住宅着工はどこまで回復するか
~住宅購入促進策の効果検証と潜在住宅需要の試算を基に~
2010 年 12 月 22 日発行
調査本部 経済調査部 エコノミスト 大和 香織 (03-3591-1284) [email protected] 《要 旨》 ○ 現在実施されている住宅購入促進策のうち金利優遇、 住宅ローン減税、エコポイントをあわせた住宅取得コ ストの押し下げ幅は 548 万円と、政策がなかった場合 に比べコストを 1 割強抑制する効果がある。 ○ しかし、こうした政策効果を考慮しても、取得コスト の年収倍率は住宅着工が拡大していた 2006 年までと比 べてまだ割高。 ○ 住宅の潜在需要を人口動態の見通しを基に試算する と、2010 年の持家系住宅(持家+分譲)の潜在需要は 63 万戸と、足元の水準と比べて 8 万戸程度の回復余地 がある。 ○ 一方、2010 年の貸家の潜在需要は 33 万戸と試算され る。2009 年以降の貸家着工は、不動産投資の低迷から ほぼ潜在需要並みの最低水準で推移している。 ○ 住宅の潜在需要は、2010 年度の 97 万戸から 2015 年度 の 92 万戸に緩やかに減少していくと試算される。 ○ 住宅価格の割高感が残り、不動産投資意欲の回復も見 込みにくい中、2011 年度の住宅着工は潜在需要を下回 る見通し。1
1. 各種の住宅購入促進策にも関わらず、住宅着工の回復は緩慢
住宅着工の回復は緩慢 海外経済の減速やエコカー補助金終了などの影響で日本経済の減速感は強まっ ているが、住宅着工は緩やかながら回復基調を維持している。7~9月期の住宅着工 戸数は前期比+6.9%の81.2万戸に増加した。回復の背景は、緩やかながらも家計 の所得が増加する中で各種住宅購入促進策が拡充されたことなどから住宅需要が 持ち直していること、また販売回復に伴い分譲業者の在庫が解消しつつあることだ。 持家住宅を購入する際に、現在利用可能な優遇策は①住宅ローン減税、②住宅エ コポイント、③住宅金融支援機構の優良住宅向けローン(フラット35S)金利優遇、④ 贈与税非課税特例枠の拡大、である(図表 1)。9月に策定された経済対策(「円高・ デフレ状況に対する緊急的な対応」)では当初2010年12月が期限とされた②、③が1 年間延長された。 しかし、こうした様々な住宅取得支援策が講じられているにも関わらず、水準でみ ると着工戸数は未だ100万戸を大きく下回っている。今後の着工戸数はリーマンショッ ク前のような100万戸台を回復することが出来るのか。本稿では政策効果による需要 喚起効果を概観した上で、住宅の潜在需要を推計することで今後の着工戸数の回 復余地を検討する。 住宅ローン減税の合計最 大控除額は 99 年以来の大 幅拡充 住宅ローン減税は、ローン残高の 1%を 10 年間税額控除する制度である。1986 年 の創設以来、毎年実施されており1、2009~2010 年に適用される 10 年間の合計最大 控除額は 500 万円と、2008 年の 160 万円から 340 万円(+212.5%)引上げられ、 1999 年以来(180 万円→587.5 万円、+226.4%)の大幅増額となった(図表 2、図表 3)。1999 年の住宅着工は前年比+7.4%と増加しており今回の拡充後も持ち直しが 期待されたものの、リーマンショック後の需要急減期にあったため、2009 年の持家系 住宅着工は前年比▲26.7%とむしろ大幅に減少した。2010 年は 1~10 月平均で 2009 年比+9.3%と増加しているとはいえ、急減分を取り戻すには至っていない。現 行の住宅ローン減税は 2013 年にかけて徐々に縮小が予定されているが、控除を受 けられるローン残高の上限が住宅購入世帯の平均借入額(2500 万円前後)を下回る 2013 年までは駆け込み需要も発生しにくいとみられる2。 1 1986~1998 年までの制度名は「住宅取得促進税制」、1999~2001 年までは「住宅ロー ン控除制度」であるが、制度趣旨は現行の「住宅ローン減税制度」と同様である。 2 国土交通省「住宅市場動向調査」によれば、2003 年~2009 年の注文住宅の平均借入額 は 2403 万円(2004~05 年はデータなし)、分譲住宅は 2569 万円である。 図表 1 最近の住宅取得支援策 概要 適用期間 住宅ローン減税 住宅ローン残高1%の所得控除を10年間。