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2011年度 石川県吹奏楽コンクール

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石川県の吹奏楽への提言 2012

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アドバイザー 後藤 洋 山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。東京音楽大学研究科(作曲)、ノース・テキサ ス大学大学院修士課程(作曲および音楽教育)をそれぞれ修了。シンディ・マクティー、池辺晋一郎に 作曲を師事する。2001 年以来アメリカに本拠を置き、吹奏楽と音楽教育の分野を中心に作曲・編曲家、 音楽評論家、研究家として活躍。吹奏楽の分野では、今日最も国際的に高い評価を得ている日本人作 曲家のひとりであり、その作品はアメリカとヨーロッパ諸国で多大な注目を集めている。海外で出版され る吹奏楽作品の紹介、また音楽教育としての吹奏楽の研究においても、日本における第一人者。自身 が監修・編曲した『合奏の種』『合奏の芽』(ブレーン)は、音楽表現の基礎を楽しく学ぶ新しいアイディア の教則曲集として大きな反響を呼んだ。 2011 年、ウインドアンサンブルのための《ソングズ》により、世界で最も権威ある吹奏楽のための作曲賞 のひとつである ABA(アメリカ吹奏楽指導者協会)スーザ/オストワルド賞を受賞。また現場の実情に即 した幅広いクリニック活動とレパートリー研究の功績により、2000 年度吹奏楽アカデミー賞(研究部門)を 受賞している。さらに「ミッドウェスト・クリニック」(2006 年および 2010 年、シカゴ)、世界シンフォニック・バ ンド&アンサンブル協会(WASBE)世界大会(2009 年、シンシナティ)等、多くの国際的な講習会で講師 を務め、いずれも高い評価を得ている。 日本バンドクリニック委員会委員、日本管打・吹奏楽学会理事、21 世紀の吹奏楽“響宴”実行委員、全 米音楽教育者協会(MENC)会員。

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はじめに 平成8年(1996 年)、石川県吹奏楽連盟は県の吹奏楽活動のあり方を検証し、さらなる演奏レベルの向 上と活動内容の充実を図ることを目的に、アドバイザーを小澤俊朗氏に依頼。小澤氏はその年の吹奏 楽コンクール県大会を視察され、翌平成9年に『石川の吹奏楽への提言』をまとめられました。この種の 研究/検証はそれ以前の日本の吹奏楽界にはなかったもので、全国各地の吹奏楽関係者から少なか らず注目を集めることになりました。しかしながら、他の地域で同様のこころみが実施された例は今日に 至るまでほとんどないようです。この事実は、石川県吹奏楽連盟の方々の進取の気がいかに他の地域 より抜きん出たものであるかの証しと言えるでしょう。 小澤氏がアドバイザーを務められた年から 15 年を経た平成 23 年(2011 年)、石川県吹奏楽連盟は再 び県の吹奏楽活動の内容を客観的に検証することになりました。アドバイザーのご依頼をいただいた私、 後藤洋は、平成 23 年度の石川県吹奏楽コンクール(7月 16〜17 日、津幡町文化会館「シグナス」およ び7月 23〜24 日、金沢歌劇座)、中部日本吹奏楽コンクール石川県大会(8月 21 日、津幡町文化会館 「シグナス」)、石川県アンサンブルコンテスト(平成 24 年1月 22 日、能美市根上総合文化会館 音楽ホ ール「タント」)を視察し、また7月と8月のコンクールの結果と審査員からの指導講評をもとに、『バンド・ ステップ・アップ 2011』と題した講習会を 12 月 10〜11 日に県吹奏楽連盟の4支部(奥能登、口能登、金 沢、加賀)で行ないました。 今回、15 年振りの「提言」に求められた検証すべき内容について、私自身は以下のように理解していま す。 ① 小澤氏の「提言」で指摘された諸問題が解決されているかについて ② 15 年前には認められなかった新しい状況が生み出す問題について ③ 今後改善すべき演奏技術および音楽表現の問題点と、それらの具体的解決方法について ④ コンクール、講習会等のイベントの意味づけと、それらの運営について ⑤ 社会活動、教育活動としての吹奏楽の可能性について。また将来に向けてこれから石川県の吹奏 楽に関わる人々が何を目指すべきかについて 以上5つの点について、コンクールの視察報告を踏まえて検証、考察することにいたします。

