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実務家インタビュー

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ここでは実務の世界の最前線でご活躍され、鑑定業界をリードしておられる先生方にうかが ったお話を掲載させていただきます。なお、このインタビューは2010年に行いました。 その後、2011年3月の東日本大震災をはじめとする社会経済情勢の大きな変化もございまし たが、取材時期を踏まえてお読みいただければ幸いです。 これまで見てきたように鑑定業界は今大きな変革の時を迎えています。不動産鑑定評価制度 の見直し、国際財務報告基準導入の影響、また、企業におけるCRE戦略の導入、鑑定業界が ADRによって果たすべき役割、経済、会計基準のみならず国際化の波が押し寄せる現代の鑑定 業界の方向性など、それぞれの専門分野で業界をリードする先生方にはお忙しい中、貴重なお 時間を割いていただき、示唆に富むご意見・ご指摘を賜りました。 ここに深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

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社団法人日本不動産鑑定協会 主任研究員 社団法人日本不動産鑑定協会 主任研究員/不動産鑑定士 京都大学経済学部卒業。財団法人日本不動産研究所(現一般財団法人日本不 動産研究所)において鑑定評価業務等に従事する。現在、出向により、社団 法人日本不動産鑑定協会主任研究員。

不動産鑑定評価制度の

見直しについて

不動産鑑定評価制度は時代の要請に応じて進歩・改善されてきた。現在、より信頼性の高 い不動産鑑定評価を目指し、ガイドライン等の整備が進められている。社団法人日本不動 産鑑定協会の井野先生にお話をうかがった。

対談

井野 好伸

先生

Yoshinobu Ino

不動産鑑定評価部会の提言

今回の不動産鑑定評価制度見直しは、国土交通省 国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会の 提言から始まりました。 この提言は、「社会の変化に対応したよりよい鑑 定評価に向けて」という報告書に書かれており、 部会報告書と呼ばれています。 この部会報告書の中の提言に従って、原理・原則 的なところは国土交通省がやりましょう、そのほ かのところは専門家集団である鑑定協会が中心と なってやってくださいという役割分担をして行っ たのが今回の価格等調査ガイドラインを中心とす る不動産鑑定評価制度見直しとなっています。 この部会報告書は、国土交通省のHPから見ること ができます。その中ではまず、鑑定評価を取り巻 く環境の変化という話があり、不動産の証券化が 普及してきたこと、企業会計基準の国際化に伴っ て企業の資産の時価評価ニーズが高まってきたこ と、ほかにも今に始まったことではありませんが、 同じような地域でも、表の商業地と道一本入った 裏の土地では価格が全然違うこと、バブルの前と 違って都市部の地価はある程度底を打って上がっ たりしているが地方はずっと下がり続けていると いうように地域によって全然違うことなどが掲げ られています。 そして、このような中で多様化してきた依頼者や 依頼ニーズに不動産鑑定士としても積極的に対応 していきましょうということで、国土交通省によ り価格等調査ガイドラインが策定されました。

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価格等調査ガイドラインは

何を変えるのか

価格等調査ガイドラインというのは「不動産鑑定 評価基準」とは性格が違っています。不動産鑑定 評価基準では、評価の方法が中心になっています が、価格等調査ガイドラインでは、依頼の受付を したときに渡す書面や成果報告書に記載すること など、手続き的なことが中心になっています。 今回、価格等調査ガイドラインができたことで不 動産鑑定士の方や、依頼者の方にとって何が変 わったのかいうことですが、鑑定評価書の中身や 不動産鑑定評価基準はほとんど変わっていませ ん。不動産鑑定評価基準に追加されたのは価格等 調査ガイドラインに併せて依頼者・提出先や詳細 な利害関係をきちんと確認して書きましょうとい うことだけで、不動産鑑定評価基準に則った鑑定 評価の場合、お客様が最終的に目にする鑑定評価 書はあまり変わりません。 一方、手続き面では、やらなければいけないこと が多くなりました。ただ、このようなことは、不 動産鑑定士だけでなく、他の業界もそうですし、 広い意味でいえば、消費者保護、鑑定評価でいえ ば依頼者・利用者保護、投資家保護ということで、 きちんと行わなければならないと考えています。

価格等調査ガイドラインに対する

鑑定協会の対応

価格等調査ガイドラインは国土交通省が策定しま したが、鑑定協会が策定したものとしては、「不動 産鑑定士の役割分担等及び不動産鑑定業者の業務 提携に関する業務指針」、「価格等調査業務の契約 書作成に関する業務指針」、「不動産鑑定業者の業 務実施態勢に関する業務指針」、「価格等調査ガイ ドラインの取扱いに関する実務指針」、「財務諸表 のための価格調査に関する実務指針」及び「証券 化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針(一部 改定)」があります。 この中で、「実務指針」というタイトルのものは、 不動産鑑定士に対する指針で、国が定めたガイド ラインや基本的な考え方に対応させて策定したも のです。 一方、「業務指針」というタイトルのものは、不動 産鑑定業者に対する指針で、鑑定協会が独自に策 定したものです。この3つの「業務指針」は、部 会報告書の中では仮称ですが、「鑑定業者ガイド ライン」と呼ばれており、それぞれの業務指針の 内容は題名を見ていただくと一目瞭然になってい ます。 「不動産鑑定士の役割分担等及び不動産鑑定業者 の業務提携に関する業務指針」では、鑑定評価の 質の向上や信頼性・透明性の向上のため、不動産 鑑定士の役割分担を鑑定評価書の中に書くこと、 業務提携の際には書面を取り交わすほか依頼者に 事前に説明することなどが規定されています。 また、「価格等調査業務の契約書作成に関する業 務指針」では、原則として、契約を書面で取り交 わすことが規定されています。今更と他業種の方 に言われるかもしれませんが、特に民間依頼では、 契約を書面で取り交わさずに業務が行われていた 場合がありました。 これについてはもちろん依頼者保護のためです が、不動産鑑定士にとっても依頼者と不動産鑑定 士・不動産鑑定業者の間で意思の齟齬が生じない ようにするためということがあります。 そして、鑑定協会のほうではこれに対応して、リー ガルチェックを受け、雛形を作っており、「依頼書 兼承諾書」という形でHPに載せています。 「不動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指 針」では、内容がやや抽象的になっているのです が、業務実施態勢の整備のことが、今まで不動産 鑑定士・不動産鑑定業者の方が頭の中で考えてこ う受付しようとか、業務のときはこう対応しよう とか、発行のときはこう対応しようとか考えてい たことをなるべくマニュアル化、書面化してきち んとわかりやすいようにしようということを念頭 に規定されています。また、それと併せてこの中 で審査体制の整備というのも大きく打ち出されて います。 実は、この業務指針はほかの2つと適用範囲が異 なっており、特に業務実施態勢や審査体制の強化

