色油状物質として単離された。1 はIR スペクトルにおいて3351 cm-1に吸 収がみられたため, ヒドロキシ基の存在が示唆された(Figure 7)。またESI-TOF-MS (+) に

おいて m/z 175 に [M+Na]+ の分子イオンピークが観測されたため,分子量を 152 である

と決定した(Figure 8)。比旋光度は []D29 = -18 (c =0.11, CHCl3) であった。1H-NMRスペク トル,13C-NMRスペクトルのデータ(Figure 9, 10, Table 1) 、および比旋光度が文献値( [a]D25

= -39.4, c =1.0, CHCl3) と一致したことより, (1R,2S)-1-phenyl propane-1,2-diol と同定した (Figure 7) 18)1 は,カワラタケ属 (Trametes sp.) のIPV-F640株由来菌糸体19)およびパン 酵母(Saccharomyces cerevisiae)より単離されている20) 。生物活性の報告はなかった。

Figure 7. Structure of 1

(15)

10 Figure 8. IR spectrum of 1.

(16)

11 Figure 9. 1H-NMR spectrum of 1 in CD3OD.

Figure 10. 13C NMR spectrum of 1 in CD3OD.

(17)

12 Table 1. 1H and 13C NMR of 1 in CD3OD.

Position 1H 13C

multiplicity, J in Hz) 

1 1.10 (d, 6.4) 18.1

2 3.83 (dq, 4.0, 6.4) 72.4

3 4.48 (d, 5.2) 79.1

4 128.0

5 7.30 (d, 7.5) 128.3

6 7.36 (dd, 3.8, 3.8) 129.0

7 7.23 (dd, 3.5) 143.4

(18)

13 1-2-2-2 化合物 2の同定

化合物 2 は白色針状結晶として単離された。2 は HR-ESI-TOF-MS (+) において m/z

289.1416 ( -1.0 mmu) [M+Na]+ の分子イオンピークが観測されたため、分子量が266である

と推測された(Figure 12)。IR スペクトルにおいて1720, 3392 cm-1に吸収がみられたため、

カルボニル基およびヒドロキシル基の存在が示唆された(Figure 13)。比旋光度は []D26 = +15 (c = 0.29, EtOH) であった。

1H-NMRスペクトル、13C-NMRスペクトルのデータ(Figure 14, 15, Table 2) および比旋光 度の文献値 (]D20 = +8.4, c = 1.0, EtOH) と一致したことより、isolactarorufinと同定した (Figure 11) 20, 21)。2 は、アカチチタケ (Lactarius rufus) より単離されており、生物活性は 報告されていない。

Figure 11. Structure of 2

(19)

14 Figure 12. ESI-TOF-MS (positive) spectrum of 2.

Figure 13. IR spectrum of 2.

[M+Na]

+

3392 cm-1 1720 cm-1

(20)

15 Figure 14. 1H-NMR spectrum of 2 in CD3OD.

Figure 15. 13C NMR spectrum of 2 in CD3OD.

(21)

16 Table 2. 1H and 13C NMR data for 2 in CD3OD.

Position 1H 13C

(multiplicity) 

1 4.25 (d, 9.0), 4.28 (d, 9.5) 73.4

2 178.1

3 39.1

4 1.00 (d, 6.0), 1.70 (d, 5.5) 18.6

5 34.6

6 4.16 (d, 8.5) 75.6

6a 2.12 (m) 47.7

7 1.18 (dd, 11.8), 1.81 (ddd, 12.0, 7.0, 2.0) 48.8

8 39.4

8-CH3a 0.95 (s) 27.3

8-CH3b 1.08 (s) 29.8

9 1.45 (ddd, 12.0, 8.5, 2.0), 1.65 (dd, 11.3, 11.3) 41.3

9a 1.93 (m) 44.3

10 72.1

10-CH3 1.53 (s) 24.4

(22)

17 1-2-2-3 化合物 3の同定

化合物 3 は白色非晶質として単離された。3 は HR-ESI-TOF-MS (+) において m/z

289.1387 ( -2.9 mmu) [M+Na]+ の分子イオンピークが観測されたため、分子量を、分子式を

C15H22O4 であると決定した(Figure 17)。IR スペクトルにおいて1710, 3221 cm-1に吸収がみ られたため、カルボニル基およびヒドロキシル基の存在が示唆された(Figure 18)。比旋光度 は []D27 = +19 (c = 0.10, CHCl3) であった。

1H-NMRスペクトル、13C-NMRスペクトルのデータ(Figure 19, 20, Table 3)、および比旋光 度が文献値 ( []D20 = +6.3, CHCl3)と一致したことより 23, 24)、lactarorufin A と同定した (Figure 16)。 3 は、アカチチタケ (Lactarius rufus) からの単離が報告されている24)。生物 活性として、ヒト肺癌細胞(A549 株)およびヒト結腸腺癌細胞(HCT-15)に対する選択的細胞 毒性が報告されており 25)、グラナリアコクゾウムシに対する摂食阻害活性が報告されてい る 26)。またレタスに対する植物成長調節活性試験がされているが、有意な活性は示されて いない27)

Figure 16. Structure of 3

(23)

18 Figure 17. RESI-TOF-MS (positive) spectrum of 3.

Figure 18. IR spectrum of 3.

3392 cm-1 1710 cm-1

(24)

19 Figure 19. 1H NMR spectrum of 3.

Figure 20. 13C NMR spectrum of 3.

