パリ協定
2℃目標から見た
我が国の
2050 年排出削減目標に関する分析
Analyses on Japan's GHG Emission Reduction Target for 2050
in Light of the 2°C Target Stipulated in the Paris Agreement
秋 元 圭 吾
*・ 佐 野 史 典
*Keigo Akimoto Fuminori Sano
(原稿受付日2016 年 6 月 24 日,受理日 2016 年 12 月 19 日) 1.はじめに 2015 年 12 月にパリで開催された国連気候変動枠組条約 (UNFCCC)第 21 回締約国会議(COP21)において,2020 年以降(具体的には2030 年もしくは 25 年)の温室効果ガ ス排出削減枠組み・目標となるパリ協定 1)が合意された. 1997 年に採択され 2005 年に発効した京都議定書は,事実 上,先進国(附属書I 国)のみに温室効果ガス排出削減の 義務を負わせる枠組みであり,更に米国は批准せず,カナ ダも途中で離脱することとなった.結果としては2000 年以 降の世界排出量はむしろそれ以前よりも排出の速度を高め 2),京都議定書の効果はあまりなかったと考えられる.その 間,例えばEU は地域内で化石燃料が燃焼されて排出され たCO2は削減が進んだが,域外で製品等が製造されて排出 され,その製品がEU に輸出され消費された場合も CO2排 出として計上して排出量を計算した場合(消費ベースCO2 排出と呼ばれる),EU の排出量は 1995~2011 年の間でほと んど減少しなかったとの報告もOECD 等からもなされてい る3).すなわち,世界レベルで見ると,EU であっても排出 削減は実現しなかった.このような中,すべての国が実質 的に排出削減に取り組む新たな国際枠組みの必要性の認識 が共有されるようになり,ようやくパリ協定により,先進 国と途上国という隔てなく,ほぼすべての国が温室効果ガ ス排出削減に取り組む法的拘束力を有する国際枠組ができ た.特にこの点でパリ協定は画期的なものと言える. パリ協定では長期目標に関して,第2 条の目的において 「全球平均気温上昇を産業革命前に比べ 2℃を十分に下回 るようにし,また1.5℃に抑えるような努力を追求」すると した.そして,「協定第2 条の長期目標を達成するため,世 界の温室効果ガス排出をできる限り早期にピークにする. その後,急速に削減し,今世紀後半には,温室効果ガスに ついて人為的起源排出とシンクによる吸収をバランスさせ る.」(第4 条 1 項)とされた.なお,「すべての国は,温室 効果ガス低減のための長期発展戦略を策定するよう努力す べき」(第4 条 19 項)とし,COP21 決定では 2020 年まで に策定するようにと時期も明示された. パリ協定の上位に位置するUNFCCC においては,「気候 系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準 において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること を究極的な目的とする.そのような水準は,生態系が気候 変動に自然に適応し,食糧の生産が脅かされず,かつ,経 済開発が持続可能な態様で進行することができるような期 間内に達成されるべき」とされている.パリ協定では,世 界が目指す地球温暖化抑制の数値レベルを明記したという 点で大きな変化である.また,濃度安定化ではなく,気温 上昇レベルを目標にする記述に書き換わった.しかし,気 温目標の場合,温室効果ガス排出と気温上昇との関係の不 確実性の大きさが,排出経路に大きな影響を及ぼす.これ The Paris Agreement describes “To hold the increase in the global average temperature to well below 2 °C above pre-industrial levels.” The Plan for Global Warming Countermeasures by the Japanese Government includes the emission reduction target of 80% by 2050 corresponding to the 2 °C target although several conditions including compatibility with its economic growth are imposed. This paper firstly estimated the global emission pathways for the 2 °C target considering scientific and policy uncertainties. Then, based on the global emissions in 2050, emission reductions required of Japan were estimated under the condition of equalized marginal abatement costs across countries in 2050 by using a global energy and climate change mitigation model having regionally disaggregated. The result shows emission reduction required of Japan varies widely ranging from +0 to -77% relative to 2010. In addition, for the 80% reductions by 2050, the mitigation measures and costs were estimated. The CO2 marginal abatement costs were found around six thousand $/tCO2 and the annual
mitigation costs were 29−72 trillion JPY. The 80% reductions by 2050 in Japan are very difficult to be achieved.
