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第6章 まとめと提言

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デジタル財の市場構造と収益モデル

服部基宏・國領二郎

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

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Market Segments and Revenue Models for Digital Goods

Motohiro Hattori and Jiro Kokuryo Keio University

Graduate School of Business Administration

Abstract

A systematic model for categorizing revenue models for digital goods was developed by identifying as variables (1) forms of incorporating intellectual property rights, and (2) the extent of employing market mechanism. Case studies and survey data showed the effectiveness of the categorization. Distinct market segments exist for digital goods some favoring tradition pay per copy models, and others favoring pay after use (shareware like) revenue models.

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デジタル財の市場構造と収益モデル 服部基宏・國領二郎 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 要旨 デジタル財の収益モデルを体系的に分類するモデルを(1)知的所有権の権 利運用の形態と(2)市場メカニズム活用の度合という二つの軸を導入する ことによって構築した。事例研究とアンケート調査によって分類法の有効性 が示された。このモデルに従って利用者調査を行ったところ、ほぼモデルに 従ったマーケットセグメントの存在が認められ、セグメントによって異なる 収益モデルを適用することが有効であるとの示唆が得られた

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1. はじめに インターネットに代表されるメディア環境のデジタル化・ネットワーク化により、パッケー ジメディアの制約を越えた情報の流通形態が登場し、低コストで誰もが簡単に楽曲の受信、複 製、改編そして発信が可能となりつつある。音楽業界の収益モデルにおいては、基本的には、 レコードなどのパッケージメディアに音源を固定し、その音源にかんする複製権やその流通に かかわる技術や資産を独占的に有することが、その収益の主要な源泉であった1) ところが、インターネットに代表される新しいメディア環境においては、一般の消費者が低 コストで簡単に音源を複製し公衆にそれを流通させることが可能になり、レコード会社、卸、 小売、消費者、という旧来の楽曲流通の枠組みが揺らぎ始めている。こうした現象は、ブロー ドバンド化が進展する中でますます加速すると考えられるが、既存の著作権制度や音楽業界の 収益モデルでは十分に対応できないことから、音楽業界のありかたに大きな影響を投げかけて いる。例えば、公衆送信権や送信可能化権などの著作権法改正(1998 年)のように新しいメデ ィアにあわせた権利構築や2)、米国における Napster 裁判(1999 年)において、新しい収益 モデルを掲げた企業と既存のレコード会社が衝突した事例は記憶に新しい3) 情報財の価格に目を移すと、デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境における情報 財の取引において、価格が平均的・長期的にゼロに近づいてゆくことが指摘されている(國領、 2000; Shapiro and Varian,1998)4)。そもそも情報財は限界コストがゼロ円であるという 公共財的な特性をもっている。インターネット上では、情報財の複製や流通などの限界コスト が殆どタダに近いことにより、市場競争化では、価格が限りなくゼロに近くなるまで値下げ競 争が継続するからである5) それらの対策として、レコード会社のように情報財を扱う企業にとっては、著作権制度や法 の実効性を強化して既存の収益モデルを確保する方向が考えられる。例えば、既にスーパーCD という他のメディアに録音できない形式の CD 販売が検討されている6)。また、「技術的保護手 段の回避規定」などは、既存の収益モデルの実効性を強化しようとするものである。一方、消 費者間での自発的な情報財のファイル交換を利用したものや、無償デジタル財を利用したもの など、新しい収益モデルが出現している。これらは権利の保護と言う側面からは両極にある収 益モデルであるが、これら収益モデルを設計する際の本質的な課題は、ネットワークの特性や 情報財の特性を活かしながら、新しい消費者ニーズを疎外せずに、いかに収益を確保するかと いうことである。例えば、音楽産業におけるレンタルレコード(やビデオ)の事例では、CD

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(やビデオ)をレンタルしてダビングまたは視聴するという新しい消費者のニーズを取り入れ ることにより需要を拡大することに成功した。情報財の収益モデルは、新しい技術や消費者の 消費形態によって柔軟に対応することが重要であるといえる。 本稿は、それらの観点から、レコード会社における音楽情報財の収益モデルを題材にし、デ ジタル化・ネットワーク化されたメディア環境と新しい情報財の収益モデルにかかわる先行研 究を概観しながら、そのようなメディア環境にたいして情報財の創作者・伝達者が、どのよう な収益モデルを検討すべきかという視点を提示することを試みるものである。 具体的な問題設定は以下である。 1) 音楽情報財の収益モデルの類型はどのようなものか? 2) 音楽情報財の収益モデルの母体となる消費者像はどのようなものか? 2 情報財の収益モデル 情報財の収益モデルをデジタル化・ネットワーク化されたメディア環境との関連で論じた先 行研究は多くはないが、代表的なものとして、Dyson(1997)、Shapiro and Varian(1998) 國領(2000)などがある。ここでは、それらの研究をレビューすることにより、音楽情報財の 収益モデルを検討する上での課題を考察したい。 2.1 國領の収益モデル 國領(2000)の整理では8)、情報財の収益モデルにおいて、収益を最終的に何の希少性に帰 着させているかという点に着目し、情報財の収益モデルの類型を分類した。分類にあたっての 軸は、(1)希少性、(2)支払い主体を採用している。この分類における特徴は、情報財の収益 モデルを検討する際に、提供価値と収益ドライバを分離していることである。そのために、例 えば、情報財はタダで提供し(提供価値)それ以外の補完財(グッズなど:収益ドライバ)で 収益をあげるというようなモデルの類型化が可能になる。 このモデルは、現実にある収益モデルの客観的な分類を目的とするため、収益の源泉を物財 やサービス容量といった物理的な希少性に還元している点に特徴がある。定量的な分類による マクロ的な分析をするにあたっては有用であり、収益モデルの日米比較や時系列比較などの分 析に適している。その収益モデル類型を図示すると以下のようになる。

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図 2-1 収益モデルの類型(出所:國領、2000) *( )は本稿用に加筆 情報の受信者からいただく 擬似物財型(物財の希少性:ダウンロード) 物財帰着型(物財の希少性:物品販売、手数料) サービス帰着型(サービス提供容量の希少性:会費) 情報提供者からいただく 物財帰着型(物財の希少性:仲介、サイトへの出店手数料) サービス帰着型(サービス提供容量の希少性:会費、広告料)