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不動産鑑定士 が要請され、社会的に見てより質の高い評価が求 められている証券化対象不動産の評価や財務諸表 の作成に関する評価に限って当面の間は適用しま しょうということになっています。 今回の不動産鑑定評価制度見直しで、多くのガイ ドライン・指針等が策定されたため、不動産鑑定士・ 不動産鑑定業者の方が消化しきれていないように 感じています。昨年の9月・10月に研修を行い、 その後、メールを中心に多くの質問を頂きました。 これらの質問に対しては、必要に応じて国土交通 省と協議をしながら回答を作り、情報共有のため、 Q&Aという形で鑑定協会HPにアップしています。 鑑定協会としては、Q&Aを充実させることで、ガ イドライン・指針等の理解が深まればと考えてい ます。 国土交通省でもおそらく、価格等調査ガイドライ ンについて、実務上問題が生じていないかという ことは気にされていると思いますので、何らかの 形でフォローアップされていくだろうと考えてい ます。 鑑定協会会員の方から、価格等調査ガイドライン 等を守らないとどうなるのかということを聞かれ ることがあります。 「不当な鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準」 が価格等調査ガイドライン対応で少し変更になり、 「価格等調査に関し遵守すべき基準その他の事項」 ということで価格等調査ガイドラインが掲げられ ています。また、ほかにも不動産鑑定評価基準と その他価格等調査の実務に関し遵守すべきと認め られる事項が挙げられており、その他価格等調査 の実務に関し遵守すべきと認められる事項という ものには、「財務諸表のための価格調査の実施に 関する基本的考え方」や「証券化対象不動産の継 続評価の実施に関する基本的考え方」のほか、鑑 定協会が策定した各種指針もある程度入るという ことを聞いています。 このようなことから、質問がきた際には処分基準 の中で守るべきものに規定されていますと答えて います。 以上が、今回の不動産鑑定評価制度見直しの全体 像です。

価格等調査ガイドライン

施行後の現状

― これはもう実際に施行されて半年ですよね。 実効的にどうなのでしょうか そうですね。大半の方が実行されていると思いま すが、実行する上で判断に悩む点なども出てくる かと思います。 協会会員の方から電話やメールで質問を受ける と、もちろん電話やメールで質問してくれる方と いうのは、きちんと実行している方で、きちんと 実行しているからこそ、わからないところや納得 できないところを質問してきますので、そういう 人と話していると実務上の問題点がわかります。 価格等調査ガイドラインの告知については、鑑定 協会として、不動産鑑定士だけでなく利用者の方 に対しても研修会を行いました。 また、国土交通省から、地方整備局には価格等調 査ガイドラインについて伝わっていると思うので すが、基本的には不動産鑑定業者・不動産鑑定士 の方が依頼者に対して、こういうものが今回でき ましたよということを、地道に説明していくこと が必要と考えています。 実務上、依頼者とのトラブルとまでは行きません が、こういうところで困っているという質問とし ては、確認書のやりとりや利用者の範囲の確認が 挙げられます。 価格等調査ガイドラインでは、業務の目的と範囲 等に関して、あらかじめ契約締結前に依頼者と話 し合って、それを書面にして依頼者に交付してく ださいとしており、その書面について、鑑定協会 では確認書と呼んでいるのですが、その確認書を 依頼者の方が今までなかったものですので、なか なか受け取ってくれないときがあるとか、もらっ てもどうしたらいいのかと聞かれることがあると いうことがよく聞かれます。 また、確認書の中にはこの成果報告書を誰に提出 しますか、価格を誰に開示しますかとか、そうい う今までなかったことについても書くことになっ ています。そのため、何でそこまで教えなければ いけないのかとか、もらったものは自由に使って

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もいいのではないのかとか、そういうことで公表・ 開示・提出に関しては教えてもらえない、教えて もらいにくいという話もいろいろ聞いています。 公表・開示・提出を確認する目的は、依頼の背景 をきちんと把握することや今回決められた詳細な 利害関係を書くことです。 また、価格等調査ガイドライン上は業務が二種類 に分かれておりまして、「不動産鑑定評価基準に 則った鑑定評価」と、「不動産鑑定評価基準に則 らない価格等調査」になりますが、「不動産鑑定 評価基準に則らない価格等調査」をする場合には 内部使用目的であること、利用者全員から簡易な 価格等調査でもよいという合意を得ていることな ど、一定の要件が必要になるので、そういう意味 でも公表・開示・提出というのを聞いておかない と簡易な価格等調査をする場合、判断がつきにく いということになります。 例えば、債務者依頼の担保評価であれば金融機関 に提出することが多いと思うのですが、価格等調 査ガイドラインの中でも、具体的な名称まで教え てもらえればいいですけれども、教えてもらえな ければ金融機関とか属性でも十分ですよとしてい ますので、基本的にできないところまで求めてい るわけではありません。 このように確認書のやりとりと公表・開示・提出 の確認が依頼者との間で問題になることがあるよ うです。 不動産鑑定士が価格等調査をする場合、原則とし て「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」を行 う必要がありますが、「価格等調査ガイドライン Ⅰ.総論4.不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価 とそれ以外の価格等調査との峻別等」に書いてあ る5項目のどれかに該当する場合には、依頼目的 や結果の利用者の範囲から見て簡易な価格等調査 を行ってもよいということになっています。 実務上は、依頼者の方が簡易な価格等調査を求め てきた際に、5項目のどれに当たるか判断し、ど れかに該当する場合、「不動産鑑定評価基準に則 らない価格等調査」が行われるという流れになる かと思います。 実際には、依頼者から簡易な価格等調査の依頼が 来たのですが、こういうケースは5項目のどれか に当たるのかということをよく聞かれます。 例えば、「調査価格等が依頼者の内部における使 用にとどまる場合」については、依頼者だけが使っ たり、監査法人や顧問弁護士に見せる程度という ことで、わかりやすいと思います。 また、「調査価格等が公表されない場合ですべて の開示・提出先の承諾が得られた場合」について は、すべての開示・提出先の承諾を不動産鑑定士・ 不動産鑑定業者がどのように担保するのかという 問題がありますが、実務的には、依頼者がすべて の開示・提出先から合意を得たということを何ら かの形で示してもらうしかないのかなと思います。 確認の方法については、不動産鑑定業者の方に よってきちんと印鑑までもらうところがあるかも しれませんし、そうではなくてある程度文書であ ればいいとか、もしかしたら場合によっては口頭 という場合もあるかも知れません。 これら2つはわかりやすいのですが、「公表・開示・ 提出される場合でも公表される第三者又は開示・ 提出先の判断に大きな影響を与えないと判断され る場合」については、判断が必要になりますので、 この項目に該当するかどうか質問されることがあ ります。 例えば、総額の小さな不動産であれば、しかもそ れがたくさんのうちの一つであれば、基本的には 利用者の方はそれによって判断がどうこうする事 はないでしょうということで、この項目に該当す るということでよいのではないかと話はしている のですが、実務上そういうことはあまりなく、5 項目をいろいろ当てはめていき、どれにも当ては まらないと、この項目に該当しないかどうかと考 えることが多いのかなと思います。 「不動産鑑定評価基準に則ることができない場合」 については、不動産鑑定評価基準に則りたくても 則れないということです。例えば、まだ建ってい ない建物をできたものとして価格等調査をするこ とが該当します。これはそもそも対象不動産の確 認ができませんので、そういう点で則ることがで きません。 「「依頼目的、調査価格等が開示される範囲又は公 表の有無等」等を勘案して不動産鑑定評価基準に 則らないことに合理的な理由がある場合」につい