*公益財団法人地球環境産業技術研究機構システム研究グループ
〒612-0292 京都府木津川市木津川台 9-2
E-mail: [email protected]
第35 回エネルギー・資源学会研究発表会の内容をもとに作成され
について本稿で検討を行った. 一方,我が国においては,政府はパリ協定を受ける形で, 2016 年 5 月に地球温暖化対策計画を閣議決定した4).そこ では,「我が国は,パリ協定を踏まえ,全ての主要国が参加 する公平かつ実効性ある国際枠組みの下,主要排出国がそ の能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し, 地球温暖化対策と経済成長を両立させながら,長期的目標 として 2050 年までに 80%の温室効果ガスの排出削減を目 指す.このような大幅な排出削減は,従来の取組の延長で は実現が困難である.したがって,抜本的排出削減を可能 とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる 解決を最大限に追求するとともに,国内投資を促し,国際 競争力を高め,国民に広く知恵を求めつつ,長期的,戦略 的な取組の中で大幅な排出削減を目指し,また,世界全体 での削減にも貢献していくこととする.」とした. 本稿では,産業革命以前比で全球平均気温上昇を 2℃以 内に抑制する目標のための世界排出経路を導出し,そのと きの2050 年の世界の排出削減を費用最小化,すなわち,世 界の限界削減費用が均等化する条件をおいて,日本の2050 年排出量を導出した.一方,日本国内で 2050 年に 80%削 減を達成するとした場合の削減費用と対策のあり方を分析 した. 2. 2℃目標と世界の排出経路 2.1 2℃目標に関する不確実性 2℃目標は,これを超えると危険であると科学的に導かれ た目標では必ずしもない.例えばKnutti らは,「2℃目標の 根拠は科学的評価にもとづいており,広くグローバルに受 け入れられた目標と認識されているが,この認識は誤って いる.2℃目標が安全な水準であることを明確に主張・正当 化した科学的評価はなく,これは科学だけで対応出来る問 題ではない.」としている 5).また,2℃目標の水準に関し ても多くの批判があり,例えばGeden は,「2℃実現へは時 間切れになりつつあるが今行動すれば間に合うという気候 政策のスローガンは科学的にナンセンスである.それを言 わないアドバイザーというのは科学的評判と人々の信用を 損ねている.」としている6).このように,科学的には2℃ 目標はその妥当性についても,引き続き議論されるべき目 標である.しかし,本稿では,パリ協定で政治的に設定さ れた 2℃目標を前提として分析を行うこととする.一方, 2℃未満に抑制するとしても,2℃目標には自然科学的な不 確実性と政治目標としての曖昧さからくる不確実性が存在 している. 自然科学的な不確実性は,気候感度に代表されるもので ある.平衡気候感度(CO2濃度が倍増し安定化したときの 最終的な全球平均気温上昇幅)については,IPCC 第 3 次評 価報告書(TAR)7)までは1.5~4.5℃,最良推定値が 2.5℃ と評価されてきた.一方,2007 年に発行された第 4 次評価 報告書(AR4)8)では上方に修正され,2.0~4.5℃,最良推 定値3.0℃と評価された.ところが,最新となる第 5 次評価 報告書(AR5)9)では,平衡気候感度は1.5~4.5℃(最良推 定値は合意できず)と再び下方のレベルが広がり,AR4 以 前の幅と同様となった.これによって,仮に 2℃未満に抑 制するとしても許容される排出量は大きく異なってくる (Kaya et al.10)も参照). 政治目標としての曖昧さからくる不確実性としては,パ リ協定では,"well below 2 °C"とされたが,上記のように大 きな不確実性が存在する中で"well below"をどう考えれば 良いのかという問題がある.IPCC では,気候感度の不確実
性を踏まえた上で,"likely"が>66%確率,"More likely than not"が>50%確率などとして定義し,2℃未満などの気温目 標の達成確率を提示している 2).しかし,これもそもそも 気候感度の確率密度関数が実際には不明な中で,IPCC AR5 においては,MAGICC モデル11)で想定されている確率密度 関数(AR4 の気候感度の判断を参考に設定,気候感度の最 頻値および中央値は3.0℃と想定されたもの)で計算されて いる2, 12-13).また,将来にわたって2℃を超えないとするの か,たとえば2100 年時点を判定基準にするのか,もっと遠 い将来(たとえば2300 年など)を判定基準とするのか,ま た気温のオーバーシュートを認めるのか,など様々に考え られる. そのほかにも産業革命以前とは何年を指すのかについて も曖昧との指摘もある 5).その基準年のとり方によって 0.1−0.2℃程度の差異は出てくるが,0.1−0.2℃とは言え,許 容排出量は必ずしも小さくはない差異となる(本稿ではこ れについては議論せず,IPCC WG3 AR5 のシナリオに対す る気温推計の基準に用いられている1850-1900 年の間の平 均を基準とした). 2.2 不確実性を踏まえた 2℃目標の排出経路の導出 これらの研究背景を基に,本研究では,図 1 のような2℃ 目標に対応した5 種類の全球平均気温上昇経路を想定した. 平衡気候感度について,そのうちの 3 種類は 3.0℃(AR4 における最良推定値)を想定し,2 種類は 2.5℃(AR4 以前 の最良推定値)を想定した.例えば,450 ppm CO2eq 濃度 安定化の場合,濃度が安定化した後にも緩やかに気温の上 昇が続く.そのため,2100 年断面で見ると,>66%確率で 2℃ 未満となるが(期待値としては1.6℃程度),2300 年頃にな ると2℃未満となる確率が>50%に近づいていく.一方,2100 年に>50%確率で 2℃未満(一旦,わずかながら気温はオー バーシュート)となるシナリオは,2100 年以降は緩やかに 気温が低下していくため,2300 年では期待値として 1.8℃ 程度で,それ以降,更に低下が期待できるため,2300 年で
