Keysight Technologies
CMOS
イメージセンサのランダム・テレグラフ・
ノイズ
(RTN)
評価
RTS noise measurement using the
B1500A' s WGFMU Module
はじめに
ランダム・テレグラフ・ノイズ(Random Telegraph Noise, RTN)は、微細化されたMOS-FETで観測されるラン ダムノイズの一種で、二値(あるいはそれ以上)の飛び飛びの値を持つ離散化されたノイズが出力信号上に観測さ れるものです。RTNはゲート絶縁膜中の欠陥準位に熱的に励起された電荷が捕縛、解放されることにより発生す ると考えられており、トランジスタが小さくなるに伴い出力信号に対するノイズレベルが大きくなることから、 微細化の進行に伴いその影響が無視できなくなってきています。特に22 nm以降のCMOS製造プロセスにおいて はその低電源電圧化による動作マージンの減少とあいまって、RTNが歩留まりに与える影響が無視できなくなる と言われています。CMOSイメージセンサにおいても、高精細化に伴い画素を構成するトランジスタの微細化が 積極的に進められています。このような高精細CMOSイメージセンサでは、RTNに起因する画素ノイズの発生は 深刻な懸念であり、その詳細な測定、評価が必要とされています。 RTNの測定には従来、低ノイズ電源、電流-電圧変換器(IVコンバーター)やオシロスコープを組み合わせた、自作 システムが使用されていました。しかし、このようなシステムでは、システムの構築が難しい、接続が煩雑である、 機器同士の誤差の蓄積により安定した測定結果が得られない、などの問題がありました。これら問題を解決し、 正確かつ、比較可能な測定を行うためには、単体でRTNの測定が可能でかつ、校正された測定器が必要とされて います。
B1530A波形生成/高速測定ユニット(Waveform Generator/Fast Measurement Unit, WGFMU)は、B1500A半 導体デバイス・アナライザ用の追加モジュールで、これを装着することによりB1500A単体でのRTN測定が可能 となります。WGFMUモジュールは任意波形発生装置に高速電流・電圧サンプリング機能が加わった、まったく 新しいタイプの測定器です。WGFMUの出力電圧は0.1 mV(rms)の低ノイズ設計となっています。また、1サンプ ル/秒から200M サンプル/秒までの可変サンプリングレートでの測定機能があり、電流測定の帯域は直流(DC)か ら最高で16 MHzに達します(注:測定レンジによる)。さらに、測定チャンネル毎に約400万点のデータを格納で き、長時間のサンプリング測定を実現しています。これらの特徴を併せ持つことで、WGFMUは広帯域のRTN測 定に使用することが可能となります。また、WGFMUモジュールにはRTN解析サンプルソフトウェアが同梱され ています。これにより、お客様にはWGFMUを導入後、直ちにRTNの測定、評価を実施していただくことができ ます。 本アプリケーションノートではRTN測定を行うためのWGFMUの特徴、性能を測定例を交えて紹介します。
03 | Keysight | CMOSイメージセンサのランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)評価 - Application Note
CMOS
イメージセンサの
RTN
CMOSイメージセンサでは近年、ランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)に 由来すると思われる画素のノイズが問題視されるようになって来ました。 CMOSイメージセンサの各画素には、フォトダイオードで光電変換され た信号を増幅するための読み出しアンプが組み込まれています(図1)。高 画質化のための画素の微細化にあたり、画素を縮小しながらSN比を維持 するためには、光電変換に寄与しないアンプ部分を小さくし、開口率を できるだけ大きくする必要があります。このアンプの微細化にともない、 それを構成するMOS-FETも微細化され、それにより生じるRTNの画素 ノイズに与える影響が深刻となってきました。RTN
発生のメカニズム
MOS-FETのRTNは、絶縁膜中に存在する欠陥準位に、熱的に励起され たキャリアがランダムに捕獲、解放されることにより生じる閾値電圧 (Vth)の変動が原因と考えられています(図2)。 この時、欠陥に捕獲されたキャリアによって引き起こされるVthの変化 は、キャリア1個につき以下の式で表すことができます。 q ∆Vth = ____________ … (1) L • W • Cox ここでqは素電荷、Lはゲート長、Wはゲート幅、Coxはゲート容量です。 この式から、MOS-FETが微細化されるに伴い、捕獲されたキャリアによ るVthの変動が大きくなっていくことがわかります。キャリアがトラッ プに捕獲されてから開放されるまでの時間(時定数)は数μsから数秒と幅 広い分布をしており、画素上のランダムノイズとして視覚で認知される 可能性があります。このRTNによる画素のランダムノイズの把握と改善 のためには、正確かつ再現性の高いRTNの測定が必須となります。B1500A WGFMU
モジュールを使用した
RTN
測定
