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制御適合はパフォーマンスを高めるのか?

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近年,動機づけ研究の分野において,制御適合に関 する研究が精力的に行われている。そこでは,課題に 取り組む時,目指す活動の結果は同じであっても,そ の目標志向性や活動を行う方略は個人や状況によって 異なると考えられている(Higgins, 2008)。 まず,制御適合理論の前身である制御焦点理論 (Higgins, 1997)では,人の目標志向性を促進焦点 (promotion focus)と防止焦点(prevention focus)の 2 つに区別している。促進焦点は希望や理想を実現する ことを目標とし,進歩や獲得の在・不在に焦点を当て る目標志向である。一方,防止焦点は義務や責任を果 たすことを目標とし,安全や損失の在・不在に焦点を 当てる目標志向である。この制御焦点には,個人差と しての「特性」として捉える場合と,プライミングや フレーミングを用いて,促進焦点あるいは防止焦点の 状況を活性化させるといったように,「状況要因」と して捉える場合がある。 また,制御適合理論で仮定している目標追求の手段, すなわち方略には 2 つある。1 つは,熱望方略(eager strategy)と呼ばれるもので,大局的で速く,獲得(gain) を 最 大 化 す る よ う な 達 成 手 段 で あ る(Crowe & Higgins, 1997)。 も う 1 つ は, 警 戒 方 略(vigilant strategy)と呼ばれるもので,局所的で正確であり, 損失(loss)を最小化するような達成手段である(Crowe & Higgins, 1997)。 そして,活動を行う方略が目標志向性と合致する時, すなわち,促進焦点に対し熱望方略,防止焦点に対し 警戒方略を用いる時,人は制御適合(regulatory fit)

制御適合はパフォーマンスを高めるのか?

1, 2

制御適合の種類別の検討

外山 美樹

3 

長峯 聖人

 

湯 立

 

三和 秀平

 

黒住 嶺

 

相川 充

 筑波大学

Can regulatory fit improve performance? Effect of types of regulatory fit and performance Miki Toyama, Masato Nagamine, Li Tang, Shuhei Miwa, Ryo Kurozumi,

and Atsushi Aikawa (University of Tsukuba)

According to the regulatory fit theory (Higgins, 2000), when people engage in goal pursuit in a manner that fits their orientation (e.g., promotion/eager or prevention/vigilance), they experience regulatory fit and engage more strongly in the pursuit, leading to better outcomes. The present research investigated the influence of regulatory fit on performance by considering the type of performance (speed or accuracy) and the kind of regulatory fit (promotion/eager, or prevention/vigilance). In Study 1, 85 university students were induced to hold a promotion or prevention orientation. In Study 2, 90 university students were assessed for individual differences in regulatory orientation. The results indicated that speed performance was best when there was promotion/eager regulatory fit, whereas accuracy performance was best when there was prevention/vigilance regulatory fit. These findings suggest that the performance effects of regulatory fit are not identical, but differ according to the types of regulatory fit.

Key words: regulatory fit, regulatory focus, promotion focus, prevention focus, performance.

The Japanese Journal of Psychology

2017, Vol. 88, No. 3, pp. 274–280 J-STAGE Advanced published date: May 10, 2017, doi.org/10.4992/jjpsy.88.16321 Correspondence concerning this article should be sent to: Miki Toyama, Faculty of Human Sciences, University of Tsukuba, Tennodai, Tsukuba 305-8572, Japan. (E-mail: mtoyama@human.tsukuba.ac.jp) 1 本研究は,第 1, 2, 3, 4, 5 著者が NPO 法人教育テスト研究セ ンター(CRET)の連携研究員として,第 6 著者が理事として行っ たものである。 2 本論文の研究結果の一部は,日本教育心理学会第 58 回総会 および教育テスト研究センター年報の速報で発表された。 3 実験の実施にあたり,筑波大学人間学群心理学類の濱口 晃 輔さんと山村 帆南さんの協力を得た。心より感謝申し上げます。 また,実験にご協力いただいたすべての方々に,厚く御礼申し 上げます。

