諸外国における科学技術リテラシーの研究の分析
著者 長崎 栄三
発行年 2007‑03‑31
出版者 国立教育政策研究所
URL http://hdl.handle.net/10297/6307
r
「科学技術リテラシー構築のための調査研究 j
サブテーマ 1
科学技術リテラシーに関する 基礎文献・先行研究に関する調査
報告書
E
諸外国における科学技術リテラシーの研究の分析
は し が き
)‑L1lj/)
私たちは,平成
1 7
年度に,科学技術振興調整費(平成1 7
年度我が国の科学技術政 策の展開に関する調査)による調査研究『科学技術リテラシー構築のための調査研究』(研究代表者:北原和夫国際基督教大学教授)を行ってまいりました。この報告書は,
その調査研究のサブテーマ
H
科学技術リテラシーに関する基礎文献・先行研究に関す る調査」の研究成果をまとめたものです。『科学技術リテラシー構築のための調査研究』は,平成
1 7
年度の単年度の研究で,我が国が科学技術リテラシー像の策定を進める際の課題整理と基盤整備を行うことを 目的としたものでした。この調査研究によって,我が国が科学技術リテラシー像を策 定することについて合意形成がなされ,その後,我が国の国家的プロジェクトとして,
我が国の「科学技術リテラシー像
J
が策定されることを目指しています。本調査研究においては,我が国が科学技術リテラシー像の策定を進める際の課題整 理と基盤整備を行うために,
3
つのサブテーマが設けられています。サブテーマ
1
:科学技術リテラシ}に関する基礎文献・先行研究に関する調査 サブテーマ2
:科学者コミュニティや産業界等の国民の科学技術リテラシーに関する意見集約・類型化調査
サブテーマ
3
:科学技術リテラシー像の策定に関する検討課題に関する分析この調査研究は,科学技術に関わる研究者と教育に関わる研究者との共同研究であり,
研究への参加者は,総勢で
50
名を越えたものとなっております。さらに,研究メンバ ー以外の多くの方々のご協力を得て行われております。お忙しい中,本研究にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます。
平成
1 8
年3
月研 究 代 表 者 長 崎 栄 三 国立教育政策研究所
本報告書は,平成
1 8
年3
月に発行されたF
科学技術リテラシー構築のための調査研 究J
サブテーマ1
科学技術リテラシーに関する基礎文献・先行研究に関する調査報 告書』を,その内容から3
分冊(I,n
,m )
に分けて再版したものである。ただし,再版に捺して,数値等の誤りは修正した。
平成
1 9
年3
月科 学 技 術 リ テ ラ シ ー 構 築 の た め の 調 査 研 究 サブ、テーマ
1
科 学 技 術 リ テ ラ シ ー に 関 す る 基 礎 文 献 ・ 先 行 研 究 に 関 す る 調 査 研 究 結 果 の 概 要
1.我が国における科学技術リテラシー研究の分析
我が国における科学技術りテラシーに関係する基礎文献や先行研究を整理・分析し,それらを改 めて科学技術リテラシーとして捉え直し,我が国の科学技術リテラシー論についての体系化を図り,
我が国の科学技術リテラシーを策定する上での学問的基盤を作ることが目的である。そこで,我が 国で発行されている科学技術,理科教育・科学教育,算数・数学教育,技術教育,博物館教育など にかかわる
41
誌の学会誌・専門雑誌の1 9 7 0
年以降の論文等を分析対象とした。調査対象とした
1 9 7 0
年以降では,科学技術リテラシーを主題とした論文等は. 1 9 7 0
年以降では,1 9 7 5
年から見出され,全体では8 3 6
点あった。科学技術リテラシーの論文等の数は,学会誌・専 門雑誌の分野別に見ると,科学雑誌6 0
点,理科教育3 0 7
点,数学教育1 6 8
点,技術教育1 4 8
点, 博物館教育6
点,教育学1 4 7
点である。研究の盛んな時期は
3
回あり.1 9 8 0
年代末は技術教育でコンピュータ・リテラシーが論じられ,1 9 9 0
年代後半には理科教育で科学的日テラシーが論じられ. 2 0 0 1
年以降は教育学を中心にOECD
の生徒の学習到達度調査( P I S A )
のリテラシーが論じられている。これらの科学技術リテラシーは,その用語から次のように分類できる。
1)
r
科学技術J:科学技術リテラシー,科学・技術リテラシー,サイエンティフィック・テク ノロジカル・リテラシー2)
r
科学J:科学リテラシー,サイエンスリテラシー,サイエンス・リテラシー,自然科学リ テラシー,グローパル・サイエンス.!)テラシー3)
r
科学的J:科学的リテラシー,科学的リテラシイ,市民科学リテラシー,サイエンティフ イツクリテラシー4) rSTSJ : STSリテラシー
5)
r
環境J:環境リテラシー,環境科学日テラシ‑6)
r
地学J:地学リテラシー,アースリテラシー7 ) r
数学J:数学的日テラシー,ニューメラシー,マテラシー.Mathemacy
8)r
統計J:統計的リテラシー9)
r
技術J:技術リテラシー,テクノロジーリテラシー1 0 ) r
コンピュータJ:コンピュータリテラシー,コンピュータ.!)テラシー 11)r
情報J情報リテラシー,インフォメーシヨン・リテラシー1 2 ) r
メディアJ:メディアリテラシ.メディア・リテラシー,マルチメディアリテラシー1 3 ) r
ミュージアムJ:ミュージアム・リテラシー1 4 )
一般的.リテラシー1 5 )
その他これらのうち,理科教育におけるリテラシー論は,リテラシーの定義について内包的,外延的の 両面からの研究がなされている。しかしながら,その多くは外国の影響を受けたものである。リテ ラシーの育成に関しては,研究者集団として,教育課程や育成に適した内容や評価に関する議論が なされたこともあった。しかしながら,学会組織として理科教育におけるリテラシーの教育に関す