(25)

20 Table 3. 1H and 13C NMR data for 3 in CD3OD.

Position 1H 13C

 (multiplicity) 

1 4.74 (d, 17.5), 4.88 (d, 17.5) 72.6

2 177.4

3 124.1

4 164.3

5 4.32 (d, 7.0) 69.1

5a 2.69 (m) 47.1

6 1.37 (m), 1.60 (m) 46.3

7 37.4

7-CH3a 1.03 (s) 29.3

7-CH3b 1.09 (s) 30.4

8 1.4 (m), 1.7 (m) 45.0

8a 2.6 (m) 52.2

9 74.0

9-CH3 1.21 (s) 28.3

10 2.46 (d, 17.5), 2.62 (m) 36.7

(26)

21 1-2-2-4 化合物 4の同定

化合物 4 は白色非晶質として単離された。4 は ESI-TOF-MS (+) において m/z 273

[M+Na]+ の分子イオンピークが観測されたため (Figure 20)、分子量を 250、分子式を

C15H22O3 であると決定した。IR スペクトルにおいて1695, 3392 cm-1に吸収がみられたため、

カルボニル基およびヒドロキシル基の存在が示唆された (Figure 23)。比旋光度は []D27 = +75 (c = 0.27, CH2Cl2) であった。

1H-NMRスペクトル、13C-NMRスペクトルのデータ (Figure 22 and 23, Table 4) が文献値 ([]D20 = +42, c = 0.0050, CH2Cl2)とほぼ一致したことより28)、8a,13- dihydroxy-marasm-5-oic acid -lactoneと同定した (Figure 21)。 4 は、クサハツ (Russula foetens) より単離されてい る。また、生物活性の報告はなかった。

Figure 21. Structure of 4

(27)

22 Figure 22. RESI-TOF-MS (positive) spectrum of 4.

Figure 23. IR spectrum of 4.

3392 cm-1 1695 cm-1

(28)

23 Figure 24. 1H NMR spectrum of 4.

Figure 25. 13C NMR spectrum of 4.

(29)

24

Table 4.

1

H and

13

C NMR data for 4 in CD

3

OD.

Position

1

H

13

C

 (multiplicity) 

1 4.17 (m), 4.69 (m) 73.2

2 180.6

3 30.2

4 1.62 (d, 4.5) 44.7

5 3.23 (t, 10.5, 10.5) 73.8 5a 2.41 (dq, 9.0, 9.0, 9.0) 46.2

6 1.54 (m), 1.65 (m) 45.6

7 37.8

7-CH

3

a 1.04 (s) 32.7

7-CH

3

b 1.13 (s) 32.5

8 1.50 (m), 1.85 (m) 42.7

8a 2.64 (m) 46.7

9 30.9

9-CH

3

1.25 (s) 17.8

10 1.06 (d, 1.5), 1.24 (d, 1.5) 29.7

(30)

25 1-2-2-5 化合物 5の同定

化合物 5 は白色非晶質として単離された。5 は ESI-TOF-MS (+) において m/z 289

[M+Na]+ の分子イオンピークが観測されたため、分子量を266、分子式を C15H22O4 である

と決定した(Figure 27)。IR スペクトルにおいて1713, 3335 cm-1に吸収がみられたため、カ ルボニル基およびヒドロキシル基の在が示唆された(Figure 28)。比旋光度は []D27 = +1.2 (c

= 0.11, acetone) であった。

1H-NMRスペクトル、13C-NMRスペクトルのデータ(Figure 29, 30, Table 5) および、比 旋光度が文献値 ([]D20 = +1.1, c = 1.0, acetone)とほぼ一致したことより29, 30)、7a,8a,13- trihydroxy-marasm-5-oic acid -lactoneと同定した(Figure 26)。5 は、ケシロハツ (L.

vellereus) より単離されている30)。生物活性の報告はなかった。

Figure 26. Structure of 5

(31)

26

[M+Na]

+

Figure 27. ESI-TOF-MS (positive) spectrum of 5.

Figure 28. IR spectrum of 5.

3335 cm-1 1713 cm-1

(32)

27 Figure 29. 1H NMR spectrum of 5.

Figure 30. 13C NMR spectrum of 5.

(33)

28 Table 5. 1H and 13C NMR data for 5 in CD3OD.

Position 1H 13C

 (multiplicity) 

1 4.12 (d, 9.5), 4.51 (d, 9.5) 76.3

2 180.5

3 33.6

4 79.6

5 3.65 (s) 74.5 5a 2.25 (dq, 9.5, 10.0, 10.0) 45.0

6 1.60, 1.82 (d) 50.6

7 38.4

7-CH3a 0.93 (s) 30.0

7-CH3b 1.03 (s) 29.6

8 1.47 (q, 11.0), 1.80 (q, 12.0) 46.9

8a 2.76 (m) 45.2

9 28.9

9-CH3 1.41 (s) 17.8

10 0.74 (d, 4.0), 2.17 (d, 4.0) 27.4

(34)

29 第3節 植物成長調節活性試験

1-2-3-1 レタスに対する成長調節活性

Russula sp. 子実体EtOAc可溶部の画分6-1~15と、EtOAc可溶部より単離・同定した化合 物 1-5 について、レタス (キク科) に対する植物成長調節活性試験を行った。レタスの種子 を播種して 1 日間前培養を行い、発芽させた後、1, 10, 100, 1000 nmol/paper に調製した1- 5 をサンプルとして処理し 3 日間本培養を行い、レタスの胚軸と根の伸長測定を行った。

その結果、1はレタスの胚軸において、10 および1000 nmol/paperで成長阻害活性を示した 一方で、1 nmol/paperで伸長促進を示した(Figure 31a)。2は根において、1, 1000 nmol / paper で成長阻害活性を示した。一方で10および100 nmol / paperでは促進活性を示した。また胚 軸においては100 nmol / paper で成長促進活性を示した (Figure 31b)。3は、胚軸において