0.5 1 1.5 2 2.5 1990 2040 2090 2140 2190 2240 2290 185 0 ~ 189 9 年比気温上昇 [K] 2.0℃安定化_気候感度2.5℃ (580 ppmを超えない) 2.0℃安定化_気候感度3.0℃ (500 ppm程度以下) 2100年2.0℃_気候感度3.0℃ (530 ppmを一旦超える、気温の オーバーシュート) 2100年2.0℃_気候感度2.5℃ (580 ppmを一旦超える) 450ppmCO2eq安定化_気候感 度3.0℃ 2050 2100 2300 2010 図 1 本研究で分析を行った2℃目標と整合性のあると考 えられる全球平均気温上昇経路の想定 は,むしろ450 ppm 安定化シナリオよりも高い確率で 2℃ 未満となり得る.なお,気温が安定化するシナリオでは, 温室効果ガス濃度はオーバーシュートし,その後,濃度は 時間とともに低下する.パリ協定の"well below 2 °C"は国際 政治文書における曖昧な表現であるが,本稿では図 1 のよ うな"well below 2 °C"に対応すると考えられる 5種類のシナ リオを想定して分析することとした. このとき,CO2排出量とGHG 排出量は,簡易気候変動モ デルMAGICC11)を用いて推計すると,図 2,3 のような経 路となる(図 2 は2300 年まで表示,図 3 は 2100 年までを 表示).これは2℃目標に限ったことではないが,気温安定 化のためにはいずれの排出経路をとっても,いつの時点か にはCO2排出量をほぼゼロにする必要があり,この場合で も2100~2300 年にかけてゼロ近辺に収斂している.一方で, 2℃未満とする時期,実現期待確率,気候感度の分布等によ って,2100 年までの排出経路は大きく異なってくることが わかる.特に2050 年頃までの排出経路は大きな違いが見ら れ,ここで想定したシナリオだけでも2050 年の GHG 排出 量は 2010 年比で+13%~▲71%まで大きな幅が見られた (CO2排出量は 2010 年比で+11~▲66%,非 CO2のGHG 排出量は+2~▲4%.削減率はいずれも分母は 2010 年 GHG 排出量とした場合).IPCC AR52)のシナリオ整理では,各種 モデル計算の報告から2100 年に 430-480 ppm CO2eq となる シナリオを整理した結果として2010 年比▲41%~▲72%と 報告している.しかし,2℃目標との整合がある排出削減水 準は,このようにもっと幅広く考えることが可能である. -10 0 10 20 30 40 50 2010 2060 2110 2160 2210 2260 CO 2 排出量 [GtC O 2 /yr ] 2.0℃安定化_気候感度2.5℃ (580 ppmを超えない) 2.0℃安定化_気候感度3.0℃ (500 ppm程度以下) 2100年2.0℃_気候感度3.0℃ (530 ppmを一旦超える) 2100年2.0℃_気候感度2.5℃ (580 ppmを一旦超える) 450 ppm CO2eq安定化 2050 2100 2300 図 2 2℃目標のための世界 CO2排出経路 0 10 20 30 40 50 60 70 1990 2010 2030 2050 2070 2090 G HG 排出量 [G tC O 2e q/ yr ] 2100年2.0℃_気候感度2.5℃ 2100年2.0℃_気候感度3.0℃ (オーバーシュート) 2.0℃安定化_気候感度2.5℃ 2.0℃安定化_気候感度3.0℃ 450ppm濃度安定化 2020年以降の約束草案を踏ま えた排出見通し(RITE推計) ▲71% ▲31% ▲42% +13% ▲19% 2100 いずれも2010年比 図 3 2℃目標のための世界温室効果ガス排出経路 なお,2015 年 10 月 1 日までに提出された各国の約束草 案から推計した 2030 年までの世界の温室効果ガス排出量 は,気候感度2.5℃で考えた場合の 2100 年に 2℃未満目標 のシナリオとほぼ整合的と評価される14)(図 3 中の赤太線). これによって緩和費用も大きく異なってくる.著者らが 開 発 し て い る 世 界 エ ネ ル ギ ー ・ 温 暖 化 対 策 モ デ ル DNE21+15,16)(付録にモデルの概要を記載)による推計では, 世界全体で排出削減費用最小化(限界削減費用均等化)を 想定した場合,2050 年に 2010 年比+13%の場合は 26 $/tCO2, ▲71%の場合は 2075 $/tCO2と推計された.このとき,所得 階層によって世界 4 地域に区分したときの地域別の 2050 年の排出削減率は表1 のとおりである.高所得国では 2010 年比で▲9~▲78%,高中位所得国(中国等)は+17~▲71%, 低中位所得国(インド等)は+129~▲16%,低所得国は▲ 70~▲200%程度である.低所得国で削減率が高いのは,と りわけサブサハラアフリカにおいて比較的安価で実現可能 と推計される植林によるCO2固定対策のポテンシャルが大 きいことに依っている.日本に求められる排出削減と対策 の内訳については次章で述べる. 表 1 2℃目標のための世界温室効果ガス排出経路におけ る2050 年の世界地域区分別の 2010 年比排出削減率(括弧 内の数字は植林による CO2固定対策を除外した場合の数 字) 高 所 得 国 高 中 位 所得国 低 中 位 所得国 低 所 得 国 2010 年 の 世 界 GHG 排出量に対 する割合 43.8% 39.4% 12.5% 4.3% 450 ppm 濃度安定 化 ▲78% (▲67%) ▲71% (▲55%) ▲16% (▲17%) ▲200% (+16%) 2.0℃安定化_気候 感度3.0℃ ▲54% (▲39%) ▲41% (▲26%) +26% (+32%) ▲152% (+69%) 2.0℃安定化_気候 感度2.5℃ ▲40% (▲25%) ▲17% (▲2%) (+86%) +81% ▲106% (+113%) 2100 年 2.0℃_気候 感度3.0℃ ▲46% (▲31%) ▲31% (▲15%) (+56%) +51% ▲128% (+92%) 2100 年 2.0℃_気候 感度2.5℃ ▲9% (▲3%) (+32%) +17% (+134%) +129% ▲70% (+148%) 注)地域区分はWorld Bank (2013)15の区分に基づく.高所得国:$12,616 以 上,高中位所得国:$4,086~$12,615,低中位所得国:$1,036~$4,085,低所 得国:$1,035 以下.IPCC AR52)ではこの区分で地域差が示されている.