る全体的な構想を論じるようなことはなかった。
数学教育におけるリテラシー論については,リテラシーの定義を内包的に述べた上での研究は多 いが,リテラシーの構造や外延についての議論はほとんどなされてはいない。その上で,リテラシ ーの育成に関して,教育課程,育成に適した内容,評価に関する議論がなされている。また,日本 数学教育学会や日本数学会などが学会車民議左して数学的リテラシーに触れたことはあったが,その 構造や教育に関する全体的な構想、までには至らなかった。
技術教育におけるリテラシー論については, 2005年に日本工学アカデミーが発表した,
w
技術リ テラシーと市民教育』は,我が国で初めて組織的に科学技術リテラシーに取り組んだ研究として特 筆すべきものとなっている。全体的に見ると,我が国の科学技術リテラシー研究の特徴として,個人研究が主体であること,
外国の動向が研究の契機であること,定義が多様であること,教育内容論に傾斜しがちであること が挙げられる。
なお,上記の我が国における科学技術リテラシーの定義の一覧,及び,我が国における科学技術 日テラシー研究の文献一覧を章末に一括して掲載してある。
:0:.諸外国における科学技術リテラシーの研究の分析
アメリカ,カナダ,イギリス,中国などの諸外国の科学技術リテラシーの状況,
OECD
やユネス コにおける科学技術リテラシーの状況をまとめた。それらを理科教育・科学教育,算数・数学教育,技術教育にまとめた。
【理科教育・科学教育】
アメリカでは,科学的リテラシー論が,様々な教育的・社会的な状況変化に伴って,意味内容が 知識理解レベルから情意的・行動的レベルへと深化・拡張されてきている。 1958年に,科学教育の 目標を示す言葉として初めてハードによって使用された「科学的リテラシーJという用語は,科学 者・技術者養成のための専門教育として捉える立場へのアンチテーゼとして登場した。その後,議 論の過程で様々な批判的な立場も提起され,さらには科学的リテラシー論の背後に潜むイデオロギ }性も明らかになってきている。
また,アメリカでは,科学教育のあり方について,設もがより良い市民となるための準備として 提言され,内容面では,自然科学領域の枠組みを踏襲しながらも,社会との関連や科学史,探究と
しての科学などの視点にも配慮したカリキュラムが提案されるように変化している。このような変 遷は,科学的リテラシーを特徴づける側面とも重なっており,科学教育の目的と科学的リテラシー
とは表裏の関係にある。
カナダでは, 1997年に科学教育の全国的な目標実現のために「幼稚園から第四学年までの科学 の学習成果に関する共通フレームワークJが策定された。これは,すべての生徒が科学的リテラシ ーを発達させる機会を持つようにするというビジョンに基づいて開発され,科学的リテラシーを,
「科学とテクノロジーと社会と環境J
r
スキルJr
知識Jr
態度Jの4つの「基礎カ」から捉えている。イギリスでは, 20世紀初頭には「すべての生徒のための科学Jがすでに明確に学校教育を対象に スローガンとして掲げられ, 1985年には『科学の公衆理解』が学校教育を含む生涯教育の文脈で論 じられている。そして,これ以降,主として学校教育の文脈において「科学的リテラシー」につい て議論されるようになった。
中国では,
r
科教興国jという国家戦略の下, 2049年には全国民が科学的素養を備えることを目 指して,着実な措置をとっている。そして,国民の科学的素養を高めるには,学校教育において青 少年の科学的素養を育成することが重要であると認識されている。青少年の科学的素養の指標には,おおむね知識領域,能力領域,情意領域という
8
つの要素が含まれている。UNESCO
では.r
科学的リテラシーjの言葉は fプロジェクト20 ∞
+Jの中で急速に用いられ始 めた。1 9 9 4
年には「科学技術リテラシー,意味と論理的な根拠Jが作成され,科学的リテラシーの 論理的な根拠が示された。その一方で.OECDaISA
においては,明確な f科学的日テラシーJの 定義が行われ.r
科学的な知識又は概念J.r
科学の方法J.r
状況又は文脈Jという 3つの領域が示さ れた。I
算数・数学教育]アメリカでは
.1980
年以降の傾向を見ると,数学的リテラシーを「目的としてJ捉える立場と「方 法として」捉える立場があり,それらは,数学を目的として見て数学的なカの獲得を白指す立場と,数学を道具として見て科学技術における言語の役割を重視する立場とにそれぞれ対応している。前 者は,全米数学教師協会 (NCTM)などの立場であり,後者はスティーンの立場である。
イギリスでの数学的日テラシーに相当する概念や言葉は「ニューメラシーJであり,クラウザ一 報告
( 1 9 5 9 )
で定義された。それ以降今日まで,ニューメラシーのとらえ方は多様である。コッククロフト報告
( 1 9 8 2 )
では,数学学習の意義としてコミュニケーションが挙げられている。国家カ リキュラム( 1 9 9 9 )
全体を通じてスキルの育成を目指している。OECD‑PISA
の数学的リテラシー,ユネスコの「すべての人々のための教育Jの数学的日テラシ ー,統計教育国際連合の統計的リテラシーは,それぞれのねらいによって規定の重点が異なるもの の,数学的な知識・技能が使えるかどうかという「裁字カJの意味を超えて,個人が数学的な知識・技能を活用して自分のおかれた状況を批判的・反省的にとらえるカを含むという意味を共有してい る。
エパ・ヤブロンカは,数学的リテラシーに関わる様々な文献をレビューし,数学的リテラシーの 多様な捉え方・考え方を,人的資本の開発のための数学的リテラシー,文化的アイデンティテイの ための数学的日テラシー,社会変化のための数学的リテラシー,環境についての意識のための数学 的リテラシー,数学を評価するための数学的リテラシー,の
5
つにまとめている。【技術教育]
アメリカの数学・理科・技術科の統合学習(IMaST)では,技術科の学習が,科学的思考方法や 数量的思考方法を使って様々な問題解決を行う。
