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大動脈スイッチ手術の1治験例 (平成5年12月29日受付)

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日本小児循環器学会雑誌 10巻4号 583〜587頁(1994年)

d−TGA II型に対するAubert変法による 大動脈スイッチ手術の1治験例

(平成5年12月29日受付)

(平成6年9月16日受理)

佐藤

国立療養所東長野病院心臓血管外科

渉  野々山真樹  竹村 隆広

      長野赤十字病院小児科

     若 林  靖 伸

原田 順和

key words:Aubert変法,大血管転位症, Shaher分類,動脈スイッチ術,自己大動脈壁フラップ

      要  旨

 d−TGA II型, PDAの乳児に対し, Aubert変法を用いた動脈スイッチ手術を施行し良好な結果を得た ので報告する.出生後,進行する呼吸不全,チアノーゼに対し日齢34日目にBASを施行し全身状態の改 善をはかった後,日齢66日目に動脈スイッチ手術を施行した.

 肺動脈狭窄のない完全大血管転位症(TGA)に対す る心内修復術として,現在冠動脈移植を伴う動脈ス イッチ手術(Jatene手術)1}が多く行われているが,冠 動脈走行がShaher分類2)の5型の症例に対しては,

Jatene手術で行われる冠動脈移植は屈曲を起こし易 く困難である.その様な症例に対しては,Senning手 術3),Mustard手術4)といった心房内血流転換術が行わ れている.しかしながら,それらの術式は解剖学的右 心室を系統動脈心室として用いるため術後遠隔期にお ける右心不全といった問題点がある.今回,d・TGA II 型,冠動脈走行Shaher 5a型の乳児に対し,河田,今 井らの方法5)に準じ,自己大動脈壁を用いた有茎フ

ラップによって大動脈一肺動脈交通口を作製し,その 交通口より冠動脈血流を確保するという術式(Aubert 変法)を用いて動脈スイッチ術を行い良好な結果を得

られた症例を経験したので術式を中心に報告する.

      症  例  症例:日齢66日,男児.

 主訴:チアノーゼ,呼吸異常  家族歴,既往歴:特記すべき事なし.

 現病歴:出生時体重2,932g,満期正常分娩にて出生

別刷請求先:東京都新宿区河田町8−1

     東京女子医科大学心臓外科 佐藤  渉

した.出生直後より心雑音を指摘され,体重増加の不 良を認めたものの,特に症状がないため放置していた.

日齢25日目に,過呼吸,チアノーゼを認め長野赤十字 病院小児科を受診し,d−TGA II型, PDAと診断され た.気管内挿管し,PGE,を投与したが全身状態が徐々

に悪化してきたため日齢34日目に,Baloon−

atrioseptomy(BAS)目的に当院に転院した. BAS施 行後,全身状態の改善をみたため一旦長野赤十字病院 に帰院した.帰院後,PGE1投与を中止したが全身状態 は安定し,日齢65日目に手術目的に再び当院に転院し

た.

 入院時現症:体重2,586g,血圧90/50mmHg,脈拍 162/分,呼吸数26/分,蹄泣時にチアノーゼを認めた.

聴診上,II音が充進し,胸骨左縁第3肋間を中心に Levine 2/6の収縮期雑音を聴取し,肝を4cm触知した.

 検査所見:末梢血,肝機能,腎機能に異常無かった が,喀疾培養にてMRSAを検出した.

 胸部X線写真:心胸郭比63%で,肺野は軽度血管陰 影が増強していた.

 BAS施行前の心臓カテーテル及び造影所見:表1 に示すように,右室と左室は等圧で,肺動脈と左室間 に引き抜きで14mmHgの圧較差を認めた.右心室及び 左心室造影では,肺動脈は左心室より起始し左斜め後 方に,大動脈は右心室より起始し右斜め前方に位置し

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584 (92)

表 1

Position PreSSUI e(mmHg) O、Sat.(%)

SVC

(4) 47.9

IVC (4) 45.3

RA

(4) 72.6

RV

50/ 87.2

Ao 48/ 83.7

L.PV (7) 1α〕.0

LA

(4) 100.0

LV

50/ 100.0

M.PA 32/12(18) 96.2

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日小循誌 10(4),1994

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図1 大動脈造影の正面像を示す.この時点では冠動  脈走行は,Shaher分類の1型と診断した.

ていた.また,肺動脈弁及び左室流出路には,狭窄は なかった.大動脈造影では(図1),PDAが認められ,

冠動脈走行はShaher分類の1型と診断した.