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を経験する(Higgins, 2000)。制御適合を経験すると, 現在の活動に対して「正しい」と感じられ,活動その ものの価値が高まり,活動へ積極的に従事し,高いパ フ ォ ー マ ン ス を 示 す こ と が 明 ら か に な っ て い る (Brodscholl, Kober, & Higgins, 2007)。 Förster, Higgins, & Idson(1998)は,制御適合が活 動の従事やパフォーマンスに及ぼす影響について検討 した。この実験では,実験参加者にアナグラム課題を 解いてもらうのだが,その際に,熱望方略条件では机 の裏面に設置された板を下から上に押す動作(自分の 方に引き寄せる = 接近)を行い,警戒方略条件では, 机の表面に設置された板を上から下に押す動作(自分 から遠ざける = 回避)を行った。そして,板を押す 圧力の強さを活動の従事,アナグラムの正答数をパ フォーマンスとして測定した。その結果,制御焦点(特 性,状況)と方略が適合していたほう(促進―熱望, 防止―警戒)が,不適合な場合(促進―警戒,防止―熱望) よりも,活動の従事およびパフォーマンスが高かった。 近年,さまざまな分野(例:価値創造,意思決定, 有用性の判断,倫理判断,説得)で,制御適合した方 略で目標を追求すると制御適合が生じ,その結果,後 続の対象評価や行為評価に影響を及ぼすことが報告さ れている(レビューとして Higgins, 2008)。制御適合 の効果としてパフォーマンスに焦点を当てた研究はま だ少ないが,先に紹介した Förster et al.(1998)のよう に,制御適合を経験するとパフォーマンスが高まると いう知見が積み重ねられつつある(Markman, Baldwin, & Maddox, 2005; Shah, Higgins, & Friedman, 1998)。 このように,先行研究では,制御焦点と方略とが適 合しているか否かによってパフォーマンスが異なるか という点については検討しているが,制御適合の種類 (促進―熱望,防止―警戒)を区別した上でパフォーマ ンスに及ぼす影響については検討していない。しかし, 制御適合の種類が異なれば,パフォーマンスへの影響 が異なることも考えられる。制御適合の研究ではない が,Förster, Higgins, & Bianco(2003)は速さと正確さ がトレード・オフの関係にある課題(点つなぎ課題) を用いて,制御焦点(特性,状況)とパフォーマンス の関連を検討した。その結果,促進焦点は速さのパ フォーマンスが高く,防止焦点は正確さのパフォーマ ンスが高いことが示された。また,Scholer & Higgins (2012)は,制御焦点とパフォーマンス,生産性との 関連をまとめているが,促進焦点の価値は速さであり, 大局的な情報処理をし,創造的である一方,防止焦点 の価値は正確さであり,局所的な情報処理をし,分析 的であることを指摘している。このように,促進焦点 は熱望方略が必要とされる課題のパフォーマンスが優 れ,防止焦点は警戒方略が必要とされる課題のパ フォーマンスが優れていることが報告されている。 これらの研究成果も踏まえて制御適合がパフォーマ ンスに及ぼす影響について考えると,目標志向性(制 御焦点)に合致する方略を用いる時に制御適合を経験 し,その結果として高いパフォーマンスにつながる (Higgins, 2000)が,その制御適合の効果は,制御適 合の種類に合致した課題のパフォーマンスにおいて, より強まる可能性が考えられる。つまり,制御適合の 種類(促進―熱望,防止―警戒)によって,高まるパフォー マンスのタイプが異なるため,パフォーマンスのタイ プを考慮した上で,制御適合の種類別に制御適合がパ フォーマンスに及ぼす影響について検討する必要があ る。しかし,先行研究の多くは,制御適合の種類やパ フォーマンスのタイプを考慮した検討を行っておら ず,制御適合を経験するとパフォーマンスが高まると 結論づけている。 そこで本研究では,パフォーマンスのタイプを考慮 した上で,制御適合の種類別に制御適合がパフォーマ ンスに及ぼす影響について検討することを目的とし た。多くの課題が速さと正確さの両者が必要である (Scholer & Higgins, 2012)ことを鑑み,本研究では, Förster et al.(2003)に準拠し,速さと正確さがトレー ド・オフの関係にある課題(点つなぎ課題)を用いて, 上記の点を検討することにした。 既述した通り,制御焦点には,特性として捉える場 合と,状況要因として捉える場合がある。先行研究で は,特性と状況の両者において同様の結果が得られる ことによって結果の頑健性を示すことが多いため,本 研究でもそれに倣うことにした。研究 1 では,実験的 に操作された状況としての制御焦点を,研究 2 では, 特性としての制御焦点を取りあげる。本研究の仮説は 以下の通りである。 1. 促進焦点(状況,特性)では熱望方略を使用する と制御適合が生じ,他の組み合わせと比べて速さのパ フォーマンスが最も高くなる。 2. 防止焦点(状況,特性)では警戒方略を使用する と制御適合が生じ,他の組み合わせと比べて正確さの パフォーマンスが最も高くなる。 研 究 1 目 的 パフォーマンスのタイプを考慮した上で,制御適合 の種類別に,制御適合がパフォーマンスに及ぼす影響 について検討する。制御焦点は,実験的に操作された 状況としての制御焦点を用いる。パフォーマンスのタ イプ(指標)としては,熱望方略に合致したパフォー マンスである「速さ」と,警戒方略に合致したパフォー マンスである「正確さ」の両者を検討することにした。 方 法 実験参加者 大学生 85 名(男子 34 名,女子 51 名,