IM
aST
の学級におけるその問題解決過程の活動は,明確化する,検討する,計画する,実行する,意見交換する,の相互作用からなる。
m ̲
裁が国における児童生徒・成人の科学技術リテラシーの現状我が国における児童生徒等の科学技術リテラシーの現状を見るために,理科,算数・数学につい て,平成
1 5
年度教育課程実施状況調査,国際数学・理科教育動向調査2 0 0 3
年調査の結果を再分析した。さらに,技術については,技術の学力に関する国際共同調査の結果をまとめた。
[理科教育・科学教育]
平成
1 5
年度教育課程実施状況調査(理科)における小学5
年,小学6
年,中学1
年,中学2
年, 中学3
年の児童生徒の通過率に基づき,主に通過率が80%
以上の問題について分析を行った。その 結果,通過率80%
以上の問題が該当する内容,観点で小学校と中学校には大きな違いが見られた。例えば,小学校段階では通過率
80%
以上の問題が半数近くを占める「生物とその環境Jや「地球と 字宙Jの内容に関わる中学校の第2
分野において通過率80%
以上の問題が占める割合は15%
程度 であった。国際数学・理科教育動向調査
2 0 0 3
年調査(理科)における小学4
年と中学2
年の児童生徒の正 答率に基づき,主に正答率が80%
以上の問題について分析を行った。正答率80%
以上の課題を検 吉守したところ,平均正答率の高い内容の多くは学校の授業で取り組んだ学習や活動に結びっくもの が多いことが示唆された。【算数・数学教育】
平成
1 5
年度教育課程実施状況調査(算数・数学)における小学5
年,小学6
年,中学1
年,中 学2
年,中学3
年の児童生徒の通過率に基づき,主に通過率が80%
以上の問題について分析を行っ た。通過率が80%
以上の問題は,領域別では『数と計算J (または「数と式J)と「図形Jの領域 に多いことが特徴で,例えば計算の意味や関係の理解に関わるものもあり,単に計算ができている だけではない。逆に,r
数量関係」領域には少ない。観点別では「表現・処理Jr
知識・理解jの 観点に多い。国際数学・理科教育動向調査
2 0 0 3
年調査(算数・数学)における小学4
年と中学2
年の児童生 徒の正答率に基づき,主に正答率が80%
以上の筒題について分析を行った。正答率が80%
以上の 問題は,内容領域別ではどちらの学年でも「資料・確率J
の領域に多く,また,中学校2年では「幾 {百』の領域にも多いa認知的領域別では,どちらの学年でも「用いるjの領域に多い。出題形式別 では,どちらの学年でも「記述J
よりも『選択肢J
の形式に多い。【技術教育】
日米韓
3
か国の子どもの技術的教養を評価するテストを使い,2 0 0 5
年に日;本の中学2
年,高校2
年及び技術系教員養成課程在籍の大学 1・2年の生徒・学生を調査した。その結果,中学校技術科として実施されている普通教育としての技術教育は,技術的教養の伸張およびジェンダー格差の解 消に貢献していること,子どもの技術的教養は今日の日常生活では培われず,学校での意図的教育 によってのみ養うことができること,技術的教養をめぐる課題は,普通高校生への技術教育の提供
左中学校技術科の教育内容の抜本的拡充にあること,が示唆された。
I V .
Wすべてのアメリカ人のための科学』の分析アメリカの全米科学振興協会 (AAAS)のプロジェクト
2 0 6 1
は,1 9 8 9
年にアメリカ人のための 科学的日テラシーに関する報告書として『すべてのアメリカ人のための科学』を公表した。すべて アメリカ人が身につける目標としての科学的リテラシーを詳述すると共に、それを達成するための 教育課程についても触れたものであった。これは1 9 5 0
年代から80
年代にかけてのアメリカ(理科) 教育改革の流れの中で開発されるに至ったものであった。8 0
年代の改革のねらいが,主に fあらゆ る市民のための科学的リテラシー育成Jにあり,プロジェクト2 0 6 1
は,その先導的な役割を果た してきた。プロジェクト
2 0 6 1
によって作成された『すべてのアメリカ人のための科学』と,それと並行し て作成された生物,物理,数学,社会科学,技術などの各専門分野のパネル報告書の目次や序文な どを通して,プロジェクト2 0 6 1
で作られた『科学的リテラシーJ
の全体的な概観や,科学的リテ ラシーの定義,科学的リテラシ一策定の条件,科学的リテラシーの性格,科学的リテラシーの項目 遷定の規準,科学的リテラシーと科学教育課程の関係などを見ることができる。あわせて,プロジェクト
2 0 6 1
のディレクターを務めた,ラザフォード博士とネルソン教授との 本研究会での質臨む答の記録が掲載されている。科 学 設 術 リ テ ラ シ ー に 関 す る 基 礎 文 献 ・ 先 行 研 究 に 関 す る 調 査
n .
諸 外 国 に お け る 科 学 技 術 リ テ ラ シ ー の 研 究 の 分 析はしがき 研究結果の概要
目次
研究メンバー
目 次
1.アメリカにおける科学的リテラシー論の過去と現在
2 .
アメリカの科学教育文献に見る科学的リテラシーの特徴3.カナダにおける科学的リテラシー教育への改革ー「幼稚園から第 12 学年までの科学の学習成果に関する共通フレームワークJについて‑
4.イギリスにおける科学的リテラシーに関する歴史と現状
5 .
中国の科学的素養について6.国際機関 (UNESCO及 びOECD‑PISA)における科学的リテラシー について
7 .
アメリカ・数学教育における科学技術リテラシー(数学的リテラシー) 8.イギリスにおけるニューメラシーと数学的日テラシー9.国際機関によって提示された「数学的リテラシー』の概念規定
1 0 .
諸外国の数学教育文献に見る数学的リテラシー11.アメリカ合衆国における数学・理科・技術の統合カリキュラム ーイリノイ州立大学IMaSTプロジェクトについてー
12.