1000 nmol/paper添加区で最も成長阻害が大きく、100 nmol/paper でも次に強い阻害がみられ

た。根でも同様に1000 nmol /paper添加区で最も成長阻害が大きく、100 nmol/paper でも次 に強い阻害がみられた。 4は胚軸において、100 nmol/paper添加区で成長促進活性、対して

1000 nmol/paper添加区で最も大きな成長阻害活性がみられた。根においては 100 nmol/paper

添加区で成長阻害がみられた。5は胚軸において 1および10 nmol/paperの低濃度添加区で 伸長促進がみられた(Figure 31c)。

3 は過去の報告でレタスに対する成長調節活性試験が行われており、その結果からは活性 がないことが示されている 27)。しかし本研究では抑制活性が見られた。過去の報告ではバ イオアッセイ方法が細部で異なっていた (過去の報告: 0.5% DMSO 1 mL に浸したろ紙上で

20 ºCで培養; 本研究: 滅菌水 1 mL に浸したろ紙上で 25 ºCで本培養)。そのため試験結果

を厳密に比較することはできないものの、温度、化合物の添加条件の違いが抑制活性の有無 を生んだ可能性が推定される。

化合物2から5はすべてラクトン骨格を有する化合物であり、いずれも成長促進、抑制活 性を示した。45の違いは4位がプロトンであるか、ヒドロキシ基であるかの違いだけで あった。しかし4が抑制活性を示した一方で、5は促進活性を示すという逆の結果が示され たことから、4位の構造の違いが植物の成長活性に影響を及ぼすことが示唆される。

以上より、Russula vinosaの有する植物成長調節活性は、本研究で単離した化合物を含む さまざまなセスキテルペン類の化合物が関与していると考えられる。

(35)

30

Figure 31. Effect of 1-5 on the growth of lettuce. Lettuce seedlings were treated with 1-5.

Respective length of growth compared with the control ± standard deviation (*p < 0.05, **p < 0.01 vs control, n = 7).

(36)

31

第 3 章 実験部

1節 使用器具および材料

1-3-1-1 使用機器類

本研究で使用した機器類は以下の通りである。

Cosmosil 140C18-OPN for column chromatography (Nacalai tesque)

1-3-1-2 材料

植物成長調節活性試験には、レタスの種子 (Lactuca sativa L. cv. Great Lakes 366)を使用し た。

NMR: JMN-EX- 270 FT NMR Spectrometer (JEOL) Lambda 500 FT NMR Spectrometer (JEOL)

MS: JMS-T100LP (JEOL)

IR: A-102 Diffraction Grating Infrared Spectrometer (JASCO) []D: Digital polarimeter DIP-500

TLC: DC-Alufolien Kieselgel 60F254 (Merck) DC-Alufolien RP-18F254s (Merck) Sep-pak: Sep-Pak Plus C18 Cartridges (Waters)

Sep-Pak Plus Silica Cartridges (Waters) HPLC

Pump: PU-2089 Plus Quaternary Gradient HPLC Pump(JASCO) PU-2080 Plus Intelligent HPLC Pump(JASCO)

Detector: UV-2075 Plus Intelligent UV/VIS Detector (JASCO) 875-UV Intelligent UV/VIS Detector (JASCO) Recorder: 807-IT integrator (JASCO)

Software: Chromatography Data Station ChromNAV (JASCO) Interface: LC-Net II/ADC (JASCO)

Column: Develosil C30-UG-5 (Nomura Chemistry)

COSMOSIL/COSMOGEL nap waters(Nacalai tesque)

カラムクロマトグラフィー担体:

Sillica Gel 60N for column chromatography (Kanto Chemistry)

(37)

32

2Russula vinosa乾燥子実体からの化合物の単離

1-3-2-1 酢酸エチル可溶部からの化合物の単離 (1回目)

R. vinosa キノコ乾燥子実体を粉砕し減圧濃縮後、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、水

で順次分配抽出を行い、乾燥子実体 (1.5 kg) からヘキサン可溶部 (17.7 g)、酢酸エチル可溶 部 (25.1 g)、エタノール可溶部 (26.1 g)、水可溶部 (345.4 g) を得た。酢酸エチル可溶部 (25.1 g) をシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィー (silica gel 60N, 76 ×550 mm;

CH2Cl2, CH2Cl2/EtOAc 90:10, 80:20, 70:30, 60:40, 40:60, 30:70, 20:80, 10:90, EtOAc, EtOAc/MeOH 90:10, 70:30, 50:50, 40:60, 30:70, 20:80, 10:90, MeOH, MeOH:acetic acid 80:20, 70:30) により 26 画分に分画した。画分 15 (172.8 mg) を99% MeOHに溶解させてSep-Pak Plus C18 Cartridges (Waters) に通したもの (151.3 mg) を逆相ODSゲルクロマトグラフィー (ODS gel Cosmosil 140C18-OPN, 40×200 mm; MeOH:H2O 90:10, 98:2, 99:1, MeOH) により 10 画分に分画した。

画分 14 (301.3 mg) を50% MeOHに溶解させてSep-Pak Plus C18 Cartridges (Waters) に通し た画分14-50M (51.7 mg) を逆相 HPLC (Develosil C30-UG-5, 20×250 mm; MeOH:H2O 50:50) により15画分に分画し,そのうち画分15-50M-6より 1 (2.0 mg) を単離した。また画分15- 3-4 (5.9 mg) を逆相HPLC (COSMOSIL NAP Waters,20× 250 mm; MeOH/H2O 50:50) によっ て 2 (2.7 mg) を単離した。

1-3-2-2 酢酸エチル可溶部からの化合物の単離 (2回目)

