九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
反応度関数を導入した Payne モデルの数値シミュ レーションと非線形飽和
友枝, 明保
東京大学大学院工学系研究科
社本, 大輔
東京大学大学院工学系研究科
大塚, 一路
東京大学大学院工学系研究科
西成, 活裕
東京大学工学研究科、科学技術振興機構さきがけ
https://doi.org/10.15017/14281
出版情報:応用力学研究所研究集会報告. 20ME-S7 (9), 2009-02. 九州大学応用力学研究所 バージョン:
権利関係:
応用力学研究所研究集会報告No.20ME-S7
「非線形波動の数理と物理」(研究代表者 矢嶋 徹)
共催 九州大学グローバルCOEプログラム
「マス・フォア・インダストリ教育研究拠点」
Reports of RIAM Symposium No.20ME-S7 Mathematics and Physics in Nonlinear Waves
Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy, Kasuga, Fukuoka, Japan, November 6 - 8, 2008
Co-organized by
Kyushu University Global COE Program
Education and Research Hub for Mathematics - for - Industry
Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University
February, 2009 Article No. 9 (pp. 54-59)
反応度関数を導入した Payne モデル の数値シミュレーションと非線形飽和
友枝 明保 (TOMOEDA Akiyasu), 社本 大輔 (SHAMOTO Daisuke), 大塚 一路 (OHTSUKA Kazumichi), 西成 活裕
(NISHINARI Katsuhiro)
(Received February 3, 2009)
反応度関数を導入したPayneモデルの数値シミュレーションと非線形飽和
東京大学大学院工学系研究科 友枝 明保 (TOMOEDA Akiyasu) 東京大学大学院工学系研究科 社本 大輔 (SHAMOTO Daisuke) 東京大学大学院工学系研究科 大塚 一路 (OHTSUKA Kazumichi) 東京大学大学院工学系研究科
(独)科学技術振興機構さきがけ 西成 活裕 (NISHINARI Katsuhiro)
概 要 一次元高速交通流を記述するモデルは数多く提案されている.中でも圧縮性流体を用い た交通流モデルには交通流の本質である一様流不安定性を再現しているモデルも多く存在する.とこ ろが,渋滞の伝播の様子を再現した流体モデルにはすべて拡散項が導入されている.拡散項は物理的 に等方性を示すが,車粒子の挙動は非等方性であり,拡散項を導入したモデルによる擾乱の安定化は 現実的なモデルではない.そこで本研究では,実際の高速道路の追従実験データに基づいて,ドライ バーの反応遅れ時間と呼ばれるパラメーターを関数化し,拡散項を持たない新しい交通流モデルを提 案する.理論解析と数値計算から,この新しいモデルは一様流不安定性を持つこと,さらに,従来の モデルでは発散していた擾乱が安定化することを示せたので報告する.
1 Introduction
現代社会では,「渋滞」と呼ばれる現象がいたるところで見られる.特に車の渋滞現象は輸送効 率の低下・エネルギー浪費・環境悪化など,様々な形で我々の生活・産業に損失を与え,その経済 損失は日本だけでも年間12兆円にものぼると言われており,車の渋滞現象のメカニズムを解明し ようと今日に至るまで様々な交通流モデルが提案されている[1, 2].特に,車個々の粒子を一次元 連続体として捉え,車の流れのマクロ量である系の平均密度や平均速度に焦点を当てた流体モデ ルは,流体力学の社会的応用モデルの一つとして1950年代から盛んに研究されている.
数多くある流体モデルの中でもPayneモデル[3]は一次元高速交通流の本質である一様流不安 定性[4]を再現したモデルとして有名である.Payneモデルは“Dynamical Wave”の理論に基づき,
車の台数の保存則(連続の式)と車粒子の運動方程式による連立微分方程式系で次のように記述さ れる.