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不動産鑑定士 ては、上記以外の合理的な理由があればいいです よということで、広い解釈が可能ですが、現段階 では、鑑定協会としては、一点目は価格等調査ガ イドラインの留意事項に例示で書いてあること、 すなわち再評価であって価格形成要因に重要な変 化がない場合、二点目は「財務諸表のための価格 調査の実施に関する基本的考え方」に従っている 場合、そして、三点目は「証券化対象不動産の継 続評価の実施に関する基本的考え方」に従ってい る場合の三点に限定して考えています。

価格等調査ガイドラインの

適用範囲等

ここで、価格等調査ガイドラインの構成をお話し しますと、大きく分けて3つの章から構成されて います。 1つ目は用語の定義・適用範囲・業務の峻別に関 する総論、2つ目は業務の目的と範囲等の確定、 簡単にお話しますと確認書に関するものが載って います。そして、3つ目は成果報告書への記載事 項で、名前のとおり成果報告書に関するものが 載っています。 このように、わかりやすい流れになっていますが、 その中で1つめの総論は判断が必要となるところ なので、そもそも適用範囲なのか、適用範囲外な のか、先ほどお話した「則らない」でできるのか ということについて、多くの質問が寄せられてい ます。 適用範囲については、不動産鑑定士が価格とか賃 料を表示すれば適用範囲なのかなということはな んとなくわかっていても、逆に適用範囲外という のはどういうときなのかという問い合わせがよく あります。 適用範囲外の例として「国又は地方公共団体が依 頼する地価公示、都道府県地価調査、路線価、固 定資産税評価等、別に法令等に定めるもの」とい う規定があります。これは別に定める法令等を守 ればよいということで適用範囲外になっているの ですが、ここで固定資産税評価の後に「等」が付 いていますので、何が適用範囲外になるのか、あ れやこれも適用範囲外にしていいのではないのか ということで、かなり問い合わせが来ています。 適用範囲外となるものとしては、例えば、民事執 行法に基づく競売評価があります。競売評価を行 うのは評価人ということで、不動産鑑定士に限定 されておらず、また、評価の内容も民事執行法で 定められています。 公共用地の取得や国有公有財産の使用・処分のた めに国又は地方公共団体から依頼がある場合も適 用範囲外になるのではないかという質問がよくあ りますが、このような場合は適用範囲になるとい うことで回答しています。 公共用地の取得や国有公有財産の使用・処分の場 合、ケースによっては簡易な価格等調査の依頼が あるかもしれません。また、評価条件もいろいろ なものが付くかもしれず、評価条件が違えば価格 も違うということがあるので、公共の依頼だから といって価格等調査ガイドラインの適用範囲外に してはならないということになっています。 最後になりますが、価格等調査ガイドラインがで きたことによって一番大きかったことは今まであ やふやな面もあった鑑定評価業務と隣接・周辺業 務の境が再確認された点です。 実は、鑑定評価基準に則った・則らないの線引き よりも鑑定評価業務と隣接・周辺業務の線引きが 明確になったことのほうが実務上影響が大きく、 その線引きとしては、価格等調査ガイドラインの 留意事項の最後で「価格等調査は、不動産鑑定評 価基準に則っているか否かにかかわらず、不動産 の経済価値を判定し、その結果を価額に表示して いるかぎり、不動産の鑑定評価に関する法律第3 条第1項の業務(鑑定評価業務)に該当する」と いうことになっています。

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大和不動産鑑定株式会社 不動産コンサルティング部長 大和不動産鑑定株式会社不動産コンサルティング部長/明治大学専門職大学 院グローバル・ビジネス研究科特任教授/不動産鑑定士/不動産カウンセラー 1981年京都大学法学部卒業。住友信託銀行株式会社を経て、現在大和不動 産鑑定株式会社不動産コンサルティング部長、明治大学専門職大学院グロー バル・ビジネス研究科特任教授。不動産鑑定士、不動産カウンセラー、米国 ワシントン大学MBA。国土審議会土地政策分科会不動産鑑定部会専門委員、 元不動産鑑定士試験論文式試験試験委員、国土交通省CRE戦略「手引き」作 成WG委員等。

国際財務報告基準導入と

鑑定業界

現在我が国には国際財務報告基準導入の波が押し寄せてきている。国際財務報告基準導入 は鑑定業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。IFRSやCREの最前線で活躍されてい る村木先生にお話をうかがった。

村木 信爾

先生

Shinji Muraki

国際財務報告基準(IFRS)への

コンバージェンスの動き

国際財務報告基準(IFRS)へのコンバージェン スというのは、IFRSに日本の会計基準等を近付け るという動きで、具体的には固定資産の減損会計 から棚卸資産の時価評価、平成22年3月の賃貸等 不動産の時価開示、4月から資産除去債務の計上 が動きとしてあります。この中で最近注目を浴び たのは、今年の3月から始まりました賃貸等不動 産の時価開示です。この賃貸等不動産の時価開示 では、貸借対照表で投資不動産と遊休不動産は時 価の注記が必要になります。 鑑定業界では昨年初めあたりからそろそろ時価評 価のニーズが数多く出てくるのではないかと期待 していましたが、実際には、企業は外部の鑑定業 者に発注して時価を求めたところは少なく、自社 内で評価したところも多かったように思います。 また、既に今年の3月の決算における時価の開示 が決算短信等で発表されているのですが、個別の 不動産の時価ではなく、対象の不動産をまとめて 時価がいくらと記載されているところが多くみら れました。

価格等調査ガイドラインの制定と

その背景

賃貸等不動産の時価開示に向けて、平成22年1月 国土交通省では、価格等調査ガイドラインを施行 しました。私自身もそれを策定する国の委員会の 委員になっていましたが、不動産の評価の世界に とっては大きな変化だったと思います。