R. vinosa 乾燥キノコ (5.0 kg) をヘキサン、EtOAc、EtOH、H2Oでそれぞれ2回抽出し た。EtOAc 可溶部をフラッシュクロマトグラフィー (silica gel 60N, 76 ×550 mm; CH2Cl2, CH2Cl2/EtOAc 90:10, 80:20, 60:40, 40:60, 30:70, 10:90, EtOAc, EtOAc/MeOH 90:10, 70:30, 60:40, 50:50, 40:60, 30:70, 20:80, MeOH, MeOH:acetic acid 70:30) に供し、画分1~17 を得た。画分 8 (332.6 mg)、9 (1.19 g)はそれぞれフラッシュクロマトグラフィー(ODS gel Cosmosil 140C18- OPN,  40×200 mm; MeOH:H2O 70:30, 80:20, 90:10, MeOH) で分画した。画分8-1~13のう ち、画分8-2 (16.7 mg) を40% MeOH、60% MeOHに順次溶解させ、Sep-Pak Plus C18

Cartridgesに通した。60% MeOH可溶部を画分8-2-1 (14.4 mg) とした。これを逆相 HPLC (Develosil C30-UG-5, 20×250 mm; MeOH:H2O 55:45) にて分取し、28フラクションを得 た。このうち、Rs-EA-8-2-1-22より4 (1.8 mg)、Rs-EA-8-2-1-19より5 (1.4 mg)を得た。さ らに画分9-1~20のうち、画分9-2/3 (40.9 mg) を60% MeOH、90% MeOHに順次溶解さ せ、Sep-Pak Plus C18 Cartridgesに通した。60% MeOH可溶部を画分9-2/3-1 (35.0 mg) とし た。これを逆相 HPLC (Develosil C30-UG-5, 20×250 mm; MeOH:H2O 55:45) にて分取し、

23フラクションを得た。このうち、画分9-2/3-1-13 (5.1 mg) をさらに逆相HPLC (COSMOSILNAP Waters, 10× 250 mm; MeOH/H2O 50:50) で分取し、画分9-2/3-1-13-12 より3 (1.1 mg) を得た。

(38)

33 第3節 植物成長調節活性試験

1-3-3-1 レタスに対する成長調節活性試験

ガラス製のシャーレ (60× 20 mm) 使用し、1 mL の蒸留水を浸透させたろ紙 (Advan - tec

No. 2, 55)にレタスの種子を播種した。25 ºC、暗所の条件で 1 日間前培養を行った。対照

区は CH2Cl2 または MeOH をろ紙に浸透させ、試験区は CH2Cl2 または MeOH で濃度調 製した各種サンプルをろ紙に浸透させた。自然乾燥をさせた後、1 mL の蒸留水をろ紙に浸 透させ、発芽したレタスを移植した。25º C、暗所の条件で 3 日間本培養を行った。培養後、

レタスの形態の変化を観察するとともに、レタスの胚軸と根の伸長を測定した。

(39)

34

2 部 フェアリーリング惹起物質である ICA の植物における 活性と代謝に関する研究

第 1 章 諸論

芝生などで芝草が環状に繁茂、もしくは枯死した後に、その輪に沿うようにキノコが発 生する現象がある。この現象は、妖精が輪の中で踊るという西洋の伝説になぞらえてフェ アリーリングと呼ばれる。約60種類のキノコ類がフェアリーリングを形成することが分 かっており、多くの地域でその存在が確認されている1-7)。 稀に螺旋型やローター型など が確認されるものの、多くは環状に形成される8)。フェアリーリングが芝草の成長に影響 を与える要因として、過去に様々な報告がされている。芝草の枯死の要因としては、リン グ周辺において、シアン化合物の生成、栄養素の減少、撥水性、病原作用などが引き起こ されることで、芝草の成長の抑制を引き起こすことが示されている 9-12)。また、繁茂する 要因としては、フェアリーリングからの栄養素の放出、菌類の代謝産物の影響が報告され ている 13)。これらの報告がある一方で、本研究室では、フェアリーリングを引き起こす要 因として2-azahypoxanthine (AHX)とimidazole-4-carboxamide (ICA) を発見し、研究を進め ている (Figure 1) 14, 15)

Figure 1. Structures of AHX, ICA and AOH

AHX、ICAとは、本研究室の崔らによって、フェアリーリングを形成するキノコの一種

であるコムラサキシメジの培養濾液から単離、構造決定された化合物である。AHXあるい はICA を植物に投与すると、分類学上の科の違いに関わらず、多くで有意な成長調節活性 を及ぼし、作物の収量の増加を示すことが判明した。AHXは一定の濃度において植物成長 を促進し、作物の収量の増加を促すことが示されている16)。ICAは濃度依存的に成長を抑 制する一方で、低濃度で処理するとイネの成長促進、収量の増加を促すことが分かってい

15, 17)。AHXはイネの体内で2-aza-8-oxohypoxanthine(AOH)に変換されることが判明して

いる。AOHはAHXと同様に植物成長促進活性を持ち、様々な農作物の収量の増加に関わ ることが判明している 18)。また、AHXはグルコシドに変換されることが判明しており、

(40)

35

AOHもさらに4種類のグルコシドに代謝されることが示されている。AHX、AOHグルコ シドは一部を除き、可逆的にAHX、AOHに変換されることがわかっている 19, 20)。この代 謝機構はサイトカイニンの代謝に類似しており、AHXおよびAOHが植物体内でグルコシ ル化することで、AHX, AOHの量を調節していることが示唆される 21)。また、AHX, AOH は様々な科の植物に普遍的に内生する化合物であり、さらにAICA (5-aminoimidazole-4-

carboxamide) からAHXに代謝されることが判明した18)。さらに最近、コムラサキシメジ

にAICA ribotide (AICAR)を投与すると AHXが体内で蓄積されることが判明した22)。これ

らの結果よりAHXとAOHはプリン代謝経路の一端を担う化合物であることが示された (Figure 2)。

Figure 2. A model of metabolic pathway for AHX.