∂ρ
∂t +∂(ρv)
∂x =0 (1.1)
∂v
∂t +v∂v
∂x =1 τ h
Vopt(ρ)−v i
+ 1 2τρ
dVopt(ρ) dρ ∂ρ
∂x (1.2)
ここで,ρ(x,t),v(x,t)はそれぞれ場所x,時刻tにおける粒子の密度と速度を表しており,τはドライ バーの反応遅れ時間を表す定数である.また, Vopt(ρ)は最適速度関数と呼ばれるものであり,Payne モデルの文献[3]ではGreenshieldの観測結果[5]
Vopt=V0
³ 1− ρ
ρmax
´
(1.3) を用いている.V0は自由走行時の速度を表しており,ρmaxは完全に車が止まってしまうときの密 度を表す.Payneモデルは一様流不安定性を示すという点では良いモデルであるが,不安定解を数 値計算すると微小擾乱が安定化せず発散してしまう(図5,左).これは密度凝縮のメカニズムによ
1
るものである.すなわち,密度が大きくなるにつれ,(1.2)の右辺第二項は無視できるぐらい小さく なる.さらに最適速度関数は密度に対して減少関数なので(1.2)の右辺第一項より,車の速度は密 度が大きくなるにつれ,速度が下がり密度はさらに大きくなってしまう.その結果,どんどん密度 が大きくなってしまうのである.しかし実際の車の流れでは,微小擾乱は安定な衝撃波として伝播 するため,Payneモデルそのものでは交通流を記述するモデルとしては不十分である.そこで粒子 の凝縮を避けるため,Payneモデルに拡散項を導入することで安定化に成功したKerner-Konh¨auser モデル[6]も提案されているが,このモデルも不十分であると言わざるをえない.拡散項は等方性 を示すものであり,非等方性を持つ車の挙動のダイナミクスに拡散項を導入すると,ある車の擾 乱の影響が前後両方に伝播してしまうため,現実的な交通流モデルとは言えないのである1
そこで本研究では,拡散項を入れることなく擾乱が安定化しうるモデルの構築を目指し,その アイデアとしてPayneモデルのドライバーの反応遅れ時間を表す定数τに注目する.本稿では,ま ず実験データに基づいてドライバーの反応遅れ時間τを定数から関数へと拡張し,新しいモデル として提案する.さらに,このモデルの詳細な理論解析と数値計算を行い,微小擾乱がどのよう に伝播するのかを解析したので報告する.
2 New Compressible Fluid Model
我々は実際の高速道路の追従走行実験により,図1のようなそれぞれの車の速度に関する時系 列データを得た.
0 5 10 15 20 25 30
400 500 600 700 800 900 1000 1100
Velocity[m/sec]
Time[sec]
Car1
0 5 10 15 20 25 30
400 500 600 700 800 900 1000 1100
Velocity[m/sec]
Time[sec]
Car2
図1: Time-series data on the velocity of each car. Car1 is leading vehicle and Car2 is following vehicle.
これらの時系列データの速度分布によって自由走行時と混雑時の二つのフェーズに分類し,各 フェーズにおいて反応時間の相関を調べる.i番目(i∈ {1,2})の車の時刻tでの速度をvi(t)とお き,反応時間に関する相関係数r(τ)を次のように定義する.
r(τ) =hvi(t)vi+1(t+τ)it (2.1)
= ∑k
³
vi(t(k))−vi
´³
vi+1(t(k)+τ)−vi+1
´ r
∑k
³
vi(t(k))−vi
´2r
∑k
³
vi+1(t(k)+τ)−vi+1
´2, (2.2)
ここで,平均記号h∗i, ¯∗はそれぞれアンサンブル平均と時間平均を表すものである.(2.2)に従っ て各τに対する相関係数を導出し,プロットたものが図2であり,縦軸,横軸はそれぞれ速度の相
1交通流の物理現象を考えると,ある車の速度擾乱の影響は前方の車には伝播せず,後方のみに伝播する“非等方的” な伝播である.
Jam
Free flow
図2: Correlation coefficient are plotted for given each reaciton timeτ.
関係数とドライバーの反応時間を示している.この図から自由走行時と渋滞時では明らかにドラ イバーの反応時間τが異なっており,自由走行時よりも渋滞時の方が反応時間が速くなっている ことがわかる.これは,自由走行時のスムーズに走っているときよりも,渋滞時の流れの方が追 突する危険性が高くなるため,ドライバーが前の車の挙動に対してより敏感に反応していること を示している.
ここで自然な仮定として反応時間は車の密度に依存しているとすることで,Payneモデルの運動
方程式(1.2)におけるτを関数化し,次のような運動方程式に改良する.
