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ディメンジョン的アプローチとはなにか? 黒木俊秀

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Academic year: 2021

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ディメンジョン的アプローチとはなにか?

黒木俊秀

九州大学大学院人間環境学研究院実践臨床心理学専攻

今年 5 月に遂に公表されたアメリカ精神医学会(APA)の精神障害診断分類体系であ DSM-5は、DSM-IV (1994)以来、実に19年ぶりの改訂版であり、その動向が大 いに注目を集めている。公表の直前に、National Institute of Mental Healthのディ レクターである Insel が、新しい改訂版は妥当性を欠くと非難したことも話題になっ た。

振り返ると、今度の改訂版に至る準備は1999年夏に始まっており、以来、13年に も及ぶ長い議論と検証を経てきたことになる。最初の段階は、2000 年に開催された DSM の新たな改訂作業の基本方針を確定するための研究会議であり、その成果は 2002年に”Research Agenda for DSM-V4)” (邦題「DSM-V研究行動計画」、みす ず書房)として出版された。この”Agenda”の邦訳に中井久夫氏らとたずさわった演 者(黒木)は、DSM-III1980年)以来の現行の診断カテゴリーの妥当性に対する疑 義が米国精神医学界の中枢より強く提起されたことに驚かされた。なかでも新しい改 訂版は、より科学的な根拠にもとづく診断分類を目指すために、DSM-III以来のカテ ゴリー的な診断分類に代わってディメンジョン的なアプローチを採用すべきであると 提言されている点が印象に残った。どうやら、APA は次の改訂版によって DSM-III 以来の診断分類体系にパラダイム・シフトを迫るらしいと思われた。その理念の基底

には、DSM-IIIによって無理論的にカテゴリー化された各精神障害相互の境界はさほ

ど明瞭なものではなく、相互に移行しうる連続体(スペクトラム)を構成しているに 違いないという認識があり、それは精神障害の神経生物学的研究からの要請であった。

しかし、実は DSM-5 が(当初)掲げたディメンジョン的アプローチとは、精神と 行動の異常を計量的尺度(すなわち、ディメンジョン)により評価し、統計学的な数 理モデルを用いて分類する手法を指すのである。その統計学の方法論は、計量心理学 ではよく知られているが、一般の臨床医にはお馴染みでない。もしも、DSM-5が新た なパラダイムとして掲げるディメンジョン的アプローチの正体が、実は、こうした心 理測定尺度による計量的な評価と分類だとすれば、そこから導かれる精神障害の定義 や診断基準はおよそ臨床医の一般的な感覚からかけ離れ、現行の診断基準以上に実際 の精神科臨床には役立たないのでないかという懸念が頭をもたげる。

とはいえ、数理統計学こそが、今後の科学的な診断分類を支える有力なツールとい うことなのであろう。既に抗うつ薬の臨床試験データの解析に潜在クラス分析が導入 されつつあり、関連する遺伝子や脳画像の複雑なデータを診断基準に組み入れるには 適切な方法である。当面は、現行のカテゴリー的分類を維持しつつ、最初は試験的に、

それから徐々にディメンジョン的アプローチを試みてゆくことになるのではないだろ

(2)

うか。多くの臨床医はカテゴリー的分類が身に染み付いているので、これは仕方がな い。ディメンジョン的な方法論は、精神科臨床よりは先に生物学的研究において進め られるだろう。先のInselの批判は、その明らかな宣言であるように思われる。

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