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平成 23 年度 石川県吹奏楽コンクール 視察報告と提案 7月 16 日(高等学校 B 部門、フリー部門) 津幡町文化会館「シグナス」 7月 17 日(小学校部門、中学校 B 部門) 津幡町文化会館「シグナス」 7月 23 日(中学校 A 部門) 金沢歌劇座 7月 24 日(大学、職場一般、高等学校 A 部門) 金沢歌劇座 I. 会場およびコンクール運営について(全部門を通して) ・ 金沢歌劇座は、規模、設備、出演者の導線等、あらゆる面において理想的なコンクール会場のひと つといえる。今後、石川県が誇るべき施設として永く活用していきたい。 ・ 「シグナス」は決して使い勝手がよいホールとは言えないが、スタッフがよく考え、よく動き、また出演 団体の理解度も高く、うまく運営されていた。特に搬入、搬出がスムーズに行なわれていた点は特筆 に値する。ただ、ステージ上とステージ袖の温度差が大きすぎるため、待機中にチューニングの狂い が生じる懸念がある。また、審査員控え室と審査員席の距離が大きく、移動に時間がかかりすぎる点 も問題。履物の着脱に手間がかかる場合があるので、できれば審査員控え室は和室でないほうがよ い。 ・ 「シグナス」の Wenger 製の譜面台(指揮者用)の調整方法がわからず、戸惑う指揮者が見られた(そ の後、舞台の係員がサポートするようになり、改善された)。今後、コンクール会場の椅子や譜面台等 を事前にチェックする必要があると考えられる。 ・ 生徒役員は思いのほか目立つ存在であり、一般入場者へ与える印象も大きい。その点、今回の役 員生徒の態度、働きぶりは評価に値する。特に「シグナス」における生徒役員は多くの人に好印象を もたらし、吹奏楽への理解を得る上できわめて重要であったと確信する。 ・ ホールロビーにおける CAFUA レコードおよび朝日新聞社のブースも、あまり営業色が強すぎず、よ い雰囲気で、コンクールの気分を盛り上げるのに大いに効果があった。 ・ アナウンスにプロのアナウンサーを起用するのはよい。ただ、団体名と指揮者名のみの紹介で十分 ではないか?(曲名、作曲者名は不要。実際、数県で実施されている)。 ・ プログラムに課題曲の紹介を掲載するのはよいが、文章にかなり問題がある。 ・ 諸注意のアナウンスは何度もする必要がある(開会式で一度だけでは意味がない)。また、録音・録 画の禁止、携帯電話の使用禁止は、プラカード方式にして係員に会場内を周回させてはどうか。 ・ ホールで音楽を聴く経験の少ない一般の聴衆をどう「教育」していくかは今後の課題。これは、まず それぞれの団体の顧問に問題を理解してもらい、各団体レベルでの教育に取り組むことから始める べきだと思われる。

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II. ステージ・マナーおよび出演団体に求められる留意点(全部門を通して) ・ 打楽器の移動用キャスターから出るノイズが思いのほか大きく、ステージ裏からのその種のノイズが 演奏の妨げになる場合もあった(特に中・高 B 部門)。日常のメンテナンスが必要。 ・ ステージ上のノイズもかなり多い(打楽器のスティック、小太鼓のストレイナー、金管楽器のミュート、 楽器の水抜きの音など)。普段あまり気にしていないのがわかる。 ・ ステージへの楽器・メンバーの入場の訓練ができていないバンドが多い。特に中学校は、初めてス テージに出る1年生もいるので、事前の練習は欠かせない。また、「お手伝い」の1年生や保護者(特 に小学校)などは、勝手がわからずかえって邪魔になる場合もある。各団体にあらためて見直しを提 案したい。 ・ 打楽器の「課題曲降り番」の生徒を中途半端な位置に立たせておくのは、視覚的にマイナス。特に 中学校に多い。出番がなければ座らせておくべきではないか。 ・ 演奏が終わるや否や、すごい勢いで起立するバンドが多い。また、指揮者の「起立」の合図も乱暴な 印象。音楽的な気分が壊されること甚だしい。この悪習は見直されるべき。 III.演奏について ・ 選曲……本当にその曲でよいのか? 真剣に選んだ結果なのか? ・ クラリネットとトランペットのレベルが全体に低い。これは非常に重大な問題(全部門)。 ・ 指揮の技術に問題が多い。高度なテクニックは必要ないが、とりあえず曲想に合ったアインザッツの 準備を考えたい。また、演奏者の自然な呼吸を妨げない指揮、演奏者を無理に力ませない指揮につ いて研究が必要(全部門)。 ・ 打楽器の音色、特にフォルテが美しくない。「力まかせに叩くもの」との誤解はないか? 全体に、指 導者の打楽器に対する意識が不足(全部門)。 ・ サクソフォーンの音色がクラリネットよりも優位になり、バランスが不適切になっている例が、特に B 部 門に多く見られた。小編成でのバランス設計についてあらためて考えたい。 ・ メロディーの表現に気を配っているが、その他の要素に配慮が足りない演奏が多い(全部門)。 ・ レガートの表現が不徹底なバンドが多い(全部門)。 ・ 課題のコラールの意味を理解していないバンドが多い。特に高校 B 部門は「ただ音を合わせている」 だけの演奏が大半だった。コラールは音楽表現の基本であることを、主催者側も含めてあらためて考 えてほしい。中学校 B 部門は音楽的な表現の団体も少し見られた。