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不動産鑑定士 価格等調査ガイドラインができるまでは、不動産 鑑定評価基準に則った鑑定評価とそれ以外の鑑定 評価という区別しかなかったのですが、賃貸等不 動産の時価開示を実施するためにはそれだけでは 対応できないところが出てきました。つまり、不 動産鑑定評価に完全に則った評価だけしか「時価」 として認めないと、あまりにも費用と手間がかか るため、全国の企業の持つ全ての不動産を時価評 価することは事実上不可能になるからです。価格 等調査ガイドラインの財務諸表のための評価にお いて、鑑定評価基準に則った評価かどうかという カテゴリーとは別の「原則的時価算定」、「みなし 時価算定」というカテゴリーを定めたのもそうい う理由からです。「原則的時価算定」とは、原則 鑑定評価基準に則った評価ですが、例えば、土壌 汚染のある土地など、本来調査終えなければ鑑定 評価基準では鑑定評価として認めていなかったも のを、所有者が調査をして処理することが分かっ ている場合は、例外として「原則的時価算定」と して認める、ということになりました。また減損 会計対応の評価等においては、最初の減損の見極 めのところでは、簡易な形式での「みなし時価算 定」でよいことになりました。また、「重要性の原 則」というのがあって、その企業にとって、全資 産に占める割合からみて重要か、個別不動産とし て重要かという、二つの意味での重要性の判断を したうえで、重要であれば「原則的時価算定」に しましょうということになるのですが、重要性が なければ「みなし時価算定」ということになります。 「みなし時価算定」では路線価とか簿価での評価 額でもよく、それを企業が判断し、監査法人がOK といえば認められます。

価格等調査ガイドラインの影響―

不動産評価方法の変化と手続きの厳密化他

価格調査ガイドラインにおける評価では、鑑定評 価基準に完全には則らないいろいろなレベルの評 価があります。収益還元法なら収益還元法だけ 使って出す簡易な評価とか、あるいは逆に収益還 元法を使わずに取引事例比較法だけ使って出す評 価などで、フルスペックではない分費用はずいぶ ん安くなります。そして、このような簡易な評価 手法を認める代わりに、それを使う目的等を明示 することにより、注意を促すことになりました。 鑑定評価の基準に則った評価は、基本的には鑑定 士はどこに出されても差し支えないものとして評 価しています。鑑定評価基準の内容の一部しか則 らない評価は、特定の利用目的に従った評価であ るために、評価書を提示する相手方は誰か、どこ に開示するか、その開示先との関係はどうか等を 決めた上で、さらに別のところに開示するときは、 評価書を作成した鑑定士の承諾を得てくださいと か、また、価格を表示するところの下(すぐ近く) に、この評価書は「鑑定評価基準に則っていない 評価」で、どういう条件のもとでの評価であるか を書くことになりました。そうしておかないと、 評価書・調査報告書を見た人が、一見して鑑定評 価で出した価格と、そうでない価格の差異や、ど ういう前提の価格かはわからず、誤解する恐れが あるからです。 このような価格等調査ガイドラインにおける評価 と、今までの評価、特に鑑定評価基準に則らず単 純な計算で評価額、調査価格として算出して、鑑 定法上は鑑定評価とされていた評価の大きな違い は、後者は鑑定評価額の数字を出したらそれに対 して鑑定士が全面的に責任を負うというが基本で した。もっとも、実際に裁判になったらそうはな らないと思うのですが。価格等調査ガイドライン における評価では、この目的のために、こういう 条件で、この会社のために出す評価というのを、 明らかにするわけですから、逆にいえば、やった ことに対してしか責任を取りませんよということ を明示するわけで、全く責任を逃れられるかは別 として、この点では少し前進したかなと思います。 欧米流で言えばスコープ・オブ・ワークいう概念 です。但し、普通の証券化不動産の鑑定評価の際 には、土壌汚染のある土地を鑑定評価基準に則っ た評価を行いますと、土壌汚染の判断については、 鑑定士自身調査をした上で、他社の作ったエンジ ニアリング・レポートを利用する場合は、それを 使えるかどうか鑑定士自身で判断をしなさいとい うことになっています。不動産鑑定士はベストを

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尽くして判断をするのですが、正直なところその 判断には限界がある場合が多いと思います。欧米 での不動産評価では、鑑定士にはそのようなこと は期待されていません。RICS(英国王立勅許鑑 定士協会)の評価基準では、他の専門家が行った 調査については自分で説明するな、レポートを作 成した人自身に説明してもらいなさい、とまで言っ ています。前述のとおり今度の価格等調査ガイド ラインでは、原則時価算定とのところでほかにそ の企業がちゃんと土壌汚染等の調査、処理をやる という確証が得られるのだったら、条件を付けて 「原則的時価算定」として評価してよい、と言うこ とになりました。 また、このように今までの基準を緩めるような評 価のバリエーションを作った代わりに、手続き上 は厳しく規定されました。評価実務上では、一つ は委託契約書等に評価の目的、評価の条件、開示 先等きっちりと書いて依頼者との間に取り交わす ことになりました。これで事務的なやり取りにつ いては若干煩雑になりました。 価格等調査ガイドライン制定の影響として他に言 えることは、簡易な評価形式で安い報酬での評価 が多くなったので、鑑定評価報酬の水準もこれに 引きずられて下がり気味になっているということ も言えます。

鑑定業者側の業務体制の厳格化

価格等調査ガイドラインは国が決めたのですが、 不動産鑑定協会でも、鑑定士として、鑑定業者と してどうあるべきか、ということを、それぞれ実 務指針と業務指針で定めました。価格等調査ガイ ドラインの制定に対応して鑑定協会の業務指針に おいては、業務体制についても定め、相互チェッ ク体制をきちんと作りましょうということになり ました。複数の鑑定士がいる大手の事務所では審 査部とかで相互チェックをする体制を作って、も ちろん今までもやってきたと思いますが、個人の 鑑定業者の場合は相互チェックを自分自身ではで きないので、どこか別の業者と提携して行うしか ないのですが、これは実際にはなかなかやりにく いのではないかと思います。

IFRSのアドプション(強制適用)

へ向けて

IFRSのこれからの公式的なスケジュール、ロード マップでいうと、2012年頃にアドプションという 強制適用をするかどうかという結論が出されます。 その前に既にIFRSの任意適用をしてもよいことに なりました。いわゆる包括利益を貸借対照表から 計算し、損益計算書に計上することになります。 今すぐ全ての対象会社に普及するというわけでは ありませんが、連結会計を適用している会社では 前向きの議論が進められていると言われていま す。そして、アドプションが決まれば最短で2015 年から施行ということになります。2015年から施 行するならば2014年のBS/PLは時価会計にして おかないといけませんし、2014年に時価会計にし ておこうとすると2013年度決算期期末の時価を出 しておかないといけないので、そう多くの時間は 残されていません。再来年に決めてそこからすぐ にスタートするわけです。