 手術所見:1992年1月16日,手術を行った.塩酸モ ルフィンによる全身麻酔下に胸骨正中切開にて心臓に 到達した(図2).ヘパリンを全身投与した後,上行大 動脈送血,両大静脈脱血,左房ベントにて体外循環を 開始し,PDAを切断した.直腸温を24℃とし大動脈遮 断後,Young氏液とGIK液により心筋保護を行った.

まず,経右房的に3×3mmのPerimembranous型の

VSDをパッチ閉鎖した.その後,大動脈をバルサルバ 洞上縁より15mm上方で切断し観察すると,大動脈弁 は二尖弁で,左右冠動脈口はともに後方のバルサルバ 洞に位置し,冠動脈走行はShaher分類5a型であった

(図3,7a).そのため,冠動脈の移植を行わずにAuber−

t変法を用いて動脈スイッチ手術を行う事とした.ま ず,大動脈と肺動脈の間に交通口を作製するため冠動

憾饅診㌣: ざ・

図2 術前の心臓を示す.大動脈は右心室起始し,右  前方に位置している.肺動脈は左心室起始し,左後  方に位置している.

 AO:大動脈, PA:肺動脈, RA二右心房, RV:右  心室

       

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図3 大動脈切断後の大動脈起始部を示す.大動脈弁  は二尖弁で左右の冠動脈口はともに後方のバルサル  バ洞に位置していた.矢印は左右の冠動脈口を示す.

脈が起始している大動脈壁とその対側の肺動脈壁を U字状に切開し,切開部同士を縫合した(図4,7c,

d).次に,冠動脈トンネルの構成部分となる有茎フ ラップを作製するため,大動脈前壁を大動脈弁付着部 直上まで切開し,そのまま弁輪部に平行に後方のバル サルバ洞壁へ切開を進めた(図5,7e)そのフラップ が冠動脈口を覆うように折り返し,冠動脈口がフラッ プによって肺動脈側と交通するように縫合した.その

(3)

平成6年12月1日 585 (93)

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図4 大動脈と肺動脈問の交通口の作製を示す.冠動 脈の位置する後方のバルサルバ洞側の大動脈壁と,

その対側の肺動脈壁をそれぞれU字状にその切開 部同士を縫合した.

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図5 大動脈壁より作製した有茎フラップ(矢印)を  示す.

時の縫合線は大動脈弁付着部直上から大動脈切断端ま でとした(図7f).縫合終了後, Lecompte法6)に準じ て肺動脈を大動脈の前方に引きだした後,大動脈の再 建を行った.その前方の縫合線はフラップの上縁とし た(図7g).大動脈再建後, ASDを直接閉鎖し大動脈 遮断を解除した.大動脈遮断時間は148分であった.そ の後,肺動脈の再建を行った.肺動脈の再建は,フラッ プとして用いた組織欠損部に異種心膜をあて肺動脈起 始部が十分に拡大されるように再建した(図6,7h).

体外循環からの離脱は問題なく,離脱時の中心静脈圧 は7cmH、0,左房圧は4mmHgであった.体外循環時間 は214分であった.手術後の血行動態は特に問題なく,

水分バランス管理のため6日間腹膜灌流を行ったが,

合併症もなく順調に経過し,術後6日目長野赤十字病

図6 開胸前の心臓を示す.肺動脈起始部は

 Xenomedica patchにより十分に拡大されているこ  とが分かる.

 neo PA:再建後肺動脈, neoAO:再建後大動脈,

 patch:肺動脈前壁に補填されたXenomedica  patch

院小児科に帰院した.

 その後は,呼吸管理に若干難渋したものの順調に経 過し,体重増加も良好で術後4カ月目外来受診時の体 重は3,600gであった.また,その時の心エコーでは,

大動脈と肺動脈間の交通口の開存は良好で,主肺動脈 に冠動脈フラップのためと思われる乱流を認めたが有 意な圧較差はなく,また,大動脈弁逆流も認められな

かった.

      考  察

 肺動脈狭窄のない大血管転位症(TGA)に対する心 内修復術として,Jatene手術が多く行われ特に心室中 隔欠損を伴った例では第1選択となってきている.し かし,TGAにおける冠動脈走行様式のなかでShaher 分類の5型,ことに前下行枝,回旋枝が大動脈と肺動 脈の問を走る5a,また前下行枝と右冠動脈が壁内走行 をする5c型では,移植後の冠動脈の屈曲を起こしやす

く,Jatene手術で行われる冠動脈の移植は極めて困難 である.また,移植後冠動脈の屈曲防止に肺動脈壁パッ チを用いたYacoub手術7)も報告されているが,一般 的にその様な症例に対しては,Senning手術, Mustard 手術といった心房内血流転換例や,Aortopulmonary window(A−P window)を作製し冠動脈血流を確保す

(4)

586 (94) 日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第4号

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図7 今回施行したAubert変法のシェーマを示す.

     neo PA   柑㌔、1.