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IV. 各部門に特有の問題 フリー ・ まだ経験の浅いメンバーに、コンクールのための練習を通じて何を学ばせるかを考えて選曲したい。 選曲で成功している団体とそうでない団体があった。 ・ 「フリー部門」の意義について理解を得るための説明等が、プログラム上に必要。 小学校 ・ ステージに立つこと、人前に出ることに慣れていない児童が多い。演奏経験をいかに豊かにしていく かが課題。聴衆も経験不足で、これも指導が必要。 ・ 小学校の参加団体が少なすぎる。これは石川県の吹奏楽活動の深刻な問題のひとつ。 中学校 B ・ サクソフォーンと打楽器ばかりが聴こえるバンドが多かった。 ・ メンバーを無駄に力ませる指揮が多い。 ・ 音楽の中身ではなく、ある種の邦人作品の演奏を通じて「効果音」で勝負するバンドが少なくない。 しかし、音楽的なレベルは全体に高校 B より上。 中学校 A ・ 難しい曲の音符をただ「なぞっている」演奏が多い。音を正確に並べることから、もっと先へ進みた い。 ・ 全体にアナリーゼ不足。ひとつひとつの音の意味を考えたい。 ・ 中学生に低音パートの音楽的な表現を要求するのは難しいが、低音が音楽的に機能していない演 奏がほとんどだった。技術は未熟でも、低音楽器奏者にミュージシャンとしての自覚は持たせたい。 高等学校 B ・ コラールを「音楽」として理解していない(全団体)。 ・ 旋律中心の、あるいはサウンドのみに留意した、表面的な音楽表現が多かった。内声の働きやフレ ーズにもっと気を配るべき。 高等学校 A ・ 技術は上だが、音楽表現(特に音色の選び方、スタイルの表現、和声とフレーズの理解)が中学生 のレベルと変わらない。ただ「正確に」ではなく「豊かに」を目指したい。 ・ 抑制された表現を聴かせる団体がほとんどない。常に全開の印象。 ・ フレーズではなく、個々の音を振ろうとする指揮者が多い。また、指揮者は音色についての感覚をも っと豊かに、鋭敏にすべき。

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大学 ・ 学生だけによる音楽表現が未熟なのは、「受け身」での表現を続けてきた中学校・高校の活動の影 響か? 強弱のみで音楽を表現する傾向が目立った。大学生をおとなのミュージシャンとしてどう成長 させるかは、石川県全体にとって重要な課題。 ・ レガートへの意識が(技術的にも音楽的にも)不足。 職場一般 ・ スクールバンド以上に、この部門では指揮者の音楽性やキャラクターが演奏に直接反映されることを 憶えておきたい。指揮者は客観性を磨く必要がある。 ・ スクールバンドの延長ではなく、大人が取り組むべきレパートリーという観点から考えると、線曲は概 ね納得できる。 ・ 比較的年齢の高い(ように見える)メンバーも活動に参加しており、生涯学習の場として評価できる。 V.審査講評について 各部門の講評に顕著だった審査員による指摘を、以下に要約した。 フリー部門 ・ 基礎技術 ・ 発音 小学校部門 ・ 息の使い方 ・ 弱奏の表現 中学校 A 部門 ・ 課題曲のマーチのリズムの表現(特に伴奏パート) ・ 音色、音程、バランスのコントロール(特に強奏、弱奏時) ・ 曲想に応じた音色の変化とコントラスト ・ それぞれの楽器の音色 ・ 響きが薄い場面の音色と表現 ・ クラリネットのサウンドに問題 中学校 B 部門 ・ 基礎技術/音程 ・ 弱奏が不安定(音色、音程) ・ 強奏が乱暴 ・ 変化とコントラスト ・ バランス(旋律と伴奏のバランス、管楽器と打楽器のバランス)