3.2℃目標の世界排出経路の限界削減費用均等化時の日 本の 2050 年排出削減量 本章では,前章で推計した 2℃目標のための複数の世界 排出経路を基に,世界全体での削減費用最小化(限界削減 費用が世界で均等化)時に,日本で求められる2050 年の排 出削減量を推計した(図 4).2030 年までの排出削減目標と なる約束草案においては,世界の限界削減費用は大きな差 異があるが,効率的,効果的な排出削減のためには,費用 の配分は別の課題としてあるとしても,限界削減費用が均 等化する方向での対策が求められる.このとき,日本の 2050 年時点の排出削減レベルは,2010 年比で+0%~▲77% と大きな幅が生じる(パリ協定では,目標を深掘りしてい くことを求めており,それに照らせば,2030 年の約束草案 である2013 年比▲26%(2010 年比では▲20%程度)を下回 る削減は除外されるべきではある).450 ppm CO2eq 安定化 シナリオを前提とすれば,2050 年に約 80%削減という数字 も妥当性を有するものとなるが,広く 2℃目標をとらえる と,大きな幅をもって2050 年時点などの排出削減レベルを 認識すべきと考えられる. なお,図 3 で示しているように,提出された世界の約束 草案を積み上げると,特に450 ppm CO2eq 安定化シナリオ や 2℃安定化(気候感度 3.0℃)シナリオの世界排出経路 (2050 年に 2010 年比 40~70%減程度)からは大きく外れ ていることを理解しておくべきである. 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 G HG 排出量 [M tC O 2e q/ yr ] 実績値 ベースライン(BAU) カンクンプレッジ+約束草案 2100年2.0℃_気候感度2.5℃ 2100年2.0℃_気候感度3.0℃ (オーバーシュート) 2.0℃安定化_気候感度2.5℃ 2.0℃安定化_気候感度3.0℃ 450ppm濃度安定化 +0% いずれも2010年比 ▲28% ▲38% ▲53% ▲77% カンクンプレッジ 2005年比▲3.8% 約束草案 2013年比▲26% 限界費用:26$/tCO2 57$/tCO2 120$/tCO2 244$/tCO2 2075$/tCO2 ▲2% 図 4 2℃目標,限界削減費用均等化時の日本の温室効果ガ ス排出経路 注1)2100 年 2.0℃_気候感度 2.5℃の時の 2050 年排出量はベースライン
(Business as Usual: BAU)排出量を上回っているが,これは 2050 年以前の 対策の違いによって国際的な化石燃料価格が異なってくる等の影響による. 注2)カンクンプレッジは,COP16 カンクン合意に基づいて各国が宣言した 2020 年の排出削減目標であり,日本は原子力発電の再稼働がないとした場 合の目標として2005 年比 3.8%削減をとしている. また,図 5,6 にそれぞれ,2℃目標,限界削減費用均等 化時の日本の 2050 年の一次エネルギー供給量と電源構成 を示す.2℃目標と整合的と考えられるシナリオであっても, 気候感度が2.5℃で考えた場合の 2100 年に 2℃未満目標の シナリオにおいて,世界の限界削減費用均等化を前提とす れば,日本のエネルギー構成で現状よりも石炭を増加させ ることが費用効率的と推計される(一次エネルギー総供給 量および化石エネルギー総供給量は2010 年比で低減).一 方,ここで想定したシナリオのうち,その他のシナリオに おいては,石炭利用の場合でもCCS 利用などが相当量見ら れる.また,原子力発電については,総発電電力量比で 4 割程度となる結果となっている.また,ここで想定したシ ナリオの中で最も大幅な排出減となる 2050 年▲77%の場 合は,再生可能エネルギーの更なる利用拡大とともに,相 当量の水素発電も費用効率的な対策の一部となる(ただし この時の限界削減費用は2075 $/tCO2程度). 0 100 200 300 400 500 600 2010 年実績 2100 年 2. 0 ℃ _ 気候感度 2. 5 ℃ 2100 年 2. 0 ℃ _ 気候感度 3. 0 ℃ (オ ー バ ー シ ュ ー ト) 2. 0 ℃ 安定化 _ 気候感度 2.5 ℃ 2. 0 ℃ 安定化 _ 気候感度 3.0 ℃ 450ppm 濃度安定化 一次エ ネ ルギ ー 供給 [M to e/y r] 輸入水素 輸入バイオ燃料 太陽光 風力 原子力 水力・地熱 バイオマス(CCS有) バイオマス(CCS無) ガス(CCS有) ガス(CCS無) 石油(CCS有) 石油(CCS無) 石炭(CCS有) 石炭(CCS無) 2050年
26$/tCO2 120$/tCO2 57$/tCO2 244$/tCO2 2075$/tCO2
図 5 2℃目標,限界削減費用均等化時の日本の 2050 年の一 次エネルギー供給量 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 2010 年実績 2100 年 2.0 ℃ _ 気候感度 2.5 ℃ 2100 年 2.0 ℃ _ 気候感度 3.0 ℃ (オ ーバ ーシ ュ ート ) 2.0 ℃ 安定化 _ 気候感度 2.5 ℃ 2.0 ℃ 安定化 _ 気候感度 3.0 ℃ 450ppm 濃度安定化 発電電力量 [T W h/ yr ] 水素 太陽光 風力 原子力 水力・地熱 バイオマス(CCS有) バイオマス(CCS無) ガス(CCS有) ガス(CCS無) 石油(CCS有) 石油(CCS無) 石炭(CCS有) 石炭(CCS無) 2050年