年間限度額09年500万円~13年200万円まで逓減 2009/1/1~2013/12/31居住分 贈与税非課税特例枠拡大 住宅取得資金の贈与1500万円まで非課税(2011年分は1000万円まで) 2010/4/1~2011/12/31贈与分 住宅エコポイント 新築 省エネ住宅(トップランナー基準又は省エネ基準による)新築1戸当たり30万ポイント付与 2009/12/8~2011/12/31着工分 リフォーム 窓、外壁等断熱改修、バリアフリー改修の施工部位ごとに最高10万ポイント付与 2010/1/1~2011/12/31着工分 フラット35S金利優遇 優良住宅向けローンの金利10年間1%優遇 2010/2/15~2011/12/31貸出分 (資料)財務省、国土交通省、住宅金融支援機構ウェブサイトよりみずほ総合研究所作成2 図表 2 住宅ローン減税の変遷 入居時期 対象ローン残高 合計最高控除額 1986年 ~2000万円 1~3年目1% 60万円 1987~1989年 ~2000万円 1~5年目1% 100万円 1990年 ~2000万円 1~6年目1% 120万円 ~3000万円 1~6年目0.5% ~2000万円 1~6年目1% ~3000万円 1~6年目0.50% ~2000万円 1~6年目1% ~1000万円 1~2年目1.5% 4~6年目1% ~3000万円 1~6年目0.50% ~2000万円 1~6年目1% ~1000万円 1~3年目2% 4~6年目1% 1999年~2001年6月 ~5000万円 1~6年目1% 7~11年目0.75% 12~15年目0.50% 587.5万円 2001年7月~2004年 ~5000万円 1~10年目1% 500万円 2005年 ~4000万円 1~8年目1% 9~10年目0.50% 360万円 2006年 ~3000万円 1~7年目1% 8~10年目0.50% 255万円 2007年 ~2500万円 1~6年目1% 7~10年目0.50% 200万円 2008年 ~2000万円 1~6年目1% 7~10年目0.50% 160万円 2009~2010年 ~5000万円 1~10年目1% 500万円 2011年 ~4000万円 1~10年目1% 400万円 2012年 ~3000万円 1~10年目1% 300万円 2013年 ~2000万円 1~10年目1% 200万円 (注)1.2007~2008年は控除期間15年(控除率は1~6年目0.6%、7~15年目0.4%に引下げ)も選択可。 2.2009年以降は「認定長期優良住宅」の場合、控除率・最高控除額を上乗せ。 (資料)財務省、国土交通省資料よりみずほ総合研究所作成 1997~1998年 控除率 180万円 150万円 160万円 1991~1992年 1993~1996年 図表 3 住宅ローン最大控除額と持家系住宅着工 0 200 400 600 800 1,000 1,200 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 0 100 200 300 400 500 600 700 持家系着工戸数 住宅ローン減税最大控除額(右目盛) (万円) (千戸) (年) (注)2010年は1~10月平均の年率換算値。 (資料)国土交通省「住宅着工」、財務省
3 住宅エコポイントの需要押 し上げ効果は限定的 金利優遇で住宅取得コスト は 300 万円程度減少 減税、エコポイント、金利優 遇による総コスト抑制効果 は 548 万円 住宅エコポイントは、省エネ住宅の新設や環境対応リフォームに対して、追加工事 費用や商品券等と交換できるポイントを付与するものである。申請がスタートした 2010 年 3 月以降発行件数が徐々に増加し、10 月時点で住宅着工戸数のおよそ 3 割に相 当するエコポイントが発行されている(図表 4)3。しかし付与ポイント数は 1 戸当たり 30 万ポイント(1 ポイント=1 円相当)であり、平均住宅価格の 1%にも満たない4。ポイント 発行数の増加は需要が喚起されたというよりも、ポイント対象に適合した住宅が増加 した結果であると考えられる。なおリフォームについては、2010 年に入って家計の住 宅設備修繕費支出が増加基調にあるなどエコポイント付与が需要喚起に貢献してい る可能性がある。リフォーム 1 件あたりのポイント付与数は 60000 ポイント程度と新築よ り少ないが、価格押し下げ効果が新築に比べて大きいことが需要押し上げにつなが っていると推察される5。 エコポイントに比べて、住宅金融支援機構が提供する優良住宅向けローン(フラット 35S)の金利が 10 年間 1%優遇されることによる、住宅取得コスト(借入額+金利負担 分)軽減効果は格段に大きい。住宅取得コストは住宅価格が持ち直したことにより 2010 年に上昇したが、この金利優遇策を考慮に入れた場合には金利負担が 315 万 円減少するため、2009 年よりも低下する(図表 5)。 