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平均年齢 = 19.15 歳,SD = 1.38)が実験に参加した。 実験計画 本実験は,制御焦点(促進焦点,防止焦 点)と課題方略(熱望方略,警戒方略)の 2 要因を独 立変数とする実験参加者間計画であった。 実験課題 実験課題は Förster et al.(2003)に準拠し, 点つなぎ課題(connecting-the-dots task)を 4 題用いた。 点つなぎ課題は,予備実験4(n = 40)で使用した 10 題 の中から 4 題を選択した。点つなぎ課題は,数字の順 (1, 2, 3, 4, 5…)に点から点へ線を引いて,ある形を完 成させる課題である。課題は 1 題ごとに A4 用紙に印 字され,各ページの右下に,最終的にすべての点をつ ないだときにできる形(4 題とも生き物)の名前(例: カエル)が記述されてあった。予備実験に基づいて, 完成させることが不可能な時間である 30 秒を制限時 間として設定し,制限時間内にできるだけ正確に,で きるだけ速く点をつなぐように教示した。「正確に」 と「速く」のどちらを先に教示するのかは,カウンター バランスをとった。なお,実験参加者には,著者らの 研究グループで開発している幼児用知能検査の 1 つで あると実験課題の説明を行った。 制御焦点の操作 実験参加者は,促進焦点条件,防 止焦点条件のいずれかにランダムに割り当てられた。 促進焦点条件(n = 44)では,実験参加者自身が理想 として叶えたいと思っていることを「中学・高校のこ ろ」,「現在」,「大学卒業後」の 3 つの時期に分けて自 由記述してもらうことで,促進焦点を活性化させた。 防止焦点条件(n = 41)では,実験参加者自身が義務 として果たすべきだと思っていることを,同じく 3 つ の時期に分けて自由記述してもらうことで,防止焦点 を活性化させた。この方法は,制御焦点の活性化の操 作として有効な手段であることが確認されている (Higgins, Idson, Freitas, Spiegel, & Molden, 2003; 尾崎・ 唐沢, 2011)。回答時間は両条件とも 6 分間であった。 課題方略の提示 実験参加者は,熱望方略条件,警 戒方略条件のいずれかにランダムに振り分けられた。 課題を遂行する直前に,本課題では速さと正確さの両 方が必要であることを再度教示した後に,熱望方略条 件(n = 41)では,「今回は,できるだけ速く遂行す るように」,警戒方略条件(n = 44)では,「今回はで きるだけ正確に遂行するように」と教示した。 質問項目 課題方略の提示の操作チェックのため に,「課題方略重視チェック」の質問項目を使用した。 課題遂行時に正確さと速さのどちらを重視したのかを 1 項目で尋ねた。9 段階評定(–4 ─ +4)で,得点が 負でその絶対値が大きいほど正確さを重視していたこ 4 制御焦点とパフォーマンスの関連を検討した結果,特性(n = 20)および状況(n = 20)ともに,促進焦点では速さのパフォー マンスが高く,防止焦点では正確さのパフォーマンスが高いと いう先行研究の結果(Förster et al., 2003)を再現した。 