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・ 旋律の歌い方、フレーズの方向 ・ それぞれの役割の理解 中学校 A 部門 ・ 課題曲のマーチのリズムの表現(特に伴奏パート) ・ 音色、音程、バランスのコントロール(特に強奏、弱奏時) ・ 曲想に応じた音色の変化とコントラスト ・ それぞれの楽器の音色 ・ 響きが薄い場面の音色と表現 ・ クラリネットのサウンドに問題 高等学校 B 部門 ・ 音程 ・ フレーズの感じ方と方向性 ・ 変化とコントラスト 高等学校 A 部門 ・ 弱奏の表現 ・ 音楽のキャラクターに応じ、表現と音色をより多様に ・ クラリネットのサウンドに問題 大学部門 ・ テンポ ・ 音色 職場一般部門 ・ ハーモニー ・ テンポ/リズム ・ アンサンブル/バランス ・ 弱奏の表現/強奏のサウンド

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平成 23 年度 中部日本吹奏楽コンクール 石川県大会 視察報告 8月 21 日 津幡町文化会館「シグナス」 全部門を通じて ・ 7月の大会(全日本)に比べ、会場も演奏も全体に熱気に乏しい。また、ごく一部の団体を除き、 ほとんどの団体が全日本と同じ自由曲を演奏していた。開催時期が接近しているため、新しい曲を 準備するのは難しいと思われるが、このコンクールの意味(全日本と何が違うのか)が正しく理解さ れ、出場する意義が真剣に考えられているか疑問。実際、同じ曲を演奏してもほとんどの団体が7 月にくらべて完成度が低下していた。長い期間練習したからといってその分上手になるわけではな い。 ・ マーチの「何」が審査されるべきなのかという問題も含めて、マーチが課題曲になっていることの 意味を考えたい。ただ「ずれない」「外さない」だけの演奏、逆にマーチのスタイルを無視して「工夫 しすぎ」の演奏が多かった。 ・ ステージ裏からのノイズが相変わらず気になる。 ・ 演奏終了後の写真撮影の場所が全日本大会の時と変更になり、ホール2階のロビーとなったが (天候のせいか?)、結果的に人の流れに支障が生じた。 中学校小編成 ・ この部門は予選が行なわれたため、結果的に地域格差が明らかになった。奥能登、口能登支部 からの出場がほとんどなかったのは残念。 ・ 課題曲の選曲に問題(なぜ難しい曲を選ぶ?)。 ・ フレーズと重心に対する理解が全体に不足。 中学校大編成 ・ ひとつひとつの楽器の音色があまり生きていない。中途半端にブレンドされている印象。 ・ 入念に表現されている箇所とそうでない箇所の差が大きい。 高等学校小編成 ・ 全体にエネルギーに乏しい。表現するのを怖がっているような印象。 ・ 課題曲の取り組みのレベル差が大きい。 ・ 音程や音色など、技術的問題が多い。 高等学校大編成 ・ 力をいかに抜くかが課題。力んだ奏法と力ませる指揮は、美しい響きと表現を損なう。