AHXやAOHと同様に、ICAも植物の体内で未知の代謝産物に変換される可能性が示唆 された。また様々な植物に内生し、AICAのアミノ基が外れ、ICAに変換される経路をた どることでプリン代謝経路の一端を担っている可能性が考えられた。しかしそれらの証明 には至っておらず、成長の促進、抑制を促すという知見に留まるままであった。

本研究では、詳細な検討がなされていなかったICAに関して、植物に及ぼす効果、代謝 産物の単離と構造解析、代謝産物のイネにおける代謝と植物成長調節活性試験、様々な植 物における内生の確認、プリン代謝経路への関与を証明するための検討を行った。

(41)

36

第 2 章 本論

第1節 様々な処理条件におけるICAの植物に対する影響

2-2-1-1 様々な科の植物におけるICAの植物成長調節活性試験

以前の研究でICAの成長調節活性は、イネ、ベントグラスで確認されている18)。その他 の植物に対する成長調節活性を確認するため、イネ、ベントグラスの他、コマツナ、カ ブ、ハクサイの種子を、ICA添加培養液 (1 mM) を染み込ませた濾紙上に置き、1ヶ月間

28 °C下で培養を行った。その結果、全ての植物において成長抑制活性が確認された。ハ

クサイでは根にのみ抑制活性があった (Figure 3)。

Figure 3. Effect of ICA on growth of plants. Plants seedlings were treated with 1 mM ICA on a paper disk. (*p<0.05 vs control, **p<0.01 vs control)

(42)

37

さらにICAがどの濃度で活性を示すかを確認するため、レタス、コマツナを、1, 10, 100

MのICAで処理し、成長調節活性を確認した。その結果、いずれも100 Mの濃度で根 に対する抑制効果を示した。レタスでは10 Mでも有意な抑制活性を示した (Figure 4)。

Figure 4. Effect of ICA on growth of lettuce (a) and komatsuna (Brassica rapa L) (b).

n=7-20, **P<0.01 vs control.

(43)

38

2-2-1-2 低温下におけるICA処理イネの植物成長調節活性試験

ICAが低温下処理のイネにおいてストレス耐性を付加する性質を持つかを確かめるた め、ICA処理 (0.1, 1, 10, 100M) を低温下 (16 °C) で2週間培養を行った。その結果、0.1

から10 M の範囲で有意な成長促進活性が確認された。10 M で最も大きな促進活性を

示し、100Mでは抑制活性を示した (Figure 5a)。0.1から10Mの範囲の促進活性は、イ ネにおける適温 (28 °C) の培養条件では確認されなかった(Figure 5b)。

Figure 5. Effect of ICA on rice growth at 16 °C (a) and 28 °C (b). All seedlings were grown for 2 weeks. (a) n=11-12, (b) n=8-20, *P<0.05 vs control, **P<0.01 vs control.

(44)

39

2-2-1-3 イネの葉からのICAの取り込み実験

植物ホルモンであるサイトカイニンは葉から植物体に取り込まれる23, 24)。これと同様に ICAが葉から取り込まれる可能性を考え、イネの地上部の上半分を、ICA添加溶液 (100

M) に浸し、1週間培養した後に、地上部と根部のEtOH抽出物をHPLCで分析し、植物 体内へのICAの取り込みの有無を確認した (Figure 6)。しかしHPLC分析結果からは、

ICAと考えられる化合物のピークは検出されなかった。

Figure 6. Scheme of application of ICA on leaves.

前培養後、

液体培地で1週間培養

フェアリー化合物(AHX, AOH, ICA)100 μM溶液に

地上部の上半分を浸す 新しい培地に移し 1週間培養 フェアリー化合物 (AHX, AOH,

ICA) 100 M 溶液に地上部の 上半分を浸す

前培養後、

液体培地で 1 週間培養

新しい培地に移し 1 週間培養

(45)

40 第2節 ICA代謝産物の単離と精製

2-2-2-1 ICA処理した植物におけるICA代謝産物の確認

ICA処理した植物の体内における、ICAの代謝を確認するために、ICAで処理したイ ネ、キュウリ、トマト、レタス、コマツナをEtOHで抽出し、抽出物をHPLCで分析した 後に、分析結果をコントロールと比較した。その結果、イネにおいてはICAと共に、コン トロールでは確認されない、ICAの多波長UVのパターンによく似た1から3のピークが 地上部、根部から共に示された(Figure 7)。他の植物の分析結果では、いずれの植物もICA と1であることが示唆されるピークが全ての根部から確認され、レタスにおいては地上部 からも検出された。2, 3はイネ以外のいずれの植物からも検出されなかった。トマト、レ タスの分析結果からは、ICAと1と共にICAの1から3以外の代謝産物であると考えられ るピークが示された (ピンクの矢印)。

(46)

41 Figure 7. HPLC profiles of the ICA-treated plants.

rice (a), cucumber (b), tomato (c), lettuce (d) and Brassica rapa L (e). Arrows indicate ICA and metabolites of ICA.