2.2 Shapiro and Varian の収益モデル

Shapiro and Varian(1997)のモデルの特徴は9)、市場における情報財の取引について、(1) 「インフォメーション製品に対する価値判断は個々の消費者によって大きく変化する」ことを 前提とし、(2)そのような消費者に対しインフォメーション製品を消費者セグメントにあわせ て「バージョン化」することにより、情報財の価格の維持または競争優位の確保が出来ること 主張している点である。また、デジタル化・ネットワーク化の特徴と情報財のコスト構造を利 用した、コンテンツの無料配布による収益モデルも示している。その結果導出された “Versioning-Free Version” は、國領(2000)の主張する「サービス帰着型」や「物財帰着型」と ほぼ同様のものである。Shapiro and Varian のモデルの概要と事例は以下の通りである。

Versioning

Delay: PAWWS Financial Network Convenience: AOL

Comprehensiveness: New York Times Manipulation: Borland

Community: Silicon Investor Annoyance: Silicon Investor Speed: Wolfram Research Data Processing: H&R Block

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User Interface: Adobe Image Resolution: PhotoDisk Support: Netscape Versioning-Free Version

Building awareness: Computer game Gaining Follow-on Sales: McAfee Associates Creating a Network: Adobe

Attracting Eyeballs: Playboy Gaining Competitive Advantage: Microsoft

2.3 Dyson(1996)の収益モデル Dyson(1996)は、現実的に存在する情報財の取引形態を解釈的に類別し、「情報の価値を 収益に結びつけるモデル」として、以下のように分類した10) 定期購読 パフォーマンス 知的サービス 電子知的サービス メンバーシップ・サービス オフライン会議 製品サポート 派生商品 広告 スポンサーシップ 複製販売 Dyson のモデルは結果としての収益モデルであり、根源にどんな要素が存在しているかが明 確でないために、体系的な理解が困難である。しかしながら、企業が収益モデルを採択するた めの選択肢の抽出という意味においては、現実に考えられるほぼ全ての取引形態を含むと考え られる。その結果として、市場取引とは異なる「スポンサーシップ」という後援や寄付のよう

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なモデルも取り扱われている。また、情報財の使用は無料にし、サービスや実演などで収益を 上げるモデルにかんしては、著作者人格権が保護されることを前提にしている。著作者人格権 に固執しない創作活動との住み分けにかんしては、著作者人格権を保護したい創作者や企業が、 他の人が創作した 2 次使用を許すなど著作者人格権を放棄したコミュニティーと距離をおくこ とで、自然に棲み分けが図られるとの考えを示している。 2.4 各モデルのまとめと仮説構築 以上 3 者の主張する収益モデルを見てきた。これら 3 者のモデルは、デジタル化・ネットワ ーク化された環境における情報財の収益モデルのあり方を問題意識とし、情報財の特徴、メデ ィアの特徴そして消費者意識の特徴といった様々な観点から、新しい収益モデルの可能性を論 じたものである。そのような観点から 3 者の理論(國領、Shapiro and Varian、Dyson)の要 点をまとめると以下のようになる。 (1) 情報財を無料で流通させ、情報財以外の財・サービスで収益を上げる(提供価値と 収益ドライバの分離) (2) 情報財における顧客の価値判断の多様性に着目し、情報財自体を差別化させて顧客 セグメントにフィットさせ、市場における価格圧力に対抗する(Versioning) (3) 非市場取引により収益を上げる(スポンサーシップ) これらの要点を援用しながら、筆者の問題設定である「レコード会社のビジネスアプローチ」 への提言という視点で収益モデルをとらえなおし、実証可能な仮説に落とし込まなければなら ない。そして、今回採用したのが、以下の仮説である。 <仮説1> 「取引形態:市場−非市場」そして「権利の運用管理:統合−分散」の 2 軸で分類 出来る。それによって得られる収益モデルは次の 4 つである:「無償著作物モデル」、「有償著 作物モデル」、「再配分モデル」、「互酬モデル」。 <仮説 2> 収益モデルそれぞれにたいし、それを支える消費者クラスターが存在する。 それらの仮説をまとめて素描すると、以下の通りとなる。

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図 2.2 情報財の収益モデル仮説(収益モデル類型) 市場における取引 無償著作物モデル ・物財帰着型(補完財) ・サービス帰着型(補完財) ・認知限界帰着型(広告など) 有償著作物モデル ・複製や使用料請求(CDなど) 非市場における取引 互酬モデル ・社会的関係により収益を上げる(寄付、投げ銭) 再配分モデル ・ 主体は国家や自治体、政治的決定により収益を上げる 図 2.3 情報財の収益モデル仮説(分類軸と収益モデル類型、および消費者クラスター) クラスター クラスター クラスター クラスター 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 統合的 分散的 非市場取引 市場取引 物財帰着型 サービス帰着型 認知限界帰着型 投げ銭 寄付 文化政策 公益事業 一次流通市場 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 二次利用市場 素材利用市場 無償著作物モデル 無償著作物モデル無償著作物モデル 無償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル有償著作物モデル 有償著作物モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 再配分モデル 再配分モデル 再配分モデル 再配分モデル

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2.5 「取引形態:市場−非市場」の軸 「取引形態:市場−非市場」の軸とは、その取引が、市場原理に基づいて行われているか、 それとは異なる非市場の原理で行われているか、により分類する軸である。「非市場」において は、Dyson(1996)の分類の「スポンサーシップモデル」のような、取引主体間における社会的 関係による取引が分類されることになる。音楽情報財の取引において、我々が日常的に目にす る寄付や投げ銭、あるいは国家や自治体による文化政策などがこれに該当することになる10) 2.6 「権利の運用管理:統合的−分散的」の軸 今回採用したもうひとつの軸が、「権利の運用管理」である。これは、財・サービスを提供す る主体が、市場・非市場それぞれにおいて有する権利の運用管理を、その主体が統合的に行う か分散的に行うかという発想によって分類を行おうとするものである。その結果として、「取引 形態」と「権利の運用管理」の軸により 4 つの収益モデルが得られることになる(ネーミングは 服部による)。 2.7 2 つの軸によって得られる 4 つの収益モデル類型 まず市場における権利とは、基本的にはレコード会社が有する複製権である。それを分散さ れることは同権利を緩めるあるいは主張しないと考え、情報財を無償で流通させ補完財で収益 を上げるようなモデルに相当する(「無償著作物モデル」)11)。逆に、これを統合的に行うこ とは、著作権やその実効性を強めることにより収益を上げるモデルに相当する。旧来のパッケ ージメディアによる収益モデルはこれに分類される(「有償著作物モデル」)。 非市場における「権利の運用管理:統合的」とは12)、国家や自治体が、国民の承認に基づ いて行うような政治的権利を示し、いったん中央によって集められた税金が再配分されるよう なモデルである。一般的に文化政策と言われるモデルがこれに該当する(「再配分モデル」)。「権 利の運用管理:分散的」とは、権利をコントロールするような中央が存在せず、取引をする当 事者が相対的に交換を行うモデルである。寄付や投げ銭がこれに該当する(「互酬モデル」)。 2.8 消費者クラスター仮説