とを,得点が正でその絶対値が大きいほど速さを重視 していたことを示す。 実験手続き 実験は 1 人ずつ実験室で行った。実験 参加者に実験についての説明を十分に行い,同意書に サインしてもらった後で,制御焦点の操作を行った。 続いて,実験課題のやり方を説明した後に,例題を遂 行してもらった。その後,熱望方略条件では,「でき るだけ速く」,警戒方略条件では,「できるだけ正確に」 遂行するように教示した上で,実験課題を 4 題遂行し てもらった。課題終了後,課題方略重視チェックに回 答してもらった。実験終了後,デブリーフィングとし て実験の目的を伝え,デブリーフィング後の同意書を 記入してもらい,すべての実験を終了した。なお,研 究の実施にあたっては,筑波大学人間系研究倫理委員 会の承認を得た。 結果と考察 実験参加者の人数の内訳は,「促進焦点+熱望方略」 条件が 21 名,「促進焦点+警戒方略」条件が 23 名,「防 止焦点+熱望方略」条件が 20 名,そして「防止焦点 +警戒方略」条件が 21 名であった。 操作チェック 課題方略の提示の操作が機能したか どうかを確認するために,熱望方略条件,警戒方略条 件別に,課題方略重視チェック項目の中央値( = 0) からの差の検定を行った。その結果,熱望方略条件で は,得点が 1.24(SD = 1.77)となり,中央値からの差 が有意であった(t = 4.50, p = .00, r = .58)。警戒方略 条件では,得点が –0.82(SD = 2.03)となり,同じく 中央値からの差が有意であった(t = 2.68, p = .00, r = .38)。よって,熱望方略条件では速さを,警戒方略条 件では正確さをそれぞれ重視しており,課題方略の提 示の操作が機能していたことが示された。 各条件におけるパフォーマンス得点 パフォーマン スとしては,速さと正確さを用いた。各課題において, 制限時間内につなぐことができた最終到達点を得点と して,各課題の得点を足し合わせた得点の平均値を「速 さ得点(α = .94)」とした。この得点が高いほど速い ことを意味する。 正確さの指標としては,ミスの数を用いた。本実験 では,Förster et al.(2003)を参考に,点を通過せずに 線を引いていた場合,順番通りに点を結ぶことができ なかった(点をとばしたり,違う点を結んでいたりし た)場合,線の途中で隙間ができていた場合をミスと してカウントした。各課題のミスの数を足し合わせた 得点の平均値を「ミス得点(α = .89)」とした。この 得点が低いほど正確であることを意味する。なお,速 さならびに正確さの採点においては,2 名の評定者が 採点を行い,一致していないものに対しては協議の上, 得点化した。速さ得点とミス得点の相関係数(Pearson の積率相関係数:以下,同様)は,.73(p = .00)であっ