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平成 23 年度 石川県アンサンブルコンテスト 視察報告 平成 24 年1月 22 日 能美市根上総合文化会館 音楽ホール「タント」 小学校 ・ 出場が全3団体というのは少なすぎる。しかしレベルは高く、ステージ・マナーもよい。夏のコンク ールよりも技術的、音楽的に進歩がみられる(小学生の成長を考慮すると、本来夏のコンクールは 時期的に早すぎる)。「フレーズ」の理解が今後の課題。 中学校 ・ 打楽器:フレーズのない表現になりがち。鍵盤の音色づくりと正しい奏法の研究が課題。 ・ サクソフォーン:アタックの音色に問題。意味のない動きや「合図」が多い。 ・ クラリネット:レベルの格差が顕著。基本的な奏法に問題が多い。指はよく動いているが、音楽の 「重心」が表現されていない。 ・ フルート:アーティキュレーションとリズムの表現が全体に不明瞭。 ・ 金管:全体に音は立派。しかし音程に問題が多い。レガートの表現とスタイルの理解も課題。 高等学校 ・ 打楽器:ノリや雰囲気や見た目だけ、という印象。全体に音楽的完成度が低く、音色も美しくな い。 ・ サクソフォーン:一体感に乏しい。スタイルの研究が課題。 ・ クラリネット:アーティキュレーションの表現が不徹底。全体に音色が硬い。 ・ 金管:スタイル(音色、リズム、フレージング)と音楽構成の研究を。 大学・一般 ・ これまでどのように学び、どのような音楽を演奏してきたか、という音楽経験の質が演奏の質となっ て出ている。教育の大切さを痛感した次第。

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提言:石川県の吹奏楽の未来のために ① 小澤氏の「提言」で指摘された諸問題 ・コンクールの運営 小澤氏の「提言」で画期的だったのは、コンクールの演奏だけでなく、その運営——スケジュール、そ れぞれの係の動きと連携、照明、アナウンス、プログラムの内容など——も検証し、より演奏しやすく、 聴きやすく、審査しやすい環境について考察したことです。石川県吹奏楽連盟がその提言を真摯に 受け止め、コンクールをよりよいものにするため努力を重ねられてきたことは、平成 23 年度のコンクー ルのすばらしい運営に示されていました。金沢歌劇座という理想の会場をうまく活用した出演者の導 線設定は、特に評価に値します。今後は、その運営のレベルに見合うだけの出演者と聴衆をいかに 育てるかが課題となるでしょう。駐車や搬入・搬出についての出演者側の理解や、聴衆のマナーにつ いてはまだ改善の余地があるようです。吹奏楽の指導者が、楽器の演奏や音楽表現においてのみな らず、コンクールという社会的な場においても指導者としての自覚を持つことがまず必要であると考え られます。また、主催者である吹奏楽連盟が、コンクールの意味についての理解を得る努力を今後も 続けていくことを期待します。 ・楽器のレベルの格差 石川県のみならず、北陸の吹奏楽の技術的問題として、木管のレベルの低さがこれまでにも指摘さ れてきました。フルートとサクソフォーンのレベルの向上は瞠目すべきものがありますが、クラリネットの 音色と表現力については、まだ今後改善の余地が残されています。 ② 新しい状況が生み出す諸問題 ・小編成の楽器バランス 少子化の影響で、ほとんどの団体がメンバー不足の問題を抱えており、限られた人数でバンドを編成 せざるを得なくなっています。人数と楽器編成との関係についてあらためて考え直すべき時期が到来 していると言えるでしょう。クラリネットよりもサクソフォーンが優位となる木管のバランスは石川県の吹 奏楽の特徴のひとつですが、少人数の団体ではその弊害も顕著になっているようです。クラリネットよ りもサクソフォーンが多く、そのため明らかにバランスが崩れている演奏が多くありました。また、人数 が少ないバンドほど打楽器がバランス的に突出しやすくなるのは自明であり、この点についても今後 研究と改善が求められます。