情報財における消費者は多様である(Shapiro and Varian,1997 年)という着眼点から、 上記で得られた収益モデル類型にそれぞれ異なった消費者クラスターが存在する、ということ を仮説とした。これを明確にすることにより、各収益モデルにどのような消費者クラスターが

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その母体となっているか、また、そのクラスターの属性を探ることにより、情報財の収益モデ ルが今後どのように変化するかを暗示できると考えられる。 3 実証方法 本章では、前章で導出した仮説の実証方法についての説明を行う。情報財の収益モデルの分 類軸とモデル類型にかんしては、レコード産業に関連する事例研究による意味解釈法を用いる。 それに対応する消費者像にかんしては、消費者アンケートによる統計帰納法を用いる。具体的 な実証のフレームワークを以下に述べる。 3.1 情報財の収益モデル仮説(仮説1)の実証 先行研究からの理論的な分析により導出した筆者の仮説(仮説 1)の有用さを検証するため に、レコードに関連した産業の事例研究を行う。それらの事例を筆者の仮説との対比から分析 することによりどのような知見が得られるかを点検する事で、解釈的に仮説の確かさを確認す る。事例の選択は、日本のレコード会社のトップ企業である「ソニー・ミュージックエンタテ インメント(SME)」、「Napster をとりまく音楽産業」そして「音楽にかんする非市場的取引」 の 3 つの事例とした。分析のポイントは、デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境に おいて、レコード会社(楽曲の創作者・伝達者)がどのような収益モデルの採択を行っている か、また収益モデルはどのような方向に向かっているか、そしてその課題である。それらを筆 者の収益モデル仮説を用いて有効に説明できるかが実証の鍵となる。 3.2 消費者クラスター仮説(仮説 2)の実証 消費者クラスターにかんする筆者の仮説の実証を行うために、消費者にたいするアンケート 調査を行った。消費者クラスターを導き出すための第一ステップとして因子分析を実施する。 因子分析とは多数の質問項目に潜在する共通の変数を圧縮し、より少ない変数で音楽の消費意 識の特徴を明確にする手法である。今回は音楽消費にかんする幅広い意識を 20 個の設問につ いて「1. あてはまる」∼「5. あてはまらない」の 5 件法で質問を行う。その結果得られた因子と 質問文の因子得点量を並べた因子負荷行列を作成し、これを手がかりに因子の解釈とネーミン グを行う。次に、因子分析によって得られた被験者の因子得点をもとクラスター分析を行い、 類似した被験者をグルーピング(クラスター化)する。これらのクラスターの各因子への反応 の違いをもとに、各クラスターの特性の解釈とネーミングを行う。最後に、各収益モデルにあ

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てはまると考えられる 20 個の具体的な質問項目を用意し、「1. 非常に魅力を感じる」∼「5. 全 然魅力を感じない」の 5 件法で質問を行う。各クラスターのサービスへの反応をもとに、相対 的にどのようなサービスへのニーズが強いかの解釈を行う。それにより各クラスターとサービ スの関係を考察する。 4. 業界構造の変化:事例研究の結果 情報財の収益モデルの分類軸とモデル類型にかんし、レコード産業に関連する事例研究を行 った。デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境の中で、それらの収益モデルを中心と した業界構造がどのように変化しつつあるかを、情報財の収益モデル仮説(仮説1)により記 述を行った。 4.1 事例研究:ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME) SME の 2001 年 3 月期の売上高(単独)は、前年比 13%減の 1028 億 8700 万円に落ち込ん だ13)。SME をとりまくビジネス環境は、不景気による国内消費の厳しい状況が続き、少子高 齢化という社会構造の変化、デジタル技術の進歩と通信ネットワークの拡大、DVD など新し いメディアの登場、流通再編、そして消費者ニーズの多様化などの要因が絡み合い複雑化して きている。レコード業界でトップとして生き残るためには、これらの外部環境を様々な角度か ら分析し、収益の確保に向けて対応策を講じることが急務となっている。SME は、こうした 状況を踏まえつつ、売上の増加と利益水準の早期回復を図るため、いくつかの戦略的な施策を 実行している。 SME は、総合エンタテインメント企業として消費者の多様なニーズに応えるように、旧来 の CD や著作権保護がなされたダウンロード(「bitmusic」)などの「有料著作物モデル」によ る収益確保を事業の柱として置きつつも、著作権の「権利の運用管理」にバリエーションを持 たせて新たな収益モデルを実現している。例えば、デジタルコピー防止技術を用いた音楽 CD の試験的な導入は「権利の運用管理」を統合化した例である14)。2001 年 10 月 7 日にリリー スされた Michel Jackson の新曲を対象に、ラジオ局などに提供するプロモーション用 CD は、 CD プレイヤーのみでしか再生できなくした。一方、「無償著作物モデル」の可能性も検討し始 めている。2001 年 6 月にブロードバンド専用サイトとしてスタートした「MORRICH」は、「無 償著作物モデル」に近い事例である。「MORRICH」は、ネット配信を広告・販促活動の一環 として捉え直し、無償でプロモーションビデオなどのコンテンツ(著作物)を配信し、収益は

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補完財から徴収しようというコンセプトで作られている15)「MORRICH」では配信にかかる コストは広告・販促費の扱いになる。ブロードバンド時代にレコード会社はどう対応していく かという問題に、SME は「補完財や既存ビジネスとの連携で利益を上げる」という新しい収 益モデルを模索し始めたのである。SME の「無償著作物モデル」の試みは「MORRICH」以 外にも波及している。2001 年 9 月には SME のポータルサイトである「Sony Music Online Japan」でも「MORRICH」と同様のコンセプトで、24 時間新曲のプロモーションビデオが無 償で視聴できるコーナー「ビデオクリップ 24」を開設した16)。無償の楽曲映像を見て、気に 入ったらその場でダウンロード購入をすることが出来る。ここでは、常時 30 曲程度の楽曲を 用意しており、約 45 秒間の試聴ができる。コンテンツは動画であるが「MORRICH」とは違 い一般回線でも利用できるようにしている。CD や公演、イベントなどのアーティスト関連情 報もその場で検索することが可能になっており、関連商品の販売を促している。 また、ソニーは、特定公益増進法人である(財)ソニー音楽芸術振興会を有し、非市場にお ける音楽事業を行っている。「再配分モデル」の主体は国家や自治体であるが、その承認・管理 下に置かれる点で、広義の「再配分モデル」に該当する事例として分類出来る17) 4.2 事例研究:Napster と音楽産業