W
すべてのアメリカ人のための科学』の分析(1)
W
すべてのアメリカ人のための科学』の開発に至る背景 (2) Wすべてのアメリカ人のための科学』について(3) SFAA・プロジェクト 2061に関するラザフォード博士との 質疑応答の概要
(4)プロジェクト 2061・SFAAに関するネルソン博士との 質疑応答の概要
科学技術リテラシー研究に関する資料
資料
1
科学技術リテラシーに関する著作・報告書等一覧(外国語)丹沢哲郎 人見久城 小 倉 康
磯崎哲夫 木山幸太 金 京 沢 磯崎哲夫 熊野善介
重松敬一 二宮裕之 国 宗 進 清水美憲 阿部好貴 角 和 博
田中喜美
丹沢哲郎 長崎栄三 斉藤萌木 阿部好賓 勝呂創太
11
v i i v i i i
1 10 20
27 43
53
64 83 97 108 115
120 121 126 140
143
146
研究体制 研究代表者(主任者)
長崎栄三(国立教育政策研究所・総合研究官) 研究参画者
磯崎哲夫(広島大学大学院教育学研究科・助教授) 国 宗 進 (静岡大学教育学部・教授)
熊野善介(静岡大学教育学部・教授) 重松敬一(奈良教育大学教育学部・教授)
清水美憲(筑波大学人間総合科学研究科・助教授) 鈴木 康志(文部科学省初等中等教育局・教科書調査官) 隅田 学 (愛媛大学教育学部・助教授)
相馬 一彦(北海道教育大学教育学部旭川校・教授) 問中 喜美(東京学芸大学教育学部・教授)
丹沢哲郎(静岡大学教育学部・教授) 中 山 迅 (宮崎大学教育文化学部・教授)
名 取 一好(国立教育政策研究所基礎研究部・総括研究官) 二宮裕之(愛媛大学教育学部・助教授)
人見久城(宇都宮大学教育学部・助教授) 吉田 淳 (愛知教育大学教育学部・教授)
【支援者】
阿部好貴(広島大学大学院博士課程) 斉藤萌木(東京大学大学院修士課程) 勝呂創太(東京学芸大学大学院修士課程) 熊岡 昌子(国立教育政策研究所・研究補助員)
アメリカにおける科学的リテラシー論の過去と現在
C o n c e p t i o n o f S c i e n 岨 cL i t e r a c y i n
勘U n i t e d S
句 協:τheP ぉ , t a n d P r e s e n t
丹 沢 哲 郎 TANZA"仇Te脂官官3
静岡大学教育学部 組問。tka出IVI四 ity
[喜納]本稿では,アメリカにおいて 50年近くの問議論が展開されてきた科判切テラシー論の状況 を.1960年代.70年代.80年代以降に分けて,その特徴を概観した.その結果,様々な教育的・社会 的な状況変化に伴って,意味内容が知識理解レベルから情意的・行動的レベルへと深化・拡張されてき たこをが理解された.しかしながら,議論の過程で様々な批判的な立場も提起され,ここでは特に
S h a
即 sとM i l l e r
の所論を取り上げ,さらには科特色リテラシー論の背後に潜むイデオロギー性にも留 意すべきことに言及した.最後に日本における科料切テラシーの姿を構想するときに留窓すべき点を,以上の議論をもとに提案した.
[キーワード]アメリカ,科学的リテラシー,歴史,イデオロギー
1 .
はじめに1958年に,科学教育の目標を示す言葉として初めて凪吋1)によって使用された科学的リテラシーと いう用語は,科学者・ぜ術者養成のための専門教育として捉える立場へのアンチテーゼとして登場した.
つまり,一般街宣教育を担う一つの教科としての科学という立場と,専門教育としての科学というこ項 対立式の図式で考えるなら竺科学的ロテラシーという言葉は,明らかに前者の立場に立つものである.
そして翌年の 1959年.Eisenhow官大統領が指名した科学と封持者からなる委員会均が閉会的,文化 的な生活を発展させるためにJ科学と工学の知識を使用する方法を提言する中で.
r
多くの国家的な決 定事項に,知的で民主的な参加ができるようJ科学を瑚草する市民が必要であることを表明した.ここ では手陣的リテラシーという用語を直接使用してはいないものの,科学的・技術的な側面を持つ社会的 な事項に市民が民主的に参加できることを求めているという点で.Hmd
の主張と何ら変わるところは ない.ただし,アメリカのこの時代は,優秀な科学者・まだ術者養成を主な目的とした科学カリキュラム 改革運動が始まった時期と重なり,国家機関がこのように一方で一般市民の政策参加を求めていること は,非常に興味深い.すなわち,前述の二項対立式に単純化して科学教育の樹Lを捉えるのではなく,常に両者の考え方が併存しているこ
k
を押さえつつ,優勢な耐もを捉えてして視点が必要であろう.この時代以降科学的リテラシーという考え方は,その意味内容を深化・拡張しながら,時代ととも に現在につながっている.そこで本稿では,その時代的な変遷をもう一度捉えながら,これからの日本 に求められる科学的リテラシーの姿を樹すする.
2 .
アメリカにおける科学的リテラシー論の変遷1 ) 1 9 6 0
年代の科学的リテラシ一議1 9 5 0
年代に登場した科学的リテラシーという考え方は,当初「概念形成と盟事,そして洞察カとい ったねらいに関連づけられてj登場したと拍車叫肘は言う.そして,科学者と市民との聞の意思疎 通の不十分さと,科学竹揃に関連した多くの社会的問題(特に公害問題)の出現,ならびに技術の持 つ誇刃性等が顕在化する中, f'科学を広b視野に据えて総合的に融事し,しかもその還訴事を基礎にして 当の問題解決に主体的に取り組んでいく市民Jc
鶴岡,1 9 7 9 )
司の育成を,科学的リテラシー論者は強 く求めていくことになる.Pellaらの研究弘司によると,
1 9 6 4
年までに発表された科判切テラシ一関連の文献中に見られる意 味内容は,大きく分けて以下の6点あるという.(1)科学と社会の相互関連
(幻科学者の研究をコントロールする倫理
。)科学の本質
(4)科学における基本概念 (5)科学と技術の聞の相違点 (6)科学と人文の相互関連
これを見ると,この時代の科学的日テラシー論では,理解,すなわち認知的な側面が強調され,科学 と技術に関連した祖会的問題の解決に向けての態度やスキル,行動など,情意的・応用的な側面は視野 におさめられていないことが分かる.つまり,科学教育の目標として知識・理解に関わる部分は拡張さ れてきたものの,そこでは科学の本質キ根念の理解が重視されていた.
2 ) 1 9 7 0
年代の科学的リテラシー論科判切テラシーが,科学教育の目標としてその制立を確立するのは,
1 9 7 0
年代に入ってからであ る1 9 ω
年代に積樹旬に展開されてきた科学カリキュラム改革運動のねらいは,探究学習を核とした 優秀な科学者・技術者養成にあり,国の国カを高めることにその主限があった.そうであるからこそ,連邦政府が積筏的にカリキュラム開発キを櫛教育にカを注いだのである.しかしながら,その目的に対 して一定の成果が得られ,また一方で科学・技術に対するネガティブな側面が社会に顕在化する中,こ のような科学教育を継続していってよいのかどうかという批判的な意見が急速に広がっていくこととな る.