住宅ローン減税6、住宅エコポイント、金利優遇がすべて適用された場合、首都圏マ ンションを購入する際の 2010 年の住宅取得コストは 4329 万円と、政策がなかった場 合に比べて 548 万円減少すると試算される。年収に対する取得コスト比率は 5.4 倍 (政策なしの場合 6.1 倍)となり、これは首都圏マンション価格が前年比 1 割程度上昇 した 2007 年(6.0 倍)より低いが、持家系住宅着工、マンション販売とも拡大していた 2002~2006 年平均(5.1 倍)と比べると割高感が残っている(図表 6)。政策によるコス 3 住宅エコポイントは竣工後申請することから、着工戸数とエコポイント発行戸数には 工期相当のラグ(一戸建ての場合 3~6 ヶ月程度)が存在する。 4 国土交通省「住宅市場動向調査」によれば、2008 年度に購入された住宅の平均価格は 注文住宅で 4136 万円、分譲住宅で 4171 万円である。 5 総務省「家計調査」によれば、2009 年に外壁・塀等工事を行った世帯の 1 回当たり平 均支出額は 28 万程度であり、外壁工事に対して付与されるエコポイント(10 万ポイン ト)は 36%の値引きに相当する計算となる。 6 夫婦と子ども 2 人世帯の場合。千野珠衣・市川雄介「拡充された住宅ローン減税の概 要と効果」(2009 年 3 月 24 日発行みずほ日本経済インサイト)の試算結果を用いた。 図表 4 住宅エコポイントの発行状況 図表 5 住宅取得コスト(首都圏マンションの場合) 50000 55000 60000 65000 70000 75000 3 4 5 6 7 8 9 10 0 5000 10000 15000 20000 25000 エコポイント発行戸数 (右目盛) 住宅着工戸数 (原数値) (戸) (資料)国土交通省「住宅着工統計」、「住宅エコポイントの実施状況」 (戸) 2010/ 3,500 3,700 3,900 4,100 4,300 4,500 4,700 4,900 5,100 5,300 5,500 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (万円) (注)取得コスト(返済総額)=マンション価格-貯蓄額+金利負担 (資料)総務省、不動産経済研究所等資料よりみずほ総合研究所作成 フラット35S(10年間金利1%優遇)の場合
4 ト抑制効果は比較的大きいものの、年収の落ち込みと住宅価格上昇が回復の重石と なっているようだ。 なお、贈与税の非課税特例は、住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税枠を 従来の 500 万円から 2010 年分は 1500 万円、2011 年は 1000 万円に引き上げる制度 である。但し、すでに相続時精算課税の特別控除額 2500 万円があるため、同特例に よる住宅取得促進効果は限定的であると推察される7。 7 平均資金調達額に占める贈与額の比率は 2~3%程度(「住宅市場動向調査」)と小さい。 また 2010 年の親からの平均贈与額は 860.7 万円である(社団法人不動産流通経営協会 「不動産流通に関する消費者動向調査」)。なお、相続時精算課税の利用は将来的には徴 税の可能性があるが、相続時精算課税適用分(2500 万円)を含めた相続額が相続税の基 礎控除の範囲内である 5000 万円以下(相続人が配偶者のみの場合、2011 年度より 3000 万円以下)の場合は非課税となる。 図表 6 政策による住宅取得コスト負担感(年収倍率)抑制効果 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (倍) (注)首都圏マンションを首都圏在住の勤労者世帯が購入する場合。 取得コスト(返済総額)=マンション価格-貯蓄額+金利負担 (資料)総務省、不動産経済研究所等資料よりみずほ総合研究所作成 政策効果考慮後の取得コスト/年収倍率
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2. 潜在住宅需要の推計