(47)

42

2-2-2-2 ICA処理したイネからのICA代謝産物の単離と精製

ICA処理したイネのHPLC分析結果を指針とし、化合物1から3 の単離、精製を目指し た。イネの種子を水で1週間前培養し、後にICAの濃度を0.5 mMに調製した培養液に移 し、2週間培養した。培養後、地上部と根部に切り分け、各々のEtOH、アセトン抽出を行 なった。各々の地上部と根部の抽出液を濃縮し、抽出物の一部をHPLCの分析にかけたと ころ、地上部、根部から共に、ICAと1-3のピークが確認された。根部の抽出物を水と CH2Cl2で分液し、水層を濃縮した後に、各種クロマトグラフィーによって分画し、1から 3を得た (Figure 8)。

Figure 8. Purification procedure of ICA metabolites (1-3)

(48)

43 第3節 イネにおけるICA代謝産物の構造解析

ICA処理イネから単離した化合物について、各種機器分析による構造解析を行った。

2-2-3-1 化合物1の構造解析

1は淡黄色非晶質として単離され、ESI-TOF-MS (+) において m/z 244 に [M+H]+ の分 子イオンピークを示した(Figure 10)。さらにHRESIMSにおいてm/z 266.0724 [M+Na] + (calcd. for C9H13N3O5, 266.0753) の分子イオンピークが検出されたことから、分子量を 243、分子式をC9H13N3O5と決定した。IRスペクトルは 3342 cm-1に吸収ピークが観測され た。詳細な構造解析のため、1H NMR及び13C NMRで解析を行った。(Figure 11-16)。ICA 由来と考えられるピーク(δH 7.92, 7.93 ; δC 122.1, 137.5, 138.1, 167.2)の検出がみられたことか ら、1はICAの代謝産物であると考えられた (Figure 10)。さらにCOSYの相関(H-1’/H-2’;

H-2’/H-3’; H-3’/H-4’; H-4’/H-5’)(Figure 12)、HMBCの相関 (H-1’/ C-2’; H-2’/C-1’; H-3’/C-1’;

H-4’/C-3’; H-5’/ C-3’, C-4’) (Figure 13)から、ペントースの構造が示された。このペントース はICAとの相関 (H-1’/C-2, C-5)が示された。1のNMRスペクトルは、ICAの生合成にお ける予想類縁体として、すでに化学合成していたICAリボシドと同一のスペクトルを示し た (Figure 15, 16)。さらに比旋光度も一致していた(1, []D

25 = -39 (c 0.28, MeOH); 合成ICA リボシド, []D

26 -41, (c 0.28, MeOH))。これらの結果から1は絶対配置を含めてICAリボシ ドであると決定した(Figure 9)。1はこれまでに合成が報告されている25)。またヘルペスウ イルス(HV/1), ライノウイルス(RV/13), パラインフルエンザウイルス(PIV/3)に対する抗ウ イルス活性、ヌクレオチド生合成の抑制、アデノシンデアミナーゼの抑制が報告されてい

26, 27)。天然からの単離は初めてであった。

Figure 9. Structure of 1

(49)

44 Figure 10. ESI-TOF-MS (positive) spectrum of 1

(50)

45 Figure 11. 1H-NMR (a) and 13C-NMR (b) spectra for 1.

(51)

46 Figure 12. HMQC spectrum for 1.

H-1’ H-2’

H-3’

H-4’H-5’

H-5

C-5’

C-3’

C-2’

C-4’

C-1’

C-5

(52)

47 Figure 13. DQF-COSY spectrum for 1.

H-1’ H-2’

H-3’

H-4’ H-5’

H-1’

H-5’

H-4’

H-3’H-2’

O

OH OH N N NH2

O

COSY correlation HO

H-1’ H-2’

H-3’

H-4’ H-5’

H-1’

H-5’

H-4’

H-3’ H-2’

O

OH OH

N

N NH2

O

COSY correlation HO

2

5

2

6

2

1’

5’

(53)

48 Figure 14. HMBC spectrum for 1.

5

2

6

2

1’

5’

2

2

(54)

49

Figure 15. 1H NMR spectrum for 1 (a) and synthetic one (b).

(55)

50

Figure 16. 13C NMR spectrum for 1 (a) and synthetic one (b).

(56)

51 2-2-3-2 化合物2の構造決定

化合物2は淡黄色非晶質として単離され、ESI-TOF-MS (+) において m/z 383

[M+Na]+ の分子イオンピークを示した(Figure 18)。さらにHRESIMSにおいてm/z 383.1022 [M+Na] + (calcd. for C13H20N4NaO6S ,383.1001) の分子イオンピークが検出された。よって分 子量を360、分子式をC13H20N4O6Sと決定した。比旋光度はD

23 – 31(c 0.30, H2O)であ り、IRスペクトルは3342 cm-1に吸収ピークが観測された。詳細な構造解析のため、1H NMR及び13C NMRで解析を行った。(Figure 19-23)。ICA由来と考えられるピーク(δC

120.1, 136.8, 137.3, 163.9) が検出されたことから、2がICA代謝産物であることが示唆され た(Figure 19)。さらにリボース由来と考えられるピークも検出された(δC 33.9, 72.4, 74.7, 83.8, 89.5) (Figure 19)。よって、2はICAリボシド (1) の類縁体であると考えられた。2の

13C-NMRスペクトルからは、炭素由来のピークが1よりも4つ多く検出されたことから、

2はICAリボシドに別の化合物が結合した構造であると考えられた。HMBCスペクトルを 解析することによってさらに詳細な構造解析を進めた。HMBCの相関から、ペントースの 構造が示された。このペントースはICAとの相関が示された (H-1’/C-2’ ; H-2’/C-1’ ; H- 3’/C-4’ ; H-4’/C-1’ ;H-5’/C-3’, C-4’) (Figure 22)。このことから2はICAリボシドと同じく、