このような芦を吸収する形で,また専門家養成としての理科の役割に対するアンチテ}ゼとして,
科学的リテラシーの考え方が広がっていく.この動きの大きさと広がりを示す例は, NSTAが
1 9 7 1
年7
月に,学会の基本声明の中で,7 0
年代の科学教育の目標として科学的リテラシーを明確に位置づけた ことに見られ,一般翫匿教育の目標達成のために科学教育が貢献すべきことを表明した匂.そこには,科判切テラ、ンーを身につけた人として II項目が定義されており,科学概念の理解持病学の本質の理 解,そして探究を遇した自発的に学ぶ能カ育成などと共に,以下の3つの項目が含まれている.
‑他の人々や環境と相互作用するとき,日常的な意思決定場面で,科学概念とプロセススキル,そ して価値を使用する.
・人間の福祉を向上させるときの科学と技術の有用性はもちろん,その限界をも認識している.
・科学と技術,そして社会的・経済的発展といった社会の他の側面との聞の相互関連を理解してい る
これらの項目に加えて, r:科特姻:Jli!1と個人の意見を区別するjといったPelIaらの定義 (2)
r
科学者の研究をコントロールする倫理』に該当するものもここには見られる(科特枕態度に該当するとも言 える).したがって,これらは前述した PelIaらの分類 (6)以外すべてに該当すると考えられるが,同 時に社会生活における科学と技術の使用にも言及している.つまり,態度やスキル,行動といった領域 にまで科学的リテラシーという概念を拡張しようという姿勢がここには見られる.定義のこの拡張につ いてAgin(1974)同は,
r
生徒は,社会的真空の中でなく,ある社会制兄の中で,科学的営為の生産物 とプロセスについて気づくようにならなければならないJ(p.414)と述べ,さらに科学的日テラシーを 身につけた人は「相互依存的で,相互に関連した概念や方法,応用,そして社会的影響を持った活動として科学を見る人J(p.414)であると述べている.
その後,高等学校科学の履修者数の減少や,高等学校卒業要件ならびに大学入学資格要件からの科 学の削減等が進むにつれ,また前述のように科学に対する否定的な見解が広がるにつれ,さらには科学 的なマンパワーが必要な世界伏況の変化に伴って,すべての児童・生徒のための科判切テラシー育成 が,科学教育の目標としてますます要求されるようになっていく (O'H盟主1,1976) 11)
以上のよ予に,科特別テラシーの意味内容の拡張の時期として 70年代を捉えることができるが,
情意的・行動的側面を捉えた論調はまだ弱く,多くの研究者の科学的リテラシー論はなお
ω
年代の捉え方を受け継いでいるものが多かった.
3) 1980:年代以降の科学的リテラシー論
前述のように, 1970年代に科学教育の危機的状況が指摘される中, 1980年代に入ると,全米レベル で科学教育改革を求める多くの報告書類が公表されることとなる.たとえば,以下に示す報告書や書籍 は,その後のアメリカ科学教育に大きな影響を与えたものとして,またその後の科学教育のあり方を提 言した代茨的なものとして指摘することができる.
(1)アメリカ教育省とNSF(1980)
Sci四国間dEngin問時Edu国語onfor也e1980s血dBeyondl2)
(2) NS11¥の及。j副 S戸 品 開 (1981)
WhatR居間‑chS可sto也e制 回 国T田ch町"vo1313)
(3) NSFの政策決定機能を担っている Nationalsci四国Boardに設置された委員会Commissionon PrecollegeE d 叫 池 田 血 M ather回世田,
s d
阻 町 田d11白羽ology(1982‑1983).11田均,'sProbl四 5,Tomorrow's
c r
お 田 町.AR町色。d血dln回sifiedSci聞 白 血d11田:hnol喝yC町n四lu血 G回d田 k・12U沼 田tlyN田
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伽catir芭Americ町 田 伽 血e21stC田 陣y同(4) AAAS Proj田:12061(1986) . Scli回 目forAllA血 切 回 国 防
ここにあげた報告書類のすべてにおいて,科学的リテラシーないしはSci開 国 王
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AIlが科学教育の目標として取り上げられ,また
S T S
テーマへの焦点化と技術の学習が提言されている.そしてその多く においては,さらに「科学の主要概念によるカリキュラムの統合」と「少なし執念をより深くJ学習す ることの重要性と,意思決定活動の実践が掲げられている 具備力には,上掲寄の( 3 )N S F
からの報 告書においては,科学的日テラシーの 4つの構成要素のーっとして昨T
為/応用:その影響と評価の能 力Jが掲げられている.このように拡張された科学教育の目標,すなわち科学的リテラシーの捉え方は,この時代の文献に 非常に多く見ることができ,枚挙にいとまがない.たとえlまお血sey(1993)聞は,行動的要素 ξして の社会的責倒全(s悶al悶po田ib出ty)を科学的リテラシーの鍵要素として指摘しているし, Simpsonと An伽田n(1981) 19)は,科学的リテラシーを身につけた人の定義として 7点をあげ,その中に以下の 項目を含めて考えている.
‑問題事献や意思決定). . .の状況の中で,科学のプロセスを使用する.
.科学と自由社会の基礎をなす態度と価値を保持している.
・生涯にわたる学習と,より豊かで満足のいく生活につながるような科学に対する興味や関心を有 している匂6)
以上のような, 1980年代以降のアメリカ科学教育における科料切テラシー論の動向は, 1990年に
N S T A
から発表された基本声明叫に集約されている.この声明においては,すべての子どもたちに必 要な科学教育を提供する手段として SfflSが捉えられており,その目標が科朝包・拡術的リテラシーに あるという論理構造になっている.したがって,科学の倫種的側面キ喚の側面の認識,あるいは民主主 義性会に生きる将来の責任ある市民に求められる態度射す動など,機能的な知識やスキルと行動的な側 面が強調されている.このように, 1980年代以降現定まで,科学的リテラシ}の捉え方は,科学そのものについての理解 から「科学について
J
の理解へ,また単に理解し探究のスキルを身につけることから,情意的・行動的 側面の重視へと,意味内容は拡張されてきた.ところが,こういった議論について,正面からでないに せよ批判的なスタンスをとる研究者たちも多く存在する.そこで次節においては,これらの議論を取り 扱うこととする.3.現在の科学的リテラシー論に対する批判 1)
S h a m o s
による批判Mo
出sS h
阻聞は,かつてN S T A
の会長を務めた物理学者であり, 1995年に「科学的リテラシーの神 話J21)と題する科学的リテラシー実現の手だてに関する批判的な大著を著した.彼はその中で,科学 に関連した社会問題に対して,独立して,しかも合理的に対処できる市民が現実的にはほとんどいない という基本認識を示す.そして,民主主謝土会が健全に機能するためには,このような科特切テラシ ーを身につけた市民が人口の20%いれば十分であると主張する.その根拠は,ある自治体の社会問題を審議する委員会に,市民からランダ、ムに委員が選ばれたとする
とき,少なくとも 1名あるいは 2名がこのような科判切テラシーを身につけた市民である確率計算に よっている.たとえば,委員会の人数が 12名で構成されるとき,市民の20%が科判切テラシーを身 につけていたとすると,そのような人が少なくとも 1名入る確率が 93%であり, 2名入る確率だと 73%になるという.これが25名という大規模の委員会になるとその確率は上がり,それぞれ99.6%, 97%となる.しかも実際には,こういった委員会に選ばれる市民は,科学的リテラシーを身につけた人 の割合がいっそう高いと期待されるため,市民の 20%が科学的リテラシーを身につけていれば,高い 確率で民主主義社会l訴樹守されるというのが彼の主張である.