持家の潜在需要は 63 万戸 住宅取得コストの相対的な負担感が高いことなどから、足元の持家系住宅着工戸 数は、2007 年の建築基準法改正に伴う混乱やその後のリーマンショックなどが生じる 以前の平均着工数(2000~2006 年平均 72.7 万戸)の 4 分の 3 という歴史的低水準 にとどまっている。今後、緩やかながらも所得の回復が続いて取得コストの負担感が 軽減すれば、残り 4 分の 1 を取り戻すことが出来るのか、それとも何らかの要因により 需要がレベルシフトしており、このまま低水準にとどまるのか。以下では持家の潜在需 要を試算することによって、今後の持家系住宅着工の回復余地を検討する。 そもそも人々の住宅取得行動に大きな変化が生じているのか、「住宅・土地統計調 査」(総務省)によって確認しよう。出生コーホート別に各年齢層の持家取得率(新規 持家取得数/世帯数)をみると、持家取得率のピークが 35~39 歳であることに変わり はないものの、若い世代ほど 30 歳代前半あるいは 20 歳代後半の取得率が高まって いる傾向が窺える(図表 8)。累積取得率をみるとコーホートに関わらず 35~39 歳で 34%程度とほぼ変化がないことから(図表 9)、新築取得時期がやや早期化している とみられるが、生涯で見た持家率に大きな変動はないようだ。また持家のうち中古を 除く新築(分譲・新築・建替え)取得率でみてもほぼ同様の傾向が確認できるため、中 古住宅の取得が増えているわけでもない。 では 2008 年時点の年齢別持家率が将来的にも変化しないと仮定した場合、潜在的 な住宅需要はどの程度になるのだろうか。新規の住宅潜在需要は、各年齢階層の世 図表 7 持家系住宅着工戸数の推移 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 1Q 2Q 3Q 4Q (万戸) (注)2010年は各季調済み年率換算値。第4四半期は10月の値。 (資料)国土交通省「住宅着工」 (年) 2010年 図表 8 コーホート別新規持家取得率の推移 図表 9 コーホート別新規持家取得率(累積)の推移 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 ~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 1959~63 1964~68 1969~73 1974~78 (持家取得数/主世帯数、%) (資料)総務省「住宅・土地統計調査」 0 10 20 30 40 50 60 ~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 1959~63 1964~68 1969~73 1974~78 (持家取得数/主世帯数、累積%) (資料)総務省「住宅・土地統計調査」6 帯数にそれぞれの建替えを含む新築取得率を乗じることで試算できる8。世帯数の見 通しは国立社会保障・人口問題研究所の「世帯数の将来推計」(2008 年 3 月推計)を 用いる。但し、住民基本台帳による世帯数の実績値と世帯数推計は 2000 年以降、乖 離する傾向にある(図表 10)。世帯数推計が想定していた世帯人員規模に比べて、 実際の世帯当たり人員縮小の方が大きいことによる(図表 11)。そこで本稿では世帯 人員を修正した世帯数推計値を用いた9。その結果、持家の潜在需要は 2010 年時点 で 63 万戸と計算され、2014 年までごく緩やかに増加したのち減少に転じるが、2020 年頃までは 63 万戸程度の水準であまり変化しない(図表 12)。足元の持家系着工水 準(10 月は年率季節調整値 55 万戸)はこの潜在需要を下回っており、今後 8 万戸程 度の回復余地があると計算される。 8 持家着工は個人施工主の購入とほぼ同時期であると考えられるのに対して、分譲は購 入時よりも着工が数年先行する場合も多い。しかし世帯数増加の変動がごく緩やかであ ることから世帯数に基づく試算結果は数年のラグによって大きな影響を受けないと考 え、分譲についても購入と着工はほぼ同時期となる(ラグなし)と仮定した。 9 試算で用いる世帯総数は、世帯人員の 1 階差が、住民基本台帳の 2010 年実績(▲0.03) から 2030 年世帯数推計(▲0.01)まで線形で縮小するとして計算した世帯人員により、 社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2006 年)の人口見通しを除して算出。年齢 階級別世帯数は、世帯数推計の世帯主年齢別構成比を用いた。 図表 10 世帯数の推移 図表 11 世帯人員規模の推移 ▲ 30 ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 81 84 87 90 93 96 99 02 05 08 11 14 17 20 23 26 29 (前年差、万世帯) 住民基本台帳 国立社会保障 ・人口問題研究所 見通し (注)国立社会保障・人口問題研究所見通し(08年3月推計)は5年毎の ため、スプライン補完により年数値を算出。 (資料)総務省、国立社会保障・人口問題研究所 1.50 1.70 1.90 2.10 2.30 2.50 2.70 2.90 3.10 91 94 97 00 03 06 09 12 15 18 21 24 27 30 (資料)総務省、国立社会保障・人口問題研究所資料よりみずほ 総合研究所作成 (人/世帯) 試算で用いた 修正世帯規模 国立社会保障・人口問題研究所 推計による世帯規模 住民基本台帳 図表 12 持家の潜在需要 40 45 50 55 60 65 70 75 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 持家系着工戸数 潜在需要 (資料)国土交通省等資料よりみずほ総合研究所作成 (万戸)