今後の鑑定評価基準のあり方―

不動産評価のグローバル化

― 日本の鑑定評価基準そのものもIFRSの影響 を受けるのですか 今まで日本の会計基準を学んで、実務で使われて いた公認会計士の先生方は、それをがらっと変え られてこれからは国際会計基準でやりましょう、 英語の原文を使うか、日本語に訳したものを使う か、という選択しかないという事態に直面してい ます。不動産鑑定の世界において、IFRSが適用 されたときにはたして、今の日本の鑑定評価基準 だけで対応できるのだろうかという疑問がありま す。普通に考えて、少なくともそれに対応して鑑 定評価基準の修正は必要なのではないかと思いま す。それも5年10年先の話ではなくて2、3年後 の話であり、IVSとか国際評価基準とかRICSなど

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不動産鑑定士 IFRSに不動産評価基準がどう対応しているかを 今から研究しておく必要があります。 例えば、会計基準上は日本でも公正価値という概 念はあるのですが、日本の鑑定評価基準には「公 正価値」という概念はありません。公正価値とは 何かというとマーケットのあるところでは市場価 値とほぼ同じなのですけれども、マーケットのな いところ、活発ではないところでは相対でお互い 納得する(Fairな)価格、例えば現在の使用方法 を前提したキャッシュフローの現在価値が公正価 値となります。財務諸表に載せるために国際会計 基準に則った評価依頼があったとき、公正価値と いう概念無しではこの評価が難しくなるわけです。 IVS(International Valuation Standard)という国 際資産評価基準があり、ロンドンにIVSCというそ れを作った本部があります。これは不動産だけで なくいろいろな資産の評価基準を作っているとこ ろなのですが、世界の趨勢はIVSを参照し、自国 の基準をそこに集約していっています。シンガポー ルなどローカルの基準を持っているところもIVS の基準の内容をそのまま採用したりしています。 RICSを使っている国は、旧英連邦諸国を中心に 数多いのですが、RICSの中でIVSを参照している ので、それらの国でもIVSを使っていると言える でしょう。最終的にはローカルの基準が優先され るのですが、この流れの中では世界中の国が、 IVS準拠に変わっていかざるを得ないのではない かと思います。

不動産鑑定協会での対応

不動産鑑定協会では、国際委員会で国際評価基準 IVSの翻訳をし、日本での適用可能性等を研究し ています。また、証券化の鑑定評価に関しては、 証券化鑑定評価委員会の中に私が委員長をしてい ます証券化グローバル化対応小委員会というのが あります。海外の投資家が日本の不動産の証券化 不動産を見る際には、鑑定評価基準、ガイドライン、 実務指針などの理解が必要になってきますが、そ のうちこの委員会では鑑定協会の実務指針を英訳 しています(注)。また、RICSやアメリカのAI (American Institute)等の鑑定評価基準を調べて、 証券化不動産の評価はどのようにされているのか ということをまとめるなど、海外での証券化不動 産の評価について調査しています。この先2、3年 後IFRSのアドプションがあったとき、海外のこと が何もわからないのは問題ではないかという意識 から、今から勉強して準備をしておくことがこれ らの委員会の目的です。(注) (注)2011年5月 『英語で読む証券化不動産の鑑 定評価の実務』(住宅新報社)を発行しました。 (IFRSのアドプションが実現すれば鑑定業界はか なり活況になり、不動産鑑定士の需要も大きくな るのではないでしょうか) 全体的な流れでは、先ほど申し上げましたとおり、 現在のところ期待していたほど鑑定評価の需要が 増えなかったのですが、今度のIFRSアドプション が実現すれば少しは需要拡大が期待できるのでは ないかと思っています。なぜそう言えるかと言い ますと、2005年からIFRSを採用したイギリスで は、時価会計の公正価値モデルと今の日本が採用 しているのと同じ原価モデルと両方選べるのです が、公正価値モデルを選んだ企業が9割以上で あったといわれています。企業の9割が公正価値 を出すとなると評価の需要はかなり大きくなると 考えられます。それと、原価モデルであっても、 今の日本と同じように、時価を注記することにな り、どちらにしても時価を出さないといけないの です。 そのときに誰が行う評価かということが問題です。

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現在のところ時価の注記のための評価は、企業内 部でされている会社が多いのですが、財務諸表に 載せる評価、あるいは不動産の証券化のための評 価は、不動産投資のプロではない証券投資家に よって利用される不動産評価ですから、この評価 を誰が行ったかというのがかなり重要になります。 社内の人も、不動産鑑定士でなくても事実上評価 はできるかもしれませんが、社内の事情というバ イアスがかかった評価と外部から見られないか、 万が一間違いがあった時のリスクが社内でとれる か、という懸念から、第三者である専門家の評価 が選択されているのではないかと思います。それ でIFRSのアドプションになった場合、日本でも きっと外部評価が増えるのではないかと見ていま す。 企業が全て本気で時価会計に対応しようとしたら 現状の全国の不動産鑑定士数では足りません。 IFRSのアドプションで、時価評価のニーズが増え れば、鑑定士を増やしていけばよいと思います。 どうせ足りないから鑑定士でなくてもいいやとい う制度になってしまうのも困ります。ただ、地方 の公的評価ニーズが減っている現状から考えます と、鑑定士の数は一般の鑑定や公的評価だけに対 応するなら今の人数でもまだ多いと思います。弁 護士とか公認会計士は合格者数を増やして就職で きない人が出てきていると言いますが、全体の仕 事のパイが膨らんでいるのであれば、それに対応 して合格者数を2倍、3倍に増やしてもおかしく ありません。 ― たしかにIFRSの導入で、一般企業も不動産 評価に関係してきますと、企業のインハウスで不 動産や不動産鑑定をわかる人材が必要になってく る可能性はありませんか 今までは、企業鑑定の発注者の方は、発注した鑑 定評価書を詳しく見てその内容について質問され る人はそう多くないのではないかと思います。し かしこれからは、時価会計が増え、外部の鑑定士 による不動産評価を数多く発注されるとなると、 企業の内部にもきっちり鑑定評価書の中身を見て 検証できる人を作っていくことが必要です。金融 庁なども不動産鑑定士の方を雇って金融検査を始 めています。自ら鑑定書を書かれていただけに、 鑑定評価書の精査、検査する際には鋭い指摘をさ れ、内部で非常に信頼されていると聞きます。そ れと同じような形で個人として開業していた人が、 企業内鑑定士として活躍し、出たり入ったりする ことがあってもよいのかなと思います。日本の企 業では、まだまだ少ないのですが弁護士や会計士 をプロフェッショナルとして雇うということは 徐々に増えてきています。不動産鑑定士も企業内 で働く人が増えてもよいのではないかと思ってい ます。 (注) IFRSの日本への導入についての現状(平成23年10 月現在) 最新の企業会計審議会等の情報によれば、米国の状況を踏 まえ、日本においても少なくとも2015年3月期についての 強制適用は考えておらず、仮に強制適用する場合であって もその決定から5-7年程度の十分な準備期間の設定を行う とのことです。ただし、「会計の国際化」という視点にお いては、その重要性に変わりはなく、全面後退ということ ではありません。今後は、我が国の国益を踏まえ戦略的思 考・グランドデザインを形成することが重要です。