26$/tCO2 120$/tCO2 57$/tCO2 244$/tCO2 2075$/tCO2
図 6 2℃目標,限界削減費用均等化時の日本の 2050 年の電 源構成 4.日本の 2050 年 80%排出削減時の排出削減費用と対策 次に本章では,前提条件付きながら,地球温暖化対策計 画で言及された2050 年 80%削減について分析評価を行っ た結果をまとめる. 4.1 分析のケース想定 ここでは,2005 年比 80%削減について評価を行った(第 2~3 章においては IPCC AR5 のシナリオ分類時の基準年で
ある2010 年比で記載している.一方,本章では地球温暖化 対策計画2)で記載の80%減の基準年は明記されていないが, 2020 年目標のカンクンプレッジなどで,日本政府がこれま でにしばしば用いてきた 2005 年を基準年として 80%削減 について分析を行った.2010 年比では 79%減程度となる). その上で,電源構成等の技術の利用可能性についての条 件として,表 2 のように複数のケースを想定して分析を行 った.国内の具体的な対策を詳細に検討するため,ケース [a]~[e]については不確実性が大きい植林による CO2固定 は想定していない.一方,第3 章での分析の技術想定条件 は植林による CO2固定オプションも含むケース[f]である. なお本章の分析では,世界排出量については,すべてのケ ースにおいて2005 年比で半減(気候感度 3℃の場合の 2℃ 目標と概ね整合的な世界排出量)を想定した. 4.2 分析・評価結果 図7 には,日本において 2050 年 80%削減時の一次エネ ルギー供給量を,図 8,9 には,同じく電源構成と最終エネ ルギー消費量を示す(比較のためベースライン(BAU)も 表 2 2050 年 80%削減分析のためのケース想定 ケース名 内容 [a] 約 束 草 案 電 源 構 成 比 率 継続 約束草案の前提となっている2030 年の電源構成比率(石 炭26%,石油 3%,ガス 27%,原子力 20%,再エネ 24%) を2050 年も継続する(エネルギー安全保障や社会的な 受容性など,電源構成決定において考慮すべきだが,モ デルで考慮できない要素が多いと想定して設定したケ ース). [b] 電 源 構 成 最適化 電源構成についても,DNE21+モデルによる費用最小化 の最適化計算によって決定する. [c] 電 源 構 成 最 適 化 + 原 子 力 発 電 フ ェ ー ズアウト 2030 年より先は,40 年ルールに基づいて原子力発電は フェーズアウトすると想定(2050 年における原子力発電 電力量は19 TWh/yr と想定).その他の電源については, DNE21+モデルによる費用最小化の最適化計算によって 決定する. [d] 電 源 構 成 最 適 化 +CCS 拡大* 電源構成最適化ケースについて,利用可能なCCS を拡 大する. [e] 電 源 構 成 最 適 化 + 水 素 国際輸出入有 電源構成についても,DNE21+モデルによる費用最小化 の最適化計算によって決定する.他想定のケースは,保 守的に水素の国際輸出入は想定しないとした仮定した のに対して,本ケースでは国際輸出入も費用効率的な範 囲で利用するとした場合 [f] 電源構成最 適 化 + 水 素 国 際 輸 出 入 有 + 植林有** [e]に加え,植林オプションについても費用効率的な範囲 で利用するとした場合(本ケースは第3 章の分析と技術 想定に関する条件が同じもの) * CCS については,約束草案において 2030 年の利用が想定されていないこ とから,2030 年より後の時点で利用可能とし,短期間で貯留ポテンシャル を使い切ることがないよう,その拡大率に制約をおいて分析を行った(日本 の2050 年における最大 CO2 貯留量は 91 MtCO2/yr). [d]ケースでは,この 拡大率の制約に関し,よりCCS の拡大が可能と想定し,日本の 2050 年に おける最大CO2 貯留量は 182 MtCO2/yr と想定した.総 CO2 貯留可能量の 想定は付表5 に示す. ** 約束草案では 2030 年の温室効果ガス吸収源対策として 37 MtCO2/yr を見 込み,その内数として農地土壌炭素吸収源対策及び都市緑化等の推進による 温室効果ガス排出削減として9.1 MtCO2/yr が想定されているが,ここでは植 林によるCO2固定対策のみを考慮した. 示す).また,表 3 には,そのときの CO2限界削減費用と ベースライン(BAU)比の排出削減費用を示す. DNE21+モデルによる計算では,[a] 約束草案電源構成比 率を2050 年まで継続した場合には,2050 年 80%削減の実 行可能解は見いだせなかった.それ以外[b]~[f]ケースにお いては,鉄鋼,セメント部門では,生産プロセス上,石炭 利用が一定量不可欠であり,また鉄鋼部門ではCCS を実施 することを想定しても,実際上,高炉ガスからのCO2回収 となるため,転炉鋼生産プロセス全体でのCO2排出量の3 割程度しか回収が困難であることなどから,これら部門か らの排出で許容排出量(2005 年比 20%)の多くを占めてし まう.CCS は,脱炭素化対策のオプションが比較的多く存 在している発電部門よりも鉄鋼部門で優先的に利用するこ とが効果的との結果となっている.