∂v
∂t +v∂v
∂x = 1 τ(ρ)
h
Vopt(ρ)−v i
+ 1
2τ(ρ)ρ
dVopt(ρ)
dρ ∂ρ
∂x (2.3)
この運動方程式(2.3)と質量保存則である(1.1)を連立系で記述することで,交通流を記述する新 しい圧縮性流体モデルとして提案する.
3 Linear Stability Analysis
ドライバーの反応時間を関数化した新しいモデルに対する線形安定性解析を行う.一様流解に 微小擾乱を加え,
ρ =ρ0+ερ1
v =Vopt(ρ0) +εv1 (3.1)
とおき,さらに,フーリエ成分を
ρ1,v1∼exp h
i(kx+ωt)i
(3.2) と定義すると,分散関係式は
ω=−kVopt+ i 2τ(ρ0)
n 1±
q
1+4a20τ(ρ0)2(2kρ0i−k2) o
(3.3) となる.ただし,
a20=− 1 2τ(ρ0)
dVopt(ρ)
dρ |ρ=ρ0 (3.4)
3
である.分散関係式におけるプラス符号は擾乱が前方に伝わることを意味しているが,(3.2)から プラス符号は減衰する波であることがわかる.つまり,微小擾乱の伝播方向は本質的に後方のみ であり,車の物理現象と一致していることがわかる.さらに,分散関係式より安定性条件は以下 のように求められ,新しいモデルも一様流不安定性を示すことがわかる.
1
2τ(ρ0)+ρ02dVopt(ρ)
dρ |ρ=ρ0 >0 (3.5)
4 Higher Order Approximation
ここでは微小擾乱が従う方程式系を導出することで,線形安定性解析よりも詳細な非線形効果 まで考慮した解析を行う.長波摂動(k∼0)に対して,以下のような空間xと時間tに関する変数 変換を導入する.
X =ε(x−cgt) (X∼ε), (4.1)
T =ε2t (T∼ε2), (4.2)
さらに,摂動展開
ρ∼ρ0+ερ1+ε2ρ2+ε3ρ3+· · · (4.3) v∼v0+εv1+ε2v2+ε3v3+· · · (4.4) を反応度関数を導入した新しいモデルに適用し,(1.1)と(2.3)のそれぞれについてεの各べきに対 して整理する.
すると一次の摂動量φ1が支配する方程式として次のようなBurgers方程式が得られる.
∂φ1
∂T =
³2(v0−cg) ρ0
−Vopt00 ρ0
´φ1∂φ1
∂X +
³v0−cg
2ρ0
−τ(ρ0)(v0−cg)2
´∂2φ1
∂X2 (4.5)
さらに二次の摂動量φ2を考慮した摂動量Φ=φ1+εφ2が支配する方程式として,以下のような Higher Burgers方程式が得られた.
∂Φ
∂T =
³2(v0−cg) ρ0
−Vopt00 ρ0
´Φ∂Φ
∂X +
³v0−cg
2ρ0
−τ(ρ0)(v0−cg)2
´∂2Φ
∂X2 +εn
−
³3
2Vopt00 +1 2Vopt000ρ0
´Φ2∂Φ
∂X
−
³2(v0−cg)2τ(ρ0) ρ0
−2τ(ρ0)ρ0(v0−cg)Vopt00 +1
2Vopt00 + (v0−cg)2τ0(ρ0)
´ ∂
∂X
³Φ∂Φ
∂X
´
−
³τ(ρ0)(v0−cg)2 ρ0
−2(v0−cg)3τ(ρ0)2
´ ∂3
∂X3Φo
(4.6)
ここで,(4.5)は線形の範囲なのでもとのPayneモデルと同じだが,(4.6)は非線形効果も考慮
しており,右辺第四項に(v0−cg)2τ0(ρ0)という新しい項が出てくることがわかった.このHigher
Burgers方程式(4.6)の安定性は拡散項の係数の正負によって決まる.つまり,右辺の第二項と第四
項のあわせた係数を考えたとき,従来のPayneモデルでは,右辺の第二項が負(線形不安定条件) のとき,第四項の係数も常に負であったが,τ0(ρ0)という項の影響で反応時間の変化の度合いが十 分大きいとき,新しいモデルでは正になりうる.つまり,従来のモデルでは線形不安定な場合,非 線形効果を考慮しても拡散項の係数は常に負であり発散していたが,新しいモデルの線形不安定 な場合では,非線形効果を考慮すると拡散項の係数が正になり安定化する可能性があるのである.