7 貸家の潜在需要は 2010 年 時点で 33 万戸、以後減少 が続く見込み 貸家着工については、人口動態・世帯数変化などの需要側要因に加えて、金利や 初期コスト(建設デフレーター)などの貸家採算性や資産価格(キャピタルゲイン収益 率)を考慮した供給サイドの要因に左右される。金融危機後、貸家の着工は減少が 続いている(図表 13)が、これにはREITへの資金流入減などによって貸家への投資 が減少していることも影響している可能性が高い(図表 14)。こうした金融環境の変 化が貸家着工を変動させるのは確かだが、本稿では持家の潜在需要の推計と平仄 を合わせる形で人口動態・世帯数などの需要面から潜在需要を試算し、今後の回復 余地を探る。 貸家の潜在需要は、①「世帯数-持家数」による実需変化に、老朽化等によって② 空家として放置(空家増加数)あるいは③取り壊された(滅失数)家屋の代わりに必要 となる分、及び④建替え分(再建築数)を加えた総数と定義できる。①は住宅必要数 から持家ストック数を差し引いた、貸家ストック需要の変化である。具体的には、前節 の世帯人員を修正した年齢別世帯数推計値を用い、2008 年の年齢別持家率を先行 き一定として算出した持家数と、世帯総数との差分の変化数を用いた。②については、 地方の過疎化や高齢世帯等の死亡によって借り手が不在となるケースが増加してい ることなどもあり、貸家の空家率が趨勢的に上昇している(図表 15)。高齢化の進展 に伴い空家率は今後も上昇が続くと仮定し10、「住宅・土地統計調査」による貸家と空 家の割合(賃貸用・売却用住宅の空家数/借家居住数)の先行きをトレンド延長して 求めた。その他の要因については、貸家滅失数・再建築数は減少傾向にあるが(図 表 16、図表 17)、貸家ヴィンテージが上昇しているとみられることから、今後はそれ ぞれ減少に歯止めがかかると想定した。③については住宅滅失数の利用関係別デ ータが入手できないため、「建築物滅失統計調査」(国土交通省)の住宅滅失総数を 腐朽・破損住宅の貸家率(「2008 年住宅・土地統計調査」)を用いて按分して貸家滅 失数系列を作成し、2009 年以降を一定とした。④は住宅着工の再建築数/貸家スト ック数を 2009 年以降固定して算出した。 試算の結果、2010 年の潜在貸家需要は 33 万戸と計算される。従って、2009 年以降 10 世帯数推計が仮定する状態推移確率行列(配偶関係・世帯人員によるカテゴリー別世 帯主の単位期間(ここでは 5 年)後の所属カテゴリー変化率)を用いて単身世帯主死亡 数を計算すると、2010 年の 21 万世帯から 2030 年には 34 万世帯まで増加する。 図表 13 貸家着工戸数の推移 図表 14 REIT指数と貸家着工 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 1 2 3 4 (万戸) (注)2010年は各季調済み年率換算値。第4四半期は10月の値。 (資料)国土交通省「住宅着工」 (年) 2010年 (四半期) 700 900 1100 1300 1500 1700 1900 2100 2300 2500 2700 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 09/3 10/3 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 (資料)東京証券取引所、国土交通省 (2003/3/31=1000) (万戸) 貸家着工戸数 (季調済み年率、右目盛) 東証REIT指数(月末)