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株式会社吉村総合計画鑑定 代表取締役社長 株式会社吉村総合計画鑑定代表取締役社長/不動産鑑定士/一級建築士/再 開発プランナー/不動産カウンセラー 東京大学工学部建築学科卒業。同大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修 了。安田信託銀行(現みずほ信託銀行)開発事業部・不動産企画部・不動産 鑑定部等にて再開発・信託・コンサル・鑑定業務等に従事した後、1999年 吉村総合計画鑑定を創業。社団法人東京都不動産鑑定士協会理事・業務推進 委員長、社団法人日本不動産鑑定協会業務推進副委員長、不動産鑑定士試験 委員(短答式)、不動産鑑定業将来ビジョン研究会委員・Aチーム(新ニー ズ発掘・産業組織改革)座長、有楽町駅前第1地区・金町6丁目地区・大橋地区・淡路町2丁目西部地区・大崎駅西口南地区・西 富久地区等の市街地再開発事業審査委員等を歴任。日本不動産鑑定協会理事、日本不動産カウンセラー協会理事・大震災復興等支 援特別委員会委員長・CRE・PRE戦略マネジメント推進PJ副幹事ほか複数の企業の顧問・アドバイザーを務める。

CRE戦略と鑑定業界

CRE戦略は近年、企業経営における重要なトピックとして注目されている。鑑定評価のみ ならず、企業の経営について不動産鑑定士としてのキャリアを活かしコンサルティング業 務を数多く手がけられている吉村先生にお話をうかがった。

対談

吉村 真行

先生

Masayuki Yoshimura

CRE戦略による企業価値の向上

CRE(Corporate Real Estate)については、その 管理、運用などを戦略的に行う「CRE戦略」の実 践が企業価値の向上に資するものという切り口 で、「CRE戦略実践のためのガイドラインと手引 き」が国土交通省監修のもと、平成20年6月に纏 められました。 不動産関係業種ではない事業法人などは、所有し ている不動産や賃貸借している不動産などに関し ては、これまでは経営に関与する問題としてそれ 程重要なものではなかったかもしれません。しか しながら、企業の社会的責任(CSR)、内部統制、 国際会計基準へのコンバージェンス・アドプショ ンなど、経営を考える上で不動産と関係すること が随分増えてきたことは確たる事実だと思います。 最近話題となっている国際財務報告基準(IFRS) への潮流は、取得原価ではなく時価による評価を 求めるもので、日本においてもこの基準が適用さ れることになるのだろうと思います。これまでの 簿価主義・含み益経営というものは、確かにバラ ンスシートからはリアルタイムの企業の資産価値 が判りにくいとは思いますが、長期的な視点で経 営を考えると、良い側面も多かったと思います。 経済を取り巻く環境は変わっていくものですから、 経営状況が悪いいざという時に含み資産を活用し て苦しい局面を乗り切るという経営スタイルとい うものは、古き良き時代といわれるかもしれませ んが、安定経営を支える考え方の一つではなかっ たかと思います。 しかしながら、平成バブル崩壊時のように含み益

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が底をつき、含み損が大きく膨らみ、不良債権処 理、固定資産の減損、棚卸資産の強制評価減、そ して不動産のオフバランス、証券化等の拡大、グ ローバルスタンダードとしての国際会計基準への コンバージェンス・アドプションの流れなど、不 動産が経営に大きな影響を与えることになってき ていると思います。 こういった時代背景があり、CRE戦略による不動 産価値向上を通じて企業価値の向上を図るという ことが求められる時代となってきたと感じます。 ま た、PRE(Public Real Estate) に つ い て も、 CREと同じ位に相当なボリュームがあるわけです が、以前から土地の有効活用などに取り組まれた 公共団体もありましたが、CREと同様に、戦略的 な管理、運用などが待ったなしで求められる時期 が迫ってきていると思います。 したがって、CRE、PREについてのマネジメント を真剣に考えなければいけないというのがCRE戦 略、PRE戦略という切り口だと思います。

古くて新しい企業の不動産価値

の向上

しかしながら、このテーマは、古くて新しいテー マではないかと個人的には思っておりまして、私 が昔在籍していた信託銀行では、企業経営の視点 から不動産価値の向上を考えて、有効活用や売買、 賃貸などのシナリオを経営者と一緒になって検討 し、最適シナリオを実践すべく、企業経営のサポー トをさせて頂きました。勿論、大掛かりなコンサ ルの場合もありましたし、限定的な場合もありま した。 このようなスタンスでのビジネススタイルは、最 近の信託銀行などの金融機関では、主流ではなく なったのではないかと思いますが、昔は、事業法 人にとって一番良い不動産のあり方とか活用の仕 方を経営に近い立場として一生懸命に考えて、同 時に金融ビジネスも行っていたと思います。例え ば、オーナー企業さんや資産家さんの土地を有効 活用してみたり、同時に事業承継のコンサルを 行ってみたり、経営的観点からのアドバイスから 事務所や工場の移転・集約などの提案を行ってみ たりと様々なコンサルがあったと記憶しています。 資金面で企業をサポートする金融機関としての範 疇に止まらない、CRE戦略を実践する企業側のア ドバイザーとしての立場で活動していた案件も多 かったと思います。 企業経営に近い川上の部分で、不動産について経 営者と一緒になって考えることは非常に重要だと 思うのですが、川下の部分でソリューションビジ ネスに関与する場合とは少し違った立ち位置であ るべきだと思います。CRE戦略を具体的に実践す るにあたっては、川上から川下まで様々な専門分 野の方がサポートする必要性があるかもしれませ んが、川上での検討において、如何にCRE戦略の 絵が描けるかが重要だと思います。

現状での企業の取り組み

その企業にとって不動産は如何あるべきである か、有効に活かされているのか、きちんとモニタ リングされているかという発想を持って取り組ま れている企業も少なくありません。特に国際競争 にさらされている企業などは、会計制度などの観 点からも、早くから不動産を経営の重要課題とし て捉えて取り組んでいます。今後は、コンプライ アンス、内部統制、会計制度などのルールの適用 に伴い、多くの日本の会社がこの課題に取り組む 必要性が高くなっていくと思います。