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・選曲 少子化は、レパートリーにも影響を及ぼします。つまり、使える楽器の種類が制限されるだけでなく、 多くのバンドが経験の少ない新入生もメンバーに加えて演奏せざるを得なくなり、結果的に無理なく 演奏できる曲が限られることになります。そのような状況の中で、選曲はきわめて大きな問題になりま すが、残念ながらその問題について十分な研究がなされているとは言いがたいようです。課題曲も含 めて、バンドの編成や能力にふさわしくない作品を無理して演奏している団体が多くみられました。指 導者がレパートリーについての正しい情報を得ること、作品の内容について正しく理解することも、演 奏の指導と同様に大切なことです。 ③ 演奏技術および音楽表現の諸問題 ・楽器のレベルの格差 すでに述べたように、クラリネットとトランペットのレベルはあまり高くないようです。言うまでもなく、これ らふたつは吹奏楽の中心的な役割を担う重要な楽器であり、それだけにレベルの低下は深刻な問題 と言わざるを得ません。この問題の背景にはさまざまな要因が考えられますが、県内にクラリネットとト ランペットの専門的な教育を受け、アマチュアの指導ができる人材が不足していることは無視できな い問題です。東京や大阪から高名な奏者を招き、レッスンを受けることももちろん大切ですが、身近に 正しい見識と豊富な経験を持ち、気軽に相談できる人がいることは、それにも増して重要です。今後、 専門教育を受けた地元出身の若い演奏家が活動できる場を用意し、吹奏楽指導者とプロ奏者がお 互いに利用し合って地域の音楽活動を活性化するための環境を整える必要があります(特に、能登 地区において急務です)。すでに何人かの地元出身の演奏家が県内で活躍しており、その成果は少 なからず現われているようですが、まだまだその活動は地域的に限定されているように見えます。 ・音楽表現 コンクールにおける各審査員の講評の内容が、技術とともに(場合によってはそれ以上に)音楽表現 の問題について言及していたことはある意味では当然のことです。その一方で、現場では、特にスク ールバンドでは、まともに音を出すだけで精一杯、というのが実情でしょう。正しく音を出し、合わせる ことが最優先で、表現は後回しになりがちです。しかし、聴き手は「音」ではなく「音楽」を聴いていま す。出ている音が未熟であっても、私たちは「音楽」を奏でている、ということを忘れるべきではありま せん。夏のコンクールで多くの審査員が、変化とコントラスト、弱奏の表現、それにフレージングにつ いて指摘していることはきわめて重要で、これらの問題について研究する機会が設けられる必要を強 く感じます。

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④ コンクールおよび各種イベントの意義 ・コンクール 石川県の吹奏楽関係者にとっては当たり前のことかもしれませんが、東海・北陸以外の地域では、コ ンクールは全日本吹奏楽コンクール(およびその予選)のみです。全日本と中部日本のふたつのコン クールは、それぞれ規定や課題曲も、審査員も、また出場する側のコンディションも異なるため、一方 のコンクールでは高く評価されなくとも、別のコンクールでは評価される可能性もあり、活動のよいモ チベーションになり得ます。しかし、ふたつのコンクールの違いが、出場する側にちゃんと理解されて いるかどうかは疑問です。コンクールがあるから出る、ではなく、そのコンクールに出るべきか、出ると すれば何を達成すべきかを真剣に考えるべきでしょう。このままでは中部日本吹奏楽コンクールの意 味が失われてしまいのではないかと危惧します。また、スクールバンドの生徒やその保護者にとって、 コンクールが——その意義や、目的や、部門や、規定や、審査基準が——正しく理解されていないこと も同様に危惧されます。みずからがまずコンクールの意義を考え、それを生徒や保護者と共有するこ とも、吹奏楽指導者の仕事ではないでしょうか。それによって、出場者や聴衆のマナーの必然的な向 上が期待できるでしょう。 ・講習会 すでにご報告したように、コンクールの結果と審査員からの指導講評をもとにした講習会を 12 月に県 吹奏楽連盟の4支部で行ないました。これはモデルバンドを使わない、討論形式のもので、講評用紙 に書かれた内容の意味についての考察が主要なテーマでしたが、このような、自分たちで考え、問題 を共有するスタイルの講習会がもっと盛んに行なわれるべきだと考えます。このようなスタイルであれ ば、わざわざ遠方から講師を招かなくとも開催可能でしょうし、何よりも、学び、考えることがもっと気軽 になります。各支部において検討されることを期待します。 ・選抜吹奏楽団 石川県吹奏楽連盟では中学校と高等学校の選抜吹奏楽団を組織し、毎年遠征や演奏会を行なって いますが、これは他の県に誇り得る、きわめて有意義な事業です。参加する生徒の皆さんが、学校の 枠を超えて交流し、通常とは異なる指導を受けることができるだけでなく、普段取り組む機会のないレ パートリーを学んだり、この「提言」で明らかになった問題について指導者と一緒に考えたりする機会 としても重要です。現在のところ、参加者にやや地域的偏りがみられるようですが、今後、この事業が 全県を挙げての取り組みに発展することを期待します。