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た。 制御焦点および課題方略がパフォーマンスに及ぼす 影響 制御焦点(促進,防止)と課題方略(熱望,警 戒)を独立変数,パフォーマンス得点(速さ得点,ミ ス得点)を従属変数とする 2 要因分散分析を各々行っ た。 速さ得点においては,制御焦点(F (1, 81) = 0.12, p = .91, ηp2 = .00)と課題方略(F (1, 81) = 1.58, p = .21, ηp2 = .02)の主効果はいずれも有意ではなく,交互作 用(F (1, 81) = 5.26, p = .02, ηp2 = .06)が有意となった。 そこで,単純主効果検定を行った結果,課題方略の単 純主効果は,促進焦点条件においてのみ有意で(F (1, 81) = 6.52, p = .00, ηp2 = .07),防止焦点条件では有意 とならなかった(F (1, 81) = 0.52, p = .47, ηp2 = .01)。 促進焦点条件では,熱望方略(M = 49.90,SD = 9.84) のほうが警戒方略(M = 42.26,SD = 10.53)よりも, 速さ得点が高かった。制御焦点の単純主効果は,警戒 方略(F (1, 81) = 2.99, p = .09, ηp2 = .04)が有意傾向 となり,熱望方略(F (1, 81) = 2.30, p = .13, ηp2 = .03) は有意とならなかったが小さな効果量が見られた5。熱 望方略条件では,促進焦点(M = 49.90,SD = 9.84) のほうが防止焦点(M = 45.20,SD = 9.72)よりも速 さ得点が高く,警戒方略条件では,防止焦点(M = 47.44,SD = 9.45)のほうが促進焦点(M = 42.26,SD = 10.53)よりも速さ得点が高かった。結果を Figure 1 に示す。なお,「促進焦点+熱望方略」条件と「防止 焦点+警戒方略」条件の速さ得点を比較したところ, 小さな効果量(Cohen’s d = 0.26)が見られた。よって, 「促進焦点+熱望方略」条件が速さのパフォーマンス 5 本研究における効果量の大きさの基準は,Cohen(1988)に 則る。なお,有意でない場合にも効果量を示す必要性があること, p 値と効果量は異なる情報をもっていること(Wetzels et al., 2011),効果量を積極的に解釈することが有用であること(波田 野・吉田・岡田, 2015)が指摘されているため,本研究では効果 量も考慮することにした。 が最も高いという仮説 1 が支持された。 ミス得点においては,課題方略(F (1, 81) = 10.00, p = .00, ηp2 = .11)の主効果が有意となり,制御焦点(F (1, 81) = 0.75, p = .39, ηp2 = .01)の主効果は有意とな らなかった。交互作用(F (1, 81) = 2.49, p = .11, ηp2 = .04)は有意とならなかったが,小さな効果量が見ら れた。そこで,単純主効果検定を行った結果,課題方 略の単純主効果は,防止焦点条件で有意となり(F (1, 81) = 8.35, p = .01, ηp2 = .09), 警 戒 方 略(M = 2.54, SD = 3.01)のほうが熱望方略(M = 5.93,SD = 3.50) よりも,ミス得点が低かった。促進焦点条件では有意 とならなかった(F (1, 81) = 2.43, p = .12, ηp2 = .03) が小さな効果量が見られ,同じく,警戒方略(M = 4.05, SD = 3.85)のほうが熱望方略(M = 5.82,SD = 4.48) よりも,ミス得点が低かった。制御焦点の単純主効果 は,熱望方略(F (1, 81) = 0.01, p = .93, ηp2 = .00)で は有意とならなかった。警戒方略(F (1, 81) = 1.80, p = .18, ηp2 = .02)でも有意とならなかったが小さな効果 量が見られ,防止焦点条件(M = 2.54,SD = 3.01)の ほうが促進焦点条件(M = 4.05,SD = 3.85)よりもミ ス得点が低かった。よって,「防止焦点+警戒方略」 条件が正確さのパフォーマンスが最も高いという仮説 2 が支持された。結果を Figure 2 に示す。 研 究 2 目 的 パフォーマンスのタイプを考慮した上で,制御適合 の種類別に,制御適合がパフォーマンスに及ぼす影響 について検討することを目的とした。制御焦点は,個 人差としての特性を取り上げる。 方 法 実験参加者 研究 1 とは異なる大学生 90 名(男子 31 名,女子 59 名,平均年齢 = 19.62 歳,SD = 1.25) 38 40 42 44 46 48 50 52 54 促進焦点 防止焦点 速 さ 得 点 熱望方略 警戒方略 1 2 3 4 5 6 7 促進焦点 防止焦点 ミ ス 得 点 熱望方略 警戒方略 Figure 1. 制御焦点と課題方略による速さ得点(研究 1)。 注)エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 2. 制御焦点と課題方略によるミス得点(研究 1)。 注 1)ミス得点は,得点が高いほどミスが多いことを示す。 注 2)エラーバーは標準誤差を示す。