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不動産鑑定士 そうなってくると、あと5年、10年経つと、CRE、 PREなどというキーワードは当たり前の概念とな ると思います。不動産の管理の世界では、プロパ ティマネジメントとか、アセットマネジメントと かという言葉は、一昔前は、ビルメンテナンスと ともに、単に不動産管理と言っていたと思います が、今や、PM、AM、BMという概念は当たり前 となっています。 したがって、形にはめる、体系づけるということ は重要な意味もあり、現在、国土交通省が中心と なり、CRE、PREは重要ですよ、不動産を戦略的 にマネジメントすると企業価値向上に繋がります よと言っていることは、大変有益なことだと思い ます。 また、最近では、企業の環境問題に対する取り組 みなど環境に配慮した不動産という切り口も加わ り、ますます不動産を経営の重要ファクターとし て考えなければいけない時代となってきていると 思います。 また、CRE戦略は、経営者だけが考えるという次 元の話ではなく、それぞれの現場レベルでも実践 しなければいけない話だと思います。従来ですと、 関与するのは管財部門だけとか、経理・財務部門 だけとか、本社と支社・工場と別々とかというよ うな管理や運用が多かったと思います。現在にお いても、このような企業も多いかもしれませんが、 経営に直結する課題となってくれば、そうも言っ ていられなくなると思います。適切な経営判断を するために、リアルタイムな情報が整理され、場 合によっては一元管理される必要性があるかもし れません。時価評価などが本格導入されれば、間 違いなくCRE戦略はもう少し進んだ形で実践され ると思います。

アドバイザーの立ち位置

企業が単独でこのようなCRE戦略を実践するため の人材やノウハウを保有している場合は多くはな いと思いますし、必ずしも内製化することは経営 効率の観点からの望ましいことではないと思いま す。したがって、外部の専門分野の方々を活用す ることになるのではないかと思いますが、当然、 ビジネスを考えてCREに取り組まれる会社が多い でしょうから、ディベロッパーや信託銀行などが、 CRE戦略によって何でもかんでも物件を売りま しょうとかと言ってしまうと、企業側が一線を引 いてしまって、CREマネジメントを企業側で抱え、 最適なCRE戦略が実践されないということも危惧 されます。 先ほどもお話しましたが、企業経営に近い川上の 部分で、不動産について経営者と一緒になって考 える場合には、川下の部分でソリューションビジ ネスに関与する場合とは少し違った立ち位置であ るべきだと思います。川上の部分で企業側のサ ポート役となる方は、企業にとって大変強力なパー トナーとなり得るでしょう。企業側の利益を最大 化すべく、企業と一緒になって考えて結論を出し ていく。勿論、専門的なノウハウなどをきっちり 提供するけれども、ある特定の専門分野しか解ら ないと、企業が本来考えなければならない様々な ことを見落としてしまうので、少なくともそれな りに広い領域の分野をカバーしつつ、ある部分に ついては深い専門性を持っている方がキーマンと なると思います。 しかしながら、このようなキーマンとなるべき方 がソリューションビジネスとしての関わりも持と うと考えると、企業側が求めるべき方向性とソ リューションビジネスの方向性の利益相反という か、ずれが生じる場合があることも否めません。 これは、なかなか難しいことかもしれませんが、 企業側のアドバイザーとなる方は、ソリューショ ンビジネスとは一線を画すというくらいの覚悟が 必要かもしれません。それでは、ビジネスとして 成立しないということにならないように、この立 ち位置となるアドバーザーにきちんとしたコンサ ルフィーが払われるような業務に育つ必要がある と思います。そうでなければ、強力なパートナー はなかなか現れないことになってしまうでしょう。

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不動産鑑定士はアドバイザーに

なり得るか

不動産鑑定士は、このようなアドバイザーとなり 得る専門家ではないかという見方もあるわけです が如何でしょうか。例えば、不動産の価値はどの 程度かというときに、不動産鑑定評価額を算出す るということだけではなく、企業がCRE戦略とし ていくつもある不動産についての前提条件を変え てポジショニング分析などを行うとき、不動産の 活用、組み合わせの仕方の選択によっては不動産 の価値が変わってくる場合があります。様々な側 面から見て、その価値を判断する能力が要求され るわけです。不動産鑑定の専門領域だけではなく、 税務、会計、金融、建築など別のファクターも関 係してきて、それらについても考慮しないと結論 が出てこない場合も少なくありません。また、同 じ業種・業態の会社でCRE戦略としての検討を 行った結果、同じような経済的な価値となるとい う結論が出たとしても、ある企業は不動産を所有 することを望み、ある企業は不動産を賃借するこ とを望む場合もあります。保有した場合と借りた 場合のメリット・デメリットなどの定性的・定量 的な検証はしているはずなのに、その方向を決定 付けるのは、経営者のスタンスというか信念によ る場合もあると思います。こういったファクター も踏まえて如何すべきかを、良く判らないことも あるかもしれないけれども、少なくとも当事者と 一緒になって悩み、考えて、答えを出すことがで きる専門家でないといけないのではないかと思い ます。したがって、なるべくその専門領域は広い 方が良いと思いますが、当然ながら自分では判ら ない部分もあるので、様々な専門分野に対応でき る専門家集団が必要かもしれません。私は、個人 的にはコラボレーションとかワンストップサービ スという言葉はあまり好きではありません。往々 にして、集団としての体裁は整っているけれども 中身がいま一つである場合が少なくないからで す。それぞれの分野の専門性が高くなければ、複 数の分野の方が集まっても、集合体としてのクオ リティは高まりません。類は友を呼ぶとはよく言っ たものだと思いますが、クオリティが凄く高い専 門家の方は、別の分野の専門家の方々と一緒に仕 事する場合には、クオリティの高い専門家の方を パートナーに選びます。高いレベルで共同する場 合には、恐らく専門外の領域についても凡そ理解 しているのだと思います。全体についてお互いに イメージできるので、自分の専門領域と専門外の 領域が交わるところについてよく判り、最適な結 果を導き出すことができるのです。 このくらいの専門家の方々が集まってアドバイ ザー的な役割を果たしていくという姿が恐らく CRE戦略、CREマネジメントの理想形の1つでは ないかと思います。 PRE戦略についてはまた違った側面もあると思い ますので、どのようなアドバイザーの方、コンサ ルタントの方が適任であるのかということが今後 明確になってくると思います。 いずれにしても、このような強力なアドバイザー となり得る方が1つ結果を出し、また別の案件を 依頼されるということになると思いますし、この ような方は限られてくるとは思います。 また、先ほど述べましたアドバイザーの立ち位置 についてですが、アドバイザーとして企業と一緒 の立場・目線で方向付けをしたCREについて、ソ リューションビジネスとして、これは開発しよう、 売却しようというような話になるかもしれません が、この部分のビジネスにはやはりアドバイザー は積極的に関わるべきではないと個人的には考え ております。利益相反する部分が如何しても出て

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不動産鑑定士 くると思いますし、絶対利益相反はいけないとは 言いませんが、少なくともソリューションに至る 方向付けがされるまでは実質的な利益相反をしな いように進めないと、企業が信用してくれないと 思います。