現在の科学教育における科料切テラシー論は,このような社封域間短だけでなく,市民がふだん の生活の中で遭遇する数々の問題に対しでも意思決定ができることを目指しているため,彼の議論が直 接今の議論を否定することにはつながらないが,このように現実を踏まえた彼の議論は一考に値するか
もしれない.
一方で彼は,このような科学的リテラシーのレベルを「真のJ科学的日テラシー(
T
四よ sci田幽c Li加acy)と呼び,このレベルにまで到達するにはいくつかの段階が必要であることを主張している.具榊告には以下のような3つの段階を彼は想定している.
(1)文化的な科学的リテラシー (C叫加ヨ1Scientific Literacy)
リテラシーの最も単純な形で,何千もの名前,日付,場所,出来事等について知っている段階.
これは単なる暗記によってたやすく獲得できるレベル
ω
機能的な科学的リテラシー (FtmctionalSci回世ficL知明,)ある文脈の中で,科学の用語を用いて一貫した会話を行い,読み,書くことができる段階を言 う.日テラシーについてのたいていの客親テストは,この種の知識あるいは想起に基づいている.
(3)
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真のj科特切テラシ一円四,e"sci田雌cLi恒明,)科学の基礎を形づくっている主要な概念スキー?に気づいており,どのようにしてそこに到達 したか,そしてなぜそれらが広く受け入れられているのか,いかにして科学は翫
A
陸な宇宙から序 列を形成できたのか,そして,科学における実験の役割に気づいている人を言う.その人はまた,科学研究の要素キ遁切な問いの重要性,分析的・演緯的推論の重受性,論理的思考プロセスの重 要性,そして客離抱強いの依存の重要性を離れている.
こういった段階設定が適切であるかどうかは別にして,ゴールとしての科学的リテラシーに到達する までの道筋として,いくつかの段階を設定しようという彼の主張は,現実問題として極めて還にかなっ たものであろう.ただ彼の科学的リテラシーの定義は,段階の (3)に顕著に見られるように極めて科 学中心的な捉え方であり,社会との関わりや意思決定といった場面は想定されていない.この点は他の 研究者たちからしばしば批判されている.
以上 Sha血田の段階論を見てきたが,同じような議論は何人かの研究者によっても提案されている.
たとえば
BSCS
のディレクターである fu均erB
内田は,以下のような段階論を展開している均.(1)リテラシーを身につけていない(皿i回acy)
。)名前を知っているだけのリテラシ一例mninalLi値判,)
(3)機能的な科学的・技師切テラシー (F,皿.ctionalsci四組C血d1i田:hno1ogicalLi回 cy) (4)概念と方法について身につけているリテラシー (α臨 句 旬al田dprocedural Li畑町,)
(5)多次元的なリテラシ」刷出必血鵬ionaILi回cy)
ここでこれら各段階の意味について詳述する余裕はないが.SI国血田の各段階と対比させるとその意 味はほぼ理解できる.つまり,組阻閣の(1)から
( 3 )
がB
亦 閣 の( 2 )
から( 4 )
に対応しており,さらに (5)は,科学をさらに哲学的・歴史的・社会的次元から見ることのできる人を指しており,
sb阻聞のように学問的な視点からのみ科学的リテラ、ンーを捉える立場を越えて段階が設定されている.
これら以外にも,古くは 1970年代初頭から科学的リテラシーの段階論は登場しているが,いす'tLに おいても,ゴールとしての崇高なリテラシーの姿を提示するにとどまらず,そこに至る道のりを示すこ
とによって,教授場面を想定した議論や実際のカリキュラム開発を行おうとしている.
2) Millerの立嶺
アメリカの北イリノイ大学のJonMillerは,これまでアメリカ及びヨーロッパ諸国において,一般市 民の科学的リテラシーのレベルを調べ続けてきた穆移諸として苓名であり,いまさらここで紹介する必 要のない科学的リテラシー論者である.科学的リテラシ」を主張するときの彼の基本的なスタンスは,
彼自身Civicsci田.tificLi岡町と呼んでいる.まずその定義については「現代の産耕土会における市民 として機能するために必要な,科学左技術に関する瑚平のレベルJ均としている.ここで重要なのは,
第ーに,彼は学校教育における科判切テテンーではなく,市民が身につけておくべきレベルとしての リテラシーを想定していること,第二に,彼は市民の態度と糾子動を直接扱わず. f'瑚/jljのレベルで 科学的リテラシーを捉えていることである.後者の点は,これまで本稿が述べてきた科判切テラシー 概念とは大きく異なっているが,このことについては後にその理由は論じる.
さて,続いて彼は.Civic sci田tificL成田cyには3つの次元があると言う.それは以下のものである.
(1)新聞や雑誌にある対立する見解を読むのに十分な,科学を構成する基本的な用語の理解
ω
科特探究のプロセスあるいは科学の本質についての甜平(3)個人や社会に対して科学とぜ術が与えるインパクトについての一定レベルの理解
ところが,この第三の次元は「ある国における政策課題の違いによって,科学と技術は異なった形で市 民に経験されるj(p.l24)ので,比較可能な形での測定は因慎重であることを述べ,上記2つの次元から なるCivicsci四.tificLi岡cyの測定の必朝生を訴えている.