P2P 技術を中核にして音楽産業に新規参入を果たした Napster Inc.,(以下 Napster)を「無 償著作物モデル」の事例として取り上げる。同社はネットワーク上で音楽ファイルの交換が無 償できるサービスを提供し音楽ファンの囲い込みに成功した。Napster は、インターネットを 介して同社のサイトに接続するユーザーの PC のハードディスクに保管された MP3 音楽ファ イルを一覧表示し、ユーザーが聴きたい曲を検索して他のユーザーの PC から自由にダウンロ ードできるようにするサービス(いわゆる「オンラインスワッピング」)を無料で提供した。 「Napster」はソフトウェア公開後、米国の大学生を中心に瞬く間に世界中に広まっていった。 1年余りで「Napster」ユーザー数はのべ 4000 万人に達し、利用者は音楽ファンや若者に限ら ず一般消費者の心も捉え、社会現象となるまでに成長していった18) しかし、「Napster」には著作権者らから許諾を受けた合法的な音楽ファイルと違法コピー のファイルを識別する仕組みがなく、「Napster」が消費者の間に普及してゆくとともにインタ ーネット上に違法コピーが蔓延するようになってしまった。この問題がレコード会社やアーテ ィストに大きな衝撃を与え「Napster 裁判」に発展した19)。同社は設立当初、その集客力を もとに広告収入で収益をあげようと計画していたが、著作権侵害で全米レコード協会やアーテ

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ィストに提訴され、そのサービス内容と収益モデルの見直しを余儀なくされることになった。 2001 年 6 月、Napster は Bertelsmann、Warner Music Group、EMI Record Music、 RealNetworks の合弁会社「Music Net」と楽曲の配信で提携関係を結んだ。現在は、大手レ コード会社 BMG の親会社である Bertelsmann と提携して、会員制の音楽配信サービスとして 新たに生まれ変わろうとしている20) 「Napster」にたいして反対するアーティストがいる一面で、P2P という新しい流通手段の出 現により、アーティストの音楽活動の機会は増加したともいえる。レコード会社に依存しない で独自で楽曲を発信する手段を獲得したのである。これまでアーティストが音楽を世の中に向 けて発信する手段は、実演するか、楽曲をパッケージ化して流通させるしか方法がなかったわ けだが、音楽配信の登場によりパッケージ流通に頼らなくても、ノンパッケージのままで流通 することが可能となった。レコード会社と契約を結べないマイナーなアーティストでも、イン ターネットを使用すれば低コストで簡単に世界中に向けて独自で楽曲を発信することが可能と なった。彼等にとって、P2P を利用した音楽配信は格好のプロモーション・ツールといえる。 また、アーティストの中にも「Napster」を支持して自分の楽曲を積極的に無償提供している アーティストがいる21)。彼等は、レコード会社に依存せずに自らが直接自分を支持するファ ンを囲い込みたいと考えているのである。このようなアーティストは、楽曲による収益はなく ても、ライブや T シャツなどの補完財で収益を上げようとする試みを行っている。 Napster は既存のレコード会社の収益モデルとの衝突により、安定した収益モデルを構築す ることが出来なかったが、その集客力やそれを支持するアーティストを見る限りでは、デジタ ル化・ネットワーク化されたメディアの特性や情報財の公共財的な特性を活かした「無償著作物 モデル」の大きな可能性を示していると考えられる。 4.3 事例研究:音楽にかんする非市場取引 Fairtunes.com

Fairtunes.com は、カナダのワーテルロー大学の学生、John Cormie と Matt Goyer が 2000 年に創業したベンチャー企業である22)。彼等はインターネット上に「Fairtunes」を立ち上げ、 「Napster」などのファイル交換サービスを使って楽曲を無償で入手している音楽ファンに対 して、レコード会社を通さずに直接的にアーティストに金銭的な支援が出来る場所を提供した。 「Napster」などを使用している音楽ファンは、気に入った楽曲やアルバムのアーティストに、 「Fairtunes」からクレジットカードを使って安全に寄付をすることが出来る。

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Fairtunes.com は、現在のところ収益はあげていない。今のところ「Fairtunes」のサービスは 無料で行われており、ユーザーが寄付したお金はクレジット会社の手数料以外はすべてアーテ ィストに支払われる。「Fairtunes」のビジネスモデルは、寄付サービスによる十分なアクセス を確保した段階で、広告による収益を予定している。また、Fairtunes.com 自体も寄付対象と してアーティストのリストにリストアップされており、その活動を支持するユーザーからの寄 付金による収益も検討している。さらに、同社のロゴ入りの T シャツも販売している。これら を筆者の収益モデル仮説から読み解くと、「Fairtunes」を利用するアーティストは「互酬モデ ル」で収益を上げることが出来、Fairtunes.com は、広告料(認知限界帰着型)やグッズ(物財 帰着型)による「無償著作物モデル」そして消費者からの寄付による「互酬モデル」で収益をあげ ることになる。集まった寄付金の総額は、サイトを立ち上げてから約1年後の 2001 年 7 月で 1 万ドルを越えた。それらの寄付金は、「Fairtunes」のサイトを経由して、Ani DiFranco、Sarah McLachlan、Phish、David Bowie、Fiona Apple、Tom Petty、The Noisies などのアーティ ストに送られた23)

Amazon.com

米国オンライン販売最大手の Amazon.com は、2001 年 2 月 28 日に自社サイトを通じた音 楽の無料配信サービスを始めたと発表した24)Eagles、Nirvana、U2、Paul Simon、Pearl Jam、 BeastieBoys、Coldplay などの有名アーティストを含む、数百人の歌手・グループの楽曲数千 カタログを無料で提供する。これにより売上が鈍っている同社の CD 販売部門の活性化を狙っ ている。Amazon.com でしか入手できない楽曲や独立系アーティストの楽曲を提供して無料配 信の規模拡大を目指す。このサービスの注目すべき点は、楽曲の無料配信とあわせて仮想の「チ ップ箱」を設置していることである。音楽ファンはクレジットカードで寄付が行うことが出来、 自分が支持するアーティストを支援することが出来る。集まった寄付金は、アーティストが 70%、Amazon.com が 30%の比率で配分される。 今回のサービスでは、ユーザーは Amazon.com のページから音楽ファイルを無料でパソコン にダウンロードして再生出来るが、一定の期間を過ぎるとダウンロードしたファイルが再生で きないようになっている。楽曲の自由な流通を実現しながらも、ある一定期間以上においては 著作権の保護に配慮すると同時に、ネット上でのレンタル事業の展開の可能性を持たせている。 Amazon.com の音楽販売部門責任者、Greg Hart は、「今回の計画の目標は、基本的に、わ れわれがこれまでやってきたことを劇的に拡大することにある。これを、Amazon.com の既存