また,発電部門ではCCS 利用によって回収はできるものの,このような極めて厳し い排出削減目標下では1 割程度未回収となる CO2排出もネ ックとなり(分析結果としての平均CO2回収率はケースに よって90~93%程度),CCS 利用拡大ケース(ケース[d]) でも発電部門における CCS 利用拡大はあまり大きく見ら れない(ケース[d]では,化石燃料からの水素製造の際の CCS 利用が多く見られ,都市ガス代替や燃料電池自動車に 利用).なお,いずれのケースでもバイオマス発電CCS の 利用もわずかながら見られる結果となっており,結果とし て実行可能解があったケース[b]~[f]すべてで,発電部門全 体としては 2050 年にはわずかながら正味負の排出原単位 となっている. またいずれのケースにおいても,バイオ燃料は特に運輸 部門において大きく利用される結果となっている他,原子 力フェーズアウトケース(ケース[c])では発電部門におい ても相当量のバイオマス利用が見られる.なお,ケース[c] 以外は原子力比率が4 割強となっている(モデルの前提条 件として原子力比率の上限は 5 割としている).ケース[c] では,一次エネルギーで見ても相当量(約37%)のバイオ マス利用となっており,これは約3.2 Mha を利用し多年生 として2040~2050 年までの間に蓄積したバイオマスを 2050 年時点の単年で多くを伐採して利用するような結果(2050 年で約110 Mtoe/yr の供給)ともなっている,そのため,モ デル計算を行っていない 2050 年以降の持続的な排出削減 の実行可能性という点からも懸念が生じる結果となってい る. 最終エネルギーを見ると,いずれのケースでも,天然ガ ス系の利用もほとんどできず,大部分を水素に転換する必 要があることが示されている.なお,電力での脱炭素化対 策のオプションが多いケースほど,電力比率を高めること が費用効率的な結果となっていることがわかる.例えば, 2010 年の最終エネルギーで見た電力比率は 30%程度,ベー
スラインでの2050 年は 35%程度であるが,ケース[d]と[e] では2050 年に約 46%となっている.一方,ケース[c]は約 43%である. 運輸部門については,乗用車において,プラグインハイ ブリッド車でのバイオ燃料および電力利用,そして燃料電 池自動車での水素利用が必要となっている.また小型トラ ックでは電気自動車やバイオ燃料ハイブリッド車,大型ト ラックでは水素燃料電池車が主となっている.道路交通部 門全体の石油系燃料利用は,当該部門のエネルギー消費量 全体の6~7%に留まる結果になっている.また,その他の 交通部門(鉄道,航空,海運)においても,液体燃料比率 が低下するとともに,液体燃料に占める石油系燃料比率は 3 割程度まで抑制する(残りはバイオ系燃料)結果となっ ている. なお,ケース[f]では安価なオプションとしての植林によ りCO2排出削減を行う結果となっているが(費用効率的な 対策の結果として2050 年時点で約 30 MtCO2/yr の CO2吸 収),植林のために土地を利用するため,ケース[e]に比べ 国内バイオエネルギー生産量が減少する.バイオ燃料利用 の減少し,替わりに石油系燃料の消費が大きくなるが,省 エネをより進展させ,液体燃料全体としての消費量はケー 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 ベ ー ス ラ イ ン( BAU ) [a ] 約束草案電源 構成比率継続 [b ] 電源構成最適化 [c] 電源構成最適化 + 原子力発電フ ェ ー ズ ア ウ ト [d] 電源構成最適化 +CCS 拡大 [e] 電源構成最適化 + 水素国際輸出入有 [f] 電源構 成最適 化 + 水素 国際輸出入有 + 植林有 一次エ ネ ルギ ー 供給 [M to e/y r] 輸入水素 輸入バイオ燃料 太陽光 風力 原子力 水力・地熱 バイオマス(CCS有) バイオマス(CCS無) ガス(CCS有) ガス(CCS無) 石油(CCS有) 石油(CCS無) 石炭(CCS有) 石炭(CCS無) 実行可能解 なし 図 7 2050 年の BAU および 80%削減時の日本の一次エネ ルギー供給量 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 ベ ー ス ラ イン (BAU ) [a ] 約束草案電源 構成比率継続 [b ] 電源構成最適化 [c] 電源構成最適化 + 原子力発電フ ェ ー ズ ア ウ ト [d ]電源構成最適化 +CCS 拡大 [e ]電源構成最適化 + 水素国際輸出入有 [f] 電源構成最適化 + 水素 国際輸出入有 + 植林有 発電電力量 [T W h/ yr ] 水素 太陽光 風力 原子力 水力・地熱 バイオマス(CCS有) バイオマス(CCS無) ガス(CCS有) ガス(CCS無) 石油(CCS有) 石油(CCS無) 石炭(CCS有) 石炭(CCS無) 実行可能解 なし 図 8 2050 年の BAU および 80%削減時の日本の電源構成 ス[e]より減少する結果となっている.また CCS 付のバイオ マスガス化も減少し,それにより生産される国内水素が減 少し,替わりに海外からの水素輸入が増大する.またそれ に伴い,CCS 付のバイオマスガス化に要する電力消費量も 減少し,全体の発電電力量も小さくなっている. 表 3 で見ることができるように,2050 年に日本国内の温 室効果ガス排出を80%削減しようとすると,実行可能解が 存在したケースは,ケース[f]を除くいずれのケースも,限 界削減費用は6000 $/tCO2程度,BAU 比の排出削減費用は 年間43~72 兆円が必要となる.