5 Numerical Calculations
微小擾乱が伝播する様子を見るために,周期境界条件の下で,擬スペクトル法(空間x∈[−50,50]),
Jameson-Baker法(時間t∈[0,120])を用いて数値計算を行った.さらに初期条件として,次のよう
な一様流ρ0,v0に対して微小擾乱をガウス関数で与える.
ρ(x,0) =ρ0+εexp(−x2) (5.1)
v(x,0) =v0+εexp(−x2) (5.2)
さらに,ドライバーの反応遅れ時間を表す関数をa,b,c,dをパラメーターとして次のような関数 で与える2.
τ(ρ) =a+b tanh(c(ρ+d)) (5.3)
本稿では一様流,擾乱の大きさをρ0=0.68,v0=0.32,ε=0.1 (図3)とし,各パラメーターをa= 1,b=−1,c=10,d=−ρ0(図4)と設定している.
t=0
-60 -40 -20 0 20 40 60 0.65
0.70 0.75 0.80 0.85
SpaceHxL
DensityHΡL
図3: Initial density profile (5.1) for the parametersρ0=0.68,ε=0.1.
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
DensityHΡL
ReactionTimeHΤL
図4: The function (5.3) for the parameters a=1,b=−1,c=10,d=−ρ0.
図5を見てもわかるように十分時間が経った後では,従来のPayneモデルでは密度の凝縮現象 によって数値計算が発散していたが,新しいモデルでは,非線形項の影響で発散していないこと がわかる.つまり,τを関数化することで非線形抑制が生じたと言える.
2反応時間は常に正値であることと,ドライバーの反応時間はある密度で急峻に変わるものとして,ここではtanh型 関数を採用する.
5
t=70
-60 -40 -20 0 20 40 60 0.65
0.70 0.75 0.80 0.85
SpaceHxL
DensityHΡL
t=70
-60 -40 -20 0 20 40 60 0.65
0.70 0.75 0.80 0.85
SpaceHxL
DensityHΡL
図5: The density profile at t=70. Left figure corresponds to the Payne model withτ=1.0, and right figure corresponds to the our new model.
6 Conclusion
本稿では,交通流の本質である一様流不安定性を持ったPayneモデルにおけるドライバーの反 応遅れ時間τを実験データに基づいて関数化することで,従来のPayneモデルを拡張した新しい モデルを提案した.この反応度関数を導入した新しい交通流モデルの線形安定性解析から,一様 流不安定性を持つことが示され,現実の交通流の物理現象を再現していることがわかった.さら に,微小擾乱がどのように伝播するのかを理論的に解析するために,逓減摂動法を用いて微小擾 乱が支配される方程式を導出した.この解析により,長波近似において一次の微小擾乱はBurgers 方程式によって記述され,二次の微小擾乱はHigher Burgers方程式によって記述されることがわ かり,これらの理論解析によって擾乱が安定化しうることを理論的に示した.さらに,数値計算 によって微小擾乱が安定化することも確認した.
現在は非線形効果を導入することによって発散を抑制し安定化したが,最終的には減衰してし まう.そこで,非線形効果によって擾乱を飽和させ,安定化するようにτの関数形を改良してい くことが今後の課題である.
参考文献
[1] D. Chowdhury, L. Santen and A. Schadschneider :
“Statistical physics of vehicular traffic and some related systems”, Phys. Rep. 329 (2000), 199.
[2] D. Helbing :
“Traffic and related self-driven many-particle systems”, Rev. Mod. Phys. 73 (2001), 1067.
[3] H. J. Payne :
in Mathematical Models of Public Systems, edited by G. A. Bekey (1971), 51.
[4] 杉山 雄規:
“交通流の物理”,ながれ22 (2003), 95.
[5] B. D. Greenshields :
in Proceedings of the Highway Research Board, Washington, D. C., 14 (1935), 448.
[6] B. S. Kerner and P. Konhauser :
“Cluster effect in initially homogeneous traffic flow”, Phys. Rev. E 48 (1993), R2355.