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の販売部門との統合をいっそう進める形で行っていく」と述べた25) 4.4 事例研究:まとめ 本節では、筆者の情報財の収益モデル仮説に従って、「ソニー・ミュージックエンタテインメ ント」、「Napster と音楽産業」そして「音楽にかんする非市場取引」の事例研究を行った。これら の結果、「権利の運用管理(統合的−分散的)」そして「取引形態(市場−非市場)」というフレ ームワークを使って事例を説明・解釈・整理出来ることにより、仮説1は実証されたと考えら れる。今回の事例を、筆者の「収益モデル」を用いて素描しておく。 図 4.5 収益モデル仮説と事例研究まとめ ① レコード会社の P2P による「無償著作物モデル」の取り込み:「Pressplay」、「MusicNet」。 「無償著作物モデル」を利用したプロモーション:「MORRICH」→「権利の運用管理」 の分散化 ② レコード会社のコピー防止技術付き CD の導入→「権利の運用管理」の統合化 ③ ダウンロードによる楽曲有料配信:「Bitmusic」→「有償著作物モデル」の多角化 ④ Napster とレコード会社との戦略的提携:「Napster」→「MusicNet」 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 統合的 分散的 非市場取引 市場取引 SME (5大レーベル) 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 無償著作物モデル 無償著作物モデル 無償著作物モデル 無償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 再配分モデル 再配分モデル 再配分モデル 再配分モデル Napster FairtunesAmazon

Artists (財)ソニー 音楽芸術 振興会 ① ② ⑥ ④ ⑤ ⑦ ⑧ ③

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⑤ アーティストの P2P による「無償著作物モデル」の取り込み:Alanis Morissette ⑥ アーティストによる「互酬モデル」の試み:Tim Quirk ら ⑦ 「無償著作物モデル」と「互酬モデル」の組合わせ:「Fairtunes」、「Amazon.com」 ⑧ ソニーグループの「再配分モデル」の取り込み:「(財)ソニー音楽芸術振興会」 5. 消費サイドの構造:消費者アンケート調査 消費者クラスターにかんする仮説(仮説 2)の実証を行うために、インターネットによる消 費者アンケートを行った。調査の概要は以下のとおりである。 調査対象:日本国に居住する自宅用にインターネット接続環境を有する男女個人 調査方法:クローズドアンケート(質問票をHP化)26) 実査期間:2001 年 10 月 29 日∼11 月 05 日 有効回答:合計 1324 票、年齢・性別による票数は以下 5.1 音楽消費にかんする消費者クラスター:仮説2の検証 音楽の消費意識に関する質問 20 項目を手がかりに因子分析(主因子法・Kaiser の正規化を 伴うバリマックス法)を行った。質問項目と因子負荷行列は表 5.1 の通りである。因子負荷量 0.50 以上(絶対値)を採択したところ、音楽消費に関する潜在的な因子数として4つが得られ た。各因子に対応した質問事項における因子負荷量を手がかりに、因子の解釈を行い、4つの 因子のネーミングを行った。その結果、表 5.2 の様に、同調、関係、探索、保守の4つの因子 が得られた。 年齢 男性(人) 女性(人) 小計(人) 10 代 100 137 237 20 代 154 154 308 30 代 194 183 377 40 代 127 124 251 50 代以上 64 87 151 合計 639 685 1324

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表 5.1 質問項目および因子負荷行列 表 5.2 因子のネーミングと主要な意識項目 続いて、クラスター分析により、各被験者の 4 因子への反応の違い(因子得点)をもとに、 音楽消費について同じ志向を持つグループに分ける作業を行った。その結果、特徴を異にする 4 つのクラスターが得られた。全体を概観すると、同調、保守、探索の因子に際立って反応す る 3 つのクラスターが確認できる、しかし、関係因子への反応において特徴的なクラスターは 確認できない。各クラスターの因子への反応を総合的に検討し、同調・社会・主流・自立派と 因子 因子のネーミング 主要な意識項目 第一因子 同調因子 流行の曲への関心・購入頻度が高い、マスメディア から薦められると聞いてみたくなる、ヒット曲には 価値があると思う 第二因子 関係因子 ファンクラブ、寄付や支援への関心、好きなアーテ ィストのCDやグッズは高額でも入手したい 第三因子 探索因子 新人や無名なアーティストへの関心、マスメディア で流れない曲を聴きたくなる、欲しい曲を見つける ためには努力を惜しまない 第四因子 保守因子 公共団体の音楽事業・国家の音楽芸術発展への理解、 税金で古典や伝統音楽を保護することへの支持 質問項目 同調因子同調因子同調因子同調因子 関係因子関係因子関係因子関係因子 探索因子探索因子探索因子探索因子 保守因子保守因子保守因子保守因子 第一因子 第二因子 第三因子 第四因子 第五因子 a.流行りの曲を常に気にしている方だ 0.692931 0.190356 0.186568 -0.131009 0.051692 o.流行しているCDを買うことが多い 0.681237 0.167813 -0.069332 0.011116 0.090089 q.テレビ、ラジオや雑誌で良いと言われると聴いてみたくなる 0.623263 0.020959 0.158414 0.126001 0.101478 l.ヒットしている曲にはそれだけの魅力や価値があると思う 0.571401 -0.020761 -0.100578 0.129650 0.040067 h.ファンクラブなどに参加して好きなアーティストの音楽活動を支援したいと思う 0.110002 0.698024 0.185532 0.004307 0.080146 m.好きなアーティストに音楽活動を継続してもらうために寄附や支援をしてもよい 0.106199 0.684537 0.118739 0.310000 -0.043542 b.好きなアーティストのサイン入りCDやグッズは多少高額でも入手したい 0.058720 0.670707 0.155511 0.000666 0.052052 j.新人アーティストや無名アーティストの曲も機会があれば聴いてみたい 0.173136 0.108699 0.629093 0.187955 -0.148125 i.マスメディア(テレビやラジオ)が扱うヒット曲よりもレアな曲に魅力を感じる -0.185869 0.217321 0.566674 0.183418 0.041123 e.欲しい曲をみつけるためには努力を惜しまない方だ 0.106429 0.301579 0.561271 0.041207 0.148768 p.公共団体(NHK交響楽団など)による音楽事業はわが国の音楽芸術向上発展のために必要だと 0.069643 -0.019497 0.125159 0.652063 0.233058 k.税金で古典音楽や伝統音楽を特別に保護することは必要だと思う -0.002525 0.075777 0.072993 0.618170 0.148270 f.小中学校で教える音楽は国家や地方公共団体が選択したものの方が良い 0.005755 0.096182 0.043231 0.142003 0.456944 s.結婚式などの公式の席では無難な曲を流す方がよいと思う 0.150508 -0.054915 -0.076479 0.096934 0.329584 d.他人が何を聞いているか気になる方だ 0.360317 0.249581 0.317277 -0.100483 0.315517 g.楽曲を購入する前に音楽情報サイト、口コミ、専門誌などで情報を収集する方だ 0.221605 0.332700 0.404191 -0.046183 0.257290 c.友達とCDやMDの貸し借りや音楽情報の交換をよくする方だ 0.298145 0.319798 0.483359 -0.071435 0.111401 r.路上ライブをやっているアーティストにお金を払ってもよい 0.255372 0.182143 0.267494 0.288724 -0.027732 n.優れた楽曲(アルバム)には定価以上の価値があると思う 0.086991 0.324124 0.231787 0.369906 -0.059223 t.楽曲を選ぶ時の基準は流行しているかよりも自分の好みや気分を重視する方だ -0.168190 -0.047715 0.416626 0.207643 -0.120292 因子抽出法: 主因子法 回転法: Kaiser の正規化を伴うバリマックス法 10 回の反復で回転が収束 因子負荷量0.50以上(絶対値)を採択する