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が実験に参加した。 実験計画 本実験は,制御焦点(促進焦点,防止焦 点)と課題方略(熱望方略,警戒方略)の 2 要因を独 立変数とする実験参加者間計画であった。 実験課題 研究1と同じ点つなぎ課題を4題用いた。 課題方略の提示 実験参加者は,熱望方略条件(n = 45),警戒方略条件(n = 45)のいずれかにランダム に振り分けられた。課題方略の提示の方法は,研究 1 と同様であった。 質問項目 研究 1 と同様の「課題方略重視チェック」 を使用した。また,制御焦点の個人差を測定するため, 尾崎・唐沢(2011)の促進予防焦点尺度を用いた。利 得接近志向尺度 8 項目(項目例「どうやったら自分の 目標や希望をかなえられるか,よく想像することがあ る」),損失回避志向尺度 8 項目(項目例「どうやった ら失敗を妨げるかについて,よく考える」)から構成 され,7 段階評定(1 ─ 7 点)で回答を求めた。利得 接近志向は促進焦点に,損失回避志向は防止焦点に対 応している。 実験手続き 実験の手続きは,研究 1 とほぼ同様で あった。異なった点は,研究 2 では制御焦点の操作を 行わなかったところである。その代わりに,同意書に サインをしてもらった後で,制御焦点を測定する尺度 (促進予防焦点尺度)に回答してもらった。それ以外 はすべて,研究 1 と同様の手続きを実施した。 結果と考察 促進予防焦点尺度の基礎統計量ならびに群分け 利 得接近志向の Cronbach の α 係数(以下,同様)は .83 で,平均値は 38.20(SD = 7.24)であった。損失回避 志向の α 係数は .84 で,平均値は 34.50(SD = 7.94) であった。相対的な制御焦点の傾向を測定するために, 先行研究(Hazlett, Molden, & Sackett, 2011)の手続き に従い,利得接近志向(促進焦点)得点から損失回避 志向(防止焦点)得点を減算して,相対的制御焦点得 点とした。この得点が高いほど相対的に促進焦点の傾 向が高いことを,低いほど相対的に防止焦点の傾向が 高いことを示す。次に,この得点の平均値(3.70)に 基づいて,平均値より高いものを促進焦点群(n = 41, 相対的制御焦点得点 M = 12.59, SD = 6.83),平均値よ り低いものを防止焦点群(n = 49,相対的制御焦点得 点 M = –3.73, SD = 7.31)と設定した。なお,促進焦 点群と防止焦点群では,相対的制御焦点得点に有意な 差が見られた(t = 10.86, p = .01, d = 2.30)。 実験参加者の人数の内訳は,「促進焦点+熱望方略」 条件が 22 名,「促進焦点+警戒方略」条件が 19 名,「防 止焦点+熱望方略」条件が 23 名,「防止焦点+警戒方 略」条件が 26 名となった。 操作チェック 熱望方略条件,警戒方略条件別に, 課題方略重視チェック項目の中央値(= 0)からの差 の検定を行った。その結果,熱望方略条件では,得点 が 2.09(SD = 1.47)となり,中央値からの差が有意で あった(t = 9.50, p < .00, r = .82)。警戒方略条件では, 得点が –1.80(SD = 1.34)となり,同じく中央値から の差が有意であった(t = 9.00, p = .00, r = .81)。よって, 課題方略の提示の操作が機能していたことが示され た。 各条件におけるパフォーマンス得点 研究 1 と同様 に実験課題の「速さ得点(α = .94)」と「ミス得点(α = .93)」を用いた。両者の相関係数は,.76(p = .00) であった。 制御焦点および課題方略がパフォーマンスに及ぼす 影響 制御焦点(促進,防止)と課題方略(熱望,警 戒)を独立変数,パフォーマンス得点(速さ得点,ミ ス得点)を従属変数とする 2 要因分散分析を行った。 速さ得点においては,制御焦点(F (1, 86) = 4.70, p = .03, ηp2 = .05)と課題方略(F (1, 86) = 45.69, p = .00, ηp2 = .35)の主効果が有意で,交互作用(F (1, 86) = 1.06, p = .31, ηp2 = .01)は有意とならなかった。Figure 3 に 示した通り,防止焦点よりも促進焦点のほうが,また, 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 促進焦点 防止焦点 速 さ 得 点 熱望方略 警戒方略 1 3 5 7 9 11 促進焦点 防止焦点 ミ ス 得 点 熱望方略 警戒方略 Figure 3. 制御焦点と課題方略による速さ得点(研究 2)。 注)エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 4. 制御焦点と課題方略によるミス得点(研究 2)。 注 1)ミス得点は,得点が高いほどミスが多いことを示す。 注 2)エラーバーは標準誤差を示す。