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るというAubert手術8)行われる.しかし,それらの術 式には以前から指摘されているとおり,様々な問題点 がある.まつ,心房内血流転換術においては,長期遠 隔期における系統動脈心室である右室機能不全や,術 後不整脈が問題となり,それらは術後遠隔期死亡の大 きな原因でもある.一方,Aubert手術では,肺動脈内 にあてたダクロンパッチが発育とともに引っ張られ A−Pwindowからの十分な冠動脈への血流が得られな

くなる危険がある.また,この様な問題点に対し自己 大動脈壁をフラップに用いたTakeuchi手術9)も報告 されている.今回行った,自己大動脈壁を用いた有茎 フラップによって大動脈一肺動脈交通口を作製し,そ

の交通口より冠動脈血流を確保するという術式

(Aubert変法)では,自己組織をフラップとして用い るためフラップの成長が期待でき,Aubert法でA・P windowとして用いるpunch holeに比べて大きな両 動脈間の交通口を作製できるため十分な冠動脈血流が 得られるという利点がある.フラップ作製のために生 じた大動脈壁の組織欠損部に対しては,肺動脈再建時 に十分な大きさの異種心膜で補填拡大することによっ て後の肺動脈狭窄は回避できるものと思われる.その 後で行う動脈スイッチ手術に関しても大動脈,肺動脈 の吻合部の発育,機能的大動脈弁の遠隔期での機能と いった,いくつかの問題点はあるものの,動脈スイッ チ手術が安定した成績が得られるようになり,今まで,

心房内血流転換術が第1選択とされてきたShaher分

類5型,時には3型に対しても今後,積極的に採用さ れる術式であると思われる.

 尚,本論文の要旨は1992年9月12日第83回日本胸部外科 学会関東甲信越地方会にて発表した.

      文  献

 1)Jatene AD, Fontes VF, Paulista PP, Souza    LCB, Neger F, Galentier M, Sousa JEMR:

  Successful anatomic correcton of transposition    of the great vessels. J Thorac Cardiovasc Surg    1976;72:364

 2)Shaher RM, Puddu GC:Coronary arterial

   anatomy in complete transposit{on of the geat   vessels. Am J Cardiol l966;17:355

 3)Senning A:Surgical correction of transposi−

   tion of the great vessels. Surgey l959;45:966  4)Mustard WT, Keith JD, Trusler GA, Fowler R,

   Kidd L:The surgical management of trans・

   position of the great vessels. J Thorac Car−

   diovasc Surg 1964;48:953

 5)河田政明,今井康晴,黒沢博身,松尾浩三,高 英    成:壁内走行冠動脈を合併した3例の1型TGA    に対するAubert手術変法を応用した動脈スイッ    チ手術.日本心臓血管外科会誌 1990;20:333  6)Lecompte Y, Zannini L, Hazen E, Jarreau MM,

   Bex Jp, Tu TV, Neveux JY:Anatomic cor−

   rection of transposition of the great arteries. J    Thorac Cardiovasc Surg 1981;82:629  7)Yacoub MH, Radley−Smith R:Anatomy of

   the coronary arteries in transposition of the of    great arteries and methods for their transfer in

(5)

平成6年12月1日 587−(95)

︶8

anatomical correction. Thorax 1978;33:418 Aubert J, Pannetier A, Couvelly P, Unal D,

Rouault F, Delarue A:Trnsposition of the great arteries;New Technique for anatomical

︶9

correction. Br Heart J 1978;40二204

Takeuchi S, Katogi T: New technique for the arterial switch operation in difficu|t situations.

Ann Thorac Surg 1990;50:1001

ASuccessful Surgical Treatment of Transposition of the Great Arteries with        Ventricular Septal Defect Using Modified Aubert Procedure

   wataru Sato1), Masaki Nonoyamai), Takahiro Takemural),

       Yorikazu Haradal)and Yasunobu Wakabayashi2)

1)Department Cadiovascular Surgery, National Higashinagano Hospital         2)Division of Pediatrics, Nagano Red−Cross Hospital

    A66−day old boy underwent arterial switch operation successfully using modified Aubert procedure. The aortic valve was bi−cuspid with both coronary arteries originating from the posterior sinus, as in Shaher 5 a type anatomy. His post operative course was satisfactory.

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