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いうネーミングを行った。 同調派クラスター:保守、関係、探索因子にたいする反応は総じて平均以上であるが、同調 因子にたいする反応が 4 つのクラスター中で際立って高い。よって、このクラスターを同調派 クラスターと解釈することが可能である。 社会派クラスター:このクラスターは他のクラスターと比較すると、保守因子が際立って高 いとともに、関係因子も最高得点を示している。保守・関係因子双方が最も高いことを解釈し、 よりふさわしいネーミングとして「社会派クラスター」と名づけた。 主流派クラスター:全ての因子において、ほぼ平均値であることが特徴である。このクラス ターは音楽における一般的消費を代表するものとして、主流派とネーミングした。 自立派クラスター:このクラスターは探索因子にたいし際立って高く反応し、また保守因子 にたいしても高い反応を示している。同調因子と関係因子については平均以下であった。探索 因子、次に保守因子の高さを解釈して、「自立派クラスター」と名前を付けた。 図 5.1 音楽消費の因子得点によるクラスター化 以上で音楽にかんする消費者のクラスターが得られたが、仮説 2 の実証のために各クラスタ -2.00 -1.00 0.00 1.00 2.00 同調因子 関係因子 探索因子 保守因子 同調派 社会派 主流派 自立派

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ーにたいし、情報財の収益モデル各々を代表するサービスを 2 項目づつ合計 8 項目の質問を行 った(「1.非常に魅力を感じる」∼「5.全然魅力を感じない」の 5 尺度)。「1.非常に魅力を感じる」 と「2.まあ魅力を感じる」を選んだ被験者の合計人数を分子とし、各クラスターの全人数を分母 とする比率(%)で集計した(図 5.2)。 図 5.2 クラスターとサービスニーズの関係 その結果、各収益モデルには、特徴的に異なった消費者クラスターが存在することが得られ 0% 1 0% 2 0% 3 0% 4 0% 5 0% 6 0% 7 0% 8 0% 9 0% (有償) 流行し て い る 曲や人 気歌手が 出て い る 雑誌や 番組 サー ビ ス (有償) ネ ッ ト で ド ラ マ 挿 入曲、 C M タイ ア ッ プ 曲 な ど が 検索で きる サー ビ ス ( 無償) ア ー テ ィ ス ト 関連商 品を 買うと、 楽曲 が無料 で ダ ウ ン ロー ド で き る サ ー ビ ス ( 無償) ナ ッ プ ス タ ー やグ ヌ ー テ ラ な ど のよ うな 、 ネ ッ ト 上で 無 料で 自由 に 楽曲を 交換で きた り ダ ウ ン ロ ー ドで きる 場 か ら楽 曲を 入手で き る サー ビ ス ( 再配分) 地方 公共団体 やN HKのよ う な 公共 機関が提 供す る 音 楽 放送やコ ン サ ー ト ( 再配分) 税金 に よ って 成り 立つ音 楽関連の 行政サー ビ ス ( レ クチャー コ ン サー ト、 文 化財保 護、 シ ン ポジ ウ ム な ど ) ( 互酬) 気に 入っ たア ー テ ィ ス トに 寄附 がで きる サ ー ビ ス ( 互酬) ネ ッ トで 新人ア ー テ ィ ス トや 無名のア ー テ ィ ス ト に 寄付 やな げ銭がで きる サー ビ ス 同調派 社会派 主流派 自立派

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た。従って、仮説 2 は支持された。情報財の収益モデルとそれに強く反応する消費者クラスタ ーを対比したものが以下の表 5.3 である。本調査の目的は各収益モデルを支えるクラスターを 明確にすることなので、サービスに相対的に強く反応したクラスターを選び出している。 表 5.3 クラスターとサービスニーズの関係 情報財の収益モデル 相対的に高いニーズを示す消費者クラスター 有償著作物モデル 社会派クラスター、主流派クラスター 無償著作物モデル 自立派クラスター 再配分モデル 社会派クラスター、主流派クラスター 互酬モデル 自立派クラスター、社会派クラスター 5.3 各クラスターの特徴 次に、クラスターの持つ属性プロフィールを見ていきたい。まず各クラスターにおけるブロ ードバンド化比率を見てみると、「自立派クラスター」が最も多く、44%が ADSL や CATV な どのブロードバンド環境に移行していた。次に「同調派クラスター」、「主流派クラスター」と続 く。1 日のインターネット利用時間を見ても、「自立派クラスター」が最も多く、1 日に 2 時間 以上利用すると答えた人が 62%となった。これも、ブロードバンド環境と同様に、次に「同調 派クラスター」、「主流派クラスター」が続く。これを見る限りでは、「自立派クラスター」が最 もデジタル化・ネットワーク化が進んだメディア環境に置かれている。「自立派クラスター」の ニーズが高かった、「無償デジタル財」や「互酬モデル」にたいするニーズが、ブロードバンド化 が進展するとともに一層高まることが暗示される。 CD などの出費を見ても、「自立派クラスター」が群を抜いて高い。このことから、「自立派 クラスター」は音楽市場を支えているグループと言える。 クラスターの属性を見ると、「自立派クラスター」は女性の比率が相対的に高く(58%)、年 代は 10 代、20 代が多い。この層は、イノベーターやアーリーアダプターに該当すると思われ る。一方、フォロワー層と考えられる「同調派クラスター」は男性の比率が高く(58%)、30 代 が多かった。