8 の貸家着工はほぼ潜在需要並み、つまり必要最低限の着工しか行われていないこと になる(図表 18)。日銀による買入公表後も REIT 指数に目立った上昇はみられず、 貸家への投資が積極化する動きはみられない(前掲図表 14)。こうした状況を踏まえ れば、当面の回復余地は潜在需要程度までとみられ、足元の貸家着工との差は 3 万 戸程度しかない。 潜在需要は 90 万戸台。中 小供給業者の資金繰り難 などが足枷 持家系・貸家潜在需要の合計に加えて、給与住宅着工を足元並みとして総住宅潜 在需要を計算すると、貸家需要の減退によって 2010 年度の 97 万戸から 2015 年度 の 92 万戸まで緩やかに減少していく(図表 19)。一方、足元の実際の着工戸数 (2010/4~10 平均の年率換算値)は 80.4 万戸となっており、現時点で潜在需要に対 して 17 万戸程度の乖離がある。 持家系を中心とした潜在需要との乖離要因の一つとして、金融危機による需要減 退が急激であったことから供給サイド企業の資金繰りが急速に悪化したため、供給が 細っている可能性も考えられる(図表 20)。金融危機後の不動産業の資金繰り判断 DIの悪化は特に中小企業で著しく、1998 年以来の水準まで急速に低下した。その 結果、不動産業の倒産件数は 2009 年初にかけて急増した(図表 21)。倒産件数自 体はその後、減少傾向にあるものの、未だ中小供給業者の資金繰り難が住宅着工に 影響している可能性もある。足元の住宅価格上昇は、市況回復に加えて、相対的に 高価な大手による供給の割合が高まった影響もあるとみられる。政策効果を勘案した 図表 15 貸家の空家率の推移 図表 16 貸家の再建築数の推移 15 17 19 21 23 25 27 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (注)賃貸・売却用空家数/貸家ストック。5年毎データのためスプライン 補間により各年値を算出。 (資料)総務省「住宅・土地統計調査」 (%) 0 2 4 6 8 10 12 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (資料)国土交通省「住宅着工統計による再建築状況の概要」 (万戸) 図表 17 貸家の滅失数の試算値 図表 18 貸家の潜在需要 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (注)滅失総数を2008年負地区・破損家屋の貸家比率で按分して算出。 (資料)国土交通省「建築物滅失統計調査」、総務省「住宅・土地統計調査」よりみずほ総 合研究所作成 (万戸) 25 30 35 40 45 50 55 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 貸家着工戸数 潜在需要 (資料)国土交通省等資料よりみずほ総合研究所作成 (万戸)
9 としても着工の回復テンポはごく緩やかにとどまるとみられ、2011 年度の着工数は 90 万戸弱と、引き続き潜在需要以下にとどまろう(図表 22)。 以上 図表 19 住宅着工戸数の潜在需要見通し 92 93 94 95 96 97 97 100 100 101 60 70 80 90 100 110 120 130 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 潜在需要 (注)1.グラフ中数値は潜在需要の値。 2.2010年度実績は4~10月平均の年率換算値。 (資料)国土交通省等資料よりみずほ総合研究所作成 (年度) (万戸) 住宅着工戸数 図表 20 不動産業の資金繰り判断DI 図表 21 不動産業の倒産件数 ▲ 60 ▲ 50 ▲ 40 ▲ 30 ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 大企業 中小企業 楽である 苦しい (%Pt) (資料)日銀短観 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 03 04 05 06 07 08 09 10 (件) (資料)東京商工リサーチ 図表 22 住宅の潜在需要と実際の住宅着工 (単位:万戸) 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 住宅着工戸数 103.6 103.9 77.5 81.8 88.8 持家系(持家+分譲) 59.4 58.3 45.1 50.8 55.2 貸家 43.1 44.5 31.1 30.1 32.3 潜在需要 99.9 99.7 97.3 96.8 96.5 持家系(持家+分譲) 61.9 62.4 62.7 63.0 63.1 貸家 37.4 36.8 34.0 33.2 32.8 (注)潜在需要及び2010~2011年度の住宅着工戸数はみずほ総合研究所見通し。 (資料)みずほ総合研究所作成 見通し
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