B1530Aは0.1 mVrms以 下 の 低 出 力 電 圧 ノ イ ズ と1 サ ン プ ル/秒 か ら 200Mサンプル/秒の可変サンプリングレートでDCから最高約16 MHz (電流測定レンジによる)の帯域を持つ高速電流測定機能、チャンネルあ たり400万点のロングメモリーを装備し、WGFMU単体で数MHzの高周 波から1 Hz以下の低周波までの広帯域に渡るRTN測定に使用することが できます。 Vdd フォト ダイオード アンプ リセットライン 撮像イメージ ピクセルノイズ Row bus Id Ef ゲート電極 絶縁膜 基板 フェルミ準位 Ef 伝導帯 Ec 欠陥準位 図1 CMOS イメージセンサのRTN 図2 RTN発生のメカニズムB1530AはB1500A半導体デバイス・アナライザに装着される追加モ ジュールで、波形生成を行うWGFMUモジュールと電流、電圧測定を行 うRSU(Remote Sense Unit)から構成されます。高速な測定を正確に行 うため、RSUは計測器本体から離され、披測定物の近くに配置すること ができます。WGFMUモジュール1枚あたり2つのRSUが接続可能で、こ れら2つのRSUをそれぞれMOS-FETのゲート端子、ドレイン端子に接続 するだけでRTN測定システムを構築することができます(図3を参照)。 B1500A本体には最大5枚のWGFMUモジュールを装着することができ、 最大10チャンネルのRSUを使用して、複数個のデバイスを同時に測定す ることができます。 また、B1530AにはRTNデータ解析ソフトウェアがサンプルプログラム として付属します(図4参照)。これにより、WGFMUの導入後直ちにRTN の測定、解析を行うことができます。 図5にWGFMUの測定回路のブロックダイアグラムとその動作モードを示 します。WGFMUは線形任意波形発生装置(ALWG)を信号源とし、自身か ら出力した、あるいは入力された電流、または電圧を測定することがで きます。動作モードには高速なパルス印加に適したパルス・ジェネレータ・ モードと電流、電圧測定が可能な高速I/Vモードがあります。 RSU RSU B1500A半導体 デバイス・アナライザ WGFMUモジュール 図3 B1530A WGFMUを使用したRTN測定の構成例 図4 RTNデータ解析ツールを用いたNMOS-FETの測定例 図5 WGFMUのブロックダイアグラムと動作モード 50 Ω Output V V A WGFMU RSU 任意波形 発生装置 I/V 変換器 電圧サンプリング WGFMUモジュール 50 Ω PGUモード Fast I/V電流測定モード Fast I/V電圧測定モード
05 | Keysight | CMOSイメージセンサのランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)評価 - Application Note 以下にB1530Aの主な測定機能、性能を紹介します。 電圧印加 – Output Range: +/- 3 V +/- 5 V 0 V∼+10 V −10 V∼0 V – ノイズフロア: 0.1 mV(rms)以下1 電流測定 – 測定レンジ: +/- 10 mA固定レンジ +/- 1 mA固定レンジ +/- 100 μA固定レンジ +/- 10 μA固定レンジ +/- 1 μA固定レンジ – 測定分解能 レンジの0.014 %2 – 電流測定ノイズフロア レンジの0.2 % 3 – サンプリング間隔 5 nsないしは10 nsから1 s可変(10 ns分解能) – アベレージング機能 10 ns to 20 ms可変アベレージング時間(10 ns分解能) – 測定メモリ長 測定チャンネルあたり約400万点4
RTN
解析サンプル・ソフトウェア
WGFMUで測定されたドレイン電流データから、RTNの時間軸および周 波数軸の解析を行います。本ソフトウェアは、測定されたデータのヒス トグラムを作成し、二値化のための閾値を算出します。次にその閾値を 元に二値化された波形を、測定波形と重ね合わせて表示します。また二 値化された波形から、キャリアが欠陥に捕獲、開放されている時間(Ton、 Toff)のヒストグラムを作成、その結果を元に捕獲、開放の時定数を算出 します。 同時に測定された電流波形を高速フーリエ変換し、ノイズ電力の分散 (Power Spectrum Distribution、PSD)を 表 示 し ま す。 こ れ に よ り、RTNの視覚による定性的な評価と、定量的な解析を行うことができます。
RTN
測定の実際
RTNの測定に際しては、測定装置の性能やデバイスの特性など、さまざ まな要因を考慮に入れる必要性があります。以下にRTN測定に際して重 要となるいくつかの項目について解説します。 図6 電流測定ノイズフロア 1. 理論値(100 ns から1 ms)。 2. 表示分解能。校正により最大5 %変動し得ます。 3. 参考値(アベレージング無し。0 V出力、開放端)。 4. 代表値測定装置および測定環境からくるノイズ
測定したいRTNの大きさはシステムのノイズフロアより大きくなくては なりません。図6にWGFMUの各測定レンジにおける開放状態における 電流測定ノイズフロアのデータを示します(参考値)。 また、実際に測定されるノイズフロアには、振動や電磁波の影響による 環境ノイズも含まれています。振動の影響を除去するためには、デバイ スを制振台に乗せるなどの工夫が必要となります。外来電磁波の影響を 低減するためには、測定系が構成する電流ループの面積をできるだけ小 さくする必要があります。RSUとWGFMUを接続するケーブルを束ねた り、DUT近傍で電流が帰還する経路を設けるなどの工夫により、ループ 面積をより小さくすることができます。 10-14 10-17 10-20 10-23 1 1k 1M Measurement range Frequency (Hz) Noise densit y (A 2/(Hz) 10 mA 1 mA 100 µA 1 µA 10 µAアベレージング