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表 5.4 各クラスターの特徴 同調派 (165 人) 社会派 (150 人) 主流派 (936 人) 自立派 (73 人) 男女比 男 58%、女 42% 男 45%、女 55% 男 47%、女 53% 男 42%、女 58% 年齢 (注:年齢が母集団を代 表していない為参考値) 30 代が多い (29%) 30 代が多い (31%) 30 代が多い (29%) 10・20 代が多い (10 代 38%、 20 代 34%) ブロードバンドの比率 36% 29% 33% 44% インターネット利用時間 (1 日に2時間以上) 55% 48% 51% 62% CD 等音楽ソフト出費 (過去 1 年) なしが多い (39%) 5千円未満 が多い(33%) 5千円未満 が多い(35%) 2 万5千円以上 が多い(27%) 6. 結論と考察 仮説 1:情報財の収益モデル 情報財の収益モデル仮説の有用性にかんしては、事例研究により支持された。すなわち、2 つの分類軸(「取引形態」、「権利の運用管理」)と、それによって出来る 4 つの収益モデル(「無 償著作物」、「有償著作物」、「互酬」、「再配分」の各モデル)から成り立つモデルである。レコー ド会社のような企業は、2 つの分類軸においてどのポジションをとるかによって、自らの収益 モデルの検討が可能である。 なかでも、「無償著作物モデル」や「互酬モデル」は、デジタル化・ネットワーク化されたメデ ィア環境において、消費者が自由に複製や送信を行うことを許容しながらも収益を上げること が出来るモデルとして注目に値する。 仮説 2:消費者クラスター 上記によって分類された収益モデルにたいして、その母体となる消費者クラスターが共存し ていることが確認された。特に、「無償著作物モデル」を支持する度合いの強い「自立派クラスタ ー」は、ブロードバンド化率やインターネットの利用時間が他のクラスターと比較すると相対的

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に高く、今後のブロードバンドの普及とともに重要なクラスターとなることが暗示できる。ま た、既存の収益モデルを支持する「主流派クラスター」また「同調派クラスター」の存在も確認さ れた。これらのブロードバンド化率やインターネット利用時間は極端に少ないわけではなく、 今後、ブロードバンド化が進展しても、既存のレコード会社のマス・マーケティングを中心と したビジネスモデルを支持することが暗示される。「同調派クラスター」は、全てのニーズが相 対的に低い一方、各サービスにたいして「主流派クラスター」とほぼ同様の嗜好を示している ことから、主流派に追随する「フォロワー」の要素をもつグループと言えそうだ。 図表 3.3 に今回の調査により得られた収益モデルと消費者クラスターを素描しておく。これ が本論文の結論となる。 図 6.1 情報財の収益モデルと消費者クラスター 6.1 本研究の限界 デジタル化・ネットワーク化により対応した情報財の収益モデルとして、「無償著作物モデル」 や「互酬モデル」を得ることが出来たものの、それらの収益可能性にまでは踏み込むことが出来 なかった。これらのモデルでいかに現実的に収益を上げるかは今後の研究テーマとなろう。ま た、「互酬モデル」においては、今回は金銭の支払いのみを前提に検討したが、本来の互酬の範 囲は労働力や情報同士の交換を含むものであり、金銭による収益だけではなく、情報財の価値 権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸権利の運用管理の軸 権利の運用管理の軸 統合的 分散的 非市場取引 市場取引 物財帰着型 サービス帰着型 認知限界帰着型 投げ銭 寄付 文化政策 公益事業 一次流通市場 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 取引形態の軸 二次利用市場 素材利用市場 無償著作物モデル 無償著作物モデル 無償著作物モデル 無償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 有償著作物モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 互酬モデル 再配分モデル 再配分モデル再配分モデル 再配分モデル 自立派 クラスター 主流派クラスター 同調派クラスター:フォロワー 社会派 クラスター

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生産の過程・手段のひとつとしても検討可能である。今回の消費者アンケートにおいては、各 クラスターのサンプル数が十分とは言えず、今後は、よりサンプル数を増やした調査が必要で ある。また、メディア環境と消費者クラスターの動態を見るためには、時系列で消費者調査を 行う必要がある。これらの点を含めて、今後の研究の課題としたい。

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参考文献 参考文献 参考文献 参考文献 國領二郎 (2001),「情報価値の収益モデル」,奥野正寛/池田信夫編著『情報化と経済システムの転換』,東洋 経済新報社 佐々木裕一,北山聡 (2000),『リナックスはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦 略』、NTT出版 ポランニー、カール 邦訳:玉野井芳郎・平野健一郎、『経済の文明史』、日本経済新聞社、1975 年

Shapiro , Carl and Hal R.Varian (1998), “Information Rules”, Harvard Business School Press、(邦訳:千 本倖生監、宮本喜一、『ネットワーク経済の法則』、IDGジャパン、1988 年

Dyson, Esther “A design for living in the digital age”, 1997、邦訳:吉岡正晴『未来地球からのメー ル』、集英社、1998 年 注 注 注 注 1) 本稿で扱う「情報財の収益モデル」の定義は、國領(2000)によるものである。以下引用。 収益モデルはビジネス・モデルの一部であって、ビジネス・モデル全体のデザインを無視して収益 モデルを語るわけにいかない。そこで情報財の収益モデルの検討に入る前にビジネス・モデルの考え 方についておさえておこう。ここでビジネス・モデルとは経済活動において(1)どんな価値を提供 するか、(2)その価値をどのように価値を提供するか、(3)提供するにあたって必要な経営資源を どのように集めるか、そして(4)提供した価値に対してどのような形態で対価を得るか(収益モデ ル)という四つの課題に対するビジネスの設計思想であると定義しておこう。 2) 公衆送信権、「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を 含む。)を行う権利を専有する。」(著作権法第 23 条)。送信可能化権、「レコード製作者は、そのレコー ドを送信可能化する権利を専有する。」(著作権法第 96 条の 2) 3) 1999 年 12 月、米国レコード協会(RIAA)は、楽曲のファイル交換サービス(「オンラインスワッピング」) を提供する Napster 社にたいして訴訟を起した。Napster 社の提供するサービスが「著作権つきの音楽を