ICAの1位とリボースの1位が結合した構造であると判明した。さらに解析を進めたとこ ろ、HMBCの相関 (H-1”/C-5’, C-2”, C-3”; H-2”/C-1”, C-3”, C-4”; H-3”/C-1”, C-2”, C-4”) から ホモシステインの存在が示唆された (Figure 23)。またHMBCの相関 (H-5’/C-1”; H-1”/C- 5’) から、ホモシステインが、ペントースの5位のヒドロキシ基を硫黄原子に置き換えて 結合していることが示された。以上のことから、2をICAリボシドにホモシステインが結 合した構造であると決定した(Figure 17)。2は新規化合物であった。ホモシステイン部分の 立体配置は決定していない。2は新規化合物ではあったものの、アミノ酸誘導体であるS- アデノシルメチオニン(SAM)や、 S-アデノシル-L-ホモシステイン(SAH)に類似した構造を とっていた。SAMは一般的な性質としてメチル化に寄与し、メチル基を失うことでSAH に変換されることが知られている。2はSAHの構造と特に類似しており、2がメチル基を 持つことで活性メチオニンとしての形態をとり、SAMと同様の機能を持つ可能性が推測さ れる。また、ホモシステイン尿症の幼児の尿から、AICARにホモシステインが結合した化 合物の単離が報告されている28)。これらのことから、2 およびAICARのホモシステイン 体を通して、生体内での普遍的な代謝に寄与する可能性が考えられる。

Figure 17. Structure of 2

(57)

52 Figure 18. ESI-TOF-MS (positive) spectrum of 2

(58)

53 Figure 19. 1H-NMR (a) and 13C-NMR (b) spectra of 2.

H-1”

δ 2.63

H-2”

δ 1.99 δ 1.85 H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-3”

δ 3.32 H-3’

δ 3.98

H-2’

δ 4.25 H-1’

δ 5.60 H-5

δ 7.84 H-2

δ 7.90

C-1”

δ 28.1 C-2”

δ 31.4 C-5’

δ 33.9

C-3”

δ 53.0 C-3’

δ 72.4 C-2’

δ 74.7

C-4’

δ 83.8 C-1’

δ 89.5 C-5

δ 120.1 C-4

δ 136.8 C-2 δ 137.3 C-6

δ 163.9

C-4”

δ 170.0

a

b

H-4’

δ 4.00

(59)

54 Figure 20. HMQC spectrum for 2.

H-1’

C-1’

H-2’

C-2’

H-4’

H-5’

C-5’

H-1”

H-3” H-2”

C-3”

C-2”C-1”

C-5 H-2H-5

C-3’

H-3’

C-2 C-4’

(60)

55 Figure 21. DQF-COSY spectrum for 2.

H-1’

δ 5.60

H-2’

H-2’

δ 4.25

H-3’

H-1’

H-5’

H-4’

δ 4.00

H-4’

H-3’

δ 4.98

H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-1”

δ 2.63 H-2”

δ 1.99 δ 1.85 H-3”

δ 3.32

H-2”

H-1”

H-3”

O

OH OH N N NH2

O

S H2N

O OH

COSY correlation

H-1’

δ 5.60

H-2’

H-2’

δ 4.25

H-3’

H-1’

H-5’

H-4’

δ 4.00

H-4’

H-3’

δ 4.98

H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-1”

δ 2.63 H-2”

δ 1.99 δ 1.85 H-3”

δ 3.32

H-2”

H-1”

H-3”

O

OH OH

N

N NH2

O

S H2N

O OH

COSY correlation 5

2

6

2

1’

5’

2

2

1”

4”

(61)

56 Figure 22. HMBC spectrum for 2.

H-1’

δ 5.60

C-2 δ 137.3 C-5 δ 120.1 H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-3’

δ 3.98 H-2’

δ 4.25

C-2’ δ 74.7 C-1’ δ 89.5 C-4’ δ 83.8

C-3’ δ 72.4 H-4’

δ 4.00

O

OH OH N N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation H-1’

δ 5.60

C-2 δ 137.3 C-5 δ 120.1 H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-3’

δ 3.98 H-2’

δ 4.25

C-2’ δ 74.7 C-1’ δ 89.5 C-4’ δ 83.8

C-3’ δ 72.4 H-4’

δ 4.00

O

OH OH N N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation

H-1’

δ 5.60

C-2 δ 137.3 C-5 δ 120.1 H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-3’

δ 3.98 H-2’

δ 4.25

C-2’ δ 74.7

C-1’ δ 89.5 C-4’ δ 83.8

C-3’ δ 72.4 H-4’

δ 4.00

O

OH OH

N

N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation 5

2

6

2

1’

5’ 2

2

1”

4”

(62)

57

Figure 23. HMBC spectrum for 2.

H-3”

δ 3.32

H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-1”

δ 2.63

H-2”

δ 1.99 δ 1.85

C-4” δ 170.0 C-5’ δ 33.9C-2” δ 31.4

C-3” δ 53.0 C-1” δ 28.1

O

OH OH N N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation

H-3”

δ 3.32

H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-1”

δ 2.63

H-2”

δ 1.99 δ 1.85

C-4” δ 170.0 C-5’ δ 33.9C-2” δ 31.4

C-3” δ 53.0 C-1” δ 28.1

O

OH OH N N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation

H-3”

δ 3.32

H-5’

δ 2.86 δ 2.76 H-1”

δ 2.63

H-2”

δ 1.99 δ 1.85

C-4” δ 170.0

C-5’ δ 33.9 C-2” δ 31.4 C-3” δ 53.0

C-1” δ 28.1

O

OH OH

N

N NH2

O

S H2N

O OH

HMBC correlation 5

2

6

2

1’

5’ 2

2

1”

4”

(63)

58 2-2-3-3 化合物3の構造決定

化合物3は淡黄色非晶質として単離された。MPを測定したところ、125-138°Cを示し た。 ESI-TOF-MS (+) において m/z 406 に [M+H]+ の分子イオンピークを示した(Figure 25)。さらにHRESIMSにおいてm/z 428.1281 [M+Na] + (calcd. for C15H23N3NaO10 , 428.1281) の分子イオンピークが検出された。よって分子量を405、分子式をC15H23N3O10と決定し た。比旋光度は[]D

27 – 50(c 0.38, MeOH)であり、IRスペクトルは3345 cm-1に吸収ピーク が観測された。詳細な構造解析のため、1H NMR及び13C NMRで解析を行った (Figure 26-