測定電流上のノイズはアベレージングを行うことにより低減することが できます。図7に測定レンジ毎の、アベレージング時間と測定される電流 値のばらつきとの関係を示します(参考値)。 アベレージング時間を長くすることで、測定電流のばらつきを低減する ことができます。しかしこの場合、少なくとも使用するサンプリング間 隔はアベレージング時間より大きくなくてはなりません。このことは、 測定できるRTNの帯域を制限する要因となります。 サンプリング間隔と測定できるRTNの周波数の上限は、以下の関係で表 されます。 1 fmax = ̶̶̶̶̶̶̶ … (2) 2×Tinterval ここで、fmaxは測定できるRTNの上限周波数、Tintervalはサンプリング 間隔です。測定ノイズの低減には、より小さな電流レンジの使用も有効 です。この場合、次に述べる電流測定回路の帯域幅が、測定可能なRTN の上限周波数に関する制限事項となります。電流測定の帯域
表1.はB1530A WGFMUの各電流測定レンジの−3 dB帯域の参考値とな ります(負荷25 pF)。 (注:実際の測定帯域はケーブル等の負荷容量により変化します。) 電流レンジを選ぶ際は、低い電流測定レンジほど帯域が狭くなり、測定 できるRTNの上限周波数が低くなるので注意が必要です。このように RTNを評価する際には、計測器の測定性能と対象となるRTNの振幅、周 波数成分を考慮した測定レンジ、およびサンプリング間隔を選択する必 要があります。 さらにRTNを観測するためには、被測定物自体の特性にも注意する必要 があります。 表1. WGFMUの電流測定帯域(参考値)Measurement range Bandwidth (−3 dB)
10 mA ~16 MHz 1 mA ~8 MHz 100 μA ~2.4 MHz 10 μA ~600 kHz 1 μA ~80 kHz 図7 アベレージング時間による測定のイズの低減の例 10-6 10-9 10-9 10-6 10-3 Measurement range
Averaging time (sec)
Standar d deviation δ (A) 10 mA 1 mA 100 µA 10 µA 1 µA
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測定条件
RTNの原因となる絶縁膜中の欠陥は様々なエネルギー準位に分布しています。このためRTNの発 生は各端子のバイアス条件に強く依存します。 実例として、図8にゲート電圧を変化させたときに観測されたRTNの様子を紹介します。 被測定デバイスはゲート幅0.44 μm、ゲート長0.24 μmのNMOS-FETです。この例ではゲート電 圧の変化に伴い、ノイズの時定数や、ピークの数や間隔が変化していく様子が観測されています。 このように、RTNの観測ではゲート電圧、ドレイン電圧といったバイアス条件、およびサンプリン グレート等、複数の条件の組み合わせで測定することが必要となります。また、それらの結果によ り、欠陥のエネルギー準位や密度、時定数などの情報を得ることができます。 図8 RTNゲート電圧依存性を示す測定例 Id (A) Id (A) Id (A) Time domainHistogram Time (s) Time (s)
4.23 4.218 4.206 4.194 4.182 4.17 1.26 1.252 1.244 1.236 1.228 1.22 5.6 5.54 5.48 5.42 5.36 5.3 1000 800 600 400 200 0 2000 1600 1200 800 400 0 2000 1600 1200 800 400 0 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0.16 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0.16 Time (s) 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0.16 5.3 5.36 5.42 5.48 5.54 5.6 1.23 1.236 1.242 1.248 1.254 1.26 4.17 4.182 4.194 4.206 4.218 4.23 x10-7 x10-7 x10-6 x10-6 x10-6 x10-6 Id (A) Id (A) Id (A) Vg = 0.6 V Vg = 0.45 V Vg = 0.5 V
図9 ウエハー面内分布をもつRTN
ウエハー面内での分布
欠陥の分布密度によっては、デバイスのチャンネル部に欠陥が存在しないデバイスもウエハー内に は存在します。このため、あるデバイスでRTNが観測されなくても、その隣のダイのデバイスでは 観測される場合があります(図9を参照)。 このことからRTNを観測するためには、単一のデバイスではなく、ウエハー内の複数のデバイスで 測定を行うことが重要と言えます。さらに、RTNのウエハー面内分布を測定することで、デバイス の動作に影響する欠陥の密度や偏在性なども評価することができます。まとめ
より高精細化するCMOSイメージセンサでは、ランダムノイズの原因のひとつであるランダム・テ レグラフ・ノイズ(RTN)の評価が重要となってきています。 この要求に対してWGFMUモジュールを装着したB1500A半導体デバイス・アナライザは、単体で RTN測定が可能であり、校正された再現性の高いRTN評価、解析の環境を提供します。09 | Keysight | CMOSイメージセンサのランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)評価 - Application Note
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