CRE戦略の形とは

CRE戦略については、もう少し経済環境が良くな れば、具体的なソリューションに至るところまで の事例も増えてくるでしょう。仮に、一時的には 損を出すことになったとしてもこれに対応する余 力が出てくると思います。 CRE戦略、CREマネジメントとはこのようなもの という決まった形があるものではないと考えます ので、これはCRE戦略、CREマネジメントではな いかというものはいくつもあると思います。企業 にアドバイスをして、あるものは有効活用して、 あるものは売却したといった小さいコンサルも CRE戦略、CREマネジメントと言えると思います。 したがって、こういうもの で な いとCRE戦 略、 CREマネジメントと言えないというわけではない と思うのですが、大掛かりなCRE戦略であっても ちょっとしたCRE戦略であっても少なくとも共通 しているのは、単純に物件を有効活用した、売却 したとかではなく、それが企業側の経営を考えて、 不動産をどうするかという意思決定をして答えを 出したものであるかということで、このことが重 要だと思います。 今後、CRE戦略、CREマネジメントというキーワー ドが世の中に広まっていくときに、それは不動産 の仲介に関することとか、物件を売却することと いうことに、なるべくならないように、不動産が きちんと活かされていますか、活かされていない と企業価値が落ちますよ、活かされていなかった らどの様に対処しますかということを指す言葉で あると受け止められながら広まっていくといいな と思います。

不動産戦略のエキスパートに

不動産鑑定士はなり得るか

現在、NPO法人日本不動産カウンセラー協会では、 CRE戦略、PRE戦略を広めるべく、川上にも川下 にも、専門的なサービスを提供する側にも受ける 側にも、CRE戦略、PRE戦略についての認識を高 めてもらいたいと活動しています。そのため、「不 動産戦略アドバイザー」という認定資格制度を創 設し、不動産戦略のエキスパートの養成を目指し ています。手前味噌ですが、現在、不動産カウン セラー協会は社会にとって有益な仕事をしている と思いますし、CRE戦略、PRE戦略が世の中に定 着する時代は遅からずやってくるでしょうから、 そのベース作りに貢献することになると思います。 こういったCRE戦略、PRE戦略に対して、果たし て不動産鑑定士がどれだけ活躍できるかは未知数 だと思います。 一般の不動産鑑定とは相当違った業務であるし、 鑑定だけの専門分野ではカバーしきれない業務で あることは明らかです。また、不動産からのアプ ローチという視点しか持っていないと、この業務 は難しいと思います。鑑定だけでなく、鑑定から 広げて隣接・周辺業務というレベルでもなかなか 難しいでしょうから、川上で既にビジネスに関与 した経験や専門的知見がある方がこの分野をリー ドする可能性が高いと思います。 しかしながら、不動産鑑定士の専門分野はコアと して有望だと思いますので、先人が優秀な若手を リードして、一緒に経験を積んでいくという姿が、 実践での最高の人材育成であると思います。担保 評価とか簡易な調査とか、そういったものばかり ルーチンワークとして繰り返すのではなく、鑑定 以外の解らないことだらけのCRE戦略、CREマネ ジメントといった世界で揉まれて足腰の強い専門 家が一人でも多く育ってくれば、不動産鑑定業界 も明るい兆しが見えてくるのではないかと思いま す。 鑑定業界の現状は、決して楽観できるものではな いと思います。このような激動の時代、人材育成 どころか日々の仕事でさえこの先どうなるか分か

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らない状況であるとも言えます。不動産鑑定の ニーズは様々ですから、軽いデューデリのために 安価で不動産の価格を把握したいという場合に は、このニーズに応じた安価な報酬も仕方がない でしょうが、責任が重く、難易度が高い仕事の場 合には、それに見合う報酬をきちんと頂いて仕事 をすべきであると考えますが、残念ながらそうで ないのが現状だと思います。だからと言って、こ の路線を突き進めていくと、良い人材も育ちませ ん。 鑑定を本業としてしっかり取り組み、かつCRE戦 略、CREマネジメントといった仕事にもチャレン ジできる優秀な人材がこぞって集まってくる業界 となることを期待しつつ、CRE戦略と不動産鑑定 業界についての話を終わりとさせて頂きます。 (注) 東日本大震災後のCRE戦略マネジメント(平成23年 10月現在) 東日本大震災により、これまで顕在化していなかった不動 産に係るリスクが浮き彫りになりました。CRE戦略マネジ メントにおいても、BCP(Business Continuity Plan:事 業継続計画)等の重要性が高まるなどリスクマネジメント の観点からの取り組みも必要となっている。

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有限会社小谷不動産鑑定事務所 代表取締役 (有)小谷不動産鑑定事務所代表取締役/不動産鑑定士 1946年生まれ。(社)日本不動産鑑定協会調停センター運営委員長。東京地 方裁判所評価人。東京家庭裁判所調停委員、農水省貯金保険機構価格審査委 員長、(株)整理回収機構企業再生検討委員会委員等。

ADRと不動産鑑定士

現在司法制度改革が進められているが、その一環としてADRが各士業で重要な課題とな っている。不動産鑑定士、鑑定業界はいかにADRを推進していくべきか、この分野の第 一人者でおられる小谷先生にお話をうかがった。

対談

小谷 芳正

先生

Yoshimasa Kotani

不動産鑑定士調停センターの設立

不動産鑑定協会の開設した不動産鑑定士調停セン ターは、司法制度改革の一環として設立されたも のであり、不動産鑑定士2名、弁護士1名が調停 人となり紛争当事者の主張・意見を聴取し、和解 案を提示するなどして和解の成立を図る機関で す。専門的知見を活用し積極的に紛争解決手続に 参加する新しい制度です。 民間ADRに期待されるキーワードは 「迅速性」、 「効率性」、「専門的知見、経験則の活用」 にあり ます。法律には実体法である民法、商法、手続法 である民事訴訟法などいろいろありますが、司法 解決の場合、訴訟の提起、論点の整理、証拠の認否、 判決などの司法手続が必要となります。デュープ ロセスの観点から適正手続は非常に重要です。と ころが我々の関係する地代・家賃の値上げ訴訟分 野というのは必ずしも司法手続によらなくてもい い部分がかなり多いのです。地代、家賃の値上げ、 値下げは事情変更の原則がどう適用されるのかな ど、いろいろな問題がありますが、契約を解除し たとかしないとか契約の存否の問題がなく、価格 だけの問題であれば訴の提起、認否などをショー トカットして価格紛争に直接入れるのです。そう いった意味では適正迅速な解決に結び付けられる のではないかと思います。 裁判所は不動産の価格に関する紛争という分野で は専門家ではないのです。調停センターでは不動 産鑑定士が2人、弁護士が1人入る形で運用して います。ただ、今あまり積極的に宣伝していない ので、皆さんに知られていません。仮に申し立て があったとしても、相手方のほうで応諾してこな いケースが多いのです。調停センターの歴史がな いし、知名度がないということで。しかし、弁護 士が代理人として入っているケースだと手続を理 解しているので応諾してくることがある。本当は 直接素人の当事者の中に入っていきたいのです。

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