また,植林による排出削減 が 2%ポイント分程度(植林対策を除くと 78%程度の排出 削減)となるケース[f]でも限界削減費用は 3500 $/tCO2程度, BAU 比の排出削減費用は年間 29 兆円が必要となり,いず れも現実に許容できるようなレベルの排出削減費用ではな いと考えられる(成り行きケースでのGDP 増加は 2030-50 年の間で13 兆円程度であり,それを大きく超える費用とな る).第3 章における分析の 450 ppm ケース(このとき限界 削減費用は2100 $/tCO2程度で,日本の2050 年の排出削減 率は2010 年比 77%削減程度相当)と比較しても,わずか 0 50 100 150 200 250 300 ベ ー ス ラ イン (BAU ) [a ] 約束草案電源 構成比率継続 [b ] 電源構成最適化 [c] 電源構成最適化 + 原子力発電フ ェ ー ズ ア ウ ト [d ]電源構成最適化 +CCS 拡大 [e ]電源構成最適化 + 水素国際輸出入有 [f] 電源構成最適化 + 水素 国際輸出入有 + 植林有 最終エ ネルギ ー 需要 [M to e/y r] 電力 水素 ガス バイオ燃料 石油系液体燃料 バイオマス 石炭 実行可能解 なし 図 9 2050 年の BAU および 80%削減時の日本の最終エネ ルギー消費量 表 3 2050 年 80%削減時の日本の削減費用推計 ケース名 限界削減費用 ($/tCO2) BAU 比排出削減費用 (兆円/年) [a] 約束草案電源構成 比率継続 実行可能解なし [b] 電源構成最適化 6231 52 [c] 電源構成最適化 +原子力発電フェー ズアウト 5974 72 [d] 電 源 構 成 最 適 化 +CCS 拡大 5963 48 [e] 電源構成最適化 +水素国際輸出入有 5836 43 [f] 電源構成最適化+ 水素国際輸出入有+ 植林有 3516 29 注)ケース[f]は植林対策分を除くと 2005 年比▲78%相当となる.
2%ポイント程度の差でしかないが,同じ技術想定条件の場 合で3500 $/tCO2と1.5 倍程度となり,また植林対策分を加 えずに8 割減とする場合には 6000 $/tCO2程度と3 倍程度に 上昇する.その追加的な排出削減対策としては運輸部門の 大型トラックの水素燃料電池自動車化や小型トラックの電 気自動車化の徹底,また水素製造においても450 ppm ケー スでは化石燃料改質 CCS による製造が主だったものが, 80%削減の場合には,バイオマスガス化 CCS によってネガ ティブ排出にするなど,小さい追加的な排出削減量を高い 排出削減費用で実現する必要が生じ,限界削減費用が急激 に上昇する結果となっている.なお,例えば,原子力フェ ーズアウトケース(ケース[c])では,時系列で原子力フェ ーズアウト制約を想定したことで,2050 年以前の時点で原 子力フェーズアウトに応じた追加対策が必要となり 2040 年の限界費用は高くなる結果になっている一方で,2050 年 断面だけで見ると電源構成最適化のケース[b]よりも CO2 限界削減費用は安価となっている.しかし,BAU 比の排出 削減費用で見ると,年間20 兆円も高い費用が必要となる. 5.おわりに パリ協定で 2℃目標に対して合意がなされたが,気候感 度には大きな不確実性があり,どの時点で 2℃未満をどの 程度の確率で(もしくはどの程度の期待気温上昇水準で) 達成を目指すかなどの戦略次第で,2℃目標達成のための世 界排出経路には大きな幅が生じる.本研究で想定した気温 経路と気候感度の想定だけでも,例えば,2050 年では世界 排出量では2010 年比+13~▲71%程度もの大きな幅が生じ てくる. 費用効率的な世界排出量の削減のため,少なくとも国内 排出削減分については将来的に限界削減費用が世界で均等 化するような方向で対策をとっていくべきと考えられる. 限界削減費用が世界で均等化する場合,2050 年に日本国内 で求められる排出削減は,2010 年比で+0~▲77%程度と大 きな幅が生じる.ただし,▲77%という下限値は,450 ppm CO2eq 安定化のための世界排出量経路に対応した値であり, このときの世界の限界削減費用は2100 $/tCO2相当と相当 に高い費用である.また,そもそも世界の約束草案は 450 ppm CO2eq 安定化の経路とは大きく乖離していることにも 留意が必要である.また,2010 年比 77%削減のケースにな ると,原子力発電比率は40%以上を達成することを前提に したときの限界削減費用推計であり,この原子力比率が達 成できない場合,より大きな費用が必要となる. 2050 年 80%削減目標については,現時点で展望されてい るような技術進展を見込んだとしても,限界削減費用は 3500~6000 $/tCO2程度,成り行きケース比の排出削減費用 は年間29~72 兆円が必要と推計された.現時点では見通し が困難な革新的技術の開発とその大幅な普及等がなければ 実現が困難な目標と考えられる.また,本稿で指摘してき たような不確実性の大きさを考えると,特に 2050 年 80% 削減という,時点,削減率両者を決め打ちした目標設定は, 適切な気候変動リスク対応戦略とは考えられない.第3 章 と4 章の分析の比較でもわかるように,少し削減率が小さ くなるだけで限界削減費用はかなり小さくなる可能性もあ る.気候変動影響被害のみが生じ得るリスクではなく,高 い排出削減費用と技術動向等から生じる費用の不確実性も 大きな社会的リスクとなり得ることを忘れてはいけない. 一方で 2℃目標達成のためには,そうでなくても気温を安 定化しようとすれば,超長期的に大幅なCO2排出削減を実 現していく必要がある.しかし,利用可能な範囲の技術と 規模について,時間軸と世界レベルでの対策を意識しなが ら目標を決めていくことが重要と考えられる. 参考文献