彼はここで,決してレベルとか段階という言葉は使わず,あくまでも「次元j (dim臨 ion)を使用す る.したがって,ここで彼が言おうとしていることは. (1)から (3)に向かって順にリテラシーのレ ベルが上がっていくという前述のような段階論でなく,同じ CivicSci副 ficLi踊 坦yを身につけた人の 特徴を表現した3つの側面なのである.
さらに彼は,別の論文で.
r
(上記 2つの次元の)それぞれが,態度と行動に与える影響を調べてい く必要があるJ刊と述べ彼は明らかに態度明子動をリテラシーと切り離して論じている.その理由 は.1つには,彼の考える科学的日テラシーが「怠哲駒な,あるいは受容可能なレベルの理解ではなく て,最低限のレベルを意味しているJ
均からであり,もう1
つは,彼は国際関での科判切テラシー のレベル比較を常に意識しているからである.後者に関しては,特にヨーロツパ諸国とアメリカとの比 較を積樹甘に進めており,その中で国際比較に使用できる評価尺度の開発を目指している.そこで,社 会のあり方や,科学・技術と社会の関係が異なる国々では,態度と行動が異なるため,あえて科学的リテラシーの範薦から除外しているものと考えられる.
以上のように, MiIIerの捉える科学的リテラシーは,これまで本稿が述べてきた捉え方と大きく異な っていることが分かる.その最大の理由は,国際比較という研究上の関心の違いによるものが大きく,
さらにまた,科学的リテラシーを市民が身につけておくべき最低限のレベルのものと捉えているからで ある.
3 )
科学的リテラシー論の背後にあるイデオロギー長い間アメリカを中心に論じられてきた科学的リテラシーの内容やその測定,あるいはそれに基づく
カロキュラム開発であったが, αan平a伊e とLo、~tts は,これらの議論の背景に,国や民族,文化など
の違いによる価値観が大きく作用していることを指摘している.珂
アメリカ科学教育における科学的リテラシーは,基本的にアメリカ民主主義非士会の維持・発展を目的 として論じられてきた.前述のMiIIerによる Civicsci田.tificLi回ヨcyとし、う概念はまさにそれに相当す る.これまでに引用してきた彼の文献中には「科学と技術に関連した論争課題に参加できるような市 民lや, i民主的な政策形成過程の中にある科学・技術政策んあるいは「民主主義的なプロセスから科 学政策を切り離そうという考え方の危険性Jなどの表現が随所に見られ,彼が民主主義を前提にして科 学的リテラシーを論じている姿勢が読みとれる.また, i1980年代以降の科学的リテラシー論
J
のとこ ろで引用したNSTAの1労0年の基本芦明でも「民主主義社会に生きる将来の責任ある市民』に必要と される資質が論じられており,これもまさにこの立場に立った科学的リテラシー論の展開例である.つ まり,この立場は,アメリカ一般載車教育の目標である市間企( C
語 調 車ip)の育成に科学教育が積極 的に関与すべきという議論から来ている.しかしその一方で,閉じ民主主謝土会の発展を目標としつつも,その基盤となる国家の経済的発展と 関連づけて論じている立場も多く見られる.科料切テラシー育成を掲げたナショナルレポートには,
このような立場が多く見られるし,企業人による提言などには,優秀な労働力の獲得を明確に意図した 議論が普通に見られる.
さらにまた, AAASによるProj副 2061のように科学者が中心になって作成されたレポートは,科学 の世界の概念的な理解を非常に強調している. MiIIerが Sh血国の立場を批判したように,これは科学 的・学問的な側面を強調した立場であると言えよう.
このように,アメリカにおける科学的リテラシー論は,どのような立場に立ってそれを論じるかによ って,その中身は非常に多様である.したがって,このことを無視して単純な比較をしても不毛であり,
誰のための,何のための科学的リテラシーかを,常に意識して読み解いていく必要がある.
4 .
おわりに本稿では,アメリカにおける科学的リテラシー論を,歴史的に,あるいは立場の違いによって整理し てきた.その結果をもとに,振り返って我が国における科勃切テラ、ン}を論じるときには,以下のよ
うな事柄に留意していく必要があるであろう.
(1)科学的日テラシーを身につける必要性はどこにあるのか,つまりいかなる目的や意図を持って それを国民に身につけさせようというのか.より直接的に表現するなら,誰のために,何のため
に科判切テラシーを構想するのか.
(2)科学的リテラシーの範囲を理解レベルでとどめるのか,態度や意識,行動の次元まで拡援する のか.
(3)科学的リテラシーを最低限のレベルとして考えるのか,それとも 1つの到逸長として思想的な 姿を描き出そうとしているのか.
( 4 )
科学的リテラシーのあるレベルへの到達を目標としたとき,その過程や段階を構想して取り組 むのか.このような事柄について十分に議論をした上で科学的
p
テラシーの姿を構想しないと,議論は極めて 不毛なものとなりかねない.これまで日本でなされてきた科学的リテラシー論では,こういった検討が 踏まえられていたのかどうカ援問である.これは今後の課題としたい.引用文献
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アメリカの科学教育文献に見る科学的リテラシーの特徴
B r i e f Summary o f t h e c h a r a c t e r i s t i c s o f S c i e n t i f i c L i t e r a c y ; B a s e d o n s o m e r e s
伺r c h p a p e
ぉ血血e U n i t e d S
匂t e s
人 見 久 城 町
TOMI
阻saki 宇都宮大学教育学部 U凶皿om明Univ師 Ity[要約]本稿では、アメリカの科学教育の目的と科学的リテラシ}の関係について、次のことを指 摘した。 (1)アメリカの科学教育の目的は、祉会的事情に影響を受け、変化してきでいる。科学 教育への社会的な課題の導入を指摘され、 1990年代後半以降、誰もがより良い市民となるため の準備としての科学教育のあり方が提言されている。 (2)内容商では、自然科学領域の桝Eみを 踏襲しながらも、社会との関連ヰコ科学史、探究としての科学などの視煮にも配慮したカリキュラ ムが提案されるように変化している。 (3)以上の変遷は、科判切テラシーを特徴づける側面'と も重なっており、科学教育の目的と科学的リテラシーとは表裏の関係にあるといえる。
1 .はじめに
アメリカの科学教育の目的と科学的リテラシーの関係は、どのようになっているのであろうか。
また、それらは不変なものなのであろうか、あるいは時代とともに変わってきているのであろうか。
本稿では、これらの聞いに答えるために、アメリカの科学教育カリキュラム研究に関するいくつか の文献をもとに、科学リテラシーの定義や特徴を整理する。
2 .