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⑤ 将来に向けて ・長期的展望による吹奏楽教育 音楽を奏でる人を育てるには時間がかかります。そもそも、教育はその場ですぐ成果が上がるような 活動ではありません。結論が出るには何年も、何十年もかかります。楽器を手にする幸運に恵まれた 若い人が、仲間とともに音楽を通じて成長し、次の世代のリーダーとして豊かな社会を作ってくれるこ とがわれわれの願いであり、それを達成することこそ吹奏楽連盟の責務であるべきです。その成果の 大きさに比べたら、コンクールの成績など些細なものと言えるのではないでしょうか。昨今の日本にお いては、何事にもすぐに結果が求められ、長期的な展望の上に立ってものを考えることはきわめて困 難になってきました。そのような時代だからこそ、小学生からおとなまでが共に集い、共に楽しむ吹奏 楽の教育的意義は大きいと言えます。長い目で人を育てることの意味の大きさを、吹奏楽活動によっ て証明すべきなのです。その意味で、今後小学校の吹奏楽活動の活性化が重要な課題になることは 明らかでしょう。石川県にはいくつかの小学校のバンド活動がみられますが、組織的に連携しておら ず、結果的に数の上でも、内容の面でも低調と言わざるを得ません。小学校のバンドが吹奏楽連盟 に加盟することを急ぐ必要はありません。しかし吹奏楽連盟が小学校の活動の実態を把握し、それぞ れの地域内の中学校や高等学校のバンドの協力を得て、その活動の活性化のための機会を設ける ことは早急に検討されるべきだと考えます。小学校で楽器を手にした子どもを成長させるのは地域の 責任であり、結果的にその成長は県全体の吹奏楽活動の活性化につながるからです。同様の理由 で、石川県吹奏楽連盟は大学の吹奏楽活動にもいっそう積極的に関与すべきでしょう。 ・吹奏楽サポーターの育成 学校の課外活動の中で、吹奏楽は最も多くの人々が関わる活動のひとつです。したがって、演奏す る人だけでなく、その周辺の人々、特に保護者と「元吹奏楽部員」は、石川県内に限っても膨大な数 になります。コンクールのステージにこそ立たないものの、これらの人々もまた石川県の吹奏楽活動の メンバーであり、そのサポートなくしてはわれわれの活動は成り立ちません。このような人々に、コンク ールやコンサートの会場にもっともっと足を運んでいただき、そのパフォーマンスに耳を、目を向けて いただき、応援していただき、聴衆のお手本となっていただき、吹奏楽のすばらしさを社会にむけて アピールしていただくために、広報と社会教育についての活動のさらなる活性化を期待します。「ラ・ フォル・ジュルネ」や「ビエンナーレ」等のイベントへの参加も、開かれた吹奏楽活動の認知のために きわめて重要であると言えるでしょう。

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おわりに 今回アドバイザーを拝命したおかげで、石川県のすべてのコンクールを視察できただけでなく、たく さんの指導者の方々や生徒の皆さんと親しくお話しをすることもでき、またひとりの聴衆として多くのす ばらしい演奏を心から楽しむことができました。貴重な機会を与えてくださった石川県吹奏楽連盟の 皆様にあらためて御礼申し上げます。 石川県の吹奏楽活動を俯瞰して思うのは、石川県の吹奏楽の問題は日本の吹奏楽の問題でもある ということです。言い換えるならば、石川県の取り組みは日本全体に影響を与え得るということでもあり ます。その意味で、この「提言」とそれを受けた今後の活動によって石川県の吹奏楽がいっそう充実し、 それが日本の吹奏楽活動の充実につながることを期待せずにはいられません。次の世代によって、 日本の吹奏楽の変革は 2012 年に石川から始まった、と評価されることを私は信じています。 私と石川県の吹奏楽指導者の皆様とのおつき合いが始まったのは、昭和の終わり頃でした。そして、 その時に中学生、高校生だった若い人たちが、今日指導者として石川県の吹奏楽をリードしていま す。この「提言」の最後に、音楽を奏でる人を育てるには時間がかかる。結論が出るのは何年も、何十 年も先だ、と述べましたが、時間をかければちゃんと人は育ち、結論は出るのです。 さらにすばらしくなった石川県の吹奏楽の演奏を聴くことを楽しみに、私は待ちたいと思います。十 年でも、二十年でも。

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