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付表 2 本分析における実質GDP 成長率の想定(単位:%/ 年) 2010−20 年 2020−30 年 2030−50 年 日本 1.4 1.9 0.1 米国 2.6 2.0 1.6 EU28 1.2 1.3 1.1 豪州 2.7 1.8 1.5 ロシア 4.3 6.3 3.2 中国 7.7 5.6 3.1 韓国 3.0 1.9 1.2 メキシコ 3.2 3.0 2.5 インド 6.5 5.9 4.3 トルコ 4.0 2.8 2.5 南アフリカ 2.5 3.4 3.1 世界計 3.0 2.9 2.2 付表 3 発電設備費と効率に関する想定 2000 年価格 設備費 ($/kW) 発電効率 (LHV%) 石炭火力 低効率(在来型(亜 臨界),現在の途上 国での利用) 1000 22.0 – 27.0 中効率(主に現在 の先進国での利用 (超臨界)~将来, 複合発電化(IGCC) を含む) 1500 36.0 – 45.0 高効率(現在先進 国で利用~将来, 複合発電化(IGCC, IGFC)) 1700 42.0 – 58.0 石油火力 低効率(ディーゼ ル発電等) 250 22.0 – 27.0 中効率(亜臨界) 650 37.0 – 45.0 高効率(超臨界) 1100 50.0 – 60.0 CHP 700 37.0 – 47.0* 天然ガス 火力 低効率 (蒸気タービン) 300 26.0 – 32.0 中効率(複合発電) 650 38.0 – 47.0 高効率(高温型複 合発電) 1100 52.0 – 62.0 CHP 700 38.0 – 48.0* バイオマ ス発電 低効率 (蒸気タービン) 1200 – 900 18.0 – 28.0 高効率(複合発電) 2200 – 1600 36.0 – 46.0 原子力 発電 在来型 2500 先進型 2300 CO2回収付IGCC/IGFC 2800 – 2050 34.0 – 54.4 天然ガス酸素燃焼発電 1900 – 1400 40.7 – 50.7 水素発電(FC/GT) 1100 52.0 – 64.5 電力貯蔵(揚水発電等) 1000 注1)発電効率は表中に示す範囲において時点の経過と共に向上するように 想定している. * 排熱回収効率はエネルギー需給バランスを考慮して想定することとし,地 域によって5~20%の範囲で想定している. 注2)原子力発電の先進型(第 4 世代等)は 2025 年以降利用可能としてい る. 非エネルギー起源CO2排出については,工業プロセス, 廃棄物,燃料からの漏出を対象とし,その実績値及びセメ ント,粗鋼,アルミニウム新地金生産の将来シナリオ等か ら将来排出シナリオを策定している.また,CO2以外の温 室効果ガス評価モデルについては,米国の
EPA(Environmental Protection Agency)の分析,評価モデル19)
に基づきつつ,随時最新の実績値等を反映している.CH4 は7 部門(農業,石油,天然ガス,石炭,民生・運輸,エ ネルギー多消費産業,その他産業),N2O は 6 部門(農業, 石油,天然ガス,民生・運輸,エネルギー多消費産業,そ の他産業),HFCs,PFC,SF6についてはそれぞれ1 部門を 考慮したモデルとなっている. 付表 4 CO2排ガス回収に関する想定 2000 年価格設備 費 ($/kW) 発電効率 (LHV%) CO2 回収率 (%) CO2回収付 IGCC/IGFC 付表3 参照 90 – 99 天然ガス酸素燃 焼発電 90 - 99 2000 年価格設備 費(1000$/(tC/hr)) 必要電力量 (MWh/tC) CO2 回収率 (%) 石炭発電からの 燃焼後CO2回収 1418 – 1248 0.792 – 0.350 90 天然ガス発電か らの燃焼後CO2 回収 2700 – 2400 0.927 – 0.719 90 バイオマス発電 からの燃焼後 CO2回収 2700 – 2400 2.588 – 1.144 90 ガス化CO2回収 348 0.801 90 – 95 製鉄所高炉ガス からのCO2回収 1695 – 1382 0.730 – 0.550 90 注)設備費,必要電力量,CO2回収率は表中に示す範囲において時点の経過 と共に向上するように想定している. 付表 5 世界および日本の CO2貯留に関する想定 貯留ポテンシャル (GtC) 貯留費用 ($/tC)*1 日本 世界 廃油田 (石油増進回収) 0.0 30.4 209 – 252*2 廃ガス田 0.0 40.2 – 181.5 34 – 215 深部帯水層 3.1 829.8 18 – 139 炭層 (メタン増進回収) 0.0 39.1 99 – 447*2 注1)廃ガス田の貯留ポテンシャルの幅は,将来のガス採掘量が増加するに 従って,表中の上限値までポテンシャルが増大し得ると想定している. 注2)貯留費用の幅は,表中に示す範囲において累積貯留量の増大と共に上 昇するように想定している. *1 CO2回収費用は本数値には含めていないが,別途考慮している. *2 石油やガスの利益は本数値に含めていないが,別途考慮している.