30)。ICA由来と考えられるピークが検出されたことから、3がICA代謝産物であることが

示唆された。さらにリボース由来と考えられるシグナルが検出された(δC 61.7, 70.4, 83.6, 85.7, 89.5 122.4, 135.7, 139.0, 167.4) (Figure 26)。よって、3は2と同様にICAリボシド(1)の 類縁体であると考えられた。3と113C-NMRスペクトルを比較したところ、3はICAリ ボシドよりも6つ多くのピーク (δC 61.1, 69.5, 73.7, 76.1, 76.3, 103.9) が検出された。このこ とから、3 はICAリボシドにヘキソースが結合した構造であると推測された。HMBCスペ クトル解析により詳細な構造解析を進めたところ、HMBC相関(H-1’/C-2, C-5, C-2’; H-2’/C- 1’, C-3’, C-4’; H-3’/C-1’, C-5’; H-4’/C-3’) により、ペントースの構造が示された (Figure

29)。このペントースはHMBC相関(H-1’/C-2, C-5)から、ICAの1位に結合しており、ICA

リボシドと同じ構造を形成していることが示された。さらにHMBCの相関(H-1”/C-2”, C- 3”, C-5” ; H-2”/C-3” ; H-3”/C-2”, C-4” ; H-4”/C-3”,C-6” ; H-6”/C-4”, C-5”)から、ヘキソースの 構造が示された(Figure 30)。さらに化学シフトと結合定数の値、δH 3.13 (H-5”, m), 3.23 (H- 2”, dd, J= 7.9, 9.2 Hz), 3.30 (H-4”, dd, J= 9.2, 9.4 Hz), 3.32 (H-3”, dd, J= 9.2, 9.2 Hz), 3.41 (H- 6”a, dd, J= 12.0, 2.3 Hz), 3.53 (H-6”b, dd, J= 12.2, 4.5 Hz), 4.41 (H-1”, d, J= 7.9 Hz) から、ヘキ ソース部分がグルコースであると決定した。さらにHMBC相関(H-1”/C-2’)、及びδH

4.41(1H, d, J = 7.9 Hz, H-1”)結合定数によって、リボースの2位へのβ結合を決定した。ま た、3をX線結晶構造解析に供し(Figure 31)、構造を確定した(Figure 24)。3は新規化合物 であった。

Figure 24. Structure of 3

(64)

59 Figure 25. ESI-TOF-MS (positive) spectrum of 3

(65)

60 Figure 26. 1H-NMR (a) and 13C-NMR (b) spectra of 3.

7

11 peaks other then ICA

C-5 δ 122.4 C-4

δ 135.7 C-6

δ 167.4

C-1”

δ 103.9

C-1’

δ 89.5 C-4’

δ 85.7 C-2’

δ 83.6 C-5”

δ 76.3 C-2”

δ 73.7 C-3’

δ 70.4

C-6”

δ 61.1

C-2 δ 139.0 H-2

H-5 δ 7.89

H-1’

δ 5.89

H-2’

δ 4.54 H-1”

δ 4.41 H-3’

δ 4.37

H-4’

δ 4.10 H-5’

δ 3.75 δ 3.68 H-6”

δ 3.53 δ 3.41 H-3”

δ 3.32

H-2”

δ 3.23

H-5”

δ 3.13

C-4”

δ 69.5 C-5’

δ 61.7

a

b

H-4”

δ 3.30

C-3”

δ 76.1

(66)

61 Figure 27. HMQC spectrum for 3.

H-2 H-5

C-2 C-5

C-1’

H-1’

C-4’

H-4’

H-2’

C-2’

H-5’

C-5’

H-3’

H-1”

C-1”

C-2”

H-2”

C-3’

H-5”

C-4”

H-4”

H-6”

H-3”

C-5”

C-6”

C-3”

(67)

62 Figure 28. DQF-COSY spectrum for 3.

H-1’

H-2’

H-1’

H-2’H-1”

H-2”

H-3’ H-4’

H-4’

H-5’

H-5’ H-6”

H-3” H-2”

H-5”

H-6”

H-5”

H-3” H-4”

H-3’H-1”

H-4”

O

OH O N

O

HO HOOH

OH HO

N NH2 O

COSY correlation

H-1’

H-2’

H-1’

H-2’H-1”

H-2”

H-3’ H-4’

H-4’

H-5’

H-5’ H-6”

H-3” H-2”

H-5”

H-6”

H-5”

H-3” H-4”

H-3’H-1”

H-4”

O

OH O

N

O

HO HOOH

OH HO

N NH2

O

COSY correlation 5

2

6

2

1’

5’

2

2

1”

6”

(68)

63

Figure 29. HMBC spectrum for a structure of ICA-riboside in 3.

H-1’

δ 5.89

C-5 δ 122.4

C-2 δ 139.0 H-2’

δ 4.54 H-3’

δ 4.37 H-4’

δ 4.10

C-4’ δ 85.7 C-1’ δ 89.5

C-5’ δ 61.7 C-4” δ 69.5 C-3’ δ 70.4

C-2” δ 73.7

O

OH O N

O

HO HOOH

OH HO

N NH2 O

HMBC correlation

H-1’

δ 5.89

C-5 δ 122.4

C-2 δ 139.0 H-2’

δ 4.54 H-3 ’

δ 4.37 H-4’

δ 4.10

C-4’ δ 85.7 C-1’ δ 89.5

C-5’ δ 61.7 C-4” δ 69.5 C-3’ δ 70.4

C-2” δ 73.7

O

OH O N

O

HO HOOH

OH HO

N NH2

O

HMBC correlation 5

2

6

2

1’

5’

2

2

1”

6”

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