科学的リテラシーをめぐる整理T r o
wbridge&
Byb田(1996)をもとに、科学的リテラシーの背景、領域、次元について整理する。2‑1.
科学的リテラシーの背景 (Bac k g r o u n
d)T r o
wbridge&
Byb田は、科学的リテラシ}を定義するために、 f1人の市民として、科学的技 術包な素養をもった人は、科学や技術の何を知り、何に価値を見いだし、何をするととができれば よいだろうカ当という質問から考えている。そして、この質問に答える上で、①この質問には、科 学と技術の両方が含まれている、②淘議、価値、スキルが含まれている、③市民という側面から質 問に答える、ということに留意する必要がある、ことなどを考えなければならないとしている。さ らに、科判切テラシーの特徴をさぐるために、 1960年代以降の文献レピューをし、年代ごとのと らえ方をまとめている(表1‑4)
。表1. 科学的リテラシーの特徴:1960年 代
NSTA(National Science Thachers NSTA(National sci四 回 τeache:四 阻IωnPella (1鉛6) Ass出 国ωn),百2田 巧Iinto Practice Ass回 目 白10),官1田ry血ω Practice
(1鉛4) (1鉛4)
概念的なスキーマ 科学の過程
(1)すべての物質は素粒子と呼ばれ (1)科学は、何世紀にもわたる経験に (1)科学と社会の相互関係 る単位から構成されている。ある 基づいた、宇宙は急変することはな (2)科学の倫理
条件下では、これらの分子はエネ いとし、う仮定の上で進む。 (3)科学の本質 ルギーに変換され、また、この逆 (2)科学的な知識は、斜瀞に私的な視 (4)概念的知識 も起こりうる。 察に対比して、公的な調査が可能な (5)科学と技術
(2)物質は、有機的水準の階層に分 物体の標本の観察に基づいている。 (6)人文科学における科学 類することができる単位の形式 (3)科学は、少しずつ進む。たとえ科
で存在する。 学は、自然の様々な部分や側面の体 (3)宇宙の物質の振る舞いは、統計 系的で総合的な理解を達成しよう
的な基盤で記述することができ と目指していても、である。
る。 (の科学l士、完結した営為ではないし、
(4)物質の単位は、互いに影響し合 多分決してそうではないであろう。
う。すべての普通の相互作用の基 宇宙の事物がどのように振る舞い、
礎は、電滋気力、引力、核力であ それらが互いにどのように関係す
る。 るかということについて発見され
(5)物質のすべての相互作用をする るであろう、ずっと多くのことが残 単位は、平衡状態に向かう傾向が っている。
ある。そこでは、エネルギー容量 (5)測定は、現代科学のほとんどの分 (エンタルビー)が最小で、エネ 野の重要な特徴である。なぜなら、
ノレギ一分布(エントロビー)が最 法則の確立と同様に法則の定式化 もランダムになっている。平衡に は、車力な区別の発展を通して促進 遣する過程で、エネルギ一変換ま されるからである。
たは物質変換が起こる。それにも カミかわらず、宇宙のエネルギーと 物質の総計は変わらないままで ある。
(6)エネルギーの一つの形態は、物 質の単位の運動である。そのよう な運動は、熱や温度に原因があ
り、国体、液体、気体という物質 の状態に原因がある。
(7)すべての物体は、時間と空間の 中に存在し、相互作用はその単位 の聞で起こるので、物体はある程 度、時間ともに変化を受けやす It¥.そのような変化は、様々な割 合で、様々なパターンて泡こるで
あろう。
表2 科学的リテラシーの特徴:1970年 代
MichaelAgin (197心: VicもorShowalter (1974) BeniaminSh阻(1974) (1)科学と担会 (1)科学の本質 (1)実用的な科学リアフシー (2)科学の倫理 (2)科学の概念 (2)市民的な科学リテラシー (3)科学の本質 (3)科学の過程 (3)文化的な科学リテラシー
( 4 )
科学の概念の知識 (5)科学と技術 (6)科学と人文科学(4)科学の価値 (5)科学と社会 (6)科学への関心 (7)科学に関連した技能
表3. 科学的リテラシーの特徴:1980年代
NSTA(I982): NCEE(1983): Mumame & Raizen Sciena‑Thchnol喝,‑Society ANation at Risk. (eds.) (1988): Improv‑ Education 1980s 血gIndi阻む0四 d世le Quali宅yofScien白 血d Mathematics Educa. tion in Grades K‑12 (1)科学的・ぜ術的な過程と探 回物理科学・生命科学ゐ概 (1)科学的な世界観の
究的技能 念・法則・過程 本質
(2)科学的・夜術的な知識 (2)科学的な探究明輪の方 (の科学的営為の本質 (3)個人的・社会的な決定にお 法 (の科学的な思考の習
ける科学的・ぜ術的な技能 (3)日常生活への知識の応用 慣
や知識 (心科学的
. m
術的な発展の (必科学と人聞社会の (心科学・技術の態度、価値、 社会的・環境的な意味合い 諸事AAAS (1989): Sciena for AlJ Am町icans.
(1
Y
科学め本質 (2)数学の本質 (の技術の本質 (の物理的背景 (日生命環境 (6)人間(ヒト)σ )
人間相会よさの認識 (8)設計された世界
(5)科学に関連した社会的問 (9)数学的世界
思による科学・師匠・社会 (1
ω
歴史的観点の間の相互作用 (11)共通の主題
(12)思海の習慣 表4. 全米科学教育スタンダードとプロジェクト2061のベンチマークの肉容の概要
全米科学教育スタンダード プ口、ジェクト2061のベンチマーク (1)統合概念と過程 (1)科学の本質
(め探究としての科学 (の数学の本質
(の物理科学 (の技術の本質
(4)生命科学 (4)物酎包背景 ( 制 球 ・ 字 醐 学 (5)生命環境 (6)科学と技術 (6)人間(ヒト) (7)個人的・社会的な展望における科学 (7)人聞社会 (8)科学の歴史と本質 (8)設計された世界
(9)数学的世界 (10)歴史的観点 (11)共通の主題 (12)思考の習慣
2‑2.科学的リテラシーの領域 (Dar祖
i n )
Mortimer他(1982)、NationalRe
s e a r c h
白uncil(1995)、およびAAAS
(1993)をもとにして、科学的リテラシーの領域は、表