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警戒方略よりも熱望方略のほうが速さ得点が高く,「促 進焦点+熱望方略」条件が速さのパフォーマンスが最 も高いという仮説 1 が支持された。 ミス得点においては,制御焦点(F (1, 86) = 5.56, p = .02, ηp2 = .06)と課題方略(F (1, 86) = 18.55, p = .00, ηp2 = .18)の主効果が有意で,交互作用(F (1, 86) = 0.25, p = .62, ηp2 = .00)は有意とならなかった。Figure 4 に 示した通り,促進焦点よりも防止焦点のほうが,また, 熱望方略よりも警戒方略のほうがミス得点が低く,「防 止焦点+警戒方略」条件が正確さのパフォーマンスが 最も高いという仮説 2 が支持された。 総合的考察 制御適合の効果としてパフォーマンスに焦点を当て た 数 少 な い 研 究(Markman et al., 2005; Shah et al., 1998)においては,制御適合を経験するとパフォーマ ンスが高まることが報告されている。本研究では,制 御適合の種類によって,高まるパフォーマンスのタイ プが異なることが考えられるため,パフォーマンスの タイプを考慮したうえで,制御適合の種類別に制御適 合がパフォーマンスに及ぼす影響について検討するこ とにした。 その結果,促進焦点(状況,特性)では熱望方略を 使用すると制御適合が生じ,熱望方略に合致したパ フォーマンス(本研究では,速さ)が高くなることが 示された。一方で,防止焦点(状況,特性)では警戒 方略を使用すると制御適合が生じ,警戒方略に合致し たパフォーマンス(本研究では,正確さ)が高くなる ことが示された。本研究の結果より,仮説 1,2 とも に支持された。 先行研究(Förster et al., 1998; Shah et al., 1998)では, 主にアナグラム課題を用いて,制御適合の種類に関係 なく,制御適合を経験するとパフォーマンスが高まる と結論づけている。本研究の結果より,ひとえに制御 適合といってもその効果は一様ではなく,制御適合の 種類によって高まるパフォーマンスのタイプが異なる ことが示され,今後,制御適合の効果を検討する際に は,制御適合の種類とパフォーマンスのタイプを考慮 に入れて検討する必要性が示唆された。 最後に本研究の限界と今後の課題を示しておく。 本研究では,研究 1,研究 2 ともに仮説が支持され たが,研究 1 の結果の効果量は総じて小さかった。ま た,研究 1 においては,速さ,正確さのいずれを従属 変数とした場合にも制御焦点の主効果が見られなかっ た。本研究で用いた制御焦点の活性化の手法は,先行 研究(Higgins et al., 2003)で有効であることが示され ているが,プライミングの効果が弱かったのかもしれ ない。今後は,制御焦点の活性化として別の操作(例: フレーミング)を用いて検討し,本研究と同様な結果 が得られるのかどうかを確認する必要があるだろう。 また,研究 1 と研究 2 では,多少,結果が異なって いた。本研究では「促進焦点+熱望方略」が速さのパ フォーマンスが最も高く,「防止焦点+警戒方略」が 正確さのパフォーマンスが最も高いという仮説を立て て検証しており,制御焦点と課題方略の交互作用は必 須の条件として仮定していなかった。本研究の結果よ り,研究 1 では制御焦点と課題方略の交互作用が認め られ,研究 2 では両者の交互作用は有意とならなかっ た。この結果が,特性と状況といった本質的な違いに よるものなのか,既述した制御焦点の活性化の手続き の問題であるのか,本研究の結果のみでは特定できな い。今後,この点について詳細に検討する必要がある だろう。また,本研究では,制御焦点の特性と状況を 独立して検討したが,近年では両者の交互作用的な影 響を検討した研究(Keller & Bless, 2006)も報告され ている。今後は,制御焦点(特性,状況)と制御方略 による制御適合の効果をダイナミックに検討する必要 があるだろう。 さらに本研究では,熱望方略と警戒方略が共に必要 とされる課題を選択する必要があったため点つなぎ課 題を用いたが,今後はさまざまなパフォーマンスのタ イプについて検討する必要があるだろう。 今後は,上記の点を検討するとともに,制御適合を 経験することによって生じる「正しい」という感覚, 課題の従事といった要因を取り入れ,制御適合がパ フォーマンスに影響を及ぼすメカニズムについての検 討も必要となってくるだろう。 引 用 文 献 Brodscholl, J. C., Kober, H., & Higgins, E. T. (2007). Strategies of self-regulation in goal attainment versus goal maintenance. European Journal of Social

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参照

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