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無料で配信することを手助けした」として、著作権法違反として、カリフォルニア州連邦地方裁判所に提 訴した。これに続くかたちで Metallica や Dr.Dre などのアーティストが、「自分たちの曲の著作権を侵害 された」として Napster 社を訴えた(WIRED NEWS、2000 年 4 月 21 日、http://www.hotwired.co.jp)。同 裁判は高裁までもつれこんだが、2001 年、サンフランシスコ連邦高裁は Napster 社を「寄与侵害」などのか どで「ユーザーのサイト利用を禁止すべき」とし、Napster 社は事実上敗訴した。控訴判決:239 F.3d 1004(9th Cir. 2001) 、「①サンプリング(試聴)は公正使用ではない②多くの人が使用可能なため、スペースシフ ティングにもあたらない③利用者による直接著作権侵害を黙認していたため寄与侵害にあたる④利用者に よる著作権侵害を監督する権限と能力を有しているため、代位責任もまぬがれない」、(出所:城所岩生、 2001 年 11 月、「著作権シンポジウム」)

4) 國領二郎 (2001), Shapiro and Varian (1998), 176 ページ 5) 國領二郎 (2001)。以下引用

ネットワーク空間においては既に存在する情報を複製し、追加一単位供給する限界費用が極端に低い。 特に自分のサーバから情報を取得することだけでなく、第三者による複製を許容すれば、基本的に限 界費用ゼロで供給することが可能となる。

また、Shapiro and Varian (1998)は、『ブリタニカ百科事典』における価格競争の事例を用いて、 競争市場下において情報財の価格が激減することを説明している。複製機器やレンタルレコード屋の普及 によりレコードの販売に大きな影響を受け、1984 年、レコード製作者に貸与権が認められることになった。 貸与権(著作権法第 9 条の 3)、「レコード製作者は、そのレコードをそれが複製されている商業用レコー ドの貸与により公衆に提供する権利を専有する」。 6) 日経産業新聞、2001 年 9 月 28 日 7) 國領二郎 (2001)

8) Shapiro and Varian (1998) 9) Esther Dyson(1997) 10) 非市場取引の中の分類(互酬と再配分)はポランニー(1975)による。歩ランニーは人間の社会を 動かすシステムを市場社会と非市場社会のふたつに分類した。非市場社会には互酬と再配分(贈与)とい う形態が存在する。互酬とは社会においてネットワーク化された個人や集団が利益を求めて物財などを交 換するのではなく、相互に贈与と返礼によって交換を行うシステムであり、再配分(贈与)とは共同体に おいて中央の存在が共同体の成員にたいして財・サービスの配分を行うシステムである。

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11) 國領二郎 (2001), 12) 國領(2000)によれば、市場において情報財の収益モデルは何らかの希少性に帰着しなければなら ない、とする。無償で情報財を流通させるモデルにおいては、例えば、認知限界帰着型は人間の認知限界 の希少性に収益を帰着させるモデル、すなわち広告やプロモーションモデル、物財帰着型はTシャツなど のグッズ、サービス帰着型はコンサートや実演などのサービス容量の希少性に帰着させるモデル、などが 考えられる。(國領二郎、「情報価値の収益モデル」、2000 年) 13) SME ホームページ、http://www.sme.co.jp 14) 日経産業新聞、2001 年 9 月 28 日 15) 日本経済新聞、2001年 5 月 31 日 16) 日本流通新聞、2001 年 9 月 13 日 17) (財)ソニー音楽芸術振興会のホームページ、http://www.smf.or.jp

18) Jupiter Media Metrix, http://www.mediametrix.com/press/releases/20000911.jsp 19) WIRED NEWS、2000 年 4 月 21 日、http://www.hotwired.co.jp

20) ZDNet News、2001 年 6 月 6 日、http://www.zdnet.co.jp

21) 「Napster」を支持するアーティスト:Chuck D.、LimpBizkit、Ben Folds Five、FaceToFace、 Radiohead、Cypress Hill、Alanis Morissette(『オンラインミュージックマガジン OOPS!』、翔泳社、2000 年 10 月 1 日)

22) Fairtunes.com のホームページ、http://www.fairtunes.com 23) Fairtunes.com のホームページ、http://www.fairtunes.com 24) WIRED NEWS、2001 年 2 月 28 日、http://www.hotwired.co.jp 25) WIRED NEWS、2001 年 2 月 28 日、http://www.hotwired.co.jp

26) 今回のアンケート調査については、株式会社イーコマース総合研究所が提供しているネット上での アンケート調査、「e-comResearch」のモニターを対象にクローズド調査を行った。その際、男女別に 10 代 ごと(10 代∼50 代以上)に 10 個にレイヤーを分け、それぞれ 100 名を最低回収数とした。その結果回収 できたのが本論文における有効回答である。これを、どの母集団を代表させて抽出するかという点に関し ては、今回は、回答数が少ないため有効回答票全数を用いて分析を行った。従って、本調査の問題点とし て、(1)ネットアンケートにモニター登録している人はもともとネットに関する知識・関与が高いと考え られる、(2)サンプルが人口統計、レコード産業のターゲット消費者またはインターネットユーザーの母 集団を完全には代表していない、があることをあらかじめ指摘しておく。しかし、今回の調査においては、 主に因子分析、またはそれをベースクラスター化したセグメントで分析を行うため、本質的な意味解釈に

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図 2.2  情報財の収益モデル仮説(収益モデル類型)    市場における取引  無償著作物モデル      ・物財帰着型(補完財)      ・サービス帰着型(補完財)      ・認知限界帰着型(広告など)      有償著作物モデル  ・複製や使用料請求(CDなど)    非市場における取引      互酬モデル      ・社会的関係により収益を上げる(寄付、投げ銭)      再配分モデル  ・  主体は国家や自治体、政治的決定により収益を上げる  図 2.3  情報財の収益モデル仮説(分類軸と収
表 5.1  質問項目および因子負荷行列  表 5.2  因子のネーミングと主要な意識項目  続いて、クラスター分析により、各被験者の 4 因子への反応の違い(因子得点)をもとに、 音楽消費について同じ志向を持つグループに分ける作業を行った。その結果、特徴を異にする 4 つのクラスターが得られた。全体を概観すると、同調、保守、探索の因子に際立って反応す る 3 つのクラスターが確認できる、しかし、関係因子への反応において特徴的なクラスターは 確認できない。各クラスターの因子への反応を総合的に検討し、同調・社
表 5.4  各クラスターの特徴  同調派  (165 人)  社会派  (150 人)  主流派  (936 人)  自立派  (73 人)  男女比  男 58%、女 42%  男 45%、女 55%  男 47%、女 53%  男 42%、女 58%  年齢  (注:年齢が母集団を代 表していない為参考値)  30 代が多い (29%)  30 代が多い (31%)  30 代が多い (29%)  10・20 代が多い (10 代 38%、 20 代 34%)  ブロードバンドの比率 36% 29%

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